万事屋銀ちゃんの店仕舞 ◆1qmjaShGfE



コナン、ルイズの二人は仲間の危地を救える人間を探していた。
そこに現れたのは神楽、外見少女、中身は人外パワーの宇宙人。宇宙最強種族の出らしい。
どうやら新八と知り合いらしいこの少女に、今の状況を何と話したものか口篭るルイズであったが、コナンはすぐに彼女の問いに答えた。
「お姉ちゃん、新八兄ちゃんの知りあい? 今新八兄ちゃんが僕達を逃がす為に、爆発する小さい戦車の足止めをしてくれているんだ」
突然の闖入者相手でも即座に必要な情報を過不足なく与えられるのは、コナンの高い知性を表している。
「新八が爆発して戦車になった挙句族止めされてるアルか!? それは大変アル!! 最近のマッポは手加減を知らないネ!!」
受け取る側に問題があったようだが。
(……そりゃ、確かに大変だな)
あんまりな返事だったのでルイズが機嫌を悪くする。
「真面目な話なのよ! ふざけないで! シンパチやキラやギントキの命がかかってるんだからね!」
ルイズが羅列した名前に、神楽は驚きルイズの襟首を掴む。
「やっぱり銀ちゃんもこの先に居るアルか!?」
神楽に凄まれながらもルイズは引かない。
「そうよ! だから早く助けになる強い人を探さなきゃならないの! ふざけてる場合じゃないのよ!」
神楽は至って真面目であるのだが、それをルイズに理解しろというのもやはり無理があるようだ。
この二人の会話の相性はすこぶる悪い。ついでに言うと、こいつらがこうして騒いでいるのは大層やかましい。
となればコナンの出番になる。コナンは銀時、新八を思い出し、そしてそこから知り合いであるという神楽という人間を推測した。
(つーか、銀時さんと同系って事だろ)
難しい言い方は避け、出来るだけ簡素化した言葉を選ぶ。それならボケる余地も無いだろう。
「凄い強い人が襲ってきたんだ。銀時さんも、新八お兄ちゃんもまだ残って戦ってる。だから助けになるような強い人、お姉ちゃん知らない?」
突然神楽は持っていた木刀を両手に持ち、構える。
何やらガムをくちゃくちゃさせるかのごとく、口をやる気無く動かしながら、木刀をぶらぶら振っている。
(……もしかして、バッターか何かのつもりか? 外人枠?)
「OH! ゼッコーキューネ!!」
(いや、後ろのそれ日本語だろ)
コナンの心中ツッコミはさておき、神楽は木刀を真横に振るう。
ブロック塀に向けて叩き込まれた木刀は、容易くそれを砕き、切り裂き、神楽が木刀を打ち込んだ周辺のブロックを巻き込んで崩れ落ちる。
「う~ん、レフトスタンドオーバーネ」
欠片の一つが彼方へとかっ飛んでいくのを眺めながら神楽はそんな事を呟いた。
神楽は、心から安心していた。
どうやら銀時と新八はこいつらガキ共を逃がす為に残って戦っているらしい。
それは神楽の知る侍銀時であり、新八そのものであった。
そうであるのなら、万事屋が負けるなんて事はありえない。こうして、三人の居所は全て知れたのだ。何も恐れる事は無い。
「さあ行くアル! 二人は何処ネ!」
コナン、ルイズはその余りのパワーに驚き、言葉も無かった。
こんな少女が覚悟並のパワーを持っているなど、誰が想像出来ようか。
しかし、いち早く立ち直ったコナンは神楽に新八が居る場所を説明する。
説明という程ややこしい事でもない、この道をまっすぐ行くだけだ。
すぐに駆け出そうとする神楽だったが、それをコナンが止めた。
コナンは、この神楽という強力な助っ人を得て尚、二人と一体の襲撃者に対するには不足であると考えていた。
コナン、ルイズが足手まといである事実は変わらない。ならば二人がすべきは更なる協力者を探す事。
そして、その鋭い観察眼は神楽のバッグのふくらみから、そこにある物に気付いていた。
「お姉ちゃん、そのバッグの中身って何かな。もしかして、メガホンみたいなものが入ってるんじゃないかな」
コナンの言いたい事がよくわからない神楽は面倒そうにコナンを見やる。
「黙れガキ。こっちは急ぎの用なんだから、お前は家に戻ってママのおっぱいでもしゃぶってるアル」
鬼のような事を平然と言う神楽であったが、コナンは額に青筋を立てながら続ける。
「あのね、もしそういう物なら、大声で助けを呼べるんじゃないかなって」
言われてみれば、確かにその通り。神楽はバッグから拡声器を取り出した。
(良しっ!)
心の中で喝采をあげるコナン。
「そうネ。お前みたいなガキがほんの僅かでも役に立ちたいと思うんなら、これ使ってせいぜい足掻くといいアル」
これはあまり知られていない事だが、神楽は真選組随一のドSと張り合う程のSである。
これに晒されているコナンは、自制心に富んでいる方だと思われる。
しかしいくらなんでもここまでの扱いには、一言言ってやりたくもなる。
が、隣に居る今にも暴れ出さんばかりの顔をしているルイズの存在が、それを止めてくれていた。
というか、フォローしないととてもまずい。
ルイズが何か言い出す前にコナンは慌てて口を開く。
「わ、わあ! 拡声器だ! これなら遠くまで声が聞こえるね! ありがとうお姉ちゃん! 良かったねルイズお姉ちゃん、早くこれで仲間を探そうよ!」
ルイズは怒りに震えながらも、自分が足手まといであり、神楽がそうでない事実を認めてはいたので、なけなしの忍耐力を総動員して爆発を堪える。
「そ、そうね。あなた、シンパチ達の事お願いするわ。絶対助けてあげてね」
「あったり前アル! お前みたいなキンキン声の奴に言われるまでも無いアルネ!」
ぶちーんとキレた。
「あんたに言われたくないわよ! 何よその趣味の悪いくすんだピンクの頭は!」
ぶちぶちーんと神楽もキレた。
「お前こそ何アルかその頭の悪そうなショッキングピンク! うわっ、目が、目が痛いある。キモイピンクが目に突き刺さるアル!」
「なんですって! 大体あなたのその中途半端に高い声のくせに時々思いっきり低くタチ悪そうな雰囲気醸し出すその声が気に食わないのよ!」
「お前こそ! 何アルかそのブリブリーなかん高い声! 聞いてる人間の心の中にドス黒い何かを植えつけるよーな声が癇に障るアル!」
「声声って、アンタの声が一番気に食わないのよ! 生理的に受け付けないわその声!」
「あー! ピンクの頭もその幼い声も、何もかもが気に食わないアル!」
ちなみに一番の被害者はそれを両サイドからステレオ放送で聞かせられているコナンであろう。
(どっちもうるせーーーーー! 似たような声で喚き散らすんじゃねーよ!!)
ここで同様にコナンまで喚きだしたら収集がつかない。それに、時間が無いのだ。
「あの、お姉ちゃん達。急がないと新八兄ちゃんが……」
二人共にとって無視出来ない内容である。渋々双方矛を収める。
「お前覚えておくネ。後ですり潰してひらべったく伸ばした後酢昆布にしてやるアル」
「アンタこそ覚えてなさいよ。貴族に対する礼儀を叩き込んでやるんだから」
ふんっと二人同時にそっぽを向くと、神楽は新八の居る方へと駆けて行った。

走り去っていく神楽の背中を、羨ましそうに見つめるルイズ。
いや、それは羨ましさといった正の感情だけではないのだろう。
コナンはそれを察したが、今の手持ちで出来る限りの事をやる以外に何が出来ようか。
「行こうお姉ちゃん、少し高い所からコレを使えば遠くまで聞こえるよ」
無言で頷くルイズ。
そこで、神楽が居る所では聞けなかった事をコナンに訊ねた。
「ねえ、それって何?」
拡声器を指差すルイズ。
コナンは頷いて、わかりやすく説明する為に実演してみせた。
「えっとね、これはこうするんだよ」
スイッチを入れ、取っ手のトリガーを引きながら声を出す。
音量はある程度抑えたので、それほど大きな音ではなかったが、それでもルイズを驚かせるのには充分であった。
使い方を納得してもらった所で、周囲にある建物を見渡す。
おあつらえ向けの建物が見つかった。
三階建ての雑居ビル、周囲にそれより高い建物は無し。
消防法に基づいてきっちり非常階段もついている。これなら中の階段と外の非常階段の選択が出来る。
「お姉ちゃん、あのビルの屋上から声をかけよう。それなら遠くまで届くよ」
これは非常に危険な行為だとコナンにもわかっている。
だが、あのチャイナ服の娘は殺し合いに乗った人間ではない。
そんな彼女が居たこのブロックは、そうでない場所より比較すればであるが危険人物が居る可能性は低い。
こんな状況でなければ絶対選ばない選択肢ではあるが、いつだって、最良の選択肢なんて望むべくもないのだ。
それに、こうしてやるべき事が見つかったルイズは、とても嬉しそうだったのだ。
「そうね、急ぎましょう! シンパチ達にもっとたくさん応援呼んであげなくっちゃ!」
神楽と出会えて、応援の目処も立った。新八との約束も守れた。
そして今は更なる応援を呼ぶべくやれる事がある。足手まといだけど、それでも何か出来る事がある。
そう思えた事が、何より嬉しかったのだろう。
コナンは自分達の存在意義に関して、正確に現状を把握していたが、敢えてそれを口にしてルイズのやる気を削ぐような真似はしなかった。


新八は何とか致命傷を受ける事もなく逃げ回っていた。
シアーハートアタックの速度もリズムも一定なので、慣れればさほど恐れる事はない。
もっとも気を抜いたら即座にボンッだが。
(二酸化炭素、二酸化炭素、二酸化炭素、二酸化炭素が出てる所……)
二酸化炭素に拘りつつうまい手を考えているが、何一つ思いつかない。
「そんな都合の良い場所あるかあァァァァ!! どうせなら酸素か窒素にして現状で満足しとけゴルアァァァァ!!」
この案は諦めよう。次の案首輪爆弾は、現在の所何とかする手は思いつかない。いや、思いついてはいるがやったら体の何処か取れてしまいそうなので却下。
そもそも、手がかりになるからと取ってきたもの爆発とかさせたら覚悟に会わせる顔が無い。これは最後の手段にする。
何か別の手を……
そこでぴんとひらめいた。これならいけるかもしれない。
新八はシアーハートアタックを引っ張りながら少し大きめの建物を探す。
あった、御あつらえ向き五階建て鉄筋コンクリート。道路に面した部分がガラス張りになっているのが難点だが、周囲にこれより大きい建物は見つけられない。
(万事屋は銀さんだけじゃないって事、見せてやる!)
ビルに駆け込む新八。通りすがりに案内板を見て階段の位置を確認する。
「コッチヲミロー」
「黙れゴキブリ戦車! 殺虫剤さえありゃお前なんてとうに成仏してる所だコノヤロオォォォ!!」
階段を駆け上がる。もしかしたら戦車はこれを登れないかもしれないという淡い期待もあった。
「コッチヲミロー」
全然余裕で登ってきてます。本当にありがとうございました。
「何その悪路走破性能!? 調子こいてんじゃねえぞ無限軌道オオオォォォ!!」
二階まで着くと、そこから更に三階へと向かう。
ここからはオフィスに使われている階だ、ここならばきっと目当ての場所があるはず。
最初に見つけたドアを開けて中に入る。
そこは、道路に面した大きな部屋で、テナントが入るのを待っているのか、もしくは何か別な理由があるののか、家具も何も置いていない殺風景な部屋であった。
アテが外れる新八であったが、もう部屋には入ってしまっているし、後ろからはシアーハートアタックが迫ってきている。
もう一つ別のドアでもあれば、簡単に逃げられるのだがと部屋を見渡してみるが、どうやら出入り口は一つしかないようだ。
「おいィィィ!! 普通こんだけデカイ部屋ならドアの二つや三つあるだろォォォォォ!! 何でこんな所に天然デストラップ仕掛けてやがりますかァァァァァ!?」
部屋の奥へと逃げる新八、ガラス張りの壁に背をつけてシアーハートアタックの動きをじっと見る。
シアーハートアタックはやはり一直線に新八目指して走ってくる。
(よし! これをひらりとかわして……)
迫る戦車の骸骨顔、正に一触即発、全神経を戦車へと集中する。
「って、そんなひらりとか絶対無理イイイィィーーーー!!」
寸前で空中に飛び上がったシアーハートアタックを大きく横に飛んでこれをかわす。
小さい動作で次に繋げながらとか、そんな事してる余裕は無かった。
転がる新八に、更に襲い掛かるシアーハートアタック。
それをわたわたと両手両足をつきながらよける新八。みっともないだとか言ってる場合ではないのだ。
何とか部屋の外に逃げ出さなければならない。
しかし、飛ぶは跳ねるはするコイツに接近されているのは、思っていた以上に厳しい事であった。

新八の居ると思われる場所へと急ぐ神楽。
さっきの子供に言われた場所には着いたが、そこに新八の姿は見えない。
物音も聞こえない。目を凝らして辺りを見る神楽。
「居たアル!!」
ビルの三階、動く物も無いこの風景で、唯一動いているそこに、ガラスの壁に背を向けている人物、新八が居た。
すぐにそちらに向かって走るが、どうやら新八は何かに襲われているようだ。
それが何なのかはわからなかったが、新八は今武器を手に持っていない。
ならば、と神楽は手に持った木刀を思いっきり振りかぶる。
「新八! 受け取るアル!!」
そして宇宙最強種族と言われた夜兎一族の怪力を持って、それを新八に向けて全力で投げつけた。

それに気付けたのは、何故であろうか。
長い付き合いのせい? 何度も一緒に危地を乗り越えた仲間だから? 神様は死んだ魚のような目をする銀髪より眼鏡がお好き?
よくわからないが、とりあえず自分にとって一番気分の良い理由で納得する事にした新八。
見下ろしたそこに居た懐かしい顔、時間にしてみれば大した事は無いのかもしれないが、本当に懐かしい、そして待ち焦がれたその顔が、何かをこちらに向けて放り投げていた。
まっすぐにこちらに向かってくる物体。
それが何なのかまるでわからないが、このピンチを乗り切る為に神楽がしてくれた事なのだ。新八にとって悪い事であるはずがない。
例えば神楽があの距離からこの戦車に向けて何かをぶん投げて攻撃してくれたとか。
神楽の怪力ならそれも不可能ではないだろう。おあつらえ向きに、ちょうど戦車をかわしたせいで奴は方向転換の真っ最中。狙うのなら今だ。
(……でも気のせいかな。まっすぐに、僕の方に向かってきてる気が……)
思いっきりその場で仰け反る新八。
その真上を、ガラス壁をぶち破ってきた物が凄まじい速度で突き抜けていく。
「殺す気かァァァァァ!! こんな場面で平然とボケるなァァァァ!!」
今にも引っくり返りそうなぐらい反り返った上体を無理矢理引き起こす。
その顔のまん前に、例の戦車君が居た。
「そういえばアンタ居たっけェェェェ!!」
身をよじりながら、真横に大きく跳ぶ新八。
あまりに近寄りすぎていたせいか、シアーハートアタックの起爆機能が反応し、その場で爆発を引き起こす。
爆風に煽られながらもごろごろ転がって移動し、すぐさま立ち上がる新八。
そこで神楽が放り投げた物を確認出来た。
木刀だ。それが、モルタルだかコンクリだかの壁に深々と突き刺さっている。
「ざけんなァァァァァァ! 渡すつもりで投げたんならこっちに狙い定めてんじゃねェェェェェ!!」
そんな文句を溢しながら、突き刺さった木刀に手を伸ばす。
「でも、助かったよ神楽ちゃん!」
一気に引き抜き、壁を背に青眼に構える。
「贅沢は言ってられなそうだし、この部屋でやる!!」
飽きもせずこちらに向かい突進してくるシアーハートアタック。

『新八、おめーはやれば出来る子だと思ってたよ』

以前、そんな事を銀時が言ってくれた。
(銀さんがそう言ってくれたんだ。だったら僕も出来ないなんて言ってられるか!!)
寸前で跳び上がり、新八に喰らいつこうとするシアーハートアタック。
新八はそうやって跳び上がったシアーハートアタックの真下を、思いっきり体勢を低くしてくぐりぬける。
その際、体を反転させ、上半身は真後ろを向くように、踏み込んだ左足を軸に半回転しながら右足を大きく引き、タメを作る。
この時既に、新八の真上をシアーハートアタックはすり抜けて行っている。
シアーハートアタックは壁に向かって跳び続けていた。
「おおおおおおっ!!」
その真後ろに、新八は右足を踏み込みながら全力で突きを放った。
木刀正宗の力か、はたまた新八渾身の突きの威力か。
その突きはシアーハートアタックごと壁に突き込まれ、押し付けられた壁が崩れ、その中にシアーハートアタックを埋め込む。
「よっしゃあァァァァァ!!」
シアーハートアタックからきゅらきゅらと音がするが、相当深くめり込んだようですぐに出てくる様子は無い。
すぐに部屋を飛び出す新八。
ドアを閉め、そこらから椅子やらテーブルやらをかき集めてドアの前にバリケードを築く。
その時に見つけたモップをつっかい棒にして、ドアは開かないようにしてある。
「蚊だろうと二酸化炭素だろうと、こうして閉じ込めてしまえば、それに反応して爆発する事もない。爆発しないんなら、ここからなんて抜け出せない」
そして、万事屋独特の、あのニヤケ笑いを見せる。
「ゴキブリがキャタピラ付けたぐらいでエラソウにしてんじゃねーぞコノヤロー」
ここが普通の街ならば、誰がまたここに入るかわからないしとても安全とは言えない。
だが、今ここに居るのは60人の参加者のみ。ならば、ここに敢えて入る人間がいる可能性は極めて低い。
志村新八、会心の策であった。
出来れば壁より強度の低い窓の無い部屋に閉じ込められれば万全と思っていたのだが、この際贅沢は言ってられない。
念のためにバッグから紙を取り出して注意書きを書き、張っておく。
『この中は危険です、決して入らないでください。万事屋銀ちゃん、志村新八より』
神楽は下に居た。すぐに合流しようと階段を降りる新八。
だが、上から何やら不穏な声が聞こえた気がした。
「危険? 何言ってるアルか! 中に新八が居るのにこんな張り紙……はっ!? これがまさかかの有名な孔明の罠アルか!?」
どうやら神楽は別の階段で昇って来た模様。
踵を返して階段を駆け上がる新八。
「おおい! 僕の筆跡ぐらい見てわかれよ! というか孔明って誰ッ!?」
「うらー! 新八助けに来たアルよーーーー!!」

がっしゃーん

ちょうど、階段を三階まで昇りきった所で、その、器物を吹っ飛ばすよーな音が聞こえてきた。
「お前やっと現れたと思ったら何してくれてんだァァァァ!!」
絶叫虚しく、新八会心の策は破綻した。
(ぼ、僕の会心の策……一分と持たないとかひどくない? あれ? 何か目から汗が……)
新八の目から光る何かが零れ落ちたとして、誰がそれを責められようか。
がっくりとその場に膝を付く。
周囲の空間すら巻き込んで真っ暗にヘコむ新八であったが、はっと我に返る。
神楽が戦っているのだ、手伝わなければならない。
木刀正宗を手に部屋へと駆け込む新八。
部屋の中では神楽がシアーハートアタックを蹴飛ばしている所であった。
「神楽ちゃん!」
シアーハートアタックは部屋の奥まで吹っ飛んでいる。
「新八か? 助けに来たアルよ! 無事ネ?」
「いや、アンタのおかげで再びピンチになった所だよ」
神楽は油断無くシアーハートアタックを睨みつけている。
「あのちびっこ戦車、どうやらひたすらに人の後をつけてくるらしいアル。それに思いっきり頑丈ネ」
「知ってる」
不敵な笑みを浮かべる神楽。
「だけど、私良い手思いついたネ。あいつを何処かの部屋に閉じ込めてやるアル。そうすれば……」
「うおィィィィ!! それ考えたの僕! 何自分の手柄にしやがってますかァァァァァ!!」
「これならいくら相手が硬くても問題無いアル。それにこれだけ部屋が多ければ閉じ込める部屋にも苦労しない……」
「ちょっと何そのしてやったぜー顔!? だからそれ僕! 僕の会心の策だって! JAROに訴えますよォォォォ!!」
バカやってる間に再度シアーハートアタックがこちらに接近する。
しかし、今はさっきまでとは違う。
新八が一歩踏み込み、木刀を振るって叩き返す。
「これ僕使っちゃってるけど、神楽ちゃんは他に武器は無いの?」
そう言う新八に不機嫌そうに答える神楽。
「それは新八が使うネ、侍が剣無しじゃカッコつかないアル。それに私には武器なんて必要無いアルよ」
「神楽ちゃん……」
なんだかんだ言っても、神楽は木刀を投げて新八を援護してくれたのだ、やはり恩はあるのだろうと感謝の言葉を述べようとする新八。
神楽は、いつのまにか懐から取り出した見た事も無いぐらいごつい真っ黒のハンドガンを片手で構えている。
何処から持ってきたのかサングラスまでかけてシアーハートアタックに銃をがんがんぶっ放す。
「神楽ちゃんそれ武器ィィィィ!! 木刀目じゃないぐらい武器ですからァァァァ!! それにそのサングラスうぜェェェェ!!」
「新八にハードボイルドは百年早いアル。おしめが取れるようになってから酢昆布持って出直すね」
「何そのサングラスと銃でハードボイルドとか安易な考え! ムカツクんですけど! というかハードボイルドが酢昆布要求してんじゃねェェェェ!!」
「このサングラス、一階の受付にぽーんと置いてあったアル。だから私ドロボウじゃないネ」
「食いつくのサングラスかよ!! 銃だろ普通!! それにその辺にあった物勝手に持ってきたら文句無しでドロボウでしょうがァァァァ!!」
二人の話を邪魔するように、シアーハートアタックが喚く。
「コッチヲミロッテイッテンダロォォ!!」
二人は揃ってシアーハートアタックを鋭い目で睨みつける。
「新八、閉じ込めるじゃ生ぬるいネ。コイツの足止めどのくらい出来るか?」
「五分。それ以上は勘弁して下さい、マジキツイっす」
「うるさい、十分後に屋上で待ち合わせネ」
「欲しい時間決まってんならハナから聞かないで下さい」
一瞬だけ顔を見合わせて笑った後、神楽は部屋から駆け出し、新八はシアーハートアタックと相対する。
「かかって来いオラァァァァ!! でもどうしてもっていうんならちょっと一休みしてもこっちは全然オッケイですよォォォォ!!」

神楽が部屋を出てから五分以上は過ぎたと思われる。
何をやっているのかはわからないが、時々下から聞こえる轟音が、神楽が行動している事を教えてくれる。
(……というか、本気で何してんだろ神楽ちゃん)
もう何度目になるかわからないシアーハートアタックの突撃を、木刀で打ち落とす。
この木刀を持ってから、驚くぐらい身が軽くなっている。
本当に五分がギリギリだと思っていたのだが、どうやらこれなら何とかやっていけそうだ。
(剣筋も鋭くなってる。これ、もしかして凄い木刀なんじゃないのか?)
流石に剣を学んでいるだけあって、この木刀が並でない事にはすぐに気付いた。
屋上にちょうど十分後に辿りつくよう誘導する自信は無い。
だったら、さっさと屋上まで逃げてそこで時間を稼ぐしかない。
屋上ならばさっきの部屋よりも広く、逃げるのにやりやすかろう。
新八はそう考え屋上で神楽が来るのを待ちながら、シアーハートアタックの相手をしていた。
いっその事ここから叩き落してやれば、粉々になってくれるのではないかとも思うが、神楽をして『頑丈』とまで言わしめる相手だ。
それでもぴんぴんしてて動き出す可能性も否定できない。
いずれにしても、神楽が何か考えがあるというのなら、それを試してからでもいいだろう。
幸い、木刀のおかげか今までよりも楽にコイツをあしらえる。
ただ、新八も人間であり、体力には限界がある。神楽の策がうまくいかないようだったら、とりあえず下に落として一休みぐらいは必要になるだろう。
あれから十分弱、遂に神楽が屋上に姿を現す。
新八の無事を確認した後、近くにでーんと鎮座していた円筒形の給水タンクに目をつけ、それを両手で抱える。
「ふんごォォォォォ!!」
とても女の子とは思えない雄たけびをあげる。
総重量がどれぐらいになるか見当もつかない。直径2メートル、高さ2.5メートルの円筒タンクの中身は全て水なのだ。
それを、神楽は力づくで持ち上げる。
床との接地面にあった転倒防止アンカーがブチブチと紙か何かのように引き千切れる。
完全に肩の上にそれを担ぎあげた神楽は、歯を食いしばりながら新八とシアーハートアタックを見る。
新八は屋上をぐるぐると走り回り、シアーハートアタックはそれを追いかけ続けている。
「新八! 邪魔アル!!」
新八は神楽が抱え上げているものを見て、目をむいた。
今まで全速で走っていたと思っていたが、どうやら生命の危機にはそこから二割増しで速度が出るらしい。
「待って! 本当マジ待って! 死ぬから! かすっただけでそれ死ねるから!」
神楽はあまり待つ気は無かったらしい。
「どっせェェェェェェい!!」
走り抜ける新八の背中をかすめるように、神楽は給水タンクを叩き付けた。
そのど真ん中にシアーハートアタック。
超重量のそれを勢いよくぶちこまれた屋上の床がぶちぬけ、下の階へと落下する。
ぶちぬけた床の端に掴まってぶら下がる新八。
重力加速度により質量を増した給水タンクは更に下の階、下の階へと床を突きぬけながら落っこちていった。
半泣きになりながらよじのぼった新八が見たのは、屋上の柵に乗って勝鬨をあげる神楽の姿であった。
改めてぶちぬけた床を見直す新八。奥の方で給水タンクからぴゅーっと水が噴出していた。
「……幾らなんでもやりすぎだろ、コレ」
まだ何やら吼えている神楽の側に行く新八は、すぐにその異常に気付いた。
「あれ? 何かココ揺れてない?」
神楽は柵の上から振り返る。
「そりゃそうアル。下の階の柱私がぼこぼこにしてやったから。このまま奴を生き埋めにしてやるネ」
「おいィィィィ!! そういう大事な事は先に言おうよ! これどう考えても僕等も生き埋めになるんですけど!」
そこかしこを見渡す神楽。
「ああ、あそこ、あのビルに飛び移るアル」
「お前今探しただろ! 何も考えて無かったんだろ! 正直に言えゴルァァァァ!!」
「バカ言うなアル。私は一万年と二千年前から考えて、八千年過ぎた頃には完璧な案に練りあがってたアル」
「こんな策考えるのに一万二千年かけるとかどんだけ気が長いんだよ!! というか練りあがった八千年目にきっちり仕掛けとけよ! そっから四千年も寝かしてんじゃねェェェェ!!」
揉めながらもやるべき事はきっちりやる新八。
柵を越え、飛び移るビルを見下ろす。三階建てのその屋上までは、結構な距離と高さがあった。
「神楽ちゃんもしかして二階分の高さとか舐めてる? あれ、結構ヤバイよ。ほら、足にびーんって来て痺れる奴。まず間違いなく来るよね」
全く聞いてない神楽。
「行くアルよ新八!」
「聞けよォォォォ!! クッソォォォォ!! 死んだらァァァァ!!」
二人は同時に屋上から飛び降りる。
それに合わせるかのように、五階建てのビルが轟音と共に崩れ落ち始める。
給水タンクでぶちぬかれた穴に吸い込まれるように、中に向かって四方の壁が倒れ込む。
それぞれの壁、柱が相互にぶつかりあって、複雑怪奇な作用を生み出し、二階の床が外に飛び出したり、一階の壁が真上に飛び上がったりと職人によるビル爆破では到底見られない模様であった。
着地の音も鮮やかに、完璧な体勢で着地を決める神楽。
両足踏ん張って着地した後、勢い余ってごろごろ転がる新八。
「グアァァァァ!! 足がァァァァ!! ほら来た! ほら来た! 言った通りマジ痺れるしコレェェェェ!!」
飛び降りた勢いが無くなった後も、ごろごろ転がってのたうち回る新八。
あまりにウザイので神楽が蹴りを入れるとすぐに収まった。
「しかし……派手にやったねえ」
完全に倒壊したビルを見下ろし、そう言う新八。
五階分の瓦礫の山である。舞い上がった粉塵はしばらくの間落ち着くことは無いだろう。
例えあの戦車に百倍のサイズがあったとしても、この瓦礫からは逃れられない。
一安心といった所だが、新八はすぐに次の行動に移る。
「よしっ! 神楽ちゃん、銀さんを助けに行こう!」
「お前が仕切ってんじゃねえ!」
跳び蹴りが顎に当たって血を吹く新八。
倒れる新八に馬乗りになって更に殴り続ける神楽。
「オラ、誰のおかげだ? 誰のおかげで勝てたんだ言ってみろ? 神楽様だ、様付け忘れるなよ?」
「ちょ、ブゴッ、神楽ちゃんそれ所じゃ、へぶっ、痛っ、マジ勘弁してくだ、ヘボォ!!」

神楽と顔面がちょっと修羅場入っちゃってる新八の二人は並んで走りながら病院を目指す。
「あの戦車より神楽ちゃんに殴られた分の方がダメージ大きいってどうよ? ねえ、どうよ?」
「急ぐアル新八。銀ちゃんが待ってるネ」
「あれェェェ!! それ誤魔化してません!? ちょっとやりすぎちゃったーみたいな感じ出てないマジでェェェェ!!」

(あの時の不安が嘘みたいに消えてるアル。新八と会っただけなのに、それだけでこんなに……)

「それに神楽ちゃん、この先にもう一人吉良さんって人が居るんだ。その人も助けなきゃ」
「キラー? それはきっと殺し屋ね。私の女の勘がそう言ってるアル」
「いやそれ女の勘じゃ無いから! 凄い勢いで名前から取ってるでしょ!? ていうかただのサラリーマン容赦なく殺し屋扱いすんなァァァ!!」
「リストラされた恨みネ。それであんな快楽殺人者に……現代が生み出したヒズミって奴ネ」
「殺し屋から更に嫌な進化遂げてるんですけど!? なんでもかんでも時代のせいにしてあんな働き盛りの人リストラしてんじゃねェェェェ!!」

(ケンもマダオも、嫌な奴じゃないアル。でも、やっぱり私はココが良いアル)

「そういえば神楽ちゃん、向こうの方で女の子と小さい男の子見なかった?」
「ああ、居たアル。ガキはさておき、女はムカツク奴だったネ。後でシメるアル。特にあのピンク髪と声が許せないネ、キャラ被りすぎアル」
「嘘つけェェェェ!! いくらなんでもあんな高度な萌え属性アンタにはねェェェェ!!」
「一緒に新八もシメるアル」
「スンマセンッシタァァァァ!! マジ調子乗っちゃってました!! 土下座っすか!? 土下座っすね!? 幾らでもする準備ありやすよォォォ!!」

(……ココじゃないと、私ダメアル)