誰がために(中編)

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mangaroyale

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誰がために(中編) ◆wivGPSoRoE




「何で音がしなくなったのかしら……?」
 バルキリースカートを装着したヒナギクが、押し殺した声で呻く。
「さあな……。一発でカタがついたのか、何か他に理由があるのか……。
この時間帯まで生き残ってる人間が易々とやられるわけはないかあ、不自然だと言いたいがな……
そうとも言い切れねえ」
 仮にラオウと張り合えるくらいの人間と自分が出合った場合、それこそ瞬殺されてしまう。
 川田は顔をしかめた。
 ラオウと同レベルの人間などそうはいないといいたいところだが、
 とりあえず目の前に1人いる。本郷も入れて、知っているだけでも2人。

 ――2人もいる。

 このゲームの目的が「殺し合い」である以上、
 ラオウと同レベルの人間が複数いる可能性は、高いといえた。
「狙いが私達って線は?」
「それもありえるな、音に釣られて地上に出てきたところを、狙うつもりかもしれねえ」
 小声でヒナギクと言葉を交えながら、川田は覚悟の顔をうかがった。
 覚悟の鋼鉄そのものといった表情からは、その感情はうかがいしれなかった。
 だがしかし――
(そんなに長い付き合いじゃないが、
お前の考えそうなことは、分かるつもりだぜ、葉隠)
 川田は、ヒナギクに目配せした。
 同意見だったらしく、ヒナギクは苦笑じみたものを浮かべて頷き返し、
「覚悟君、行って! 牙無き人を守るための零式防衛術、でしょ?」
 小さな、だがハッキリとした声で告げた。
「しかし……」
 悪鬼に襲われている人間がいるなら助けたい。だが助けに行けば、ヒナギク達を守れない。
 覚悟は葛藤する。
 今度は川田が口を開いた。
「葉隠。どっちみち、こうやってても埒があかねえ。
音を出した奴の目的が襲撃なら、どっちみち出て行くしかないんだ。
危ない橋を1人で渡ってくれと言ってるようで、気が引けるが……。頼めるか?」
「こちらの戦力を分断する戦術かもしれぬ」
「地下鉄でそれをやる可能性は低いだろうぜ。
線路を渡ってる最中に電車が来たら逃げ場がない。入り口は実質的に一つだ。
それにな――」
 川田は唇を吊り上げた。
「あんまり舐めてくれるなよ。俺達を分断しなきゃならないと考える程度の奴なら、
お前が戻ってくるまでの間、持ちこたえてみせる」
 しばしの沈黙の後、
「了解した」
 歩きながら覚悟がいう。
 その横にヒナギクが並ぶ。
「ヒナギクさん!」
 川田が制止をかける。
「ごめんなさい、聞けないわ!」
 決意を込めた、凛とした返答。
 込められた決意の量に、川田は沈黙に追い込まれた。

 ――止められん。

 と、その時――
「ヒナちゃん!」
 つかさが走った。
「わっ!」
 つかさに後ろから抱きつかれ、ヒナギクはわずかによろめく。
 口を開こうとするヒナギクに先んじて、つかさは言った。
「止めたりしないよ……。
でもね……。私、待ってるから。
ヒナちゃんが帰ってくるのを、ちゃんと、待ってるから。
川田君も。それにヒナちゃんのお父さんとか、お母さんとか、お姉さんとか、友達とか、
きっとみんな……。ヒナちゃんのこと待ってるよ。
私も、みんなも、ヒナちゃんのこと、大好きだから」
 限りない思いが込められた、友の言葉。
「ありがとう……つかさ」

 ――心が、満たされていく。

 体が軽い。欠けていたものが埋まった気がする。
 今なら――どれだけでも高く飛べる気がする。夕方、イメージしたよりも遥かに高く。
「じゃあ、行ってくるわね!」
 ヒナギクの言葉と同時に覚悟が駆け、ヒナギクはその背を追った。


 ――来た!

 その瞬間、心臓が跳ね上がるのを三村は感じた。
 男が一人飛び出してくる。例の、正義感の強い、爺さんに食って掛かった男だ
 男が油断なく周囲を索敵している。

 ――そろそろ、出て行くか?

 三村は腰を浮かせた。
 その時、男がなにやら合図をした。燃えるような髪の女が、駅の入り口から姿を現す。
 男と女が合流し、周囲を警戒しながら移動を始める。

 ――賭けに勝った。

 三村は安堵の息を吐いた。
 柊かがみに気付かれずに、柊かがみのもぐりこんでいる集団のメンバーと接触し、
 その危険性を伝えるために三村が考えたのが、この手段。
 柊かがみは、最後の不意打ちまで、無力な女の子を演じ続けるはずだ。
 だから、進んで危険な場所に向かうような真似はしない。
 というか、できないはず。
 柊かがみが出てくるのは、安全確認ができた段階、つまり一番最後だ。

――そこに賭けた。

 無論、4人で逃亡してしまう可能性も高いとは思ったが、
 正義感の強いあの男が、助けを求めているかもしれない人間を、
 助けにいく可能性は低くくはないと、見積もった。

 ――喜ぶのはまだ早い。

 難しいのはこれからだ。これからが本番だ。
 正義感の強い男だけではなく、赤髪の女も出てきたが、これは予想の範疇。
 さっきの連携をみていれば予測できたこと。

(クールに決めてくるぜ! 見てろよ、ジョジョ)

 トランプ銃を取り出す。
 照準――絶対に当たらないように、男達の足元に向ける。
 発砲――男と女の足元にトランプが突き刺さる。

 ――やべっ

 三村の頬を冷や汗が流れた。
 男が女を庇うように前に回りこんでいる。
 そのせいで、トランプが突き刺さっているのは、男の足元ぎりぎりだ。
(どんな反射神経してやがんだ?)
 男から殺気が炸裂した。
 猛速でこちらに突進してくる。
(は、速い!?)
 焦る心の手綱をなんとか取り直し、まず、銃を捨てる。
 そして、高々と両手を挙げる。
 男が迫る――
「――っ!!」
 三村の息が詰まった。

 男が――止まっていた。油断なく構えを取っている。

 ――まったく隙がない。

 女が走り寄ってきて、男の隣に並んだ。
(こりゃまた……。えらく美人だな)
 真紅の髪に滑らかな白磁の肌。工芸家が腕によりをかけたような顔の輪郭。
 きつく結ばれている唇と鋭い瞳がまた、魅力的だ。
「――存命したくば、次の質問に答えよ!」
 男の声に、三村は現実に引き摺り戻された。
「一つ、破壊音を出した理由。一つ、私達を狙った動機。一つ、仲間の有無。制限時間15秒!」
 低いが威圧感のある声だった。
 体から放出する殺気と相まって、すさまじい迫力だ。
 大きく深呼吸を一つして、
「俺は、三村信史。俺はこの殺し合いに加担するつもりはない。
誰かに襲われれば応戦はするが、それは自営の範疇だと思っている。
あんたの問いに対する答えだが、始めの二つに対する答えは同じだ。
あんた達と話がしたかったから、だ。
そして仲間の有無についてだが、今は、いない」
「今は」という言葉を強調しておく。
『三村信史』という名前は、男と女に影響を与えたようだった。
 目と目で何やら会話している。

 ――川田が何かしゃべったか?

 悪評じゃなきゃいいんだが、と思いつつ三村は言葉を紡ぐ。
「あんたは、『話がしたいだけならば、何故こんな真似をした?』と言う」
「話がしたいだけならば、何故こんな真似をした?……ハッ!」
 男が目を丸くし、隣の女が少し相好を崩す。
 空気が緩んだことに少し安堵しながら、三村は口を開いた。
「結論からいえば、あんた達の残りの仲間のうち、女の方に、
俺とあんた達が接触したと知れたらマズイから、だ。
あの女に知られると、命にかかわるんでね。俺も、あんた達も」
「命に関わるってどういう意味よ?」
 赤髪の女が、心底不可解だという表情で尋ねてくる。
「文字通りの意味さ。俺とコンビを組んでた男は――」
 口にした瞬間、三村の頭に激情の炎が駆け上がった。
「あの女に殺されたっ!!」
 三村は吐き捨てた。
 女の表情が激変した。
 眉が瞬時につり上がり、鎌が跳ね上がって三村の喉元に突きつけられる。
「一つ、質問していいかしら?」
 女の声は、氷のようだった。顔立ちが整っているだけに、怒気を纏うと、えもいわれぬ迫力がある。
 男の方も、かなり押し殺しているが、その余波が伝わってくるほどの怒気だ。
 三村はツバを飲み込んだ。

 ――こりゃあ、ヤバイかもな。

 二人とも完全に、柊かがみに篭絡されている。
 三村は、今更ながらに柊かがみの狡猾さに舌を巻き、同時に憎悪を募らせた。
「何なりと、どうぞ」
 心とは裏腹に、おどけた調子で三村は答えた。
「三村信史、それがあなたの名前で間違いないのね?」
 三村は無言で首肯した。
「それなら、川田章『一』、『三』原秋也、この二つの名前に心あたりがあるはずよ」

 ――引っかけか。

 慎重なことだ、と三村は心の中で苦笑した。
「警戒する気持ちは分かるが、信じて欲し――」
「質問の答え以外の発言は認めないわ」
 ぴしゃりと言われ、三村は心の中で嘆息した。
「その二人には心当たりはないね。川田章『吾』、『七』原秋也になら、心あたりはある」
 どこか不満そうにしながら、女が鎌を下ろす。
 男に先をうながされ、三村は表情を引き締めた。

 ――ここからが正念場だ。

「名簿に載っている、『ジョセフ・ジョースター』という男を知ってるか?」
 二人が黙って首を振った。
「俺はその男とこの殺し合いが始まってすぐに出会い、共に行動していた。
しばらくして……1回目の放送が終わった頃に、柊と出合ったんだ」
『柊』と言った途端、男と女から放たれる殺気の総量が、大幅に増加した。
「放っておくわけにもいかなかったから、彼女を俺達で保護した。
彼女が仲間と合流したいといったので、俺達は民家から拝借した車でボーリング場へと向かった」
 三村は話しながら二人の反応をうかがった。
 二人とも無表情で、感情が読み取れない。

 ――ダメか?

 萎えそうになる気力を奮い起こし、三村は続けた。
「――その道中で先程の二回目の放送が始まったら、彼女は豹変した。
急に『スタンド』という支給品を行使し、車を炎上させたんだ……
俺はジョセフ・ジョースターの機転と、アイツの『波紋』とかいう能力で一命を取り留めたが
アイツ自身はおそらく……」
 あの忌まわしい光景が蘇ってくる。
 怒りが込み上げ、知らず知らずのうちに口調が荒くなる。
「俺はあの女をゆるさねえ! あの時、俺は逃げるしかなかった。
俺には、あの女を倒せるだけの力がなかったから!
あの女が殺し合いに乗ったと、分かっていながら!
あの女が、またどこかで無力な顔をして誰かに近づいて、その誰かを殺すと分かっていながらっ!!
だから俺は、これ以上の被害者は出したくないんだ! 
アイツみたいな、ジョジョみたいな被害者を出してたまるか!!
いい奴だった。陽気で、落ち着いてて、尊敬に値する奴だった!!
こんな所で死んでいいヤツじゃ、なかったんだ!!
信じられないかもしれないが、これが真実なんだ。あの女の正体なんだっ!!
信じてくれ、頼む!  頼むっ!! 俺に――ジョジョの、友達の仇を討たせてくれっ!!」
 返ってきたのは――

 沈黙だった。

 ぎりっと、三村の奥歯が音を立てた。
「――1つだけ、確認させて」
「何だ?」
「あなたが始めて会ったのは、1回目の放送の後、でいいのね?」

 ――また、引っかけか?

 三村は無言で首肯した。
「そう……」
 女の口から嘆息が漏れた。
「よく、分かったわ」
 氷槍が三村の心臓を刺し貫いた。
 顔を上げた女の瞳には氷点下の殺意が、声には極限まで圧縮された怒気があった。
 三村の全細胞が、本能的に最大警戒警報を叫んだ。

「臓物をぉぉ――」
「クレイジーダイヤモンドッ!!」

 咄嗟にスタンドを展開。スタンドが、ゆらりと姿を現す。
 驚愕でヒナギクの体が動きを止める。
 その隙を着いて、クレイジーダイヤモンドの掌がヒナギクの胸元に一直線に奔る。
 衝撃――クレイジーダイヤモンドからのフィードバックが三村に伝わってくる。
 次の瞬間、咆哮が三村の鼓膜を打ちぬいた。

「その行為――宣戦布告と判断するっ!!」

 文字通り鋼鉄と化した男の体が、クレイジーダイヤモンドの掌を受け止めていた。


 人形出現の驚愕による硬直は、一瞬だった。
 硬直が溶けた瞬間、怒りが吹き上がり、何もかも真っ黒に塗りつぶした。

 ――よくも、よくも。

 灼熱の怒りが、ヒナギクの体を突き動かす。

 ――この男は、私達につかさを、疑わせようとした!!

 男が飛びすさる。
 怒りの命じるまま、ヒナギクは男に向かって突進した。
 刃が弧を描き、人形を狙う。
 ぎぃん、と鈍い音。
 人形の掌が、鎌を止めている。

 ――私達につかさを殺させようとしたっ!!

「重爆っ!!」

 覚悟の左回し蹴りが高速で弧を描き、ガードごと人形を吹き飛ばす。
 三村が同時に吹っ飛んだ。

 ――絶対に、

 ヒナギクは足に力を込めた。
 足のバネを最大限に使って跳躍。

 ――許さないっ!!

「ああぁぁっ!!」

 ヒナギクの咆哮と共に鎌が回転をはじめ――

「クレイジーダイヤモンドォォッッ!!」

 三村の絶叫とともに、人形が高速で地面に落ちた瓦礫に向かって拳をぶち込む。

 何としたことか。
 突如、破壊された瓦礫同士が結合をはじめ、三村の前に高い壁が出現したではないか。
「なっ!?」
 体が止まらない。ヒナギクの体は重力と慣性に従って壁へとつっこんでいく。
 総毛立つ思いで、ヒナギクは両手を交差させた。
(ぶつかるっ!!)
 目を閉じる――何かに抱えられる感触。
 硬質な何かと何かの衝突音――半瞬遅れて軽い衝撃。
 何かに抱かれて落下していく感覚――下方から衝撃があって、体が上下に揺れた。

 ――痛く、ない?

 目を開けるとそこには、
「大丈夫か? ヒナギクさん」
「覚悟君!?」
 ヒナギクは状況を悟った。
 壁にぶつかる瞬間、覚悟がその身を呈して守ってくれたのだ。
「か、覚悟君こそ――」
「問題ない。それより、離れていてくれ。この壁を破壊し、あの男を追うぞ!」
 覚悟が壁を蹴り破ろうとした、まさにその時。

 原付の音が響き渡った。
 またたく間にその音は遠ざかっていく。

「なんてこと……」
 ヒナギクはその場にへたり込んだ。
 その行動から、覚悟は男が逃げ去ったことを知り、拳を下ろした。

 重い沈黙の枷が二人を捕えた。

 ややあって、
「帰ろう、ヒナギクさん。つかささん達が待っている。
「ええ……」
 ヒナギクは足をすすめようとする。
 だが、駅へと引き返すヒナギクの足は、なかなか前に進まず、徐々にその速度を落としていく。
 ついに、ヒナギクの足が止まった。
「ごめんなさい、足手まといにならないなんて言っておいて……」
「意味が理解できない」
 淡々とした答えが返ってきた。
 ヒナギクは唇を噛んだ。
「慰めはやめて! 私を二回もかばわなければ、覚悟君はきっとあいつを倒せてた。
そしたらこれで、何もかも終わったのに……」
 拳を握り締め、ヒナギクは俯いた。
「一度目の時は、俺は二人を俯瞰する立場にあったゆえに、対応できた。
一対一で対峙した場合、初撃を完全にくらっていたかもしれない。防御がせいぜいだろう。
二度目の時もそうだ。あのような面妖な技があると誰が予想できよう?
俺も同じように壁に激突していたに違いない。俺の因果は深く踏み込んで撃つ
ゆえに、俺一人ならば、より重症をおっていた可能性がある」
 覚悟の口調には明快さがあり、事実を述べているという確信があった。
「男を取り逃がしたのは痛恨事だ。
だが、二人とも大事無くてすんだは、二人だったゆえだと思うが……。
ヒナギクさんはそうは思わないのか?」
「でも……」
 俯いたまま拳を握り締めるヒナギクの両肩に、手が置かれた。
「前も言ったが……。できないことがあるからといって自分を追い詰めてはいけない。
人一人の力には限りがある、それを教えてくれたのは、ヒナギクさん、君じゃないか。
君自身がそれを忘れて、どうするんだ」
 顔を上げるとやっぱりまた、覚悟の顔が近くにある。
 でもなぜか――目をそらしたりする気には、なれなかった。
「理不尽に必勝するのが葉隠一族だ。ゆえに、父上にはすくたれ者と叱られよう、
零には腑抜けたかといわれようが……。
あの時、あの言葉と君が、確かに俺を支えてくれた。そして、今も、支えてくれている」
 無意識にヒナギクは、胸に手を当てていた。
 心がなんだかとても熱い。さっきの殺意に駆られていた時の熱さとは全然違う。
 これは何だろう? これは、これはきっと――
 唐突に覚悟が身を離した。
「す、すまない。また、俺は……」

 ――あっ

 離れてしまった、という気持ちに襲われ、気恥ずかしくなったヒナギクは、顔をあからめた。
 顔を隠すために後ろを向きながら、
「……いいわ、許してあげる」
「む? 今、なんと?」
「……教えてあげない!」
 振り向いてペロっと舌を出し、ヒナギクは悪戯っぽく笑った
 二人の間に暖かな空気が満ちた。
 その空気を壊すのは嫌だったけれど、ヒナギクは苦労して表情を引き締め、
「覚悟君、あの男だけど……」
 覚悟の鉄の如き眉が困惑の形を取った。
「やっていることは悪鬼の所業ではある。
しかし、あの男の話術と演技力は神技の域だと、評せざるを得ない」
 二人は深刻極まる顔で押し黙った。
 あの男の話には、真実があった。
 口調、視線、表情、どれも全てが真実のように見えた。
 特に友への思いを聞いたときは、心を揺さぶられた。

 ――それが全て嘘と演技によるものであるというのに。

 つかさとずっと行動を共にしていた自分たちですら、思わずつかさを疑いそうになった。
 だからこそあれだけ腹が立ったのだ。
 まかり間違えば、あの男の話を信じてしまったかもしれないから。

 ――嘘だ、これは嘘だ。

 何度も心に言い聞かせなければ、どちらの話が真実か分からなくなっていた。

 ――恐ろしい。本当に恐ろしい。

 ヒナギクがこれ以上ないというほど眉をひそめつつ、
「何とかしないと、生き残っている人達がみんなでつかさを狙う、
なんてことになりかねないわ」
「そうならぬという保証はないな……。とにかく、川田にも相談してみよう。
川田なら良き案を思いつくかもしれない」
 覚悟は足を速めた。
 それに合わせて足を速めつつ
「覚悟君、だけど私、どうしても分からないことがあるの」
 ヒナギクは問いを発した。
「何だろう?」
「どうしてつかさなのかしら? 恨みがあるとは思えないし……」
「俺もそれが気になっていた。何故あの男は、つかささんを、害しようとする?
しかもあのような方法で」

 考えても考えても答えは出てこない。
 三村信史という怪物に、覚悟ですら、どこか薄ら寒いものを感じたのであった。




「くそっ……。柊ぃっっ!!」
 三村は、地面に思い切り拳を叩きつけた。

 ――あの魔女を甘く見ていた。 

 幾らなんでも、殺意満々の刃が飛んでくるとは、予想もしていなかった。
 誠心誠意を持って話せば、言葉は届く。
 彼らのうちの誰かは疑問をもち、かがみからも話を聞こう、
 というような展開になると思っていたのだ。

 ――甘っちょろくも。

「とんでもねえ女だ……」
 三村は柊かがみに、ある意味感嘆の念すら抱いていた。
 一体、何をどうやったら、この短期間で同姓、異性の双方の仲間から、あれほど信頼を勝ち取れるのか?
「見当もつかねえ……」
 演技力と対人の天才、としか言いようが無い。
 実際、女の方は本気で激怒していた。あの刃は受け損ねれば、致命傷だっただろう。
 そのせいで、クレイジーダイヤモンドの力加減をミスってしまった。
 まだ操作に慣れていないにも関わらず、咄嗟に使ったのだから当然だが……。
 これであの男と女は、自分の事を完全に危険人物と認識しただろう。

 ――まあ、あれだけ柊かがみを信じ切っているのだから、今更大差ないが。

「備えあれば憂いなしとはよくいったもんだよな」
 万が一のために考えておいた策だが、まんまと当たった。
 といっても、誰かをおびき出すために壊した塀を復元して追ってこられないようにし、
 待機させておいた原付で逃亡、という単純なものだが、シンプルな策ほど強い、ということだ。 
 息を一つ吐き、三村は立ち上がった。
 柊かがみは、正義感の強い男、赤髪の女、おそらくは川田も、完全に篭絡している。
 あの3人は、完全に柊かがみを信じきっている。
 それこそ、仲間である柊かがみために、人殺しすら厭わないほどに。

 ――誰かに伝えなければならない。

 魔女の使い魔に成り下がってしまった奴らと、チームを組んではいけないと。
 三村は、原付をスタートさせた。
 また、禁止エリアかどうか分からない地域を巡ることになるが――

 不思議と恐怖は感じなかった。

(それぐらいでビビッてて、あの怪物に勝てるわけがないからな)
 三村は、柊かがみの評価を完全に修正していた。
 心の何処かで、柊かがみは、単に理性を失っただけの女かもしれない、と思っていた。
 柊かがみとはそんなに長い時間一緒にいたわけではないが、仲間を思う言動は真実に思えた。
(完全に騙されてたわけだ。俺も、ジョジョも)
 あの女は、どんな人間の心でも手玉にとることができる、化物だ。

 ――ひょっとしたら、優勝に一番近いのはあの女ではないだろうか?

 怖気が背筋を駆け抜け、三村は顔を歪めた。
「だが、そうやすやすと思い通りには、させねえ!」
 あの女は、1つのチームを食いつぶすまでは、次のチームへと手を伸ばすまい。
 その前に自分が他のチームに接触すればいいのだ。

 ――北へ、行ってみるか。

 三村は進路を北へ向けた。

【E-3/一日目/夜中】
【三村信史@BATTLE ROYALE】
[状態]:精神疲労(中)、鼻の骨を骨折、顎にダメージ有り(大)、原チャリで移動中
[装備]:トランプ銃@名探偵コナン、クレイジーダイヤモンドのDISC@ジョジョの奇妙な冒険、銀時の原チャリ@銀魂
[道具]:七原秋也のギター@BATTLE ROYALE(紙状態)支給品一式×2
[思考・状況]
基本:老人の野望を打ち砕く。かがみはどんな手段を使ってでも殺す。
1:仲間になってくれそうな参加者に会う。
2:1のために北上する。
3:参加者に出会ったら第三放送の内容を訊く。そして「柊かがみという女は殺し合いに乗っていて、人を一人殺した」と伝える。
4:参加者にあったら柊かがみと一緒にいる、3人(覚悟、ヒナギク、川田)が柊かがみに騙されて、かがみを信じきっていると伝える。
5:再度ハッキングを挑む為、携帯電話を探す。
6:集められた人間の「共通点」を探す。
7:他参加者と接触し、情報を得る。「DIO」は警戒する。
8:『ハッキング』について考える。
9:アーカードは殺す。

[備考]
※つかさをかがみと誤認しています。
※つかさ、覚悟、ヒナギク、川田が柊かがみに、完全に騙されていると思っています(説得不能だと考えています)。
※覚悟、ヒナギクの名前を知りません。

※本編開始前から連れて来られています。
※クレイジーダイヤモンドは物を直す能力のみ使用可能です。
 復元には復元するものの大きさに比例して体力を消費します。
 戦闘する事も可能ですが、大きく体力を消費します。
※ジョセフは死亡したと思っています。
※マップの外に何かがある、と考えています。
※彼が留守番電話にメッセージを残したのは、以下13ヶ所です。なお、メッセージは全て同一です。
 老人ホーム(A-1)、市役所(D-3)、病院(F-4)、消防署(D-4)、学校(C-4)
 総合体育館(D-5)、ホームセンター事務室(H-5)、総合スーパー事務室(D-6)
 変電所(A-8)、汚水処理場(B-8)、ホテル(D-8)、パブ(F-8)、ボーリング場(G-8)
※第三放送を聞き逃しました。
※ジョセフの話(波紋、吸血鬼、柱の男 etc)を信じることにしました。(どの程度まで詳しく話したかは任せます)



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