虎! 虎! 虎!

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虎! 虎! 虎! ◆KaixaRMBIU



 液体が満ちている光景を三影はまた見ることになった。
 いや、これは『今の三影』が見たことある風景ではない。
 ガモン共和国に向かう三影は、ライダーダブルキックによって再生カプセルに入れられた過去はないはずなのだ。
 なのに……今身体を再生していく三影英介には見覚えのある風景だと、断言ができる。
 それどころか、彼の知らない映像が浮かんでは消えて、浮かんでは消えていった。
 ZXが裏切り、凄まじい憤怒に駆られた光景。
 ZXに向けて砲身を向け、弾を撃ちはなった映像を。
 そして、腰を抜かしていた少年との出会いを。
 白い虎となり、Xライダーを砕いていく姿を。
 アマゾンを追い詰めていく姿を。
 ZXとの決闘、そして次第に死に近づいていく自分。
 十人ライダーに、バダンを守るために立ち向かった矜持。
 そして、最後の光景は赤く光るZXキックだった。


「未来のタイガーロイドの肉体だと?」
『正確に言うと、ちょっと違うけどね。秀君が密かに回収していた『秀君の時間軸のタイガーロイド』の肉体で『プログラムに参加したタイガーロイド』を修復していたのよ。
とにかく時間がなかったから……。だからこそ、ほぼ完成の状態でアナタに見せることができたわ。肉体はね』
「ふん……。俺の使う錬金術の技術なら、六時間もあれば蝶・完璧に仕上がることができる」
「本当かよ!」
 秀が嬉しそうに声をかけてきた。とても先ほどまで、ミートパイの外見に対して吐きそうになっていたとは思えない。
 その間もパピヨンはミートパイを口に放り込みながら、機械の操作を行なっていた。
 もともとアレキサンドリアの部屋には、パピヨンの本領発揮できる錬金術用の機材がある。
 それに、パピヨンはバダンの技術を得るために動いている。
 本領の錬金術により再生を加速させつつ、バダンの技術を得ることができる現状は悪くはない。
 むしろ好都合ともいえる。
 部下を得て、バダンの技術を同時に得れるのだから。
 六時間。
 おそらく連中が突入して、バダンと対決して決着がつくころだろう。
 どちらが勝つにせよ、大きく疲弊している時だ。殴りつけるタイミングとしては好都合。
 このまま元の世界に戻り、タイガーロイドと(そのおまけとして)秀を配下にし、全てを支配するのも悪くはない。
 その過程としてどうしても欲しいのは、異世界を移動する技術。
 そして洗脳装置である。
 元の世界には、『パピヨンの時間軸のカズキ』を始めとした、錬金戦団がいるのである。
 その戦闘力に対抗するには質と数、両方そろったものが望ましい。完全にこちらに洗脳する装置であるなら、記憶のすり替えも行なえるのではないか。
 何も相手の記憶全部を塗り替える必要はない。
 人の芯となるものに、自分への忠誠を入れ替えるだけで最高の手駒となれる。
 洗脳技術にもともとそれが可能ならそのままいただく。完全に塗り替えることしかできないとしても、自分が目指す洗脳装置の完成の参考になるだろう。
 パピヨンは左手でキーボードを操作して再生液の割合を変えながら、右手で『ホムンクルス用のミートパイ』を口に放り込んだ。


 それから二時間ほど経ったころだろうか。
 サザンクロスが揺れる。何が起きたのかアレキサンドリアに尋ねると、侵入者が現れたということだ。
 計算どおり。パピヨンは笑顔を浮かべるが即座に、
『悪い顔ね。まるで悪人のようだわ』
「フン! この蝶・素敵なカイザースマイルに文句をつけるとは、センスがないな」
『アナタにセンスを問われるとはね……』
 アレキサンドリアが呆れた声を発して、うとうとしている秀に毛布をかけるようお願いした。
 パピヨンはフンッ、と鼻を鳴らしてぞんざいに毛布を投げ飛ばす。
 頭から被ったからだろう。秀はもがいて空気を求めるように顔を出して、大きく呼吸した。
「何しやがんだ!」
「間抜け面をさらして寝るお前が悪い。体力を休めておけといっておいたが、寝ろとまでは言っていないしな。
キサマが仮面ライダーと呼ぶ連中まで来たぞ」
「ついに……」
「準備しておけ。場合によっては、キサマのヘルメスドライブが必要となるのだからな」
 ぶるぶるっと秀が震えているが、恐怖ではない。おそらく武者震いの類だ。
 どうしようもなく無能な秀だが、パピヨンはその心意気は買っている。今更侮りはしない。
「どうした? 震えているぞ。今更怖くなったか」
「う、うるせえ! 武者震いだ!!」
 とはいえ、からかうのは忘れない。これは趣味みたいなものだ。
『どうやら彼ら、分散するみたいね』
「分散? 別れて敵のいる場所を探る……まあ悪くない手だな」
 パピヨンは悔しげに告げた。悪くないどころか、良手である。
 バダンに対しても、パピヨンたちに対しても。
 サザンクロスの内部を知らない彼らに、戦力を分散して探ると言うのは正しい。
 そして、戦闘力はあるが甘い偽善者どもに対して、誰が死んでも精神的負担を減らすことができる。
 さらに、パピヨンは分散した隊のどちらに攻め入ればいいのか、判断ができない。
 どちらのチームに割り込むことで、自分が必要とする技術を得ることができるのか。
 判断材料が少なすぎるのだ。
(俺が一番攻めたいところは……秀から聞いたバダン最高幹部。暗闇大使のところだな。
……技術を総括する場所でなら得られるものも多い)
 もっとも、不安な点もある。単純に戦力が足りない。
 部下もそうだが、パピヨン自身の戦闘力の底上げも目下のところの課題である。
(一番いいのは、黒い核鉄を胸に埋め込むこと……)
 制限の解けた今なら、あるいはヴィクター化も可能だろう。
 今までその手をとらなかったことが、己自身にも不思議でしょうがない。
 エネルギードレインは確かに改良の余地があり、不便ではあるがヴィクター化をするべき、追い詰められた場面はあった。
(未練だというのか……? この、カイザーパピヨンが)
 まだ人間への……『蝶野攻爵』という名への未練があるのだろう。
 女々しいとも、愚かともいえる。パピヨン自身、己の執着を疎ましく思った。


 軍服を身につけた男が、足音を鳴らしてサザンクロスの通路を歩く。
 背筋を伸ばし、五十代風のきっちりした軍人の印象だが、齢百十九歳となる。
 独自の技術で肉体の老化を緩めているのだ。彼の後ろに並ぶのは、コマンドロイドと化した瞬殺無音部隊。
 超鋼の鞄を持ちながら、葉隠四郎はただ一度、後ろに担がれている鎧を見つめた。
 プログラムの会場から持ち出した強化外骨格『凄』と核鉄を組み込んだ召還装置。
 爆発装置は解除してある。暗闇が優勝者を迎えて、大首領の降臨を計画しており、その前準備なのである。
 とはいえ、後は核鉄に向かって武装錬金と呟き、巨大なロボをエネルギーへと変換して大首領を強化外骨格『凄』へと降ろす。
 肉体の確保も忘れてはならない。装着するもののない強化外骨格など、ただの頑丈な鞄に過ぎない。
 黒光りする超鋼によりできた鎧は、JUDOのかつての姿を模していた。
 ただし、中身は違う。ZXと強化外骨格の特徴を併せ持つ、最強の鎧だ。
 装着者の意思を乗っ取るのでなければ、葉隠四郎自身が己の鎧としたかった。
 もっとも、あまりにも高度な鎧のため、JUDOほどの格がある存在でなければ宿ることに意味を成さないだろう。
 だが、内部にはロンドンを埋め尽くす死者を内蔵する吸血鬼がいる。
 数と質、両方を持ちえる強化外骨格『凄』に向かう敵はない。
 そして大首領による四郎の世界を得る約束。神国の建国が、四郎を突き動かす。
 辿り着いた一室に強化外骨格を準備させる。葉隠四郎の狂気は止まらない。


 パピヨンたちが長足クラウン号の突入を聞いて待機している中、再生カプセルの中に異変が起きる。
 液晶画面に表示される文字列を頭に叩き込みながら、パピヨンは再生カプセルへと視線を向けた。
「こいつ……もう目覚めている……ッ!」
「!? どういうことだよ! パピヨン!!」
 秀が焦った声で告げるが、パピヨンは余裕を崩さなかった。
 その様子に秀は腹を立てるが、アレキサンドリアが宥める。
『落ち着いて。秀君。これは……』
「蝶・成功だ。予想以上に俺の研究は完璧だったようだな」
 どういうことか分からない秀に、パピヨンはため息を吐いた。
 そのまま噛み砕くようにゆっくりと告げる。
「いいか? 魂を持たぬものなら暴れたりはしない。こいつは再生途中で目覚め、カプセル内で動いているんだ」
「ってことはつまり……」
「実験は成功だ。タイガーロイド・三影英介は魂を持ってここに再生を果たした!」
「~~~っ!」
「待て」
 パピヨンの成功宣言と同時に嬉しさのあまり飛び上がり、駆け寄ろうとした秀の足をパピヨンは引っ掛ける。
 秀が非難の視線を送るが、逆にパピヨンが頭の可哀相な子を見る目で秀を見た。
「な、なにがいいたいんだよ!」
「フン。少し考えれば分かるだろう? 奴は状況を飲み込めていない。
下手にはしゃいで余計な混乱を招くな。説明は俺がする」
 ぐっ、と自分を抑えながらパピヨンに場を譲る当たり、まだ自制心は残っていたようだ。
 とはいえ、ぶつぶつ文句は言っているが。
 パピヨンとしては、現状猫の手も借りたい。体力を抑え、奇襲するためには秀は必要な駒だ。
 その駒を三影の混乱によって喪うわけには行かない。
 それに、三影英介はパピヨンの部下として合格。
 彼を丸め込むために、優位な位置は確保したかった。
 パピヨンは再生カプセルへとゆっくりと歩みを進めた。


 突如目の前に広がる液体に、三影は強化ガラスを殴りつける。
 ここがどこだかは知っている。本来の記憶にはない再生用カプセル。
 自分がここに使っていたときの記憶はある。未来の自分の記憶。
 だからこそ、彼は叩く。自分が起きていることに気づけ。
 自分はまだ、戦えるから。
「そう逸るな」
「キサマは……」
 ガラスの向こう側のパピヨンに声をかける。自分の……いや、未来と過去のいずれにも、見覚えのない男だ。
 前分けの黒髪に、パピヨンマスクの男。噛み砕こうと牙を剥き出しにする三影に、パピヨンは恐れず話しかけてきた。
「俺の名は蝶人パピヨン。人型ホムンクルスだ。力を求めて虎となった男・三影英介」
 三影は突然の自己紹介をする男を、今度はもっとじっくりと観察する。
 キサマのことは何でもお見通しだ、と言いたげな視線が癪に障るが、その感情を一旦置く。
「で、そのパピヨンとやらが、俺に何の用だ……?」
「そうだな。キサマはこの殺し合いで死んだ。それを蘇生させたのは、俺だ。
用件を言う。俺の部下になれ。いい目を見せてやる」
 はっきりと要求を告げる男に、反吐が出そうになる。
 三影が忠誠を誓うのはバダンのみ。バダンに己の正義論に相応しい力を見出したのだ。
 それを、ひ弱そうな青年が部下になれといってきた。怒りが三影に駆け巡る。
「ご立腹のようだな。だが……聞け、三影英介」
 パピヨンが強化ガラスに手をつけて、次第に狂気に染まる瞳を近づけてくる。
「お前が理想を見出したバダンに……いや、『現在』のバダンにお前の求める力はない!」
「なんだと……?」
「お前がなぜこのプログラムに参加させられて、そしてバダンがいかに弱体化したかを語ってやる。聞け」
 そしてパピヨンは、三影に次々と真実を打ち明けていった。


 パピヨンから聞いたことはそう多くはない。
 このプログラムが大首領復活のために開催されたこと。
 主催がバダンであること。
 三影が、そのバダンに捨てられたこと。
 秀やパピヨンが、三影を蘇らせたこと。
 何より……
「たかが数人の参加者に首輪を解除され、攻め込まれている。
村雨やキサマを一度倒した葉隠覚悟がいるとはいえ、数人の人間の侵入を許す。
お前が理想を見出していた組織の力がないことは、明白だ」
 沈黙を保つ三影に、パピヨンは容赦なく続ける。傍から見れば三影を追い詰めるように見えた。
 事実、秀が動き出す。
「パピヨンッ! もういいだろう!!」
「……俺に任せろといったはずだが?」
「兄貴を追い詰めて楽しいかよ! 俺はそんなこと頼んじゃいねえ! 大丈夫だ、兄貴。俺がついているから……」
 それでも、三影は沈黙を続けた。次第に秀の表情が不安で覆われる。
「あ、兄貴……俺のこと分からないのかな……? あ、ああ……それでもいいんだ……。
俺、ジュクの秀……いや……」
「小島秀紀……迷惑をかけたな。よくやった、秀」
「あ、兄貴……! 分かるのか……? 俺のことがッ!!?」
 身体を震わせ、涙を浮かべる秀が強化ガラスにかぶりつく。
 三影は再生液の中で、相変わらずの表情だった。
『ッ!? アナタ記憶が……?』
「どういうことだ? のーみそ。三影英介は、こいつと出会う前の時間軸から呼び出された可能性が、高いんじゃなかったのか?」
『ええ……タイガーロイドは改造を何度も重ねているの。プログラムに参加したタイガーロイドは、最初期の……秀君と出会う前のはず』
「……俺にも分からない。だが、俺の知らないバダンの末路が……ZXとの決着が、俺の記憶にあった……」
「ZXと決着……もしかして兄貴、俺に最後に言った言葉を覚えている?」
「……時空破断システムを守るために出撃する俺に……お前は自分も連れて行けといったな。俺は……」
 秀が感激に満ちたまま、三影の発言とあわせる。
 二人の声が重なり、最後の言葉を告げた。

「「お前もいつか、力をつかめ……」」

 三影はこんな穏やかな記憶に不思議に思いながらも、悪い気分ではなかった。


 未来の三影英介はZXと同じくパーフェクトサイボーグだ。
 詳細名簿の情報によると、同じくパーフェクトサイボーグのZXは記憶をメモリーキューブに宿していたらしい。
 つまり、未来の三影の記憶をパーフェクトサイボーグはメモリとして残していたのだ。
 アレキサンドリアの推測によれば、未来の三影の身体を使ったことにより、二人の三影の記憶が合わさるという奇跡が起きたということだ。
 もっとも、パピヨンには原理が分かれば後は興味ない。
「で、せっかくの再会だが、返事を聞かせてもらおう。もっとも、お前には選択肢は一つしかないがな」
 パピヨンの声が冷酷に響く。もともと、自分の戦力にならなければ殺す、の一択だったのだろうか。
「だが悪い話ではない。俺は力がある。単純な戦闘力だけじゃない。キサマを蘇らせる技術がある。
錬金術を生み出す頭脳がある。世界を牛耳れるプランもある。この俺につけ、三影英介」
「キサマにその力があるというか……」
「そうだ。事実キサマは俺に命を握られている。判断の余地もない。
今の俺はキサマの大首領だ」
「パピヨン! てめえ!!」
「やめろ……秀」
 三影の声色に秀は黙る。この落ち着いた態度。三影は常に堂々と秀の前を走り、その背中を見つめているだけだった。
 その三影の静止だ。悔しくても秀には黙る以外手は残されていない。
「パピヨン……キサマの提案を受けることはできない」
「ほう」

「俺の心はバダンにある。力の理想としてバダンを俺の居場所と、他の誰でもない『俺』が決めた。
世の中には偽善者が多すぎる。力がありながら、その偽善者を守る強い偽善者を……仮面ライダーを打ち砕く力を得た。
俺はバダンの牙として偽善者どもを潰す。そのためなら、この身がどうなろうと構わない!
だが、暗闇をそのままにしておく気はない! バダンを貶めた罪はその身で味わってもらう!」

 三影は言葉をいったん切り、怒りに燃える。
 その大首領を、バダンを歪めたのは、三影を切り捨てたのは、暗闇大使。瞳の炎が一際大きく燃え上がる。

「そして……俺が、いや、俺たちが大首領を復活させる! 俺たちのバダンを取り戻す!!
パピヨン! キサマはバダンの技術を手に入れるのが目的だったな。邪魔はしない。
それどころか手に入りやすくしてやる。だから俺をここから出せ! 俺が……奴らを砕く!!」

 虎が吼える。三影の忠誠はバダンへと向かっていた。
 たとえその力が幻想であっても、間違いであっても、三影英介は信じた。
 バダンの力を。偽善者のいない世界を。


 パピヨンは三影の両の眼を逸らさなかった。三影の忠誠の強さは、パピヨンの計算内だ。
 そして、予想以上の偽善者と暗闇への嫌悪。
 その二つの感情があるだけで収穫だ。
 大首領の身体になると告げたのは意外だった。己の意思を失うことを告げてもその意思を変えない。
(なんともまあ、頑固な奴だ。武藤を悪に偏らせたような奴だな。適当に妥協点を探りたかったが、ここまで意志が固いと……『意思』?)
 パピヨンはふと、強化外骨格とそれに宿す大首領に思考が及ぶ。
 もしもだ、強化外骨格を纏うことになれば、パピヨンが求める肉体強化につながるのではないか?
 とはいえ、意思が乗っ取られることはアレキサンドリアより聞いている。
 だが、もしも鎧を纏っても意思を乗っ取られず、覚悟のように纏うことで力に変えるのなら、好都合ではないか。
(試してみる価値はあるな……)
 あの大首領の力を得られるのなら、平行世界の移動も容易となる。
 また一つ帝王の道へと歩むことになれるのだ。
「……三影英介、キサマに破格の条件を与えてやろう」
「なに企んでいるんだッ!」
「秀、今はキサマと話していない。三影英介と話をしている!」
 パピヨンは切って捨てて、さらに一歩前に出る。狂気が瘴気となってあふれ出た。
「キサマを戦える状態で出してやる。本来ならあと四時間必要だが……二時間、いや一時間に短縮してやる。
ただし、調整前で上げる分、戦えるのは、変身できるのは一回のみ! 三影英介、俺には俺の目的がある。
その一回を、俺に利用されるというなら開放してやる!!」
 ど・う・す・る、と唇の形をゆっくり作り、パピヨンは問う。
 三影ほどの男なら、パピヨンは大首領を利用することを考えていると警戒するだろう。
 その上で、話に乗るのならよし。戦う機会を逃す臆病者などに興味はない。完全調整の上で部下になるのが、一番望ましい結末だ。
 パピヨンは静かに三影の返答を待った。


「答えは決まっている。俺を解放しろ」
「兄貴!」
 秀はうろたえ、三影に声をかける。
「兄貴、考え直してくれよ! せっかく、兄貴は万全の状態で復活できるんだぜ!
たかだかあと四時間じゃないか。こ、ここはさ……万全の状態で俺たちのバダンを……」
 秀の語尾がだんだん弱くなる。三影の決意を曲げることは不可能だと知っているからだ。
 三影は秀が自分のことを理解してくれたのを確認して、再度パピヨンに視線を向ける。
「やはり、その選択を選ぶか」
「当然だ。俺はバダンと共にある」
 三影は一回目を瞑り、決意の炎を乗せて開く。
 ただ、ZXと戦うことができないことだけが、心残りだった。
「いいだろう! 蝶・迅速に仕上げてやる。感謝しろ!」
 えらそうに告げるパピヨンに秀が睨みつけるが、三影は静かに感謝の意を示すだけ。
 ただ一度でも戦えるなら、この身はバダンの大首領へと捧げる。
 三影の意思は変わらない。


 その二人の様子を、秀は黙ってみていることしかできなかった。
 そうすることしかできないのだ。秀はあまりにも力がない。
 目の前の三影と約束した、『力』は遠かった。そのことがたまらなく悔しい。
 己が三影についてきたのは、絶対的な力に、揺らがない意思の強さに憧れたのだから。
 今ここで三影が意志を曲げるようなら、それはもう三影ではない。
 彼は己が存在意義に従ってパピヨンに戦える準備を終えるよう、望むのだろう。
 秀にできることは、奇襲のためにヘルメスドライブを使って戦地に送るだけだ。
 秀は三影が死んだ日を思い出す。
 ZXと一対一で決着を着けるといい、ZXキックに敗れた三影の姿。
 秀の脳裏に刻まれているそれを、またも繰り返すのであろうか。
(そんなことはさせねえ……)
 秀はパピヨンに近づき、その頭に向かって鉄パイプを振りかぶる。
 殺しはしない。四時間ほど眠ってもらうだけだ。秀がパピヨンに向かって、内心すまないと呟いた。


「キサマが心配しなくても、わざわざ復活させた男を死なせるような真似はしない」
「…………ッ! おまえ……!」
 秀が不可解な表情を浮かべるが、パピヨンには考えがある。
 変身したところで、機械部分と生体部品の脳に負担がかかり、オーバーヒートを起こすだけだ。
 死に至るまでには猶予があるのだから、回収して再度調整をかければいい。
 もっとも、戦闘力は落ちるが。
(しかも三影はJUDOとやらを復活させようと動く。気になるのは、強化外骨格は意思を乗っ取るといってもどの程度かだ?
意思の顕在具合によっては、俺の戦力になるかもしれない。三影英介にはその実験台になってもらおうか)
 まったく意思を塗り替えられるなら、パピヨンには必要のないものと判断できる。
 それに、パピヨンを巻き込み、見下している暗闇らに一泡も二泡も吹かせてやりたい。
(そうだ。奴らに意趣返しをするのは、何も三影たちだけではない。バダンの幹部ども。この俺がキサマらに屈辱を味わわせてくれる)
 ニヤリ、とパピヨンは笑う。やられっぱしは帝王が取るべき道ではない。
 借りは返さねば。最悪の形で。


 時の牢獄。JUDOは己を閉じ込める暗闇の中を上下左右飛ぶ。
 特に理由はない。いつも行なうただの暇つぶしだ。
 暗闇の一角に、映像が浮かぶ。内容はサザンクロスに、赤木たちが乗り込んだもの。
 期待通り……いや、期待以上の彼らの働きに、この度し難い退屈を紛らわせることができるのではないか。
 JUDOの心に漣が起きる。たかだか虫けら【ワーム】と蔑んでいた連中の抵抗にだ。
 ただの虫けらだけじゃない。己を同類と呼んだ赤木がいる。
 なぜか奴だけは、虫けらと呼ぶ気が起きなかった。
「ほう、うぬが我に用があるとは、珍しいな。ツクヨミよ」
『…………JUDO』
 ツクヨミと呼ばれた、JUDOとほぼ同じ姿をした亡霊を前にして笑う。
「ツクヨミ。キサマがいかに手を尽くそうが、無駄だ。我はもうすぐ蘇る。
そして、反逆者……仮面ライダーはZXのみ。我を止めるものはおらぬ」
『だが……お前は止められたがっている。彼と出会ってから』
 ククク……とJUDOはツクヨミに返すだけだった。その様子からは真意をはかることはできない。
 いや、JUDO自身も始めて湧き上がる感情に、自分の本心を完全には理解できていないのかもしれない。
 赤木との再会は、己が肉体と赤木を定めたものなのか、新たな肉体を持って再会したいものなのか、自分でも分からないのだ。
 だが、JUDOは確信している。
 どちらにしろ、赤木を前にすればその答えが自然と見つかると。
「ツクヨミ……うぬの封印も、我が『進化』と共に無意味なものと化してきている。
だが、奴と再会するのにはそれでは間に合わぬ」
『だからこそ、降臨の儀式を急がせたか』
「キサマの思惑は叶わない。我は今度こそ、この退屈から解放をされる……。クククク……」
 JUDOの視線はもうツクヨミには向いていない。
 カマキロイドと対峙する、赤木へと熱を持った眼差しを向けていた。
 復活の日は近い。


【空間の牢獄 二日目 午後】

【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:空間の牢獄を脱出する。
1:赤木との再会。
2:肉体を得る。そして、赤木のいう「酔い」を味わう。
【備考】
※大首領はあくまで、「肉体を得る」ことを優先しています。
※強弱は拘っていません。また、バトルロワイヤル開催の理由は、ただの戯れ。
※一時的に牢獄を脱出できましたが、持続的ではありません。明確な理由は不明です。




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