再生怪人アンデルセン ◆VACHiMDUA6


 周囲が暗く沈みきった闇の中、木々の間を少女は走る。

「はあーーーはあーー」
 走る。
 少女が走る。
 お化けとの逃走劇とも、マラソン大会とも、西沢歩を追いかけた時とも比べものにならない勢いで、桂ヒナギクは走る。
 逃げる為、助けを呼ぶ為、そびえる木の合間を縫って走る。
 突如襲って来た大男。
 その化物から逃げるために。
 自分を逃がしてくれた男。
 その人を助けるために。

 桂ヒナギクは走る。
 男の無事を祈りながら。

 桂ヒナギクは走る。
 狂った脅威との遭遇を思い出しながら。

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(さっきのは……いったい)
 見知らぬ人間が集まる中、老人に突然殺し合いを要求された。
 その後、メイドの少女が………殺された。
 いったい何故?
 自分は時計塔でハヤテを待っていた筈ではなかったのか。
 あまりにも待たされて自分は眠ってしまって、これは実は夢なのではないか?

 夢の、わけがない。
 あのメイド服の少女の……はあまりにもリアルだった。
 思いだしたくはない、でもあの光景が思い浮かんでしまう。
 助けを求めて、殺された少女。

 『殺し合い
 自分も……あんな風に殺されて仕舞うのか?
 ―――嫌だ。
 絶対に嫌だ。死にたくない。自分はまだ、綾崎ハヤテと決着をつけていない。だから、

 ―――綾崎、ハヤテ。
 そうだ、彼もここにいるのだろうか?
 いるなら、
「助けにきてくれるって…………言ったじゃない」
 会いたい。助けに来て欲しい。
 自分が言ったら、助けに来るってハヤテは言った。
 速く、来て、この悪夢のような場所から助けて欲しい。
 そう、ヒナギクは祈った。

 しかし、
 それにしても、
「…………………………」
 それにしてもどうしてなのだろうか?
 どうして自分は、こう、高い木と縁があるというのだろう。高所恐怖症だというのに。
 本当に、速く助けに来て欲しい。

 「ハ……!!ハヤテくーーーーーーーーーん!!」
 ヒナギクは叫んだ。

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「それで、お嬢さん。怪我はありませんか?」
「あ……はい。その、すみません」
「なあに、私としても光栄ですよ。あなたのような美しいお嬢さんのお役に立てたのなら」
 ニヤニヤとしまらない顔で笑うのは、「自称」名探偵毛利小五郎だ。
 顔には、足跡。

「それにしてもどうしてあんな場所に?」
「私が気がついたら、木の上で」
 ヒナギクが木の上で難儀していると、ちょうど小五郎が通りかかった。
 困っている人を見捨てておけない、といって小五郎はヒナギクを助けたのだ。
 そこで、ヒナギクのキックが小五郎の顔に命中した。
 ヒナギクが狙って蹴ったワケではなかったのだが、目をつぶって飛び降りたせいか、偶然、受け止めようとした小五郎の顔にヒナギクの足があたってしまったのだ。
 まるで、ヒナギクとハヤテの初めての出会いのように。

「それでヒナギクさんのお知り合いは?」
「えーと、マリアって女の人と、三千院ナギって女の子と、綾崎ハヤテって男の子で……」
 ヒナギクは続けて、事細かに知り合いの特徴を小五郎に説明する。一つ一つ、丁寧に、記憶を掘り返しながら。

「それで、小五郎さんのお知り合いの方々は?」
「私の知り合い、ですか。ええーと」
 小五郎は手元の名簿を確認する。
 『江戸川コナン』『灰原哀』『服部平次』……小五郎の周りには、見知った三人の名前があった。
 蘭や妃英理の名前がない。そのことにひとまず小五郎は安堵した。

「小五郎さん?」
「ああ、ええっと……三人、です。江戸川コナンと灰原哀と服部平次です」
 小五郎は、三人の顔や特徴を出来る限り思い浮かべ、話し出す。

「江戸川コナンってのはウチで預かってる子供で、いっつもうろちょろしています。
 灰原哀ってのは……たしかコナンの友達、だったかな?
 服部平次ってのは……コイツもコナン同様うろちょろする奴なんですが、探偵なんですよ。まあ、私には及びませんがね」
「はあ」
 あまり要領を得ない説明にヒナギクは不安を覚える。
(それじゃ殆ど説明になってないじゃない)
 要領を得ない、というより説明そのものになっていない。
 本当に小五郎は探偵なのだろうかと、ヒナギクは不安を覚えた。

「それで、これからどうしますか?
 お互いの知り合いを探しに……」

 小五郎に問うヒナギク。
 そこに、恐怖は訪れた。

 気配もなく、闇の中から現れた。
「良い月だな、異教徒共」
 神父、アレクサンド・アンデルセン。
 法衣に包まれたその足から生える『処刑鎌』は、名探偵でない者にも、アンデルセンはゲームに乗った殺人者だということを推測させるには十分なものだった。
「貴様らは震えながらではなく、藁のように死ぬのだ」
 場の空気が、凍る。動きが、止まる。
 振り上げた処刑鎌は月の光を反射して、美しく光った。
  轟
 アンデルセンが動く。

「Amen」
 アンデルセンの狙いはヒナギク。
 何故?
 弱いものを先に刈る?
 否。『ただ』近いから。
 それだけだ。ただそれだけだ。
  飛
 ほんの一瞬、ほんの一歩でヒナギクに詰め寄り、
  斬
 その素っ首を掻き落とした。

 否。掻き落としたのは、内臓まで裸同然の人体解剖人形だった。
 直後、
「おい!」
 放たれた三発の銃弾が、神父を襲った。
 とっさにバルキリースカートの刃を盾にしたアンデルセンだが、放たれた銃撃全てを防げる筈もなく、大口径のストッピングパワーに後退を余儀無くされた。

「逃げるぞ!」
 その様子を確認して小五郎は立ち竦むヒナギクを連れ逃走した。

「な、なんなのよ……あれ」
 ヒナギクは女子高生とは言え、これまでにそれなりに場数を踏んできた。
 動く人体解剖人形とも戦った、巨大ロボットとも、暗殺シスターとも戦った。
 でも、それらには無かったもっと大きな、恐怖を感じた。
 狂人。凶人。凶刃。
 あれは、間違いなくこの世のものではなかった。

「クソ」
 ヒナギクと同じく、小五郎も恐怖を感じていた。
 探偵になる前は刑事だった小五郎は、犯人逮捕を幾度も経験した。その中には殺人犯だっていた。
 しかし、あの神父は今までのどんな犯人よりも危険だった。

「は は は は は は は は」
 アンデルセンは愉快だった。
 突然殺し合えと言われ、鉄火場に放り出された。
 支給品は『処刑鎌』。刺客(イスカリオテ)のユダに相応しい道具。
 盤石だが、あの男のとっさの機転で防がれた。
 それに、再生の速度が遅い。いつもならこの程度の傷、数瞬と要らず回復するのに。
 だが、だから、アンデルセンには愉快だった。

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「は は は は は は は は」
 アンデルセンの叫び嗤い声がヒナギクと小五郎に届く。
 ヒナギク達は目撃する。
 それは驚愕。
 処刑鎌を足として、闇の木々を縫い、翔ける神父の姿。
 その速さ、尋常でない。

「な……」
 小五郎の驚愕。
 刑事は普通帯銃しない。
 また発砲も威嚇と、脚部に対するもの。脚部への銃撃で犯人の動きを止めるためだ。
 だから先ほど小五郎はとっさに、足と腹部へと発砲した。
 アンデルセンを無力化するため、或いは条件反射的に。
 確かに一撃は防がれた、だが小五郎の銃撃はアンデルセンの腹部と脚部を射抜いた。
 しかし、目の前の、視線の先の化け物は何事も無かったかのように、いや、先ほどよりも迅く飛び回っている。
 このままでは直に追いつく。
 そうすれば、自分はともかく、後ろのヒナギクは、あの原理わからない鎌で切られてしまうだろう。
 それは、避けなければならない。
 だから、
「ヒナギクちゃん、逃げるんだ」
 小五郎はアンデルセンを引き止めにかかる。

「な、何を言っているのよ……?小五郎さん」
「速く逃げろ!あの男は危険だ」
 必死に逃がそうとする小五郎だが、
「却下よ!」
 ヒナギクはそれを拒否した。
 ヒナギクとて、他人を犠牲に生き延び人間ではないのだ。
「小五郎さん一人を放っておくわけにはいかないでしょ!!」
「いいから速く逃げろ!さもないと、もう」
 もう、

「もう、なんだというんだ?異教徒共」
 もう、アンデルセンが追いついてしまったのだから。
 二人の前にそびえ立つ、鋼のような巨躯。
 神の代理人、神罰の地上代行者。
 「首斬判事」アンデルセン。

「貴様ら異教徒共を生かして帰すつもりはない」
 今度ばかりは、どうしようもない。

「速く逃げろ!ヒナギ……うグェ」
 斬、と横薙に首斬り鎌が振られ、同時に小五郎の体が崩れ落ちる。
 圧倒的な、虐殺。
 驚異的な、殺害。
 超越的な、重圧。
 倒れた小五郎のそばから、一歩、二歩とヒナギクと「殺し屋」の距離が近づく。

(誰か……誰か――――――――)
 ヒナギクの悲痛な祈りとは裏腹に、神父の動きは止まらない。

 神父との距離はついに零歩になる。
 神父が鎌を振り上げる。
「Amen」

鎌が振り下ろされ―――

 いや、振り下ろされない。
 神父は、地に伏していた。背後には―――柔道の投げの姿勢で片腹を抑える小五郎。

「速く……速く逃げろ!」
 今度は迷わずヒナギクは飛び出した。

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 その場から走り去るヒナギクの後ろ姿。
 確認して息をつく小五郎の片腕は無かった。

「まだ立つか異教徒」
 アンデルセンの問いに、小五郎は答えない。
 ただ、その手にある武器を構える。

「その傷で、その体で、その武器で、まだ立つか異教徒。
 どうした?片腕がないぞ。武器は壊れているぞ?まだやるのか、まだ闘るのか?」
 とっさにアンデルセンの一撃を受け止めた拳銃の銃身は破壊されていた。でもこれが、ヒナギクを逃がす代償だった。
 故に、この銃事態に、既に、武器としての機能はない。
 ただ、ナイフのついたマガジンのみが、小五郎にのこされた最後の武器だった。

 それを―――――

「げはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
 アンデルセンが、嗤う。
 今度は処刑鎌を阻むものはなかった。


【H-4北部 林/1日目 深夜】
【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING】
[状態]:脚部と腹部に銃創。軽い打撲
[装備]:バルキリー・スカート@武装錬金
[道具]:不明支給品0~2品(本人は確認ずみ)
[思考]
基本:化け物共と異教徒共は鏖
1:桂ヒナギクを追う
2:アーカードを殺す
[備考]

再生者の制限は回復速度が遅くなることと、頭部などへの致命傷は再生できないことです
再生が弱まっていることを自覚しています
参戦時期は原作2巻です
【毛利小五郎@名探偵コナン:死亡確認】
【残り58人】

[備考]

小五郎のデイパック(不明支給品0~1品)は【H-4北部 林】に転がっています
小五郎の支給品【人体模型@ハヤテのごとく】は首が取れた状態で【H-4北部 林】に放置されています
【電磁ナイフ付き拳銃@仮面ライダーSPIRITS】は銃身が破壊されて【H-4北部 林】に放置されています
【電磁ナイフ付き拳銃@仮面ライダーSPIRITS】の電磁ナイフは【H-4北部 林】に放置されています
 ────────────────────

 「はあーーはあーーーーー」
 木々の合間を縫い、走るヒナギク。
 ついに広い、道路に出た。
(これで、助けが呼べる――――――)
 その時、
  轟
 ヒナギクの背後の森の中から何かの爆発する轟音が轟い。
 場所は……先ほどヒナギク達がいた場所より、そう遠くない場所。
(あ………………)
 ヒナギクはその場に、へたり込む。
 足からは力が抜け、体は妙な喪失感に支配された。
 爆発が小五郎に関係ないとしても、ヒナギクにはそれが小五郎の死を告げる声に聞こえた。

(あ…………あ………………)
 心に広がる絶望。
 目からこぼれ、頬を伝う涙。
 自分が残らなければ、小五郎は…………
(私が残らなければ、小五郎さんは……あんなにならないで、助かったのに)
 自己を咎め、蔑み、悲哀に溺れるヒナギク。
 しかし突然、
「大丈夫か?」
 突然、声をかけられた。
 顔をあげない。
「どうした、何があった」
 ヒナギクは男に肩を掴まれ、顔を合わせられる。
 だが……涙で滲んで、悲しみで、男の顔も、声もヒナギクには届かないのだった。

【H-4南部 路上/1日目 深夜】
【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態]:深い絶望。体中に擦り傷、切り傷(戦闘に影響なし)。軽い疲労
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:ハヤテ達との合流
1:小五郎さん…………
[備考]

小五郎の生存を絶望視しています
ヒナギクが聞いた轟音の正体は、三影の大砲の音です
参戦時期はサンデーコミックス9巻の最終話からです
桂ヒナギクのデイパック(不明支給品1~3品)は【H-4 林】のどこかに落ちています
【本郷猛@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:正常
[装備]:不明
[道具]:不明支給品1~3品(本人は確認ずみかもしれない)
[思考]
基本:弱いものを保護するが、襲ってくるものには容赦しない
1:目の前の少女の保護
2:轟音の正体が気になる
3:村雨との合流、三影の阻止(場合によっては破壊)
[備考]

改造人間への制限は不明(後の書き手まかせ)です
参戦時期はコミックス7巻(第二十八話)です


014:貴族、そしてチャイナ娘 投下順 016:偽りの勝利
014:貴族、そしてチャイナ娘 時系列順 016:偽りの勝利
初登場 アンデルセン 033:出動!バルスカ神父
初登場 毛利小五郎 死亡
初登場 桂ヒナギク 033:出動!バルスカ神父
初登場 本郷猛 033:出動!バルスカ神父