見えない俺から君に打ち明ける(後編) ◆hqLsjDR84w




 コールタールを波紋で弾いていたジョセフが、何故何かに足をとられそのままズッこけたのか。
 それは、あくまで偶然。偶然により発生したこと。
 その偶然は、劉鳳と服部にとってこれ以上無い幸運であったが、ジョセフにとっては最悪のことだった。

 ジョセフが足をとられたものは、コールタールではない。
 弾力があり、全体にヌメヌメとした液体がコーティングされ、曲げると自分で元の形状に戻ろうとする――『クレイジー・ダイヤモンド』のDISC。
 三村信史がジョセフの為を思って託したDISCが――

「撃ち滅ぼせえええええええッ! 絶影ッ!!」

 劉鳳の叫び声。
 転倒中のジョセフが空中で振り返り、驚愕。目に映ったのは、触鞭を伸ばしている絶影。
 ジョセフにとって、絶影の触鞭が既にここまで迫っているのは予想外な事態。ゆえに、驚く。
 しかし驚きながらも、何もしないわけではない。
 足に流していた弾く波紋を一旦解除。全身に波紋を流し、全身をガードする。
 生半可な攻撃では、波紋使いのガードの前では無意味。
 しかし、

「ガあ……」

 ジョセフが呻き声をあげる。
 脇腹に思いっきり絶影の二本の触鞭を叩き込まれたせいだ。
 絶影の攻撃は、生半可なものではなかった。
 それでも脇腹だけに波紋のエネルギーを集中していれば絶えれたかもしれないが、絶影がどこに攻撃をしかけるかはジョセフに分かるわけもなく。
 ジョセフはそのまま殴られた衝撃で吹き飛び、背を民家の壁に打ち据え、意識を落とした。
 そう、三村信史がジョセフの為を思って託したDISCが、ジョセフが意識を落とす原因になってしまったのだ。
 現実は非常である。

「服部ッ!」

 ジョセフが意識を落としたのを確認し、劉鳳はコールタールまみれの絶影を解除。
 再構成した絶影を隣に、劉鳳は服部の下へ駆け寄る。
 その道中で、劉鳳は絶影にまみれていた黒い物質がコールタールであると気付き、服部がスーパー光線銃で撃った三村が炎上した理由にも気付いた。

「……服部? おい、どうかしたのか?」

 劉鳳が、服部にそう尋ねる。
 服部は目の焦点が定まっていなく、その状態が劉鳳を不安にさせたのだ。
 劉鳳が声をあけたのとほぼ同時に、服部の膝ががくんと折れた。


 誰も、近くにいたジョセフも、服部本人でさえ気付かなかったことだ。
 ジョセフが踏みつけた衝撃で、『クレイジー・ダイヤモンド』のDISCは宙を舞った。ジョセフが全力疾走していたこともあり、地面に落ちていたDISCは二メートルほどの高さまで飛び上がった。
 ジョセフの脇腹に、絶影の触鞭が叩き込まれた頃。DISCは重力の法則にしたがってゆっくりと落下していき――

 ――吹き飛ぶジョセフを見ていた服部の頭にぶつかると、そのままずぶりと沈んでいった。

 『クレイジー・ダイヤモンド』のDISCは三村信史が無理矢理に引き抜いたために、三村信史の死ぬ直前の記憶がこびり付いていた。
 エルメェス・コステロが無理矢理に引き抜いた、サンダー・マックイイーンに埋め込まれた『ハイウェイ・トゥ・ヘル』のDISCに、記憶がこびり付いていたように。


 がくん。膝が折れる。

 ゆっくりと柔らかい何かに沈んでいくような、低い重力の空間を落下していくような、形容しがたい浮遊感に襲われる。
 足元がフラついたので、踏みとどまろうとするが力が入らず、情けないことにガクリと前のめりに倒れてしまった。
 何故か、先程まで鬱陶しいくらいに感じたコールタールの臭いも感じない。
 どういうこっちゃ、ワケが分からへん。立ち上がろうとするが、今度は力が入らないだけでなく、焦点が定まらずに視界がボヤけていく。

「どうした、服部! 聞いているのか? おい!!」

 劉鳳はんが絶影を消して、かけよってくる。
 気持ちは分かるが、揺らさへんでほしいな。そのことを伝えようとするが、池の中の鯉のように口がパクパクと動くだけで、言葉が出ない。
 あかん。劉鳳はんの表情が確認出来んほどに、視界が不明瞭になってきよった。

「おい! どこ――か――打っ――――た――――か――――――――――?
 は――と――――大丈――か――――襲――――た――――――――――」

 耳もおかしくなってきた。どういうわけか、先程まで鼓膜を激しく揺らしてきていた劉鳳はんの声が、ブツリブツリと細切れにしか聞こえなくなってきているのだ。
 その事を理解するとほぼ同時に、ボヤけていた視界のほとんどが黒で覆われていることに気付く。
 どうにか目を見開こうとするが全く力が入らず、数秒と待たない間に目に見えるものは何もなくなってしまった。
 ついには、こちらが痛いほどに俺を揺らしてきた劉鳳はんの腕すらも、感じなくなった。

 機能しなくなった筋肉、嗅覚、聴覚、視覚、触覚。世界が暗転した――

 ――はずだった。

 それなのに何故か切れたはずの意識が、嫌に明確になっていく。
 どういうことだ? 考えようとする間に、どんどん鼓膜に振動を感じる、視界が開けてくる。
 映ったのは――――赤。そして外国人風の男……ついさっき襲い掛かってきた奴やないか!?
 状況を認識しようとしているのを待とうともせずに、今度は思考が流れてくる。
 同時に、全身に焼けるような痛みが駆け巡る。

 ◇ ◇ ◇

 ――熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ。

 ――咄嗟に目に映るのは、ジョジョ……ジョジョ!?

 ――そうだ、とにかくジョジョは助けねばならない。

 ――二度も殺させはしない、させてたまるか。

 ――火が及ばないように壁を作る、クレイジー・ダイヤモンドで、治す能力で。

 ――右腕が落ちた。かまうものか。ああ、痛いさ、泣きそうだ。だが、どうせ死んじまうんだ、その時まで休まなくったっていいだろう。

 ――火傷を負ったが、まだ繋がっている左腕でアスファルトを殴る。背中が貫かれる。痛くて、熱い。どうせ死ぬんだ、我慢しな。

『シンジッ! その壁をどかしやがれッ! そんな炎、俺が波紋で何とかしてやるッ!』

 ――自分だってボロボロのくせに、無茶を言いやがる。だが、それでこそジョジョだ。安らかな死を捨て、最期まで醜く抗って助けるだけの価値がある。

『いいからその壁をどけやがれッ! 今からそっちに行くッ!』

 ――お前は柊に会わなきゃならねえだろ。今になって気付いたが……どこか七原に似てやがるかもしれねえな。

『シンジッ! 今すぐに行くッ! 少しだけ待ってろッ!」 』

 ――ひたすらクレイジー・ダイヤモンドの拳を打ち込んで、完成した防護壁。安堵、同時に体に衝撃。もう無理だな。

『だまってろッ! くだらねえこと話すんじゃあねえッ!」 』

 ――まあいいさ、最期に一番守りてえヤツを守れたんだ。ジョジョなら、プログラムを潰してくれるはず、任せられる。

『シンジィィィィィィィィィィィッ!』

 ――白色に覆われていく世界。終わりはすぐそこだ。間に合うかはわからないが、『DISC』をジョジョに投げる。お前なら、つか、い、こ……な…………

 ◇ ◇ ◇

 再び、世界が暗転。
 先程まで見えていたものは、いったい何なのか――考えたくない。

 熱かった、痛かった。だが、それでもシンジと呼ばれた男は意識を落とさず、必死にスタンドで地面を殴り壁を作った。
 ジョジョと呼んでいた仲間の為に、痛い思いして。腕、落とされてるのにもかかわらず。
 気絶しとけば痛い思いなんかしないで楽に死ねたのに、仲間を助けたかったから、殺し合いを止めたかったから……
 殺し合いを止めるために、仲間を助けて、死ぬ寸前なのに意識を落とさずにDISCを引き抜いて、それを託して。

 誰が殺した――考えたくない。

 あんなに仲間想いの男を、誰が殺した――考えたくない。

 あんなに仲間想いの男に、あのような無惨な死に様を迎えさせたのは誰だ――考えたくない。

 何も考えたくない、考えたくない、考えたくない、考えたくない、考えたくない、考えたくない、考えたくない、考えたくない。

 しかし、分かってしまった。

 あのスタンドの形状。ジョジョと呼ばれた男の姿、負傷具合。景観から判断した場所と時間。
 そして、必死な思いで彼が作ったアスファルト製の防壁。俺に襲い掛かってきた男の言葉。

 認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない。
 認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない、認めたくない。
 しかし、認めねばならない。『俺が』やってしまったことだ。

「シェ……ス……、……ケ……」

 突如耳に入ってくる、劉鳳はんの声。聴覚が復活してきたのだろう。
 もし俺がやったことを伝えたら、劉鳳はんはどういう反応をするだろう。
 許してくれる――わけが、ないやろな。

「三村信史」

 参加者の中で唯一、『シンジ』を含む名前。
 なんで、劉鳳はんがそれを口にしたのか。
 聞こうにも、未だ立ち上がれない。口も動かない。

「お前達を殺したのが誰かなのかは、俺には分からない。
 だが……! 俺はお前達の遺志を継いでみせる! お前達を殺した輩を――」

 やめてくれ。
 そこから先は言わないでくれ。頼む、まだ駄目だ。
 黙ってくれ。心の準備をさせてくれ。
 言わなくても、分かっているから。

「――悪と断定し、必ず断罪する!!」

 黙れ、黙れ。黙ってくれ。頼む、黙れ、黙れ。黙って、黙れ。黙ってくれ。黙れ。


 時は、少し遡る。
 服部が三村信史の記憶を覗き込み始めた数秒後。
 即ち、午前零時。四度目の放送が始まった時間へと。

『さて諸君、頑張っておるかのう?』

 会場全体に響き渡る哀れな偽主催者、徳川光成の声。
 その声を聞いて、放送が近かったことを思い出した劉鳳。手に抱えていた服部を静かに地面に横たわらせる。

『まずは禁止エリアの発表じゃ。
 午前1時からF-8、午前3時からE-3、午前5時からB-5』

 五時間以内に入ることが許されなくなる三つの地点を、劉鳳は頭の中に刻み込む。
 本当は支給品である4色ボールペンを取り出して、名簿か地図の余白に記しておきたいと思ったが、暗いのでそれを諦めたのだ。

「続いて、この6時間で死んでいった者たちの発表じゃ。諸君の思い人の名前など呼ばれなかったらいいがの」

 ドクン、と。劉鳳の鼓動がそれまでより大きく波打った。
 徳川光成の発した言葉、思い人。劉鳳にとってそれに該当する人間が一人いて、その女性はこの殺し合いに参加している。
 劉鳳の心臓が高鳴るのも当然といえば、当然だ。
 速くなる鼓動を収めるように、左胸に手を置く。
 大丈夫、彼女が死ぬわけが無い。そう言い聞かせるように。

『それでは、また6時間後の放送が無事に聞けるといいの』

 放送が終わる。
 放送に耳を傾けていた劉鳳の表情は暗い。いや、呆然と言った方が近い。
 彼らしくなく、口はだらしなく半開き。発現しておいた絶影も、消えてしまっている。

 四番目に呼ばれた名前、シェリス・アジャーニ。それは、劉鳳の思い人の名だった。
 しかし正直な話をすれば、劉鳳はそこまで意外だとは思っていない。
 絶対壊滅無敵殲滅軍団を拳一発で壊滅させたカズマが死んだのだ。シェリスが死ぬのも、ありえないことではないと思っていた。
 それでも、劉鳳はシェリスの生存を信じていた。信じたかった。

 キッチリ十秒。時がすぎる。

「……」

 何も言わずに、先程までの気が抜けたような表情から、険しい表情へと戻る。

(悲しんでいる暇など無い)

 劉鳳は、自分にそう言い聞かせる。
 シェリスの他にも、彼が合流したかった人物の名が呼ばれた。
 キュルケと三村信史。
 キュルケの方は、劉鳳を守って死んだタバサに『守ってくれ』と託された人物。
 三村信史の方は、劉鳳がこの殺し合いに呼び出されて二番目に出会った少年、桐山和雄のクラスメイト。
 劉鳳は、その両者を守らねばならない対象とみなしていた。
 その名が呼ばれたのだ。

(アーカードとDIOが死んだのは喜ばしいことだが、奴等が正義の心を持つ者に殺されたとは限らない。
 悪同士で殺しあって、勝手に死んでいったのかもしれない。その場合、散に勝利したアーカード以上の力を持つ悪がいることになる)

 だから、今は悲しむ暇など無い。
 そう判断し、心の中で先の放送で呼ばれた者達に、侘びを入れる。
 劉鳳は気付いていない。
 悲しむ暇は無いと思いながらも、彼の右目から溢れた涙が、一筋の雫となり彼の頬を伝っていることに。

「シェリス、キュルケ、三村信史!」

 いきなり劉鳳が上空に向けて、口を開いた。

「お前達を殺したのが誰かなのかは、俺には分からない。
 だが……! 俺はお前達の遺志を継いでみせる! お前達を殺した輩を悪と断定し、必ず断罪する!!」

 それは自らの覚悟の証明。
 そして誓い。自らの心に刻んだ者達への。
 そのまま少しの間夜空に視線を流すと、首を下ろす。そしてあることに気付き、その方に駆け寄る。

「服部! 気が付いたか!」

 意識を失っていた服部平次が、体を起こしていたのだ。
 しかし声をかけても返事をよこさないことに、劉鳳は不思議がり、疑問を投げる。

「おい、服部。どうかしたのか……?」

 その言葉に服部は答えず、ただ口の中で何事かを呟いていた。
 ついさっきまで意識を失っていたために、まだ体が完全に目覚めておらず、うまく話せないのではないだろうか。
 そう劉鳳は判断し、何を言っているのか聞き取るために、服部の口元に耳を近づける。

「なッ!?」

 瞬間、劉鳳が発したのは驚愕の声。
 それも仕方が無いことだ。いきなり何者かに背後から首根っこを掴まれ、そのまま持ち上げられたのだから。

(一体、何が……)

 首を捻って背後を確認した劉鳳は、またしても驚愕する。
 何故なら、彼を掴んでいたのは――

(先程服部が断罪した男のスタンド!?)

 ――『クレイジー・ダイヤモンド』だったのだから。

 種明かしをすれば、簡単な話。
 クレイジー・ダイヤモンドのDISCが、現在は服部の額に挿入されているだけ。
 近距離パワー型スタンドに分類されるクレイジー・ダイヤモンドの射程距離は、約二メートル。
 服部の言葉を聞き取ろうと、劉鳳は服部にかなり近付いていた。確実に、二メートル以内まで。
 そのため、クレイジー・ダイヤモンドは発現した時点で、劉鳳の背後をとることが出来たのだ。
 服部は、劉鳳を黙らせようとした。
 それは、ただ自分を悪だと言われたくなかったから。せめて、もう少し待って欲しかったから。
 そう服部が強く願った結果、クレイジー・ダイヤモンドが発現、劉鳳を黙らせた。
 服部には、劉鳳に危害を加える気は無かった。
 しかし、クレイジー・ダイヤモンドは動き続ける。黙らせるために。
 俗に言う、スタンドの暴走というやつだ。クレイジー・ダイヤモンドは止まらない。

 クレイジー・ダイヤモンドが、劉鳳を掴んでいない方の右の拳を握る。
 状況を飲み込んでいないものの、とりあえずクレイジー・ダイヤモンドを黙らせようと、劉鳳が絶影を操作しようとして、放送を聴いた際の同様で消滅させてしまったことに気付く。
 ガァン、ガァン。
 地面が抉り取られ虹色の粒子となり、それが集束。絶影を構成していく。
 しかしそれはどう見ても、遅い。
 クレイジー・ダイヤモンドの拳が劉鳳に打ち据えられ『黙らせる』方が、明らかに速い。
 劉鳳は諦めない。とはいえ既にアルターの構成スピードは、今の速度でほぼ限界。

 しかし、拳は振り落とされず。

「つうッ!?」


 服部が、苦悶の声をあげる。
 突如走った衝撃により、クレイジー・ダイヤモンドは劉鳳を手放し、劉鳳はそのまま落下する。
 構成を終えた絶影の触鞭に自らをキャッチさせた劉鳳が、何故か苦悶の表情を浮かべている服部に視線を向ける。

(あれは……!)

 劉鳳が二つのことに気付く。
 一つは、服部の額から本の少しだけはみ出ているDISC。
 しかし、それによって服部がスタンド能力を得ているということは分かっても、何故攻撃を仕掛けてきたのかが劉鳳には分からない。
 そうしてもう一つは、クレイジー・ダイヤモンドの右拳に絡まっている物。薄黄緑色のヨーヨー。

「――――お、い……」

 遠くから呼ぶ声に、劉鳳が気付く。
 その声の主こそが、ヨーヨーを投げた張本人。

「テメェ、何してんだよ……ッ!
 シンジの……スタンドを……勝手に使おうとしてくれてんじゃあねえぜ……!」

 名は、ジョセフ・ジョースター。

 絶影の攻撃により意識を落としたジョセフ・ジョースターは、実は数秒前に既に目を覚ましていた。
 全身を波紋でガードしていたおかげで、意識を落としてから大して時間がかからないで、起きることが出来たのだ。
 さらにこれはジョセフが狙ってやったことではないが、全身がコールタールまみれであったことも、波紋を流しやすくなったという点で運が良かった。

 とはいえ目覚めた直後は、視界がぼやけていた。
 そんなジョセフの視界に最初に飛び込んだのは、スタンド『クレイジー・ダイヤモンド』だった。
 知り合ってからの時間は短いが、志を同じくした紛れも無いジョセフの親友だった、三村信史が操っていたスタンド。
 それが瞳に映ったことで、意識を取り戻したとはいえ完全には覚醒しきっていなかったジョセフが、完全に目醒めた。
 どんどん視界が広くなれば、当然クレイジー・ダイヤモンド以外のものも視界に入る。
 まずクレイジー・ダイヤモンドに首根っこを掴まれている劉鳳、そして額から数ミリDISCが飛び出している服部。
 すぐにジョセフは、服部がクレイジー・ダイヤモンドを操っていることを理解した。
 そして――キレた。
 三村を殺した男が、三村が使っていたスタンドを使っていることに。
 三村のスタンドを、血で濡らそうとしていることに。
 しかも相手は勘違いとはいえ、殺人鬼と判断した自分に恐れず、本気で立ち向かってきた男だ。
 そう考えると、ジョセフは咄嗟にポケットの中のヨーヨーに波紋を流し、投擲した。


「テメェ、何してんだよ……ッ!
 シンジの……スタンドを……勝手に使おうとしてくれてんじゃあねえぜ……!」

 先程眠らせた男が、目を覚ましたようだ。
 服部が気を失ったことと、放送、そして服部の暴走。
 いきなり色々なことが起こりすぎて、やるべきことを見失っていた。まずは、奴を縛るなりしておくべきであった。
 しかし、この男はいま『シンジのスタンド』と言った。
 名前にシンジという文字列を含む参加者は、名簿を見る限り一人だけ。
 『三村信史』のみ。
 三村信史、桐山の学友にして守るべき対象。
 その三村信史のスタンドとは、一体どういうことだ。
 そして何故奴はヨーヨーを投げて、俺を助けたのか。
 断罪する前に、聞きださねばならない。

「…………」

 考えている間に、苦悶の表情を浮かべていた服部は、ブツブツと何かしらを呟いている状態に戻っている。
 スタンドに絡まったヨーヨーの紐は引きちぎられ、薄黄緑色の球体だけとなっている。
 その薄黄緑の球体をスタンドは掲げると、そのまま投擲した。
 ヨーヨーを投げたと思われる、先程眠らせた男に。

「くッ!」

 呆けて考え事をしていた自分に、舌を打つ。
 いまその男を殺されるわけには、いかない。聞かねばならないことが多すぎる。
 手刀で宙を薙いで、絶影の真の力を思念を以って制御している拘束具を解除する。
 既に第一形態の絶影を発現させておいたので、真・絶影を開放するのにかかる時間は僅か。
 大した時間もかからないで出現した真・絶影に飛び乗り、全速力で駆動させる。
 目標は先程眠らせた男。
 しかし、スタンドに投擲されたヨーヨーのスピードもかなりのもの。
 距離は縮まっていくが、男までの距離が短い。このままでは先に男が、ヨーヨーに体を抉られる。

「剛なる右拳、伏龍!」

 だから、絶影の腕を飛ばす。
 ロケットを思わせるスピードで宙を駆け抜ける伏龍は、瞬く間にヨーヨーを追い越し、男を掴み取る。
 男を掴み取った伏龍を真・絶影に戻すと、一時的に服部の攻撃から逃れるために、絶影の尾で地面を叩く。
 その圧倒的な衝撃の反動で、一気に上空へと昇る。
 その際にビチャリと気色の悪い音を立てて、コールタールが周囲に飛び散ったのだが、気にしないでおこう。

「なんで、アンタに襲い掛かった俺を助けたんだ?」

 空中で絶影を静止させると、絶影の右拳に掴まれた男が尋ねてくる。

「ふん。別に貴様など、どうなってもいい。だが、貴様は『シンジのスタンド』と言ったな?」
「……ああ、言ったぜ」

 やはり、聞き間違いでは無かったか。
 ならば――

「それは、どういう意味だ? 服部が操っているスタンドのことなのか? 三村信史と何か関係があるのか?
 類稀なる知恵者で悪を断罪する決心をした服部が、何故あんなにも錯乱しているのか、分かるか
 そして――何故、俺に襲い掛かってきた貴様が、俺を助けた?」

 俺がこう言うと、男はかなり驚いたようだ。
 暫く何か考えたような素振りを見せると、今度は恐ろしく真剣な表情で俺を見据えて、口を開いた。

「オーケー、アンタが何を言っているのか全く理解を超えているが、ありのまま俺の知っていることを話すぜ。
 たぶん何を言っているか分からねーと思うが、俺も何が起こっているのか分からねー。
 とりあえずは、最後まで聞いてくれ」

【E-2 上空(真・絶影の右拳に握られている)/二日目/深夜】
【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:左手骨折、全身打撲、精神疲労大、体力消費極大、深い悲しみ、脇腹にダメージ大、全身コールタールまみれ
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
基本:BADANとかいうボケ共を一発ぶん殴る。
0:劉鳳に、自分の知っているありのままを話す。
1:つーか、なんでこいつはシンジを知ってんだ? アイツが、類稀なる知恵者で、悪を断罪する決心をした男? はァァアアア!?
2:シンジ殺したクソッタレをブン殴る。
3:S3駅、S1駅周辺を探し、かがみ救出のための仲間を探す
4:かがみを助け、村雨は殺す。
5:マップの端を見に行く。
6:一応赤石も探しとくか……無いと思うけど。
[備考]
※ハヤテ+零が出合った人間のうち、生き残っている人物及び知り合いの情報を得ました。
 (こなた、パピヨン、ナギ、鳴海、エレオノール、ヒナギク、覚悟)
※二部終了から連れてこられていますが、義手ではありません。
※吉良の名前に何か引っかかっているようです。
※水を使うことで、波紋探知が可能です。
※三村の留守電を聞き逃しました。
※主催者は目的は強者を決めることであり、その中にはイレギュラーもいると考えています。
※少なくともかがみとは別の時代の人間であるということを認識しました。
※波紋の力を使うことで対象のディスクを頭部を傷つけることなく強制排出することができます。
 ただし、かなりの集中力を要求します。
※マジシャンズレッドの火力は使用者の集中力によって比例します。
 鉄を溶かすほどの高温の炎の使用は強い集中力を要します。
 火力センサーは使用可能ですが精神力を大きく消耗します
 また、ジョセフのマジシャンズ・レッドは通常の炎の威力の調節が極端に難しい状態です。
 ただし、対象に直接マジシャンズ・レッドの手を当てて炎を出した場合に限り調節が可能です。
 修練をすれば通常の炎の精度が上がる可能性があります。
※S7駅がかなり脆くなっていることを発見しました。
※ジョセフとハヤテの約束。
 ハヤテはナギと会った後、ジョセフは仲間を募った後、必ず11時30分にS1駅に集合。
 その後、かがみ救出のために神社へ攻め込む。
※絶影をスタンドだと思っています。

【ジョジョとハヤテのBADANに関する考察及び知識】
このゲームの主催者はBADANである。
BADANが『暗闇大使』という男を使って、参加者を積極的に殺し合わせるべく動いている可能性が高い。
BADANの科学は並行世界一ィィィ(失われた右手の復活。時間操作。改造人間。etc)
主催者は脅威の技術を用いてある人物にとって”都合がイイ”状態に仕立てあげている可能性がある
だが、人物によっては”どーでもイイ”状態で参戦させられている可能性がある。
ホログラムでカモフラージュされた雷雲をエリア外にある。放電している。
 1.以上のことから、零は雷雲の向こうにバダンの本拠地があると考えています。
 2.雷雲から放たれている稲妻は迎撃装置の一種だと判断。くぐり抜けるにはかなりのスピードを要すると判断しています。
※雷雲については、仮面ライダーSPIRITS10巻参照。

【E-2 上空(真・絶影に乗っている)/二日目/深夜】
【劉鳳@スクライド】
[状態]:疲労中(随時蓄積中)、全身に小程度のダメージ、左肩と腹部にダメージ中、右拳骨折治癒途中(包帯が巻いてある)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料一食消費)、4色ボールペン、色々と記入された名簿、スタングレネード×2 、タバサの眼鏡
    タバサのデイパック(内容は液体窒素(一瓶、紙状態)、タバサの支給品一式 、色々と記入された名簿
[思考・状況]
基本:正義を全うし、ゲームとその主催者を断罪する。 死んでいった同志達の遺志を背負い、正義をなす。
0:男(ジョセフ)の話を聞く。
1:服部を止める。場合によっては――?
2:ルイズの最後の願いについてどうするか。
3:悪(主催者・ジグマール・村雨)は断罪、弱者(神楽)は保護。
4:防人の知り合い・桐山の知り合い・核鉄を探す。
[備考]
※絶影にかけられた制限に気付きました。
※桐山・防人・服部・タバサ・吉良・コナンと情報交換しました。
※平次の策に乗る気はありません。
※銀髪銀眼の顔に傷のある人物が殺し合いに乗った事を知りました。
※液体窒素の瓶(紙状態)、スタングレネードなどは、仲間の誰かに渡しても構わないと思っています。
※服部が撃った男(三村信史だが、名前は知らない)を殺し合いに乗った人間だと思っています。


 上空の真・絶影に掴まれているジョセフと、真・絶影に乗っている劉鳳。
 彼らをどこか呆然とした様子で見つめている服部とクレイジー・ダイヤモンド。
 ただ無言。

「…………」

 『お前達を殺した輩を悪と断定し、必ず断罪する!!』
 劉鳳が自らの覚悟の証明として、守れなかった者達への誓いとして、夜空に叫んだ言葉。
 それが服部を今の状態へと陥れた。
 劉鳳が『お前達』という前にあげた名前の一つ、三村信史。
 彼の記憶を見てしまったが為、服部は己の非常に浅はかな行動に気付いてしまった。
 それだけだったならば、まだ引き戻れた。
 しかし、気付いていなかったとはいえ、劉鳳は言ってしまった。
 三村信史を殺した輩は悪だ――と。断定してしまった。

 普通の人間よりは強い精神を持っているとはいえ、服部はまだ高校生。
 劉鳳に自分の行動を告白しても、劉鳳が簡単に許すとは思っていなかった。
 しかし、悪だと言い切るとも思っていなかったのだ。
 覚悟も出来ていない状況で、いきなり、唐突に。悪だと、断定された。
 服部は咄嗟に思った。
 『黙れ』と。
 するとそれに答えるかのように、クレイジー・ダイヤモンドが発現した。
 そして劉鳳とジョセフを『黙らせようと』動いた。
 しかし、今のクレイジー・ダイヤモンドは不完全。所謂、暴走状態。
 元々滅茶苦茶に良いというわけではない、精密動作性が最悪に。もはや、激昂した三村が操っていたときと大して変わらない精度。
 結果。劉鳳には殴りかかり、ジョセフにはヨーヨーを思いっきり投擲。
 服部は吉良吉影から、スタンドは持ち主の精神をヴィジョン(像)にすると聞いていた。
 故に、服部は自らを嫌った。
 黙らせようとして殴りかかるスタンドに、自らの精神が具現化されているのだと、思い込んで。

 スタンドとは、その持ち主の『精神力の強さ』で操るモノ。『闘いの本能』で行動させるモノ。
 自らを嫌い、自暴自棄になっている今の服部には本来、スタンドを行動させる力がない。
 それなのにも関わらず、首輪によりスタンドを操る『適性』が存在する状態になってしまっている。
 そのせいで、服部は今もクレイジー・ダイヤモンドを発現させられているのだ。
 しかし本来はスタンドを行動させる力が無い以上、スタンドはマイナスに働き、持ち主に『害』になってしまっている。

 参加者に一人だけ、その事を知っていた男がいた。
 母親にスタンドが発現したものの彼女に操るだけの精神力が無く、自らに発現したスタンドは暴走状態になってしまうという、数奇な運命を克服した男が。
 しかし参加者で唯一その事についてを知っていた男――空条承太郎はもういない。
 この状況で、服部のスタンドの暴走を止めることが出来る者はいるのだろうか……


  To be continued ......


【E-2 地上/二日目/深夜】
【服部平次@名探偵コナン】
[状態]:精神疲労中(随時蓄積中)、全身コールタールまみれ、スタンドの暴走状態、精神力が弱まっているのでスタンドが害になっている
[装備]:スーパー光線銃@スクライド、携帯電話、核鉄ニアデス・ハピネス@武装練金、クレイジー・ダイヤモンドのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:支給品一式(食料一食消費)、首輪、「ざわ……ざわ……」とかかれた紙@アカギ(裏面をメモ代わりにしている)、
    色々と記入された名簿、ノート数冊、ノートパソコン@BATTLE ROYALE、
    ジャギのショットガン@北斗の拳(弾は装填されていない)、綾崎ハヤテ御用達ママチャリ@ハヤテのごとく(未開封)、
    ギーシュの造花@ゼロの使い魔、スティッキィ・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険 (内容、使用方法不明)、
    キュルケの杖、拡声器、 核鉄ソードサムライX@武装錬金包帯・消毒薬等の治療薬、点滴用セット(十パック)
    病院内ロッカーの鍵(中に千切れた吉良の左手首あり)才人のデイパック(内容は支給品一式、バヨネット×2@HELLSING、
     紫外線照射装置@ジョジョの奇妙な冒険(残り使用回数一回)未確認)  
[思考・状況]
基本:江戸川コナンよりも早く首輪のトリック、事件の謎を解除する。
1:俺は――――――――
2:ルイズの最後の願いについてはどうするか。
3:シェリスを発見し、真実を明らかにする。
4:範馬勇次郎以外の光成の旧知の人物を探り、情報を得たい。
5:自分自身にバトルロワイアル脱出の能力があると偽り、仲間を集める(一時的に保留)
[備考]
※劉鳳と情報交換を行い、シェリスの名前を知りました。
※劉鳳、コナンの事は全面的に信用しています。吉良、神楽に対してはまだ保留しています。
※自分自身にバトルロワイアル脱出の特殊能力があると偽る策を考えています。
※バトルロワイアル脱出の特殊能力は10人集まらないと発動しません。(現時点での服部設定)
※脱出作戦を行うかはどうかは考え中。
※バトルロワイアル脱出の特殊能力についてはまだ吉良に言っていません。そのうち時期を見て言うかは保留です。
※銀髪銀眼の人物が殺し合いに乗った事を知りました。
※コナンと二人で立てた仮説、「光成の他の主催者の可能性」「光成による反抗の呼びかけの可能性」「盗聴器を利用した光成への呼びかけの策」 等について
 は、まだ3人に話していません。又、話す機会を慎重にすべきとも考えています。
※スーパーエイジャが、「光を集めてレーザーとして発射する」 事に気づきました。
※クレイジー・ダイヤモンドのDISCには、三村信史の死ぬ直前の記憶がこびりついています。
※三村信史の死ぬ直前の記憶を見ました。

[服部平次と劉鳳の共通備考]
※劉鳳、服部、アーカードの持つ名簿には以下の内容が記載されています。
 名簿に青い丸印が付けられているのは、カズマ・劉鳳・シェリス・桐山・杉村・三村・川田・才人・
 ルイズ・防人・カズキ・斗貴子・タバサ・キュルケ・コナン・服部 ・灰原
 赤い丸印が付けられているのは、ジグマール・DIO・アーカード・散・村雨
 緑色の丸印が付けられているのは、蝶野
※劉鳳、服部、コナン、神楽は吉良がスタンド使いということを知りました。
※ルイズをF-3の川岸に埋葬しました。折れた軍刀は墓標として刺してあり、キュルケの杖、拡声器は服部が所持しています。
※ルイズの最後の願いについてはまだ話し合っていません。
※アミバの持っていた支給品一式×3 (食料一食消費) は、F-2民家の中にあります。
※アミバの持っていたノートパソコンには、大東亜共和国謹製のOSが組み込まれています。

[E-2地点に関する備考]
※三村の死体の傍に、マジシャンズレッド(魔術師の赤)のDISC@ジョジョの奇妙な冒険、
 七原秋也のギター@BATTLE ROYALE(紙状態)、支給品一式×2、木刀正宗@ハヤテのごとくがあります。
※幅数メートルのアスファルト製の壁があります。
※壁周辺にコールタールが散布されています。
※バイクCB1000(現地調達品)はE-2の路上に放置してあります。


217:エレオノール、明日を創る 投下順 219:求めはしない 救いはしない 未来(あす)に望むものは――
217:エレオノール、明日を創る 時系列順 219:求めはしない 救いはしない 未来(あす)に望むものは――
210:Shine On You Crazy Diamond ジョセフ・ジョースター 224:贖罪の拳、煉獄の炎
210:Shine On You Crazy Diamond 劉鳳 224:贖罪の拳、煉獄の炎
210:Shine On You Crazy Diamond 服部平次 224:贖罪の拳、煉獄の炎