Crazy Diamonds~歪んだ輝きふたつ~ ◆6YD2p5BHYs



「……麻酔もないから痛いだろうが、動くなよ。下手に動かれると余計にややこしいことになる」
「んッ……グッ……うっ……!」

適当に侵入した民家の中。
優しさの欠片もない前置きの後、鼻の穴から1本の箸が突っ込まれる。
ごりっ、ごりっと、潰れた鼻骨が鼻腔の側から押し上げられる。
男の予告通りの痛み――いや、痛いなんてものではない、思わず叫びだしたくなるような激痛だ。
それでも内側から持ち上げ、外側から形を整え、へし曲がっていた鼻が元の形に近い状態になる。
鼻の上に横一文字の傷痕が残る、普段通りの彼女の顔だ。

続いて鼻の穴に突っ込まれたのは、何の変哲もない1本のストロー。
男は迷わずその一方の端に口を当てると、ズズッと吸い出す。
ペッ。
乱暴に吐き捨てられた赤黒いゼリーのようなものは、鼻腔の奥に溜まっていた固まりかけの血と粘液。
二度三度それを繰り返し、もう出てくる液体が無くなったところで、ようやくストローが引き抜かれる。

「……これでよし。大雑把な処置だが、多少は呼吸が出来るようになったんじゃないか?」
「……ああ。だいぶ楽になった。ありがとう……と言っておくべきかな」
「礼はいらん。あくまで俺のためになるからやったことだ。
 お前の鼻が潰れてようが曲がってようが構わないんだが、お前の動きに支障が出るのは困るんでね」

鼻の骨折で困るのは、潰れた鼻腔と溢れる鼻血のせいで呼吸が困難になることだ。
口は塞がっていないので窒息はしないが、この状態で激しい運動をすれば途端に息苦しくなる。動きが鈍る。
今、男が行った鼻骨骨折の整復も、美容的な観点より運動能力の維持を重視したものだ。
手荒に縫合された肩から胸にかけての傷も、右腕に当てられた添え木も、似たような観点で施された処置。
『後に傷を残さないこと』よりも、『今すぐ動けるようになること』に重点を置いた手当て。
醜い傷痕を残すため、普通なら未来ある年若い乙女にするような治療ではない。

「さて、これで大体終わりか。あとは……そうだな、これをたっぷり飲んでおけ」
「……ペットボトル? 中身は水ではないようだが……」

ドン、とテーブルに置かれたのは、共通支給品の水入りペットボトル。
ただし既にその封は開かれ、中に満たされているのはほんのり白く染まった液体。

「スポーツドリンクだ。
 こんなこともあろうかと、ホームセンターでレトルト食品と一緒に確保しておいた。
 水に溶かす粉末タイプの奴でな。もっとも、お前に飲ませるつもりで用意してたわけじゃないが」
「…………」
「お前の身体は、どう見ても血を流し過ぎだ。まだショックで心臓が止まっていないのが不思議なくらいだぜ。
 血が流れた分だけ体液量は減っているわけで、早急に補っておく必要がある。
 本当は輸血をしたい所なんだがな……あるいはせめて、リンゲルの点滴でも出来りゃいいんだが。
 まあ、無いものねだりしても仕方がない。あるもので最善の手を打っておくしかない」

スポーツドリンクなら吸収も早いしミネラル分も補えるしな、と呟いた男は、そしてふと女の視線に気付く。
疑うような目。警戒を剥き出しにした目。
男は思わず苦笑する。女の懸念に気付いて、苦笑いを浮かべる。

「ああ……心配しなくても、毒なんて入れていないぜ。今はまだ、そんな時期じゃない」
「それはつまり、時期が来れば私に毒を盛るつもり、ということか?」
「毒でなく銃弾か刃物かもしれないぜ。その時の状況次第だ。だが、今はまだそのつもりはない」
「『今はまだ』ね」
「ああ、『今はまだ』だ」

女は薄っすらと笑う。男も薄っすらと笑う。
どちらも心温まるような明るい笑いではなく、見る者の背が寒くなるような歪んだ微笑。
共にドブ川の濁ったような目で、全く笑っていない目で、2人は唇の端だけを持ち上げる。

「全く……お前との共闘は気が休まる暇もなさそうだな、川田章吾」
「それはお互い様だ、津村斗貴子。
 なにせ、どんなに頑張ったって『生き返る』のは1人だけなんだからな」

        *     *     *

津村斗貴子はその男が目の前に現れた時、てっきり仇を討ちに来たのだと思った。

高速で疾走するスケートボードに乗り、斗貴子の前に回りこんできた坊主頭の男。
先の遭遇では見せなかった巨大な銃……いや、大砲と称しても間違いのない凶器を構え、目には強く鋭い光。
病院目指して傷ついた身体を引き摺っていた斗貴子は、一瞬、苦しい戦いをも覚悟した。
既に気力も体力も尽きかけ、その身に負った傷は深く、今度は策も逃走ルートも用意していない。
こちらの手持ちのカードはあらかた明かしてしまった後であり、対する敵の武器の情報は全く無い。
あの一番の難敵・葉隠覚悟がいないのは幸いだったが、それでも楽観などできる状況ではなかった。
が……まさかそこで、あんな申し出を受けることになるとは。

(『手を組まないか』、か……。フフフッ、まさかアイツがあんなことを言ってくるとは思わなかった)

そう。
川田章吾が全ての感情を噛み殺したような表情で持ちかけたのは、まさかの同盟の申し出。
曰く――
彼もまた、斗貴子に殺されたつかさの復活を目指し、優勝狙いに方針を変更したこと。
舌先三寸で死蔵されていた武器を掠め取り、覚悟たちとの正面衝突を避けて逃げてきたこと。
しかし彼の力だけでは、覚悟や勇次郎といった強者たちに勝てる自信はまるでないこと――
最初は何か自分を騙そうとしているのだと思った。嘘でも吐いているのかと思った。
しかし、彼の目に宿る光は、本物だった。

『……いろいろ考えたんだがな。腹立たしいが、他に組める相手は居そうにねぇんだ。
 そこそこ戦えて、優勝狙いで、でも1人でやることには限界を感じ始めてる。そんな奴はな。
 お前だって、覚悟の奴と正面からやりあって勝てる自信はないだろう?』
『だ、だが私は、あの女を……』
『状況がこうじゃなけりゃ、つかささんの敵討ちも考えるがね。
 いや正直言って、まだ完全には諦めちゃいない。本当なら、今すぐお前を八つ裂きにしたいんだぜ。
 でもな、悔しいがこれも優先順位って奴だ。何も考えず目先の感情を優先させるほど、俺は馬鹿じゃない』

川田は淡々と語る。
最愛の人の仇を目の前にしているにしては、あまりに淡々とした、平坦過ぎる態度。
その彼の表情に、斗貴子は理解した。直感的に理解してしまった。
こいつは……狂っている。
斗貴子とはまた違う形で、でも度合いとしては十分に、狂っている。
言ってみれば、それは静かな狂気。
たった1つの目的のために、「それ以外」の全てを捨てる覚悟を決めてしまった者の眼。

――面白いゲームになりそうじゃないか。

心の底のどこか奥深くで、何かが囁いた。
先の戦いで、覚悟との戦いの第一ラウンドの最中に聞こえてきた悪魔の囁き。
身の破滅すら招きかねない危険な遊戯を目の前に、それでも愉快そうに笑う声。
遥か深淵から響くその哄笑に、思わず斗貴子も笑みを浮かべてしまう。

そう……これは『ゲーム』。殺し合いのゲームの中に挿入された、『もう1つのゲーム』だ。
川田章吾が提示した『同盟関係』は、いずれ破綻することが約束されている、実に危ういもの。
優勝狙いの人間が2人。復活させたい死者も2人。
だが実際に優勝できるのはたった1人、叶えられる願いも1つきり。
2人の間には遺恨もあり、想い人への想いも強いものがある。優勝を譲り合うことなどありえない。
しかしここで協力でもしなければ、2人に進む道が無いのも事実。
会場内を闊歩する強者たちに怯え、隠れ、彼らの相討ちを願っても、都合のいい展開になるとは限らない。
下手をすれば、タイマンでは勝ち目など見えぬ圧倒的強者と2人きり、という終局の形もありうるのだ。

ここで川田と組めば、その最悪の結末を回避できる余地が生まれる。最低でも2対1の形には持ち込める。
川田との同盟は、また同時に斗貴子が望んでいた「戦力の強化」にも繋がる。
彼自身の言によれば、正規の戦闘訓練こそ受けていないものの、銃は扱えるという。武器も持参してきている。
その無骨な外見からは想像しづらいが、医師の父の下でちょっとした医療技術も身につけているらしい。
いや、しかし、そんなものが無くても「協力者が1人いる」というだけで状況は大きく変わってくるわけで。
取れる作戦の幅も広がる。戦術の幅も広がる。発想の幅も広がる。単純に手数が増え、戦力も上がる。
やりようによっては、1人では勝てないような強敵を倒すことも可能かもしれない。

つまりは、川田の提案はこういうこと。
同盟の期限は定めない。同盟の条件も定めない。
「とりあえず」手を組み、「とりあえず」2人で協力して参加者を減らしていく。
いつ、どちらが裏切るかは分からない。というより、いつか必ず裏切る時が来る。
会場内の他の参加者の動向、手強い者たちの生存状況を見極めながら、いつか決断せねばならない。
決断できるチャンスは1回きり。決断を下せるのは1人きり。
斗貴子が川田を早めに切ってしまえば、強者に囲まれ共闘する仲間を失い、斗貴子は苦境に立たされる。
斗貴子が川田を切る決断を遅らせれば、逆に背中から撃たれてしまう。
そして、それらの条件は川田の側にとっても同じことで――!
裏切り上等、恨みっこなし。
自制心と状況判断能力が問われる、命がけのギャンブルへの誘い。
双方共に、最適最善の「同盟破棄のタイミング」を見定めることのみが、優勝への道を繋ぐ手段となる。

――面白い。彼の企みも彼の想いも、実に面白いじゃないか。

斗貴子は心の奥底から含み笑いを漏らす。
こういう緊張感は嫌いではない。
再殺部隊から逃れつつ、仇敵パピヨンと呉越同舟の探索行をしていた時のことが思い出される。
緊張を孕みながらも、あれは確かに楽しい一時だった。充実感溢れる日々だった。
あえて因縁深い敵と行動するというのも、あながち悪くない。そいつが優秀ならば尚更だ。
パピヨンとはまた異質ながら、こういう発想が出来る川田も優秀と言っていいだろう。

そしてまた、彼の動機もいい。
斗貴子と同じような喪失感を抱きながら、ルイズのように自分を非難してきたりはしない。
むしろ斗貴子と共に、斗貴子と同じ方向に向かって暴走していこうとする魂。
だが、彼の大事な人の命を奪い、彼の暴走のきっかけを作ったのは、他ならぬ斗貴子自身なのだ!
まるで彼の運命や因縁が全て掌の上に載っているような錯覚。神にでもなったかのような万能感。
人の運命を弄ぶ愉悦を知ってしまった今の彼女に、その誘惑はあまりに強すぎた。

しばらくの逡巡の後、斗貴子が川田の提案に頷いたのは、だから、必然だったのかもしれない。

        *     *     *

覚悟たちの所から逃げ出した時には、川田章吾はプランの大筋を練り上げていた。

この殺し合いの場において彼に有利な点があるとすれば、それは過去の経験だろう。
今の状況によく似た『プログラム』への2回の参加。そして、2回の優勝経験。
2回目の「優勝」自体は厳密に言えば微妙なものではあったが、それはさておき。

川田章吾は、誰よりも「1人で戦い抜くこと」の限界を知っていた。
この会場にいる誰よりも深く、「数の力」の意味を知っていた。

1人きりでは戦えば戦うほど消耗していく。1人きりでは満足な休息も取れはしない。
人数が増えればそれだけ手数も増えるし、周囲を警戒する目と耳も増える。
これらの事情は、超人たちが闊歩するこの殺し合いの場でも変わりはない。
いや、超人たちには関係が無くとも、彼らのような常人にとっては外せない視点、とでも言うべきか。
それは、生き残って主催者へのカウンターパンチを狙う場合も、単純に優勝を狙う場合も変わりはない。
むしろ譲歩や和解に持ち込めない分、優勝を狙う場合にこそ。

(だがそうなると、組む相手の選定に困っちまう。
 七原たちみたいなお人よしを探して騙して利用する、という手も無いわけじゃないんだが……どうもな)

そんな卑怯な手が取れるくらいなら、覚悟やヒナギクと別れたりはしない。
川田章吾は頭も回り、演技にもそこそこ自信があり、目的のためなら手段を選ばない部分があるが……
それでも根っこの所では善良な性格だ。本当の嘘はつけない性格だ。
彼らとの間に築いた信頼を、最悪の局面で裏切ることなど出来なかった。
だからああして別れを告げた。せめて憎み、恨んでもらうためにも、ああいう別れ方をした。
そう、どこかで「パートナー」を裏切り殺さねばならないのだとしたら。

(どうせ裏切ること前提の同盟なら、そうと分かって組んでくれる奴の方が気が楽だ。
 たとえそのせいで、逆に俺が殺される恐れが生じるとしても、だ)

組むなら殺し合いに乗っている奴がいい。本気で優勝を狙っている奴がいい。
そういう奴らなら他の人間を殺すのに躊躇はしないだろう。確実に参加者を減らしていける。
確実に、優勝に近づける。確実に、つかさの復活に近づける。
そして最後には、後腐れなく縁を切り、後腐れなく殺し合うことが出来る。

(だが……奴にも言ったが、そうなると「組める奴」ってのは限られてくるんだよなァ……)

川田の計画の最大の問題点――それは、その肝心のチームメイト候補の選定だ。
殺し合いに乗っている者は、自分の力に自信がある者ばかりだろう。あるいは、自分の支給品の力か。
彼自身、過去2回の『プログラム』で痛いほどよく知っている。
ましてやこの場には、過去の『プログラム』にはなかった異能の者たちがおり、異能の品々があるのだ。
銃や刃物程度では勝機のカケラも見出せないような絶対的強者というものが、存在する。
そういう奴らは、きっと川田が同盟を持ちかけても鼻先で笑うだけだ。そしてその場で瞬殺されて終わりだ。

同盟相手は、既に殺し合いに乗っている必要がある。
同盟相手は、組むに値するだけの戦闘力を持っている必要がある。
同盟相手は、しかし1人で戦い抜くことには限界を感じていなければならない。
同盟相手は、チームを組むメリットが理解できる程度には、知性と冷静さを保っていなければならない。

もしこの時、ジグマールやエレオノールの存在を知っていたなら、また違う展開にもなっていたかもしれない。
だが、彼はその2名のことを知らなかった。その2名の今現在の状況を知らなかった。
彼がこの時点で知っていたほぼ唯一の候補、それは。

(……これしか相手がいねぇなら、仕方ねぇよな)

確実に殺し合いに乗っている人物。たった1人で戦っている人物。
策を巡らせる頭の良さもあり、噛み合わないながらも会話は成立し、つまりそれは交渉する余地があり。
覚悟という強者を前に逃げの一手しか打てず、数の力を身をもって体験し、限界を感じているはずの人物。
そして同時に、川田自身が誰よりも深く憎み、手酷い裏切りをしたとしても心が痛まないような相手。

津村斗貴子。柊つかさの、仇だった。

(もっとも、あのまま奴にも逃げられちまう可能性もあったが……ま、そこは結果オーライって奴だ。
 我慢さえできるなら、これ以上ない理想の同盟相手だしよ)

発見は容易だった。
覚悟とヒナギクから受けた傷は相当の深手だったらしく、彼女の逃走した後には点々と血痕が残されていた。
もっと時間が経てば雨で消えていたのかもしれないが、川田が出発した時点ではなんとか痕跡が追える状態で。
彼はただその後を追うだけで良かった。
負傷ゆえに彼女の移動スピードは遅く、すぐに追いつき、その前に回りこむことが出来た。
ハルコンネンも手元にあったし、あのまま戦っていればつかさの仇を取ることも出来たかもしれない――だが。

(だけど、それじゃダメなんだ。それじゃつかささんは生き返らない。
 この女が俺の申し出を蹴っていたなら、また違ったんだろうが)

つかさを生き返らせるために、何でもすると心に決めた。どんな状況にも耐え抜くと決めた。
そのためなら敵討ちすら諦め、先延ばしにする。この世で最も憎んでいる相手と手を組み、共闘さえする。
徹底的な合理性追及と、自然な感情の蹂躙。激情ゆえにその激情を押さえ込むという矛盾。
川田章吾は、狂っていた。
彼は静かに、冷静に、穏やかに狂っていた。

(それに……こいつ、既にボロボロじゃねぇか。こりゃ、下手に放り出すわけにもいかねぇぞ。
 ここで別れたりしたら、きっとすぐに誰かに殺されちまう。俺の知らない所でコイツに死なれちまう。
 流石にそいつは我慢ならねぇ展開だぜ)

津村斗貴子の身体は、明らかに満身創痍だった。むしろ死んでないのが不思議なくらいの状況だった。
彼女は病院を目指していたようだが、そこまで持つかどうかも怪しいくらいの出血量。
血痕を残さぬよう注意しながら手近な民家に連れ込んで、急いで応急処置を施して、ようやく一息ついて。
彼は、歪んだ笑みを浮かべ、心の中で呟く。

(お前はこんな所では死なせない。こんな所で誰にも知られず失血死なんて、そんな楽な死に方は許さない。
 お前には、つかささんを殺した罪を償ってもらう必要がある。
 お前には、つかささんの蘇生のために他の参加者を殺してもらわなきゃならねぇ。
 もっとボロボロになるまで戦わせて、戦わせて、戦わせ続けて、最後には俺がこの手で引導を渡してやる)

決して許さないからこそ、傷の手当てをしてやる。
いつか必ず自分の手で殺すために、共に行動する。
他の参加者に復讐対象を奪われないために、彼女をフォローし援護しその命を守る。
斗貴子の願いであるという、「武藤カズキを生き返らせて2人で暮らす」。
それが決して叶わない夢であろうことを知った上で、あえてそのことを語らない。
主催者側の狙いに関する、自分たちの考察を伝えない。
丁寧に説明してやれば彼女を絶望に叩き込めるはずだが、今はまだ、あえて教えてやらない。

それは明らかに歪んだ思考。
今の川田にとって、津村斗貴子はただ殺すだけでは飽き足りない相手だ。
徹底的に利用し、その苦痛と絶望をどこまでも引き伸ばし、最後の最後に無惨な死に方を与えてやるのだ。

幸い……と言っていいのか分からないが、斗貴子の戦闘スタイルは、槍を用いた接近戦。
対する川田は、銃による銃撃。
自然と斗貴子が前衛・川田が後衛というポジションに落ち着くことだろう。
であれば、戦闘があれば傷を負うのは斗貴子の方だ。さらなる苦痛を味あわせることができる。
余裕があるようなら、流れ弾を装い弾を当ててもいい。余計な傷を負わせてやってもいい。
いや、最後の時には必ず背中から撃ってやる。最悪のタイミングで裏切ってやる。そして絶望を教えてやる。
誇りも希望も何もない、無為で無駄でどうしようもなく惨めな死に様こそ、この女には相応しいはずだ。

(だから……こんな所で動けなくなって貰っちゃ、困るんだ。
 『今はまだ』お前を殺さない。『今はまだ』毒も盛らない。『今はまだ』お前の傷の手当てをしてやる。
 お前は武藤カズキのためじゃなく、柊つかさのために戦って、柊つかさのために苦しみながら死ぬんだ)

焼けつくような憎悪を歪んだ笑みで押さえ込み、心に突き刺さる小さなトゲを無理やり飲み下し。
川田章吾は、自らの意思で、その静かな狂気を選択したのだ――

        *     *     *

「……準備はいいか?」
「ああ。しかし、この服は裾が短いな。動きやすいのは有り難いんだが」
「他に無かったんだ、我慢しろ。それに、お前の汚い下着なんて、見えたところで何の興味も湧かねぇよ」
「ふん。私だってカズキ以外の男に興味は無いさ。カズキはお前のように冷たくはなかった」
「そりゃどうも。俺だって優しくする相手は選ばせて貰うさ」

一通りの手当てを終え、僅かながらも休息を取り、互いの知っている参加者の情報を交換した後。
2人は潜んでいた民家から忍び出ながら、剣呑な囁きを交わす。
川田章吾は先ほどまでと同じ格好。対して、津村斗貴子は服装が大きく変わっている。
スタイリッシュな詰襟の制服。冗談のように短いミニスカート。セットで用意された黒のニーソックス。
柊つかさに支給され、川田章吾が遺品の1つとして持ってきたホーリーの制服だった。
斗貴子が着ていたセーラー服は、既に散々に血で汚れている。止血のために裂いてしまった部分もある。
2人して殺し合いに乗るにしても、騙し討ちのような搦め手を使える余地は残しておきたい。
血に汚れた服を着て、初対面の相手に無闇に警戒されるのは得策ではない――そう考えての着替えだった。
どういうわけだか、民家の中には彼女の体格に合う服は見当たらなかったことだし。

「では、行くぞ。最初はどっちに向かう?」
「そうだな……まずは……」

いつ寝首を掻かれるかも分からぬ緊張感が、かえって2人の思考を研ぎ澄ます。
深い憎悪と確かな打算で結ばれた2人は、そして新たな獲物を探すべく、深夜の街へと踏み出した。


【F-4 1日目 真夜中】
【川田章吾@BATTLE ROYALE】
[状態] 健康
[装備] マイクロウージー(9ミリパラベラム弾13/32)、予備マガジン5、ジッポーライター、
    バードコール@BATTLE ROYALE
[道具] 支給品一式×3、チョココロネ(残り5つ)@らき☆すた、ターボエンジン付きスケボー@名探偵コナン 、
    文化包丁、救急箱、裁縫道具(針や糸など)、ツールセット、ステンレス製の鍋、ガスコンロ、
    缶詰やレトルトといった食料品、薬局で手に入れた薬(救急箱に入っていない物を補充&予備)
    マイルドセブン(4本消費)、ツールナイフ、つかさのリボン
    ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾、残弾5発、劣化ウラン弾、残弾6発)@HELLSING
[思考・状況]
基本行動方針:最後の1人になってつかさを生き返らせ、彼女を元の世界に戻す。
1:当面、斗貴子と組んで他の参加者を減らしていく。斗貴子もいずれ必ず殺す。
2:覚悟やヒナギクとはなるべく闘いたくない。
参戦時期:原作で死亡した直後
[備考]
※桐山や杉村たちも自分と同じく原作世界死後からの参戦だと思っています
※首輪は川田が以前解除したものとは別のものです
※津村斗貴子と、他の参加者の動向に関する情報交換をしました。
※つかさの遺体を、駅近くの肉屋の冷凍庫に保管しました。
※神社、寺のどちらかに強化外骨格があるかもしれないと考えています。
※主催者の目的は、①殺し合いで何らかの「経験」をした魂の収集、②最強の人間の選発、の両方。
強化外骨格は魂を一時的に保管しておくためのもの。 零や霞と同じ作りならば、魂を込めても機能しない。


【津村斗貴子@武装錬金】
[状態]:しろがね化、心臓代わりに核鉄、精神崩壊、
    全身に火傷の痕、頭部に傷痕、鼻骨骨折(簡単な整復済み)、右手首消失、
    右手複雑骨折(添え木つき)、胸部骨折、右肩から胸に深い裂傷(簡単な縫合済み)、腹部に裂傷
    いずれの怪我もきっちりと手当て済み・核鉄としろがねの力で回復中
    普段のセーラー服ではなく、ホーリーの制服@スクライド を着用。
[装備]:サンライトハート@武装錬金、ホーリーの制服@スクライド
[道具]:支給品一式×2 (カンテラのみ-1)
[思考・状況]
基本:最後の一人になり、優勝者の褒美としてカズキを蘇らせ、二人きりで暮らす『夢』を叶える。
1:当面、川田と組んで他の参加者を減らしていく。川田もいずれ必ず殺す。
2:強者との戦闘はできれば避け、弱者、自動人形を積極的に殺す。
3:アカギ、吉良、勇次郎、軍服の男(暗闇大使)は最終的に必ず殺す。アカギは特に自分の手で必ず殺す。
※川田章吾と、他の参加者の動向に関する情報交換をしました。


202:何をしても勝利を 投下順 204:『二人の探偵』
202:何をしても勝利を 時系列順 204:『二人の探偵』
201:笑顔 川田章吾 215:交差する運命
201:笑顔 津村斗貴子 215:交差する運命