真・仮面ライダー ~決着~ ◆KaixaRMBIU



 金属と金属がぶつかる甲高い音が、黒い洞窟のような一室に響いた。
 反響する音を無視して、赤い影が地面に軽やかに着地する。
 赤い仮面。緑の複眼。マフラーを風にたなびかせる仮面ライダー。
 正義を掲げ、目の前のトランプの魔人に対峙する。
 一方、全身を白く染め上げるジェネラルシャドウは、ZXへと剣を向けた。
 不気味な顔を透明のフードに身を包み、マントを羽織る強敵。
 ストロンガーの宿敵が、ZXの壁となって立ちふさがる。
「どうした! もう終わりか? 仮面ライダー」
「まだだ! トゥ!!」
 ZXは手刀を剣で受け、金属が擦れあう不快な音が聞こえる。互いに前に押し込み、反動で後方へ跳んで距離をとった。
 ZXは肘から十字手裏剣を取り出して、投げ飛ばす。地面を蹴るために踏み込むが、行為自体を中断する。
 十字手裏剣が、トランプによって迎撃されたのだ。
「くっ!」
「いままではほんの挨拶代わりだ。仮面ライダー、キサマの運命を占ってやる」
 何のことだ? とZXが尋ねる前に、シャドウはトランプをシャッフルし始めた。
 一枚を無造作にとり、ほう、とため息をついて絵柄を示した。スペードの二。その絵柄が意味するものは。
「勝敗でなく、このカード……仲間の死を示すカードだ」
「なに!?」
「この占いを覆したければ、一刻も早く俺を倒すことだ。仮面ライダー!」
 結果は分からずとも、ZXを追い立てる結果に満足してシャドウは剣を振る。
 ZXは上段下段突きと自由自在に軌道を変える剣技を捌きながら、占いの結果を気にしないよう努めた。
 だが、仲間の死がのしかかる。ZXは気ばかり焦りシャドウに攻撃する隙を逃がすばかりであった。


 シャドウは三連続の突きをZXに放ちながらも、不満であった。
 理由は簡単。
(ストロンガーなら、この程度避ける!)
 シャドウがZXとストロンガーを比べながら戦っているからである。
 決戦を乗り越えたZXは確実に戦闘技術を進歩させていた。まだ荒削りだが、シャドウと互角以上に戦えるはずなのだ。
 遅れをとっている理由は一つ。仲間を気に懸けていることと、シャドウの戦い方だ。
 ZXはラオウに勇次郎など、剛を極めた漢たちと戦ってきた。
 そのため、力任せの戦い方をする相手には相性がいい。とはいえ、二人は技術も高みにまで達していたのだが。
 反面、シャドウは変幻自在、いわゆる幻術やかく乱など、相手を翻弄する技が多い。
 ゆえに、ストロンガーと互角に渡り合えたのだが。
 シャドウの逆袈裟に振り上げた剣が、ZXの胸の装甲を削った。血のりが僅かに剣先に付く。
 逃げようとするZXだが、シャドウはあっさりとついていった。
 苦し紛れに十字手裏剣をなげる。だが相手は身を捻って避けた。シャドウは速度を緩めず、そのまま斬りかかってくる。
 視界の端が、光った。
 爆音が、サザンクロスの一室で響く。衝撃集中爆弾を瓦礫に紛れさせ、シャドウを狙ったのだった。


「やったか?」
 うまく集中爆弾を隠し通せたことに、ZXは安堵する。怪人を一撃で粉砕できる威力の爆発なのだ。
 シャドウがいかに強敵でも、無傷ではすまない。そのはずだった。
「その台詞は、キサマには百年早い」
 あっさりと後ろに回りこんだシャドウの声が耳に届き、振り返らずに前方へ跳ぶ。
 背中を僅かに剣が掠め、己の判断が正しいことを確かめながら油断なく振り向いた。
 その間、ただ遊んでいるだけではない。両肩から霧を噴出し、己が像を投影する。
 ZXの分身を見たシャドウが、笑った。ZXはあまりのシャドウの余裕に、対策があることを警戒して一旦様子を見ることにする。
「分身できるのはキサマだけではない。シャドウ分身!!」
 シャドウの言葉と同時に、ZXの虚像一人一人へと、分裂したシャドウがつく。
 驚愕の表情のZXを無視しながら、三体のシャドウがそれぞれバラバラに剣を振るう。
 あるいは上段から振り下ろし、あるいは胴を狙って横凪から、あるいは救い上げるように逆袈裟で斬りかかる。
 上段から振り下ろされた一撃のみ、ZX本体を捉える。ZXが一瞬早く後退して、剣戟を免れるが、虚像はすべてかき消された。
 悔しげに呻くZXに三体のシャドウの攻撃が次々と繰り出される。
 右より弧を描きながら迫る刃は、ZXの右腕の肉を削いで風のように去っていった。
 左より首を狙って突き出された突きは、上半身を後ろに倒したZXを捉えられず通り過ぎる。
 正面から胴を狙った一撃が、ZXの腹を斬り裂いた。
「グハッ!」
 ZXは怪我負いながらも、膝の衝撃集中爆弾を発動させる。
 轟音と共に、衝撃の反動を利用して距離をとって着地する。ガクッ、と膝をついた。


 正面に三体いたシャドウは一人となり、無傷のまま仁王立ちしている。
「その程度で終わっては、決闘の場を設けたかいがない。だが、ストロンガーなら無傷で俺の攻撃を捌いたぞ!」
「……確かに、俺は不甲斐ない。仮面ライダーとしては未熟かもしれない」
 ZXがぽつぽつと告げる。シャドウは、一人その言葉を聞いていた。
 いや、聞いていたのはシャドウ一人ではない。
「そんなことないよ! 村雨さん!!」
「いや、かがみ。俺は散が、ハヤテが、零が、覚悟が、ヒナギクが、君がいなければ、仮面ライダーとなることもなかった。
たとえ記憶を取り戻したとしても、ただ復讐のために戦っただろう」
 ZXの言葉は真実だ。記憶を取り戻した時、真っ先に怒りをもって戦ったのは、姉の死に復讐を決意しかけていたからだ。
 そのZXはラオウに負け、ハヤテに助けられ、彼に主を託された。
 彼の大切な人を救えず、ZXは彼に何もしてやれないことを悔いた。
 壊れかけたヒナギクと共に、己の無力を実感するZXを救ったのは、かがみだった。
 それ以前から、彼女は何度も助けになってくれた。
「ジェネラルシャドウ……俺はこの痛みに、散の気高さを知っている」
 治癒していく腹部に手を当てて、ZXはシャドウの瞳を睨み返す。
 ZXはそのままゆっくりと立ち上がった。
「俺はこの拳に、ハヤテの優しさを知っている。この腹部のベルトに、本郷猛・仮面ライダー1号の正義が宿っている」
 足を肩幅まで広げ、ファイティングポーズをとる。
 力強いポーズは、村雨からZXへの変身過程にとる構えに似ていた。
「そして、多くの仲間の支えが、俺を仮面ライダーに押し上げてくれた!」
 かつて、村雨はコマンダーという改造人間として、仮面ライダーと戦ったことがある。
 その男は、墓の前で男は電気と技を駆使して、かつての悪の村雨を砕いた。
 墓守を続ける仮面ライダーが、一度敗れて再び口笛と共に村雨の前に現れた。
 己と戦った仮面ライダーを重ねる。ああなりたい。ああいう仮面ライダーに、俺はなりたい。
 ZXは胸に巻き起こる熱風に導かれるまま、その仮面ライダーの口上を再現する。

「天が呼ぶ!」

 雷鳴の如く、ZXの声が轟き落ちる。万の決意と共に、喉が破れるほどまでに叫ぶ。

「地が呼ぶ!」

 仲間の想い、死んだ者の想い。ただZXを仮面ライダーへと押し上げたそれは、とても口にできる物ではない。

「人が呼ぶ!」

 誰かが助けを呼ぶ声。導かれる理由としては、充分だ。今なら分かる。今だから理解できる。

「悪を倒せと、俺を呼ぶ!!」

 正義。仮面ライダーの存在意義。ZXはもはや迷わない。
 いや、迷い続け、負け続け、ZXは正義を揺らがぬ信念として、芯に据える。


「聞け! ジェネラルシャドウ!! 俺は正義の戦士、仮面ライダーZX!!」


 風が巻き起こり、電撃、稲妻、烈風が吹き荒れる。
 仮面ライダーの正義が宿ったZXの瞳に炎が燃え盛った。
 燃え尽きぬ正義を覚悟完了。
 正義の誕生した瞬間であった。


 シャドウはここで、ストロンガーの口上を聞けた事実に僅かに驚愕した。
 ZXはストロンガーに出会ったことがあるのだろう。そして、未熟ながらも仮面ライダーになろうとする姿。
 蜘蛛の糸のように絡む絆によって仮面ライダーとして、決意を重ね続けたZX。
 フッと、シャドウの口角が上がる。未熟ながら足掻くその姿、嫌いではない。
「俺を前にして、よくぞ吼えた! いくぞ、仮面ライダー『ZX』!!」
 シャドウが始めて、ZXの名を呼んだ。決して、彼を認めたからではない。
 それのほどの名を、仮面ライダーを名乗るのなら、力を示せ。
 言外にシャドウは告げる。必要なのは言葉じゃない。ただその魂を見せてくれればいい。
 ZXが全力で応えるという証明に、十字手裏剣を投げ放った。
 あっさりと斬り飛ばしながら、シャドウはたた前へと突っ走る。
(ストロンガーはこんな物ではなかったぞ! ストロンガーとの戦いは、もっと心が躍ったぞ!
ZX!! キサマが仮面ライダーとしてストロンガーを超えるのなら……)
 シャドウの剣が、光を反射して輝く。その輝きは、どこか熱を込めていた。

「この俺を乗り越えて見せろ!!」

 そうであるべきだろう、ストロンガー。シャドウはただ、心の中だけでそう呟いた。


「村雨さん……」
 かがみの見ている前で、堂々と正義を宣言する姿に感極まる。
 初めてあったときの彼は、とても信頼に足る姿とはいえなかった。
 ジョセフに戦いを挑み、かがみ自身をさらって行ったのだ。もっとも、本当の出会いはかがみが絶望している時だったのだが。
 それはともかく、とてもかがみには村雨が正義のために戦う人間とは思えなかった。
 話に聞いたDIOのように、人を殺すことをなんとも思っていない悪党だと信じていた。
 実際はどうだろうか。
 記憶を失っていたときでさえ、村雨はかがみに手出しをしなかった。
 ジョセフと戦うため、ということもあったのだろうが、それでも村雨はかがみを傷つけることを良しとしなかったのは事実だ。
 首輪の秘密を探るのに、村雨は協力してくれた。
 ハヤテという少年との戦いで、あっさりと負けを認めた。
 記憶を取り戻し、ラオウと戦って負けて、ハヤテの死に彼は涙を流した。
 かがみが死にかけた時、必死になって蘇生のために頑張ってくれた。
 勇次郎との戦いで、彼は傷ついた。
 それでも立ち上がり続け、正義を見せてくれた。
 こうしてかがみが生き残り、彼の無事を祈っているのもすべては彼が仮面ライダーとなったおかげだ。
 かがみは腕を前方で組んで、必死に祈る。
(ハヤテ君……こなた……つかさ……みんな、お願いだから、村雨さんに力を貸して……)
 その祈りが正義の味方に届くには、まだしばらく時間が必要だった。


 かがみを静かに見守る者が、たった一人いた。
 コマンドロイド。大量生産されているバダンの兵である。
 報告に行ったものが万が一始末された場合に備えて、この部屋に来たのである。
 報告に来たコマンドロイドは死んでいる。シャドウによって殺されるのは目撃した。
 一人では勝てない。たとえ、援軍が来たとしても勝てることはないだろう。
 現時点では。
 だが、ZXとシャドウの戦いが終わった後なら話は別だ。
 二人の激闘が終えて、立っているのがどちらにしろ殺せる機会が来る。
 独歩の死体の在り処を知ることができないミスは、侵入者を倒すという功績で贖う。
 コマンドロイドの十字手裏剣が冷たく光る。
 やらねば死ぬのは自分だから。


「ゼクロスパンチッ!!」
「甘い!」
 ZXの拳をシャドウは右に流して、鳩尾に膝を叩き込んだ。
 身体をくの字に曲げるZXのマフラーをつかんで、身体を半回転してから手を離した。
 地面に叩きつけられるZXを見届け、剣の柄に手をかける。シャドウにはZXが立ち上がることを信じていた。
 なぜなら、ストロンガーならこの程度で死ぬことはないからだ。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
 事実、ZXは地面を進み続け、シャドウの足元から現れた。
 予想外の場所からの出現に、一撃もらう。シャドウは防御を諦め、刃を縦に走らせる。
 ZXの右胸から血が吹き出て、シャドウの白装束を赤く染める。
 だが、敵も怯まない。ZXの根性をシャドウは気に入った。
「ま、まだだぁあぁ!!」
「む!」
 ZXの回し蹴りがシャドウの頭部に迫る。あっさりと姿勢を低くして避けて、ZXの足を払う。
 体制を崩すZXだが、マイクロチェーンを右腕から発射して、天井に撃ち付ける。
 ZXの踵が振り下ろされるが、右腕を盾にして防ぎ、逆に顎へと左拳を叩き込んだ。
「くっ!」
「逃がす……なにっ!」
 マイクロチェーンを巻き上げて、距離をとろうとするZXを追おうとするが、その左肩に十字手裏剣が刺さる。
 ZXに体勢を整える暇を与えるのは尺だが、追撃を諦めて肩から十字手裏剣を抜いた。
 十字手裏剣が地面に落ちる音が室内に響く。正面のZXは肩で息をしながら、傷を癒していた。
「少しは……動きについてきているようだな」
「ああ……目も慣れてきた。こちらから行かせてもらうぞ!!」
 シャドウはZXに期待を込めて、匕首を切る。
 カチン、と金属音を鳴らして、ZXへと突進した。


(変幻自在の技が厄介だ……どうにか隙を突かねば!)
 ZXはシャドウの戦闘力の高さをそう分析した。攻めれば退き、退けば攻める。
 攻撃の枕を押さえて無力化して、攻めるときも決して無理はせず、針の穴ほどの隙につけ込む。
 勇次郎やラオウとは、別種の強さを持つ相手だ。ストロンガーの強さをシャドウを通して実感する。
 シャドウの目が言っている。ストロンガーは、こんな物じゃなかったぞ、と。
 ZXの肘から、十字手裏剣を切り離して投げる。あっさりと迎撃されるが、ただの牽制だ。
 こちらの主導権を握る。十字手裏剣を払って、シャドウにできた隙を狙って拳を打ち込む。
 あっさりと捌かれるが、想定内。その捌いた腕を掴み、左腕を剣が掠める。
 そのまま肩をシャドウの身体にぶつけて、力を緩めさせた。勢い、己の身体を捻り上げる。
 風が、巻き上がった。
「!? この技は……!」
「ライダーきりもみシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥトォォォォッ!!」
 竜巻がサザンクロス内部で発生する。誰も抗えぬ風は、シャドウを巻き込んで吹き荒れ続けた。
 さすがにシャドウでも、仮面ライダー1号の技には抗えず、風に翻弄されるままだ。
 今なら、こちらの拳も届くはず。ZXの踵のバーニアが吹き、空を翔る。右手に精一杯の力を込めて、打ち放つ。
「ゼクロスパンチ!!」


 ZXの拳は、虚しくトランプの束を散らすだけだった。
 これでもまだ、避けられてしまう。戦慄が走るまま、ZXはすぐに立ち直って振り向く。
 迫る刃に、手刀を固めて身体に届くのを阻止した。
「狙いは悪くなかった。ただ、天井に届いたのが運の尽きだったな。天井に剣を刺して、トランプフェードを使う余裕ができたぞ」
「くっ……!」
 シャドウの指摘に、ZXは悔しがる。結局、攻撃の隙を己自身の失態で失ったのだから。
 だが、ZXに悔しがる暇はない。シャドウの連続突きを両腕で捌き、身体を僅かに動かして紙一重で躱す。
 目が慣れてきたのは嘘ではない。僅かな隙を突いて、右拳をシャドウの頬に叩き込んだ。
「ぐっ!」
 シャドウが呻いて、後方に吹飛ぶ。逃がしはしない。始めて入った直撃。
 左手を地面につけて、回し蹴りがシャドウに向かって迫る。人の肉を蹴る感触が、右足に響く。
 しかし、ZXは左腕一本で身体を跳ね上げた。ZXの蹴りを防いだシャドウが、下段から剣を振り上げたのだ。
 剣先がZXの皮一枚を斬る。その痛みに反逆をしながら、ZXは右腕を向けた。
「マイクロチェーン!!」
 右腕から発射された鎖がシャドウの剣に弾かれて、数メートル先の地面に突き刺さった。
 立ち上がる時間は稼いだ。シャドウの右ストレートを左手の平で受ける。
 拳を掴まえたまま、背中にシャドウを乗せ、壁に向かって投げ飛ばした。
 地面にシャドウがぶつかる瞬間、トランプの束となって消える。同時に、衝撃がZXの腹に轟いた。
 空気をすべて吐き出すが、ZXもただ殴られるだけではない。
「ほう、やるな」
 シャドウの拳は、盾にしたマイクロチェーンに当たっている。
 衝撃を和らげたZXは攻撃後で硬直しているシャドウの胸を右足で強打した。
 離れていくシャドウを、ZXはそのまま見送る。理由は、肩に鋭い痛みを与えるトランプだ。
 シャドウも打たれ放題ではなかったのだ。離れる瞬間、シャドウはトランプショットを放った。
 どうしても先に行かれる。それでも、ZXに焦りはない。シャドウも、どこか楽しそうにニヤリ、と笑った。
「うぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉぉ!!」
 どちらが叫んでいるか、二人には識別できなかった。


(このままじゃ……埒が明かない)
 ZXはシャドウとの戦いでそう判断する。小競り合いでシャドウを制するのは無理だ。
 倒すなら、必殺技による決着を狙わねばならない。
 その隙を作ろうと何度も攻め込むのだが、流され、捌かれ、攻撃の隙を潰される。
 とはいえ、このまま降着状態を続けるわけにはいかない。ZXは賭けに出る。
「うおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!」
 ブゥン……とZXの瞳が光、両肩から霧を噴出する。シャドウがまたか、と呆れた顔をしているが、関係はない。
 無数のZXがシャドウに殺到する。右拳を構えるZXたちを見ても、シャドウは落ち着いていた。
「トランプカッター!」
 襲い掛かるZX一人一人を残像と証明するトランプが、虚像を通り過ぎる。
 シャドウの足元が盛り上がり、ZXが飛び出した。
「その手にかかるか!」
 シャドウが地面より飛び出したZXに剣を振る。そのZXも幻。
「なら、正面か!」
 シャドウの眼前で、ZXキックの構えを取っていたZXが身体を輝かせていた。
 もはや、シャドウのトランプカッターを避けるのは不可能。ZXの胸部に、トランプカッターが刺さった。
「なにっ!?」
 そのトランプカッターは、ZXキックの準備をする幻を通り過ぎた。
 シャドウすらも、騙しとおせた。計算どおり。今彼は、自分がどこにいるのかと激しく自問しているはずだ。
 だからこそ、この絶好の機会に賭ける。
「ゼクロスッ……!!」
 ZXの全身が赤く光る。己がもてる、最強の技の一つ。
 戸惑っているシャドウを、ZXの右足が捉えた。
「キサマ……もしやっ!」
 シャドウは、自分がどうやって騙したのか理解したのだろう。
 ZXは彼の予想通り、地面から接近をしたのだ。ただし、身体の半分上、残像の下半身に己の上半身をを重ねて。
 シャドウが残像を斬った後、そのまま斬られた残像に紛れて上空を制した。
 ご丁寧に、無数の残像に紛れてZXキックを準備する幻まで混ぜて。
 これで、終わりだ。

「キィィィィィィィィィック!!」
「シャドウパワー!!」

 赤い光を引き連れた必殺の蹴りが、全身に力を漲らせるシャドウに向ける。
 烈風が蹴りの衝撃によって巻き起こり、サザンクロスを揺るがせた。
 爆発と共に、ZXの視界が光に満ちる。


「けほっ」
 粉塵が爆発によって巻き起こる中、かがみはどうにか立ち上がって周囲を観察した。
 ZXキックとシャドウのぶつかり合いは凄まじく、見守っていたかがみにまで衝撃が届いたのだ。
 涙で視界が滲むかがみは、ZXを探した。
 彼が死ぬとは考えていない。勇次郎をも倒したZXキックを使ったのだ。
 きっと勝っているに決まっている。
 やがて、粉塵が晴れて立ち上がる影が見えた。かがみはどちらが立ったのか、不安になりながら見守る。
 シャドウは強い。ZXが負けても不思議ではないほどに。
 やがて、かがみの視界に赤い人影が入る。仮面ライダーZX。
 ホッとして駆け寄ろうとするかがみに、
「くるなっ! まだ……決着は……ごほっ!」
 ZXは血反吐を吐き、膝をつきながら静止した。
 かがみが視線を横にスライドさせると、剣を杖代わりに立っている白い影が目に入る。
 背筋にぞっと、悪寒が走った。
「ククク……さすがだ。仮面ライダーZX」
 かがみは再び腕を組む。
(神様。どうか、村雨さんを勝たせてください……)
 敵はどこまでも、強大だった。