たとえば苦しい今日だとしても ◆1qmjaShGfE



一階の居間は畳敷きになっており、十畳程のその部屋の中央には長方形の大きな木の座卓が置かれていた。
その床の間に飾られている掛け軸と大きな壺が、和で統一されたこの部屋の雰囲気を更に引き立てている。
サッシ窓はこれから始る放送を聞き逃すまいと、大きく開かれている。
座卓の前に座るは葉隠覚悟、川田章吾、柊つかさ、桂ヒナギクの四人。
各人の前に置かれた湯呑みには熱いお茶が注がれている。
座布団をしいたそこに座っている四人は、それぞれがその性格に合わせた座り方をしていた。
「……なあ、葉隠。別に正座して待つ事は無いと思うんだが」
川田が苦笑しながらそんな事を言うが、覚悟は不思議そうに川田に問い返す。
「何か問題でもあるか? ならば座り方を変えるが」
ヒナギクも呆れた様子だ。
「葉隠君らしいといえばらしいけどね。その教科書に載せたくなるぐらい理想的な正座姿とか」
つかさは羨ましそうに覚悟を見ている。
「すごいね覚悟君、私だとどうしても背筋がぐにーって曲がっちゃうからそんなかっこよくは座れないよ」
そんな事を言いながら、つかさは覚悟の真似して正座をしてみるが、無理して背筋を伸ばしているので見ていて何かバランスが悪い。
ヒナギクも一緒になって正座をしてみる。
「私剣道やってるから結構出来てると思うわよ」
自分で言う通りヒナギクの正座姿は、その端正な容姿、美しく背中にかかる長髪も相まって、見ている三人が驚くぐらい清楚な雰囲気を醸し出している。
三人は口々にその姿勢を褒め、ヒナギクも満更ではない模様。
「ありがと。でもそれよりも私、川田君のあぐら姿の方がよく似合ってると思うわよ」
覚悟、つかさの目が同時に川田に向く。
学ランの前をはだけ、Tシャツがむき出しになっているが、それ一枚ではその下の筋肉を隠しきれず、
胸部を中心にTシャツを引っ張りながら大きく盛り上がっている。
また極端に短く刈り上げた髪、顔の数箇所に刻まれた傷跡、
無精髭といった男らしさを主張する顔のパーツの多くがあぐらをかくという鷹揚な座り方に驚く程マッチしている。
何やら深く納得するものがあるのか、大きく頷くつかさ。
「……確かに。川田君これ以外無いって座り方だよね」
その言葉が少し気に障ったらしく、川田は腰をあげる。
「よし見てろよつかささん」
改めて座りなおす川田。
その正座姿は覚悟やヒナギクに勝るとも劣らない、見事な正座姿であった。
つかさ、ヒナギクは同時に声をあげた。
『……修行僧だ』
印象が一緒だったのが嬉しかったのか、二人は顔を見合わせて笑う。
「そうそう、山奥で拳法の修行とかしてる感じだよね」
「囲炉裏とかを前にお酒がぶがぶ飲んでる破戒僧ってイメージよね」
女性陣の言いたい放題に川田は肩をすくめる。
「何とでも言ってくれ」
すぐに足を崩しながら、テーブルの上に載せていた灰皿を側に引き寄せ、タバコに火をつける。
それを見たつかさ、ヒナギクは嬉しそうにまた声をあげる。
『やっぱり破戒僧!』
とても吸いずらくなった所に二人の追い討ちが重なる。
「でも川田君、タバコは体に悪いよ」
「そうよ、まだ未成年なんだからタバコなんて吸っちゃダメよ」
渋い顔になって、灰皿にすぐタバコを押し付ける。
それを見て二人は満足したのか、さっきの話の続きを始める。
それがあまりに楽しそうなので、文句を言う気も失せてしまった川田であった。
とりあえず賑やかに騒いでる二人を放っといて隣の覚悟に声をかける。
「お前の正座の話から始まってこっちは散々だ」
覚悟は彼にしては珍しく愉快そうに笑う。
「なら、私も姿勢を崩すとしよう」
川田に合わせてあぐらをかく覚悟。
こういったその場のノリ等と疎遠であるイメージがあったため、この不意打ちには少し驚く川田。
「ははっ、そいつも案外似合ってるぜ葉隠。次は足でも伸ばしてみろよ、お前のだらしない格好ってのも滅多に見れそうにないから……」
そんな川田の冗談をつかさが控えめに遮る。
「だったら、私体育座りとか見てみたいかな。可愛くていいと思うんだけど」
いきなりの無茶な注文にヒナギクが噴き出す。どうやら二人は男二人がどんな座り方したら楽しいか相談していたらしい。
調子に乗る二人に、川田はそろそろ止め時かと考える。それに覚悟だと、そもそも体育座りを知らない可能性すらある。
「おいおい……」
「了解した」
「やるのか!?」
驚く川田を他所に、足を横に向けると、両足をまっすぐに伸ばして揃え、そこから両膝を曲げる。
その上で両手を膝の上に乗せて組む。背筋はまっすぐに伸ばしたままだが、それを不自然と感じない清廉さが覚悟にはあった。
だが、そんな美しい体育座りに演技指導が付く。
「葉隠君、そこでもうちょっと腰曲げて……そう、膝の上に顎乗せちゃって。片足は伸ばした方がいいわね~」
「首は横に寝かせた方がいいかも。それと、もうちょっとこう、やる気無いー、寒いーとかそんな感じが……」
グラビア撮影か何かと化してきているこの惨状を、川田は武士の情けで見なかった事にしてやるべく、
覚悟から視線を逸らしてお茶を手にするが、それを当の覚悟が邪魔しにくる。
「……もしかして私は変な格好をしていないか? 川田、少し見てくれ」
覚悟の隣に座っている川田とは反対方向に足を伸ばしているので、川田からは覚悟がどんなザマになっているのか良く見えない。
なので覚悟は、ヒナギク、つかさの注文どおりの格好でふいっと両足を宙に持ち上げると、
見事なバランス感覚でお尻を基点にくるっと回転して川田の方を向いたのだ。
「ぼぶふぉっ! ごほっ……そ、それは反則だろ葉隠。なんつー捨て身なギャグを……」
盛大にお茶を噴出す川田。そして不意に静かになる女性陣。
畳に片手を付き、残った手はテーブルの上。咳き込みながら全身を小刻みに震わせるつかさ。
両手を畳につきながら、何かを堪えるようにどんどんと畳を叩き続けるヒナギク。
川田も全力で笑い出したいのを堪えつつ、覚悟に助けを請う。
「葉隠……頼むから、正座に戻ってくれ……それ、卑怯の域だ……」

行儀良さそうに並んで正座するヒナギク、つかさの二人。
あぐらをかいたままの川田は仏頂面である。
「俺もこんな事言いたくないんだがな、二人共」
ヒナギクとつかさは赤面して縮こまる。
状況も考えず、緊張感の欠片も無い有様を反省すべしとの川田の言に返す言葉も無かった。
「そりゃ陰鬱に沈んでるよりゃマシだけどよ……」
横目で覚悟の様子を見る川田。流石に気を悪くしたかと思っていたのだが、覚悟は微笑すら浮かべている。
「なんだ、何か嬉しいのか?」
川田の問いに微笑を崩さず覚悟は答えた。
「私は戦う以外に何の術も持たない。そんな私が、こんな簡単な事で彼女達を喜ばす事が出来た……少し、感動しているのだ。そうか、私のような武骨者でも出来るものなのだな……」
二人に気を遣っての事ではない、覚悟は本心からそんな事を喜んでいるようだ。
それを見た川田は、再度ヒナギク、つかさの二人をじろっと睨む。
その視線には、こんなに素直でまっすぐな覚悟をからかった事への非難が込められている。
二人共すぐにそれを察し、頭を下げた。
「ごめんね、覚悟君」
「本当ごめん葉隠君、もう二度としないから」
何故謝るのか理解出来ない覚悟に代わり、川田が大きく頷いてやる。
「よろしい」


川田が盛大に噴き出したせいで汚れた座卓をつかさが綺麗にし、ヒナギクはその間に四人にお茶を入れなおす。
各人が出会った、ないし見知っている人間に関しては、それぞれ説明済みだ。
それが誰にとっての重要人物であろうと、全員がそれを共有出来るよう準備はしてある。
川田は名簿を見ながら覚悟にその内容を確認しつつ、地図を広げている。
ここに連れて来られて既に18時間が経とうとしている。
一回目放送までの死者が8人、二回目放送までに11人。川田が前回参加したプログラムと比べると人数の変遷に違いが見られる。
少なくとも前回のプログラムまでは、最初に大きく人数が減った後、それ以上に死者の数が増える事は無かった。
(集められた人間の違いって奴か。そして今回の死者数で、二回目放送時の褒美とやらに食いつく人間がどれ程居るかわかるはずだが……)
不確定要素が多い為、必ずしも死者数が参考になるとは限らないが、一応の目安ぐらいにはなるはずだ。
川田は自分が参加したプログラムと今回のそれとの違いを考える。
死者数に大きく影響したのは、やはり最初の知識の差であろう。
川田が参加した二回のプログラムでは、参加者の全員が多かれ少なかれプログラムに関する知識を持っていた。
そういう事が起こりうる。それを知っていたし、それに逆らう事が如何に困難かも事前に知っていたのだ。
だが、今回はそもそも第一放送までに与えられた情報が首輪の事と、殺し合いをしろという命令のみ。
これでは第一回放送までに殺し合いをする人間の方がおかしい。
それでも8人の人間が死んでいるのだ。覚悟が言っていた散という人間のような、
そもそも人を殺す事を目的としているような参加者が複数居るのだろう。
ラオウという人間の事もわからない。
こんな場所に放り込まれたというのに『強い奴と戦いたい』だとか、正気を疑う。
だが、そんな奴を止める為に本郷が戦い、散っていったのも事実。それは受け止めなければならない。
川田はそこまで考えて、ため息と共に愚痴じみた言葉を漏らす。
「ダメだな。イレギュラーな要素が多すぎる」
川田が考え込んでいる間に、つかさとヒナギクは地図を見ながらこの後の移動先を相談しており、川田のぼやきを聞きとめたのは覚悟だけである。
「何か悩み事か?」
肩をすくめる川田。
「並行世界なんていわれたら、何でもありすぎて予測の立てようが無いって話さ」
手にしていたお茶を座卓に置き、覚悟が川田の言葉に答えようとしたその時、18時の放送が聞こえてきた。
まるでその声が何かのスイッチであるかのように、四人の表情が変わる。
先刻まで冗談を言い合っていたのが嘘のように、鋭い視線と険しい表情になって名簿と聞こえてくる放送に集中する。
つい昨日までは、家族や友人達と共にある事が当然であったヒナギクやつかさも、
数年間訓練を積み重ねてきた兵士のような集中力と真剣さを見せる。
少しでもみんなの足手まといにならないように、それを実践するに必要な事を彼女達なりに必死に考えてきた結果であろう。
それが、頼もしくもあり、また悲しくもあると感じる川田は、随分と七原達に影響されたものだと自嘲する。
(それでも三人に任せられない汚れ仕事はある。それをやるのが、俺の役目だ)


外から聞こえてきた放送、その内容はこの四人にとっては特に重い内容であった。
川田、つかさの二人は自らの関係者が呼ばれる事は無かった。
だが、マリアの名が呼ばれた時のヒナギクの表情の変化は劇的であった。
それでも全ての人間の名が呼ばれ、名簿に印を付け終わるまでその作業を止めなかったのは賞賛に値すると思われる。
筆を置き、無言で名簿を見下ろすヒナギクは、傍で見ていてわかる程に震えていた。
そっとその表情を伺うつかさ。
目の焦点が合っていない。
つかさは、川田に目配せする。
それを理解した川田は、彼女との役割分担を了承した。

やはり自分が当事者になると違う。
覚悟も決めていたし、いざそうなった時どう考えるべきかも頭に入れてある。
だが、こうして自分の身に降りかかってみると、それら全てが何処かへとすっ飛んでいってしまう。
色んな事柄が頭に浮かんでは、それらが脈絡も無く繋がって消えていく。
意味の無い事、ありえない事を考慮に入れ、真剣に脳内で議論する。
そしてそこから導き出される答えから生まれた、新たな疑問の解決策を見出すべく、思考にふける。
その矛盾と不毛さに気付いて前提条件を考え直すが、何処からがまともで、何処からがそうでないのか判別がつかない。

「……ナ……ちゃん」

しかし、自分でもそれと気付かない内に、確実にその思考は改善不能な陰に篭ったそれへと向かっていく。
その思考が当人にとって極めて重要であるが故、そこに没頭し、五感が知らせてくれる刺激をそれと認識出来なくなる。

「……ヒナちゃん!」

不意に聞こえてきた大声にその目を開く。
いや、目はずっと開いていた。ただ、そこから入ってくる情報に全く注意を向けて居なかっただけだ。
声の主は? 声は何処から聞こえてきた?

「ヒナちゃん!」

今度は聞こえた。右隣から、そうだ、この声はつかさだ。
そちらに目を向けると、確かにそこに居るのはつかさだと思った。
右手が汗ばんでいる事に気付き、それを拭おうと手を上げかけて止める。
自分の右手にはつかさの左手が添えられていた。
そこでようやく、自分がつかさに心配をかけている事に思い至れた。
空いている左手を開いて、つかさの前に出す。
「大丈夫。うん、大丈夫だから」
自分に言い聞かせるように繰り返す。
ああ、やっぱり大丈夫じゃない。体の震えを止めるにはもう少し時間が要る。
やはりつかさは心配そうな目でこちらを見ている。
時間稼ぎが必要だ。
「ごめんつかさ……水、もらえるかな」
つかさはこちらの様子をまじまじと見つめた後、すっと立ち上がった。
「うん、待っててね」
小走りに部屋を出るつかさを見送った後、体の中に溜まっている澱んだ何かを追い出すように、大きく息を吐き出すのだった。

つかさから合図を受けた川田が覚悟の様子を見ると、覚悟は静かに目を閉じて正座したまま、微動だにせず佇んでいる。
不純物の一切無い、透き通るような氷に身を包み、静寂の中でただ時が過ぎるのを待ち続ける彫像。
いつもの肉厚で骨太な存在感は影を潜め、空気と一体化したかのようにその場にただあり続ける。
自分を隠す事もしないが、同時に人の手が触れる事も許さない。
川田は首を横に振り、再度自分の役割を思い出す。
「……葉隠、少し表の空気吸って来い」
覚悟は表情一つ変えず、その硬質な雰囲気は崩さないままに立ち上がる。
「この後どう動くかは俺が考えておく。だから今は余計な事は考えなくていい」
言うべき事はこれで終わりだ。後は覚悟が自分で解決するだろう。
一瞬、覚悟の雰囲気が変わる。
振り返る事もしなかったが、今にも消え入りそうな声で一言。
「……すまん」
そう言い残して、覚悟は部屋を出ていった。

つかさから受け取った水を一気に飲み干す。
コップを座卓に置きながらちらりとつかさを見ると、まだ心配そうにこちらを見ている。
なので、彼女の前で笑顔で拳を握ってやる。
私はこの仲間達の為ならいつだって笑って見せてやれる。こんな所で負けてなんてやるもんか。
ちょっと笑顔が引きつってしまってるかもしれないけど、その辺は大目に見てもらうとしよう。
もう大丈夫、油断するとすぐに泣いちゃいそうだけど、それでもみんなの事考えるぐらいは……

ヒナギクは思い出す。
読み上げられた死亡者達、その面々に聞き覚えがある事。
それらの全てが、覚悟の口からもたらされた言葉である事。
敵であり兄でもある、葉隠散さん。
病院ではマリアさんや坂田銀時さんと一緒だったと聞いている。
誇らしげに志村新八さんの事を話してくれていた。
そして……ルイズさん。
覚悟は、彼等を置いてヒナギク達と一緒に来る事を選んだのだ。
ラオウを止められず、本郷さんが倒れた事を本気で悔やんでいた覚悟が、それを悔やまない訳がない。
人が喜ぶ所を、あんなにも嬉しそうに見ていられる覚悟が、彼等の死を悲しまない訳がない。
慌てて覚悟の姿を探すが、既に部屋から出ていった後だ。
「葉隠君は!?」
川田が地図から目を上げる。
「……外だ。少し一人に……」
最後まで聞かずに部屋を飛び出すヒナギク。
ヒナギクの様を見て心配気に川田を見やるつかさだったが、川田が特に焦った様子ではなかったので、自分もすぐに動くのは止める事にした。
つかさの心配も理解出来る川田は、今後の動きを考える事を一時止めにして、タバコに火を付ける。
「タフな娘だな、ヒナギクさんは」
川田の感心したような口調に、つかさは嬉しそうに頷く。
「うん、ヒナちゃんは本当に強い人だよ。私も驚いちゃった」
二人が出ていった入り口を眺める川田。
「葉隠もな。あいつ、俺が声かけるまで泣き言の一つも言いやしなかった」
覚悟の辛さを考えると胸が潰れる思いなのか、自分の胸の前で両手を握り締めるつかさ。
「……何かしてあげられる事無いかな」
目線を下に落とす川田。
「俺には一人にしてやるぐらいしか思いつかなかったな。ヒナギクさんは別のやり方を考えてるみたいだが……」
ふと気が付いてつかさを見る川田。
つかさの不安そうな表情は変わらない。
「……一応、様子は見に行っておいた方が無難だな」
下手すりゃ今の覚悟に喧嘩を売りかねんなどと、失礼極まりない事を考えながら川田もつかさを伴い部屋を出た。

ヒナギクが家の玄関を出ると、そのすぐ側に覚悟が背を向けて立っていた。
覚悟はヒナギクの気配に気付くと、いつもの真顔で振り返る。
本当にいつも通りだ、動揺の欠片もそこから見出せない。
ヒナギクは何かを考えて後を追ったのではない、ただ放っておけなかっただけだ。
言葉に詰まる。改めてこうして面と向かってみると、何を言ってやればいいものか。
「心配をかけてしまったか。すまない」
それだけを口にする覚悟。
彼は本当に強い人だから、やっぱり助けなんて必要無くて、気を使えば使う程逆にこの人の負担になってしまう。
だったら何も言わず、彼が耐えるのを見守るしかない。
耐える? そもそも彼は苦しんでいるのだろうか。
今まで厳しい生き方を自らに強いてきた彼は、私達ならば立ち直れないような痛みでも平然としていられるのではないだろうか。
彼は私達とは違う何か別の生き物、その背中は遠い地平の彼方にあって、更にその先を目指して進み続けている。
だから一時も立ち止まらない、振り返りもしない、その道行きが茨の道であろうと闇の中であろうと確固たる信念の元歩き続けられる。
今の私に出来る事は、そんな彼が少しでも歩きやすいよう道を均す程度。
それすら、彼にとっては本来必要ではないのだろう。彼は与える事はあっても、誰かを、何かを必要とする人間ではない。
そんな人間が存在出来るのか?
居る、今ここに。想像もつかない程の後悔と悲しみに苛まれているはずの彼は、それらを自分一人で抱えきって見せているではないか。
私が彼を支える必要など何処にも無い。

それでも……これは私のわがまま。私が、彼を支える何かになりたいから。

私は彼に聞いてはならない事を聞いてしまう。
それが彼を傷つけるだけだとわかっていても。
きっと彼は自分を押さえて答えてくれるだろう。
そんな彼を見た私が、どうしようもなく切なくなるのもわかっている。
それでも……

「覚悟君……」

そんな労わるような目で見ないで欲しい。今から私は貴方に残酷な問いを放つのだから。
優しい貴方は、その強さできっと私のわがまますら綺麗に包んでくれる。
でも、きっと心の底で涙を流しているのだろう。

「今、貴方は……何を想っているの」

僅かに彼の瞳が揺れた。

「……失われた命を」

それだけだ。後はそのまま、何も変わらず、私に背を向ける。
彼の大きな背中が巨大な防壁のように、私と彼との住む世界を分つ。
もう充分だ、私では彼の力にはなれない。彼と私とではその強さにおいて無限に等しい距離がある。彼の強さをきっと私は理解出来ない。

「あ……」

思わず声に出してしまった。
天まで届く勢いでそびえ立っていた防壁の音を聞いたから。
細かく揺れるその防壁はきっとそれで崩れたりはしないけど、それでも確かに、揺れていたのだ。
少しでもその揺れが収まるように伸ばした両手は、容易くその全てを包み込む。
あんなに大きく見えたその背中は、私の両手で収まる程の、そんな大きさだった。

「辛いに決まってるよね、苦しいに決まってるよね……」

すぐ側に感じる彼の震えは止まらない。

「……零式防衛術は相手を殺す技でなく己を殺す技……怒りは両足に込めて己を支える礎とせよ……」

零式防衛術の文句を呪文のように唱える覚悟。

「それでも……それでも尚っ!!」

彼の吐き出すような一言一言が、その苦悩の深さを私に教えてくれる。
彼は超人なんかじゃない。私と変わらない、いや、誰よりも優しい男の子なんだ。

「みんな大切な人だったんだよね」
「必ず守ると誓った! 俺の零式防衛術はその為にある! だというのに……悪鬼も倒せず、牙持たぬ人も守れず……俺を呼んでくれたのに……その声が聞こえたというのに!」

より強く抱きしめる。そうすれば彼の苦しみを少しでも自分と分かち合えるような気がして。

「きっと、みんなも覚悟君の事が大好きだったわよ」

遂に覚悟の目から涙が零れだす。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

荒れ狂う嵐をその懐にて受け入れる大海原のように、彼を受け止めてあげよう。
きっと彼は立ち直る。でも、その時すぐ側に居るのが自分であるように。
優しい彼が戻る先、その目印になれるよう精一杯優しく、彼を待っていてあげよう。
そうする理由なんてわからない。ただ私がそうしてあげたいだけなんだから。


覚悟が落ち着きを取り戻し、何時の間にか覚悟とヒナギクの様子を見守っていた川田、つかさの二人も一緒になる。
川田は既に行動指針をまとめており、それに従って総合スーパーではなく病院へと進路を変える。
覚悟が病院を離れてから約六時間が経過している。
しかし、新八も被害にあっている事から、実際に病院に襲撃等の問題が起こったのは新八と別れて以後である公算が高い。
ならばそれはここ数時間の話だ。
それから今までの間、生存者であるコナン、吉良の二人は何処かしらで救援を待っている可能性がある。
それと、これを川田は口にはしなかったが、病院が襲撃されていた場合犯人は十中八九ラオウであると考えていた。
あの時点でラオウは怪我を負っている。ならばその移動先として病院が挙がるのは至極当然の事である。
これ以上奴を暴れさせては、脱出の為に必要な戦力を、主催者を叩きのめすのに必要な人員を失う事になる。
既に半数が脱落しているのだ、これ以上の損失は受け入れられない。
前回とは違い、確たる脱出のプランは無いのだ。ならば協力出来る人数は多いに越した事は無い。
(奴と出会う前に、同じ目的を持った連中と合流出来ればよし。それが出来なければ……)
一人密かに覚悟を決める川田。
そんな川田の決意を込めた瞳を見て、つかさは何かを察する所があったようだが、口に出しては何も言わなかった。
進むべき道を説明する川田とそれを聞くつかさ、覚悟から少し離れた場所にヒナギクは居た。
(なんで私はあんな恥ずかしい真似をっ!!)
顔中真っ赤にしながら隅っこの方で悶えるヒナギク。
(だ、大体あれは覚悟君が……その……勢いというか……なんというか……)
その動きを不審に思った覚悟がヒナギクに声をかける。
「どうされた桂さん?」
何度言われても直る気配すら無い、その至近距離からの問いかけ。
「っきゃあああああああああああああああ!!」
回数を重ね慣れてきても不思議ではないのだが、ここに来て今までで一番のリアクション、物凄い悲鳴をあげながら後ずさるヒナギク。
最早茹で上がらんばかりの顔に、流石の覚悟も怪訝そうな顔になる。
「顔が赤いようだが、もしかして調子が悪い……」
「ぜんっ! ぜんそんな事無いわよっ! さっさと行くわよ!」
急に怒り出したヒナギクに覚悟は首をかしげる。
川田とつかさはそんな微笑ましい二人を見て笑う。

(零よ、やはり女人は謎だが……)

「ほら! 何やってんのよ覚悟君!」
「わ、わかった桂さ……」
ヒナギクは手を上げて覚悟の言葉を遮る。
「ヒナギク、よ」
そこにどんな差があるのかは良くわからないが、とりあえず逆らう理由も無い。
「ヒナギクさん」
「うん!」
失った命を思わせるヒナギクの満開の笑み。それは、覚悟の胸に少しの棘と無類の勇気を与えてくれる。

(こうして笑っているのが一番良い)

兄、散よ。貴方程の猛者を倒しうる者が居る事、いまだに信じられません。
しかし、貴方は間違いなくその力の全てを出し切り、命尽きるその時まで戦い抜いたと愚弟は確信しております。
ならばそれは武門の誉れ。この覚悟、涙でなく賛辞を持って貴方を送りたいと思います。
戦士新八、マリアさん、坂田さん達を守りきれなかった事、さぞや無念であったろう。
お前の思い、仲間の証と共に確かに俺が受け継ごう。俺とお前は、永遠に仲間だ。
そして……ルイズさん。
いまだ未熟のこの身なれば、貴女を思うたびこの胸が張り裂けんばかりです。
貴女の死を受け入れられるまでしばしの時を要すでしょうが、どうかそれまでこの未熟者の哀れな想いをお許し下さい。

両の足に悲しみと怒りを込め歩く力と為す。
その背には守るべきかけがえの無い仲間達の想いを。
ならばその身は既に不退転。
悪鬼を討つに、悲しき魂を守るに何の不足があろうか。
川田よ、お前の内なる思い、しかと受け取った。

戦鬼ラオウはこの葉隠覚悟が討ち果たす!

【E-5 中央部 1日目 夜】

【葉隠覚悟@覚悟のススメ】
[状態]:全身に火傷(治療済み) 胴体部分に銃撃によるダメージ(治療済み) 頭部にダメージ、両腕の骨にひびあり、 強い決意
[装備]:滝のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS(ヘルメットは破壊、背中部分に亀裂あり)
[道具]:ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾、残弾5発、劣化ウラン弾、残弾6発)@HELLSING 大阪名物ハリセンちょっぷ
[思考]
基本:牙無き人の剣となる。この戦いの首謀者を必ず倒し、彼らの持つ強化外骨格を破壊する。
1:川田、ヒナギク、つかさと行動を共にし病院に戻る。
2:病院に残った人々が気になる。
3:杉村を弔う。
4:再びラオウと会い、決着をつける
[備考]原作一巻第一話、逆十時学園入学初日より参戦
※決意が強まりました、殺し合いに乗った者が戦士であるならば容赦はしません。
※戦士でないと判断した者(一般人の女性や子供など)に対しては決して抵抗せず、 説得を試みます。
※戦士であるかどうかの判断は次の書き手さんにお任せします。


【川田章吾@BATTLE ROYALE】
[状態] 健康
[装備] マイクロウージー(9ミリパラベラム弾16/32)、予備マガジン5、ジッポーライター、バードコール@BATTLE ROYALE
[道具] 支給品一式×2、チョココロネ(残り5つ)@らき☆すた
    文化包丁、救急箱、ZXのメモリーキューブ@仮面ライダーSPIRITS、裁縫道具(針や糸など)
    ツールセット、ステンレス製の鍋、ガスコンロ、缶詰やレトルトといった食料品。
    薬局で手に入れた薬(救急箱に入っていない物を補充&予備)
    マイルドセブン(四本消費) ツールナイフ
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームに乗っていない参加者を一人でも多く救出し、最後は主催者にカウンターパンチ
1:病院へ戻り生存者(コナン、吉良)の救出
2:仲間と一緒にPCと村雨を探す。PCが見つかったら、ハッキングを試みる。
386 名前: たとえば苦しい今日だとしても ◆1qmjaShGfE [sage] 投稿日: 08/01/11 20:11 ID:eF3orquc
3:つかさの姉や友人、ヒナギクの友人を探すのに協力する。
4:ゲームに乗っている参加者と遭遇した場合は容赦なく殺す
5:ヒナギクのことが心配
参戦時期:原作で死亡した直後
[備考]
※桐山や杉村たちも自分と同じく原作世界死後からの参戦だと思っています
※首輪は川田が以前解除したものとは別のものです


【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態] 両足に痛み(核鉄で治療中)
[装備] ボウガン@北斗の拳
[道具] 支給品一式。ボウガンの矢18@北斗の拳 、核鉄(バルキリースカート)@武装錬金
[思考・状況]
基本:ハヤテ達との合流
1:病院へ戻り生存者(コナン、吉良)の救出
2:仲間と一緒にPCと村雨を探す。
3:やれることを探してやる。だが無理はしない。
4:敵を倒す為なら死んでもいい。
[備考]
※ ヒナギクが聞いた轟音の正体は、三影の大砲の音です
※参戦時期はサンデーコミックス9巻の最終話からです
※桂ヒナギクのデイパック(不明支給品1~3品)は【H-4 林】のどこかに落ちています
※ロードローラー@ジョジョの奇妙な冒険と捕獲網@グラップラー刃牙は【H-4 林】に落ちています
※核鉄に治癒効果があることは覚悟から聞きました
※バルキリースカートが扱えるようになりました。しかし精密かつ高速な動きは出来ません。
 空中から地上に叩きつける戦い方をするつもりですが、足にかなりの負担がかかります。

【柊つかさ@らき☆すた】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 支給品一式、ホーリーの制服@スクライド、ターボエンジン付きスケボー @名探偵コナン 、ツールナイフ
[思考・状況]
基本:ゲームには絶対に乗らない
1:病院へ戻り生存者(コナン、吉良)の救出
2:仲間と一緒にPCと村雨を探す。
3:お姉ちゃんやこなちゃんたちと合流したい
4:みんなの力になりたい。でも無理はしない
[備考]
※川田、ヒナギク、覚悟、新八を完全に信用しています

【備考】
※4人は、病院に生存者(コナン、吉良)を救出に向かい、その後総合スーパーで捜索を行う予定です

※4人の主催者の目的に関する考察

主催者の目的は、
①殺し合いで何らかの「経験」をした魂の収集、
②最強の人間の選発、
の両方が目的。
強化外骨格は魂を一時的に保管しておくために用意された。
強化外骨格が零や霞と同じ作りならば、魂を込めても機能しない。

※4人の首輪に関する考察及び知識

首輪には発信機と盗聴器が取り付けられている。
首輪には、魔法などでも解除できないように仕掛けがなされている


174:Double-Action ZX-Hayate form 投下順 176:波紋の記憶
174:Double-Action ZX-Hayate form 時系列順 176:波紋の記憶
166:スカイハイ 葉隠覚悟 185:誰がために
166:スカイハイ 川田章吾 185:誰がために
166:スカイハイ 桂ヒナギク 185:誰がために
166:スカイハイ 柊つかさ 185:誰がために