月下の死闘、そして……(中篇) ◆L9juq0uMuo



「ぐ、う……」
「ほほう、あれで尚生きているとはしろがねとやらも大した生命力だな」

無数の拳を受け、血まみれとなって尚、動こうとする鳴海。
しろがねの耐久力に、まるで最新鋭の玩具を見つけた子供のようにDIOが感心する。

「そうだ君に一つ、面白い話をしよう。刃牙とシェリスという二人の哀れな人間の話だ」

唐突に、DIOが嘲笑混じりに喋りだす。

ピク

その言葉に鳴海が反応したのを確認し、DIOは続ける。

「刃牙は父親、勇次郎だったかな? 彼を超えると言っていた。みゆき達の吸殻を見たときは怒り狂ってね、流石の私も危なかったよ。
だが『ザ・ワールド』の前には彼も勝てず、私に敗北し、忠実な下僕になった。さっきまで殺人者に怒りを覚えていた少年が殺人者に手を貸す。よくできた悲劇じゃないか」

さも楽しそうに、DIOは語り続ける。

「シェリスという女は、私を利用する気だったようだ。何よりも劉鳳に会いたいんだそうだ。だが、劉鳳という男は私の軍門には降らないであろうな。
だからシェリスは使い潰すだけ潰す。全てはこのDIOの勝利の為にな」

ストリップ劇場にDIOの高笑いが木霊する。

「うるせえよ」

静かな、底冷えのする声が響く。
鳴海が立ち上がる。
全身には痛々しい打撲跡といたるところからの出血。だが、そんな事はどうでもいい。
刃牙は、DIOに会わなければ凶行に手を染め死んでいく事は無かった。
シェリスは、DIOが願いを叶える気が無いというのに、それを信じて今は非道な行いに手を染めている。
目の前の男、DIOがそれをさせた。
鳴海が、地獄の鬼ですら泣いて許しを請うであろう、凄惨な表情を浮かべた
怒れる悪魔がそこにいた。

「ふむ、怒ったか? そして今からその体でこのDIOを倒そうと言う訳だ」

鳴海の悪鬼の如き表情を見てもまるで動じずに、口元に嘲笑を張り付かせたままDIOが挑発する。

「テメェはもう喋るんじゃねえ。そのふざけた笑顔ごと俺がブチ壊してやる」
「ほう、ならば試してみろ! このDIOに対してなぁ!!」

獣の如き雄たけびを挙げ鳴海が踏み込む。
勝った。DIOはそう確信する。
怒りは精神を滞らせ、視界を狭くし、いずれは負ける。DIOはそう考えているし、大概はそうだ。
だがそれは悪手。
DIOは知らない、鳴海と戦った刃牙が同じ考えを持った事を。
DIOは知らない、加藤鳴海という人間は、どんなに怒ろうとも身についた戦いの体裁き、そして心の置き所は見失わない事を。
鳴海の突きを軽々と避け、お返しとばかりに『ザ・ワールド』の右ストレートが鳴海へと迫る。
だが、それを鳴海は躱す、拳が何も無いところを打つ。そして

ドン

「ごふぁぁっ!?」

形意拳五行拳の一つ、崩拳。
相手の攻撃に合わせ中段突きを放つカウンター技。
気を練りこんだその一撃にDIOは大きくよろめく。

「オオオオオオオオオオオッッッッッ!!!」

休ませる暇無く鳴海が駆ける。

「いい気になるなよ糞がッ!」

飛び込む鳴海の頭部を西瓜割りの西瓜の如くかち割らんと、『ザ・ワールド』の拳が迫る。
だが、それは、鳴海の両手の最小の動作によって上方へと跳ね上げられる。
そして、その両手がDIOの胸板を捉えた。
形意拳十二形拳の一つ『虎拳』を崩拳の名手である郭雲深が、獄中で手枷をつけられたままでも仕える技として変形させた、より小さい動作で放つ『虎拳』、名を『虎撲手(コボウシュ)』。
崩拳に続きまともに技を受け、たまらず吹き飛んだDIOの体はパピヨンとの戦闘で崩壊していた劇場の壁から外へと出る。

「『ザ・ワールド』!」

鳴海が動くより早く、『ザ・ワールド』が時を止めた。
ここから鳴海のいる場所までは1秒以上かかる、鳴海に対して攻撃はできない。
だから、DIOは逃走を選択した。

「ぐ……、甘く見ていた……、スタンドも使えないイエローモンキーだと……、気とやらのせいで予想以上のダメージも受けた。
とにかく今はシェリスと合流し人質の血を我が糧とするのが先決か。負けは無い、承太郎が死んだ今、このDIOに負けなどないのだ!」

DIOは跳躍する。そして、時は動き出す。
鳴海が気づいた時、DIOはすでに彼方へと跳躍していた。
いつの間にあそこまで飛んだのかはわからない、だが鳴海はそれを考えるよりもDIOを追う事を先決とした。
「野郎、逃がすかよ……!」

ぼろぼろの体で、鳴海もまた追跡を開始した。

――Scene5:繁華街――

店が連なる道路でシェリスは独歩・ナギと向かい合う。
状況は膠着状態だがそれこそがシェリスの任務なので問題は無い

(私、どうなっちゃうんだろう?)

ナイフを突きつけられ、人質となっているこなたは考える。
独歩とナギが動こうものならナイフは躊躇いなく自分の喉を掻き切るだろう。
シェリスが逃走に成功すれば自分に待っているのはDIOの餌だ。

(どっちも嫌だなぁ)

走馬灯のように今までの出来事が頭に浮かぶ。
平和な日常、日常の崩壊と首が吹き飛んだメイドの少女、ハヤテ・カズキとの遭遇、勝の決意、シェリスとの逃亡劇、ナギ・独歩・鳴海との喫茶店での邂逅、そして……

『くだらん。万物は流転するがそれでもなお変わらない不変の物を指して蝶サイコーと言うのだ』

迫り来る死の恐怖の中思い出す、パピヨンとの馬鹿馬鹿しくも愉快な会話。
時折理解しかねる行動をとる時もあるけれど、この殺し合いで一番打ち解けた、頼りがいのある仲間

(パピヨン、せめて最後にもう一回会いたかったな)

あんな別れ方が最後なのは嫌だな、思考の片隅でそんな事を考える自分がいた。

「……ピ……ン」
「ん? こなた、何か言った?」

こなたが何かを呟いたのをシェリス聞き逃さなかった。

「パピヨン、パピヨーン!」

これが最後になると思った時、こなたは何故かパピヨンの名を叫んでいた。
そんなこなたに対し、シェリスは嘲笑を浮かべる。

「何言ってるのよ、ヒーロー物じゃないんだからそんな事で来る訳が……」

無い。そう言おうとしたシェリスの右腕、ナイフを持っている方の手が突然引っ張られ、こなたの喉元を離れた。

「それが来るんだな。これが」

後ろから聞こえるのは聞きなれた声、そしてその姿が月光に照らされ露になっていく。
ぴっちりとしたエレガントなスーツに蝶々のマスク。そうパピヨンその人である。

「お前達を探していて泉の声が聞こえたんで来てみれば……。泉こなたには手を出すな。そう忠告しておいた筈だが?」

そう言うとパピヨンはもう片手で、こなたを拘束していたシェリスの腕を強引に引き剥がし、ヤクザキックでシェリスを蹴り飛ばした。
人外の怪力で蹴り飛ばされたシェリスは宙を舞い地面と擦れる。

「パピ……ヨン?」

呆けたようにパピヨンを見、彼の名前を呟くこなたに対し、パピヨンはチッ、チッと指を振る。

「パピ♪ヨン♪ もっと愛を込めて」

何か言おうとするこなたを制してパピヨンはこなたの手に頭を置く。

「泉、確かに俺は人食いの化け物だ。お前が怖がるのも無理はない。だがな、今日今まででお前に見せた俺も、紛れも無く蝶人パピヨンたる俺自身の姿だ。それだけは覚えておいけ」

パピヨンはそれだけ言うと、すぐにシェリスの方に向き直る。
そんなパピヨンを見てこなたの顔に自然と笑みが浮かぶ。
今まで一緒にいた、自分が見て、接してきたパピヨンも紛れも無くパピヨン自身。それだけで、こなたには充分だった。

「さて、お前はDIOの軍門に降ったんだ。判っているんだろうな」

ヒ、とシェリスの口から短い悲鳴が漏れた。
シェリスは知っている。パピヨンという男は敵に回れば容赦しないと言う事を。

「ちょっと待っちゃくれねえか」

独歩の静止にパピヨンが立ち止まり、ジロリとドブ川の濁ったような目で独歩を睨む

「嬢ちゃんはDIOの野郎に操られているだけなんだ。だから……」
「生憎、敵は生かしておけない性質でな」

パピヨンの意見は頑として変わらない。

「どうしても、か?」
「どうしても、だ」

二人の間に一触即発の空気が流れる。
その刹那、二人の間に何かが転がりこんで来る。

「!? 伏せろォォォッ!」

独歩が叫び、パピヨンと独歩がそれぞれこなたとナギを庇うようにおおい被さる。
閃光、そして轟音。スタングレネードの光が周囲を包んだ。

「はあ……、はあ……」

スタングレネードを投げた張本人であるシェリスは大きく擦り剥いた右腕を押さえながらストリップ劇場への道をひた走る。
作戦失敗の時の為にDIOが持たせておいたスタングレネードが役に立った。
スタングレネードを投擲すると同時に近くにあった店へと侵入し、そのまま裏口から退避した。
今頃あの四人は爆音と閃光で一時行動不能になっているだろう。
その内に早くDIOと合流し、指示を仰がなければ。シェリスの心を焦燥が支配する。
そんな時だった、繁華街を跳躍し、肩で息をするDIOに遭遇したのは。

「DIO様、大丈夫ですか!?」

蒼白な表情でシェリスはDIOへと駆け寄る。DIOは約束した、彼女と劉鳳を一つにすると。
それが嘘かどうかは関係ない、今のシェリスに取ってそれは信じて当然の事なのだから。

「シェリスか、その様子では失敗したのか」

底冷えのするような声色に、シェリスは萎縮する。

「も、申し訳ありません! パピヨンに邪魔されてしまって」
「……そうか、パピヨンも来ているのか」

それだけ呟くと、DIOは思考する。

「まあいい。背に腹は変えられない、か」

DIOの呟きにシェリスが怪訝な表情を浮かべる。

「DIO様?」
「ああ、すまないな、シェリス。ちょっとばかし予定を早めよう。そう、ここらで君の願いを叶える事にする」

「え?」とシェリスが聞き返すより早く、DIOの指がシェリスの首へと突き刺さった。

「君と劉鳳が一緒になる」

DIOが酷薄な笑みを浮かべる。
DIOの一瞬の思考。
頼みにしていたシェリスの人質もパピヨンの乱入により解放された。
『ザ・ワールド』を使い距離を離したといってもたかだか一秒時を止めた程度だ、そう長くない内に鳴海に追いつかれる。
DIOは考える。シェリスの力で強化したところで、先程の戦いで更に消耗した自分ではどの程度持つのかと。
『強化』と『体力の回復』。
苦渋の決断の末、DIOが取った行動は後者だった。

「君の血と劉鳳の血、それを全てこのDIOの物にすれば君達は念願どおり一緒になれる。そして、その私が脱出すれば、それは即ち私の血肉となった君達も脱出する事ができる。違うかね?」

ズキュンズキュンとシェリスの体から血が抜かれていく。
年相応の張りのある瑞々しい美貌がまるで人生を早送りで見ているかの様に、段々と痩せこけてしわがれていく。
どこか絶頂にも似た吸血される感覚。絶頂との違いがあるとすれば、命という代価が支払われ続け、絞りカスになるということだろうか。

(私、どこで間違っちゃったんだろう……?)

薄れ行く意識の中シェリスはふと考える。
DIOと手を組むと決めた時だろうか、それとも保身の為に人殺しを辞さないと決意した時だろうか。
だが、それは過去の話だ、悔やんだ所で何も変わりはしない。
そしてもはや殆ど機能しなくなった思考能力が最後の最後で思い浮かべた最愛の人。
もはや、会う事は叶わなくなった最愛の人。
ふと、こなたが、さっきパピヨンの名を叫んだ気持ちがわかった気がした。

(ねえ……劉鳳、どこ? 会いたいよ……ねえ……)
「劉……鳳……」

呟きとともに流れた一筋の涙。
そして、シェリスの意識は完全に闇の中に沈んだ。

――last scene:繁華街――

「どこにいやがるDIO!」

叫びながら鳴海が駆ける。
怒りの形相のまま鳴海が駆ける。

「どこだぁ!!」
「そう叫ばずともここにいるぞ、鳴海」

繁華街の小道に出た時、不意聞こえた声の方を向く。
そこには肩にかけていたに三つのデイパックを足元に置き、先程と同様に不敵な笑みを浮かべるDIO。
そしてその足元にはボンテージに身を包んだミイラが転がっていた。
まさか。
鳴海の頬に冷たい汗が垂れる

「ご察しの通りシェリス・アジャーニだった物だ。もっとも今は」

DIOの足が上がる。

「ただのゴミだ」

グシャ、という音と共にミイラの頭部であった場所が潰れた
無慈悲に無感情に降ろされた足、潰れた頭、哄笑するDIO。
気づくと鳴海は飛び掛っていた。

「貴様ァァァァァァァッッッッッ!」
「『ザ・ワールド』! 時は止まる」

突っ込んで来る鳴海に対し、『ザ・ワールド』の能力を発動。シェリスの血を吸った事により体力も若干の余裕がある。
DIOが歩を進めるが、時を止められた鳴海はそれを認識する事はできない。

「どれ、胸を貫いてもなお生きていられるか試してやろう」

『ザ・ワールド』の丸太のように太い腕が、鳴海の右胸を貫通した。
その手を抜き放ち、横に振って鳴海の血を払う。

「そして、時は動き出す」

鳴海は、理解できなかった。
たしか、シェリスの死体の頭部を破壊された事に憤ってDIOに向かっていた筈だ。
それが今、後ろに吹き飛び、右胸から血を盛大に噴出し激突した壁にもたれかかっている。

「UUUWWWWWWRRRRRYYYYYYYYYY! どれだけ腕っ節が強くとも、貴様もこの『ザ・ワールド』の前では敵足りえんのだ鳴海!
所詮は人間! 『帝王』たるDIOの前では搾取される『奴隷』に過ぎんという事だ!」

夜の闇、月明かりに照らされたDIOが高らかに笑う。
対する鳴海は壁にもたれかかったまま動かない。

「……だが、しろがねとやらの生命力ならば生きていても不思議は無い、か」

そう言うとDIOは懐のライドルを取りだしサーベルへと形状を変える。

「貴様の首を切断し、確実に止めを刺してから、その血を頂くとしよう」

一歩一歩悠々とDIOが死に体の鳴海へと足を進める。その姿、その威風は正に絶対的強者、『帝王』の証。
対する鳴海は動こうとしても体に力が入らない、胸の傷は修復を始めたが出血量が多いのだ。
『帝王』DIOが『奴隷』のようにボロボロの姿で動くことさえままならない鳴海の前に立った。

「一つ良い事を教えてやろう。 貴様と戦う為に遠ざけた貴様の仲間は全員無事だ。厄介な事にパピヨンと一緒にな」

それを聞いて、鳴海は内心安堵するとともに何故DIOがそんな事を口にするか疑問に思った。

「何故そんな事をわざわざ言ったのか疑問に思っているな? 何、今すぐお前の後を追うのだ。知っていた方が悲しみは少ないだろう?」

それはつまり、DIOの殺人予告。
死にいく鳴海に最後の最後に最大級の絶望を刻みつけようというのだ。

(なん、だと……?)

鳴海の体に僅かだが力が篭る。

「貴様には時間をかけすぎたからな、まずはパピヨンと愚地独歩を貴様にもみせた『ザ・ワールド』の真の力で始末する。
次に泉こなたと、……シェリスから聞いた特徴からすると三千院ナギかな? その二人にゆっくりと恐怖を刻み付けて始末するとしよう」

独歩の、パピヨンの、ナギの、こなたの、それぞれの顔が浮かぶ。
もう誰もこいつには殺させない。その思いと裏腹に、体はなかなか言う事を聞いてくれない。
ギリ、と歯軋りの音がする。
鳴海が顔だけを上げ、殺気を込めてDIOを睨む。

「ふん、貴様はちょっとばかし強くなった程度の人間の分際で、このDIOに退却という『屈辱』を味あわせたのだ。その怒り、その『屈辱』に『絶望』を添えてあの世に旅立たせてやる」
「テ……メエ……!!」
「絶望と怒りに染まったいい顔だ。それが見たかった」

鋭く尖った犬歯覗かせ、ニヤリ、とDIOは笑い、ライドルを振り上げる。

「さらばだ鳴海、このDIOに逆らった事を後悔して死ね」
「ウオオオオオオオオオオオ!!」

鳴海が吼える。
そしてライドルが、振り下ろされた。

(もう、ここまでなのか)

ニヤリと笑うDIOを見ながら鳴海は思う、自分はここで終わるのか。目の前の男を倒せずに終わるのか。
――また、誰かを守れずに終わるのか。

(終われねえ……)

そう、終われない。守れなかった勝に誓った、守ることができなかった自分に誓った、仲間を守ると誓った。

(絶対に終わる訳にはいかねえッ!!!)

その意地が、闘志が、思いが、鳴海の体に喝を入れる。
死に体の体にふつふつと力が湧きあがる
DIOのライドルを持った腕が振り上げられた。

(俺は今度こそ、守って見せる! もう誰も、俺の仲間は……)
「さらばだ鳴海、このDIOに逆らった事を後悔して死ね」
(死なせねえ!!)
「ウオオオオオオオオオオオ!!」

鳴海が吼える。
ライドルが振り下ろされる。そして、
鳴海の拳が、DIOのライドルを持っていた手を砕いた。その衝撃でライドルが後方に飛ばされる。

「何!?」

DIOの視線が思わず飛ばされたライドルを追う、その刹那、DIOの顔面に拳が炸裂した。

「GAA!!」

その拳が鳴海の物だと理解するより速く、雄たけびを上げ鳴海の拳が迫る。
正拳が。
掌打が。
肘打ちが。
裏拳が。
蹴りが。
ストリップ劇場でのDIOの拳打へのお返しかのように次々と炸裂する。
鳴海はDIOの『ザ・ワールド』の真の力も対抗策もわからない、それでも打開策はある。
攻撃は最大の防御、DIOが『何か』をするというのなら、その『何』かをさせる暇も与えないほどの速度の連撃をすればいい。
流れるような動きで次から次へと鳴海の攻撃がDIOの体に吸い込まれるようにして決まっていく。
対するDIOは波紋と似た性質を持つ『気』の篭った攻撃をまともに受け、対応できずにいた。そして、

――崩

鳴海の渾身の崩拳がDIOの腹部に決まり、DIOが吹き飛んだ。
DIOの誤算、それは『帝王』であったこと。
余計な事を話さず、鳴海を殺していればよかった。
だが、自らが下に見る人間という名の『奴隷』にいいようにやられてしまった事が『帝王』のプライドに傷をつけてしまった。
『帝王』は慢心するが故に『奴隷』に刺された。自らを窮地へと追い込んだ。
止めを刺そうと駆ける鳴海。しかし、DIOの目から二つの何かが飛んできた。
慌てて避けようとしたが間に合わず、右肩の肉が抉り取られ、血が噴出する。

「ぐうっ!」

鳴海が何が起きたか理解するより早く、DIOが立ち上がった

「鳴海、貴様ァ……!!」

怒りに燃えるDIOと満身創痍の鳴海が向かい合う。
DIOが犬歯を剥く、鳴海が三式立ちの構えを取る。
DIOと鳴海は考える。恐らくこれが決着になると。

「恐れ入ったよ鳴海、人間風情がここまでやってくれるとは思わなかった」
「テメェはその人間風情に負けるんだ。覚悟はできたかよ」

鳴海が構える。
DIOは悠然と立っている。
風が二人を撫でる。
その時、DIOが不意に手を動かした。
手の動きにより勢い良く飛んだ血は鳴海の目へと入る。文字通り、身を削った目潰し攻撃。

「!?」

血の目潰しにより鳴海が一瞬怯む。
DIOが勝利を確信し、その顔が嘲るような笑みを浮かべた。

「どうだ! この目潰しは! 勝った! 死ねぃ!」

『ザ・ワールド』の足が鳴海を粉砕しようと迫る。
だが、この時DIOは一つだけミスをおかしていた。
プロフィールにも書いていない、加藤鳴海に関してDIOが知らない、知りようの無い情報。
ある時鳴海が形意拳の師を訪ねた時、鳴海の師は一つの試練を課した。
それは、夜の闇の中、目隠しの状態で刃物を持った複数の人間との戦い。
鳴海にとって圧倒的に不利な状況。だが、鳴海はこれをやってのけた。
師の教え通り、相手の敵の骨のきしみ、血の流れ、空気の流れを感じ、これを成し遂げたのだ。
そう、鳴海にとって視力が効かないという事は、大した事ではないのだ。
鳴海の耳が迫り来る足を察知する。
紙一重、瞬時に屈みその蹴りを避ける。

「何!?」

驚愕するDIOの顔に裏拳、
息つく暇も与えず聖ジョルジュの剣を展開、狙うはDIOの首。

「『ザ・ワール……』」
「遅ぇ!」

『ザ・ワールド』が時を止めるより早く、鳴海の聖ジョルジュの剣がDIOの首を跳ね飛ばした。
勝った。そう思った瞬間、鳴海のわき腹を何かが抉った。
鳴海の腹部から鮮血が迸る。