束の間の休息◆9igSMi5T1Q



 数分前まで神社にいた男は、近くの禁止エリアに向かっている。
 今は神社に留まるべきではない。
 JUDOとの邂逅はそれなりに興味深かったが、長居は禁物なのだ。
 手に入れた煙草を蒸かしながら、ぽつぽつと歩いていく。
 着いたら、軽く休憩するのも悪くない。
 赤木とて、ただの人間なのだから疲れたときぐらい一睡もする。

 歩きながら、不意に空を見やる。
(いい加減なものだな……)
 降ったり止んだり、天も忙しい。
 神を自称する男に付き合わされて重労働だ。
 オレンジから深い藍色に変わるグラデーション。
 空にはもう、不規則に並ぶ星座たちは見当たらず、朝になった事を伺わせる。
 とはいえ、天の下にいる男は、そんな事など微塵も考えない。ただ空を仰ぎ見るだけ。

「……クックックッ」
 案の定、星空になど興味もないと言った表情で赤木は哂う。
 対主催の情報は揃いつつある。JUDOに出会えたことも大きかった。
 歩きついでに、これらの情報を整理してみよう。


(まず、ジグマールの存在)
 人間ワープ、いわゆる瞬間移動の持ち主。マーティン・ジグマール。
 主催者に恐れられ、その能力を大幅に制限された男。しかし、こいつは奇妙なのだ。
(合理の鎖で言えば、ジグマールは不要。呼ぶ必要など皆無)
 アジトに進入される恐れがあるから制限。
 これほど異常な話はあるまい。最初から呼ぶな、の一言で済む。
 仮にBADANの目的がジグマール打倒だとしても不自然。
 JUDOの態度と合致しないし、BADANはジグマール一人ぐらい、どうとでも出来る組織だ。
 呼んだ上で、能力を制限し殺し合わせる。理に合わない支離滅裂。
 ジグマールを始末するための舞台としてバトルロワイアルを開催したとかでは、全く説明できない。
 だが、この不合理こそBADANの本質。

 数時間前の赤木なら、ここから『ジグマールを呼んだ理由』を推定しただろう。
 能力を無理矢理制限してでも、『ジグマールを呼ばざる得なかった理由』を考えただろう。
 例えば、最初からバトルロワイアルの参加者は決まっていて、それに合わせて運営方法を考えねばならなかったなど。
 他にも色々理由は作れるだろうが、ともかくもジグマールが参加し、そこに理屈があるのなら、必ず正当な理由があるはず。
 しかし……
「ないな、そんなもの」
赤木はその可能性を否定した。理由は、BADANが理屈で動く組織ではないから。

 ジグマールのことだけでない。他にも様々なフラグがBADANのちぐはぐさを示している。
 先ほどJUDOに外された首輪もそうだ。
 もちろん、JUDOが外したことは無視していい。
 あれは理屈を超えている行動だが、あいつの存在はイレギュラー。BADANの合理性を考慮する物差しにはなりえない。
 しかし、あれを無視しても首輪の存在は不合理極まりない。

 赤木は今、禁止エリアに到着した。
 一通り周りをぶらついてみて、体が爆発しないことを確認する。
 首輪に爆弾があるのだから、当たり前の話と思うだろう。
 しかし、実はそうではない。全くもって異常な事態だ。
 それは首輪の機能、能力制限と爆破を考えれば分かる。
 そもそも合理で縛れば、この二つが同居することなどあり得ない。
 まして、人体の最も目立つ位置にこれら二つを付けるなどもっての外。
 BADANが合理的に考える組織なら、能力制限と爆破は別の物で実現しただろうし、目立たない所に隠すべきだ。
 別々に設置した場合、仮に参加者が片方の機能を解除したとしても、もう片方が残る。彼らの安全性はそれだけ高くなる。
 にもかかわらず、BADANは能力制限と爆破、スタンド適正付与などをたった一つの器具で実現しようとしている。
 あれだけの技術力があれば、インプラント器具の一つも作れただろうに。
 それをせずに、目立つ位置にあるたった一つの器具で全ての機能を実現したのは無理がある。
 実際、赤木の知らない話ではあるがインプラント器具は存在する。
 DIOやアーカードに取り付けられているし、心臓ペースメーカーなどもその一つだ。
 一部の機能をインプラントにして実現してしまえば、伊藤が言った首輪のサイズ問題も解決される。


──スタンド適正の付与、エネルギー抑制機能、この二つをあのサイズに詰め込むのに、どれだけ苦労したと思ってるんだ。

 馬鹿か。最初から分けろよ。なぜそうしなかった。
 もちろん、本当に馬鹿だから分けなかったのでないことぐらい、赤木にも分かる。
 伊藤が首輪一つに様々な機能を詰め込んだのは、詰め込まざるを得なかったのではなく、そうすることにより別の目的を達するためだ。

 そう、この目的こそBADANの実態を知る上で重要なフラグの一つだ。


「他にも、Dr.伊藤とのチャット……」
 こなたの説明でチャットは理解した。
 赤木の世界には存在しなかった通信ではあるが、水道やガスのようなインフラの一つを利用していることはわかった。
 とすれば、準備することも容易ではなかったろう。いや、仮に容易に準備できるものであったとしても必然性がない。
 例えば、この町並みを赤木が住んでいた世界のそれにしてしまえば、チャット機能など準備する必要はない。
 そうすれば、BADANは赤木とDr.伊藤のチャットを阻止することが出来たはずだ。
 内外を繋げる通信を切っておくことぐらい、誰にだって分かる常識的思考。そんな常識がBADANには欠けている。

「挙げていけば切りがない……クックックッ」


 他にも仲介人である光成の存在。
 彼も不自然極まりない。彼はバトルロワイアルの情報を知りすぎている。
 BADANが自分たちの存在を隠し、仲介役に光成を使ったのならばトコトンまで隠し切るべき。
 にもかかわらず、光成は重要なな情報を持っていた。


──それでも駄目なら……まぁ『神に祈る』しかないかの

 Dr.伊藤の台詞と合致するこの言葉。光成に知らせる必要はなかったはずだ。
 もちろん、この情報一つで、参加者たちが有利になる可能性は低い。
 だが、僅かな危険でも、不要な情報を与えてまで犯す必要はない。

 そう。
 理由を挙げれば切りがないほどに、BADANは不合理な組織である。
 そしてその理由も、ほぼ明らかになってきた。
 恐らくBADANは大規模すぎる組織のために、様々な立場の者が集まってしまったのだろう。
 バトルロワイアルを開催する立場、否定する立場、どうでもよい立場。
 Dr.伊藤は否定する者だ。そして、BADANではないが光成も否定する者と繋がっている。
 JUDOはどうでもよい立場。
 それぞれの立場が、それなりに力を有するために組織として合理的な行動が取れない。

 首輪一つ取っても、技術部が
『技術的なことは我々に任せろ』
と言ってしまえば、他は口出し出来なくなるのだろう。
 そして、その技術部の統括者が伊藤ならば、Dr(博士)というハンドルネームとも整合性がとれる上、首輪が不合理な事にも納得がいく。
 技術者である立場を使い、伊藤が首輪をこんな形にしたのだ。
 それにチャット機能を街に取り付けたのも伊藤だ。
 奴が12時前後にチャットで参加者と通信していたのは、もちろん休憩のためじゃない。
 最初から計画していたことのはずだ。
 街にチャット機能を敷設し、参加者たちが来るのを回線の向こうで今か今かと待ち構えていたのだろう。
 バトルロワイアル開催側の人間にバレないよう気を配りながらモニターを見つめている伊藤の姿が眼に浮かぶようだ。


「そう……バトルロワイアル転覆のために、必要な人材はBADAN側にもいる……しかし…………」


 赤木しげるは歩き続け、禁止エリアの奥まで進んでいく。
 首輪を付けている者は決して入ることも見ることも叶わない領域。
 同時に、神社まですぐに戻れる領域でもある。

「……しかし、今はまだ時期ではない……」
 対主催勢力の首輪を外し、一斉にアジトを捜索すれば伊藤派の人間にも会えるだろう。
 しかし性急過ぎる行動は、かえって対主催を不利にする。
 赤木の首輪が外れたことを知り、霊的防御について知見を得た対主催派はこぞって首輪を外そうとするだろう。
 そして、一気呵成に乗り込むに違いない。
 けれど、それは大きな誤りなのだ。
 そう、先に気づかなければならない。BADANの本質、不合理さに。
 それがなければ、先に進むことは出来ない。

 BADANは肥大化した組織のために、不合理な行動をとるようになった。
 だからこそ、首輪やチャット、ジグマールなどの理屈に合わない物が残る。
 だが、これだけでは正解の半分である。
「BADANがなぜ、これほど不合理な行動をとっていても組織として成立するのか……」
 考えてみれば、BADANの行動は常識的な人間なら、簡単に否定できるものである。
 一言で言えばBADANは馬鹿なのだが、それにも拘らず巨大な力を持ったのには訳がある。
 その訳こそが、BADANの本当の怖さなのだ。
「それが分からないうちは、手を出すべきではない……それに……今は仲間たちとも合流できない」


 BADANの本当の怖さはともかくとして、赤木には首輪を外す技術がある。
 本来的にいえば、対主催を志す仲間たちと合流し、首輪を外してやる事が必要だろう。
 しかし、今はそれも出来ない。
 JUDOが行動をとったがために、恐らくBADAN内部でもそれなりの動きがあるだろう。
 彼の性格を知る者なら、赤木の首輪が外れた事も看破するかもしれない。
 そんな中、神社付近で、一度にたくさんの者たちが首輪上死んでしまえばどうなるか。
 BADANは間違いなく、首輪解除の可能性を疑う。
 そうなってしまえば、不利になるのはこちら側だ。

 おまけに流れという物もある。
 恐らく、首輪が外れれば、対主催側の人間はほとんどこう考えるだろう。『今の時運は我々に向いている』と。
 しかし、運など無い。
 赤木はギャンブルを嗜む人間ではあるが、あまり運を信じていない。
 どちらかと言うと、偽赤木のような確率信仰の方がよっぽど信じられる。
 しかし、とは言っても運を否定してはいない。
 運は物理的には存在しないが、心理的には存在する。
 運のいい人間と、悪い人間を集めてサイを振らせても、結果は同じ。
 しかし、変わるのは気構えだ。
 運が向いていると思う人間は、それだけで積極的になれる。
 積極性がよい事かどうかは別として、運が向いていない人間と向いてる人間とでは、とる行動が変わる。
 対主催の前に首輪が外れた人間が現れれば、彼らは自分たちに運が向いたと思うだろう。
 そして、考察も程ほどに攻め込むに違いない。それでは不味いのだ。
 そのような軽率な行動では、バトルロワイアルは転覆しない。


「いずれ……パピヨンを通じて神社の情報が漏れる……お清めの謎が解ける」
 いや、パピヨンでなくとも他の参加者。霊的防御を突破したといわれる謎の参加者もいる。
 そいつらを通じて神社に対主催派が続々と集まってくる。
「そうなれば、BADAN側も何らかの行動を起こすに違いない……機はそれから……」
 無論、そうなった時にはいち早く神社に戻る必要がある。
 だが、それまでは神社にいる必要がない。すぐに戻れる場所にさえいれば問題なし。
 それまでに、赤木は赤木でやるべき事をやっておく。
 第一に睡眠。
 第二に考察。
 既に24時間以上起きっぱなしの体では、何をやっても上手く出来ない。
 そして、考察。
 概ね想像は付いているが、それでもBADANの実態について検討する必要がある。


 赤木しげるは、あたりを見渡して一箇所の寝床を見つける。そして、そのまま横になる。
 時刻は放送間際。
 放送で情報を手に入れたら、すぐさま眠る。
 そんな気配を漂わせたまま、彼は横になって動かない。

【場所不明 放送直前】
【赤木しげる@アカギ】
[状態]:脇腹に裂傷、眠気、首輪がありません。
[装備]:基本支給品、ヴィルマの投げナイフ@からくりサーカス(残り9本)、マイルドセブンワン1箱
[道具]:傷薬、包帯、消毒用アルコール(学校の保健室内で手に入れたもの)
 始祖の祈祷書@ゼロの使い魔(水に濡れふやけてます)、水のルビー@ゼロの使い魔
工具一式、医療具一式、沖田のバズーカ@銀魂(弾切れ)
[思考・状況]
基本:対主催・ゲーム転覆を成功させることを最優先
1:放送を聴いて、少し休む。
2:大首領との再会。バトルロワイアルに引きずり込む。
3:対主催を全員説得できるような、脱出や主催者、首輪について考察する。対主催は神社に集まると想定しているので、睡眠後、神社に移動する。
4:強敵を打ち破る策を考えておく
5:覚悟に斗貴子を死に追いやった事を隠し、欺く。
[一時的備考]
※赤木が寝ている場所は、後続の書き手さんに任せます。(アスファルトの上とか、家の中とか)
※赤木のいる場所は神社から近い禁止エリアです。


[備考]
※マーティン・ジグマール、葉隠覚悟と情報交換しました。
※エレオノールとジグマールはもう仲間に引き込むのは無理だと思っています。
※光成を、自分達同様に呼び出されたものであると認識しています。
※参加者をここに集めた方法は、JUDOの能力であると思っています。
※参加者の中に、主催者の天敵がいると思っています(その天敵が死亡している可能性も考慮しています)
 そして、マーティン・ジグマールの『人間ワープ』は主催者にとって、重要であると認識しました。
※主催者のアジトは200メートル以内の雷雲によって遮られていると考察しています
※ジグマールは『人間ワープ』、衝撃波以外に能力持っていると考えています
※斗貴子は、主催者側の用意したジョーカーであると認識しています
※三千院ナギは疫病神だと考えています、また彼女の動向に興味があります。
※川田、ヒナギク、つかさの3人を半ツキの状態にあると考えています。
※ナギ、ケンシロウと大まかな情報交換をし、鳴海、DIO、キュルケの死を知りました。
※こなたのこれまでの経緯を、かなり詳しく聞きだしました。こなたに大きなツキがあると見ていますが、それでも彼女は死にました
※『Dr.伊藤』の正体は主催側の人間だろうと推測しています。


『Dr伊藤』とのチャットによりわかった事
1:首輪は霊的に守護されている
2:首輪の霊的守護さえ外せれば、後は鋭い金属を継ぎ目に押し込む程度で爆発無しに外せる
3:既にその霊的守護を外した者が居る。そいつが首輪を外したかは不明だが、おそらく外してはいない
4:監視カメラは存在せず。首輪についた盗聴器のみでこちらを監視。その監視体制も万全ではない
5:敵には判断能力と機転に乏しい戦闘員が多い
6:地図外に城? がある
7:城には雷雲を突破しなければならず、そのためには時速600キロ以上の速度が必要

※大首領との接触により、大首領とBADANとの間のズレを認識。
※BADANという組織はあまり合理的に動かないと認識。


234:STILL LOVE HER ~失われた未来~ 投下順 236:
234:STILL LOVE HER ~失われた未来~ 時系列順 236:
232:神に愛された男 赤木しげる 240:運命のルーレット叩き壊して