第五回放送 ◆1qmjaShGfE



真っ黒なスーツに身を纏う精悍な顔つきの青年。
出先から全ての予定をキャンセルしてまで駆けつけた彼はひどく不機嫌だった。
「事情の説明も無しでいきなり召集ってなどういう了見だよ」
会議室の最前列に座り不満を述べる。
すぐ隣に座っていた天然パーマ気味の中年の男は彼の仕草を見て苦笑する。
「それほどの事態だという事です。それがわかってるからこうして来てくれたのでしょう」
見た目より若さを感じさせる声。
会議室に居るのは彼等二人と、モニターの前に立つ白衣を身に付けた少年の三人だけだ。
「早速だけど説明に入らせてもらうよ。まずは佐久間からよろしく」
少年の言葉に、佐久間と呼ばれた中年に見える男は頷いた。
「ここ一年の間に世界中で起きた行方不明事件、この内数パーセントがBADANによるものであると本部は断定しました」
大きな音を立て、黒スーツの男が席を立つ。
「ちょ、ちょっと待てよ。BADANはとっくに……」
白衣の少年がモニターの電源を入れると画面に数字と文字の羅列が映る。
少年の説明によると、痕跡を残さぬ行方不明事件が数件発生しているとの事。
それだけならばさして気にも留めない所だが、一点注目すべき点を見つけたのだ。
目撃証言の中に『まるで魔方陣か何かに吸い込まれるように消えていった』という記述があったのだ。
かつてBADANが駆使した移動手段に同様のものがある。
これはBADANならではの高度な科学力が無くては為しえない技術であり、これをきっかけに調査を進めた所、以上の結論に達したのだ。
黒スーツの男、滝和也は衝撃を隠せず呆然と立ちすくむ。
「……何かの間違いだろ。BADANに居た技術者の生き残りの仕業とか……」
少年は苦しそうに眉をひそめる。
「ある程度の組織力に裏づけされた研究機関が無いとあの技術の再現は不可能だよ」
佐久間が言葉を続ける。
「世界中の研究機関を調べました。技術主任が言う規模での研究機関設立が可能な組織全てもです。
 結果は全てシロ。そんな研究施設はこの地球上に存在しないというのが我々の結論です」
白衣の少年、スピリッツ技術顧問ビクトル・ハーリンのお墨付きである。
調査機関は現在地球上で最も強い影響力を持つと言われるスピリッツ機関。
滝も認めざるを得ない。
かつて10人の仮面ライダーがその命と引き換えに倒した組織、BADANが蘇ったのだと。
滝の苦悩が理解出来るのか、殊更に事務口調を続けるビクトル。
「大首領は封印時でもこちら側に影響力を及ぼす事が出来る。その力で誰か、そうだねやはりガモンと見るのが妥当かな。
 彼を復活させ異空間を根拠地に力を蓄えている。これがボクの出した結論だ。佐久間の裏づけもとってある」
ビクトルは遺伝子工学を専門とするが、彼の人類にはありえぬ高度な知能が導き出した結論は、全ての分野において重要な指標たる。
だから佐久間は時折重要な判断を彼に尋ねるようにしているのだ。
乱暴に机を殴りつける滝。
「ふざけんな! あいつ等がどんな思いで連中を叩き潰したと思ってんだ!
 それがものの三年で復活しただと!? そんな話どうやって信じろってんだ!」
ビクトルは震える手で書類を握り締める。
「……ボクが、好き好んでこんな事言ってるとでも……思っているのか……」

三年前、十人の仮面ライダーの犠牲の元、大首領の再封印は成し遂げられた。
しかし戦いの傷跡は随所に残り、各地の治安は乱れに乱れていた。
唯一残った組織立った戦闘集団スピリッツは、決断を迫られる。
設立時の目的に従い解散するか、それ以外の道を選ぶか。
最高責任者である佐久間の決断は早かった。
組織内の反対意見を纏め上げ、偉大な業績を背景に世界規模の警察機構を設立。各地の復興に尽力すると決めたのだ。
後に佐久間は当時の苦労をこう語っている。
「一番苦労した事? 決まってます、滝さんを説得する事ですよ。本気で殺されかねない勢いでしたから……」

世界各地から集められる情報を元に、ビクトルが分析を開始する。
滝は各地に散ったスピリッツの猛者を集め、有事に備える。
佐久間はこれらを統括しながら情報の秘匿に努める。
それぞれが役割を果たす中、滝は忙しいスケジュールの合間を縫い友人へ電話をかけた。
「よう戦友、元気か」
『滝! ええ元気よ。たまにはこっちにも顔出しなさいよ』
「色々とあってな。そっちの生活はいい加減慣れたか?」
『はぁ……母親がこんなに大変なんて思わなかったわよ』
「おいおい、早速愚痴かよ」
『そんなんじゃないわよ! それにこの子の顔見てるだけで疲れも愚痴も全部吹っ飛んでくれるんだから』
「そいつは良かった。大きくなってんだろうなぁ、顔見るのが楽しみだ」
『もちろんよ、だから休暇が取れ次第遊びに来なさい。きっとびっくりするわよ』
「ああ、その時は連絡する、じゃな」
ほんの一分前後の会話。
たったそれだけで、こんなにも勇気が沸いてくる。
全てを賭けて守り抜いてみせる。
かつて友がそうしたように。

電話を切ると、アンリはエプロン姿のまま小走りにベッドルームに向かう。
ピンクや白のレースを基調とした少女趣味全開のその部屋の中心にベビーベットが置かれていた。
アンリが覗き込むと、嬉しそうに笑いながら手を伸ばしてくる。
持ちうる愛おしさの全てを込めて抱き上げる。
「滝おじちゃんが遊びに来てくれるって、良かったでちゅね~」
アンリの手の中で赤子は顔をくしゃくしゃにして両手を振る。
「そっか~、嬉しいでちゅね~。いっぱい遊んでもらいましょうね~」
一緒になってアンリもはしゃいでいたのだが、キッチンから何やら物音が聞こえてくる。
「ん? ……きゃああ!! お湯かけっぱなし!」
慌てて赤子をベッドに寝かせると、キッチンに駆け込む。
案の定キッチンは吹き零れたお湯で水浸しになっていた。
大きく首を落とすアンリ。
「またやっちゃった……つくづく私って家事に向いてないのよね……」
しかし落ち込んでいるのも僅かの間。
すぐに気を取り直して雑巾を握る。
「フン、お母さんはこれぐらいじゃ負けたりしませんからね」
そこには三年前より更に逞しくなった母の姿があった。

ビクトルの分析により、BADANの一時拠点の位置が南米の「デビルズテーブル」にあると判明。
直後日本にて街が丸々一つ消えるという事件が発生。街の行き先はそこにあるとスピリッツ側は判断。
滝率いるスピリッツ突入部隊が編成された。

それでは午前6時、5回目の定時放送じゃ。


まずは禁止エリアの発表じゃ。
午前7時からB-3
午前9時からE-2
午前11時からH-4


続いて、この6時間で死んでいった者たちの発表じゃ。


泉こなた
津村斗貴子
神楽
ケンシロウ
マーティン・ジグマール
劉鳳
江戸川コナン
ラオウ
範馬勇次郎
川田章吾
赤木シゲル


以上十一人。


お、面白くなるのはここからじゃよ。
今更だとは思うが、各人定められたルールは覚えておろうの。24時間以内に誰も死ななんだら全ては終わりじゃぞ。
ルールを忘れてたなんて事のないよう、スムーズな進行を期待するぞ。

状況が煮詰まってきている。
積極的に殺しを行う人間が居なくなった今、残る彼等への強制力は、
「24時間以内に一人も死者が出ない場合は全員の首輪が爆発する」というルールだ。
今回はこの事に言及するよう光成はガモンから言いつかっていた。
放送を終え、不安そうに振り返る光成にガモンは不機嫌そうに眉をひそめるだけだ。
その隣のプッチ神父はというと、何か心配事でもあるのか冷静な彼にしては珍しく挙動に落ち着きがない。
放送が終わるなり、プッチはガモンに報告を済ませる。
「先ほど怪人収容所にて怪人の暴走があった」
「何?」
「被害拡大を避ける為独断で処置をしておいたが……いらぬ世話だったか?」
「被害程度は?」
「怪人収容所NO4区画、五十体が全滅、又戦闘員が一人犠牲になっている」
「大きいな……原因は?」
「保存カプセルに残っていた記録によれば、戦闘員が何らかの目的でカプセルを開いた事が原因らしい」
ガモンの視線が鋭くなる。
「……裏切りか?」
「私もそう思い他戦闘員達にも事情聴取を行ったが、どうやら被害に遭った戦闘員の不注意であったようだ。詳細は報告書にて提出する準備があるが……」
改造人間を多用する怪人組織幹部の例に漏れず、ガモンもこの手のヒューマンエラーが大嫌いである。
しかしコマンドロイドや怪人に管理、監視作業を任せる事も出来ず、自然とそれらは拉致してきた人間に任せる事になる。
「対策としては、通路各所に監視カメラの設置を行うのが良いと思うのだがどうだろうか?」
「それを管理する人間が居ないのだろう」
「いや、ダミーカメラならば管理する人間もいらず戦闘員監視の役目を果たせる」
それが本業ではないとはいえ、収容所勤めの長いプッチは効率的な管理ノウハウをある程度知識として持っていたのだ。
「その上で巡視の際はコマンドロイド一体を引き連れる事を義務づければ、戦闘員の動向をチェックするも容易だ」
プッチの言葉にガモンは少し驚いた顔をした後、数度頷いてその対策を取り入れる事にした。
控えめにそう提案するプッチの態度は、ガモンの心証を害するものではなかった。
なのでガモンはこの優秀な男に、一つ相談をしてみる事にした。
「あの二人が倒されるのは予想外だった。残り人数も少ない事だし、ここで選別をしてしまうのはどうだ?」
つい先ほど倒された優勝最有力候補の二人を指しているのだろう。
強者として認められそうなのは、葉隠覚悟と村雨良の二人に絞られてきている。
他の者では生き残ったとしても、大首領の器としては不十分だろう。
プッチは静かにガモンの言葉を否定する。
「最後の最後でこちらの恣意を入れるのであれば、それは最初から誰か一人を選んでも同じ事……になる」
「しかしここからは時間がかかるだろう?」
「かければよい、例え何かの手違いで首輪を外す事があろうともこの空間から逃げられはしないのだから。
 むしろ誰も殺意を持たぬこの追い詰められた状況こそが、第二の『プログラム』と言っても過言では無い」
横で二人の話を聞いていた光成は苦々しげにプッチを見やる。
「……悪趣味じゃの」
そんな光成をプッチは無視する。
「誰か一人を生贄に二十四時間の猶予を得る。ここまで生死苦楽を共にした仲間同士がそれをどうやって決めるか。
 話し合い? 強い者が勝つ? 皆一様に首を吹き飛ばして死ぬ? どれでも好きに選べばいい。
 私達はその葛藤の中から生まれ出る、真なる意味での強者をこそ必要としているのだから。その為のルールだろう?」

プッチには時間が必要だ。
新月は二日後、それまでにこのプログラムが終了し、事後処理まで終えられたら最後に必要な場所へと逃げ出す隙が無くなってしまう。
もちろんそれまでに首輪を解除する必要がある。それもこのプログラム中、最もサザンクロスが騒々しいこの時間でなくば難しいだろう。
ここは異世界、しかしそれでも神の国への道は閉ざされてはいないらしい。
その証拠はついさっきのあの出来事。
首輪には霊的な防御を用いているという知識はある。
そしてその防御を突破した手段を持つ者が、プログラムの参加者に居るらしい。
何としてでもその者と接触し、この首輪を外す。
そして予想されるBADANの追撃を振り切り、最後の場所、北緯28度24分、西経80度36分へと辿り着かなければならない。
最高の展開は、ガモンに知られる事無く首輪解除を成し遂げ、
参加者達がこの城へと押し寄せ、その対応に苦慮している間にこの城を抜け出す。
しかしこれは高望みがすぎる。この城を覆う雷雲を突破する能力は彼等には無いだろうから。
焦りは禁物だ。だからといって無為に時間を費やすのも愚の骨頂。

「……もし良ければ参加者達の殺し合いを促進すべく私が手を回すが……策はある」
「ほう、言ってみろ」

現在の参加者構成から、次の24時間までの生贄とされそうな人物、最も精神の不安定なエレオノールを堕とす。
彼女は自分の身を犠牲にするも厭わぬと言ってはいるが、プッチの持つとある情報を渡す事で彼女は堕とし得る。
彼等が信頼する仲間であるパピヨンが、彼等が決して許さないだろう理由で津村斗貴子を殺害している事実。
この時の会話を録音したデータを聞かせれば、エレオノールは慣れぬ正義への義務感から暴走する。
幸い彼らは別行動をしてくれている。後々になって揉め出す前に布石を打っておくというのだ。
プッチの策をガモンは了承する。
彼の策がうまくいけば、強固な精神を誇る彼等の間に疑心暗鬼の芽を残す事が出来る。
それは恐怖による人心のコントロールを考えているガモンにとって、有益なテストケースとなり得るであろう。

こうしてプッチ神父にプログラム会場への移動許可が降りた。
この機会に首輪解除の手段を手に入れ、参加者達のサザンクロス襲撃に知恵を貸す。
当然リスクはあるが、全ては彼の計算通りであった。

プッチ、光成と別れ玉座に戻るガモン。
暗闇大使として蘇り、世界征服に挑むも志半ばにして倒れた。
そんな未熟な自分を再び拾い上げてくれた大首領には返しきれぬ恩がある。
今回ガモンは世界征服よりも大首領復活を優先しているのはその為だ。
今は自らの持つ全ての力を大首領復活に注ぎ込む。
その後に予定している世界征服だが、ガモンはさほど心配はしていなかった。
前回の戦いで人間も怪人との戦いに慣れたようだが、それでも仮面ライダーの失われた世界なぞ赤子の手を捻るようなものだ。
もちろんあの頃の戦力は望むべくもないが、ガモンの持つ怪人復活能力を用いて既に300体の怪人を再生している。
コマンドロイドの製造も順調だ。負ける要素は何一つ無い。
何かと生意気な態度が鼻に付いたタイガーロイドは改造が半ばの状態から呼び出し、プログラムに参加させる事で溜飲は降ろした。
大首領の気まぐれにより既に倒したはずの仮面ライダー一号と仮面ライダーゼクロスを呼び出す事になったが、
仮面ライダー一号も同様にプログラムにより消去する事に成功した。
忌々しいゼクロスは健在のようだが、一号ですらこうして簡単に倒す事が出来たのだ。
今更奴がどう足掻こうと何時でも殺しうる。
「仮面ライダーが居ないだけで、こうも簡単に事が運ぶようになるとはな」
このプログラムの進行において幾つか癇に障る事はあったにせよ、概ねガモンの思惑通りに進んでいた。
開始早々タイガーロイドが倒されたと聞いた時は、余りの愉快さに声を上げて笑ったものだ。
仮面ライダー一号がラオウという男に倒されたという報告は、最高の酒の肴となった。
津村という女がガモンの誘いを真に受けて人を殺して回った時なぞ、映像装置を用意しなかった事を本気で悔いたものだ。
プッチという使える部下も見つけた。奴の持つスタンドの知識と技術はBADANの技術を更なる高みへと引き上げてくれるだろう。
赤木という虫ケラにあそこまでの怒りを感じたのも、今までが余りに好調すぎたせいであろう。
「大首領も退屈されているのだろう。しばしお待ちあれ、計画は完璧でございます故……」
一々些事を確認するまでもない。
そう思い、ガモンは赤木の件を大首領に問いただすのは止める事にした。


237:信じるということ/GET WILD 投下順 239:鬼酔酒
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