心を縛るものを ひきちぎればすべてが始まる(中編)◆14m5Do64HQ



地下鉄のホーム、中心部に備え付けられた一室。
待合室とも言える空間。
其処に設置された座席に覚悟、村雨、ヒナギク、かがみ、独歩の五人がアルファベットのUのスペルを描くように腰を下ろしている。
覚悟、村雨の二人とヒナギク、かがみの二人が向き合い、そして独歩が丁度Uの底となる位置座るような形だ。
そして零は覚悟の座席の下に置かれている。
彼ら五人は兎に角、互いの情報を交換する事を決めた。
お互いの行動、友好関係を結んだ仲間、そして危険と思われる参加者達についての情報交換。
だが、その情報交換は万事何事もなく、上手くいくという事は残念ながらなかった。

「なんですって! つかさを殺したあの女が……もう人を殺す気はないっていうの!?
そんなの……そんなの俄かには信じられないわ……」

あまりにも予想外な事実に驚きながらヒナギクが口を開く。
その内容は以前、つかさを殺した女、津村斗貴子の変貌について。
憎しみを滾らせながら自分達を狙った斗貴子がもう、人殺しをしないと言ってもヒナギクにはとても信じる事は出来ない。
以前、出会った時の斗貴子の言動や様子を考えればヒナギクの反応も可笑しくはないだろう。

「君の気持ちは私にも痛いほどわかる。
だが、彼女がパピヨン殿とアカギ殿によって人殺しはしないと誓ったのも事実。
ならば、今我らに彼女を悪鬼として討つ理由はない。
彼女に罪滅ぼしをして貰うのは、BADANを滅してからでも遅くはないハズだ」

だが、覚悟もヒナギクが納得できない事はわかっていた。
何故なら覚悟自身も完全には納得できるような事ではないからだ。
しかし、だからといって今は自分のせいでショックにより、気絶しているであろう斗貴子。
そんな斗貴子を殺す事など覚悟には出来る道理はない。
闘う意思のない、自分の事を一時的に忘れるほど弱りきった斗貴子に揮う拳など覚悟は持ち合わせていない。

「それもそうだけど……でも、こんなコト都合が良すぎるわよ……。
一時的とはいえ、私達のコトも忘れてるなんて……。
つかさも川田君も……こんなんじゃちっとも報われないじゃない……」

項垂れながら、ヒナギクがポツリポツリと言葉を漏らす。
あまりにもやりきれない思いを抱え、ヒナギクの声はか細い。
また、川田の名前が出た事に覚悟は思わず反応し、表情を歪める。
だが、各々ヒナギクの心境を察し、無言のまま俯いているので気づかない。
そして、当然、ヒナギク以外にも大きな衝撃を受けている者が居た。

「……わかったわ。だったら、私も……割り切ってみようと……思う……。
それで、葉隠君――」

いうまでもない、つかさの姉、かがみだ。
つかさを殺した女が自分達の仲間の一員になっている事に、かがみは複雑な心境を覚える。
だが、途切れ途切れの言葉ながらも覚悟の意志に同意し、口を開く。
かがみには他にどうしても疑問に思っていた事があったから。

「こなたは今どうしてるの?
確か、あいつも学校に居るハズなんだけど……ねぇ、独歩さん?」
「ああ、そのハズだ」

それは友人、こなたの事について。
独歩の話からすればこなたは恐らく学校に居る筈である。
だが、覚悟の話からはこなたの名前は一言も出てはいない。
その事にかがみはずっと疑問を抱いていた。
そして、かがみの質問をその身で受けた覚悟。
覚悟の表情には、微かな迷いが生じている。

(……この事実を柊さんに告げるべきなのだろうか……いや、隠し通せるコトではない。
そもそも、仲間である皆には、特に泉さんの友人である彼女には……知る必要はある……!)

全てを話してしまえば、かがみは勿論の事、此処に居る全員にも衝撃は走るだろう。
だが、隠し通す事は出来ない、隠し通すような事はしたくない。
そのため、覚悟は迷いを振り切り、かがみの疑問に答えようとする。
自分も、ついさっき知った衝撃的な事実。

「泉こなたさんは死んだ……。私が逃し、敗北した襲撃者の凶弾によって落ちし瓦礫。
その瓦礫の下敷きになり……。
そして――」

こなたが大型銃、ハルコンネンの砲撃により崩壊した職員室の瓦礫に巻きこまれ死んだ事実。
その事実を覚悟は重々しく語る。
驚きのあまり瞳孔が小さくなり、眼がまるで点のようになったまま覚悟を見つめるかがみ達。
彼ら四人の視線を一点に集めながらも、覚悟は再び口を開く。
悲しみともの苦しさに塗れた表情を浮かべながら――

「襲撃者の正体は川田章吾。かつて、私とヒナギクさんと共に行動していた男。
また、川田は恐らく泉さんを殺したコトに気づいてはいない……」

こなたを殺した男が、つかさを愛し、そしてこなたを殺した事に気づいていないという皮肉が利きすぎた事実を。
覚悟は言いのけた。

あまりの事実にかがみを始めとする四人は呆然とする。
覚悟の言っている事は嘘だと思いたい。
だが、目の前の覚悟がこの状況で嘘をつく理由など全くなく、覚悟が浮かべる表情は真剣そのもの。
覚悟が言っている事は真実であると認めざるをえない。

「……ちょっと一人にさせて。すぐ、すぐ……戻ってくるから……」

やがて、耐え切れなくなったのかかがみが席を立ち上がり、待合室の出口へ走る。
独歩がかがみを呼び止めようと顔を上げたが、少し遅かった。
既にかがみはドアノブに手を掛け、駆け足でホームの座席へ向かう。
独歩を始めとする四人はそんなかがみの後ろ姿を見送る事しか出来ない。

「今は、かがみの嬢ちゃんのいう通りにしておこう。
流石にショックを受けただろうからよぉ……」

心なしか独歩の口調も弱弱しい。
それも当然。
独歩はかがみにこなたの居場所を知らせ、結果的には途方も無いぬか喜びをさせてしまった。
意図せぬ出来事とはいえ、独歩はかがみに余計な悲しみを与えてしまった事に後悔していた。
そんな独歩の言葉に、残りの三人もゆっくりと頷き、肯定の意を示す。

「でも……なんてコト。川田君……あなた、もう取り返しのつかないコトを……。
絶対に、絶対に止めなきゃ……!」
「その通りだ、ヒナギクさん。
そのためにも愚地殿、村雨殿、貴方方に協力を要請したい」
「おうよ! もとよりそのつもりよッ!!」

暫くの間、数分の間沈黙を続けていた四人。
だが、ヒナギクの言葉を皮切りにヒナギク、覚悟、独歩が己の決意を固める。
彼ら三人は今まで幾度も無く悲しみに身を沈め、その度に乗り越える事が出来た。
今はこの殺し合いを止め、そして最終的にBADANを叩き潰す。
その目的には変わりはない。
だが、何も言わずに俯く者が一人。

「どうかしたか? 村雨殿」

そう。いうまでもなく村雨だ。
かがみが駆けて行った方を呆然と見ていた村雨。
やっと覚悟の声に反応し、横に座る覚悟の方へ視線を向ける。
村雨が浮かべる表情から明らかな迷いを覚悟とヒナギク、独歩の三人は見て取れた。
何故なら、村雨はある決断をしたからだ。

「俺もお前達と共に闘いたいと思う……!
だが、俺はここに来るまで何人も、いや何百、何千と殺してきた。
ヤツラに全てを奪われ、BADANの尖兵として改造され、仮面ライダーとも闘った。
只、失った記憶を求めるためだけに……!」

今まで一番長く行動を共にしたかがみにすら言った事はなかった事実。
この殺し合いの首謀者、BADAN大首領・JUDOの器として改造された村雨。
村雨は世界全土に対する侵攻作戦の指揮を執り、米軍の戦力を停止させた暗い過去がある。
勿論、後方で指揮を取るだけなく直に殺戮を行った。
己の記憶、そしていつも自分を悲しそうに見守る女性、村雨しずかの意味を知りたいがために。
その今まで隠し通してきた過去を村雨が重々しく三人に話し始める。
初めて聞く村雨の過去に三人は驚きを隠せない。
BADANが村雨に、そして全世界へ行った仕打ち。
そのスケールの大きさは三人の予想を超えていた。
三人の表情を確かめながら、村雨は続ける。

「それに……葉隠覚悟。
俺はお前の兄、散と共にこの殺し合いに乗った時期があった……」
「なんと! 兄上と……」

そして、村雨の罪は未だ存在している。
自分を打ち倒し、痛みを思い出させた散と共に人間を皆殺しにすると村雨は誓った。
あの時の自分もまた、覚悟が言っていた悪鬼に変わりはない。
何故なら、自分は取り返しのつかない事をしてしまったから。

「俺は桐山和雄を見殺しにし、かがみを襲い、彼女をハヤテとジョセフ・ジョースターという男から拉致した。
それだけじゃない、俺は……」

己の両腕を堅く握り締め、歯軋りをしながら村雨が言葉を搾り出す。
己の罪の告白。
告白すればする程、己の心を痛めつける行為。
だが、村雨の口が止まる事はない。
村雨の罪は未だ終わっていないからだ。

「俺は劉鳳というこの殺し合いを潰そうとした男と闘い、そして平賀才人という少年を巻き添えにし、殺した。
だからだ……だから俺はお前達とは組まずに、一人で闘い続けようと思う。
そうすれば、きっと劉鳳もジョセフもお前達の力になってくれるハズだ!」

村雨が迷いながらも決断を下す。
ハヤテとナギを失くし、涙を浮かべたヒナギク。
同じくつかさとこなたの死に対し、悲しみに身を沈めたかがみ。
彼女達二人に対し、村雨は何も慰めの言葉を掛けてやる事は出来なかった。
何故なら自分も以前は奪う側の人間であり、きっと自分のせいで二人のように悲しみに暮れた者が居るだろう。
そんな過去の自分を、出来るものならば殺してやりたいほど村雨は憎む。
幾ら記憶を失くしていたとはいえ、過去にやった事実は消せない。
そのため、血を浴びすぎた存在である自分はそろそろ覚悟達の元から離れるべきだと村雨は考えていた。
暫くの間、何分間とも思える数秒間に新たに口を開く者は居ない。
だが、そんな村雨に唐突に襲い掛かる物が一つ。

――パン!

「ッ!」
「ち! ちょっと覚悟くん!?」
「こら、まーた豪快にいきやがったなァ……」

村雨がいきなり襲ってきたあまりにも小さな衝撃に驚き、ヒナギクと独歩も驚く。
軽快な音が響き、村雨の頭部にクリーンヒットしたものが一つ。
それは立ち上がった覚悟が握り締めている、なんの変哲も無い一本のハリセン。
先程の音は、覚悟が全力で村雨の頭部にハリセンを殴りつけた事によるものだった。

「村雨殿、貴方は思い違いをしている」
「そうだ! 良よ、この莫迦めがッ!!」

更にもう一撃のハリセン。
今度は村雨の頬に対し横殴りに叩きつける。
鍛え抜かれた拳とは違い、所詮ハリセンの打撃では改造人間である村雨にとって特に支障はない。
だが、覚悟の力も尋常ではなく、当然衝撃がないというわけではなかった。
叩きつけられた事で赤く腫れた村雨の頬。
当の村雨は唖然とした表情で覚悟を食い入る。
そんな村雨を尻目に覚悟と零が声を荒げながら捲したてる。
覚悟が浮かべる表情には一片の曇りなどない。

「確かに過去の貴殿は悪鬼そのものだったかもしれない。
だが、今の貴殿は悪鬼などではない! 悲しみそのものじゃないか!
それに貴殿には牙無き人々を救う力がある。
ヒナギクさんとかがみさんを守り、ハヤテの意志を引き継いだ貴方は……闘うべきだ!
志を共にする我らと共に」
「良よ!
お前が殺した軍人が真の軍人であるなら、憎むべきものは侵略戦争そのもの!
滅すべきものはこの殺し合いを画策し、お前の全てを弄んだBADANという悪鬼共!
それでも、お前が彼らに申しわけが立たないのであれば……我々と共に突き進むのみ!
単独行動はこの零が許さぬぞ!!」

覚悟は知った。
ハヤテが村雨に己の正義を託した意志の意味。
そして村雨が強敵、ラオウからヒナギクとかがみを守りながら、ハヤテと共に闘った黄金の意思を。
零は知っている。
混沌を生み出し、多くの人々の涙を枯らし、命を吸い尽くす侵略戦争の残酷さ。
記憶を取り戻した事で今、村雨が侵略戦争に参加してしまった事に対するいいようのない後悔を。
何故なら、零もまた葉隠四郎率いる日本軍によって捕らわれ、研究材料として殺された犠牲者。
そんな零が侵略戦争に対し、苦悩する村雨を見過ごすわけもない。

「私も信じるわよ、村雨さん。
あなたが犯した過ちはきっとこの先ずっと付き纏う。
でも、逃げては駄目! 大事なのはあなたがその過ちをどう償うかよ。
そのために、あなたがこれから何をするか、それを私達と一緒に探しましょう。
私は……私はハヤテ君と一緒に闘ったあなたの意志を信じる!
本郷さんと同じ、仮面ライダーとして闘うと決意したあなたの意志をね!」

視線を見回せば、ヒナギクも自分に微笑みを見せながら、言葉を掛ける。
ヒナギクもまた、村雨の意志を、決意を己の目で目撃した一人。
自分達と共にラオウと闘い、かがみの治療にも尽力した村雨を信じていない筈はない。
本郷と同じく、仮面ライダーの資格を得た村雨を。

「まぁ、俺はあんましお前さんのコトは知らねぇが……そんなコトは問題じゃねぇ。
俺にとって村雨の兄ちゃんは今、俺の前で情けねぇツラで腐ってるだけの男だ。
これからは、そのBADAN野朗と闘うって決めたんだろう?
じゃあ、それで良いじゃねぇかァ。
それくらい単純でもいいと思うぜ……喧嘩が終わった後にでもゆっくりと考えろい。
俺達とBADANがやりあう大喧嘩が終わったあとでもなァ!」

見れば独歩も頭を掻きながら、村雨に言葉を投げ掛ける。
独歩は未だ、出会ってから数時間しか面識はない。
だが、独歩もまた村雨と共にかがみを救おうとした一人。
片腕を切断され、身体が冷たくなっていくかがみを本気で心配した村雨。
独歩にとって村雨を信用する理由はそれで充分すぎた。

「葉隠、零、ヒナギク、独歩……こんな、こんな俺にそこまで……!」

三人と零の予想もしない言葉にカッと眼を見開き、身体を震わせる村雨。
力強い言葉に思わず、胸の奥底が熱くなるような感情を村雨は覚えた。
だが、村雨の表情は未だ険しい。
村雨には確信はないが、どうしても危惧している事があった。

「……しかし! 俺は……このメモリーキューブのお陰で記憶を取り戻した。
このメモリーキューブがもし破壊でもされたら、俺はどうなるかはわからん!
俺が再び記憶を失い、お前達に襲い掛かる事になってしまう可能性があるかもしれない!
また、きっと俺のコトを憎んでいるあの少年のように、軍人などではない平賀才人を殺ったように……」

だが、村雨は焦りにも似た疑問を投げ掛ける。
村雨は自分が大首領の器として改造され、99%のシンクロ率を誇る村雨と大首領の意識を入れ替える事で彼の復活は完了する。
しかし、その事を村雨はこの殺し合いに呼び出された時期では知っていない。
そのため、自分の意識がメモリーキューブによってなんとか大首領の支配を逃れている事も知らない。
だが、村雨は本能的にメモリーキューブが今の自分にとって必要不可欠なものであるとなんとなく感じ取っていた。
このメモリーキューブが壊れでもしたりすればどうなるか?
運が良ければ何も起きないかもしれない。
だが、もしかすると自分の記憶は再び失われ、BADANの手先に成り下がるかもしれない不安。
その不安が邪魔をし、村雨は苦しみながらも覚悟達の言葉をどうしても受け入れようとはしない。
覚悟達に危険を及ぼす可能性など、一%も残しておきたくないからだ。
だが、覚悟は退かない。
退くわけがない。

「平賀才人殿もルイズさんも貴殿を恨んではいないハズだ。
何故なら、彼はルイズさんと固い絆で結ばれていた友人。
真の戦士であったと私は信じている!
真の悪鬼に殺されたのであれば、恨みの一つもあってもおかしくはない。
だが、村雨殿は真の悪鬼ではない!
これほどまでにも苦悩している村雨殿を見て、恨むのではなく、彼は悔いているハズ。
来るべきBADANとの闘いに、我らと共に背中を合わせ、闘えぬコトに!」

ハリセンを握り締め、覚悟が吼える。
この殺し合いで知り合い、交流を深め、自分に最後の遺言を残したルイズ。
村雨が平賀才人を殺したという事実をルイズが知ったらどうするか?
考えるまでも無い。
ルイズは村雨に対し、復讐という刃を突きつけたりはしないだろう。
今は過去の自分を嘆き、BADANを叩き潰そうと考える村雨を。
そしてそれはきっと平賀才人にも言える筈。
覚悟はそう信じている。

「……葉隠、俺は……俺は……!」

覚悟の言葉を受け、村雨の表情に明らかな変化が見える。
覚悟の力強い言葉に村雨の心が大きく揺れていたからだ。
そんな時、新たな声が待合室に響く。

「村雨さん、ここまで言われて引き下がる……なんてないわよね?
それはちょっと男らしくないもんね」
「ッ!? かがみ?」

その声の主はかがみ。
誰も気づいてはいなかったが村雨の話が始まる辺りから、かかがみが待合室のドアから顔を覗かせていた。
予想外のかがみの登場に村雨は驚く。
何故なら、かがみはこなたの死で心に傷を負ったはず。
てっきり今もホームで一人きりだと思っていたからだ。
村雨だけではなく、残りの三人の驚いた目つきに見守られながら、かがみが歩を進める。
やがてかがみは村雨の隣の席に腰を下ろす。
依然、村雨はかがみを心配そうな眼で見ている。

「何? ああ、別にもう私は大丈夫よ。
だって……なんとなくそうなんじゃないかなって……。
あの変な夢は、最後にあいつが化けて出てきたのかなぁとも思ってたしね……。
それよりも――」

不審そうに覗き込んでくる村雨をジロっと睨み返し、かがみが口を開く。
またもや予想外な反応に村雨は一瞬たじろぐ。
よく見ればかがみの涙も既に乾ききっている。
そんな村雨の反応にどことなく満足げな表情を浮かべるかがみ。
村雨にはかがみの真意を確実に掴み取る事は出来ない。
だが、依然としてかがみの口が再び開く。

「『また記憶が無くなったらどうする? 俺達がまたお前達を襲う事になったらどうする?』ですって?
私は葉隠君のように力はないから、抵抗は出来ないだろうけど……。
別にいいんじゃない、その時はその時よ」
「ッ! 何を……何を言っている、かがみ!
俺がまた、あの時のように! お前を殺そうと襲いかかるかもしれない!
そんなコトはもう絶対にあってはならない! 俺はお前達の元から離れるべきだ!!」

あまりにも楽観的で刹那的でもあるかがみの言葉。
思わず村雨は叫び声にも似たような調子で声を荒げる。
村雨が思い浮かべる過去は以前、結果としてジョセフと共にかがみを救った時の事。
だが、あの時の村雨はかがみを助けるつもりなどなく、殺そうとしていた。
あの時のような出来事が繰り返される可能性があると知っても、かがみに動じる様子はない。
そのため、かがみがこんな事を言うのは村雨にとって全くの予想外な出来事。
もしやこなたの死を受け、かがみは冷静に物事を考えられなくなっているのかもしれない。
そんな嫌な考えが浮かび、再び村雨はかがみの顔を覗き込む。

「だから、いいんじゃない。村雨さんはあの変な金ぴか……JUDOっていうヤツと闘うって言ったわ。
今の村雨さんは私を襲ったり、誘拐した時の村雨さんとは違う。
私はもう、絶対に村雨さんがあんな風にならないと信じてる! 今の村雨さんには信じれる価値があるわ!
そうよ。だから――」

かがみが思い浮かべる村雨の姿。
其処にはかがみに十字手裏剣を投げ、拳を向け、拉致した村雨の姿はもうぼやけている。
はっきりと浮かべる事の出来る村雨の姿は、自分を守り、闘い、そして今の前で心底不思議そうな表情をしている村雨のみ。
だから、かがみには信じる事が出来る。
たとえ、メモリーキューブなどが壊れても村雨の記憶は消えない。
いや、自分が絶対に消させない。
片方しかない手で握り拳をしながら、かがみが口を開く。
真っ直ぐ村雨の眼を見つめて。

「あなたは闘ってもいいのよ! もう、あなたは空っぽな人間じゃない!
私達の大事な仲間……一人の人間として!
村雨良、あなたは……私達のためだけじゃない、皆の……皆のために闘ってもいいのよ!!」

かがみは村雨に思いっきり、力のかぎり言葉をぶつける事が出来る。

「かがみ……」

驚きのあまり、村雨は碌に話す事すら出来ない。
こなたを失った悲しみで他人を気遣う余裕などないと思われたかがみ。
だが、現実は違った。
痛いほど心の中に訴えてくるかがみに村雨は動揺を隠せない。

「村雨殿。私も貴殿にもう一つ言っておきたい」

更にかがみの言葉に続く者が一人。
そう。再び覚悟が村雨に口を開き始める。
覚悟は村雨にどうしても言っておきたい事があった。

「たとえ、貴殿の記憶が再び失われ、悪鬼に堕ち、修羅の道を進み、もう戻れる見込みがないというのならば――」

自分が村雨にやらなければらないと感じた事を。
昔、自分がやり遂げる事が出来なかった事を。
こんどこそ絶対に為さなければならない事を。

「その時は! 私が全身全霊を持って、貴殿を倒す!
たとえ、一塊の肉片になりても再び貴殿に修羅の道を歩ません!
あの時、私は兄上が、葉隠散が現人鬼の道を歩むのを止めるコトは出来なかった……。
だが、もうあの時の過ちは断じてさせん!
だからだ。だから――」

覚悟が思い出すのは零式防衛術を学んだ、人里はなれた雪山の景色。
其処で強化外骨格『霞』の人間への底知れぬ憎しみ、おぞましさを知り、現人鬼として人類完殺を散は誓った。
その手始めとし、父であり師でもある葉隠朧に反旗を翻した散。
強化外骨格を纏いながら闘う二人を覚悟は止めようと奮闘したが、結局は失敗。
朧は殺され、激怒に駆られながらも闘ったが覚悟は散に敗れた。
あの時の悲劇を覚悟には繰り返すつもりは毛頭ない。
そのため、覚悟は万が一の場合、村雨を討つ決意を声高々に行う。
村雨に心置きなく、自分達に背中を預けてくれるように。

「我らに力を貸してくれ!
彼の意志に応えるためにも……村雨殿、貴方の力が必要だ!
何人も、いや何千も、何万の牙無き人々を救うコトが出来る貴殿が!
我らに貴殿を信用する用意……当然あり!!」

覚悟は言い放つ事が出来る。
一切合切の迷いを捨て、村雨に真っ直ぐ突きつける。
己の言葉を。
自分の右腕を村雨に対し、差し伸べながら。

「お前達……クッ! 俺を……俺を……」

両肩を震わせながら、村雨が言葉を漏らす。
村雨が両肩を震わせる理由。
覚悟を始め四人と零にはその理由がわかっていた。
何故なら、村雨の瞳に微かに光るものを見つける事が出来たから。
疑う道理もない。
間違っている筈もない。

「俺を闘わせてくれ……! 俺をお前達の……一人の仲間として……!」

村雨が覚悟の手を力強く握り返す事はわかっていた。
喜びの笑顔を見せた覚悟、ヒナギク、独歩、かがみの四人には。
ほんの少しの涙を流しながら、村雨が覚悟の手を受け入れる事を。
わかっていない者は居なかった。

◇  ◆  ◇