集結(中編) ◆1qmjaShGfE



学校へと向かう独歩、彼の視線は道路のど真ん中に止まっている車へと向けられていた。
道を塞ぐように道路に対し直角にとめられた真っ赤な車、そのドアに張られた白い紙は殊の外目立って見えた。
『服部平次より、俺達は事情により首輪を外した。すぐに独歩さんの首輪も外すからその間口を開かないで欲しい』
ちょうど独歩が読み終わるタイミングで、姿を現す服部と赤木。
二人の姿を見て、独歩自身思う所もあったが彼等に頷いてみせる。
それを確認するなり赤木と服部はジョセフの首輪を外した時以上の速度で首輪を解除する。
もうお前らそれでメシ食っていけよと言いたくなるような、惚れ惚れする程の手際の良さであった。
「独歩さん! 悪いけど時間が無い、学校行って残りの連中の首輪外すで!」
正に至れり尽くせりで、何の感慨も無くさんざ苦労させられた首輪を外してもらった独歩。
まるで問題解決能力に欠く愚か者の妄想のようだ。
現実とは厳しく辛い物とさんざ思い知っている独歩は、喜ぶべき事にも関わらず何処か納得いかない顔をしていた。
二人に急かされるままに車へと乗り込む独歩。ジョセフも姿を現して全員真っ赤な車へと乗り込む。
「何ていうかよぉ……こんなんでいいのか?」
「いいわけあるかい。首輪解除は全員同時でないとアカンかったんや。でもしゃあない、既にこっちが首輪解除出来る事は向こうに知られとると考えるべきなんやから」
後部席に座ってようやく得心する独歩。
「だよなぁ、こんなうまい話あるはずねえんだ。…………間に合うか?」
服部のその言葉だけで主催者による首輪爆破に思い至った独歩は、同時に最悪の事態も考える。
「あわせるさ! 猶予の時間はあるはずなんや!」
そう口にしておきながら、服部はその可能性が極めて薄い事を、理解していた。
それでも、それでもなお、ほんの僅かな相手側の手違いの可能性に賭け、服部は車を走らせた。





独歩の処刑は、出発を待つ間の暇潰しとしては充分に楽しめるものであった。
ここまで生き残った猛者であるはずの男が、たった指一本であっさりとその命を散らす。
その無情さ、哀れさはジゴクロイド、カマキロイドのドS心をいたく満足させてくれるものだった。
監視員Bのフェイントも愉快だった。
ゆっくりもったいぶって押そうとしている間に、逆の腕で見えないようにさくっとボタンを押して光点を消した大技はジゴクロイド、カマキロイドの二人に爆笑をもって迎えられた。
カマキロイドは、奴等が大切にしている命とやらを冗談の種であっさり消してしまう感性が素晴らしいと解説まで入れる始末。
「いいわ貴方、凄くいい。戻ったら暗闇大使に改造人間に推しておくわ。相当愉快な奴が出来るはずよ」
正に大絶賛である。
そんな賑やかな待ち時間であった為、ジゴクロイドもカマキロイドも待つという行為をまるで苦とせず出立の時を迎える。
実際にジゴクロイドとカマキロイドが動くとなると、ようやくカニロイドもベッドから起き出して来た。
「じゃ、暗闇大使には貴方からうまく言っておいてね」
「ははっ、御武運を」

ジゴクロイドは自分のバイクに、カマキロイドはサイドカーのついたそれにカニロイドを乗せ、楽しみに胸膨らませながらアクセルを回す。
そんな三人を見送り、姿が見えなくなった後で監視員Bは頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
『やっべええええええ!! 俺ボタン押してねえしいいいいいいいい!!』
いざ押そうと手を振り上げた瞬間、突然モニターの光点が消えたのだ。
あまりといえばあまりなタイミングに、監視員Bが硬直していると、ジゴクロイドが大笑いしながら突っ込んできたのだ。
「お前このタイミングでフェイントかますかよ! マジで騙されたじゃねえか!」
あの時の自分は神がかっていた。
ジゴクロイドの言葉を聞いた瞬間、瞬時に振り上げた腕に中空でうろうろと迷ったそぶりをさせてみせたのだ。
「あれ? あれ? あれれ~?」
おどけた感じでそう言ってジゴクロイドの言葉に調子を合わせる。
それを見たカマキロイドは、妖艶で美しいその容姿に相応しい響くような笑い声をあげてくれた。
それどころか自分を改造人間に推挙してくれるというのだ。しかも感性が気に入ってという事なら自分の意思は残ったままだろう。
もう一度やれと言われても絶対無理な起死回生の大逆転。
だが、おそらく事実はボタンを押す直前に首輪が解除されたという事なのだろう。
ならば会場に向かった三人はほどなく愚地独歩と遭遇してしまう。
『俺伝説始った途端いきなり大ピンチって勘弁してくれよおおおおおおおお!』
至福の絶頂から地獄の底にまで叩き落された監視員Bは苦悩に身もだえする。
流石に先ほどのような奇跡の大逆転技は、すぐには思いつきそうになかった。





学校、そこは未来への希望に満ちた若人の集う場所。
その校庭で、服部平次は絶望にも似た感情を味わっていた。
放心し、校庭に座り込んで仲間達の顔を見つめる。

どいつもこいつも、アホばっかりや!

「いやぁ良かったぜぇ~、こっちでも首輪外してたのかよ」
バカ面下げたジョセフがケタケと笑いよる。コレ、俺キレてええんちゃう?
「凄いな、自力で外し方を見つけたのか」
村雨は服部達も首輪を外していた事に素直に驚いている。いや驚くで済ますな。
「まあな。でもよぉ、外すんなら全員同時じゃねえともしかしたらBADANの連中が残った奴の首輪吹っと飛ばすかもしれねえんだぜ」
それを我が事のように自慢するジョセフ。うーん殺したい。せめて殴らせろ、一発と言わず気が済むまで。
ジョセフの言葉を覚悟が否定する。
「否、BADANの長ジュドーなる者は我等との正面からの対決を望んでいる。ならばそのような手段は採るまい」


だったら始めっから殺し合いなんぞさせんと、強そうな奴と勝手にタイマンでも張っとれやああああああああ!!


こちらと合流せんとしていた覚悟と行き違いにならずにすんだので、まあ良しとするべきであったのかもしれないが、
とてもじゃないがそんなお優しい気持ちにはなれそうにない服部であった。





「指揮をする者が一人ではないのだろう」
赤木が呟いた言葉はおそらく真実であろう。
覚悟や村雨、赤木から伝え聞いたジュドーと呼ばれる人物(?)像から考えるに、この殺し合いのような回りくどい手法を採るとは思いがたい。
又、その復活に死者の魂云々といった件も、実はそこまで重要なファクターではないと思われる。

いつまでも校庭でそんな話をしているのも何なので、校舎内に場所を移しての情報交換。
場所は何故か家庭科室である。
ガスの通ったそこで、ヒナギク、エレオノール、かがみがきゃいきゃい騒ぎながら支給された食料をいかにおいしく食べるかに挑んでいる。
ちゃっかりジョセフも女性陣に混じっているが、それを見たせいで服部は文句を言う気も失せてしまう。
彼特有の陽気であけっぴろげな雰囲気は、自然な形で片腕のかがみの料理をフォローする、といった至難な芸当を可能にしていたからだ。
おどけるジョセフにかがみとヒナギクが二人がかりでつっこみ、それを見たエレオノールがおろおろしている。
一番の問題は、そんな女性陣プラス1の様を見てこの世の幸福ここに極まれりといった顔で生暖かく見守るバカ男二人。
「……独歩はん、とりあえず覚悟はんと村雨はんは放置って事でどや?」
「ま、まあそう言ってくれんな。こういう景色守る為に生きてるよーな二人なんだからよ」
「よく居るやろ、授業中幸せそーな顔で女子の体育眺めてニヤニヤしとるアホ。あれの延長みたいなもんやろ?」
毒々しい言葉を隠そうともしない。
よっぽど首輪の一件が頭に来ていたらしい。
最早盗聴を気にする必要も無く、今までの事を一つ一つ順序立ててまとめ、整理する。
このやりとりの中で全員の思考速度や考えの方向性を見定めようと考えていた服部は、こんなほのぼのにその思惑を潰され不機嫌の極みであった。
ただ、収穫もあった。
雷雲への突入を可能とする独歩が回収してきた支給品『列車』である。
BADAN内部に協力者が居る事は既に知れた。
そして赤木の説明に従ってネット麻雀を確認しようとした所、その協力者と思しき者からの通信を発見。
既に知れている暗闇大使以外の強力な敵の存在を知る事が出来た。
「ただ、列車を使わずとも村雨の持つクルーザーや零を纏った覚悟なら突入は可能……か」
激戦の予想される城とやらへ、かがみやヒナギクを連れて行く事に抵抗のあった服部は思わず唸ってしまう。
服部の呟きに、突如女性陣の空気が変わる。
今までの穏やかな気配など一瞬で消し飛び、彼女達の優しげな佇まいが溢れんばかりの存在感に切り替わる。
剣呑な視線で服部を睨むヒナギク。
「服部さん、もしかして……余計な事考えてるんじゃないわよね」
能面のような無表情となり、物静かな迫力を湛えるエレオノール。
「お二方のみを行かせる気なぞ、毛頭ありません。むしろお許しいただければ私が一人で参りましょう」
二人の突然の変化にも動じる事無く、しかしほのかに苦笑するかがみ。
「みんな優しい人だから……服部さんも、みんなもきっとそういう心配するって思ってた。
 それが、心配だったの。私達の誰一人置いていくような真似、絶対許さないわよ」
覚悟はそれを表に出さないだけの配慮が出来た。
しかし、村雨は顔に出てしまう。自分は出来ればそうしたかったと。
独歩は彼女達の反応は予想通りといった所らしい、かがみ同様に苦笑している。
ジョセフは何も言わなかった。彼は、その戦闘能力同様、思考や行動が読みずらい。
それぞれの反応を見ながら、赤木は静かに提案する。
「なら……試してみるか?」
独歩の持って来た列車の入った紙。これをひらひらと振ってみせる。
「ここに居る怪人だか戦闘員だかと戦い、示して見せればいい。それが本当に出来るというのなら、おそらくお前達も城で戦える」
望むところだと言わんばかりのヒナギクとエレオノール。
しかし、ただでさえ一般人している上、片腕というハンデを背負ったかがみは俯いてしまう。
そんなかがみの背に、ヒナギクとエレオノールが両サイドからそっと、支えるように触れる。
「かがみを守りながら戦えれば文句無いわよね」
「おぼっちゃまをお守りするよう、その為に戦わんとしていた私に、出来ぬと思いましたか?」
赤木はちらりと服部を見た後、彼女達の提案を了承する旨を伝えた。





核金は首輪をまけば使用可能という、まるでとんちのような発想で何とか使う事が出来るので、ソードサムライXとニアデスハピネスは服部に、
バルキリースカートとシルバースキンはヒナギクに、エンゼル御前はエレオノールに、モーターギアを赤木にそれぞれ使用させる。
何せみんながみんな解除のサンプルになるだろうと考え、首輪を回収していたのでこれは何の問題も無かった。
又、ヒナギクは元の世界でも使用経験のある木刀正宗を手に持っている。
慣れていない核金の使用は逆効果の恐れがあるため、又それぞれに因縁ある物であったりもするので、基本的に装備の移動はあまり行わなかった。
結局スタンドディスクは使用不能。まさかディスクに首輪を巻いた挙句頭に入れるわけにもいくまい。
赤木には、服部の勧めで454カスールカスタムオートも渡してある。
それを受け取った時の赤木の表情が、服部の意図した意味を正確に把握していると言っていた。
近接戦闘は行わず、後方より全体の戦況を把握しつつ、必要な時に対処を行う。そんな役割を服部は赤木に振ったのだ。
全員、誰一人無傷の者は居ない。それどころか安静にしていなければならない者ばかりだ。
だが、列車を使う為に戦闘が必要と知るや誰一人それを避けようとはしなかった。
その為の武器や作戦を考えている間、ふと話題が途切れた所で服部は赤木に断りを入れる。
「悪いがお前の煽りに乗ってる暇は無いで。フォーメーションは俺が考えさせてもらう。ええな?」
「クククッ、好きにしろ。どの道戦えるかどうかは見ればわかるだろう」
服部は極力単純な形での戦闘を考えていた。
オフェンスとディフェンスのみの二つに絞る。
覚悟、村雨、ジョジョをオフェンス組とし、残る独歩、エレオノール、ヒナギクにオフェンス組が務まるか否かをこの戦闘により判断する。
かがみはディフェンス組固定、そして赤木と服部がそれぞれオフェンス組とディフェンス組に分かれて加わる。
この段階で既に、突入のやり方に関し幾つかの腹案があった服部の発案は、全員にすんなりと受け入れられる。
列車での戦闘は突入時の模擬戦的な意味合いもある。
服部はオフェンス組には正面からの戦闘を担ってもらい、BADANの戦力を根こそぎ剥ぎ取るのをその役割とし、
ディフェンス組は、それによって出来た間隙にBADAN城内での破壊活動を行わせるといった旨を皆に伝えてある。
その際一つだけ赤木から質問があった。
「核金ニアデスハピネスの能力を教えろ」
そう言ってきた赤木に服部は渋い顔で説明すると、赤木らしい人の悪そうな笑いで答えてきた。
「なるほど、なるほど……な。服部、悪いがお前の考え通りにはいかない、と、俺は思うがね……」
憎まれ口の類にも聞こえるが、服部は素直に赤木に問い返す。
「やっぱ……ちっと無理ありすぎかな?」
「屋内だろう。飛行可能だからといって、この戦闘はともかく突入の時お前がオフェンス組に加わるのは無理があるだろう。それではお前の意図したチーム分けがそもそも意味をなさなくなる」
服部が二つにチームをわけようと考えた最大の理由。
それこそ赤木が求める物であった為、赤木は彼の考え通りに話を勧める事に協力していた。
つまり、飛びぬけた戦闘力を持った者達を足手まといの居ない、気兼ねなく暴れられる状態にしようというのだ。
更に深く考えていくと、完全にチームをわけてしまえば、仮に足手まといが死亡したとしても、それを知り衝撃を受ける事もないだろう、と。
服部はこれを皆に敢えて伝えてなかったが、オフェンス組こそが特攻と見られそうなこのチーム分けの本質は、
最強の壁を失ったディフェンス組こそが特攻状態となる事である。
オフェンス組はバイクや単身による潜入なので、列車による突撃に比べて遙かに組織立った迎撃を受けずらく、
列車組、つまり覚悟と村雨の居ない自動的にディフェンス組となるそちらのチームが囮とならざるを得ない。
零は覚悟にしか纏えないし、時速六百キロを越えた状態のバイクを操れる人間など村雨以外にいるはずがないからだ。
「それもこれも今回の戦闘の趨勢如何やな。戦闘員が全部あの勇次郎とかラオウとかやったら俺は裸足で逃げ出すで」
もちろん本気でそう思っているのではなく、極端な例である。
「ジョセフ・ジョースターは確定か?」
「ああ、あいつの波紋は応用範囲が物凄く広い、その上であの鍛えぬいた肉体ってんやからあれは別格や。後は……独歩はんかエレオノールか……って所やな」
クルーザーの後部席、そして覚悟が抱えて移動する。追加二人が限度であろう。

赤木は服部平次がいわゆる善人であると思っていたし、今でもその考えを変える気は無い。
そんな服部が非情とも言える作戦を考えてまでBADAN壊滅を望む理由に、彼は心当たりがあった。
もちろん倒れていった仲間達への想いは、彼の中で重要なファクターであろう。
しかしそれとは別に、服部は決してBADANの存在を許す事が出来ないであろうと。
大首領ジュドーが行った並行世界からの人間の召喚。
これはほんの少し想像すればわかる事だが、圧倒的なまでの、そう核だの世界が滅びるだのとは比べ物にならないほど、危険なのだ。
そもそもどの世界だろうと、そんな技術が存在しているはずがない。
だからこそ相互不可侵であり続けたのだろうし、それぞれ独立した世界として存在し続けられたのだ。
何処か、何処でもいい、たった一つの世界がこの技術を用いた瞬間、全ての世界は時間すら越えて同時に一つの世界として存在してしまうのだ。
世界が世界としてあり続ける為の理、人が安心して生きていられるのは、その理を大なり小なり理解している部分があるからで、
突然それが全く通用しないと突きつけられて、それを受け入れ今までと同じように平穏な生活を営める者など極少数だろう。
概念的な事でわかりずらいのなら、具体例を考えればいい。
単純な話だ。BADANがそれと望んだだけで、見知らぬ世界に放り込まれてしまう現状。
おそらく細部までのコントロールは難しい、ないし幾つかの制限のある技術なのだろう。
でなくばジュドーの復活すら、それが為し得た世界と繋ぐ事で簡単に達成出来る理屈だ。
服部にはそれが理解出来ている。
自分が世界開闢以来の危機に立ち会っている事を。
この技術が円熟すれば全ての破滅に繋がる事を。
人を守る事を自らに課している人間ならば、こんな状況を見過ごせるはずがない。

服部平次とはつまる所そういう人間であるのだが、赤木シゲルはその上で、それもまた世界のありようなのだろうと思っていた。
人が生まれて死ぬように、自然の流れでそうなっていくのなら、それもまた是なりと考えるのだ。
だが、服部が考える程ヒドイ事にもならないのでは、そうも考えている。
そこに居るのが人間であるのなら、例え最初は未曾有の災害と思われるような状況であったとしても、そんな中で人間は生きていくものだと。
各世界が一つになったテストケースである今を見ればよくわかる。
もし仮に、最初の移動以外BADANの介入が全く無かったとしても、今こうして生き残っているタフでしぶとい連中は、
この閉じられた世界でどうにかこうにかやっていくのだろうと思っていた。
それこそが人間だと。
では人間以外の存在の介入を招いたら?
そんな存在との共存が適わぬのなら、その時はどちらかが滅びるだけ。それが自然の流れだ。
赤木は自然の流れの中で、自身である赤木シゲルがここに居ると自らが確信出来ればそれだけでよかった。
「その為に戦う。それが人間だ」
例え相手が神とも呼ばれるような存在であろうとも、だ。





間の悪い時というのはあるもので。
大慌てで盗聴室へと赴いた葉隠四郎は、部屋から聞こえてくる暗闇三兄妹の声を聞いて部屋に入るのを断念する。
BADANにおいて、葉隠四郎の存在を一番面白くないと感じている者が居るとしたら、それは暗闇大使であろう。
計画の最初期から参加している最高責任者、組織のNO2である彼は大首領ジュドーへの忠誠心に篤く、同時に嫉妬深い人物である。
そもそも彼は大首領が自分を介さずに組織の者と接触する事を好まないのだ。
強化外骨格への憑依という手段にしても、エネルギー変換装置による復活を併用する形を取ったのは、彼のそんな心の現われであろう。
当初葉隠四郎は肉体への憑依により異次元からこちらへの帰還を果たすという大首領復活のプロセスを聞いた時、
そこにエネルギー変換装置の入り込む余地は無いと考えたのだが、彼はその点に固執した。
その技術の素晴らしさを四郎も認めていたし、そこから生じる莫大なエネルギー値を見た時は何としてでもこの技術を持ち帰ろうと心に決めたものだ。
基礎研究不足の為、この分野の技術は四郎が持ち帰ったとしても実用化するのに百年では済まぬとの研究者達の言葉によりそれは断念したが。
いずれは元の世界へ戻る。あくまで仮住まいとしてBADANに身をおく四郎を、暗闇大使は快く思ってはいない。
隙さえ見つければ四郎失脚を目論んでいるだろう。
今部屋に居る三兄妹は、そんな暗闇直属の部下である。彼等にだけはこの事実知られるわけにはいかない。
そうこうしている内に侵入者だの何だのとサザンクロス内が騒々しくなってくるが、こちらはそれ所ではない。
やきもきしながら三兄妹が消えるのを待っていたのだが、随分と待たされた後ようやく何処かへと消えてくれた。
用心の為、更に時を待ってから盗聴室に向かう監視員の一人を捕まえた。
「疾く、我が問いに答えよ! 昨晩から今までの間に社周辺にて戦闘を行いし者はあるか!」

必殺の解決策を見出すべく頭を捻っていた監視員Bは、今度は葉隠四郎に捕まってしまった。
こっちはそれどころではない、などと間違っても口には出来ない。
彼もまた慈悲の心を持たぬBADAN幹部の一人であるのだから。
「や、社ですか。昨晩からですと、ラオウが滞在していた事もありラオウ対村雨と綾崎、ラオウ対劉鳳の戦闘がありましたが……ああ、後その少し前に村雨対綾崎も」
「ふむ。社に向けて強力な攻撃が放たれた事はあるか?」
監視員Bは小首をかしげるも、記憶には無い。
「いえ、そもそもそんな真似した所で誰も得しませんですし……あるとすれば流れ弾と言うか流れ斬撃とか流れ衝撃とかぐらいですか。
 流石に盗聴だけでは戦闘の詳細全てを把握する事も出来ませんし、誰かが戦闘を監視衛星で見ていたとかでも無い限りは……」
「では社周辺で放たれた最も強大な一撃とは誰のどのような一撃であったかわかるか?」
監視員Bも全ての音声を聞いているわけでもない。
あくまで予想でよければとの言葉に頷く四郎。
監視員Bは村雨とハヤテによる二人の同時パンチがそれに当たるだろうと答えた。
他の盗聴担当者がその轟音に思わずヘッドホンを放り出した程であったと聞いている。
もしくは劉鳳があのラオウを滅ぼしたとされる断末魔の一撃か。
葉隠四郎、この返答だけで瞬時に一つの在り得る物語を作成する。
首輪による制限限界をすら越えたというアルターの存在。
その使い手であるマーティン・ジグマールは死亡したが、同じアルター使いである劉鳳にもそこまでの力を出しうる能力があるやもしれぬ。
社の室内映像を見る限り、打撃によるそれとは思いずらかった故、劉鳳の一撃こそがそれに当たると四郎は考えたのだ。
それにこちらなら、その使い手たる劉鳳は既に死亡している為問題ともしずらい。
正義を志す劉鳳なる者、末期の足掻きにより諸悪の根源たる強化外骨格『凄』に一撃を放つも、かすり傷一つ残し『凄』は大健在なり。
こんな所であろうと、一人納得する四郎。
「大儀であった! では最後の勤めを果たすが良い!」
「は、はぁ」
視点が真横にずれ飛んで行くありえない視野が監視員Bの見た最後の光景であった。
四郎の手刀により一撃で首をはねられた哀れな胴体は、ゆっくりとその場に崩れ落ちる。
「死して機密厳守を全うせよ!」
幹部の制裁による構成員死亡率の高さ。
BADANのこんな所も四郎は気に入っていた。





戦闘のプロである覚悟に問いつつ陣立てを確実な物にしていこうと思っていた服部の思惑は、見事に外される事となった。
「策など不要なり! ただ正面よりこれを粉砕するのみ!」
たったの一言で自分の存在意義を全否定された。
あまりといえばあんまりなプロの姿に、思わず覚悟の常日頃の戦闘スタイルを確認してみた所、服部なりに納得出来る部分もあった。
そもそも覚悟には集団で戦闘を行うという意識が無い。
敵が多数であろうと、守るべき対象が複数居ようと、常に単身で戦闘に望む。
そんな馬鹿げた戦争を可能とする為の零であり、覚悟の学んだ零式防衛術なのだろう。
劉鳳も随分と極端な男だったが、覚悟もどっこいである。
常日頃から極端であり続けた故のこのありえない強力さ、そう言葉にするのは簡単だが実際に行動に移すのはまともな神経で出来る事ではない。
服部と覚悟のやりとりを見ていた独歩は、悪いとは思いつつ、つい噴出してしまう。
そんな中、控えめに村雨が言葉を発する。
「……俺はかつて記憶を失っていた時、BADANに居た事がある。それが少しでも役に立てばと思うが、どうもその時とは随分ありようも変わっているようで使える情報かどうか……」
そもそもがBADANによる改造を受けた改造人間である村雨。
何処から材料を調達したものか、炒め物を作り終えたエレオノールが、手を拭いながら至極最もな疑問を口にする。
「それはムラサメのような強者がBADANには多数存在するという事でしょうか」
想像するだに恐ろしい状況を、ありがたい事に当の村雨が否定してくれる。
「当時のリーダーはニードルという男だったが、その頃の俺ですら一対一ならば何とかなると思っていた。
 同格の改造人間も数人居たが、ああいった指揮を行えるレベルの改造人間はそうたくさん作れないはずだ」
内容が内容である。村雨の言葉に沈んだ口調が含まれるのも無理は無かろう。
「よく俺の面倒を見てくれた、ココにも来ていたはずの三影が色々教えてくれた。
 その頃の俺はまるでその辺の事に興味を持てなかったので、正確に全てを覚えているわけではないのだが」
意外そうなのは覚悟だ。
「ほう、卑劣な悪鬼の巣窟とばかり思っていたが、BADANにもそのような者が居るとは」
三影の話をする時、村雨はほんの少しだけ優しそうな顔に戻った。
「あいつは、あいつだけが、BADANに居た頃の俺の味方だったんだ。ただ、三影はきっと殺し合いに乗っていた……と思う。
 口癖のように言っていたあの言葉は覚えている。とてもじゃないが誰かを守る為に戦うような男ではない」
村雨の彼に対する感情は複雑である。自身も整理し切れていないのだろう。
決して晴れぬ霧のように彼の心を覆うたくさんの出来事の、それもまた一つの欠片であった。
「はいっ、村雨さん」
村雨のすぐ横からひょいっと顔を出して、村雨の分の皿を目の前に置いたのはかがみだ。
食事の完成かと思い皆一度話を切るが、かがみは先に食器の準備をしているだけでもう少し時間はかかりそうだった。
「で、どうなの? 良い作戦出来そう?」
服部はぐでーっと机に突っ伏す。
「敵さんの戦力特定が不可能な現状でどーせーっちゅーんじゃー。覚悟はんの言う通り当たるを幸いなぎ倒してく以外あるかーい」
実はそんな単純な話でもないのだが、服部はものすごーくわかりやすくそんな事を言う。
少し離れた所でサラダを用意すべくボールの中身をこねくりまわしていたヒナギクが、大きな声で話に加わってくる。
「あら? もしかしてそれ弱音?」
「んなわけあるか! 誰が弱音なんて吐くかい!」
クスクスと笑っているヒナギクを服部は苦々しい顔で横目に見やる。
「……くっそ、腹立つ女やなぁ」
それでもあの範馬勇次郎に猛然と立ち向かう様をこの目で見ている服部は、それを聞こえない程度の声に留めるぐらいには自制した。
というかちょっと怒らせるのが恐いと思ってるのは内緒である。
「ああ、そや柊かがみ。社にはアンタの予想通り強化外骨格あったでー」
何とか話題をそらそーとして出す内容ではなかった。

自分がやる分と決めていた調理を終えたエレオノールは、かがみを手伝うべく食器を手に取る。
向かう先は、赤木シゲルの前。
「アカギ、貴方の分です」
「ああ」
赤木はほとんど話し合いには参加せず、黙ったまま彼等の話を見守っているのみ。
そんな様子をエレオノールは時折横目で見て知っていた。
「アカギは皆と面識が?」
「幾人かとはな」
激戦の北部地域、最初期から周辺に強大な力を持つ殺人者、範馬勇次郎、ラオウ、DIOを擁していたこの地域の、二人は数少ない生存者である。
喫茶店に大集結した人間達は、遂にこの二人と離脱したパピヨンのみとなってしまった。
「皆心優しく、そして強い方々です。アカギも安心していてください」
エレオノールは赤木が不安がっていると、そう思ったのかもしれない。
彼を安心させられるよう、つい先ほどの決戦の様子を語って聞かせるエレオノール。
そんな彼女のあり様が、一番最初の出会いとあまりに違いすぎて、話の途中でつい失笑してしまう。
赤木のこういった笑いは相手に不快感を与える事が多い。
だがエレオノールにとっては、赤木が笑ったという事がそもそも嬉しすぎたせいで、笑いの種類など気にもならなかった。
よし、ならもっと楽しんでもらおう。
そう考えると、話す言葉にも力が篭る。
いつしか必死に語り始めている彼女に、残る全員の視線が集まる。
その瞬間、絶妙のタイミングで赤木はこちらを見ている者達をエレオノールにわかるように指差す。
はたと気付いたエレオノールがそちらを確認し、注目を集めている事と自らの痴態に気付き赤面すると、部屋中が笑い声に包まれる。

それはとても恥ずかしかったが、自分のした事でみんなが笑ってくれたのは、本当に、本当に嬉しかった。





「服部ー、そーいやスタンドディスクって使えねえって話だったよな」
食事の用意が完了し、皆でランチタイムを楽しんでいる時、唐突にジョセフがそんな事を訊ねた。
「ああ、俺も試したけど無理だったで」
「そっか~、じゃしゃーねーか。記憶ディスクっての、結局中身見れなかったな~」
どうせ使えないからと、ブーメランにでもして飛ばしてやろうかと構えるジョセフ。
食事中というのにお行儀の悪い事この上ない。
いつもならば本気で投げていた。
そう自分で確信出来るジョセフだったが、どうしたものだか、このディスクにそんなぞんざいな扱いは出来ない模様。
どうにも投げ捨てる気にならず、やはり懐に収める。
しかし、そうなるとちょっと悔しい。何というかとてもディスクを投げたい気分なのだ。
確かマジシャンズレッドのディスクもあったなと近くに置いておいたバッグを漁り出す。
「あっれ~。よう服部、マジシャンズレッドのディスクってどうしたっけか」
「俺が知るかい。ジョジョが持ってたんちゃうんか? 確かずっと頭に入れっぱなしだった……や……ろ……」
一つの可能性に思い至る服部。ジョセフも気が付いたらしい。
「ちょ、ちょっと待て! いけるか? いける……か?」
ジョセフは祈るように念じる、マジシャンズレッドよ、この場に姿を現せと。

祈りは通じた。

ジョセフはマジシャンズレッドのディスクを頭に入れたままだったのだ。
彼の背後に幽鬼のように立ち上る鋼の肉体持つ真紅の鳥。
最早お行儀の域を軽く通り越している行為だったが、誰もそれを責めたりしないどころか、喝采で迎えられる。
「おおおおおお!! 何!? 入れっぱなしだったらオッケーって事か!?」
思わぬ出来事を単純に喜ぶジョセフ。しかし服部は少し納得がいってない模様。
「何やねんそれ、そないな単純な話なん? ……ジョジョ、記憶ディスクの方はどや? 今の状態でそれも使えるか?」
使用を躊躇していたジョセフだったが、ディスクが使えた事が嬉しかったのか、上機嫌で早速試してみる。

そんな気軽に使うような物ではなかったと知ったのは、すぐ後の事である。





ハイテンションだったジョセフの表情が重苦しく沈み込む。
参加者でもある空条承太郎の名を冠する記憶ディスクは、参加した彼ですら知りえない、未来の彼の記憶であった。
体調を心配し、声をかけてきたかがみを手だけで制し、少し整理の時間をくれ、とこのディスクに関する発言を拒否するジョセフ。
今まで同行した事のあるかがみも服部も知っている。
ジョセフは決してブレない。
同行者がどれだけ大きく揺れ動こうとも、揺るがぬ大樹のように側にそびえ立つ。
軽薄で浅慮に見える彼の本質は、骨太で逞しい無類のタフガイであると。
そんなジョセフの言葉である。
ならば、とかがみは一つだけ確認してその言葉を了承する。
「今、辛い? 何か出来る事ある?」
首を捻り、誰に言うでもなくぼそっと呟く。
「辛い……って訳じゃねえんだけどな、どうもこの空条承太郎っての、俺の孫みたいなんだわ……流石のジョセフ様も自分の未来図見せられりゃ反応にも困るって……」
ショッキングな事をさらっと言い放つジョセフ。
時間軸のズレ、それを知っては居たがまさかこのような形でそれを見せ付けられるとは誰も思ってはいない。
ジョセフの心境たるやいかばかりか、と皆が心配そうにジョセフを見つめる。
そしてジョセフはジョセフでそんな視線にも気付かずに考え込んでいる。
「とてもじゃねえが信じられねえな~。大体何だよ俺に隠し子って。こんな真似したらスージーに刺し殺されるぞ未来の俺」
あっという間に女性陣の視線の意味が変わる。
敵意といっても差し支え無い程の鋭い視線でヒナギク。
「へぇ、それはおモテになるのねえジョセフさん」
心配していた分が丸々引っくり返ったかがみ。
「刺されればいいんじゃない」
難しそうな顔のエレオノール。
「やってしまったものは仕方ありません。ですがせめて両者に誠意を持って……」
まだやってもいない事で何故にこんなにも責められねばならんのか。
パピヨンと一緒で、それを知ってしまった事により既に未来は変わってしまっている。
その事に気付いていた服部だが、説明してやるのが面倒なので放置していた。
フォローをしてきたのは、何と意外や意外、赤木シゲルだった。
おそらく未来は変わっているだろう。ならばそれは知識として以外何ら意味の無い記憶だと。
そう言って女性陣を渋々ながらも納得させると、食事の途中ながら席を立つ。
「一服してくる。ジョセフ・ジョースター、お前も付き合え」
ジョセフに喫煙の嗜好は無いが、少々居心地の悪くなったここから逃げ出せるというのであれば嫌も応も無い。
いいね、俺も一服したかったんだ。さあ行こう、すぐ行こう、んじゃちょいと失礼。と赤木を引き連れさっさと部屋を後にする。