吸血鬼 ◆IXRLXwC0Ds


 一介の日本人高校生だった俺が「ハルゲニア」に召喚されたのはいつのことだっただろうか。
 今までの知り合いが誰もいない世界、唯一繋がりのあるルイズからは犬扱いされて苛められる。心から日本に帰りたいと思った日々。
 そんな時に唯一優しく接してしてくれたのが、シェスタを始めとする厨房の皆だった。まさに心のオアシス――彼女達がいてくれたからつらい事も我慢して生活できた。
 そして過ぎていく時間と共に生活は変わっていく。タバサ、キュルケ、ギーシュを始めとする友達や、アンリエッタ王女やコルベール先生という良き理解者ができた。
 ひたむきに好意を寄せてくれる恋人のような友達、シェスタ、高飛車で意地悪だけどたまに見せる優しさが可愛らしいご主人様、ルイズ。二人に囲まれるて過ごす日々は幸せだった。
(そう、別に日本に戻れなくても構わない、「ハルゲニア」で一生を暮らすのも悪くないとさえ最近は感じていたんだ。)

 だが、いま俺は日本に帰ってきている――考えたことも無かった最悪の形で……

「……シェスタ…………くそっ、俺がもっとしっかりしてれば!」
 老人に指名されたときにもっと食い下がる、爆破の宣言から実行までの間に首輪に処置を施す。
 (そうだ、シェスタを助けられる方法はいくらでもあった。それなのに俺はいったい何をしてたんだ……)
 状況が掴めなくて混乱していた、危機感が足りなかった、まさか殺されるなんて思わなかった、武器が無くて不安だった、空間に溢れる闘気に怖気づいていた。
 自分の情けなさが憎い。この弱さはもはや罪だ、だがもっと大きな罪が俺にはある――それは人の命を秤にかけてしまったこと――
 シェスタに声がかかったあのとき、俺の側には二人がいた。不安そうな瞳でこちらを見つめているシェスタ、平静を装いながらも震えを隠せていないルイズ。
 ルイズの側に留まるか、シェスタについていくか。二人のどちらを優先して守るか決める必要があり、最初はシェスタについていく事を選択した。より危険なほうを守る、当然のことだ。
 だが、いざ前に出ようした時に気づいてしまったのだ……俺のパ―カ―の裾を掴んでいるルイズの小さな手。それを見た途端、急にルイズが愛おしくなり、彼女の側を離れることをやめた。
 その選択の結果がシェスタの死。死の直前に彼女は俺を見つめて「助けて」と言った。だが俺はルイズの隣で立ちつくしているだけだった。
(あの時俺が私情に走らなければ……二人のどちらがより危険かは分かりきっていたのに……)
 それが……この先一生背負っていかなければならない、重い、とても重い、俺の罪。
(微笑むシェスタ……脹れるシェスタ……恥ずかしがるシェスタ……殺される理由なんてなかった…………許さない、絶対に許さないぞ――)
 彼女は最後に「助けて」と言った。あのどうしようのないように思える状況でも、才人ならば何とかしてくれると心の奥底では信じていたのだろう。
『平民と貴族という越えられない壁を乗り越えた男』 そう、彼女の知っている平賀才人は不可能を可能にする真の英雄だったのだから。
 ならば俺はその期待に答える。この状況を作り出した張本人――老人とその背後に控えているであろう黒幕、彼らをガンダールヴの力で叩き潰す。それが自分にできるせめてもの贖罪。
(怒りが湧き上がってくる……間違いなく今の俺は過去最強だ。武器一つさえあればどんな相手にだって負ける気がしない。武器だ、武器さえあれば……)
 そう、問題が一つある。すぐさま仇をとりにいきたいところなのだが、生憎と支給品に武器が入っていなかった。
 軍隊で使ってそうな盾が一つに玩具まがいの機械が二つ。辛うじてガンダールヴの刻印が発動するようだがこれでは戦えない。どうやら武器を探す必要があるようだ。
 支給品として配られている武器を探す、それは参加者を探すことと同じ。ならば殺し合いに反逆する人間を探せば、武器と仲間が手に入って一石二鳥だ。
 そして現時点で判明している信用できそうな人間は、シェスタを看取ってくれた黒服の男、良き友達であるキュルケとタバサ、そして守るべきご主人様ルイズ、以上の四人。
(とりあえずはルイズと合流しなくちゃな、そのあとは……残りの三人を探しながら仲間と武器を集める、よし! とりあえずはこの辺りでも探してもみるか――)


 そしてルイズを探し始めてから五分、早速オープンカフェで人影を発見した。
 オープンチェアーに座って名簿を開いている金髪の男、その姿はどこか風格を感じさせる。
(日本人じゃない……言葉通じるのかな? ――年は二十歳前後で奇抜な服装。特にたくさんつけてるハート型のアクセサリーが変だ……しかもなんか色っぽいし――まさかオカマ?)
 日本語が通じるかどうかさえも分からない上に、どこか不気味なところがある。正直なところあまり関わりたい相手ではない。
 だが相手もこちらに気づいてしまっているようなので、無視するのも良くない、仕方がないので簡単な情報交換を目的に話しかけてみる。
「どうも、こんばんわ。俺は平賀才人っていいます。貴方のお名前を教えて貰えませんか?」
「…………DIOだ……」
「はじめましてDIOさん。早速なんですけどピンク髪でぺったんこ胸の女の子を見かけませんでしたか?」
「…………見ていない」
 奇抜な服装とは裏腹に落ち着いた声と流暢な日本語、ぶっきらぼうではあるものの紳士的な対応。
(お、普通にいい人じゃん。なかなか人は見かけによらないもんなんだな――強そうな人だし仲間に誘っておいてもいいかもな)

「あの、俺は「ところで、君は……心から『がっかり』したことはあるか?」

「え? がっかり――ですか?」
「そうだ…………幸福の絶頂――至福の時間――それが指の間をすり抜けていく――そんな落胆を味わったことがあるか」
 突然何をいいだすのだろうかと訝しく思う。だが仮にもわざわざ人の話に割り込んでの質問だ、DIOにとっては重要なことなのかもしれない。
 最近の出来事を思い返してみるがなかなか思い当たらない。シェスタと風呂に入るのをルイズに禁止されてしまったのには少しがっかりした、しかしそれはDIOの求めている答えとは違う気がする。
 うんうん唸りながら真剣に記憶を手繰る。だがそんな俺のことなどはまるで気にしていないかのようにDIOは行動を起こした。そして俺はその行動に驚愕させられる。
 なんとDIOはいきなり自分自身の頭に指を突き入れたのだ!
 しかもあろうかとか頭の中をかき混ぜ始める、血がだらだら流れているのに一向にやめる様子がない。
「フハハハハハ、フフフフ、フハフハフハフハ――これほどまでのッ! 絶好調のハレバレとした気分! 
 ……なじむ、実になじんでいるぞッ! やはりこのDIOの体に流れているのはジョセフの血だァ――――――」
(な、何がしているんだ。じ、自殺? 頭がおかしくなったのか?)
 しかも摩訶不思議なことにDIOの頭の傷は直ぐに塞がってしまった。魔法なのか、手品なのか、どちらにせよ不気味な事この上ない。
「……間違いない……この漲る力が何よりの証拠……ジョセフの血を吸い、承太郎にチェックメイトをかけた……それは事実……だが……全てがおかしい……いったい何が起きた?
 ……なぜこのDIOはこんなところにいる? ……承太郎はどこに消えた? ……なぜ死んだジョセフの名が名簿に載っている? …………正体不明の現象……新手のスタンド攻撃か?」
 突然立ち上がり叫びながら奇行を始めたかと思えば、今度は席に座ってぶつぶつと呟いている――どうみても危ない男だ。
 仲間に誘う前に本性が分かって本当によかった。この男を仲間にしなくてすんだことを始祖ブリミルに感謝する。
「このDIOと同じように時を操るスタンド……本体は誰だ? ……ジョースター一行にはそんなスタンド使いはいない…
 …あの解説役の老人か? ……それも違う、あの老人はスタンド使いでは無い……ならばこのバトルロワイヤルとやらを仕組んだ輩か……」
 情報は十分に手に入れた、仲間に誘わないと決まれば長居する必要はない。
(DIOは頭のおかしい危険な男。参加者の中にいるかどうかは分からないが、承太郎、ジョセフ、ジョースターって奴らははDIOの知り合い。そしてルイズはここを訪れていない)
 DIOの独り言の雲行きも怪しくなってきた。逃げる準備を開始する。
「いいだろう……再び我が運命を邪魔するというのならば、再び踏み越えるまで! そうだな……宿命ともいうべき…か…始末すべき宿命、ジョースターの血統は根絶やしにしてくれるゥ―――!!
 そして! このDIOの最高にハイな気分に水を差したッ! このバトルロワイヤルを仕組んだ輩も断じて許さんッ!! 時を操れるのはこのDIOだけで十分だッ!!!」
 物騒な事を口走るDIOを差し置いて、そろりそろりとテーブルを離れる。もちろん足音や物音が鳴らないように最大限の注意を払った上で手足を動かす。
 だが、――――ガタン――――椅子が倒れる音が響きわたる。
 絶対に音を立てまいと手足の動きに集中しすぎたせいで、椅子にデイパックが引っかかった事に気づけず――結果大きな音を出してしまった。何という皮肉。
「どこに行く気だ。貴様が去ることをこのDIOが許可した覚えはないぞ」
(……最悪だ。俺が黙って消えようとしたことにDIOは怒っている。 と、ともかく何か言い訳を……)
「ちょ、ちょっとそこまで小便に行こうかなって、あはは、は…………行ってきます!!!」
「まぁ待ちたまえ……一つこのDIOの考えをきいてはどうだ……まずこのバトルロワイヤルとやらは最期まで生き残った一番強い者が優勝するゲームだ
 ……そして人間をはるかに超越した帝王であるこのDIOに勝てる者がいると思うか? 私はいないと思う……それはつまりこのDIOがゲームの優勝者ということだ。分かったか?」
 わざわざ人の逃走経路に回り込んだ上で好き放題のたまいてくる……だがDIOが何を伝えたいのかは大体分かった。 いつでも盾を取り出せる状態にした上で、DIOのご希望に答えて尋ねてやる。
「それはもしかして、あなたは殺し合いに乗るつもりだってことですか?」

 DIOは片側の唇を上げて肯定する。

「それはもしかして、あなたはここで俺を殺すつもりだってことですか?」

 DIOの反対側の唇も持ち上がりスマイルが形作られる。

「それはもしかして、両方ですかぁ――――!?」

「答えは『Y E S』だ!!! 死ねぇ! イエローモンキー!!」

 宣言と同時にDIOの背後に歪な人形が浮かび上がり、一気に距離をつめてくる。
(魔法人形! ……ギーシュのワルキューレみたいなものか。それにしてもすごいスピードだな……小さくて速い、か……流石にパワ―は弱いよな?)
 あわよくばDIOに盾で殴りかかってやろうと、こちらからも接近する。よって激突が起きるのは必然だ。
 そして遂に、DIOから五メートルほど離れた場所で人形と激突する。拳を振りかぶる人形――それにあわせて盾を構え、打撃を受け止める――ドゴォォォン。
(何だよこれは!? 人の大きさしかないのに力の強さはフーケのゴーレム並みかそれ以上かよっ! これじゃあ……盾がもたない!)
 だがDIOにも何か思うところがあったようだ、人形が退いていく。一時的にとはいえ危機が遠のきホッとする。
「ほぅ……キサマには『スタンド』が見えているのか?」
 DIOの『スタンド』とやらが左右にステップしながら近づいてくる――それを目で追いながら、盾で受け止める準備を押し進める。
「やはり見えているな……まぁどうでもいい。見えていたところでどうしようもない……それが『スタンド』! それがザ・ワールド!
 防御は不可能よッ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァ――――――――ッ」

 時速350kmを超え、0.1秒の世界で繰り出される超高速の拳、それが迫ってくる。それはすでに常人が乗り切れるレベルではない。
 だが、平賀才人は「常人」ではない。負けたくないという強い感情に答え、左手の紋章が輝きだす。
 あらゆる武器や兵器を自在に扱える使い魔、その名は『神の盾』ガンダールヴ。
 武器の力を100%引き出すその力は才人自身の身体能力を大幅に向上させ、ザ・ワールドの拳を受け止める事を可能にする!

「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「なにィィィッッ! バ、バカなコイツ!! スタンドを持たぬ一般人でありながら、ザ・ワールドのラッシュを受け止めているだと!!」
 予想外の事態に驚愕するDIO。そう、状況だけをみれば才人はザ・ワールドと互角に戦っているのだ。
 スタンド使いを倒せるのはスタンド使いのみ、その常識を越えて食い下がってくる才人にどこかDIOは戦慄を感じている。だが当の才人は心中穏やかではない。
(畜生がっ! 相手はピンピンしているってのに、こっちは俺も盾もどんどん疲れていく――いくら守りが本職のガンダールヴでも限界があるぞ!)
 必死に挽回への道を探る才人。だが状況を打開したいのは両者一致の見解だった。
 ならば勝負の焦点は、どちらが先に打開の方法を見つけられるかだ。そして、先に答えを見つけたのは余裕のある攻撃側――DIO!
 拳の雨をギリギリのところで盾で受け止める。そんな厳しい戦いを続ける才人に向かって横合いから飛んできたのはダーツの矢! 
 DIOの投げたそれは才人の頭部を正確に狙っている、避けないと致命傷は必至。足に力を込め全力でその場を離脱し、何とか矢を回避することには成功する。
 だが体勢を崩した才人を仕留めたらんとザ・ワールドの拳が迫る――――その結果、直撃は何とか凌いだものの盾を吹き飛ばされてしまった。
「フハハハハハハ やはり所詮キサマはスタンドを持たぬ弱者! ザ・ワールドの真の能力を使うまでもなかったようだな」
 ゆっくりと近づいてくるザ・ワールド、店に追い込まれ、ついには壁際まで追い詰められてしまった。
(ここで死ぬのか――――馬鹿なっ、俺はルイズを守るんだ。むざむざ殺されはしない、最後の最後まで悪あがいいてやる!)
「チェック・メイトだッ!!」
 迫るザ・ワールドの拳に対して才人が取り出したのは卵型の物体。それをDIOに向かって放り投げ、自身は物陰に隠れる。
 爆弾を思わせるそのフォルムに対応を迫られるDIO。ザ・ワールドも一瞬ではあるが硬直してしまう。
 しかし吸血鬼であるDIOはすぐに気づく、投げられた物体は爆弾とは似ても似つかないただの機械である……と。
 けれども才人にはその硬直で十分だった。ボロボロの盾を回収すると一目散にDIOから逃げ出した。当然DIOもそれを追おうとする。
 だが、その足は止められた。本来の仕事を始めだしたボイスレコーダーによって。

「俺の名前は江戸川コナン…探偵さ…」
「オレの名前は武藤カズキ、何を隠そう、似顔絵の達人だあぁああッ!!」
「そうだ…これが本当の私 マーティン=ジグマール 設定年齢19歳 蟹座のB型ッ!!!」

 参加者の自己紹介が入っているボイスレコーダー、それが俺の二つ目の支給品。
 声だけでは何も分からない上に、危険人物がうろうろしているこの空間で大きな音は出すのは自殺行為。実に役に立たない支給品だ。
 だがそんな支給品でも相手の隙を作ることはできる。現にDIOは俺への攻撃を失敗し、今も呆然としている。
(うわ―青筋ピクピクさせて睨んでるよー、怖っ。でももう二度と会わないから関係ないもんね、ザマーミロ)
 すでにDIOとの距離は二十メートルを越えた。もう追いつかれることはないと安心する。
 だが俺は忘れていた。DIOを普通の人間の基準ではかってはいけない事を……
「人間の分際で……よくもこのDIOを! コケに! してくれたなッ!! 許さんッ!!
 WRYYYYYYYYYY――――――ッ、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ――――――ッ!!!」
 三十メートル近い距離を一度の跳躍で詰めてしまう、それが帝王DIO。怒り心頭の彼は容赦なくラッシュを才人に打ち込もうとする。
(ば、化け物めっ!? 盾はボロボロだし……支給品はもうこれしか残ってないのか……頼む、目くらましくらいにはなってくれ!)
 デイパックから最後の支給品を取り出し、スイッチを入れる――――DIOに向けてストロボから放たれたのは不可視の電磁波『紫外線』。

「うぐおおおああああ!? なああにィィイイイッ! ば…ばかなッ! 貴様ッ! 一体何をした!? 
 ……こんな弱者に…こ…このDIOが……… このDIOがァァァァァァ~~~~~~~~~~~~ッ」

 ナチスが対柱の男用に開発した紫外線照射装置。それは柱の男の下位生物である吸血鬼に耐えられるものではない。
 紫外線を浴びたDIOはみるみるうちに溶解していく、だが一撃で即死しなかったところは流石DIOといったところか。
(あ、あ、あ 溶けてる……。し、紫外線って肌に悪いだけじゃなかったのか!? ……一撃で倒すだなんて……すごい武器だったんだ……)
 絶体絶命のピンチから一転、煙を上げながら地面をのたうちまわるDIOを見下げることになった。
 あまりに突然な勝利に実感が湧かず、しばし呆然となる。だがそんな俺を現実に引き戻したのは、倒したはずのDIOからの呪詛の言葉だった。
「……き…さ…ま……こ…ろ…して………やる………時よ止まれ……『ザ・ワールド』…………スタンドが…出ない
 ……ならばこのDIOが直々に……くそっ…あ…脚に…力が……脚に力が入らんッ! たっ立ち上がれないッ!」
 気づけばDIOの体は異常な速度で修復をはじめている。吸血鬼の事を知らない才人には異常な治癒の理由は分からない、だがするべき事は分かる。


 三十六計逃げるに如かず、平賀才人は逃げ出した。


「一体なんだってんだ! ちくしょ――不幸だ――――!!」

 日本に帰ってきてて最初に出会った人物は最悪だった。DIOはこちらの話をろくに聞かずに問答無用で襲いかかってきた。
 しかも彼は強力なゴーレムを操り、驚異的な身体能力を発揮し、不死身の再生能力を持つ強敵だった。『紫外線照射装置』がなかったら俺は確実に殺されていただろう。
(そう、予想と違い紫外線照射装置は強力な支給品だった。でも説明書によれば使えるのはあと四回だけか……使いどころを見極めなくちゃな)
 漠然と考え事をしながら歩いていると、電柱の下に佇む赤コートの大男を発見した。
 だがすぐには接触しない、悪しき前例があるので慎重に物陰から観察することにする。
(黒髪で眼鏡、典型的な日本人か……でも、二メートルありそうな身長とか赤いコートとかって日本人っぽくないんだよな
 ……どっちなんだろ?  …………ところであいつは何でさっきからずっと空を見上げているんだろう?)
 闘争とは無縁そうな外観をしているが、どこか怪しい男。危険人物とも無害な人物ともとれぬ微妙なライン、接触するべきか無視するべきか判断しかねる。
 考えていた時間は二分ほどだっただろうか、悩んだ末に出した結論は接触。広い空間内で刻印だけを頼りにルイズを探すのは大変だ。情報は少しでも多く欲しい。
 意を決めて物陰から出ようとする。だがその前、こちらが姿を現す前に男が話しかけてきた――まるで俺が覗いていた事を最初から全て知っていたかのように……。

「月が美しい、今夜は実にいい夜だ。なあ、そう思わないか? ヒューマン」

 観察がばれていた事に対する後ろめたさはあるが、あちらから話しかけてくれたのは渡りに船だ、有り難いことこの上ない。
 今度こそは話を聞いてもらう、そう意気込んで会話にのぞむ。
「どうも、こんばんわ。俺は平賀才人っていいます。貴方のお名前を教えて貰えませんか?」
「アーカードだ。……ずいぶんと傷を負っているなヒューマン、貴様は歯向かう者か?」
 指摘されて初めて服がボロボロになっている事に気づいた。これでは、自分は先程まで戦っていました、と看板を掲げて歩いているようなものだ。
 警戒心の強い者にはそれだけで逃げられてしまう、着替えを探した方がいいようだ。教えてくれたアーカードに感謝する。
「あ、そうなんです。さっきあっちの方でメチャクチャ強い人形を操るDIOって男に襲われて、逃げてきたところなんです。ほら、この盾を見てください、ボコボコでしょう? あいつにやられたんですよ。」
 それを聞いてどこかアーカードの表情が曇る。
(殺し合いに乗った奴がいる事を知って悲しんでるんだろな……やっぱり優しい人だ。ん、そういえばDIOが追ってきてるかもしれないんだっけか)
「あの……今話したDIOが俺のことを追ってきているかもしれません。ここを離れた方が安全です、そろそろ移動しませんか?」
「……………………私からは逃げないのか? どうなんだヒューマン?」
「逃げるわけないじゃないですか。第一に逃げる理由がないです。それに……いや何でもないです」
(それに俺の中ではもうアーカードさんは立派な仲間なんですよ)
 恥ずかしくて伝えられなかった。だがアーカードはそれだけで満足だったようだ。
 今までの渋面が嘘だったかのように満面の笑みを浮かべている。輝く赤い瞳、膨らむ鼻、持ち上がる唇、そしてその隙間から覗く牙……牙?

「安心したぞヒューマン。貴様が逃げるだけの野良犬でなかった事が実に嬉しい! さぁ、闘争を始めようじゃないか!!」

 膨れ上がるアーカードの気配。俺は突然のアーカードの豹変に立ちつくすことしかできない。
 そんな棒立ちしている俺に対してアーカードが繰り出してきた攻撃は実に単純なものだった。
 『腕を振り上げ、勢いよく振り下ろす』それはとても技とは呼べないような腕の運動。
 だから思考はそれを危機とは受け止めない、どこか他人事のようにアーカードの行動をぼんやりと見ていた。
 けれどもガンダールヴとしての本能は違った、寸前のところで盾でアーカードの腕を防ぐ、それは無意識のうちの行動だった。

 しかしながらその行動が才人を救った。なぜなら才人の頭の代わりにアーカードの腕を受けた盾。
 それが、今まで才人を守り続けてきたジェラルミン盾の最後の仕事となったのだから。
 盾は腕の触れた場所から真っ二つに割け、才人の腕には痺れだけが残った。
 あまりの出来事に体の力が抜け、座り込んでしまう。いったい何が起こったのか、理解できない。
(う、嘘だろ。あ、あのDIOの拳の連打だって耐えてたじゃないか……馬鹿な、幻だ……
 ……そうだDIOから逃げた時点ですでに亀裂が入っていたんだ、だから少し力を入れただけで壊れてしまったんだ。そうに違いない)
 自分の身に起きたことだ、何が起きたのかは分かる。だが目の前で起きたことを現実だと認めたくない、そんな感情。

「どうしたヒューマン? まだ盾が壊れただけじゃないか。敵はここにいるぞ、さっさと攻撃してこい。お楽しみはこれからだ!!」

 だがそんな僅かな現実逃避すらも許されないのが戦場。目を背けたくなる現実に才人は引き戻される。
「お、俺はこの殺し合いを仕組んだ奴らをぶちのめしたいんです、この『ゲーム』をぶち壊したいんです。殺し合いなんてしたくない。
 そしてあなたを仲間だと思っている、傷つけたくないんです。だからどうか戦いをやめて俺の仲間になって貰えませんか?」
「断る」
「駄目……ですか?」
「逆に問おう、なぜこの『ゲーム』を止めようとするんだ、ヒューマン。こんな素晴らしいパーティーに何の文句がある?」
 やばい、こいつは、やばい。頭の中で警鐘が鳴り響く。今頃になってようやく気づいた、アーカードはDIOよりも純粋な――化け物なのかもしれない。
 なぜ人は化け物を怖れるのか。理解できないから? 姿形が恐ろしいから? 違う、人は化け物には決して勝てない――それを本能が知っているからだ。
 事実、今は俺はアーカードが恐ろしくてたまらない。 小便を漏らし、神に祈りながらガタガタ震えて命乞いをする、手元に紫外線照射装置が無ければ俺はそうなっていただろう。
 だが現実は違う。俺の手元にはDIOを撃退した最強の武器、紫外線照射装置がある。この武器に敵対した以上は地に這い蹲るのはアーカードの方なのだ!

―――アーカードまであと十歩。
「どうしたヒューマン? 楽しい夜を始めようじゃないか。HURRY! 首を撥ね、心臓に杭を突き立て、見事私を殺して見せろ! HURRY! HURRY! HURRY!」

―――アーカードまであと九歩。
 まっすぐにこちらへと歩いてくる。余裕の表れなのだろうか……その余裕も俺が紫外線照射装置を使うその時までだとも知らずにのんきなものだ。

―――アーカードまであと八歩。
 あと一歩だ、次の一歩を踏み出したとき、化け物アーカードは倒れる。

―――アーカードまであと七歩。
「今だ! 紫外線照射装置ィィィィィィィィィ!!」
 デイパックから素早く取り出し、流れるような動きで装着しスイッチを入れる。まるでイメージ通り、完璧だった。
 そしてやはり紫外線照射装置は強力だ、アーカードの皮膚がケロイド状に溶けていく、整っていた顔も最早見る影もない無惨なものになっている。
 DIOの時といいあまり見ていても気分の良いものではないが、勝利の気分には浸らせてくれる。そうだ、俺は勝ったんだ。それなのに……

―――アーカードまであと六歩。
「痛い、痛かったぞ人間。だが私を殺すのにはまだ足りない。もっとだ!! もっと!! もっと!! もっと!! もっと!! 私を殺したいのなら!! もっと力を見せてみろ!!」
 ……なぜアーカードは止まらないんだ。自分の体が溶けているのになぜ向かってこれるんだ。普通は動けなくなるだろ!?
 泣き叫ぶほどに痛いだろうになぜ平然としていられる? 自分の死が怖くないのか? 紫外線照射装置が――俺が恐くないのか?
 勝ったはずなのに、勝った気がしない。しかも、アーカードは笑顔だ。これではまるで俺が負けたみたいじゃないか。
 背筋が寒くなり、思わず後ずさってしまう。

―――アーカードまであと五歩。
「なぜそこで退く? 私に一撃をいれたことを誇るがいい! さぁ続きをしようじゃないか!! HURRY! HURRY! HURRY! HURRY! HURRY! HURRY! HURRY! HURRY!」
 理解できない、なぜアーカードは喜んでいるんだ? なんであんなに嬉しそうにできるんだ?
 間違いない、アーカードと俺は住んでいる世界が違う、違いすぎる。出会ってはいけなかったのだ。
 同じ空間を共有するだけで殺される、それが化け物アーカード。

―――アーカードまであと四歩。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 紫外線照射装置第二射、ストロボから放たれた光がアーカードを容赦なく焼く。
 窪んだ眼窩、露出した鼻骨、ボロボロと抜け落ちる髪、身動きする度にベチャベチャと音がする。
 だがアーカードは止まらない。何も知らない子供のように震える俺に近づいてくる。
 逃げたい、何もかも放り出して逃げ出したい。だが蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れない。
「足りない、足りないぞ! そんなちっぽけな光では私を殺せん。どうしても日光で殺したいのならば太陽でも持ってこい!」

―――アーカードまであと三歩。
「っっ――――――――――!!!」
 声にならない叫びとともに第三射を放つ。唇が溶け、ついにアーカードの笑顔が吹き飛ぶ。
 ぐしゃぐしゃになったアーカード、体が傾き、赤いコートが道路に落ちる。
 ……終わった。ついに俺は化け物を倒したんだ!

―――アーカードまであと二歩。
「あ…………あ…………あ…………あ」
 だがアーカードは倒れていなかった。倒れたのはコートと表面の肉だけ。
 骨が……人体模型のような骨が……内臓と骨、そして爛れた肉しか残っていない人間のできそこないが……近づいてくる。しかもその落ち窪みきった目は訴えている――
「ククク、ハハハハハ。やるじゃないかヒューマン。だがまだだ、まだ足りないぞ。もっとだ、もっと抗え、さもなければ諦めて死ぬがいい!」

 ――まるでいまだにこの状況を楽しんでいるようじゃないか。

「うわぁぁああああああああああああああああああああああああああ」
 何て狂っているんだ。こんな相手と戦おうとした事自体が間違いだったのだ。
 もう何もいらない。デイパックを、盾の残骸を、ちっぽけな闘志を、僅かに残っていたプライドを、シェスタの仇を討つという使命を、全てを投げ出して逃げ出す。
 敵に背を向けてただひたすらに足を動かす。


 分かることは一つだけ――生き延びたいのならば絶対に振り返ってはいけない――

 ◇ ◇ ◇

 平賀才人は民家の一室に隠れている。部屋の隅で縮こまる彼には最早伝説の使い魔の片鱗も伺えない。
 才人を覆うのは帝王DIO、本物の化け物アーカード、人を超えた吸血鬼達に対する絶対の恐怖。
 シェスタの仇をとるという目的はとうに忘れた……「もうお仕舞いだ」「皆あいつに殺されて終わるんだ」それしか考えられない。
 しかしそんな絶望に覆われた才人にも最後の矜持は残っている――どんなに怖くても最後までルイズを守らなければならない――慣れ親しんだ自分の武器さえあれば勝てるかもしれない――。
 だが今が最悪だと思っている才人は考えもしない――これ以上の最悪の状況が存在することを……。
 才人は知らない……脳裏に浮かんだ『デルフリンガー』と『竜の羽衣』。それらの支給品の所有者はそれぞれDIOとアーカードである事を……。
 才人彼は気づかない……ここは殺し合いの場……いつルイズの最期が左目に映ってもおかしくないという事を……。


 絶望には底はない


 ◇ ◇ ◇


「頭痛がする、は…吐き気もだ…くっ…ぐう、な…なんてことだ…このDIOが……スタンド使いでない、ただの人間に逃げられただとッ!?
 ……だがこのDIOをボロボロにした光……あれは侮れん……支給品の力を甘く見ていたということか……」

 DIOに配られた支給品はインテリジェンスソード『デルフリンガー』とダーツの矢が三本、実に価値のない支給品だ。
 元より目から体液を発射し矢にできるDIOにはダーツの矢は必要なく、剣の心得が無い以上は『ザ・ワールド』を差し置いて剣を使う理由もない。
 そして帝王DIOは自らの力、スタンド『ザ・ワールド』に絶対の自負を持っている。だからだろうか、道具に頼るのは腕の未熟な弱者だという考えがあった。
 だが道具を見事に使いこなす平賀才人との戦いによって多大なダメージを受けたのは事実、おかげでジョセフの血によってその体に漲っていた力は欠片も残ってはいない。
 しかし、DIOは自分の考えが間違っていたとは思わない。なぜならDIOは才人に負けてはいないからだ。
 死者のみが敗者であり、最後まで残った者のみが勝者、それが帝王DIOの哲学。
 だから今回の戦いで自分が重傷を負った事は関係ない。平賀才人を追いかけて殺す、そうすれば残るのは勝者がDIOという事実のみ!

「許さん! 次に…出会った…時が…貴様の…滅びだ…『平賀才人』…このDIOを……
                            ザ・ワールド
 このDIOをおちょくった事を…後悔しろ…『世界』の真の力で……惨たらしく殺してやる! 帝王に敗北はない!!!」

 怒りに溢れた帝王は南へと進む。


「結局はただ逃げるだけの野良犬だったか。実にくだらない、実に残念だ。」

 自らの支給品――戦闘機の中に隠れて再生を続けているアーカードは一人語る。

「だが犬も一つだけ良い置き土産を残していった。人形使いの男、DIOか――楽しみで仕方がないじゃないか。」

 平賀才人が話していた強者DIO、彼との闘争を待ちわびる。
 アーカードが求めるのは強き者。自分の退屈を癒してくれる強敵、自分を楽しませてくれる強敵、そして自分を滅ぼしてくれる強敵。
 そして、立ち上がる。再生はまだ終わっておらず、体は不完全。だが我慢ができない、目の前の戦争を傍観するなんて馬鹿馬鹿しい。
 折角のご馳走を前にして喰らいつかぬ者などいない。戦闘機から飛び出しDIOの元へとゆっくり歩みだす。

「未だ月は天にあり、闘気と死臭がそこらじゅうを渦いている。血を血で洗う闘争の夜はまだまだ終わらん。お楽しみは、これからだ!!」

 喜色に溢れた化物は北へと進む。

 ――今――吸血鬼達の夜宴が始まる――

【1日目 深夜】

【C-5北部 路上】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
【装備:スタンド:『世界』(現在の体力では時止めは一度が限界)】
【所持品:・支給品一式、デルフリンガー(紙状態)、ダーツの矢(残弾数2)】
【状態:頭痛、めまい、体中に重度の火傷(自然治癒中)、重度の疲労】
【思考・行動】
1:平賀才人に時止めを使って『勝利』する。
2:ジョースターの血統を根絶やしにする。
3:ゲームを仕組んだ輩を断罪する。
思考:非常に鬱憤が溜まっている、激情のあまりに冷静な考えができていない。
基本行動方針:帝王に負けはない。参加者を殺し、ゲームを優勝する。
参戦時期:ジョセフの血を吸った後、承太郎に時を止められるまでの間の時間帯からの参戦。
(具体的にはジョジョの奇妙な冒険28巻、DIOの世界17)



【C-5南部 路上】
【アーカード@HELLSING】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式】
【状態:体中に重度の火傷(自然治癒中)、体の細部が欠落、軽度の疲労】
【思考・行動】
1:北へ向かい、そこにいるはずのDIOと戦う。
2:誰でもいいので、自分を楽しませてくれる相手と戦いたい。
基本行動方針:殺し合いを楽しむ。
参戦時期:原作五巻開始時



【B-5 民家】
【平賀才人@ゼロの使い魔】
【装備:紫外線照射装置@ジョジョの奇妙な冒険(残り使用回数一回)】
【所持品:無し】
【状態:重度の疲労、自信消失】
【思考・行動】
1:アーカード、DIOに対する絶対的な恐怖に覆われている。
2:ルイズを探し出して守る。
3:竜の羽衣、デルフリンガーを始めとする身を守る武器が欲しい。
(4:武器を手に入れて、シェスタの仇(光成、他)を討つ。)
(5:キュルケ、タバサ、葉陰覚悟《名前は知らない》との合流、武器の捜索。)
参戦時期:原作三巻終了後

※C-5北部に以下のものが放置されています。
ボイスレコーダー
※C-5南部に以下のものが放置されています。
支給品一式
ジェラルミン盾(真っ二つに割れています)
竜の羽衣(零式艦上戦闘機:弾丸と燃料は支給されていません)

※竜の羽衣について
原作三巻終了後に銃弾を使い尽くしてから、原作六巻でコルベールが改造を施す前からの出展。
正式名称は零式艦上戦闘機。主な武装は20mm機銃2門と7.7mm機銃2挺。
元の機体からの変更は以下の通り、
通信機などの使用しない内装が廃棄されており、同乗者を一人乗せられるようになっている。
日の丸の白い縁取りが濃緑に塗りつぶされている、カウリングに白抜きで辰の文字が入っている。


010:甘さを捨てろ 投下順 012:俺の名を
010:甘さを捨てろ 時系列順 012:俺の名を
000:オープニング 平賀才人 018:夜空にコインが煌めいて……
初登場 DIO 047:ハレ晴レフカイ(DIOver)
初登場 アーカード 047:ハレ晴レフカイ(DIOver)