男とアルター

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mangaroyale

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男とアルター ◆d4asqdtPw2



「ハア、ハア……こんなことなら賭けなんかに乗らなければ良かった……アカギ!! いや、アカギさん!! 助けてくれー!!」
涎をまき散らしながら無様に走る男が1人。
数時間前まで放っていた高貴なオーラは、どこか汚れて黒ずんだオーラになっているように見える。
有名な芸術家の生み出した彫刻のように美しいはずのその顔は、汗と涙でグチャグチャに歪んでいた。
彼の後方、十数メートルには髑髏を模した小型の戦車のような物体。
杜王町に発生した史上最悪の殺人鬼、吉良吉影。
その男のスタンド、キラークインの能力の1つ、シアーハートアタックだ。

「コッチヲ見ロ~ッ!」
「……って、ぬおー!」
叫んだせいで走る速度が落ちたのだろうか、シアーがジグマールに肉迫してきた。
シアーが右足に接触する……寸前のところでジグマールが右に大きく跳んだ。
受身をとって道路にゴロゴロと転がりながらも、なんとかすぐに起き上がった。
(この戦車はキャタピタ式だ。ならば小回りは利かないはず……)
ジグマールの予想通り、戦車は進行方向を左に変更するために大きく旋回しなくてはならなかった。
これが好機とばかりに、つんのめりながらも再び走り出す。
後ろを振り向くと、そこには目標を自分へとセットし直した戦車。

「アカギのやつ……見捨てやがったなァ~」
くすんだ銀髪と突き出たアゴを思い浮かべて吐き捨てる。
さらに、心をブチ抜くようなアカギの鋭い瞳を思い出し、身震いした。
あいつのせいで……なんで自分だけがこんな目に……。
自分がここで死のリレーを繰り広げてる間、あいつは優雅にお茶でも飲んでいるのだろうか。

(不公平だ。そんなの不公平だッ!)
だが、ジグマールの嘆きは的外れもいいところである。
アカギの提示した『リスク分担策』では、ジグマールとアカギのどちらが戦車に追われるのかは全くの五分。
それを喜んで受け入れたのは他ならぬジグマールであった。
ならばこの天と地とも離れた2人の状況も、至極公平なものであったのだ。

少なくとも、嘆いているばかりではこの状況は一向に改善しない。
彼に必要なのは、行動すること。
賭けに負けたことは覆せない事実だと受け入れて、その敗北の代償と戦うこと。
しかし、その相手である戦車は余りにも強い。
その硬度は凄まじく、ジグマールの持つ一切の攻撃は通用しない。
と言っても彼の持っている武器は鎖鎌とアラミド繊維を内蔵したライター。
クレイモア地雷も持っているのだが、効くかどうか分からない敵にこんな貴重な武器を消費したくなかった。
先ほどから隙を見ては鎖鎌を叩きつけ、アラミド繊維を押し付け……などの努力はしているのだが……。
「コッチヲ見ロォ~」
この戦車には傷一つ付いていない。
そんなわけで、武器を命中させても、戦車を少しだけ後方に吹き飛ばすくらいの効果しか得られなかった。
そして最悪なのが、戦車の生み出す爆発の威力だ。
確実に即死というわけではないが、一度食らってしまったら、しばらくはまともに動けないだろう。
そうなってしまったら後は疲れ知らずの戦車に嬲り殺されるだけ。
つまり即死でなくとも結局は、一度爆発を食らってしまったらそこで終わりなのである。

「なんで俺ばかりが……ぬあっ!」
動揺と疲労でフラフラになっていた足がもつれ、ジグマールは盛大に転んだ。
なんとか立とうとするが、体力の消耗が激しすぎる。
そうこうしているうちに、戦車は少しずつこちらへ近づいてくる。

「クソォ……こんなところで、死ぬわけにはいかんと言うのに……」
そう言ってから気がついた。
自分がそんなセリフを吐くのは何度目になるのだろうか。
最初に強敵、セラス・ヴィクトリアを撃破して以降、この殺し合いでの彼の戦績は散々たるものであった。
敗北を喫し、弱音を吐き、そして結局はギャラン=ドゥに頼りきりになる。
その繰り返しだ。
いつもいつも同じ失敗を繰り返す。
己の尾を追いかける犬のように同じところをグルグル回り、最期には犬のように死んでいくのだろう。
そういえば、セラスのときもギャラン=ドゥなしでは死んでいた。
たった1人ではただの1回も勝利を掴むことなどできない。
そんな男のどの口が「全宇宙の支配者になる」などとほざいたのか。

死ぬわけにはいかない? 馬鹿を言え。
確かに、お前は確かに死んでいない。だが、活きてもいない。
無能な心臓を守り、無能な脳に縋るだけ。
何も生まず、何も成さない無駄な生命活動を続けているだけ。
貴様が死んでも誰も何も思わない。嘆かない。悪者が死んだと喜ぶ人間さえいない。
ここで戦っている者たちは今頃お前の存在など忘れて、それぞれの戦いを始めている。
そして誰もが、お前より気高く、お前より眩しく死んでいくだろう。
その者達が駆け抜けて言った道の遥か後方を、トボトボと惨めに歩く情けない男がお前だ。
誰の視界にも入らないように、誰にも狙われないように怯えながら歩いているのか?
違うな。もともと誰もお前なんて見ていないんだよ。
お前の存在を認知する者など1人もいない。
お前が影響を与えることが出来る者など、ただの1人もいやしない。
ただの、1人も……!

惨めな生に縋りつき、無様な恥を晒すなら、いっそのこと

死ね。

ここで、今、死ね。


脳内に聞こえた声は自分のものなのだろうか。
それともアカギか? 劉鳳か?
……誰でもいい。この声の主が誰でも構わない。
反論できない。この声の言うとおりだ。
自分に残された最後のプライドであった人間ワープも、DIOのアルターには適わない。
世界を支配する能力。全てにおいて自分の能力より上級な能力だ。
その上何の能力も持たないアカギにいい様に扱われ、洗いざらい情報を『盗まれた』。
それだけじゃない、この会場には勇次郎やラオウのような化物がいる。
この戦車の能力の持ち主である吉良吉影のような恐ろしい能力者もまだまだいるだろう。
自分は、それらから隠れて生きるしかない。
誰にも影響を与えないように……。
いや、どうせ与えることが出来ずにどこかでのたれ死ぬのだろう。
……ならば。

アカギにコケにされたショックと、長時間の全力疾走で脳に酸素が行き渡らなくなったことが、彼の思考を極限までマイナス方向へと導いた。
「もう……やめにしよう」
頭の中のどこかでポキンという音がした。
立ち上がろうと踏ん張っていた足から力を抜く。
支えを失った体は傾き、尻餅をついて倒れこんだ。
振り返らなくても分かる。キャタピラの音が近づいてくるから。
あと少しで、こいつは自分を殺してくれる。
惨めな命に終止符を打ってくれるのだ。
大丈夫、苦しいのは一瞬だ。
下手に動かなければ一瞬で自分を吹き飛ばしてくれるはず。

……もうそこまで来ている。
自分が死ぬ寸前に爆発音が響くはずだ。
「コッチヲ見ロ~!」
……来た。そして、爆発音が……


ヤマネェェン!


(ほら、爆発音が……って、や……ヤマネェェンってなんだ……!)

振り返ると、自分を殺すはずの戦車は10メートル以上後方に吹き飛んでいた。
「オォィ……ジグマァ~ルゥ……なにしてくれてんだァ~?」
(……そうだ! 聞きなれた音じゃないか!)
その音は『彼』の登場音。何度も何度も耳にした。
そして、この『彼』の黒い大きな背中も見慣れているものだった。
「ギャラン=ドゥ……!」
しかし、ギャラン=ドゥと目を合わせることが出来ない。
今自分はこの殺し合いから脱落した。
ここで生き延びたところで、DIOはおろか、誰にも勝つことなんて出来ない。
誰も自分を見ていない。
自分が影響を与えられる人物など……。
「……もういいんだ、ギャラン=ドゥ。僕は……」

「オォィ早く立てジグマールゥ~。お前に死なれると困るんだよォ」
弱音を遮った言葉は、胸の深くに巣食った絶望すらも打ち砕いた。
(僕に死なれると……困る……!)
確かにそう言った。僕の命に、確かな価値を見出している。

……いた。見つけた、こんな近くに。
僕が影響を与えられる男がここにいるじゃないか。
ギャラン=ドゥが僕をいつも救ってくれていた。
何度も絶望の淵からも救い上げてくれた……!
こんなに僕を助けてくれたギャラン=ドゥに何も出来ないまま死んでいくのは嫌だ。
だから……僕は……僕は!

「オイ~! 早く立て。逃げるぞ!」
「え……う、うん!」
ギャラン=ドゥに手を貸してもらいながらも、ジグマールはなんとか立ち上がった。
戦車から逃げるため、大地を踏みしめ歩き出す。
弱弱しく、だが確実に歩みを進めていく。

「ジグマール、なんでお前さっき死のうとしたんだァ……? お前が死んだら俺まで……」
「いいんだ。もう……いいんだ」
「あァ~?」
ギャラン=ドゥが訝しげにジグマールの顔を覗き込む。
だが、その真っ直ぐな瞳を見たギャラン=ドゥは「そうか」とだけ呟いて前を向き、足を進めた。

「ギ……ギャラン=ドゥ! 後ろ!」
ジグマールが叫んだのとギャラン=ドゥが跳んだのはほぼ同時。
戦車の方向に高く跳び上がり、拳を天高く振りかぶる。
「お前は……埋まってろ!」
咆哮とともに叩きつけられた拳は、戦車の真上から寸分の狂いもなく、垂直に叩きつけられた。
いくら戦車が頑丈でも、その下の道路はそうとは言えない。
殴られるままに道路にめり込み、ゴルフのカップのような穴へと埋まっていった。
シアーは無傷のまま、穴の中でキュルキュルとキャタピラを空回りさせていた。
「す……すごいやギャラン=ドゥ!」
「……やったかァ?!」
やっと解放されたジグマールたちは、どこかで休もうかと辺りを見渡す。
飲み物でも売っている店があればいいのだが、運悪くそこは住宅街のようだ。
仕方ないので適当に入る民家を見繕っていると……。

辺りに響いた突然の爆発音。

爆源はもちろん、あの戦車だ。
「「なにィ?!」」
綺麗にユニゾンが響いたが、その音色は吹き飛ばされた瓦礫が落ちる音によってかき消された。
雪のようにパラパラと降り注ぐ瓦礫と辺りに立ち込めた黒煙の中から、丸くて黄色い影が浮かび上がる。
「ななななんで?!」
「落ち着けェジグマールゥ……」
そうは言っているがギャラン=ドゥも信じられないといった顔つきである。
彼の見立てでは、あの戦車は人体程度の熱源に触れないと、爆発を起こさないはずであった。
なぜなら、ギャラン=ドゥが殴っても、走っている最中に障害物に行き当たっても、あの戦車は一切爆発しなかった。
爆発したのはランタンなどの熱源に接触した場合のみ。
なら、なぜ爆発を……。
「まさか摩擦熱?!」
ジグマールに言われるまで完全に見逃していた。
たとえ戦車が穴から脱出できなくても、そのキャタピラは動き続けていた。
そして破壊された道路の破片は穴の中に散らばっている。
それらがキャタピラと擦れて熱を発したというわけか。
「なるほどォ~」
この方法もダメか。ギャラン=ドゥが唇を噛む。
自分がこの戦車を押さえてるうちにジグマールが逃げる、ということが出来るのならば、それが一番簡単だ。
しかし徳川の老人のせいで、ギャラン=ドゥはジグマールから遠くへは行けないということになっている。
人間ワープでこの戦車を遠くへ吹き飛ばそうにも、その人間ワープ自体に制限が掛けられてしまっていた。
アルター能力を全力で使って数メートル飛ばすなら、殴った方が遥かに効率がいい。
この状況になるのが分かっていたのではないか、と言うほどいやらしい制限だ。

「チィ……走るぞジグマールゥ。何か熱源を探せェ」
「そんなこと言っても、こんなところにそんなもの……」
ジグマールの言うとおり、住宅街のど真ん中で熱源を探せなどと言っても無理がある。
しかし、他に策がないのだ。
囮になるような熱源を探して夜の住宅街を疾走しだした。

「コッチヲ見ロ~」
「しつこいんだよォ」
ギャラン=ドゥの拳に吹き飛ばされたシアーが後方に吹っ飛ぶ。
しかしすぐさま体勢を立て直して追いかけてくる。
熱源を探し続けて10分。
見ての通り、成果はない。
戦車に追いつかれそうになってはギャラン=ドゥが殴り飛ばし、その間に逃げる、の繰り返しだ。

速度的には逃げることは不可能ではない。
だが、そうしなかったのはこの戦車の索敵方法が熱感知によるものだからだ。
熱探知の範囲上限が分からない。
戦車の姿が見えなくなったとしても、熱を感知されてジワジワと近づかれ、気づかぬうちに爆破させられる危険があった。
完全に逃げ切るにタイミングを探そうとはしているが、時間が経てば経つほどこちらが不利になる。
なにしろ相手には疲労がない。
対するこちらは疲れきったジグマールと、残り10分程度しか行動できないギャラン=ドゥ。
このまま突破口が見えないままでは明らかにこちらが負ける。

「こんなのDIOのアルター能力だって対処できないじゃないか……!」
自分より明らかに格上のDIOの『時止め』ですら何の効力も発しない相手。
物理的ダメージを無視し、際限なく追い続ける最悪の能力。
(完全に動けなくする方法があれば……)
高速で動く戦車から逃げるには、もはや動きを封じるしかない。
何かやつの動きを阻害するものか、やつを閉じ込める箱のようなものさえあれば……。
(そんな都合のいいものなんか……ん? 待てよ……箱……)
「そうか! ギャラン=ドゥ、こっちだ!」
「あァ? なんだァいきなり?」
「いいからこっちだ!」
叫びながら駆け出したジグマールをギャラン=ドゥが追いかける。

「……策があるのか?」
「……あいつを封じるには、あいつを閉じ込めるしかない」
明確な目的地でもあるのだろうか、ジグマールは走りながらもキョロキョロと辺りを見回している。
「閉じ込めるったってそんなものどこにあるんだァ?」
「……ここだ。ここにある、いや『来る』んだ」
ジグマールが指したのはトンネルに出来た大穴。
地下鉄での大乱戦の際、ラオウとケンシロウが北斗剛掌波で開けた穴である。
外側から穴を覗くと暗闇の中に線路があるのが見える。
「……電車の中にやつをブチ込もうって魂胆かァ」

「あの戦車が熱源に向かって愚直に進むなら、電車のドアから律儀に出てくるなんてマネ出来るはずがない。
 だからワープで一度電車に乗せてしまえば、何もしなくてもあいつは勝手に僕たちから離れていってくれる」
「言うのは簡単だ。だがなァジグマール、ヤツをワープさせられるのは俺だけだ。お前はヤツに触れることができんからなァ。
 しかし俺の体力も残り少ない。お前の外にいられる時間はあと5分ほど、ワープは使えて一回が限度だ……」
「それでいいんだ……あの戦車は疲れを知らない。いつも同じ速さで僕を追いかけてくる。
 だからタイミングは計ることはそんなに難しいことじゃない」
理論上ではその通りであろう。
しかし、通過する電車の中にダイレクトに戦車をワープさせることはそんな簡単なことではない。
まず、ギャラン=ドゥが戦車に触れた瞬間に、電車が人間ワープの有効範囲数メートル以内に存在していることが絶対条件である。
さらに相手はジグマールを目指して走ってくる。
つまり彼が囮として線路の脇に立ち、戦車を線路まで誘導しなくてはならない。
あたり前だが、ジグマールに戦車が当たる前に戦車をワープさせなければいけない。
それに加えてギャラン=ドゥの体力も残り少ない。
一度失敗したらギャラン=ドゥは体力が尽きて、ジグマールの体から出られなくなってしまう。
そうなったら逃げる術など存在しない。
余りにもリスクが高すぎる。

「ダメだなァ。そんなことするくらいなら、人間ワープを連発しながら全力疾走で逃げた方が、まだ生き延びられる」
「たとえ逃げ切ったとしても、疲れきったところで殺し合いに乗った参加者と遭遇したら……間違いなく殺される。
 それに、あの戦車の索敵範囲から逃げ切れるとは限らないじゃないか……」
ジグマールが熱弁するも、ギャラン=ドゥはその作戦に乗る気にはなれない。
自分がジグマールと命運を共にしている以上、ギャラン=ドゥは慎重にならざるを得なかった。

そうこうしているうちに、彼らを追いかけてきた爆弾戦車が近づいてきた。
「ウラァッ!」
俯いたまま動かないジグマールを尻目に、ギャラン=ドゥが戦車へと駆け出し、殴り飛ばした。
小さな車体が勢いよく吹き飛び、ゴロゴロと地面に転がる。
すぐに起き上がると、再びジグマールたちに向けて直進しだした。
「もう追いついて来やがった……オイィ、もう時間がない……とっとと逃げ……」

「ねぇギャラン=ドゥ。ここに来てから僕たち……何回逃げた?」
ギャラン=ドゥの背中に震えた声で呼びかけた。
しかしギャラン=ドゥはなにも答えない。
今まで、自分に逆らうことなどなかったはずのジグマール。
そんな彼の思いがけない反抗に、ギャラン=ドゥは困惑していた。

「僕たちは何回も、何回も逃げたよね? 分かってる……それは僕が弱いからなんだ。
 でも君は違う。僕のせいで……君までもが逃げ続けなくてはならないなんて、僕は我慢できない!」
「しかし、その作戦が失敗したら死ぬんだぞ、ジグマールゥ? 今は確実に生き延びて、次頑張れば……」

「次っていつなんだよ!!」
ギャラン=ドゥは、ジグマールが自分に対して声を張り上げるのを始めて聞いた。
戦車と格闘し続けていたその体が一瞬だけ動きを止める。
だが、戦車が近づいてくるのを確認すると再びパンチを繰り出した。

「……DIOにこの作戦は不可能なんだ。
 いくら時を止めようとも、電車の内側にワープさせるなんてことできないからね。
 これは……君にしかできない作戦なんだ」
「……なるほど、お前がこの作戦に拘っていたのはそういう訳かァ」
完全に自分たちのアルター能力の上をいくDIOの能力。
その能力でさえ不可能なことが、自分達には可能だ。

ジグマールは証明したかった。
人間ワープが時止めを超えることは、可能だと。

「僕は全宇宙の支配者なんかにはなれない。それはこの1日で痛いほど思い知らされたよ。
 でも、君ならなれる! 君は誰よりも強い! 僕は君のオマケでいい。
 君の横で夢を見ているだけでいいんだ……!」
ギャラン=ドゥには目的があった。
人間が支配する世界を、アルターの支配する究極のアルターワールドへと創りかえること。
自分の創造主であるジグマールさえ、そのための隠れ蓑に過ぎなかった。
ギャラン=ドゥにとって、ジグマールは単なる捨て石だ。

そして、この殺し合いの中で、自分は何度もジグマールを殺したいと思った。
それが出来なかった原因は、主催者である光成の設けた制限。
ジグマールを殺してしまえば自分が死ぬ。
だから彼を生かしていたにすぎない。

自分が一番強いと思い込み、全宇宙の支配者になれると本気で思っている。
格下の相手には油断して、何度も死にかけている。
そんな男と命運を共にしているなんて最悪の極みだ。

しかし、こいつはその敗北の山から何かを掴み取ったのだろうか。
ジグマールの思考に大きな変化が起こっている。
ジグマールは、自分を頼りにしている。
今までのような『ピンチに役立つ便利な道具』としてではなく、1人の仲間として。

考えてもみれば、こいつがこの戦車のような『どうしようもない敵』に向かっていくような男だろうか?
駅構内の戦いで、誰よりも早く、無力な女より早く逃げ出したこいつが……たった1人で。
……いや、1人じゃないんだな。お前は。
俺を支えにして、ビビって縮こまってる体を奮い立たせているんだな。
俺が、支えか……。

「おい、ジグマール……」
戦車を殴り飛ばしたギャラン=ドゥが振り返る。

「俺が外に出てくるときは、お前が死にそうになったときだけだ。
 いつもいつも俺はお前の尻拭いだ」
ツカツカとジグマールに歩み寄るが、ジグマールは俯いたまま何も答えない。

「だからよォ……」
ジグマールの横に立つと。クルリと振り返り、彼と同じ方向を向いた。
ジグマールの顔が驚きの色に包まれるが、ギャラン=ドゥは彼を見てはいない。
彼が見ているのは前方の戦車。

「お前と肩を並べて戦うのは、これが始めてだなァッ!!」

戦車を睨み、ニヤリと笑って拳を構えた。
「ギャラン=ドゥ……」
ジグマールの顔が、驚きから笑顔と変わる。
「それじゃあ……行くよ!」
そして最後には、いつになく真剣な顔となって戦車を見据えた。

(こいつ、俺と同じ構えじゃねぇか)
そうか、こいつはずっと負けるたびに俺の背中を見てきたんだったな。
ジグマールに聞こえないようにフフンと小さく笑った。
究極のアルターワールドを築き上げる。その目的は変わっていない。
だが、この殺し合いから生き残ったら……。
(こいつと一緒に全宇宙を支配するのも……悪くないかもなァ)

「ギャラン=ドゥ、あと何分間行動できるの?」
「あと、1分半だ。ちゃんと電車は来るんだろうなァ?」
ギャラン=ドゥが作戦に乗り気になったものの、彼が行動できる残り時間は少ない。
その間に電車が来なければ、作戦は失敗である。
「アカギと電車に乗る前に時刻表で確認したんだ。あと1分と少しで電車はここを通過する」
「ギリギリじゃねぇかァ……おっと、戦車が来るぞ!」
キュルキュルとキャタピラを回して近づいてくる戦車。
ジグマールの読み通り、そのスピードは全く衰えてはない。
常に一定の速度でくるからこそ、タイミングを取りやすい。
条件は整っている……!
あとは時間通りに電車が通過してくれるかどうか、だ。

ギャラン=ドゥが1分ほど戦車と格闘していると……。
「ギャラン=ドゥ! 来た! 電車が来るよ!」
トンネルに響いた重低音を聞いて、ジグマールが叫んだ。
その声を聞いてギャラン=ドゥは戦車を殴り飛ばすのを止め、ジグマールの元へと走る。
あとはあの戦車がジグマールの近くまで来た瞬間に、戦車を電車の中へワープさせるだけ……。
「チャンスは1度だけだ。タイミングの指示を頼むぞ、ジグマールゥ」
「……うん!」
ギャラン=ドゥから「頼むぞ」と言われたのが、たまらなく嬉しかった。
ずっと見続けていた彼の背中に追いつけたのだろうか。
その横に、僕は立っていいのだろうか……。
ここに、ギャラン=ドゥの横にいる限り、自分は誰にも負けはしない。そんな気分にさえなった。

「おい、ジグマールゥ。まだ大丈夫なのか?」
「まだだ、まだ……」
爆弾戦車がジグマールに接触するまで、あと……1メートル。
電車の走る音は聞こえるのだが、その姿は未だ確認できない。

あと、50センチ。
電車の音が大きくなってきた。トンネルの中を微風が吹きぬける。
レールがカタカタと小さく振動しだした。

あと、20センチ。
「おい、まだか?! 爆発するぞ!」
「もう少し……もう少しだ……!」
ついに電車がその姿を現した。
ゴウ、という音を携えて巨体がレールの上を突進してくる。それと共にトンネル内に突風が吹き荒れる。

あと10センチ。
「もう間に合わん。ワープするぞ!」
「ダメだ! まだだ!」
戦車を掴んでワープさせようとしたギャラン=ドゥの手を、ジグマールが遮った。
電車は高速で近づいてきてはいるものの、まだワープの射程距離には入ってはいない。
しかしこれ以上待っていては、ジグマールが爆死させられてしまう。
「大丈夫、僕を信じてくれ……!」
気圧されたわけではない。
だが、気づいたときにはギャラン=ドゥは自分の手を引っ込めていた。
こいつを信じてみよう。
そんな気分になってしまったのだろうか。

あと5センチ。
「あと少し、あと少しだ」
(信じて……いいんだな?)
指示があったらすぐにワープさせられるように、ギャラン=ドゥは構えをとる。
電車もジグマールも見ずに、ただ戦車だけに注目して、耳を澄ましていた。

あと3センチ。

あと2センチ。
ジグマールはまだ動かない。
まだ電車が射程範囲に入っていないのだ。

あと1センチ。
電車は射程距離には入っていない。
(おいィ……ジグマールゥ……)
ギャラン=ドゥは今になって、電車が射程距離から離れすぎていることに気がついた。
このままではマズい……。
たとえ戦車がジグマールに接触する瞬間にワープしたとしても、電車には届かないだろう。

そして……。
「コッチヲ見ロ~ッ!」
あと0センチ。
ワープの指示は、なかった。
「ジ……ジグマールゥッ!!」
驚き、叫んだ直後に我に返った。
まだ爆発していない……。

「ギャラン=ドゥ……!」
ギャラン=ドゥの横にジグマールはいた。
接触する直前に、ワープで移動したのだ。
突然ターゲットを見失った戦車は、一瞬だけ動きを止める。
それを確認したギャラン=ドゥがフン、と笑うのと同時に電車が射程範囲に入った。

「今だギャラン=ドゥ!」
ジグマールが叫んだ瞬間、ギャラン=ドゥが戦車を掴んで電車の中へとワープさせる。

「逝っちまいなァ!!!」

残されたエネルギーを全て使用して、爆弾戦車を電車へと送る。
ジグマールが命を賭けて図ったタイミングだ。
ここで失敗するわけにはいかない……!

エネルギーを込めた手の平から、戦車の感触が消えた。
ワープは終了した、後は電車の中にちゃんと入っているかどうか。
大丈夫だ、失敗するはずなどない。
成功したと信じて、ワープさせた方向へと視線を移した。


さて、ギャラン=ドゥは本来ならばジグマールが死んだところで問題なく行動できる。
それが最終進化だ。
しかし、この殺し合いの会場では主催者によって掛けられた制限で、ジグマールと命運を共にせざるを得なかった。
行動範囲もジグマールの周囲数メートルに限定させられていた。
そのうえジグマールの外に出られる時間は30分程度。
そのせいで、何度も死にかけた場面があった。
彼らはこの殺し合いを綱渡りのような危うさで生き抜いてきたに等しい。
そして最もつらいのが、人間ワープの有効範囲だ。
100分の1程度にまで制限された人間ワープは、彼らをとても苦しめた。

だが、今ほどその制限を憎らしく思ったことはない。

100分の1に弱体化させられた能力を、他者に使ったのはこれが初めてだ。
ジグマールを抱えて敵から逃走したときなどは、距離を気にせずに前へ前へとワープしたからよかった。
だが、今回は違う。
大幅な制限になれていなかったせいで、人間ワープの距離が狂ってしまった。

ギャラン=ドゥの目に映ったのは、電車の手前で宙に舞う戦車の姿。
戦車は電車の中に入ってはいなかった。
ワープは……失敗したのだ。

(俺の……せいか……)
ジグマールが命を掛けて繋いでくれたのに、自分が台無しにしてしまった……。
地面に着地した戦車は、すぐさま起き上がって走り出すだろう。
1人残されたジグマールは成す術なく殺される。

俺も、こいつもここで終わりなのか……。
俺のせいで……。

そう考えた瞬間、ギャラン=ドゥは無意識に走り出していた。


「そんな……」
ワープが失敗した。
その事実にジグマールは愕然とした。
と、同時にそれでもいいと感じていた。
一度だけでもギャラン=ドゥと肩を並べ、一緒に戦えた。
ずっと見ていた背中の隣で戦えた。
その結果で死ぬなら……。
(僕は……満足だ)
空を見上げ、死を覚悟する。
ジグマールの目に綺麗な月が目に映った。
宇宙の支配者になれば、あの月さえも手に入れられたのかな。
そんな大それた願いを鼻で笑った。
(僕には、宇宙は広すぎるや……僕が欲しい場所は、もう手に入れたから)
もはやこの生に悔いは……ない。

月に見とれていたせいで、ジグマールは『それ』に気づくのが数秒遅れた。

「ギャラン…………ドゥ……何を?」
彼の目に映ったのは、爆弾戦車に向けて走り出すギャラン=ドゥ。
ほとんどのエネルギーを使い切ったのに……何をするつもりなのか。


「うおおおおおおおおおおおッ!!!」
俺は何をしているのだろう。
ガラにもなく叫んでいる自分に問いかける。
俺には夢がある。
アルターワールドを築き上げるという夢が。
そのためにはジグマールに生き残ってもらわなくてはならないのだ。

……本当にそれだけか?
(それだけじゃあないだろうなァ……)
純粋に、自分の野望など度外視しても、ジグマールに生きて欲しい自分がいる。
アルターワールドを手に入れたとしても、ジグマールがそこにいなければ物足りないのだ。
すぐに慢心し、弱音を吐き、自分に頼る。
そんな男でも、自分の唯一の仲間だから。
彼が命を賭けるには十分な理由なのだろう。

戦車を片手でわし掴むと、電車の壁面に押し付けた。
「ツレションしようぜェ爆弾さんよォ!!」
少しでいいんだ。この薄い壁面を超えるだけのエネルギーさえあれば……。
……あるじゃねぇか。
俺は何で出来ている?
アルターはエネルギー体じゃねぇか。

「ゴッヂヲヲヺヺヺヺヺ……」
電車の壁面に擦りつけられて、シアーの声が大きくブレる。
彼と電車が接触している面が摩擦で大きく火花を散らしていた。

「ぬおおおおおお……」
摩擦の熱で、この爆弾が爆発する前にワープさせなくては……。
体中からエネルギーを搾り出せ!
無様な真似は晒せねぇ……相棒が見てんじゃねぇか!
ここで気張らなきゃ……アイツもろとも死んじまうんだぞ!
「見ィィ゙ィ゙ィ゙ロォォォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ッ!」
「うおおおおおおおおおおおおおッ!」

そして……

爆弾は、電車の内部にカランと落ち、後ろの壁に勢いよく衝突した。
後にはギャラン=ドゥと戦車の作り出した爆発だけが取り残された。


「ギャラン=ドゥ!!」
吹き飛ばされたギャラン=ドゥにジグマールが駆け寄る。
限界以上にエネルギーを放出した状態で、あの爆撃を食らったのだ。
ギャラン=ドゥの体は3分の2以上が欠損していた。

「ジグマールゥ……あの……戦車は?」
ギャラン=ドゥの体はどう見ても手遅れで、血液の代わりに七色の粒子を垂れ流していた。
その粒子は彼の体を構成しているアルターのエネルギー。

「あれならちゃんと電車に入ったよ……」
「そう……か」
何で泣いているんだよこいつは……。
お前の陳腐な作戦は成功したんだろうがよォ。
DIOとやらに勝てるって証明できたんだろうが。

「なんて……馬鹿なことを……」
「仕方……ねぇ、だろ……2人、とも……死ぬ……より、は。
 それに、アルター……は、死な、ない、一ヶ月……も、すれば、また……出て、こられる……さ」
たった一ヶ月だ。
お前がこの殺し合いに生き残れるかは心配だが、たとえ死んだとしても責めねぇよ。
だから、気にせず暴れて来い。ジグマール。

「そんな、君なしじゃ僕は殺されちゃうよ!」
「そう、か……そいつ、は、悲しい……な……でも、なぁ……」
まったく……弱っちい心は変わってねぇな……。
違う、お前は変わった。強くなったはずなんだ。
変わってることにおまえ自身が気づいてないだけだ。

「お前、は……もう……アルター、に……頼るな。お前……は、1人、で生きて……いける……」

「そんな! だってここにはDIOのような……」
「DIO……に、さっ、きの……アレ……が、できた……かよ?」
DIOが世界を支配するなら、その世界を捻じ曲げるのが俺たちの能力だ。
負けないさ、誰にも。

「あん、しん……しろ、お、まえ……は、最、強の……『アル……ター、使い』だ」
「『最強のアルター』使い……」
そうだ、そして……お前は……お……れ、の…………


ギャラン=ドゥは七色の粒となり、空へと消えた。
「待って……!」
上空へと伸ばした手は空を切り、バランスを失って膝を着いた。
辺りに舞い散った七色は、月光の金色と混ざり合って美しく光る。
世界で唯一、ジグマールだけが感じることの許された、名も無き色。
しかし彼の目はその色を写すことなく。何も見ることはなく。
ただ目の前の空間を見つめている。

握り締めた手の中で、虹の粒が静かに弾けた。


【E-4 北東部 1日目 夜中】

【マーティン・ジグマール@スクライド】
[状態]:全身に負傷中(治療済み) 美形 中程度の疲労 
[装備]:本部の鎖鎌@グラップラー刃牙
 アラミド繊維内蔵ライター@グラップラー刃牙
 法儀礼済みボールベアリングのクレイモア地雷(リモコン付き)@HELLSING(未開封)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:??
1:ギャラン=ドゥ……。
2:アカギの目標が聞きたい
[備考]
※アカギと情報交換しました
※人間ワープにけっこうな制限(半径1~2mほどしか動けない)が掛かっています
連続ワープは可能ですが、疲労はどんどんと累乗されていきます
(例、二連続ワープをすれば四回分の疲労、参連続は九回分の疲労)
※ルイズと吉良吉影、覚悟、DIO、ラオウ、ケンシロウ、キュルケはアルター使いと認識しました
※吉良吉影の能力は追尾爆弾を作る能力者(他にも能力があると考えています)だと認識しました。
※DIOの能力は時を止める能力者だと認識しました。
※ギャラン=ドゥはエネルギー不足で外には出てこられなくなりました。
 ですがジグマールは、人間ワープの能力を問題なく使えます。


【場所不明 電車内 1日目 夜中】
【シアー・ハートアタック@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:異常なし
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:なし、単純自動行動。
[備考]
※制限のため、一般人でも何とか回避可能なスピードで攻撃してきます。


190:人形の名を名乗った娘 投下順 192:炎の記憶
190:人形の名を名乗った娘 時系列順 192:炎の記憶
183:I bet my belief マーティン・ジグマール 193:求めたものは



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