月下の死闘、そして…… ◆L9juq0uMuo



――Scene1:いかがわしい本屋内――

こなたは悩んでいた。既にシェリスは本屋を通り過ぎ本屋は静寂と闇が支配している。
出て行こうと思えば出て行けた、シェリスにも声をかけられただろう。
しかし、それを躊躇わせたのはシェリスの格好である。
短い付き合いではあるが、シェリスが好んであのような扇情的な服装で平然と街中を歩くような人間ではないことぐらいはわかったつもりだ。
何より、その服に着替える理由がないのだ。風呂に入る前、シェリスが転んでゴミ箱に突っ込んだ時ならばわかる。
だが何故今この時に着替える必要があるのだろうか。
また転んだという可能性もあるがそれにしては小奇麗過ぎたのでこの可能性はあまり考えられないだろう。

「まさか、ね」

こなたの脳裏に『シェリスがDIOの仲間になったのでは?』という考えが浮かんだ。
しかし、こなたはその考えを否定する。否定したかった。
風呂場での一時や、昆虫怪人との逃走劇。繁華街での食べ歩き。
確かにシェリスは裏で何かを考えていた節はあった。それでも、こなたはシェリスの事も仲間だと考えていた。だから、裏切らないと信じていたかった。
そして、こなたの脳裏にもう一人の仲間の姿が浮かぶ。

「パピヨン……」

こなたの顔が曇る。
この殺し合いの場で一番長く一緒にいたであろうパピヨン。
変わり者同士、色々と話の合ったパピヨン。
自分を彼なりに励ましてくれたパピヨン。
――みゆきを殺した男と同じ、『人食いの怪物』のパピヨン。

(違う、パピヨンは違う)

パピヨンはあんな奴とは違う。
大きく頭を振って、こなたは最後に浮かんだ考えを否定する。
パピヨンの反応からして『人食いの怪物』というのは本当なのかもしれない。
だが、パピヨンはみゆきを殺したあいつとは違う。そう、こなたは思う。
第一に、そうであったとしてもパピヨンは自分達を食べずに、あまつさえ量こそは多かった物の普通の食事を摂っていたのだ。
それはつまり、自分達を食べる意思が無いと言う事。ならば何を怖がる必要があるのだろうか。
そう、自分に言い聞かせても、こなたは動く事はできなかった。
初めてこの殺し合いの場で感じた圧倒的な『恐怖』。
未だこの近くにいるであろう、みゆきを殺したDIOに対する恐怖が彼女をこの場に縫い付ける。
今、彼女は一人。戦闘に使える支給品はあれど非力な少女である。
もし、DIOに見つかってしまったら……、こなたの背筋に寒気が走る。

(でも、なんとかして喫茶店に着かないと……)

喫茶店、パピヨン達と一旦戻ろうと決めたあの場所にパピヨンや他の人も来ているかもしれない。
恐怖に震える体に喝を入れる。ここにいた所で事態は好転しない、そう怯える自分に言い聞かせ、デイパックから核鉄を取り出し、小声で告げる。

「武装、錬金」

核鉄が展開し、エンゼル御前が姿を現す。

「俺、再び参上!」
「しーっ!」

ポージングをしながら大声を出す御前の口をこなたは慌てて塞ぐ。

「むぐぐ……、ぷはぁ。いきなり何するんだよこなたん~」

非難の目でこなたを見る御前だが、ふと、自分とこなた以外にこの場に誰もいない事に気づく。
「あれ? ぱっぴー達は?」
「話すと長くなるからかいつまんで言うとだね、私たちは今それぞれバラバラにはぐれちゃったの。だから、一旦集まるって約束した喫茶店に向かおうと思うんだ。ここまでいい?」

こなたの問いに御前は首を縦に振る。

「それで喫茶店に着くまで御前様には私の目が届かない所をカバーして欲しいんだけど、頼めるかな?」
「おう! そんな事でいいのか? 大丈夫大丈夫、俺に任せておきなって」

こなたの頼みに御前が胸を張って答える。
その姿にこなたは自然と頼もしさを覚える。不思議と先程までの恐怖は少し薄らいだ。

「それじゃ行こうか」
「おう! しゅっぱーつ!」

こうして一人と一体は夜の闇の中喫茶店へと足を進めた。

――Scene2:喫茶店内――

喫茶店に到着し待つこと数十分。一向に誰かが来る気配の無いこの状況に一行は不安を覚えていた。
喫茶店で待ち合わせを約束したパピヨン達は一向に姿を見せる機会が無いのだ。不安になるのもいたしかたない。
自分達の様に何かあったのではないか? そんな思いに駆られる。
時間は7時に指しかかろうとしている、このままでは赤木との合流には間に合いそうにない、それでもせめて一人だけでもここに来てくれる事を祈って、彼らは待ち続けている。

「やっぱり、探しに行った方がいいんじゃねぇか?」
「だとしてもそれですれ違いになるのはなぁ、どこに行ったのか見当もつかねえし」

そう、探しに行きたくても彼らの所在がわからないのだ、最悪すれ違いにでもなればたまったものではない。

「なら、俺だけでも……!」
「よかった~、電気がついてたからもしやと思ったけど。知ってる人がいてよかったよ」
「おっ! 俺の元持ち主もいるじゃねーか!」

そう言って鳴海が一人出かけようとした時、泉こなたとエンゼル御前が喫茶店の裏口から入ってきた。

――Scene3:喫茶店内――

こなたの口から独歩達と分かれた後に起こった事が伝えられた。
赤昆虫人間、ストリップ劇場にいるDIO、動転し、パピヨンを置いて逃げて来てしまった事、そして様子のおかしかったシェリス。

「……DIOって野郎はストリップ劇場にいるんだな?」

こなたがうなずいたのを確認すると、鳴海は「そうか」とだけ呟き、こなたを力強く抱きしめた。

「よくここまで来てくれたな、怖かっただろうによ」

突然の抱擁に呆気に取られるこなたの頭を撫でながら鳴海は微笑む。

「安心しな後は俺が……」
「鳴海よぉ、まさか、一人で行くっていうんじゃねえだろうな」

独歩が鳴海を牽制するように尋ねる。

「……駄目かい?」

鳴海の口調から感じられる隠し切れない怒気。
刃牙という少年を狂わせ、承太郎を殺したばかりか、虫けらのようにこなたの友人である少女も殺した吸血鬼。
そのような男を野放しにはできない、かと言って全員で行けば彼女達に危険が及ぶ。
だからこそ鳴海は一人でDIOを倒そうと決意していた。

「生憎と、俺も野郎には借りがあるからな。こればっかりは譲れねぇよ」

独歩の目に一瞬だけ映った殺気。
刃牙がおかしくなった元凶であるその男。
勇次郎、いや、戦う気の無い無抵抗な人間すら殺す勇次郎以上の外道であるその男を生かしてはおけないと考えるのは独歩も同じであった。

「それに、シェリスの嬢ちゃんの事も気になる」

こなたから聞いたシェリスの様子がおかしい事はこの殺し合いが始まってからほとんどの時間を一緒にいた独歩がよくわかっていた。
シェリスも、刃牙と同じように、DIOと会ってから様子がおかしくなったと聞く。
嫌な予感が頭から離れなかった。
もしも、彼女もDIOの魔の手にかかっていたとしたら……。
繁華街に向かう途中、楽しそうに想い人である劉鳳の事を話していたシェリスの事を思い出す。

「もしも野郎が嬢ちゃんに何かしたとあっちゃあ、尚更俺が野郎をぶちのめさなくちゃならねぇ。それに、俺の方がお前よりも体力は消耗しちゃいねぇし傷らしい傷もねぇ。だから……」
「独歩さんの言う事もわかる、それでも駄目だ。独歩さんはここに残って二人を守ってくれ。パピヨンって奴もここに来るかもしれないんだ。だからここで皆で待ってて欲しい。
俺の怪我だって生命の水の効果で殆ど治ってるし……」

どちらも思う事は一緒、そして揺らぐことのない決意。だからこそ互いに引くことはできない。
ダン、とテーブルを叩く音が響いた。
全員の視線がテーブルを叩いた少女、ナギへと向けられる

「ええい! 大の大人が二人してごちゃごちゃと。こんなところで言い合いしている暇があるなら皆で行けばいいではないか」

遅々として進まない状況に苛立ちを覚えたナギの一喝。

「どっちが倒すかなんてどうでもいいだろ! そんな奴に遠慮はいらん、二人でボコボコにしてやればいいではないか!」
「何言ってるんだ!? それじゃあお前等が……」
「ん~、私もナギの意見に賛成かな。」

ナギの意見にこなたが賛同する。

「こんなに時間が経ってもパピヨンが来ないって事はきっと私たちを探しているかまだ戦っている筈だと思うんだよね。だったら私も早く合流したいし、もしかしたらDIOの情報を何か握ってるかもしんない」
「それに私にはスパイスガール、こなたにはエンゼル御前がある。こなたのエンゼル御前は後方支援が主だし、スパイスガールは機転が利く。危ない真似も極力しない、だから――」
「駄目なもんは駄目だ!」

ナギの頼みも鳴海は拒絶する。独歩も賛同する気はないようだ。

「力があってもお前達は子供なんだぞ! そんな危ない真似させる訳にいくか!」
「私だって鳴海一人に危ない真似をさせる訳にはいかない!」

鳴海に負けじとナギが言い返す。

「私はお前の仲間だ! 三千院家の頭首たる者が仲間を見捨てる訳にいくか!」

鳴海に言い返す暇も与えずにナギが続ける。

「私たちは仲間じゃないか、鳴海が私達の力になってくれるなら、私達も鳴海の力になる」

喫茶店は静まり返り、BGMだけが流れている。

「……仕方ねぇな」

独歩が沈黙を破った。

「おい、独歩さん!!」

何か言おうとした鳴海を独歩が手で制した。
「ただし、俺達が危ないと思ったらすぐにお前等の事を逃がすぜ、いいな?」

その問いに、ナギとこなたは首を縦に振った。
それを確認すると、独歩は鳴海と向き直る。

「こんなところで言い合いしてる暇はねぇ、ナギの言う通りだ。ここは大人の俺らが譲歩するしかねぇよ。な? そうだろ鳴海よぉ」

それでも不満そうな顔していた鳴海だが、ナギ達の真剣な視線に、ついには観念した。

「……わかった。でも危なくなったらすぐ逃げるんだぞ? いいな」

それを聞いて、ナギとこなたは表情を明るくした。

「まったく、これだから子供はよ」

鳴海が苦笑交じりに呟く。
それを聞き逃さなかったナギが不満げに頬を膨らました。

「こら、子供扱いするんじゃない!」
「そうだよー私だってこれでも17歳なんだから」

こなたの発言に場の空気は凍りついた。
こなた以外の三人+一体の表情が驚愕に染まる。

「じゅ、17歳だとぉ? お前、俺のたった二つ下だったのか!?」

今度はそれを聞いた鳴海以外の三人+一体が信じられないといった表情を浮かべる。
鳴海の発言に場は更に凍りついた。
加藤鳴海19歳。
泉こなた17歳。
外見だけ見れば相当離れて見えてもおかしくないこの二人、その年の差僅か二年である。

――Scene4:繁華街裏通り・ストリップ劇場前――

「……ここか」

こなたの案内により辿り着いたストリップ劇場。
ストリップ劇場の中から確かに感じられる圧倒的な威圧感。
それはつまり、ここには誰か、それも一筋縄ではいかないような力を持つ何者かがいるという事を意味している。
一刻も早く着きたかったが、四人も乗る事はできなかったので黒王号は喫茶店に待たせてある。

(帰ってきたんだ)

一番後ろにいるこなたは自分の体が恐怖に震えているのを感じた。
自分が改めてこの場が殺し合いであるという事を思い知らされた場所。
今にも恐怖に押しつぶされそうになる。それでもパピヨン達が心配なのだ。その一心でここまで来たのだから。
こなたが意を決するのと同時に、彼女の首に何者かの腕がかかった

「こなたーん!!」

御前が叫び、全員が振り向く。しかし遅かった。

「動かないで」

振り向いた三人の目に映った物、それは、喉元にナイフを突きつけられたこなたと、そのこなたを抱きかかえるようにしてナイフを喉元に突きつけているシェリスの姿だった
鳴海と独歩は心の中で舌打ちをしていた。ストリップ劇場から感じられた気配にばかり集中し、周りの気配を探るのを怠っていた。

「また会えたねおじさん、それと、知らない人達がこなたの言っていた仲間かな」

まるで、朝に偶々居合わせた知り合いでも話すかのような調子でシェリスは話しかける。
こなたを人質に取られ、鳴海達は動こうにも動けない。

「……あんた、DIOって野郎に何かされたんだな?」
「……そっか、やっぱりDIO様の事、こなたから聞いたんだ」

強烈な敵意にあてられても尚、シェリスは笑顔を崩さずにそう答えた。
DIO『様』。その言葉だけで充分だった。

「嬢ちゃん、何でだ」

独歩が悲痛に満ちた顔で尋ねる。
信じられなかった、繁華街に来る途中、逆十字号で浮かべていたのと同じ笑顔を浮かべ、こなたを人質に取っているシェリスの姿が。

「DIO様はね、約束してくれたの。劉鳳と一緒にしてくれる。一緒に脱出させてくれるって、永遠の命を授けてくれるって」

シェリスは子供の様に目を輝かせて答える。
鳴海はその表情を少し前に見ていた。
DIOの事を話す刃牙と同じ表情、DIOという人間に心底心酔してしまった者の表情だ。

「お前、本当にそんな事信じているのか!? DIOという奴が約束を守ると思っているのか?」
「ええ、もちろん」

ナギの問いにシェリスは即答する。

「DIO様の言う事は絶対だもの」

肉の芽により忠実な下僕となったシェリスは怖気がするほどに曇り一点のない笑顔でそう言ってのけた。

「で、あんたは俺達を倒しに来たって事か」
「勘違いしないで、ただ私はDIO様に案内しろって頼まれただけよ」

鳴海の鋭い視線をシェリスは気にも留めずに続ける。

「実はね、私、DIO様への生贄を探している時、偶然に貴方達を見つけたの。本当にびっくりしたんだから。
おじさんとこなた、それに知らない二人がDIO様のいるここに向かってくるから、私も慌ててDIO様の元に戻ってその事を伝えたわ。そしたらね」

シェリスが鳴海へと視線を向けた。

「DIO様があなたとお話がしたいんですって」
「なんだと?」

何故自分を呼ぶのであろうか、鳴海の頭に疑問が浮かぶがそれはシェリスの言葉により中断される。

「だから私のすることは人払いって事」

そう言うとシェリスはこなたを連れ、後ろへと下がる。

「私は逃げる。おじさんとそっちの女の子が私を追う。もしも二人が来なければ……わかるわよね?」
「皆、私の事は……」

「構わないで」と言おうとしたこなたの喉下にチクリと刃先が当たる。
シェリスが口元に人差し指を当て、こなたが喋る事を制する。

「駄目だよこなた。皆そんな薄情な人じゃないんだから。それとエンゼル御前、だっけ?それは戻してくれないかな」

この状況では言いなりになるしかできず、こなたは仕方なく武装解除し御前は核鉄に戻った。
変わらずに笑顔を浮かべ、シェリスは徐々に距離を離していく。
それを追うように、独歩が一歩前に出た。

「鳴海よぉ、俺ぁこれ程自分が無力だと思った事はねぇよ」

独歩が苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる

「だが指名されたんならしょうがねえ、嬢ちゃん達は俺にまかせな。その代わり……」
「ああ」

ただならぬ気配に独歩が鳴海の表情を見る。

「野郎は必ず」

加藤鳴海は怒っていた。女子供であろうと平気で狙い、人の想いを利用し凶行をさせるDIOという男に。

「俺が叩きのめす」

そこには一人の悪魔がいた。

「だから、行ってくれ」
「おうよ、だがな、死ぬんじゃねえぞ」
「ああ、まだやらなくちゃいけない事があるしな」

そう行って二人はかすかに笑った。

「ナギ、無理はするんじゃねえぞ」
「それはこっちの台詞だ馬鹿者! お前は私の仲間なんだからな、こんなところでやられたら許さんからな!」
「へっ、そんな怖い激励をされちゃあ、尚更負けられねえな」

そう言っておどけると、鳴海はストリップ劇場へと足を進めた。

「さてこっちも追いかけっこを始めるかい。ナギよ、ちょいと荒っぽいが勘弁してくれよ」
「うわわ! いきなり何をする」

そう言うと独歩はナギを無造作に抱え上げ、ナギが不満を言う。

「あはは、それじゃあこっちよ。ついてきてね!」

そう言うとシェリスは駆け出した。

(鳴海、絶対に死ぬんじゃねえぞ!)

シェリスの後を追い、独歩は駆け出した。
駆ける独歩を背で送り、鳴海はストリップ劇場を、いや、ストリップ劇場の中にいるであろう男を睨みつける

「首を洗って待ってやがれDIO」

そして鳴海は、DIOの待つストリップ劇場の中へと足を踏み入れる。
ギイ、とステージへと続くドアが開かれた。
静まりかえった舞台の上、四色のスポットライトの上に置かれたソファの上で、こなた達が遭遇した時とまったく変わらず、DIOは腕を組み、笑みを浮かべ鎮座していた。

「ようこそ、加藤鳴海君」
「テメェがDIOか」

鳴海がDIOを目で射殺さんばかりに睨みつける。
対するDIOは臆する様子も無く悠然と笑みを浮かべて鳴海を見下ろしている。
その笑みは人間という種を超越しているからこそできる、絶対的強者が浮かべる全ての者を見下した笑み。

「ほう、名前を知っていても動揺しないという事は、こなたから聞いたか。私の所持していたプロフィールの事を」
「ああ、他にも色々と我慢できねぇ話も聞いた」

鳴海が腰を落とし半身を前に出す、三式立ちの構えを取る。
対するDIOは舞台から降りたものの依然として腕を組んだままだ。

「何で、俺を呼んだ」
「何、単にしろがねとやらの血が気になっただけだ。他意は無いよ」
「そうか」

周囲の空気が張り詰める。

「なら遠慮なく」

鳴海が全身に勁を込める。

「テメェをぶちのめすことができるぜ!!」

怒声と共に鳴海がDIOに向かって一直線に駆ける。

「ふん、確か形意拳だったか。人間がちょいとばかし鍛えただけでこの『ザ・ワールド』の拳に勝てる訳がないだろう」

突っ込んで来る鳴海に対してDIOの体から金色の人形『ザ・ワールド』が現れ、右ボディーブローが放たれる。
『ザ・ワールド』の拳が直進してくる鳴海に直撃することは必至、このまま行けば、何かがめり込む鈍い音とともに鳴海が吹き飛ぶ事になるだろう。しかし。

パン!

小気味のいい音と共に『ザ・ワールド』の拳が横に逸れた。
そしてその事にDIOが驚愕する暇も無く、勁を込めた拳が『ザ・ワールド』の頭部を捉えようとしたが、それは『ザ・ワールド』の左腕で止められた。
自分の放った攻撃を受け流し、こちらへと攻撃を放つ相手、それは今までDIOが戦ったことの無いタイプの人間であった。
追撃を避けるためにDIOは跳躍し舞台の上に降り立つ。

「生命エネルギー、確か『気』とか言ったか、波紋には及ばないが少々堪えるな、そして中々の体裁き。今までこのDIOが相手にした事が無いタイプの格闘技だ……」

少々痺れている左手を振りながら、DIOが感心する。

「さっきの人形がテメェの力か?」
「いかにも。これが我がスタンド『ザ・ワールド』、名の通り世界を制する力だ。まあ他にも色々と力はあるがね。例えば、『自らの下僕を作る能力』とか」

その言葉に鳴海が反応した事にDIOは内心ほくそ笑んだ。
勝利の為であるならばどのような戦法も使うそれがDIOという男の戦い方だ。

「それでテメェは乗る気も無かった刃牙もシェリスも下僕にしやがったってのか!?」

怒りに任せて鳴海が吼えた。
その内容に一つだけ間違いがある事を知り、DIOは笑顔を浮かべた。

「……一つだけ、貴様は勘違いをしている。刃牙は彼の意思に関係なく我が配下にした、それは認めよう。しかし、シェリス・アジャーニは違う。彼女は自らこのDIOに仕える事を望んだのだ」
「何……だと……!?」

我が耳を疑った。信じられなかった。シェリスと独歩が言っていた少女が、自分からこの男に、平気で人を殺したこの男に協力した。その事が信じられなかった。
一瞬の動揺、そしてそれを見逃すDIOではない。
跳躍、距離を詰める。

「どうした? ガードがお留守だぞ?」

『ザ・ワールド』の拳が鳴海の腹にめり込む。
鳩尾に一撃、続けざまに。
顔。
肩。
腕。
胸。
腹。
足。
拳打は段々と速度を増していく

「無駄無駄……」

息つく暇も与えずに『ザ・ワールド』は無数の拳打を放つ

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
UWWWRRRYYYAAAAAA!! 無駄無駄無ゥ駄ァッッッ!!!」

『ザ・ワールド』のラッシュを諸に受け鳴海が吹き飛び、轟音と共に観客席へと突っ込む。
もうもうと粉塵が舞う。