ダイヤモンドダスト・クルセイダーズ ◆d4asqdtPw2



生命の意味。
少なくとも俺たちが生きとった世界では、そんな事で悩むやつなんざぁおらへんかった。
部活のレギュラー争い。
期末試験の範囲。
週末のデートのプラン。
俺の周りの『健全な学生サマ共』はそんなもんばっかで悩んどった。
俺や『アイツ』みたいな『不健全な高校生探偵』(アイツは途中から小学生になってもうたけどな)でさえ大差ないわ。
殺人現場に居合わせる度に、『誰が誰を殺した』かなんて事を、出来のええ頭をフル回転させて悩んどった。そんな毎日や。

だから少なくとも俺たちの世界では、生きることに意味なんかあらへん。
目の前に広がる無理難題をなんとかするので精一杯やった。
誰もが『生きること』それ自体に四苦八苦しとったんや。
それでも死にたいとか思っとるやつなんかは(少なくとも日常を生きる俺の視界には)おらへんかった。
生きていることは当たり前のこと。
みんなそう思いながら、人間サマの楽園である大都会を優雅に歩いとったって事や。

いや流石に、あり得へん数の死体をみてきた俺や『アイツ』はそうは思っとらんかったで。
特に『アイツ』は結構な危ない目に会うてきたらしいからのう。
せやかて、そんな俺たちでも『生きること』の意味なんざ考えへん。
そんなもんは逝ってもうた後でも考えられるからな。
閻魔はんに金棒を突きつけられながら問い詰められてから考えればええんや。
そう思っとった。

それが間違いだったとは言わへんで。
仕方のない事や。平和やったんやから。
しかし、今の俺はそれが許されない状況におる。
この生命の意味を考えんとあかんねや。

勿論、『人はなんで生きとるんやろ?』とかいう哲学はパスや。
そんなもんはモッサイ髭を生やしたジジイの暇つぶしに任したらええ。
俺の議題は『何で俺が残ったか』。
(殺人鬼であるものの)吉良はんと、(誤殺であるものの)三村はんを殺した俺。
タバサでなく、アミバはんでなく、ブラボーはんでなく、劉鳳はんでなく……工藤でもなく!
……なんで俺なんや?
無力な両手……血に染まった両手、こんな最悪な両手を持つ俺が……なんで残っとる?
『偶然殺されなかった』なんてそんな意味のない答えは求めとらん。
『神の意思なのだぁ~』とかそんなお花畑な答えも聞きとうない。

『結果』や。俺が欲しとるのはこの生命の『結果』や。
タバサが劉鳳はんを守ったように、ブラボーはんが劉鳳はんに希望を託したように、劉鳳はんがラオウを殺したように、アミバはんが吉良はんの正体を残してくれたように。
工藤が信念を貫いたように!
生命に意味を与えるための『結果』が必要なんや。
俺が奪ってもうた命に恥じないような『結果』を、この無力な俺が残さなあかんねん。
この俺に何が出来る?
少なくとも、無害な人を殺してもうたんやから、信念なんてもんを貫く資格はあらへん。
ならば、この殺し合いをぶっ壊すために何かせぇへんとあかん。
波紋もアルターも無い俺が、借り物のスタンドと借り物の武装錬金と借り物の銃で。

……何が出来んねん。

村雨はんや覚悟はんが必死に戦っとる間に、部屋の隅っこでかがみはんらを守っとることくらいしかできんやろ。
もしかしたら、かがみはんの方が俺なんかよりも強かったりしてな。
……それは流石にないとしてもや、俺なんかが戦ったって邪魔なだけや。
仲間たちの足を散々引っ張るだけ引っ張って、アッサリ死んでまうのがオチや。
つまるところ、俺は『何もしない』のが一番なんやなぁ。

それでええんか?
……ええわけないやろ。
じゃあどうしたらええんや?

どうしたらええねん?!

……何で、何でこんなに役立たずやねん。

畜生……!

ちっくしょう……!


「……とり! …………オ~イ服部ちゃーん?!」
鼓膜を大きく揺らしたのは、飄々とした声だった。
遠慮の無い声量に、鼓膜がキィィンと悲鳴を上げた。
首を傾け視界を右へとずらせば、ジョセフの大きな口が待ち構えていた。

「服部ちゅわ~ん? シカトですかぁ? そんなに冷たくされたら僕チン泣いちゃう!」
さて、うるさいのがいたのを忘れていた。
思考は中断。結論は後回しにしなければいけないらしい。
だが、殺し合いの緊迫感を盛大にブチ壊すような彼のこの軽さが今は少しだけ嬉しい。
これも彼なりのやさしさであるのだろう。
落ち込んでいる自分を見かねて、ワザとふざけてくれているのだろう。

「スマンな、ジョジョはん……」
「なんだよ服部~。……もしかして生理か?」
前言撤回。確実に天然だコレ。
なんと言うか……コイツは大物になりそうだ。
絶対に『隠者』になんかはならない。
大統領になって国をソッコーで滅ぼすのとかがお似合いだ。

「はぁ……取り合えず、独歩はんとこ戻ろかー……」
何にせよ、ここでボーとしているのは時間の無駄だ。
パピヨンに会いに行った連中も、そろそろ戻っているころだろう。
今は一刻も早く、合流しなければ……。

「それなんだけどよ~。……ちょっと俺の地図見てくれ。こいつをどう思う?」
ジョセフはゴソゴソと汚らしいデイパックに手を突っ込むと、中からグシャグシャの地図を取り出す。
「すごく……地図やな……」
「地図なのはいいからよォ~、このままじゃ独歩のところに辿り着けないんだよなァ~」
ジョセフが地図のE-2エリア、自分達の集合地点を指差した。
トントンとジョセフの人差し指が叩いた地点には、「9:00」の文字。

「あぁ……せやった。禁止エリアか……」
失念していた。集合場所がもうすぐ禁止エリアになるのであった。
主催者のささやかな嫌がらせだろうか。全くくだらない事をする。
とはいえ、まさか独歩も大人しく待っているわけにはいかないだろう。
参ったな、どこへ移動すればいいか検討もつかない。
適当な施設へ電話でも掛けてみるか……。

「おい……服部……」
俺が思案に暮れていると、ジョセフが多少震えた声を発しながら上着の袖を引っ張ってきた。
さっきまでの明るい声とは違い、まるで亡霊でも見たような声だな。
彼の視線を目で追う。俺のいた世界では、どこにでもある神社の風景だ。
照りつける太陽は昼に近づくにつれて、この地上へと熱を送り続ける。
石段の上を這い回る風が、大量の落ち葉を舞い上げる。
そして神社の入り口(俺らから見たら出口)に悠然と立つ鳥居。
その鳥居の下に佇む男が見える。
逆行が邪魔をしてよく見えない。
それでもなんとか目を凝らす。
銀色の髪。鋭い目つき。覚悟から聞いた通りの服装。

「そんな、アホな……」
死んだはずの男が立っている。こちらを見つめている。
太陽が一番元気な時間にも拘らず、そこには『亡霊』が平気な顔をして立っていた。
だが俺の目に映った彼は『亡霊』と言うより『鬼』、いや違う……『死神』。
そう、何故だか俺には赤木しげるが『死神』に見えて仕方が無かった。


◆     ◆     ◆


「ここを進んだ先に強化外骨格が眠っているはずだ」
「うおー……なんか緊張してきたでー……」
手のひらに滲む汗を拭いながら、社に続く石段を一歩一歩進んでいく。
この社に近づいたものの体調を狂わす、あの憎たらしい首輪の制限からは解放されたはずだ。
それにも関わらず、社から発せられる圧迫感が胸を締め付ける。
この禍々しさは、オーガのもつソレ以上か……。
そう、この先には、この殺し合いの全てを支配している強化外骨格がここに眠っているのだ。


あの後、つまり俺たちが赤木を発見した後の話をしよう。
ジョセフは一応赤木と面識があるらしかったが、それでも俺たちは赤木のことは殆ど知らなかった。
ちょっと前に覚悟から彼の名前と背格好を聞かされた程度。
放送で赤木の名前が呼ばれてからは、(ただでさえ少なかった)彼の情報は俺たちの記憶の隅の隅へと追いやられていた。
死んだ人間の背格好など不要な情報だ、と俺の脳が判断したのだろう。
だから始めのうちは、『あれ』が赤木しげるだとは信じられなかった。
放送の通り赤木は死亡していて、あそこにいるのは『別の誰か』だと疑っていたのだ。

俺たちが彼が赤木しげるだと信じることができたのは、彼が首輪をしていない事に気付いたから。
首輪がない事実は、『彼が生きているにも拘らず、放送で名前が呼ばれたこと』を裏付ける証拠となったのだ。
首輪の解除法は、俺たちがこの殺し合いが始まってからずっと求めてきたものの1つ。
嬉しくて思わず叫びだすところだったのだが、俺だってそこまで馬鹿じゃあない。
主催者が彼の生存に気付いていない。
そんな事実くらい、赤木の首輪がないことを確認してから1秒で把握した。
赤木は数時間前に覚悟たちとも会っているらしく、俺たちはすぐに神社へと引き返して情報交換をすることにした。

俺たちが赤木しげるから入手できた情報は少なくない。
『伊藤博士』なる人物からの手紙。そこに書かれていた首輪の情報。神社の社に眠るもの。
大首領を殺す作戦。エンリコ・プッチなる人物。他にも様々な情報。
つまり、赤木が先ほど覚悟たちとしていた筆談の内容を、そっくりそのまま伝えられたのだ。
粗方情報交換が終わると(とは言え俺たちが赤木に与えた情報は皆無と言っていいが)、赤木は意外な提案を持ちかけてきた。

強化外骨格の眠る社の探索。
なんでも、彼が大首領と接触した彼はその後、神社の社にワープさせられていたらしい。
そこに眠っていたのが、強化外骨格。
柊かがみから伝えられた通り、社にはこの殺し合いを支配する鎧が祭られているようだ。
そして赤木は『大首領を殺す方法』を確かなものにするために、社の中で確認したい事があるという。
そこで、俺たちに同行して欲しいと提案してきた。

社の中を見ておきたかった俺にとって、この提案は願っても無いものだった。
先ほど俺とジョセフが決行した、社への侵入作戦が失敗に終わっていた。
これからのプログラム脱出作戦を立てる上で、社へ進入することは必要不可欠であると言えるだろう。
赤木が社に近づいても俺たちのように体調不良を起こさないことから、この体調不良は首輪の制限であると考えられる。
幸い赤木には首輪を解除する技術と知識があり、この問題もなんなくパスできる事となる。
ただし、ここで赤木から1つだけ条件が提示される。

首輪を解除するのはどちらか1人だけ。

一度に2人も首輪を解除したら、つまり『死亡』したら主催者が怪しむのではないか、と赤木が考えたからだ。
それならば、俺とジョセフのどちらか片方がいきなり死んでも、それは充分怪しいと思うのだが。
俺たちの間には何の火種も無いのだから。

とは言え、柊かがみに社の中を確認してきてくれと頼まれている。
この提案は断れないだろう。
それに首輪も解除してくれるのならば、こちらとしても万々歳である。

次に『どちらの首輪を外すか』だが、これは大した問題にはならなかった。
ジョセフが社の探索を辞退したからだ。
『俺にはめんどくさいことはよく分かんねーからな』だそうだ。
そんな訳で、ジョセフを見張りとして残し、赤木と首輪を外した俺は例の社へと向かったのだった。


「これが……!」
「ああ。これが強化外骨格だ……!」
俺の目の前に佇んでいるコレが……全ての絶望の元凶。
少女を貫いた弾丸も、青年を潰した拳も、全てはコイツから始まったのだ。
今すぐにでも破壊してしまいたい。
溢れ出しそうな怒りを、すり減った理性で必死に押さえつける。

(なんや……引っかき傷か?)
憎き鎧の中央部やや左側(こちらから見て右側)に小さな傷があるのが確認できた。
外部からの何らかの攻撃によって付いた傷だろう、服部は確信していた。
なぜならば、社の外壁も巨大な刀で切りつけられたかのように、崩れていた。
あの方角から何らかの攻撃、衝撃波のような攻撃がこの社を襲ってきたと考えるのが自然だ。
そしてその衝撃波はこの社の外壁を破壊し、強化外骨格にまで綺麗に跡を残した。
人間で言えばちょうど心臓に位置する部分に、小さな切り傷。
まるで『そこに成仏の光を直撃させろ』と言わんばかりの目印。

隣のアカギも同じことを考えているのだろう。その目線はこの傷へと伸びていた。
誰かが残したんだ。この傷を。
もしかしたらこんな小さな傷、役になど立たないのかもしれない。
この傷は意図的に付けたものではなく、誰かの放った攻撃が偶々命中したのかも……無意識の産物だったのかもしれない。
それでも誰かがコレを残したのは事実だ。
誰かの想いが、制限と言う壁を越えてここに届いたのだ。
この傷は、脱出の証だ。
この鎧を、このプログラムを終わらせる為の傷だ。
忌まわしいこの、鎧を……!

「……ッ!」
俺の敵意に呼応するかのごとく、鎧の放つ禍々しさが色濃くなってくる。
そのオーラはブワリと充満し、木造の社を瞬く間に地獄の釜の中へと変えてしまう。
額から滲み出す汗はが服部の黒い肌を湿らせる。
震えが止まらない。
正直に言って、俺はコレに恐怖していた。

それと同時に、悔しかった。
一瞬で「コレには叶わない」と悟ってしまったことに。
分かっている。俺が無力な事くらい。
それでも、仲間の為に何かできる事を探したかった。
だけど、コレは、自分のような人間が立ち向かえる代物じゃない。

一言で表現するならば、『災害』。

大地震や津波のように、一人の人間ではどうする事もできない『災害』だ。
テレビの前で次々と死傷者が増加していくのを見ながら、爪を噛むことしかできない。
この悔しさは、そんな感情に似ている。

自分じゃどうする事もできない。

仲間の為にできる事なんか、存在していない。
俺はただ、見ていればいいのだ。
仲間がコイツを倒してくれるのを、ただ見ていればいいのだ。
仲間が血を流すのを、ただ傍観していればいいのだ。
邪魔にならないように、ひっそりと。
それが俺が唯一、仲間の為に出来る事だ。
それが、2人の人間を殺してまで生き残った俺のできること。
生きる意味。

俺なんかが戦うなんて事、しちゃいけない。
だって敵の抜け殻を前にしただけでこのザマなのだ。なんとも情けない。
隣の赤木は眉一つ動かさないで涼しい顔をしているというのに。
こいつは、少なくともこの男の精神は、人間じゃない。
俺のようなただの人間じゃないから、戦う資格があるのだろう。
ただ震えてるだけの惨めな俺とは、違う。

それでも、俺がコイツに憧れと言う感情を抱く事はなかった。
コイツのようになりたいとは、微塵も思わなかった。

「さて、服部平次よ。唐突で悪いが、貴様に頼みたい事がある……」
目の前の光景を、俺は信じられなかった。
赤木が笑った。笑ったのだ。この状況で、笑ったのだ……!
鎧が放つ狂気と同調するかのように。

「な、なんや……?」
「仲間の為に、死んで見る気はないか……?」
俺が最初にこの男を見たときに抱いた印象は『死神』だった。
その幻想は、今ハッキリと現実という形で俺に突きつけられている。
今なら、この男が地獄から来たと言われても信じてしまうだろう。

「なん……やと?」
「大首領を殺す作戦、貴様にも伝えたと思うのだが、この作戦には1つだけ欠陥がある。
 『強化外骨格の中の死者たち』がこの作戦を知らない可能性がある。
 そこで、必要になってくるのが……強化外骨格内部とのコンタクト……!」

「それで、俺にメッセンジャーとなれと……」
皆まで言われなくとも理解できた。出来てしまった。
確かにそうだ。強化外骨格の中の死者に協力を仰ぐのであれば、それを伝える人物は必要不可欠。
そして、その為には……誰かが死ぬしかないのだ。

「そういう事だ。話が早いな」
「……俺からアンタに聞きたい事が3つある。
 まず、死者がこの作戦を知らない可能性、つまり死者が『俺たちを見ていない』可能性はどのくらいや」
死者が強化外骨格の中からこの会場での出来事を感じている可能性は高いのだ。
エレオノールの夢に出てきた死者たちが、この殺し合いでの彼女の行動を把握していたからだ。
自分達が死んだ後のことを死者たちが知っていた事実。
これが本当なら、死者たちがこの作戦を知っている可能性はほぼ100%……!
ただ、その時エレオノールは他人の記憶を大量に取得していた上に、その精神は激しい不安定状態に陥っていた。
『彼女の夢の中で死者たちが言った事』に彼女の妄想が付け加えられている可能性も否定できない。
その可能性はどのくらいか……。俺が赤木に尋ねたのはそういうことだ。

「そうだな。先ほど神社で貴様に聞いた、エレオノールとか言う女の夢の話を考えると……。
 死者たちがこの作戦を知らない確率は……およそ5%」
俺の見立てと全く同じ数値だ。
死者たちがこの殺し合いの会場を見ていない確率を、俺も5%程度と予測していた。

5%の確率で世界が滅ぶ。

5%……高い。高すぎる。

勿論、そんな事を言うのならば、俺たちが勇次郎やアーカードに皆殺しにされる確率のほうが遥かに高かった。
だが、それらは『立ち向かうしかない危険』なのだ。
勇次郎やアーカードを避けて脱出を成功させるなど、絶対に不可能であっただろう。
これはそれとは違う。不可避の危険ではない。
これは『俺が死ねば簡単に0%に出来る危険』なのだ。
『俺の命と比較しての5%』は、余りにも高すぎる。

「次の質問や、何で俺なんや? アンタはどないするつもりや?」
本音をブチ撒けてしまうと、この質問には殆ど意味はなかった。
おれ自身も、この質問の答えはなんとなく知っていた、感づいていたから。
だからこの質疑には、答え合わせ程度の価値しかない。

「貴様を選んだ理由は4つ。
 『他者への信頼が厚い』、『自分が死ぬことの重要度を理解できる』、『無力である事』……そして……」
赤木の顔が少しだけ歪んだ。
笑ったのだろうか、よく分からないが、少しだけ歪んだのだ。
それに呼応するかのように周囲の空気も淀む。

「『人殺しである事』だ……!」
ほら、やっぱりそうか。
自分でも分かっていた。俺以上の適任者はいない。
そしてこれは、俺という『生命』の最後のチャンス……!
仲間の役に立てる最初で最後の機会なのだ。

自分の『生命』の意味を考えた矢先にやってきた死神……。
なんというタイミングなのだろうか……。
まるで俺は、このために生かされたと言わんばかりのタイミングだ。
実際にそうなのかもしれない。
この化物が集まった殺し合いの中で、俺なんかができる事なんか無いに等しい。
それならば、これが俺に与えられた唯一の役割なのだろう。最初からこの台本が用意されていたのだろう。

「……アンタは…………?」
「俺は肉体だ……!」
これも予想通り。
コイツは自分が死にたくないが為に俺を自殺させようってわけじゃあない。
コイツはコイツで役割があるのだ。
この男にしか出来ない、大首領との賭けに勝利したこの男にしか演じる事のできない役割だ。
コイツじゃないと、大首領は降りてこない可能性すらある。
コイツはここで死んじゃいけない人間(?)だ。

「……最後の質問や……他の奴らには、俺が死んだ事なんて説明すんねん?」
ジョセフや覚悟、村雨たちは俺の事を仲間だと思ってくれている……はず。
『必要なんで死んでもらいました』じゃあ納得などするはずもない。
恐らく赤木の信用は地に堕ち、赤木の発案したこの作戦自体が成り立たなくなるかもしれない。

「『全て貴様が考えた』事にする……!
 『死者たちがこの作戦を知らない可能性』を貴様が俺に指摘し、『自殺する事』も貴様が思いついた。
 俺は貴様の自殺を止めることが出来なかった。それだけだ……!」
全く。アフターケアも万全か……。
コイツは狂っている。狂っているが、冷静に先を見通している。

『首輪を外すのは、俺かジョセフのどちらか片方だけ』と提案された時点で気付くべきだった。
こいつの話には裏があるのだ、と。
おそらく、ジョセフがこの社へ同行するのを辞退するのも分かっていたのだろう。
首輪を外したのも、この社で俺と2人きりになるため。
誰も介入できない条件を造るためだ……!

「さて、どうする? 服部平次……!」
こいつ、断れないのを分かってて訊いてきやがる。
死ぬのはあくまで俺の意思。赤木が強要したわけではない。あくまで『自殺』なのだ。

「答えなんか……決まっとるやろ……。
 死ぬ……しかないやんか……」
悩む事なんか許されない。
これは俺が役に立つ最後のチャンスだ。
このままズルズル生き延びて、仲間の邪魔になるくらいなら。
『世界が滅ぶ5%』を無くす為に死んだ方が遥かにマシだ。

「そうか、それならば、『そんなに死にたいならば仕方がない』……!」
明らかに棒読みなセリフを吐き出すと、懐からナイフを取り出した。
あんなに『俺の意思での死』に拘っていたのに、最後は自分の手で殺すのか……。
まぁ、その方がありがたい。自分で自分にナイフを突き立てるのは流石に勇気がいる。
赤木の掲げたナイフが、正確にこちらに狙いを定める。
これで、終わり。
俺の人生は、俺の命はこれで終わる。

「……ハハハ……ホンマにコレで終いかい……」
乾いた笑いしか出てこなかった。
こんな終わり方なのか……。
2人を殺し、仲間に思いを託された俺の最期が……コレか。
情けない。
こんな形でしか役に立てない事が、悔しい。

(弱いって罪なんやな……)
俺がもっと強かったら、結果は変わっていたはずだ。
覚悟や村雨のような力があれば、もっと違う死に方もあったのに。
死んだみんなに恥ずかしくないような死に方もできたのに!

「安心しろ、貴様の死は必ず役立たせる。
 貴様の仲間にも、そう伝えておいてやる」
役に立つ……? そうか、俺は役に立ったのか。
こんな俺でも、脱出の役に立てたのか。
死んでいった仲間達のように……。

仲間達の……ように……?

彼らは……タバサは、ブラボーは、アミバは、劉鳳は……。
彼らの死に様は……。

工藤の死に様は!

そうか、そうだったのか……。
今になって思い出したよ。

「スマン、ジョジョはん。俺はここまでや……」
ナイフが躊躇無く振り下ろされた。
小さなナイフなのだろうが、俺の目にはギロチンよりも大きく見える。
死神の鎌。まさにそんなイメージだ。

銀を呈した刃は、ザクリと俺の肌を肉を抉り切る。
飛び散った血が数滴だけ、汚い床に赤い斑点を作りだした。


◆     ◆     ◆