夕闇に悪魔、慟哭す ◆MANGA/k/d.



 肌に、冷たい風がかかる。
 日が暮れ始め、次第に暗がりがその輪郭を広げている。
 本来なら、学校帰りの子供達や、夕飯の買い物に行く主婦等で賑わっていたであろう、街中の大通り。
 だが。
 今、静まりかえり、生き物の気配すらないそこを動くのは、漆黒の、巨大な体躯をした馬と、そこに跨る2人の影のみ。
 本来ならば世紀末覇者を名乗る"拳王"ラオウが跨りし愛馬、黒王号に乗った愚地独歩と、加藤鳴海だ。
 武神と称される空手家、独歩であるが、乗馬の経験はない。
 しかしこの黒王号は、まるで乗り手の意志が分かるかのように、ちょっとした仕草に応じて、進路を選び進んでくれる。
 太ももの締めは、三戦の応用ですぐに分かった。手綱の引き具合にも慣れてきている。
 流石に、疾走とまでは行かないが、だく足で2人の男を運ぶのには、不自由はない。
 蹄の音をさせながら、大きく黒い影が、無人の街を駆けている。 

 かすかに、嗚咽が聞こえる。
 加藤鳴海のものだ。
 先ほどまで、半死半生と思えた負傷だったが、目に見える傷の多くは治りかけている。
 黒王号である程度の距離を引き離し、ひとまずの応急手当をしたときにもそれは分かった。
 信じられぬほどの治癒力だ。
 鳴海自身の言う、しろがねの血故なのだろうか。
 しかし。
 むしろ肉体よりも、精神のダメージの方が大きいのかもしれない。
 範馬勇次郎の暴挙から、少年 ――― 才賀勝 ――― を守れなかったことが、相当堪えているのだろう。
 独歩も同様である。
 が、たしかこの加藤鳴海と才賀勝は、ついさっきが初対面だったはずだ。
 いや、違う。
 勝は、鳴海を知っているが、鳴海は勝を知らない…。たしか、そんな話だった気がする。
 落ち着いて、詳しい話をしたわけではないが、先ほどのしろがね ――― エレオノールとの闘い、やりとりの中にも、違
和感がある。
 かみ合ってない。
 そう、様々な事がかみ合っていない。
 勇次郎 ―――。
 愚地独歩は考える。
 かつて二度闘い、二度敗れた相手。
 一度は、不意打ち。
 自らの起こした空手道神心会の本部ビル完成を祝う、内輪の集まりでの事だ。

 『愚地独歩だな』
 声がした。
 背後から聞こえたその響きに、反応するのがコンマ2秒。
 ザク。
 熱い。
 視界に、赤い膜。
 よろめいた。
 『なッ』 『館長ォ』
 同席していた門下生の声。
 襲われている。
 『何者だキサマッッッ』
 構え ―――
 ゴッ
 右顎に
 身体が
 衝撃で
 意識が
 飛んだ。
 混濁する視界に映りこむ。
 黒い影が、猛獣の笑みが、ざわめきが ―――。
 『これが 「神の拳」 とまで言われる男とはな…』
 『ガッカリさせやがる…………』

 酒が、反応をコンマ一秒遅らせた…。

 後に、その息子、刃牙にそう述懐していた。
 事実だが…言い訳にはならない。
 いや、何であろうと、武道家に言い訳など無い。
 言い訳が出来ると言うことは、負けて、生きながらえたと言うことだ。
 ただ死ななかったと言うだけだ。
 ならば。
 やはり、武道家に言い訳などはない。

 地下闘技場で、リベンジマッチの機会を得る。
 が。
 二度、負けた。
 そして、

 「死んだンだよ。一度な…」

 心臓の真上に、勇次郎の打撃を受けた愚地独歩は、心停止状態になる。
 そこに、鎬紅葉という名医がいなければ、独歩の人生はそこで終わっていた。
 あばらの下から直接手を突き入れての心臓マッサージという荒技で、蘇生には成功し。
 愚地独歩は再度、生きながらえた。
 右目と引き替えに。

 曰く、地上最強の生物。
 曰く、ワン・マン・アーミー。
 常に成長を続け、飽くなき闘争心と、歴史上のどんな偉人にも匹敵するエゴを持つ男―――。

 あれが…勇次郎か?
 そこにも、かみ合わないものを感じる。
 確かに、範馬勇次郎という男に、社会性だとか倫理観だとか言うモノを求めるのはナンセンスだ。
 彼は、何にも縛られない。
 人であろう、法であろう、道義情愛美徳…人類が生み出し、獲得してきたあらゆる価値観の全てを、自らのエゴイズムで
粉砕し得る男だ。
 範馬勇次郎が 「破壊」 してきた武道家、格闘家は枚挙に厭わない。
 勿論、再起不能となった者も居る。
 断片的に聞いた情報としても、かつてベトナム戦争に傭兵として従軍し、その戦闘技術に磨きをかけてきたと聞
くし (彼にとって戦場とは、際限なく楽しみを得られる遊技場であり、又手っ取り早く実践経験を得られる道場で
もある)、刃牙の母親、朱沢江珠の死や、その元夫である朱沢グループ会長の死にも関わっているのではないかと
いう話もある。
 だが。
 独歩は思い出す。
 年端もいかぬ少年。
 才賀勝を撲殺し。
 嬉々としてその死体の上に立つ姿。
 その死体を弄び、鳴海にその飛沫を浴びせる、血まみれた姿 ―――。
 勇次郎 ――― それじゃあまるでよ。
 ただの殺人狂じゃあねぇか…。

 自分は武道家だ。
 常に、死線の上を歩んでいる。
 自分が誰かと闘い、勝ち、あるいは敗れ…。
 目を抉られ、骨を折られ、四肢を失い、あるいは、死ぬ。
 殺すことを目的としては居ないし、死ぬつもりで居ることもない。
 しかし、誰かを殺すことも、自分が死ぬことも、ある。
 武道家だからだ。
 そうやって生きるのが ――― そうやって生きるしか無いのが、武道家だ。
 そのどうしようもない本性を、なんとか人としておく為のモノ ――― 道 ――― それが、"武道"だ。
 武道は人格形成の役に立つ…。
 等と、たしかにそううそぶく。
 しかし、逆だ。
 俺や…ほとんどの武道家ってぇヤツは。
 年がら年中、人をぶったたき、打ちのめし、破壊する事を考え、旨い飯を食うことより、いい女抱くことよりも優先して
…求めている。
 そんな連中ばかりだ。
 だから、武道という規律、規範で、人に留めておく必要がある。
 武道があって、初めて人でいれる。
 そうでなければ。
 闘うことと、ただ殺しをすることに、違いは無くなる。
 ただ殺すことを。
 弱き者…手当たり次第に女、子供を殺すこと。
 それらを求めるのならば、武道など必要ない。
 本当に殺そうと思えば、鉛筆一本で人など殺せるのだ。
 小学生程度の腕力でもってしても。

 勇次郎は違う。
 それが、明確に分かった。
 アレが…子供の血を浴びて喜悦するあの姿が…勇次郎の本性だというのなら―――。
 愚地独歩の知らぬ、戦場での勇次郎の姿なのならば…。

 「止めるしか…ねぇよなぁ…」

 それが出来る…とは、言い切れない。
 だが、それをするのは、自分か…あるいは、刃牙の役目だろう。
 そう思う。

 視線を後ろにやり、半ば茫然自失の加藤鳴海を見やる。
 不意に、不肖の弟子、加藤清澄のことが頭をよぎった。
 喧嘩空手を称し、いったんは神心会を飛び出した跳ねっ返り者。
 門下生の中で飛び抜けて優れた資質があるというわけでもないが、その気性や、あるいは勝利への執念に、まるで若い頃
の自分を見るようで、なんとはなしに目をかけていた。
 鳴海とは単に、名字が同じというだけでしかない。
 それだけでしかないが、独歩にとってこの若い拳法家、加藤鳴海とその不出来な弟子が重なって見えてくる。
 その、加藤清澄が殺されたとしたら…。
 例えば、死刑判決を受ける様な殺人狂が、自らに連なる弟子、縁者を無惨にも殺したとしたら。
 武道家である。
 闘いの中で死ぬこともある。
 だが。
 殺すこと自体を楽しみとする殺人狂に殺されたとしたら?
 如何なる時、如何なる場所であれ、武道家にとって不覚を取るのは負けだ。
 しかし。
 だからといって、大人しく引き下がるわけにはいかない。
 たとえ門下100万人を総動員してでも、犯人を倒しにかかったかもしれない。

 この殺し合いの場に連れてこられて、独歩は先ほど初めて 「闘い」 をして、初めて 「死」を目にした。

 オーガよ。
 アレがお前の本性だというならば。
 そしてアレがお前の、「戦場」 での振る舞いだというならば ―――。
 確かに、俺ぃらにゃあ、覚悟が足りてねぇのかもしれねぇ。
 ここが既に 「戦場」 だという覚悟が足りていなかったのかもしれねぇ。
 けどなぁ…。
 俺ァやっぱ。
 「空手家」だぜェ…。

     ◆ ◆ ◆

 「御老公…?」
 加藤鳴海が、そう繰り返した。
 「ああ。
 徳川光成…。あの、時代劇でも有名な水戸黄門サンの子孫で、日本有数の財閥会長…。
 俺はまぁ、御老公と呼んでんだがな。
 つきあいは…長ぇさ」
 独歩の話す内容は、鳴海にとってかなりの混乱をもたらすものだった。
 秘密裏に地下闘技場を取り仕切る、子供のように無邪気な老人、徳川光成。
 地上最強の生物、範馬勇次郎とその息子、刃牙の確執。
 神心会の長としての刃牙との関わりと、そして勇次郎との闘い、二度の敗北…。
 先ほど、逆十字号に乗っているときに話した内容とかぶる部分もあったが、この狂気の沙汰の開催を告げた老人、光成に
ついては初耳だ。
 光成。
 あの、小さな老人。
 少し前までの鳴海なら、その名を聞いただけでも、全身の毛が逆立つほどの怒りに身を震わせていたかもしれない。
 だが今は。
 消耗が激しすぎた。
 身体的なものだけではない。
 いや、身体的な消耗というのならば、しろがねの血の効果で回復してきている。
 精神的な消耗 ―――。
 サーカスの呼び込みをしているときに出会い、そのまま遺産分配に関わるもめ事から起きた、人形を操る殺し屋達との争
いを経て関わり合いになった少年、才賀勝 ―――。
 記憶をなくし、しろがねとして右手を機械に変えながらも復活し、自動人形との闘いの中に身を投じ ―――。
 そして再び、この狂気の殺人ゲームの中で再開し ―――。
 ようやく取り戻した記憶の中にある笑顔が…目の前で砕かれた ―――。
 そう、文字通りに砕かれた ―――。
 そのことでの消耗。
 それらが全て、頭の中を渦巻いていて、濁っている。
 まるで心と体、感情と思考の間に薄膜を貼られたような非現実感がある。
 だから、光成の名が独歩の口から出たときも。
 又、光成との旧知の仲であることを語られたときにも。
 鳴海の中にその事実が鋭く、深くは入ってこなかった。

 「やっぱりな、かみ合わねぇンだよ」
 独歩はそう続ける。
 「刃牙の話…さっきしたときもそうだったがよ。
 俺ぃらにゃあ、別人としか思えねぇ。
 別に俺ぁ、刃牙の全てを知っているたぁ言わねぇが…それでも、ヤツが進んで殺し合いなんかに乗るってなぁ…な。
 しっくりこねぇんだよ。
 あいつはあの勇次郎を、止める事を目標にしていたんだからな。
 ここで殺し合いなんかに乗ったら、止めるべき相手と同じになっちまう」

 勇次郎…。鳴海の目の前で、勝を惨殺したあの男…。
 類い希なる格闘センスと、凶悪なまでの身体能力を持つあの男。
 刃牙が、その息子だと言われるのは、説得力がある。
 その双方と拳を交えた鳴海だからこそ、それは分かる。
 そしてその勇次郎を止めようとしていたという話は…分からないでもない。
 勿論、鳴海の知っている刃牙は、数刻前に死闘を演じた刃牙であり、凶悪な殺人者そのものだ。
 しかし、独歩の話の中に出てくる刃牙は…それとは全く違う顔をしている。
 思い当たる節もある。
 ――― DIO様と約束したんだ。俺に力をやるって親父を殺すための力をやるって。
 親父を殺す力。
 たしかに、刃牙はそう言っていた。
 止める、という事と、殺す、という事は違う。
 違うが、共通してはいる。

 「御老公もさ。
 あの人ぁ…ただ純粋に 「強い者同士が闘う」のが好きなんだよ。
 こんな…ただ人が人をなぶり、殺し合う様なモン…御老公の発想じゃあねぇ」

 独歩はそう断言する。

 「かみ合わねぇんだよな…」

 再び独歩はその言葉を口にする。
 記憶を無くしていた鳴海。
 鳴海のことを覚えていた勝。
 勝のことも、鳴海のことも知らない ――― 道化のメイクをし、まるで出会ったばかりの頃のような ――― しろがね…
エレオノール。
 そうだ。
 かみ合わないことだらけだ。

 「どう…してだ…?」
 誰に問うとでもなく、鳴海はそうつぶやいた。
 「分かんねぇが…」
 独歩はそれを自分への問いと受け取ったのか、そう返す。
 「俺ぃらにゃあ、"推理" だとか "考察" だとかッてなぁガラじゃあねぇしよ。
 “何故” ってな事ァ、もっと分からねぇ。
 けどよ。
 どうも俺には、御老公の後ろに誰かいるんじゃねぇかッてぇ気がするぜ」
 「あの、光成って爺さんが主催者じゃない…?」
 「『わしも知らされておらんかった』 『ワシの命がかかってる』
 この言葉が、ズット気にかかっててな。
 そもそも、御老公の趣向たぁ思えねぇし、大財閥の財力があるたぁ言え、あの、紙っぺらからばかでかいモノが出てくる
仕掛けだとか、街一つ丸々会場にしちまうだとか…この、厄介な首輪だとか…な。
 全部、御老公一人で出来る事たぁ思えねぇんだよな。
 だからよ。
 誰かが、無理矢理御老公にやらせている…。
 そう考えた方が、しっくりくるンだよなぁ。俺には」
 そう言って、独歩は自分のその言葉に納得したかのように、顎をさする。
 「刃牙の事ァ…」
 先ほどより幾分小さく、そしてこれこそ自分に言い聞かせるかのように続けて、
 「DIOとかいう野郎に会ってみねぇ事にゃ、ワカらねぇだろうけどよ…」
 そう言った。
 鳴海は独歩に抱えられるようにして、小さくうずくまる少女 ――― 三千院ナギを見やった。

     ◆ ◆ ◆

 血の匂いだ。
 むせかえるほどの、血の匂いだ。
 地面に咲いた、鮮血の華。
 赤黒く、さびた色。
 どろり。
 乾き始めた血の光沢が、傾き始めた日の光に照らされてぬらぬらと光る。

 「刃牙…」
 黒王号から降り、その死体を確認した独歩が、そうつぶやいた。
 見覚えがある。
 その身体に、その傷に、見覚えがある。
 顔は分からない。
 顔があった場所に、顔だった物が、見て取れるだけだ。
 完全に、頭がつぶれていた。
 頭蓋が四散し、血だまりの中に散らばっている。

 勇次郎から逃れた後、黒王号に乗った独歩と鳴海は、一旦は南へと進んでいった。
 とは言え、そのまま南下してしまうと、当初の目的地からなお離れてしまう。
 喫茶店で集合する、という予定だったし、エレオノール…今は鳴海も思い出している、しろがねの事もある。
 鳴海自身はそれらの事を考えられる精神状態ではなかったが、既にある程度のことを聞いていた独歩が、当初の予定通り
に行くべきだと判断した。
 地図で言う、消防署に行く前で右手…西に進路を変え、そのままぐるっと回り込んで、C-2の禁止区域をギリギリで逸れ
つつ、話に聞いていた喫茶店の位置へと向かう。
 勇次郎の動向は気になった。
 危険な賭でもある。
 しかし、だからこそ喫茶店に行く必要があった。
 もし、勇次郎が先に喫茶店に行ってしまったら?
 鳴海や勝の話では、ここで集まる手はずになっている者達の中には、小さな少女も居たという。
 独歩はそのことを考える。
 勝を殺し、喜悦の表情を浮かべる勇次郎。
 殺し合いのゲームという場で解き放たれた勇次郎の狂気は、目にした全ての者を破壊せずにいられぬ、人ならぬモノ。
 今の独歩にとって、かつて知っている…そして闘った勇次郎と、今ここに居る勇次郎は、まるで別のモノだ。
 その少女と勇次郎を会わせてはならない。
 そう思う。
 幸いにも、道中誰にも会うことはなかった。
 勝の死に強いショックを受けていた鳴海も、喫茶店の位置を確認する為のやりとりをしていく中で、次第に集中力を取り
戻し始めていた。
 道すがら、鳴海は自分が失っていた記憶を取り戻したこと、勝、しろがねとの関わり、そこで得た、「最高の笑顔」 の
事などを、言葉少なに独歩へと語った。
 語ることで、少しだけ落ち着きを取り戻してきているようだった。
 細かい路地を数度曲がり、目的地である喫茶店のある通りに出る。
 一見して、大きな破壊の痕跡が見て取れた。
 通りに面した建物のガラスが打ち破られ、辺りに四散している。
 地面自体も、まるで巨大なハンマーで打ち据えられたかのようなくぼみが出来ている。
 そのくぼみの中に、それはあった。
 史上最年少、17才の地下闘技場王者。
 範馬刃牙の骸だ。

 その数メートル先に、学生服姿の別の男が横たわっている。
 こちらも既に死んでいるのは明らかだった。
 長身で、偉丈夫な体躯は、鳴海にもひけはとらない。
 数刻前までは空条承太郎だったモノだ。
 相打ちか。
 鳴海はそう思った。
 独歩の言ったとおり、核鉄を刃牙に渡したことは致命的だったのだろう。
 回復した刃牙は、エレオノールから逃れ(…そのエレオノールが、何故勝、独歩達に襲いかかってきたのかは分からない
が)、喫茶店に先回りして、この場にいた青年と闘い、相打ちになった……。
 何もかもが、後手に回っている。
 「…俺が…」
 はき出すように、鳴海。
 「俺が…こいつを…」
 刃牙を殺していれば…。
 核鉄を渡さないでいれば…。
 自分もエレオノールと共に向かっていれば…。
 空条承太郎は死なずに済んだかもしれない。
 「俺がこいつを…ッ」
 す、と。
 膝をつき、声なき声で慟哭する鳴海の前に、太い腕がかざされる。
 「鳴海よ」
 顔は向けず、表情も見せず。
 「そいつぁ、言いっこ無しだぜ…」
 独歩が言う。
 「たら、れば、は、無しだ」
 鳴海は気づく。
 独歩と刃牙は旧知の仲だ。
 多くは語っていないが、比較的親密な間柄だったようにも思う。
 確かに、鳴海が刃牙を殺していれば、空条承太郎は死なずに済んだかもしれない。
 だが、独歩の知る刃牙が、何故鳴海と闘った悪辣な殺人鬼となったのかは分からない。
 静かにたたずんでいるかに見える独歩の心中は、どれほどのものなのだろうか。
 割り切れないものだけが、そこに渦巻いている。

 「神心会…100万人の長…」
 つぶやくように、あるいは謳うように、太い声がする。
 「虎殺し…武神…神の手…」
 鳴海は顔を上げ、声の主に目を注ぐ。
 「今…」
 呼。
 息が、吐きだされる。
 「全部捨てたぜ」
 拳。
 正拳一本突きを、空に放つ。
 鋭く。
 速く。
 まとわりつく空気そのものを絶つかのような、拳。
 「たった今から、俺ぃらあただの、“空手家・愚地独歩”だ」
 「50年間、空手に捧げ続けたこの拳」
 「そいつだけを持って」
 型。
 上段突き。
 前蹴り。
 裏拳。
 鳴海の前に向き直る。
 「先に進むぜ」
 風が、鳴海の頬をなでた。

 喫茶店の周辺を調べて、数十メートル離れたところに呆然と歩いていた三千院ナギを見つけたのは、それからしばらくし
てだ。
 衣服も血にまみれ、見るからに凄惨な様子だった。
 目立った怪我はない。この血はおそらく、空条承太郎のものだろう。
 鳴海の姿を見ても、すぐに反応できぬほど憔悴している。
 ここに、勇次郎より…あるいはエレオノールや、他の “乗っている” 参加者より早く来る事が出来たのは幸運だった
と、独歩は思う。
 それほどまでに、無防備だったのだ。
 しばらくして、ポツリポツリと、事の経緯を語る。
 刃牙…短パン姿の男に襲われたこと。
 承太郎が応戦し、自分もスパイスガールのスタンドで加勢したこと。
 最期に、承太郎と刃牙が相打ちになり…死んだこと。
 そして、その後ハヤテが居なくなったこと…。
 ナギの話をまとめると、そういう事のようだった。

 「ハヤテが、居なくなってしまったのだ…」

 そうつぶやいたナギの姿が、夕陽の中ににじんで、そのまま消えてゆきそうに見えた。
 鳴海は、まだ治りきらぬ自らの怪我も顧みず、強く抱きしめた。
 再び、悪魔は慟哭する。
 声も出さずに、強く慟哭する。
 勝のため、そしてナギのため。
 この闘いの中で、無意味に失われた、全ての命のため ―――。

 荷物をまとめて、三人は黒王号に跨る。
 承太郎が回収したフェイスレスの首輪や、喫茶店の店内に置いてあった首輪探知機も持ってきた。
 ナギを独歩が抱えるようにし、その後ろに鳴海。
 これが普通の馬ならば、こんな乗り方が出来るわけはない。
 遠目にはまるで象と見間違えかねぬ巨躯を持つ黒王号だからこそ出来る事だ。

 承太郎は死んだ。
 ハヤテは何処かへと走り去ってしまった。
 エレオノールは、わずかの間に心変わりをして、殺し合いに乗ってしまった。
 赤木とは別れたままだが、今どこにいるかは分からない。
 こなた、パピヨン、そして独歩が別れたシェリスは、北にいる。

 ここに、このまま居るのは拙い。
 出来るだけ早く離れるべきだろう。
 独歩はそう思う。
 手に持った、首輪探知機を見る。
 真ん中に4つ。
 自分たちだ。
 ほど近くに2つ。
 刃牙と、承太郎の死体のもの。
 東…おそらくは先ほど闘った場所に、動かないのが2つ。
 勝と…勇次郎だろう。
 南に、動いているのが1つ。
 これは、エレオノールだろうか…?
 鳴海に視線をやる。
 エレオノールは、今、ゲームに乗っている。
 しかし鳴海にとって、勝同様にかけがえのない存在の様だった。
 北か南。
 北に行き、近くにいる勇次郎の脅威をこなたやパピヨン達に伝えること。
 南に行き、鳴海と共にエレオノールを説得すること。
 考えられる選択肢は、大きく分ければ二つになる…が。
 再び独歩は、自分の前に座らせた少女 ――― あまりに小さく、か細く、今にも壊れてしまいそうな少女 ――― 三千院
ナギを見る。
 この少女は…守らなければならない。
 そう思う。

 ふぅ、と大きく息を吐く。
 「鳴海よぅ…」
 いずれ、誰かに話しておくべきだと思っていた事を、独歩は切り出す。
 「…ああ?」
 「どーにも、かみ合わねぇんだよなァ…」
 「…どういう事だい、独歩さん…?」
 再び、息をつく。
 「うん…。まぁ、御老公のことなんだがよ…」

 紫色に染まる空を背に、人の居ない伽藍堂の町並みの中を、2人の男と、1人の少女を乗せた黒馬が駆ける。
 さらなる漆黒の闇、さらなる混沌の渦に向かって。

【D-3:喫茶店付近/1日目 夕方】
【愚地独歩@グラップラー刃牙】
[状態]:健康
[装備]:黒王号@北斗の拳、キツめのスーツ
[道具]:支給品一式×3(独歩、勝、承太郎)、不明@からくりサーカス、書き込んだ名簿、携帯電話(電話帳機能にアミバの番号あり) 首輪探知機
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない、乗った相手には容赦しない。
1:鳴海と行動を共にし、ナギを保護する。
2:基本姿勢を、闘うことより他の参加者 (女、子供、弱者) を守ることを優先する事に変更。
3:シェリス、パピヨン、こなた等や、他のゲームに乗っていない参加者に、勇次郎の事を知らせておきたい。
3:その他、DIO、アミバ・ラオウ・ジグマール・平次(名前は知らない)、タバサ(名前は知らない、女なので戦わない)、エレオノール等、危険/ゲームに乗っていると思われる人物に注意。
4:乗っていない人間に、ケンシロウ、及び上記の人間の情報を伝える。
5:赤木と合流するために、鳴海と共に8時に学校へ行くのもアリだとは思っている。
6:余裕があれば、シェリスとともに劉鳳を探してもいいかもしれない。
7:勇次郎を倒す確実な機会、方法を慎重に選ぶ。
8:可能なら、光成と会って話をしたい。
[備考]
※黒王号に乗っている場合、移動速度は徒歩より速いです。
※パピヨン・勝・こなた・鳴海と情報交換をしました。
※不明@からくりサーカス
 『自動人形』の文字のみ確認できます。
 中身は不明ですが、自立行動可能かつ戦闘可能な『参加者になり得るもの』は入っていません。
※刃牙、光成の変貌に疑問を感じています。
※実際の次の進路は、次の書き手さんにお任せします。

【D-3北部:喫茶店付近/1日目 夕方】
【加藤鳴海@からくりサーカス】
[状態]:胸骨にひび 肋骨2本骨折 左耳の鼓膜破裂 右手首欠損 全身に強度の打撲 出血 疲労 自己治癒中
[装備]:聖ジョルジュの剣@からくりサーカス
[道具]:支給品一式×2(刃牙、鳴海)  輸血パック(AB型)@ヘルシング グリース缶@グラップラー刃牙 道化のマスク@からくりサーカス
[思考]
基本:バトルロワイアルの破壊、誰かが襲われていたら助ける。赤木がいう完璧な勝利を目指す。
1:ひとまずは独歩と行動を共にし、ナギを保護する。
2:エレオノールと再開し、話をしたい。
3:誰かが襲われていたら救出し、保護する。
4:赤木との約束の為に、8時に学校へ行く。その旨をパピヨン等にも伝える。
5:いつか必ずDIOと勇次郎をぶっ潰す。
6:殺し合いに乗っている奴を成敗する。
7:DIOの情報を集める。
[備考]
※聖ジョルジュの剣は鳴海の左腕に最初からついていますので支給品ではありません
※参戦時期は本編18巻のサハラ編第17幕「休憩」後です
※勝とエレオノールの記憶を取り戻しました。エレオノールとフランシーヌ人形が酷似していることについては、考えていません。
※勇次郎との戦闘での負傷はある程度回復していますが、戦闘には支障があります。

【D-3北部:喫茶店付近/1日目 夕方】
【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]全身に打撲、右頬に中程度のダメージ、首に痣あり、精神疲労(大) 、茫然自失
[装備]スパイスガール@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]無し
[思考・状況]
基本:殺し合いはしない
1:ジョジョ……ハヤテ……。
2:ハヤテ、マリア、ヒナギク、ジョセフと合流する。
3:カズキの恋人という『斗貴子』とやらに会って、カズキの死を伝える。
4:独歩、鳴海のことは、信頼していると言うよりは、警戒する気力がない状態。
参戦時期:原作6巻終了後
[備考]
※スパイスガールが出せるかは不明です。
※ハヤテの変貌に恐怖を感じています。またハヤテの事が気懸かりになっています。
※ヒナギクが死んだ事に当然確信はありません。
※独歩、鳴海に対しては、「ハヤテが倒れた刃牙をピーキーガリバーで粉砕していたこと」は伝えていません。
 ハヤテが死んでいる刃牙にそうしていたのか、まだ息のあった刃牙にとどめを刺していたのかについて、どう捉えているのかは分かりません。
※独歩が鳴海に話していた、光成に関しての違和感は、耳には入っていますが、意識には入っていません。


153:繋がれざる鬼(アンチェイン) 投下順 162:三村信史は砕けない
153:繋がれざる鬼(アンチェイン) 時系列順 162:三村信史は砕けない
158:一瞬のからくりサーカス 愚地独歩 173:君らしく 誇らしく 向ってよ
158:一瞬のからくりサーカス 加藤鳴海 173:君らしく 誇らしく 向ってよ
150:地獄の季節 三千院ナギ 173:君らしく 誇らしく 向ってよ