信じるということ/GET WILD ◆14m5Do64HQ



どのくらいの時が流れただろうか。
そう思える程にあまりにも多くの出来事が起こり、過去の事として消えていった。
縦横一kmで定められた計六十四のエリアで構成され、この殺し合いのために用意された戦場。
そんな殺し合いの舞台の中で一つ、他のどの場所よりも大きな動きが存在した場所がある。
それは計十人の参加者が演出した、まさに死闘ともいうべき闘い。
傷つきゆく肉体を投げ出し、噴出する血を身体に纏いながら繰り成された乱戦。
一言ではとても表す事は出来ない程熾烈に、命を削りながら彼らは闘ってみせた。
己の仲間を、信念を、大切なものを守り通すために。
そして、その決戦で力尽きし者は若干二名のみ。
意外にもその二名とはこの世の化け物と称するに相応しい範馬勇次郎とラオウ。
決して、彼らが弱いはずもなく、この殺し合いに集められた参加者の中では間違いなく最上の類に入るだろう。
だが、彼らは負けた。
彼らがあまりにも予想外な敗北を喫した要因は一体何だったのだろうか。
いや、最後までいう必要はないかもしれない。
この殺し合いで行われた闘いの中でも最上級ともいえた乱戦――『決戦』をしかとその眼で目撃した貴方になら。


「勝った……、俺は……勝った……!」

天に翳した腕を一向に下げず、先程勇次郎を倒した男――仮面ライダーZXこと村雨良が唸る。
ラオウ、そして勇次郎との熾烈極まる連戦を経て、ZXの疲労と負傷はかなり大きい。
その事実を指し示すかのようにZXは無意識的に左膝を地に着かせる。
周囲に誰かがざわめく声が聞こえたが、ZXは核鉄で促進された自己治癒力をフルに酷使し、再び立ち上がる。
身体中傷だらけで満身創痍というに相応しいZXの状況。
しかし、ZXはそんな自分の状況など何処吹く風といった様子で、喜びに震えていた。
ZXが喜びに震える理由。
それもまた、今更説明する事でもないだろう。
そう。今現在、最強最悪の敵ともいえた勇次郎を倒した事を、ZXはまるで幼少の時代に遡った様に喜んでいた。
男ならば、強大な敵に打ち勝てた時、思わず嬉しさに身を任せながら大声を上げ、歓喜に身を焦がす事も可笑しくはないだろう。
実際、ZXにも多少はそんな思いもある。
だが、ZXが喜びを噛み締めている本当の理由は別のところにあった。
勇次郎を倒した事もなく、自分が生き残る事が出来た事よりももっと重要な理由が。

(やっと……やっと守るコトが出来た。この俺が、こんな俺が……!)

今まで目の前で為すすべもなく大切な存在を奪われる事しか出来なかったZX。
それどころか、記憶を求め他の参加者を傷つけ、平賀才人をも殺してしまっている。
許される存在ではない自分が初めて守るべきものを守り通す事が出来た事に、ZXはどうにも喜びを隠せない。
もう一度、力の限り大声を上げ、この喜びを身体全身で感じていたいと思うほどに。
そんな時、拳を握り締めながら、ふとZXは後ろを振り返った。
ZXが振り返った先には、彼に絶え間ない歓声や拍手を送ってくれる7人の男女が映る。
言うまでもなく大切な仲間達――柊かがみ、葉隠覚悟、桂ヒナギク、愚地独歩の四人。
また、残念ながら未だ完全には打ち解けていないが共に闘った者達――ジョセフ・ジョースター、服部平次、才賀エレオノールの三人。
程度の違いはあれど、彼ら全員はZXの勝利を称えていた。
勇次郎相手に一歩も引かず、危なげながらも勝利を収めたZXの労をどうして称えない事が出来ようか?
恐らく、それは難しい相談だと思う。

(あの時、確かに散とハヤテ、そして仮面ライダー……本郷猛の声が聞こえたが……)

ふと、ZXは先程、自分が聞いた声の主達――葉隠散、綾崎ハヤテ、本郷猛の三人の事を思う。
ZXがこの殺し合いの中で、そして殺し合いが開催される前に出会い、彼に多大な影響を及ぼした三人。
決して忘れる事は出来ない交流を交わした三人の声が聞こえた事をZXは不思議に考える。
常識的に考えれば、既に死者の身である三人の声がZXに聞こえる筈はない。
だが、それもつかの間、ZXは直ぐに原因を追究する事をやめた。

(そうだ。あいつらは俺の中に生きている……それだけで充分だ……!)

握りしめた拳を下ろし、ZVは食い入るようにそれを見つめる。
歴戦の勇士であり、誇り高き戦士でもある彼らから声を――力を貰った事実は確かだ。
ならば、もうそれだけでいいではないか。
彼らはいつまでも自分を見守ってくれているという事実。
その事実がわかっただけで、込み上げてくる嬉しさにZXは震える。
徐に変身を解き、ZXの姿から村雨良の姿に戻り、村雨はある表情を浮かべながら依然、己の握り拳に視線を送り続ける。
それは揺ぎ無い決意を持つ、立派な戦士のものであった。


「やるじゃねぇか、村雨! あの勇次郎相手に勝つとはよ……」
「村雨さん……お疲れ様!!」
「見事な戦ぶり! 私は貴方と共に、戦を行えたコトを真に光栄に思う!」
『うむ! 見事だ、良よ!』

そして変身を解き、村雨良の姿に戻ったZXに賛辞の言葉を送る三人と一つの鎧。
愚地独歩、桂ヒナギク、葉隠覚悟が浮かべる表情は喜びそのもの。
強化外骨格『零』が発する声からは歓喜の色が見える。
村雨はそんな仲間達がなにか、眩しい存在に見えるような錯覚を起こす。

「へっ! 赤虫野郎が……まぁまぁってトコだな」
「おいおい、ジョセフ。そんな態度はないやろ。
まぁあんたには色々ききとーコトあるけど……今はええわ。
ほんまに……おつかれさん!」

また、先程の三人と一つの鎧程に、素直に喜びを見せないが、賛辞の言葉を送る二人組みもその場に居た。
それは偶然、この場で居合わせたジョセフ・ジョースターと服部平次の二人。
そんな二人の態度に村雨は無言で応え、僅かな安堵感を覚える。
彼らが自分に抱いていた印象は最悪なものと予想出来、拒絶される事も可笑しくないと考えていたからだ。
村雨にかがみを無理やり誘拐された覚えを持つジョセフ、そして信頼すべき仲間――劉鳳から平賀才人を殺した男と聞かされていた服部。
実際、彼ら二人はそれぞれ直接的に、間接的に村雨の事を知っており、ハッキリいって印象は良くなかった。
だが、それでも村雨の行為を認めないわけにもいかず、二人は賛辞の言葉を送る。
そう。あれ程までにも闘い抜いた村雨に対し、そんな態度を取れる程、二人は非情でもないから。

(……ん?)

そんな時、村雨は視界の片隅に一人の少女を見つけた。
腰の高さまで伸びた紫色の長い髪をし、無残にも片腕を失くしてしまった少女。
最初の出会いは最悪で、いくら謝っても許してもらえなくても可笑しくはない。
だが、そんな自分を許し、いつも自分が失われそう時に傍に居てくれた大切な存在。
柊かがみが村雨の方をジッと見つめているのを、村雨は確かに確認した。


(うぅぅ、なんで……なんで何も言えないのよ、私は……)

自分の周りが次々と村雨に賛辞を送っている中、かがみは未だ一言も口に出していなかった。
それは一体何故か。
勿論、かがみが村雨を心配していなかったわけもなく、それどころかこの場に居る中で誰よりも心配していただろう。
必死に村雨の勝利を祈りつづけたかがみ。
そのため、ボロボロになりながらも勝利を収め、村雨が無事であった事に対しかがみの喜びは最高潮まで昇りつめたともいえる。
しかし、かがみは一向に村雨に掛けるべき言葉が見つけられなかった。

(だって……直ぐには思いつかないじゃない……)

『お疲れ様!』、『身体は大丈夫?』、『カッコよかったよ!』。
村雨にぶつけたい言葉は幾らでもある。
だが、何かが足りない。
それだけでは村雨にこの膨れ上がる想いを伝えきれない。
かがみにはどうしても、そんな安っぽい言葉では満足できない。
もっと、もっと的確に村雨に伝わる言葉が必要――そんなコトをかがみは考え続けていた。

「ほらかがみ、ボサッとしてないで行って来なさいよ」
「え!? ちょ!ちょっとヒナギク!!」

そんな時、かがみはふいに強烈な力で背中を押される。
その犯人は妖しげな笑みを見せるかがみの友人――ヒナギク。
ヒナギクが浮かべる表情にはかがみを気遣う気持ち、
そして何か面白がるような気持ちが半分ずつ居合わせているような気がかがみにはしてならなかった。
ヒナギクの謀略により、かがみはよろめきながらも他の皆より前に立つ事になる。
そして、体勢がようやく安定したかがみはキッとヒナギクの方を振り返った。
其処には少し憎たらし笑顔を浮かべながら、右の手でピースサインを送るヒナギクの姿が映る。

(もう、ヒナギクったら……でも、ありがとね……)

ヒナギクの意図をなんとなく理解し、かがみは心の中で彼女に対しお礼の言葉を送る。
何故なら、ヒナギクは自分に対し文字通り背中を押してくれたとかがみは思ったから。
そう。二重の意味で背中を押してくれたヒナギクにかがみは少し、控えめな笑顔で返す。
そして、かがみは急速に顔を回し、真っ直ぐ前を見据えた。
かがみの視界に入ったものは、彼女が急に振り向いた事で少し驚いたような表情を見せる村雨。
自分よりも年上の癖に何故だか年下のような――弟のような印象を漂わせる村雨にかがみは少し可笑しさを覚える。
そして、かがみは一歩ずつ村雨の方へ進み、数歩を歩み終わったところで――全力で走り出した。

「ッ! かがみ!?」


ふいに村雨の方へ飛び込むように駆け出し、地を蹴り飛ばしたかがみ。
村雨は先程よりも大きな驚きを見せながら、自分に飛び込んでくるかがみをなんとか受け止めた。
かがみの両肩に手を置きながら、彼女を地に優しく立たせ、村雨は視線を合わせる。
受け止める事が間に合わず、もしかすればかがみの身体は地面に叩きつけられたかもしれない。
そのためかがみに対し何故、こんな事をしたのか村雨は問いかけようと口を開きかける。
しかし村雨の口が開くよりも先に動くものがあった。


「村雨さん……村雨さん、村雨さん……!」


動いたものはかがみの片腕。
必死に村雨の胸に当たる衣服を握り締め、かがみが何度も何度も村雨の名前を繰り返す。
やがて、地面に落ちる煌く雫。
それはかがみの溢れ出る感情が具現化したもの。
そう。かがみの両目から零れ落ちた涙が地面をほんの少しだけ濡らし始める。
何故か村雨は只、無言で見つめ続ける事しか出来ない
自分の胸に顔を押し付け、泣き出したかがみを。

(もう泣かないって決めたのに……でも、それでも……!)

どうしようもなく涙が止まらない自分をかがみは心の中で恨む。
ヒナギク程運動神経も良くなく、何も力は持っていない自分はせめて涙は見せずに、自分が出来る事を頑張ろう。
数時間前、そう決意したのに今の自分はこんなにも涙を流し、決意が全く意味をなしていない。
だが、かがみは今だけはどうしても涙を流す事を我慢できなかった。
何故なら、かがみには絶対に村雨に伝えたい事があるから。
かがみの意志に応えるかのように、自然と村雨の衣服を握る彼女の手に更に力が掛かる。
村雨に自分の想いを知ってもらうために、かがみは彼の顔を見上げた。


「ありがとう……無事でいてくれて……本当にありがとう、村雨さん……」


かがみが震えながら呟いた言葉。
それは村雨の勝利を称えるものではなく、自分の寂しさを訴えるものではない。
只、ひとえに村雨の身を案じた言葉をかがみは涙でボロボロになった顔で口にする。
今まで自分のせいで、自分が何も出来なかったせいで多くの仲間を失くして来たかがみ。
そんなかがみは何よりも先ず、村雨が朽ち果てなかった事に安堵し、その反動で涙が止まらなかった。
今もかがみは肩で呼吸するかのように、両肩を震わせ喜びの涙を流し続ける。

(村雨さん……あったかい……)

そう。かがみに悩むべき事など何も無かった。
情熱的な言葉も要らない。
只、こうして感じるだけで良かったから。
生きてくれた村雨の身体の暖かさを感じるだけで――良かった。
たったそれだけで――かがみは満足出来た。
村雨の無事をその小さな身体で一身に感じ取る事で。
今の自分の姿を見れば、はしたない女だとか、軽々しい女だと評する人も中にはいるかもしれない。
けど、それでも別に構いはしない。
今感じている喜びを――村雨の暖かさを決して手放したくはなかったから。


「かがみ……」

かがみの予想外の言葉、そして彼女の涙の意味をおぼろげながらに理解した村雨。
一巡の間を置き、やがて村雨は意を決したかのように村雨は力を込めた。
両腕をかがみの背中へ回し、彼女の身体を自分の方に寄せるようにひっしりと抱きしめる。
強化改造を受けた腕でかがみの背中を折らないように加減し、だがそれでいてありったけの想いをその腕に注ぐ。
初めて守り通せた存在――柊かがみを村雨は彼女と同じよう身体全身で感じ取る。

『――ん!』
『む――、か――』

周囲からは何か冷やかしのような声が村雨とかがみには聞こえた。
だが、彼らはそれらの声を無視し、互いに身を預けながらその場に立ち尽くす。
まるで二人だけ、時の流れが止まった世界に迷い込んだ住人のように。

「なぁ……ジョセフはん、村雨はんのコトやけど……。
どうやらもう、俺らがとやかく言うコトはなさそうと思わんか?」
「ああ、イマイチ何があったかよくわかんねーが……そうみたいだな」

服部とジョセフが互いに肩透かしを食らったような表情で村雨とかがみを見つめる。
だが、その表情には落胆の色などない。
彼ら二人の表情に映るもの。
それは敵だと思っていた人間が実は心強い味方であったという事実に対する安堵感。
驚きが混じるといえども、其処には確かな『喜び』があった。


「ハァー……熱々だなぁ、あいつら。けど、凄かったなぁ、あの村雨ってヤツ!
カズキンと同じくらい強ぇーや!
よかったなぁ、エレノン! あいつらと仲間になれて!」

そんな時、口を開くものが一つ。
それは武装錬金によって生まれ、変てこな羽を生やした不細工な自動人形――エンゼル御前。
先程、目撃した村雨の闘いを彼が知る中で最強の男――武藤カズキと同じようだと評する。
そして御前は嬉しそうに飛び跳ねながら、自分の仮初の主に話を振る。
そう。その人物こそ、御前を肩に乗せた銀髪の女性。
才賀エレオノールという名前を授かった一人の“しろがね”(人形破壊者)であり――

「ええ、そうですね……御前……」

どこか寂しげな表情を浮かべた女性であった。
自分から村雨とかがみを含める他の七人から距離感を取っている感じを漂わせる。
エレオノールの瞳に、何か迷いのような感情がある事に御前は気づけてはいない。

◇  ◆  ◇

「オーケー、オーケー! そういうコトだったか……それなら納得だぜ」
「じゃあ、村雨さんを信じてくれる、ジョジョ!?」
「信じるもクソもないぜ、かがみ~ん。
あいつがもう、殺し合いに乗るようなヤツじゃねぇコトがわかったからな。
それにそんなコトしたら、僕ちゃんあの怖いお姉さんに殺されちゃうぜ~」

様々な商店が立ち並ぶ繁華街。
彼ら七人は傷ついた身体を癒すために、取り敢えず休憩できる場所へ移動する事に決めた。
そのため、距離的に近かった事もあり、繁華街をうろついてた八人は偶然ホテルを見つける事が出来た。
エリアD-8にあったホテルに較べれば小さいが、それでも繁華街に建設してあるだけあって規模はかなり大きい。
直ぐにホテルに入り、二階の団体様用の部屋に入り、八人はその場で一時休憩を行い始めた。
負傷が大きい村雨と覚悟は周りからベッドに寝る事を進められ、
ジョセフは我先にベッドに横になり、他の者はその場で適当に場所を取っている。
そして、かがみがジョセフに今までの経緯を話し、村雨の誤解を解いていたという事だ。

「だ・れ・が怖いお姉さんですって~~~!」
「Oh! これがいわゆるなんとかの逆鱗に触れちまったぜ!ってヤツだな!!
服部~~~Help me~~~~~~」
「ハァ? いやいやいや俺に振んなや! って姉ちゃん、核鉄はアカン! それはシャレにならへんって!!」
「ち!ちょっとあんた達、静かに……」
「わはははは、いいぞ。もっとやれや」

かがみの必死の説明、そして先程のかがみの行動を見て、ジョセフは彼を信用した。
そう。今は小さな寝息を立てながら、身体を休めている内の一人、村雨の事を。
だが、そう思いや否やジョセフはヒナギクをからかい、あまつさえ服部までも巻き込む。
また、今のヒナギクは独歩が持っていた制服――かがみが通っていた学校の制服を着ているので、決して半裸ではない。
直ぐ傍では村雨と覚悟が寝ているためにかがみがその場を仲裁しようと立ち回り、独歩が面白半分に煽る。
また、数十分前に激闘を潜り抜けてきたとは思えない程、彼らの表情は明るい。
計り知れない程の緊張状態から開放された事により、無意識的に彼らはリラックスしているのだろう。

「ちょっと! これって確か伊澄さんの家の木刀じゃない!」
「あ~? まぁ俺は別に使わねーから、くれてやってもいいぜ~」
「そう、じゃあ有難くもらっておくわ。どうもありがとう!」

そして、彼らは互いの支給品を見せあい、交換していた。
様々な人間をこの場に集めた事から主催者であるBADANの組織は強大であり、その戦力も大きいと予想できる。
そのために、互いに使い慣れそうな武器やその場の状況に適した装備を交換しておこうという話になっていたからだ。
この殺し合いに呼ばれる前に確かに持っていた正宗をジョセフから譲り受けたヒナギク。
木刀を手に取り、ヒナギクは純粋に喜びを見せる。

「全く子供みてぇに喜ぶヤツだなー。
もっと、俺のようにクールにいこうぜ、クールによー……って!おい、おっさん!これ赤石じゃねぇか!!
頼む!これは俺に譲ってくれ~~~」
「あぁん? まぁ俺も使わねぇから、いいぜ」
「お!サンキュー! 恩にきるぜ! もう返せって言っても遅せぇからな!
ぜってぇに返さねぇぜ~~~~~~」
「ジョセフはん……全然説得力ないで……」

そんなヒナギクをからかうジョセフだが、独歩が持っていたエイジャの赤石を見て、直ぐに態度を変える。
少し眼を離せばコロコロと表情や言動を変えるジョセフ・ジョースター。
この殺し合いの場でも、彼の個性は健在である事も言うまでもない。

「けど……三村がそんなコトになったなんて……」

だが、そんな時、ふとかがみが思いつめたように口を開く。
先程、村雨と自分の事をジョセフに話した時、かがみは同時に彼の話を少しながら聞いた。
そして、ジョセフは真っ先にかがみに話した。
以前、一緒に行動していた仲間――三村信史が抱いてしまった誤解、そして最期の事を。
一度衝突した事もあったがその事が誤解と判り、ヒナギクの表情も暗くなり始める。

「あいつに何も出来なかった俺は本当に情けねぇぜ……。
だがな、かがみ。俺達にはシンジに謝るよりも先にやるコトがある。
なぁ、そうだろう? てめぇはそれをやり遂げるって決めたんだよなぁ?」

ジョセフが先程とは打って変わって、真剣な表情で言葉を漏らす。
そこに浮かんでいる表情は誇り高きジョスター家の正統な血族のもの。
只の陽気な遊び人としてではなく、波紋の戦士、ジョセフ・ジョースターとしての顔が浮かぶ。
その頼りがいのあるジョセフの表情にかがみはなにか懐かしさのようなものを覚えた。
そして、ジョセフは視線を動かし、問いかける。
彼が口にした名前を持つ男――三村と深い因縁を持つ男に対して。

「ああ……勿論や。
今更、俺が何をゆーても、言い逃れはできん。俺がやった罪は消されへん。
俺が三村信二を殺してしもうた事実は……!
せやったら……許されるなら……やるしかないやろ。
俺は三村の分までこのけったいな殺し合いの謎を解決したる……絶対にや、絶対にやってやるで!」

そう。その人物こそ服部平次。
以前、焦りのあまり判断を誤らせ、三村の命を奪ってしまった男。
そして、真実を知り、一時はかがみや三村のように我を見失い、暴走してしまった男が口を開く。
だが、服部は誓った。
身を挺して自分を助けてくれた劉鳳とジョセフと共にこの殺し合いを潰す。
この世界で知り合い、今は散ってしまった仲間達――タバサ、キャプテン・ブラボー、アミバの意思を、信念を無駄にしないためにも。
だから服部は進み続ける事を諦めない。
服部が浮かべる表情はジョセフとは違う。
だが、その表情は大きな意思を感じさせる程の様子を漂わせる。
そんな服部を見てジョセフは満足げに頷き、ほんの少し遅れながらもかがみも大きく頷く。

「おうおう、でけぇコト言ってくれるじゃねぇかぁ。
まぁ、俺らが居るから大船に乗ったつもり構わねぇぜ!
けどよ、それよりも俺には気になるコトがあってな……」

ジョセフやかがみと同じように頷いた独歩とヒナギクの内、独歩が口を開く。
独歩が向ける視線の先には服部の顔がある。
だが、その視線は除々に動き、対象がずれ始めていく。

「ああ、私にも是非知りたい事がある」
「俺にもだ……」
「か、覚悟君! それに村雨さんも身体、大丈夫なの!?」

そんな時、今まで眠っていた覚悟と村雨がムクリと起き上がる。
幾ら強靭な肉体を持っていようと、先程の激戦で多くの傷を負った二人。
二人の身体を心配し、逸早くヒナギクが慌てながら声を掛ける。

「未だ完全とはいえないが、会話と歩行が可能なくらいには回復した。それに零が今でも治療を行ってくれている。
問題はない」
「俺もそのくらいは大丈夫だ。ハヤテの核鉄もあるからな」
「あー……そうね……貴方達の体力を忘れてたわ……」

覚悟には強化外骨格『零』、村雨にはハヤテから託された核鉄の治癒力がある。
更に元々人並みはずれた身体を持っている覚悟と村雨の二人。
ベッドからそれなりに回復した身体を起こし、二人は揃って無骨な表情を浮かべ、口を開く。
そして二人が向ける視線の先はやがて独歩のそれと一点で交わった。
彼らの視線の先を、ヒナギク、かがみ、ジョセフ、服部の四人が追いかける。
そう。計八つとなった視線の向かう先には――

「わかりました、全てをお話します……。
私が行ってきたコト……私が犯した罪を……」

彼らから距離を置くように、部屋の片隅で正座をした銀髪の女性。
其処には自分を突き刺すように降り注ぐ視線に負けぬように、必死に頭を上げながら口を開く才賀エレオノールの姿があった。

◇  ◆  ◇

「――以上です……」

ホテルの一室でエレオノールの言葉が彼女の話の終わりを告げる。
数分間――いや、数十分間程かもしれない。
エレオノールが時々、言葉を詰まらせながらも全てを話し終えた。
しかし、エレオノールの話が終わったというのに誰一人として口を開く者は居ない。
最初にエレオノールに対し視線を向けた独歩ですらもだ。
エレオノール以外の者は口を固く一文字に閉じ、言葉を出そうとしない。
その現状にエレオノールは寂しさを覚えるも、何故かそれが当然とも思え始めた。

(きっと、呆気に取られているんですね……。
私がやったコト……私がやってしまったコトを……)

エレオノールがこの殺し合いで行った事。
何度もこの殺し合いに対する方針を変更し、二人の少女――キュルケと三千院ナギを殺害し、度重なる交戦を行った。
特に、たった今エレオノールを睨みつけている独歩とは計三回も闘い、深い因縁がある。
たとえ、ケンシロウに救われたといえども独歩が易々と許してくれるはずもない。
そう。そんな事はエレオノールにはわかりきっていた。
自分がこの場に居るべきではない。
この素晴らしき絆で結ばれた彼らの輪に入るべきではない存在。
血の海にドップリと沈み、鮮血で染まりきった自分は間違いなく不協和音になる。
先程、互いに抱き合い、無事を喜び合った村雨とかがみを繋ぐよう絆は自分には誰とも結べない。
しかし、もし万が一自分が彼らの輪に入り、共に闘う事が出来れば。
そう考えるだけでエレオノールは嬉しさで涙が流せそうな心地さえもしてくる。

(けど、そんなコトは所詮、夢物語……彼らが私を信用する可能性は殆どない……
私が今までやってきたコトを考えれば不自然ではありません……)

しかし、それは難しいだろう。
以前、ケンシロウに助けてもらい、仲間として闘う事を許して貰えた事は奇跡に近かった。
先程、エレオノールはケンシロウとの交流、そして彼の最期まで独歩達に対し詳細に説明したが、
彼女の話を彼らが信用しているかはわからない。
以前、独歩はエレオノールに何度も虚偽をつかれ、奇襲を受けていたからだ。
恐らく、独歩は自分の事は仲間に伝えているとエレオノールは確信し、実際彼は彼女を危険人物として伝え終えている。
もしかすれば自分の話は嘘で、ケンシロウを殺した犯人だと思われているかもしれない。
依然続く沈黙の中で、自分が置かれた現実――自分がしでかした事を今一度、一人見つめ直すエレオノール。
そこから湧き上がる感情には、後悔の二文字しかない。

(やはり私には……高すぎた林檎だったようですね…………)

許して貰えない事は元々、無理だと思っていた。
しかし、その事でエレオノールに彼らを責める事は出来ない、出来るわけがない。
何故だが、気を緩めれば今にも涙が溢れ出そうな感情にエレオノールは襲われる。
その感情を必死に抑え、エレオノールは立ち上がろうとする。
もう二度と、彼らに迷惑は掛けずに自分ひとりでこの殺し合いを潰すために。
そんな時だ。
エレオノールに両耳に聞き慣れた、何かが開いていくような音が聞こえ――


「おい!お前ら!! エレノンのコトを無視すんじゃねぇー!!
エレノンはなぁ……エレノンはなぁ……もう、あの時のエレノンじゃねぇんだぞッ!!」


エレオノールに対し仲間と言ってくれた不細工な自動人形。
エレオノールは武装連金を発動していないのに、何故かエンゼル御前が彼女の目の前で叫びながら飛んでいた。


「御前、落ち着いて――」
「確かにエレノンはナギリンを殺しちゃったさ……ケンがエレノンはキュルケっていう人も殺したって言ってた……。
けど……それでも……」

御前を落ち着かせようとエレオノールは彼女に手を伸ばす。
しかし、御前はエレオノールの手を器用に逃げ、言葉を続ける。
御前のいきなりな登場に少し驚いた表情を浮かべている独歩を始めとした、七人は只耳を傾け続ける。

「エレノンは変わったんだ! 今ではもう、絶対にエレノンはあんなコトはしない!
エレノンはケンに救われて、ナギリンのためにもたたかう……いや、生きる決心をしたんだ!
俺はエレノンを信じる! 信じられないわけがない……あんなにいい笑顔をしたエレノンが二度と人殺しはしないコトを!!
だから――」

御前は知っている。
自分を人形と思い込み、悲しみに暮れながらケンシロウと闘ったエレオノールの気持ちを。
当時はナギを殺したエレオノールに反抗心を抱いていたが、御前は次第にエレオノールに心を開き、遂には仲間として認めた。
それはきっと、ナギが最期までエレオノールを救うために闘った事も関係していたかもしれない。
しかし、やはり御前の心を動かした決定的な要因はエレオノールの心だろう。
一度仮死状態となり、キュルケ、ナギ、ギイ、そして才賀勝との一時の交流を経て変わった彼女の心。

「エレノンを信じてくれ、皆!
エレノンを信じて、死んじゃったあいつらの気持ちを無駄にしないためにも……エレノンを一人の仲間として認めて欲しいんだ!!」

両の拳を固く握り締め、独歩達を懸命に睨みつける御前。
震えながらも、御前が浮かべるその表情には意思の強さが垣間見える。
何故なら、御前には引き下がるわけにはいかないから。
自分が一人の人間であると気づく事が出来たエレオノール。
自分が一緒に闘う事は勿論だが、彼女に孤独な闘いはさせたくはない。
そのため、御前は出来るだけ力強く独歩達に懇願する。

「御前、いい加減に……」

理由はわからないが、強制発動したエンゼル御前をエレオノールは武装解除しようとする。
勿論、御前の発言が気に食わなかったわけでもなく、寧ろエレオノールは嬉しかった。
こんな自分のために必死になってくれる御前の言葉がまるで癒しを与えてくれるように。
だが、御前の話はあくまでも此方側の都合だけの話。
自分を弁護してくれる事に嬉しいと感じるのは当然だが、それでは都合が良すぎる。
そう。今更、自分がこれから人殺しをしないと言っても、それを信じてくれるのは彼ら次第なのだから。
エレオノールが武装解除をしかけた時、一人の人物が立ち上がり、彼女の前へ歩み立った。

「あなたは……」

眼をカッと見開き、驚いたように目の前の人物を見上げるエレオノール。
その人物はエレオノールが知っている人物にとても馴染み深い人物――

「エレオノールさんだっけ? ちょっと質問させて貰ってもいいかしら……?」

そう。桂ヒナギクがエレオノールを見下ろすよう立っていた。
「はい、どうぞ……」
「あなたはもう人は殺さないって言ってるけど、それ本当?
本気でそう誓える?」
「なっ! てめぇー! 俺がさっきから言ってる――」

エレオノールに問いかけるヒナギク。
その内容はエレオノールの真意を尋ねるもの。
だが、未だエレオノールを疑っているらしいヒナギクに、御前は憤りを感じられずにはいられない。
御前は両腕を振り回し、大声を上げながらヒナギクに抗議の意を示す。


「あんたは黙ってなさい!! 私はエレオノールさんに聞いてるの!
そう……私はエレオノールさんの言葉が知りたいのよッ!!」


だが、女子高生と思えない程の迫力を伴ったヒナギクの大声が御前に降り注ぐ。
ヒナギクのあまりの勢いに驚き、御前は泣きべそをかきながらエレオノールの肩にすごすごと降り立つ。
そんな御前からは直ぐに眼を離し、ヒナギクはエレオノールをキッと見つめる。
横目で御前を心配そうに眺めていたエレオノールはヒナギクの視線に気づき、直ぐに真剣な表情を浮かべ始める。

「はい、私は……もう二度と、この手を血に染めさせません。
あの主催者達との闘い以外では……」
「そう……なるほどね……」

互いに言葉を交わすエレオノールとヒナギク。
二人が浮かべる表情には一片の笑みなどない。
只、相手の真意を探る――いや、理解するために互いの視線を交差させる。
やがて、ヒナギクが再び口を開く。

「絶対に誓える?」
「絶対です!」
「本当に?」
「もう迷いはありません!」
「本当の本当に!?」
「ええ、絶対に絶対に!」
「最期に聞くけど、本当に間違いはないわね!?」
「はい! 間違いなど……もう、ありません! あってはいけないのです!」
「だったら――」

短い言葉で何度も何度も問いかけるヒナギク。
対して、エレオノールは一度も嫌な顔はせずに、肯定し続ける。
まるでヒナギクの連続した質問を既に聞いていたように、流暢に答えながら。
やがて、ヒナギクが再び口を開く。


「私は貴方を仲間として認めるわ。
ううん、私だけじゃない、皆も認めてくれる……共にBADANを倒すために闘うコトを、背中を預けるコトを」


視線を逸らさず、真っ直ぐエレオノールを射抜くように言葉を吐き出すヒナギク。
ヒナギクが言った言葉はエレオノールを受け入れる内容を含むもの。
生前、ナギが扱っていたというエンゼル御前はどう考えても、エレオノールに脅されているようには見えなかった。
更に、先程の闘いではエレオノールは自らの身を守るために、最小限の攻撃しかしなかったとい事実。
それらの事を考え、ヒナギクは道を選んだ。
それはエレオールを信じるという名の道。
エレオノールはヒナギクの言葉に驚いた様子を見せながら、食い入るように彼女を見つめる。
周りを見渡せば他の六人も、独歩ですらも頷き、エレオノールの次の行動を待っているかのような表情を浮かべている。

「お前ら、わかってくれたか……ぐす……」

エレオノールの肩の上で御前が喜びのあまり、涙を流す。
その御前の様子を見て、エレオノールはまるで彼が自分の感情を代弁してくれたように見えた。
実際、エレオノールも御前と同じように涙を流す程の嬉しさが込み上げてきたから。
けど、エレオノールはなかなか言葉を返そうとはしない。
いや、厳密に言うとどうしても口を開く事が出来なかった。

(けど私は……未だ彼らに何も償いを終えていない……私がこのまま彼らの輪に入るなんて……そんな都合の良いコトが……)

当然、心の奥底では今すぐにでも言葉を返し、共に闘いたいという気持ちはあるが、このままではいけないと小さな感情が邪魔をする。
相反した考えに基づく矛盾した感情にエレオノールは苦しむ。
そんなエレオノールの様子を見て、再び動くものが一つ。
そう、言うまでもなく、それは――

「どうしたのよ、エレオノールさん!
あなたがしたコト……ナギやキュルケって人を殺したコトは決して許されないと思うわ……!
けど! だからといって貴方は何もしても意味がないわけじゃない!
寧ろ、貴方は行動しなきゃいけないの!
いつまでも自分の失敗に囚われるくらいなら……そんな余裕があるなら……次に自分に何が出来るかを探しなさい!
エレオノールさん、貴方ナギ達のためにも頑張るんでしょう?
だったら今……エレオノールさんがやるコトは一つよ!」

ヒナギクが拳を握り締めながら、豪語する。
この殺し合いに呼ばれる前は高い所が苦手な事を除けば特に欠点はなく、大抵の事はやり遂げる事は出来たヒナギク。
だが、この殺し合いで自分の無力さを嫌という程知り、挫折しかけた事は何度もあった。
しかし、その度にヒナギクは助けられ、此処まで生き残る事が出来たといえる。
そう。いつもヒナギクを助けてくれたもの。

(ナギ……これで良いのよね?
私は……私はこれが正しいと信じる……貴方の望みが、私の行動が、一つに繋がるコトを……!)

それをエレオノールに教えるため――与えるためにヒナギクは、今は亡きナギの事を心の名中で思う。
独歩の話ではエレオノールを救うために、闘ったらしいナギ。
普段のナギの様子を考えれば、とても想像しにくい。
だが、それゆえにナギにはどうしてもエレオノールを止めたかった理由があったとヒナギクは信じた、いや確信できた。
だから、ヒナギクはこの言葉をエレオノールに送る事が出来る。
そして、ヒナギクからエレオノールに向かって――彼女の右腕が差し出された。


「私の手を握りなさい! そして、力一杯私を信じて!
貴方はこんなところで終わるわけにはいかないんでしょう?
だったら……一緒にBADANと闘うために! 貴方を一人の仲間として認める私を……私達を信じなさい!
そうよ、貴方は信じてもいい……信じるコトから始めるのよ、エレオノールさんッ!!」


ヒナギクがありったけの大声で叫ぶ。
ヒナギクがエレオノールに伝えたかったもの。
それは信頼すべき仲間の存在。
貴方は一人じゃない、私達が居る
只、それだけを言葉に、右腕に乗せ、ヒナギクは叫んだ。
そして、その言葉がエレオノールのしっかりと届く。
以前、ナギが必死にエレオノールに対し言葉を届けたように。

「ありがとうございます、ヒナギクさん……本当に……。
私は……私は――」

あの時のナギの言葉だけでは止める事は出来なかったエレオノールの意思。
自分を人形と思い込み、鳴海のために殺人を行う事が人間になれると思い込んでいたあの時。
恐らく、あの時のエレオノールにはヒナギクの言葉は届かないかもしれない
だが、エレオールはもう、あの時の彼女とは違う。

「貴方達の力になりたい……私は自分の役をようやく見つけるコトが出来ました……。
信じたい……許されるのなら……私は自分の役目を、貴方達を信じたい……。
だから――」

自分の舞台を、自分が命を賭ける舞台をエレオノールは知り、たった今、確信した。
たとえ、血塗られた身体でも自分には役目がある。
演じきらなれければならない役がある。
ヒナギクを、依然彼女の意思に同意するかのように自分に視線を送ってくれる彼らを信じる事。
そう。そのためにエレオノールは涙を堪えながら、口を開く事が出来る。
喜びの涙を堪えながら――


「私を貴方達の舞台へ上がるコトを許してください……貴方達を信じるコトを許してください……。
貴方達と共に、全てに決着をつけるために!
私を救ってくれた人達の想いに応えるためにも……命を賭けるコトをお許しください!
私は……才賀エレオノールは……闘います! たとえ、この命が燃え尽きようともッ!!」


手を伸ばし、エレオノールはヒナギクの手を掴み、ヒナギクは彼女の手を握り返す。
ヒナギクが浮かべる表情は真剣なものから次第に――笑顔へ移り変わる。
それは、以前フランシーヌの記憶を垣間見た時に知った、井戸の中の赤子が浮かべた笑顔のように優しいもの。
そんなヒナギクの笑顔につられ、エレオノールも表情を崩す。
その笑顔は白金という錬金術師が我を見失うほど、追い求めたもの――
エレオノールが知らない未来に、加藤鳴海や才賀勝が惹かれていったもの――
そして、心優しき者だけが見せる事が出来るもの――


――そう。そこには『いい笑顔』があった。


◇  ◆  ◇

「よっしゃあ! こんな感じでいいだろ!!」
「ああ、上出来や……ジョセフはん……」

エリアE-2でジョセフと服部が両手を土に汚しながら、何かの作業を終える。
また、今この場にはジョセフと服部の二人しか居ない。
先程、繁華街のホテルで情報交換をし終わり、今の所危険人物は川田章吾という男、只一人という事を彼ら二人は知った。
そのため、二人はある事を行うために一時仲間達と別行動を取っていた。
そう。時間があれば是非やりたかった事を。

「安らかに眠れよな、シンジ……お前と一緒に居るのはなかなか楽しかったぜ……」
「…………本当にすまんかった……三村……」

ポンポンと不自然に盛り上がった土を叩くジョセフ、そして俯きながら口を開く服部。
その土の下に居るもの。それは三村信史の遺体。
ちゃんと埋葬をしたいと思っていた二人はそのために別行動を取っていたというわけだ。
徐に立ち上がる二人。
その表情には、両眼には最早迷いのようなものは見えない。
そして、二人は次の目的地を目指すために互いに顔を合わせる。

「さて、お次は……あの劉鳳の野郎の死に様とやらを拝みにでも行くか」
「今でも信じられんけど……それしかないやろな」

村雨とかがみの話により、劉鳳の死を知った二人。
長い間共に行動していた服部は当然だが、ジョセフも大きな衝撃を受けた。
誰よりも己の正義を、力を信じていた劉鳳。
村雨とかがみを疑うわけではないが二人にとって劉鳳の死はとても信じられず、かつ受け入れにくいものだった。
そのため、二人は立ち尽くしたまま死んだという劉鳳の姿を人目、己の眼で確認し、三村と同じように埋葬しようと考えた。
劉鳳もまた、掛け替えのない仲間だから。
先程出来た六人の仲間と同じように。