【裏】貴重な貴重なサービスシーン ◆1qmjaShGfE



パピヨン、こなた、シェリスの三人は駅前で何をするでもなく勝達が戻るのを待っていた。
それぞれに考える事があったので、自然と無口になっていたのだが、不意にこなたが口を開いた。
「そういえばさ、地図にある地下鉄って使った事ある?」
パピヨンもシェリスも首を横に振る。
こなたはそれを聞くなり難しそうな顔になる。
「あれってさ、動いてるんなら誰が動かしてるんだろ」
パピヨンは即答する。
「地図外にこの会場を管理してる奴が居る。そういう事だろ。別に地下鉄に直接乗っている必要は無い」
そこでう~んと悩むこなた。
「それだと……今回の首謀者達は地下鉄駅の管理センターみたいな所に居るって事にならないかな?」
やはり即答するパピヨン。
「ならん。その場所は確実に人を配してある場所ではあるだろうが、それ以上でも以下でもない」
そう断じるパピヨンには彼なりの理由があるのだが、それを語る前にこなたは納得してしまった。
「そっか~。やっぱりそんな簡単には行かないか~」
そこで僅かに笑みを見せるパピヨン。
「だが目の付け所は悪くない。仮にの話だが、首輪を外した際の移動先候補を決めておくのは無為ではないな」
そう言うと一人で地下鉄駅に向かうパピヨン。
こなたも慌てて後を追う。
シェリスも少し迷った後、その後を追う事にした。

ひっそりと静まり返る駅構内をパピヨンは恐れる気も無く歩いていく。
薄暗いそこは、太陽のふりそそぐ外と違って気味の悪さが付き纏う。
シェリスもこなたも、パピヨンの後から離れないようにしながら歩いていた。
パピヨンは事務室らしき場所を見つけ、中に入るとそこの資料を漁って目的の物を見つける。
周辺一帯の路線図と管理センターの位置がわかる地図を手にするパピヨン。
一緒に地下鉄のシステムに関する書類をも手に入れていた。
その際、鍵のかかった机をパンチ一発でぶち破ったのにはこなた、シェリスの二人が揃って驚いた。
「主催者側の人間が一人でも捕まえられれば、有利なのは確かだ」
もっとも、そいつが人間である保証は何処にも無いが、とは言わなかった。
用は済んだとばかりに踵を返すパピヨン。
目的以外の物には見向きもしない。
理に適った行動を取り、やる事に無駄が無い。
シェリスはパピヨンへの評価をまた一つ上げる事にした。

「パピ!ヨン!!」

いきなり咆えながらポーズを決めるパピヨン。
いきなりの事に驚いて尻餅をつくシェリスだったが、隣のこなたは平然としている。
「何かあったの!?」
「うんにゃ、ただ単にパピヨンが叫びたくなっただけじゃない?」
何事も無かったかのようにすたすたと歩く二人。
シェリスはパピヨンへの評価をやっぱり一つ下げる事にした。
(何なのよこいつら……バカと変態は紙一重って奴?)
心の中で悪態をつきつつ起き上がるシェリス。
その時たまたま側にあったゴミ箱に手をついて立ち上がったのだが、そのゴミ箱がシェリスの体重に負けて引っくり返る。
「きゃっ」
物凄い勢いでそのゴミ箱を頭から被ってしまったシェリス。
(……ついてない時は、とことんついてないわよね)
パピヨンは振り向きながら呆れる。
「バカかお前は? それともそのゴミ箱が帽子にでも見えたか? とんだセンスだな、まるで変態だ」
こなたはきらーんと目を輝かせている。
「むむむ、ドジっ子属性で来るか。しかしそれにしては天然成分が足りないね。65点って所だよ」
無言でゴミ箱を脇にどけ、立ち上がって体にまぶされたゴミを払うシェリス。
(私、ストレス耐性ある方で良かったわ。他のホーリーの連中ならいきなり暴れだしてる所よ)
ムカツキを心の中で押さえながら、劉鳳と出会う以前の生活を思い出していたシェリスであった。

地下鉄の駅を出ると、シェリスは大層不機嫌な顔で、落ち着きなくそこらをうろうろしている。
せっかくシャワーを浴びたのに、頭からゴミの山を被っては意味が無い。
ホテルで調達した衣服も汚れているし、非常に不愉快だ。
そんな気配を察したのか、こなたもシェリスに話しかける事はしない。
触らぬ神に祟り無しという事であろうか。
しかし、こなたはすぐに解決策を見出した。
「ねえねえパピヨン。あれあれ」
こなたの指差す先にある看板を見て、その意図をすぐに察するパピヨン。
「……なるほど、確かにもう半日以上ご無沙汰だな」
「でしょ? ほら、シェリスさんも多分入りたいだろうし」
会話の中に自分の名前が出たシェリスは、怒り顔のまま二人の方を振り向く。
二人は同時に看板を指差した。

   【 銭 湯 】

三人は真顔でお互いを見つめあう。

『グッド!』

そして三人が全く同時、最高に息のあったサムズアップを見せた。


湯船を確認すると、男湯、女湯共にお湯は張ってあった。
何故? とか色々疑問は残るが、その辺の考察を考えているのはパピヨンぐらいで、シェリスもこなたもさして気にせず脱衣所へと戻る。
既にパピヨンは男湯に行っているので、ここには女二人だけだ。
いそいそと上着を脱ぐこなたは、ちらりと隣を見る。
スカートを下ろしたその足は、張りがあって瑞々しい光沢を放っている。
今にもはち切れそうな下着に覆われた臀部は、引き締まっていながらその存在感を失わない絶妙のブレンドをかもしだしている。
何故か生唾を飲み込むこなた。
シェリスはそれに気付いていないのか、次に上着を脱ぎ捨てる。
こちらはもう、真っ先に目が行く場所は決まっている。
(うっわ、何このエレガントマシュマロ風味。もう下着の意味無いよこれ。もしかしてもしかして90の大台に乗っているのではっ!?)
実際は89なのだが、まあそれは置いておく。
(ウェストもほっそい! お腹ぺっこーんってあれ腹筋で踏ん張ってるんじゃないの? 凄い、凄まじすぎる蝶高すぺっく!)
上着を棚に置くと、遂に下着にその手をかける。
後ろ手にホックを外そうとするも、やはり大きく熟れた果実が邪魔をするのか、少々てこずっている。
しかし、遂にそれも外され、はらりと下着が落ちる。

「パピ! ヨン!!」

隣室から聞こえてきた絶叫に、危うく頭部を棚に叩き付けそうになるシェリス。
「何?」
パピヨンの絶叫は続く。
「パピ! ヨンッ! パピ! ヨンッ!!」
ほんの少しだけ慣れたのか、シェリスはこなたに問う。
「……もしかして、あれで何か意思の疎通を図ってるとか?」
こなたは男湯に面した壁を見ながら呟く。
「私の予測だと、パピヨン鏡の前でポージングとかしてんじゃないのかな」
こなたの予想を裏付けるように、絶好調に盛り上がったパピヨンの雄たけびが聞こえてくる。
「パピ! パピ! パピ! パピ! パピ! パピ! パピ! ヨンッ!!」
シェリスはヨンッの叫びの所で最後の決めポーズなんだろーなーとかやる気なく考えつつ、もうどうでも良くなった。
さっさと下着を脱いで風呂へと向かう。
「先に行くわよ」
歩くたびに揺れる生のそれを見て、色々と絶望しながらこなたも後を追った。

二人並んで湯船に浸かる。
こなたはちらっと横目にシェリスを見る。
温められ、薄い桃色に覆われたシェリスの肌、首筋から華奢な肩へと視線を移し、そして急な傾斜を見せる胸部。
その続きはお湯の中、ほのかに揺れる水面と共に、ゆらめきながら見える触ったらふにっとへこみそうな柔らかそうなお尻。
そこと同じ柔肉の詰まった両腿は女らしく内股気味に重ねられている。
しかし、やはり一番目を引くのはお湯の上であろう。
湯気に当てられ、滴り落ちる水滴は、頬から首筋へ、そして鎖骨周辺を恥ずかしそうに回って胸の谷間に落ちていく。
ゆったりと湯につかって紅潮した綿菓子の様な頬が、同じく薄ピンク色になった水面に浮き出ている胸が、彼女の持つ色気と相まって見ている者を桃源郷へと誘う。
「……おおう、パーフェクト超人はこんな身近にも居たんだ」
シェリスは汗を手でぬぐいながら振り向く。
「何?」
「ああ、いやね。シェリスさんがネプチューンマン2800万パワーなら、私はカレクックの60万パワーぐらいかなって」
説明されても何を言っているのかまるでわからない。
だが、この機会に出来るだけこなたと仲良くなって信頼を得ておきたいシェリスはその話に乗ってやる。
「何を言ってるのかよくわからないけど、とにかく凄い差があるのはわかったわ。で、何の話?」
「胸とか」
こなたが即座にそう答えると、シェリスも返答に困る。
ちらっとこなたを見る。
「そんなものこれからいくらでも育つわよ。私も成長期入って一気に来たし」
「……へー、そー。じゃあ既に成長期が終わってたりしたらもう絶望的だね」
肩をすくめるシェリス。
「そんな事あるわけないじゃない。かくいう私もまだ成長しそうだし。十五才の私がまだ成長してるんだから、貴方なんてもっといけるわよ」
一瞬、その顔に深い闇を背負うこなた。
そして、搾り出すように口を開いた。
「……そっか、二つ下なんだシェリスさん。凄い大人っぽく見えるね」
聞き間違えと思い、それならば辻褄が合うのでシェリスはそのまま会話を続ける。
「こなたちゃんはまだ十三なんでしょ? だったらまだまだよ」
「いや、そうじゃなくて。私十七才、シェリスさんの二つ上」

かぽーん

お風呂場に独特の音が響く。
すぐにシェリスは手を振る。
「いやいやいや、意味わかんないからその嘘」
ぶくぶくぶくと口元まで湯船に沈み込むこなた。
目線だけシェリスへと向けている。
無言で、何か何ていうか絶望的な主張をし続ける。
「……本当なの?」
こくんと頷くこなた。
「身長それだと140ぐらいよね」
またもこくんと頷くこなた。目での主張は変化無し。
「それはそれで、凄くない?」
ぶくぶくぶくぶくぶくぶく、こなたは完全に頭の上まで湯船に沈んでしまった。


体を洗い終えると、もう一度湯船に浸かるシェリス。
こなたはまだ体を洗っている。
この間に、色々と考えをまとめる事にした。
パピヨンにやろうとしていた事を見抜かれたが、まだ実際に人をその手にかけたわけではない。
証拠も何も無い事だ。追い詰められた時は開き直ってそんな事は無いと主張するとしよう。
一緒に行動してきた独歩も信頼してくれているだろう。
だが、このままでは不安要素を抱えてしまうのも事実。
ちらっとこなたを見る。
体を洗い終わって湯船に入ろうとしている所だ。
(この子を殺すだけなら首でも絞めればすぐだけど、それをやるとパピヨンが黙ってなさそうね)
見た感じ、役に立つとしか口にはしていないが、あのパピヨンはこなたを気に入ってるように感じられる。
ならば、こなたをダシにパピヨンを殺す。
人質に取った程度ではまず無理だろう。あの力はシェリスがどうこう出来るような相手ではない。
ならばどうする? 決まっている、誰か力を持つ者に殺してもらうのだ。
戦闘さえ始ればパピヨンもこちらに注意を向ける事は出来ないだろう。
その時が勝負。こなたを盾にするもよし、こなたをその敵の前に放り出してやってもいい。
全てはタイミングが命。常に緊張を保って最善の状況を見逃さない事。
油断無い目でこなたを見るシェリス。
その目が点になった。
「う~ん、やっぱり……届かない……」
こなたは男湯との境になっている壁に張り付いて何やらじたばたしている。
「何、やってるのあなた?」
何となく想像はつくが、シェリスは恐る恐るそう訊ねると、こなたは何か思いついたらしくぽんと手を叩く。
「そうだ、シェリスさんに手伝ってもらえば届く。よろしくっ」
「……私の目と耳がおかしくなってるのでなければ、あなた私に男湯覗くの手伝えって言ってるように聞こえるけど」
「そう、それ」
シェリスは湯船から立ち上がる。
「なんでそんな事しなきゃなんないのよ!」
こなたは偉そうにちっちっちと指を左右に振る。
「いいかい、相手はお風呂、裸だ。それはつまり……パピヨンはあのマスクを付けて無いって事だよ!」
こなたのは完全ないたずら心だろうが、シェリスはもっと実用的な意味でその企みに興味を持つ。
なるほど、あの男の素顔は見た事がない。それを覗き見る機会があるのなら活かしたくはある。

「それに、お風呂で覗きは基本イベントだよ」
「逆でしょそれ!」
賛成なのだが、ついつっこんでしまうシェリス。
その後、二人で相談して湯船の所からシェリスが肩車でこなたをまず上に登らせる策を採る事にした。
逆だと、普通に潰れそうなのでシェリスもそれで納得した。
まずシェリスが壁に手をつき、湯船の中に座る。
そこに、こなたがその肩に両足を乗せ、壁に手をついてバランスを取りつつ一気に肩の上に乗る。
案外バランス感覚の良いこなたは、綺麗にシェリスの肩に乗ってみせた。
「や、やっぱりちょっと重い……」
しかも下はお湯の張った湯船だ。下手な力の入れ方をするとあっさり滑って転ぶ。
気をつけながらせーので両足を伸ばすと、こなたの頭が敷居の壁の上端に届く。
シェリスはその場で足をぴんと伸ばすと、持ち上げる時に比べればずっと楽になった。
(ふう、これで一息。それにしても……)
こんなに近くで裸の女の子二人というシチュエーションもついぞ経験が無い。
自分の裸は見慣れているが、こうして他人の裸を間近で見るのも少し新鮮であった。
(あんなに卑下してたけど、結構女の子してるわよね、この子も)
未成熟ではあるが、それは男女の区別がつかない程でもなく、背中にかかった長い髪が濡れ滴って肌に吸い付いているのも、ショートにしている事が多い自分から見ればとても綺麗に見えた。
肌には実際触れてみたが、その小さい体に相応しいこう、ぷにぷにっという感じがとても愛らしく、申し訳程度に女性を主張する体に相応しい身長がまたその愛らしさを助長しているというか……
そこまで考えてふと気になる事が。
(……もしかして、生えてない……とか)
そんな所気にして見てなどいない。
が、気になり始めると物凄く気になる。年齢が優先されるのか、それとも成長がその先に来るのか。
首を上に向ければ、それでわかる。
だが、人としてどうかというそんな葛藤に身を狂わせ……
(って、なーんで私がそんな変態じみた事気にしなきゃならないのよ!)
変態に当てられておかしくなったのかも、などと愚にもつかない事を考えるシェリス。
劉鳳の助けになるように、そう考えて行動して、気が付いたらお風呂で未発達の女の子の体にドキドキって、一体私の身に何が起こったのだろうか。

そうこうしている間に、上でどうやら進展があった模様。

「何やってんだ泉?」

普通にバレた。
上でこなたがわたわた暴れている。そしてシェリスの両肩からその重量が消え、しばしの間の後、ぼっちゃーんと壁越しに派手な水音が聞こえた。
シェリスは、何も無かった事にして湯船に浸かりなおす事にした。
(これでゆっくりと考えられるわ)

パピヨンは、当然のごとくマスクをつけたまま、それ以外全裸な姿で湯船に浸かっていた。
「なんだ、俺の蝶サイコーな裸体がそんなに見たかったのか?」
「あ、あはははははは……」
照れ笑いを浮かべつつ、無い胸を一応隠しながら湯船に沈んで下も隠さんと試みる。
パピヨンはそんなこなたを一瞥した後、立ち上がってさっさと風呂を後にする。
もちろん、前を隠すような真似はしない。そんな素振りすら見られなかった。
「先に上がるぞ。お前はもう少しゆっくりしていけ」
そんな言葉を残し、風呂場のドアが閉まった。
こなたはぽかーんとそれを見ていたが、誰も居なくなったので風呂の中で背もたれによっかかって楽にする。
「もしかして、パピヨン私に気を使ってくれたの……かな」
ちょっと、嬉しいかも。
「まあ、それはおいといて」
顎に手をやるこなた。
「お父さん、パピヨンよりちょびっとリトルジョーだったよ……」
ちょっと遠い目をしつつ、意味不明なこなたであった。


こなたはパピヨンが着替え終わるのにあわせて、すぐに風呂を出る。
男風呂の入り口からこそこそと女風呂に戻って服を着ていると、ちょうどシェリスも上がってきた。
こなたの側に寄ってこそっと作戦の成否を確認するシェリス。
「で、どうだったの?」
「うん、普通にマスクしてた」
両のこめかみを押さえるシェリス。
「……なるほど、筋金入りって訳ね」
特に残念そうでもないこなたは、シェリスのゴミ汁やらガムやらに塗れた服を見て、一つ提案する。
「シェリスさん、その服どうする? もし良ければ私換えの服持ってるけど」
嬉しい申し出であったが、流石にサイズが合わないだろうというと、元々こなた用の物ではないとの事。
試しに着てみるかと、こなたから受け取ったバッグからその服を取り出す。
「…………」
シェリスは即座に服をバッグに戻した。
「あれ? 気に入らなかった?」
常識人なシェリスには、いくらなんでもうさぎの耳やらでっかい鈴やらフリルだらけの服を着る趣味は無かった。
抗議の視線を向けた後、とりあえず他の服を探しに番台の奥を覗きに行った。
「む~、やっぱりこれはハヤテが着る運命にあるんだ。うん、きっとそうだ」
納得してロビーに出るこなた。
そこではパピヨンが全自動マッサージチェアーに座って寛いでいた。
こなたはソファーに座って両足を揃え、気持ち下を向いている。
しばしの間、マッサージチェアーが動く音だけが部屋に響く。
それが終わると、パピヨンはこなたに気付いたのか、彼女の座るソファーの横に立った。
「随分と仲良くなったみたいだな」
パピヨンの口調は、それを歓迎していないような、そんな口調に感じられた。
そしてそれは、こなたにとって予想通りの事であった。
「うん……パピヨンの言いたい事、わかるよ」
「そうか」
パピヨンはそれ以上追求しない。
だからこなたから話した。
「私はさ、そんなに器用じゃないから、何時もどおりやる事しか出来ないんだ。あの人に何か思う所があったとしても」
「そうだな」
そこで照れたように頭に手をやるこなた。
「で、でもやっぱりさ、そんなんじゃ駄目かなとも思うんだ。私も考えなくちゃ駄目だよね。苦手だけど、考えなくちゃ……色んな事を……」
それはみゆきの事も含めた色んな事だ。
話をしたり、別の事を考えたりしていればそれを考えないで済む。何時もどおりの事をしていれば、何時も通りのこなたで居られる。
だが、何時もと違うのは、考えなくちゃならない事が宿題や学校の成績なんかの事じゃ無いってこと。
何を言ったらいいのか、良くわからない。
唇が震えて、何かを言おうとしても言葉にならない気がする。
パピヨンがこなたの手をそっと握る。
「お前も怯えるんだな」
そう言われて初めて自分の手が震えている事に気付く。
「そ、そうみたい。がっかりした?」
「少しな」
すっと手を離すパピヨン。
こなたの側を離れてガラスケースの中にある瓶詰めのコーヒー牛乳を二本手に取る。
振り向くなり、その内の一本をこなたへと放り投げる。
「わっ」
驚きながらも両手でそれを受け取るこなた。
パピヨンは指を滑らせるだけで器用に蓋をあけ、それを飲む。
こなたもコーヒー牛乳の蓋に手をやる。
『これを開ける時、通は細い針みたいな物を使うんだよ』
『やっぱり風呂上りはコーヒー牛乳だよね。フルーツは邪道だよ』
『それで腰に手を当てて一気に飲み干す。いや~、これが最高の飲み方だよ』
風呂上りには、そんな話をしようと思っていた。
そんな事しか出来ない、そんな事をしてまで誤魔化そうとしている自分が、惨めで、滑稽に思えてくる。
パピヨンは自分の分を飲みながらこなたの隣に戻る。
「……嫌な事の乗り越え方は人それぞれだ。そこに良いも悪いも無い」
そこでコンッとこなたの頭を瓶で軽く叩く。
「何もかもを真正面から受け止めるなんて、バカのやる事さ」
こなたはパピヨンを見上げる。
パピヨンは彼方を見ている。
その目が何を見ているのか、何を思い出しているのかはわからないが、パピヨン自身にも何か辛い経験があったのではとこなたに思わせる、そんな目だった。
でも、それを聞くのは止めにした。
今は胸の中に出来た、このあったかい何かをゆっくりと感じていたかったから。
「……ありがとパピヨン」
返事は無かったが、感謝の言葉を聞いてくれれば、こなたにはそれで充分であった。


風呂からあがったパピヨンはマッサージチェアーを見つけると、そこに座ってスイッチを入れる。
(さて、風呂場で考えた事をまとめるとするか)
幾つかの候補の中から特に矛盾の少なかった仮定を整理する。
ここがコンピューターの作り出した仮想現実の中だとするのはどうだ。
今こうしているパピヨン達も、データの羅列に過ぎず、本来の自分は元居た場所に存在するとする。
これなら、各人の記憶している時間軸に差があるのも納得出来るし、支給品にされている本来ありえない核金に関しても説明がつく。
いや、今まで起こった全ての出来事を矛盾無く説明出来る。
それは、とんでもない処理能力と気の遠くなる程の膨大なデータを必要とするだろう。
これを確認する為に、パピヨンは今までの自分の人生を振り返り、その生き方や記憶全てに疑問を投げかけて矛盾点を探してみた。
特に極端な矛盾は発見出来ない。という事は、少なくともそのデータには過去経験した全ての事が含まれているという事だ。
参加人数60人全ての人生を細部に至るまで完璧にデータとして再現させるのは、少なくともパピヨンの知る限りのコンピューターでは不可能だ。
もちろん理論的には可能なのだが、技術的に不可能と断じていい程の困難を伴う。
それは百年単位の技術格差があるのなら可能性は出てくる程度のものだ。
そして、パピヨンはこの仮定をあっさりと放棄する。
現在パピヨンの知る限りの知識において、個人が持つ全ての情報をデータ化する手段は確立されていない。
そしてそれが確立されるであろう時代まで、自分や武藤の記憶すら含む完璧なデータが残っているとは考えにくい。
そもそも、その技術に到達した存在が居たとして、そんな存在がパピヨン達のような生物を気にかけるだろうか。
否、自らの全てをデータ化した瞬間、身体、時間、空間等、全ての境界から開放されてしまう。
そこでは出来ない事などなく、それ故そんな存在は、自らが存在する意義を見出す為に、自然と精神レベルが次のステージへと移行するだろう。
そうなったらそれは最早別世界云々ではなく、完全に高次の存在、概念としてのソレになってしまう。
いずれにしても、そんな連中がパピヨン達にこんな真似をしでかすなどという事はありえない。
パピヨンがちょっかいをかけられたと認識出来る形で干渉してきている連中は、間違いなくパピヨン達と同レベルの精神構造を持っている。
精神構造が同レベルならば、それが認識出来る技術に、比喩でない意味での次元の差などありえない。
そんな連中であるのなら、例え未知の知識体系を持っていようとも、それを理解さえしてしまえば恐るるに足らず。
白い核金すら自らの手で作り出した、当代最強のサイエンティストパピヨンは絶対の自負を持ってそう言い切れるのだ。

そこでパピヨンは思考が当初の予定とずれている事に気付いて、頭を振る。
首輪、これを爆破させる事なく解体するには、いや爆破覚悟でやるべきだろう。
そうなると精密動作が出来るマジックハンドが必要になる。スタンドを使うのも悪くないかもしれない。
見せしめの女の例を見る限りでは、手元で爆発しても死ぬ事は無いだろうが、身体部位の欠損を招くのはあまり嬉しくない。
スタンドを除外すれば、何処かの工場を使うのが一番と考えて地図と禁止区域を思い出す。
工業団地周辺ならば、おそらく何処かに大きな工場もあるとは思うが、あそこは後二箇所潰されると閉じ込められてしまう場所。
地下鉄も使えない、移動時間もさる事ながら、作業時間もどれだけ取られるかわかったものではない。
満を持すなら二つ、三つは首輪も欲しい所だ。
何処かに間抜けの死体でも転がっていないものか。
首輪の中身さえ見る事が出来れば、主催者連中の技術レベルも把握出来る。
それは翻せば連中の戦闘能力を把握出来るという事だ。
余人ならばいざしらず、このパピヨン相手にこんな情報の塊を与えてそのままで済ますとでも思ったか。
首輪の解体、そこからが本番だ。その時まではせいぜい静かにしていてやるさ。

そこまで考えてふとソファーを見ると、何時の間にかこなたが風呂からあがってきていた。
考えに没頭していて気付かなかったらしい、不覚である。
風呂場や脱衣所でシェリスと何やら騒いでいたのは聞こえていた。
少し注意を促すつもりで一言声をかけたら、傍目に見てわかるほど落ち込んでしまった。
察しの良いこなたと話すのは不快ではない。
だが、慰めてやる義理も無いので素直に思った事だけを口にした。
側で愚痴愚痴されても鬱陶しいだけなので、そうならなくなるよう少し工夫したのは事実だが。
しかし、最後の一言だけは、もしかしたら本音ではなかったのかもしれない。
『何もかもを真正面から受け止めるなんて、バカのやる事さ』
ああ、そういえば居たな。そんなバカ。勝手に色んな事を真正面から受け止めて、背負わなくても良い物まで背負って死んだんだろあの偽善者は。
本当にバカだ。イライラしてくる。
元の世界に帰ればそこに武藤は居る。それはわかっているが、それでも腹が立つ。
そこで、シェリスが番台側から戻ってきた。
いつの間にやら衣服がピンクの浴衣になっている。相変わらずセンスの悪い。
ケンカを売っているとしか思えないハートマーク柄を嬉々として着込んでるあたり、やっぱり殺しておくべきか等とぶっそうな考えが思い浮かぶ。
三人揃って銭湯を出ると、すぐに駅前に向かう。
ああ、泉がここに来る前に書いておいた張り紙がまだそのままだ。勝達はまだ戻っていないのだろう。
危険のある行為であったが、大抵の危険を突破する自信があったのと、別に裸でも戦闘能力が落ちるわけではないので見逃したのだ。

【お風呂入ってますので待ってて。覗くのなら今の内っ! ぷりんぷりんシェリスさんが待ってまーす】

その張り紙を見ていなかったシェリスが真っ赤になって泉に抗議している。
それを平然と聞き流す泉。
シェリスはぷいっとそっぽを向いてしまった。
「む~、あれだけのナイスバディならむしろ見せてなんぼだと思うんだけどな~。パピヨンもそう思わない?」
「そもそもあれをナイスとは思わん。贅肉の塊以外の何者でもないだろう」
こなたは首をかしげて考え込んだ後、人差し指を立てる。
「じゃあハヤテとかどう」
その発想は不意打ちだった。
「ふむ、細身でありながら質の良い締まった筋肉、上から下まで均整の取れた体型、貧乏臭いが清潔に整った風貌。言われて気付いたが、確かに奴は良い素材だ」
ハヤテ女装時に見えていたおみ足をしっかり確認していたらしい。
「でしょ? 後はあの堅苦しい執事服を何とかすれば完璧っ」
「こんな事なら予備を用意しておくんだったな、今日に限って用意を怠るとは」
「あはは、きっと女装と同じぐらいハヤテ嫌がると思うけどね」
鼻を鳴らすパピヨン。
「心外だ。そんなものと一緒にするな」
こなたはまあまあとバッグを開く。
「これを何とかハヤテに着せてやりたくてね~。何か良い案無いかな」
例の衣装を見せると、パピヨンは難しそうな顔になる。
「それよりそのデザインを何とかするのが先だと思うぞ」
「そっかな~これはこれで完成度高いと思うんだけど。この服パピヨンだったらどういじる?」
「ふむ……媚びた部分が癇に障るが、方向性を定めてそれに徹しているのは悪く無い。細かく注文させてもらうと、もう少しボディーラインを……」
そんな話をしていたら、何時の間にか不愉快な想いは何処かへ飛んで行ってしまっている。

ああ、やはりコイツとこうしているのは悪くないな。


【D-2 駅前 一日目 午後】

【パピヨン@武装錬金】
[状態]:健康
[装備]:猫草inランドセル@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:支給品一式 地下鉄管理センターの位置がわかる地図 地下鉄システム仕様書
[思考・状況]
基本:首輪を外し『元の世界の武藤カズキ』と決着をつける。
1:勝と独歩を待ちつつ首輪などの考察をする。
2:シェリスの殺人は一般人に限り黙認する。殺し合いに乗っていたことも他言しない。
3:エレオノールを警戒しておく。
4:核鉄の謎を解く。
5:二アデスハピネスを手に入れる。
6:首輪の解体にマジックハンドを使用出来る工場等の施設を探す。
[備考]
※参戦時期はヴィクター戦、カズキに白い核鉄を渡した直後です
※スタンド、矢の存在に興味を持っています。
※猫草の『ストレイ・キャット』は、他の参加者のスタンドと同様に制限を受けているものと思われます
※エレオノール、鳴海に不信感(度合いはエレオノール>鳴海)
※独歩・シェリスと情報交換をしました。


【泉こなた@らき☆すた】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、フレイム・ボール@ゼロの使い魔(紙状態)んまい棒@銀魂、エンゼル御前@武装錬金
綾崎ハヤテの女装時の服@ハヤテのごとく
[思考・状況]
基本:みんなで力を合わせ首輪を外し脱出 。
1:勝と独歩と合流後、喫茶店に戻る。
2:かがみ、つかさを探して携帯を借りて家に電話。
[備考]
※エンゼル御前は、使用者から十メートル以上離れられません。 それ以上離れると、自動的に核鉄に戻ります。
※独歩・シェリスと情報交換をしました。
※みゆきの死をいまいち実感していません


【シェリス・アジャーニ@スクライド】
[状態]:健康 
[装備]:光の剣(ただのナイフ)@BATTLE ROYALE、銭湯にあった女物の浴衣(ピンク地でハートの柄入り)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:劉鳳に会って脱出。
1:独歩と合流後、パピヨンの脱出に協力する。
2:劉鳳を探す。
3:足手まといだと判断した一般人は誰にも気づかれないように殺す。(こなたは殺さない)
4:平次、タバサ(両方とも名前は知らない)は殺人鬼という情報を流す。
[参戦時期]
劉鳳と同時期
[備考]
※タバサのマント@ゼロの使い魔 はホテルの脱衣所に放置、内側は血だらけです。
※ホテル従業員の制服は銭湯に放置、外側にガムやらゴミ汁やらがこびりついてます。
※アプライド=サック=アップについて。
触れた相手のアルターを吸収する能力。シェリス単独で使用可能とします。
アルター以外の特殊能力(スタンド、魔法など)にも吸収の効果は及びますが、能力などの制限は不明とします。
※パピヨン・勝・こなたと情報交換をしました。


151:小さな死 ~ La Petite Mort ~ 投下順 153:一歩進んで
149:大乱戦 時系列順 150:地獄の季節
144:らき☆すた 第X話 あるいはこんな日常 パピヨン 165:ターミネーターゼクロス
144:らき☆すた 第X話 あるいはこんな日常 泉こなた 165:ターミネーターゼクロス
134:スタートライン シェリス・アジャーニ 165:ターミネーターゼクロス