Double-Action ZX-Hayate form

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mangaroyale

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Double-Action ZX-Hayate form ◆WXWUmT8KJE



 日が沈み、空に星が瞬く中、自らの胸に刺さる街灯に村雨は視線を向ける。
 パピヨンへの意趣返しを企む彼の脳裏に、散の舞うような、華麗な戦い方が浮かび上がる。
 散なら、パピヨンを相手でも己のペースを崩さず圧倒していたであろう。
 自分では散の領域には遠いかもしれない。

 ―― お前戦闘した事あるのか?

 パピヨンの蔑むような声が耳に蘇る。村雨は今までのことを思い出す。
 村雨の戦いは、常に圧倒的なものであった。バダンの脅威的な科学力によって構成された身体は、現代兵器のいかなるものも寄せ付けなかった。
 タイガーロイド、三影英介と共に人間を相手に圧倒していた。戦闘機を圧倒していた。戦車を圧倒していた。
 しかし、村雨の戦闘力を寄せ付けない者と出会うことになる。
 仮面ライダー1号。
 そう名乗る戦士と戦い、宙に舞い上げられたところで村雨はここに召還された。
 今でも思い出す。右足と左腕を砕かれ、竜巻を起こすほどの回転投げ。
 あの技は、どう繰り出したのか脳裏に再生させる。
 そして散。
 散の螺旋に仮面ライダー1号との戦いと同じく、左足を砕かれた。
 あの時、左足は回転に巻き込まれるように捻れ、砕け散った。
 回転。それが散の技に切れを出していたように見える。
(回転……か)
 呟くことなく、空を見上げる村雨の瞳に、昇り始めた月が映る。
 自身は気づいていないが、度重なる敗北に彼の精神は疲労していた。
 その彼を、天は追い討ちをかけるように残酷な知らせを伝える。

「……なん……だと?」
 あまりの衝撃に、自分でもどういう意味で言ったのか不明だった。
 三度目の放送が伝えたのは……
「散が……あの散が……死んだだと……?」
 呟きは無意味。嘘はありえない。事実、自分が、散が殺した桐山や才人は死んだ。
 なのに、散の死がどうしても信じられない。
 一緒にいた期間は短い。それでも、散は記憶のない村雨にとって、鮮明な輝きを放っていたのだ。
「う…………」
 俯き、漏れる声。村雨の記憶にない感情が、彼の胸を支配する。
 思い出すのは散の姿だけだ。自分の半身を失ったかのような、胸にポッカリと穴がいたような、虚無感に満たされる。
 しかし、それも僅かな間。すぐに村雨の胸が熱くなり、堪えきれず熱いものが胸よりこみ上げてくる。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 激情に任せるままに、村雨は吠える。
 その勢いで彼の身体が赤く光り、ZXへと身を変えて街灯を引き抜く。
 シンクロは彼に力を与え、再生能力を早めさせる。
 それは制限下でも、幾分か衰えながらも変わらず存在する。
 引き抜いた街灯を投げ捨て、クルーザーを引き起こす。
 緑眼が闇夜の中を煌き、目的のものを探り当てる。
 ビル内へとZXは入っていった。


 放送の内容を、強化外骨格「零」は聞き、理不尽な殺人が止まらないことに憤慨していた。
 もう六十人からなる参加者は、半分になろうとしていた。
 止まらない悲劇、力になれない己の身。
 DIOのような残忍な殺戮者の思うがままだ。
『覚悟よ……お前もまた、この理不尽に対抗できずにいるのか? 口惜しや!』
 己が半身の無事を祝いつつも、覚悟の力になれないことを悔やむ。
 しかし、零にとって朗報もある。
『葉隠散……現人鬼も堕ちたか!』
 覚悟の兄、葉隠散。彼が死んだのなら、最早彼によって犠牲が生まれることはなくなる。
 そのことについては零はよかったと思っている。
 そして……
『刃牙……すまぬ。我々の力が足りぬために……』
 放送で呼ばれた、範馬刃牙。DIOのために戦う彼を見なくて良かったとホッとすると同時に、彼の死を悼む。
 範馬刃牙には夢があった。世界最強を目指し、父親を越えること。
 まさに、男子の本懐。男子の宿命。
 その夢を叶えることなく、刃牙は逝ってしまった。
 しかも、その夢をDIOという悪に汚されて。
 零は無力感に無い歯を噛み締める。後悔と共にもれるのは死者の唸り。零の泣き声。
 後悔と共に、誰の力にもなれないことを猛省する零の視界に、自動ドアを潜り抜ける影が入った。

 零はZXが周りを見渡す気配を感じた。しばらくして、受付のカウンターの傍に放置されていた己へと近付く影がある。
 零の予測どおり、ZXが倒れたままのカバンを拾い上げた。
『良、よくぞ無事で戻ってきた』
「お前に頼みがある」
 無事を祝う強化外骨格に構わず、ZXは協力を要請する。
 表情はないが、訝しげな雰囲気をだす零へとZXは構わず言葉を続けた。
「放送は聞いたな。散が死んだ。あいつの死体を捜すのを協力してくれ」
『探してどうしようというのだ?』
「どうする……か。決まっている」
 僅かだが、ZXの語尾が上がる。その様子から、零はZXが怒りを持ったことを悟った。
「散を殺した奴を俺の手で殺す!」
 バキッと、彼の握ったカウンターにひびが入って砕ける。
 変身が解けた村雨の眼には明らかな怒りが浮かんでいた。
 零は驚く。感情をもたなかった村雨の瞳に、感情が宿り始めていることに。
『当てはあるのか!』
「俺と散は各施設を探索する約束だった。散は西側で施設を探索するといっていた。
俺はここから南下しながら、西側をしらみつぶしに探す。零、キサマの探知能力を俺に貸せ」
 否定は許さないと無言で告げる村雨。零は数秒の沈黙の後、重い口を開いた。
『いいだろう。我々が出す条件を呑むのなら、力を貸そう!』
「何だ?」
『散の死の真相を知った後、DIOを倒してくれ! 刃牙の仇を我々の代わりに討ってくれ!! 頼む、良!!』
「ああ、構わない。俺に散の死の真相を教えてくれるならな」
 そう呟き、村雨はクルーザーに零を固定して、エンジンを吹かす。多少こげているが、本来の持ち主と同じく頑丈さが売りである。
 夜の街に響く排気音。コンクリートに舗装された街の中を、突き進む。
 ハンドルグリップを握り、バイクを加速させ続ける。
 最高時速700キロを誇るクルーザーの白い車体が闇夜に輝いて踊る。
 村雨は、痛みに続いて怒りをも散より受け取った。


 ガモンを撃退した身体を引きずり、ハヤテは体育館を抜け突如消えたガモンを探す。ナギのために。
 彼女を生かすために、この殺し合いに乗った参加者は見逃すわけにはいかない。
 ハヤテの右手は震えている。
 ガモンは強大だ。人の頭を軽く潰すピーキーガリバーの打撃を受けても倒せなかった。
 そして、使いどころの難しいが、トリッキーな戦闘が可能となるスタンド『オー! ロンサム・ミー』。
 スタンドの凄さは承太郎、そして彼の主であるナギ、そして先ほどの戦闘で己自身から学んでいた。
(勝てるのか? いや……勝たなくちゃいけない! お嬢様を生き残らせて、主催者を倒して、ここから脱出するのがマリアさんの望みのはずだから。
マリアさん、見ていてください。必ず、僕がヒナギクさんやお嬢様をここから脱出させます。僕の命に代えても!!)
 先ほどの放送を思い出しながら、ハヤテは決意をマリアに告げる。
 放送を聞いたとき、知っていたとはいえ、覚悟していたとはいえ、マリアの死はハヤテの胸を確かに抉った。
 マリアを頼っていたナギがどれほど悲しむのか想像して、傍にいてやれない辛さに唇を噛んだ。
 それでも、ハヤテは前に進む。僅かとはいえ、休息は取った。
 ナギや、放送で安否を確認したヒナギクを守るため、前に進む。
 ヒナギクの無事を知った彼は静かに泣いた。誰にも見られたくない姿だったが、それでも泣いた。
 無事でいてくれて嬉しい。ただ、ひたすらにそう思った。
 今のハヤテの眼は赤く、明らかに泣きはらしたことを示していた。
 なのに、その顔は凛々しく、女顔であることも忘れさせるほどに決意と覚悟に満ちていた。

 ハヤテが街灯を頼りに夜道を歩く。
 地図とコンパスを片手にどうにか、ナギと合流しないように、逃げるように南へと歩く。
 地図をデイバックに収め、深く、深くため息を吐き顔を俯かせる。
 今後、ナギと再会した時の気の重さがハヤテにのしかかる。
 理由はどうあれ、ハヤテはナギの目の前で人を殺した。
 あわせる顔などとっくの昔になくしている。またも手が震えるが、今度は罪悪感によって震えているのだ。
 先ほどの激闘のときや、放送ために緊張していたときと違って、今のハヤテには若干余裕がある。
 そして、一人であることがハヤテの思考回路を袋小路へと追い込んだのだ。
 ブロック塀に右手を突き、こみ上げる吐き気をハヤテは辛うじて飲み込む。
 再び歩みを進めようとしたハヤテの耳に、バイクの排気音が轟いた。
「こんな殺し合いで目立つような真似を……」
 呟きながら振り返るハヤテの脳裏に、バイクの持ち主が殺し合いに乗っているのでは?という疑問が浮かぶ。
 もしそうならば、止めなければならない。最悪、殺してでも。
 でなければ、ナギやヒナギクが危ない。ハヤテは己の心を痛めながら、バイクの持ち主が殺し合いに乗っていないことを祈って近付いた。
「お前に聞きたいことがある」
 ハヤテが声をかける前に、バイクの持ち主が先に声をかけてきた。
 ハヤテは警戒したまま、核鉄をポケットの中に潜ませながらいつもの調子で返そうとする。
 しかし、バイクの持ち主はせっかちな人柄らしく、それよりも早く話しかけてくる。
「葉隠散……そう名乗る人物の末路を知らないか?」
 その答えを聞いた瞬間、ハヤテから緊張が開放される。
 葉隠散、今回の放送で呼ばれた人物。自分以外の人間の死を気に懸けている。
 なら、バイクの持ち主は殺し合いに乗っていない。ハヤテはカン違いではあったが、異常なストレスから逃れたいこともあってそう判断した。
 人を殺さなくていい。
 殺し合いに乗った殺戮者に遭遇しなくていい。
 その二重の意味でハヤテは安心できた。
(良かった……本当に……)
 まるで糸の切れたマリオネットのようにハヤテは地面に倒れ伏す。
 誰かが呼ぶ声が鼓膜に響くが、構わずにハヤテの視界が暗転する。
 ドサッと倒れる音が、まるで他人が発した音のように聞こえた。


『良、少年の手当てをするのだ』
「断る。俺にそんな暇は……」
『だが、散の末路を知るには情報が無い。貴重な情報源を放って置くのか?』
「……まあいいだろう」
 零の屁理屈に、村雨はあっさりと従う。そのことに零はホッとしながら、この少年が散と関わり無いことを祈る。
 零にとって散は見過ごせぬ『悪』だ。
 村雨を始め、多くの者を惹きつけるカリスマがあることは認める。
 だが、父親に手をかけ、人類抹殺を狙う散は、零と覚悟にとっては悪以外何者でもない。
 ゆえに、散を倒した者は正義感溢れる者か、散を凌駕する悪のどちらかである。
 この少年はどちらかというと、前者に近い。散を倒すほどの力を持っているかは怪しいが、散を倒した者の知り合いである可能性もある。
 もし、前者であることが分かれば、散の死の真相は村雨に伏せるつもりである。
 零は村雨に期待をしているのだ。溢れる身体能力、改造された身は強化外骨格に匹敵する頑強さを誇る。
 村雨が正義に目覚めれば、この上ない味方になる。しかし、散を殺したのが前者であれば、村雨は堕ちる。
 真実を知らぬのもまた、幸せであることを零は理解している。
 逆に後者なら、零にチャンスが訪れる。
 村雨の様子からすれば、たとえ強大な悪だと分かっていても倒そうとするはずだ。
 同時に、それは村雨の意識を正義に向ける最大のチャンス。
 散が居らず、自分が居て、悪がいる。
 多少狡賢い行為だが、零は村雨のことを思ってそう判断した。
 今の村雨には己が無い。だからこそ精神的に不安定で、身体能力の劣るパピヨンに手玉に取られる形となった。
 その不安定さゆえに、殺し合いに躊躇せず乗る。
 悔しいことに、零に村雨の記憶を与えてやることは出来ない。
 なら、せめて……
(良、我々はお前に未来を与えてやりたいのだ。我々のような存在に、死人のような存在になるには若すぎる)
 村雨のために祈り、零は夢想する。
 正義の徒となり、悪に立ち向かう村雨の姿を。
 零の脳内の村雨の眼は、活き活きと輝いていた。


 水が落ちる音を耳に、ハヤテは自身の眉を顰め、首を左右に数回振る。
 ぼんやりとした視界に毛布が映り、頭がはっきりしないまま周囲を見回す。
 一般的な一戸建て内のリビングのソファーに寝かされているらしい。
 ハヤテは数秒ほどボーっとしていたが、すぐにここが殺し合いの場であることを思い出し、時計を取り出す。
 時間は十分進んだか、進んでいないかだ。ホッとしながら時計を収め、自分が気を失う前に出会った人を思い出す。
「そういえば……あの人は……?」
「眼を覚ましたか」
「うわっ!」
 ぬっと背後に現れ、急に声をかけられてハヤテは思わず飛び上がる。
 ハヤテが振り向くと、長身に鍛え抜かれた身体を黒いスーツに身を包む男が立っていた。
 彼はパーマがかかった黒髪に、無機質な瞳でハヤテを射抜き、多少居心地が悪くなる。
 しかし、手当てがされた身体を見るからに、悪い人間ではないとハヤテは判断した。
「すいません。助けてもらっておいて驚くなんて、失礼でした」
「気にするな。それに、俺の意思ではない」
「え?」
『少年よ、あの場で倒れるほどのストレスとは、いったい何があった?』
「カ、カバンが喋った……?」
 村雨の持つ黒いカバンより声が発せられて、ハヤテは戸惑う。
 平然としている村雨の態度を見て、おかしいのは自分だろうかと間違った認識を持ち始める。
(いったい何なんだろう、あのカバン。介護ロボのように高性能AIが積んであるカバンとか?
けど、カバンにつけていったい何の意味が?)
 ハヤテの疑問が明後日に飛んでいるとき、無表情なままで村雨が問い始める。
「お前に聞きたいことがある」
「……やはり、AIBOのように愛玩カバンとか……って、ハイ!? すいません、またボーっとしちゃって。
あの……僕が気絶する前に聞いた、葉隠散さんのことですか?」
「ああ」
「すいません、ご存じないです。散さんと会ったことはありません」
「……そうか」
 無表情な村雨の顔に、僅かに混じる落胆の色。
 その表情を見て、ハヤテは思う。
(この人、散さんという方が本当に大切だったんだな……)
 彼の表情がマリアを失った自分の表情と重なる。
 涙や鼻水で見っとも無くなった自分の顔と比べるのは失礼な気がするが、それでも村雨の僅かな変化は、ハヤテにとって悲しみを感じるには充分であった。
「大切な方だったんですか?」
「散は……記憶のない俺に、痛みすら忘れた俺に、痛みを思い出させてくれた」
「記憶喪失なんですか?」
 無言で肯定する村雨を前に、ハヤテは立ち上がってにっこり笑う。
 痛みをこらえるような、痛々しい笑みであった。
「だから、記憶をくれた散さんが大切だったんですか。あの雪の日に僕を助けてくれた恩人の一人、マリアさんを失った僕のように……」
「大切……? そうか、そうだな」
 ハヤテの言葉に、村雨は戸惑う。しかし、それも数秒のみ。
 やがて、納得したように一人呟く。
「俺は散に惹かれていたんだな」
 静かに響く村雨の声を耳にして、ハヤテの瞳に涙がたまる。
 自分と同じ立場の人間が居る。その事実にホッとしたわけでも、同情したわけでも、己の身を哀れんだわけでもない。
 なぜ涙が流れるのか、自分でも不思議に思う。一人でないことに安心しただけなのかもしれない。
 人前であるため乱暴に腕で涙を拭い、不思議なものを見たという顔をしている村雨に無理矢理笑顔を向けた。

『そろそろ少年の名を聞かせてくれぬか?』
「あ、うっかりしていました。僕は綾崎ハヤテと申します。三千院家の執事を……」
 やっていると、言おうとしてハヤテは言葉に詰まる。
 彼の脳裏に、三千院家の執事にふさわしいか?という疑問が浮かび上がったのだ。
 頭を振って疑問を吹き飛ばし、もう一度告げる。
「三千院家の執事をやっています」
『了解した。我々は強化外骨格「零」! ハヤテ、よろしく頼む』
「村雨良だ」
「ハイ。村雨さん、零さん」
 握手をしようとハヤテは村雨に手を差し出すが、村雨は冷めた目つきで見るだけだ。
 所在なさげに出した手を虚しく突き出すハヤテに零が助け舟を出す。
『良、ハヤテの手を握り返すのだ。それが『握手』というものだ』
「『握手』か。握り返せばよかったんだな」
 村雨はハヤテの手を握り返す。嫌われたわけでないと分かったハヤテはホッとしながら、村雨がほとんど手に力を入れていないのに気づく。
 不思議に思うハヤテは知らないことだが、改造人間である村雨が手に力を入れると、悲惨なことになるため村雨が加減したのだ。
「村雨さん。僕からも聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
 ハヤテの言葉に村雨は続きを促す。
 自分が対峙した相手、ガモンの不気味な表情を思い出し、身体が震えるが、唾を飲み込んで村雨の顔を正面から見据えた。
「暗闇の使い……ガモンという方の名を知っていますか?」
「いや、知らない」
 そうですかと、うなだれるハヤテ。ハヤテも村雨も零も知らないことだが、もう少し未来の村雨ならガモンを知っていた。
 幸か不幸か、ガモンを知らない村雨には覚えがないと答えるほかに無かった。
 めげずに顔を上げて、ハヤテはもう一つ気になることを尋ねようとする。
(あの時……ガモンともう一人の人? というか白い化け物がいっていたBADAN……これについて、村雨さんに確認しなくては。
ガモンという人は名簿には乗っていなかった。もしかしたら、あの光成と言う人の仲間かも……)
 自分の考察も含め、村雨に問おうとした時、ピンポーン♪となる。
 誰か訪ねてきたのだろう。一瞬殺戮者が来たのだろうか?と思うが、助けを求めに来た人だと大変だ。
「村雨さん、零さん、あの光成さんについて僕から話したいことがあります。
その前に、ここに来た人を確認しに行きますので、二人はここで待っていてください。」
 ハヤテは村雨と零に一言断り、玄関に向かう。
 どうにか殺し合いに乗った人じゃありませんようにと祈りながら、歩みを進めた。


 離れていくハヤテを見送り、村雨は零を取る。
「零、ハヤテが戻ってきたら散の死体の探索を続けるぞ」
『ハヤテはどうするのだ?』
「別れる。それで問題があるのか?」
『ハヤテのような少年を一人にするなど、見殺しにしたも同然だぞ、良。
頼む、散の探索には引き続き協力する。だからハヤテも守ってはくれぬか?』
 取引はDIOの件だけだと冷たく告げようとして、村雨の言葉が詰まる。
 村雨にハヤテの言葉がなぜかこびりつく。

 ―― だから、記憶をくれた散さんが大切だったんですか。

 おそらく、ハヤテにそう言ってもらわねば、散に拘る理由も村雨は理解できなかっただろう。
 彼のおかげで自分の新しい面を知れた。その事実が、村雨にハヤテを見捨てることを躊躇わせる。
(いったい俺は何を考えている?)
 村雨が思い出すのは、泣きはらす女の幻影。
 泣いている姿しか見たことが無い。しかし、ハヤテを助ければ、あの女は笑ってくれるだろうか?
 村雨には確かめる術など無い。
 ソファーに身体を預けようとした瞬間、村雨の身体に怖気が走る。
 このプレッシャーは玄関、ハヤテが向かった方向だ。零も何かを感じ取っているらしく、無言で通じた二人は廊下へと躍り出る。
 玄関へと目を向けると、ハヤテと少女が佇んでいる。
『ハヤテ! 離れるのだ! そやつは人間ではない!!』
 零の叫びとともに、村雨は地面を強く蹴った。


 ハヤテは玄関に辿り着くと、まずは外の様子を窺う。
 ドアの隙間から見えるのは、コートを羽織る、黒い長髪の幼い少女が居た。
 外見からはとても殺し合いに乗っているようには見えない。
 顔は多少、険がキツイというか、気の強そうではあったが。
 安心してドアを開けると、少女はにっこりと笑う。その背後には、エンジンを吹かしたままの自動車があった。
 彼女が乗ってきたのだろうか? いや、まさかと思い、話しかける。
「お嬢さん、どうしましたか? 一人で居ると危ないですよ」
 ハヤテが話しかけても、眼前の少女は笑みを深めるだけだ。
 連れの人間が居ないか、ハヤテが視線を移動させた瞬間、背筋に悪寒が走る。
 どこにいるのか悪寒の元を探すが、人の気配は目の前の少女以外感じない。
(何……だ? これは……?)
 ガチガチと歯がかみ合う音が大きく聞こえる。
 蛇に睨まれた蛙のように身動きの取れないハヤテへと、背後から声がかかる。
『ハヤテ! 離れるのだ! そやつは人間ではない!!』
 零の声とともに、ハヤテの身体が後ろへと引っ張られた。
 同時に、少女の腕が玄関の床を砕く。
 周囲の壁と床にひびが入り、民家が音をたてて崩れ始めた。



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