覚悟のススメ ◆40jGqg6Boc氏


地に転がるは無数の亡骸。
鋼鉄の身体に改造されし彼らは改造人間と呼ばれた者達。
様々な生物の力を人工的に与えられた彼らの力は強大そのもの。
熟練した軍人が武装しようとも容易に仕留められるとは限らない。
だが、既にざっと見渡すだけで数十体以上の改造人間が哀れな末路を晒け出している。
その中に敢然と立ち尽くし、構えの体勢を取る男が一人。
生身の身体に纏うものは超鋼(はがね)。
只の鎧ではなく、英霊を封じ込めしそれは拭えようのない業から生み出された。
魂を持つ鎧の名は『零』――強化外骨格『零』。
そして零を纏う男こそ人類の希望であり一本の剣。
牙無き人々のためには己が刃で悪鬼共の肉を裂き、赤黒い血を浴びる事も厭わない。
たとえ幾多の屍の山を踏み荒らす事となっても後退する事は許されない。
物心ついた時からその身と心に刻まれし使命。
成し遂げるこそをこの世の花と認識した契り事を成就する……それがたった一つの願い。
弓の家に生まれた彼の名は葉隠覚悟。

――このバトルロワイアルに生き残った参加者の一人なり

◇     ◇     ◇

「ヒャハハハハハハハハハハハ! 精々楽しませてくれよなぁッ!!」

一体の怪人が狂ったように叫ぶ。
声の主はジゴクロイド、蟻地獄を模したBADANの改造人間。
様子から察して上機嫌には間違いない。
事実、彼はすこぶる機嫌が良かった。
参加者の監視などいたずらに欲求を高まらせるしかない仕事には未練はない。
BADANに抵抗し、それでいてある程度の強さを持ち合わせるバカな参加者。
たとえば村雨良こと仮面ライダーZXのような奴と闘いたい……それこそジゴクロイドが沸々と望んだ希望。
自分の渇きを満たしてくれる存在が目の前に居る事でジゴクロイドの心は躍る。
既に目星は付けていた。村雨と同じくらいに自分を楽しませてくれそうな男。
そんな彼に対して、一通の招待状を――血生臭い闘いという誘い――を送るためにジゴクロイドは動く。

「オラァ!」

怒声と共に右腕を突き出す。
蟻地獄の鋏と形容するに相応しい腕を振りかざし、ジゴクロイドは文字通り突進。
BADANでNo2の存在である暗闇大使の一部から生み出されたジゴクロイド。
スペックは通常の怪人の上を行き、ましてや幹部クラスではない再生怪人との差は歴然。
経験こそ浅いものだがその力は大きく、容赦などはない。
唸るようにジゴクロイドの右の刃が空を切りながら、目の前の対象物に肉薄する。

「チッ! 簡単にはやらせてくれねぇか!」

しかし、ジゴクロイドには肉を引き裂く心地の良い感触がなかった。
それもその筈、ジゴクロイドの凶刃は獲物を――葉隠覚悟の身体に到達していない。
斜めから袈裟掛けに振り下ろされたジゴクの右鋏を覚悟は右の腕で受け止めている。
改造人間の身体を容易く両断する鋏の刃は並大抵のものではなく、たとえ鋼の鎧で肉体が包まれていようとその衝撃は大きい筈。
だが、覚悟は微動だにしない。
そのまま押し込み、斬りかかろうとするが覚悟の力には及ばず。
バイザーを下げ、深く被った鉄のヘルメットの奥底で覚悟は只、ジゴクロイドを睨む。
鬼すらも逃げかえるような険しい形相を目の当たりにしジゴクロイドは――笑った。
自分の予想以上の力を覚悟は持っている事に悔しさが吹き飛んだとでも言うかのように。
ジゴクロイドは純粋に喜びを見せている様に口元を歪めた。

「余裕だな、おい!」

右腕が止められるものならばどうするか。
取るに足らない自問に答える間もなくジゴクロイドは空いた左腕を振るう。
既に右腕と同じように変化させている左の鋏がしなりながら覚悟の左上半身を狙う。
依然、ジゴクロイドの右腕をしっかりと掴んだ覚悟には動く素振りは見られない。
いや、動かないわけではない。
“未だ”動く必要はなかったのだろう。
肘を立てて、左腕を翳す事によりジゴクロイドの斬撃を受け止める。
零の左腕部装甲とジゴクロイドの左鋏が鬩ぎ合い、軋むような音がまるで悲鳴の如くに響く。
力と力の均衡によりジゴクロイドと覚悟の二人は互いに一歩も動こうとはしない。
しかし、それも所詮僅かな時間での出来事。
数秒にも満たない間隔を経て、ジゴクロイドは右足を振り上げ漆黒の膝で覚悟の腹部へ叩き込む。
まさに我ながら絶妙なタイミング。
両腕を覚悟のそれらと重ねながらジゴクロイドは密かに笑みを零す。
刹那、唐突にジゴクロイドの視界一杯に“何か”が広がった。

「ガッ! てめええええええええええ!!」

放った膝蹴りは覚悟の身体には届かず、それどころかジゴクロイドは苦しそうな叫びをあげる。
まるで頭の先から後方へ向かって引っ張られたように、上半身を仰け反ったジゴクロイドの顔には赤い模様が散在している。
それは改造されし身体に流れる人工血液の一片。
一瞬の内に人間でいう口の部分が無残にも潰された事で赤い血液が散らばり、やがてジゴクロイドの足元にも滴り落ちた。
そして頭部を引いた覚悟のヘルメットに映るものもは幾つもの赤い斑点。
ジゴクの打撃よりも速く、零で覆われた強固な頭部で頭突きを繰り出した覚悟には外傷などある筈もない。
再び予想以上の反撃を食らったジゴクロイドは思わず数歩後ずさる。
自然と覚悟の両腕に食い込んでいたジゴクロイドの両の鋏が緩む。
ジゴクロイドが気づいた時には既に遅い。
その隙を見逃す事もなく、覚悟は両の腕でジゴクロイドの拘束を跳ね退け、息をつかせる間もなく跳んだ。
鋼に包まれし両脚をまるでバネのように使い、前方へ踏み飛ぶ。
ジゴクロイドの目の動きよりも一手、二手以上先を行く動きで覚悟の右腕が滑るように叩き込まれる。

「ガアアアアアアアアアアアアッ!!」

打ち出すのでは手緩い。
まるで“撃ち出す”ように放たれた覚悟の右の拳がジゴクの左頬へ走る。
速さは正に疾風の如く、衝撃は鈍重な鉛の如し。
ジゴクロイドの左顔半分を抉るように覚悟は拳を奮い、周囲に一際大きな鈍い音が鳴る。
幼少の頃から鍛えしその剛なる拳は地に聳える大木すらも打ち倒す。
堪え切れずジゴクロイドの身体は簡単に後方へ吹っ飛んでゆく。
洩らすものは痛みと悔しさに塗れた叫び。
外へ吐き散らすものは鮮血と涎が入り混じった汚らしい液体。
たった一度の拳で醜態を晒す事になったジゴクロイドと、入れ替わりに一つの影が覚悟へ駆け寄る。

「シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ!」

ジゴクと覚悟の闘いを見届け、好機を狙っていたのだろう。
面倒な事を嫌い、最終的に自分が手柄を収めればジゴクが別にどうなろうとも問題でない。
ジゴクロイド、そしてカマキロイドと同程度の残虐性を内に秘めし存在が覚悟に挑む。
赤黒い甲殻に覆われたボデイに背中、腹部、両腕と計八本の鋏。
暗闇から生まれしもう一体の怪人、カニロイドが奇声を上げながらジグザグに疾走する。
名前が示すとおり、蟹の特性を受け継ぐ改造人間であるカニロイド。
一直線でなく多角的に、それでいて見かけとは裏腹の高い機動性を持った動き。
幾ら零を纏ったといえども、敵捕捉補助の機能は内蔵していない。
カニを模した頭部についた口の部分から白い泡をぶくぶくと吐き出しながら、覚悟を撹乱する。

「シュ!」

やがて一歩も動かず待ち構える覚悟にカニロイドが顔を向ける。
途端にカニロイドの口元が動き、ノズルのような物体が出現。
現れたと同時にその物体から白色の液体が噴出される。
それこそ特別に精製され、金属やコンクリートすらも溶解する腐食液。
直撃を受ければ、いかに零が展性チタンという特殊金属で出来ていようとも無事であるとは限らず。
狙いの先は勿論、侵入者覚悟のみ。
わざわざ受けてやる義理もない。
更には不意打ちといえども一度両目にしっかりと焼きつけた手段。
覚悟は軽く後方へ跳んで自らに降りかかって来た液体から逃れる。
みるみる内に溶けていく床に少しだけ気を取られるが、覚悟は直ぐに前を向き直す。
その瞬間、覚悟の眼前のカニロイドの身体が跳び込む。
ほんの僅かな時間だけカニロイドから眼を放した覚悟。
まるでそれだけを狙っていたようにカニロイドは長く伸びた両腕の鋏で地を蹴るように弾き、跳躍。
上方から馬乗りの体勢に持ち込むように今度は背中と腹に付いた鋏を突き立てながら、覚悟へ跳んでいた。
しかし、覚悟には動じる様子はない。
只、何も慌てる様子も見せずに軽く両脚を開き――腰の動きと連動する様に右脚を逆袈裟に振り上げた。

「!?」

何が起こったのだろう。
果たしてそう考える時間がカニロイドにあったのかは定かではない。
少なくとも判る事は左脇腹の辺りに強烈な衝撃が走った事。
強固な殻で覆われているにも関わらず、覚悟の上段廻し蹴りはカニロイドに確かな痛みを思い知らせる。
更にカニロイドの身体は先程、内心無様なものだと鼻で笑っていたジゴクロイドと同じように吹き飛ぶ。
意志とは関係なく横殴りに宙を舞う事になったカニロイドは強引に身を捩じり、再び覚悟の方へ向き直った。
蟹の特性を持っている事も要因し外殻の強度には相応の自信はあり、覚悟への闘志は未だ潰れていない。
しかし、振り向いた先に映った影を確認した事で、カニロイドは只驚いたように真っ白な複眼で凝視する。
映った者は勿論、覚悟。
但し、当の覚悟は左手を開き真っ直ぐ此方に向けている。
瞬間、カニロイドは己の危機を悟った。

「シ、シュシュシュシュシュシュ!?」

束の間もなく覚悟は左腕から超高熱弾、“昇華弾”を発射しカニロイドに追撃。
カニロイドは悪鬼の一人であり残虐非道なBADANの一味。
許せぬ感情はあれど、掛ける情けなど考える余地は皆無。
昇華弾の行く末を覚悟はその両眼で見届ける。
一方、カニロイドもそのまま何もしないわけにはいかない。
カニロイドが咄嗟に取った行動は一つ。
見るからに高い温度を持っている事が判る昇華弾に対しカニロイドは背を向けた。
何故ならカニロイドの背中には一際堅牢な甲羅を模した外殻で構成されている。
ショットガンすらも、ヘリコプターの特攻ですらも凌ぐほどの強度を持つ自慢の殻。
これなら心配する事もない。
そう思い込みカニロイドは半ば安堵すらも覚えながら昇華弾の接近を許す。
直撃する昇華弾の感触を確かめ――る間もなくカニロイドの背中に炎が燃え広がり、やがて全身が赤い業炎に焼かれた。
データで確認したよりも更に高い発熱に身を悶え、転がるように床を移動しカニロイドはそのまま覚悟から距離を取る。
一瞬の内にジゴクロイド、カニロイドの両名を撃退した覚悟。
零を全身に纏っているために外からでは判別できないが、彼らとの闘いで感じた疲労の色は見えない。

「ケッ! やってくれるじゃねぇかぁ……葉隠覚悟ッ!!」

その事が既に体勢を持ち直したジゴクロイドは気に食わなかっただろうか。
言葉とは裏腹に若干この状況を楽しんでいる様子すらも感じられる。
実際、あっさりと自分をいなした覚悟の事が憎々しもあり、それでいて認めているに違いない。
手合わせをしてから培っていた想いは更に固くなり、ジゴクロイドは覚悟を自分に喜びを与えてくれる存在だと完全に認識する。

「だがなぁ! まだまだこれからってもんよぉ! もっと楽しもうぜぇ……クヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」

下品染みた、節操もない笑い方。
禍々しい形相を浮かべるジゴクロイドはジリジリと覚悟の方へ再び近寄る。
手痛い反撃を貰ったが未だ足りない。
寧ろ改めて身を持って覚悟の力量を体感した事で欲求は深まった。
底知れぬ欲求を糧にジゴクロイドは自らの戦意を、歩みを止めようとはしない。
燃え盛る炎をようやく消し終え、慎重に事の成り行きを観察するカニロイドにも興味はないようだ。
ジゴクロイドの興味の対象は既に覚悟只一人のみ。
両腕をだらしなく開き、鋏の先端で床を擦りながらジゴクは一歩ずつ進み続ける。

「……おい、どうした? てめぇ、本当にヤル気あんのか……」

しかし、ジゴクの表情は歪み、段々と機嫌が損なわれていく。
元々気性が荒く、感情の浮き沈みが激しいとはいえこれ程までにもはっきりと顔に出るものなのか。
否、ジゴクの感情の推移には確かな理由がある。
事の張本人は今も対峙する覚悟。
それは今まで気にはなっていたが口には出していなかった事。

「なんでずっと黙ってやがる! 気に入らねぇ…… ああ!その澄ました態度は気に入らねぇなああああああああああああああああああ!!」

そう。初めの宣言以来覚悟は一言も口を開いていない。
既に眼を通し、実際に監視カメラで見た分では確かに覚悟は無口という部類には入るだろう。
だが、これほどまでに言葉を発しないのには流石に不信感を覚えるのは無理もない。
やがて募った思いは不審すらも超えて、いつしか明確な苛立ちへと姿を変えてゆく。
両腕を打ちつけて、不愉快な音を撒き散らしながらジゴクロイドは狂ったように叫ぶ。
いつ飛び出しても可笑しくはない。
言うなれば拘束の首輪を外された獰猛な獣が野に放された光景。
ジゴクロイドの兄弟とも言えるカニロイドは動かない。
じっと石のように固まり、自分の最善の行動を見定めるように沈黙を貫く。
そしてジゴクロイドの怒声すらも碌な反応を見せなかった覚悟。
そんな彼は漸く強化マスクで隠された口元を動かし始める。

「……一つだけ訊かせてもらいたい」
「あぁん!?」

呟いた覚悟に口汚く言葉を返すジゴクロイドを気にした様子は見られない。
只一つの問いかけに対する答え。
覚悟には既に予想は出来ているかもしれない。
だが、それでも“ある”事を決断するためにも――覚悟はジゴクロイドに再び問う。

「キサマの拳は何のためにある? BADANのためにか? だが、それでは味方を容易く見捨てる理由にはあらず!
たとえキサマは同士と認めていなくとも我らを打ち倒すため、BADANの野望とやらを達成するには一人でも多い方が良いだろう」
「ハァ? 何かと思えばつまらねぇコト訊きやがって……俺は楽しめればそれで良いんだよ。 大体なぁ、俺がてめぇに負けるわけがねぇ!
取るに足らねぇ人間如きが……其処等辺に生えてる雑草の様な奴らがBADANである俺に挑む事自体笑えるぜッ!!」
「ならば――その腐った認識がいかに愚かなコトか思い知らせるのみ!!」


相変わらず騒々しさが目立つ叫びよりも更に大きな声を持って覚悟は一喝。
更に両の拳を握りしめ、覚悟は再び雷鳴の如く闘気を周囲へ醸し出す。
先程の闘いで覚悟が無言で闘っていたのは昂った心を静めるための手段に過ぎない。
最終格闘技零式防衛術は己の感情を殺す事で完成と見なす。
仲間の命に対して何も感じる節が見られなかったジゴクロイドへの大きな怒り。
内なる感情の渦を抑え、ジゴクロイドとカニロイドの相手をしていたが覚悟の挙動は確かに変化を見せ始める。
漸く本気になったのだろうか。
ジゴクロイドのお手軽な気性は打って変わって次第に良好なものとなってゆく――わけにはいかなかった。

「おいおい……ヤル気になったんじゃねぇのか、これ以上イラつかせんな。これは最後の警告ってやつだぜ、わかってんのかぁ……!」
「無論、伊達や酔狂でやっているわけではない」
「ッ!だったらよぉ――――」

呆れたように言葉を投げ掛けるジゴクロイドの表情は依然険しいもの。
寧ろ先程よりも険しさが酷くなり、呆れ返った様子に現れ始めた怒りは隠しようがない。
言葉を続ける度にその程度は増し、覚悟のさも平然とした答えが拍車を掛ける。
たった今覚悟が返した言葉がジゴクロイドにとって無性に気に入らない。
良くもそんな事を真顔で言えたものだ。
言葉と共にどす黒い悪意をジゴクロイドは覚悟に容赦なくぶつける。
そう。やっと言葉を発し、本腰を入れて闘う気になったと思った矢先に――


「なんで、てめぇはそんなフザけたもんを持ってやがるッ!?」


覚悟が一本のハリセンを手に取ったのだから。

◇     ◇     ◇

『覚悟! 何を考えている!? 我らには無駄にする時間などない!!』

今まで覚悟の闘い振りに感心し、口を出していなかった零が交信を飛ばす。
既に心を繋いだ仲である覚悟と零は一心同体の身。
覚悟の意思が零の意思となり、零の意思が覚悟の意思となる。
しかし、零の口調には慌ただしさがはっきりと感じ取れた。
何故なら零にとっても覚悟の行動は全く持って理解不能であったから。
BADAN壊滅のためには逸早く此処を突破する事は必要不可欠。
零式を持って迅速にこの場の敵を殲滅こそが第一の目的に違いはない。
たとえ自分が居なくとも覚悟なら容易く行えるだろう。
覚悟が繰り出す零式は既に従来の格闘技を軽く超越するものであり、事実彼は即急に決着を付ける筈だと零は思い込んでいた。
そのため、態々時間を掛けるような真似を仕出かす覚悟が零にはどうにもわからない。

「すまん、零。60秒……いや、30秒程で良い。俺に時間をくれ」

零の問いかけに答える覚悟。
その表情、声色が織りなすものは強い意思。
先程、覚悟自身が言ったように、決して伊達や酔狂のような軽い感情から起きたものではない。
覚悟の只ならぬ決意を全身で感じ取り、零も腹を据えた。

『了解! 信じるぞ、覚悟!!』
「応!」

想いは一つ、零は再び覚悟に全てを委ね彼はそれら全てを心身で受け止める。
右腕に強く握りしは真っ白な、何の変哲もないハリセンのみ。
だが、覚悟が放つ闘気はいつにもまして無骨ながら一流が成せる代物。
そう。それで十分なのだろう。
未だ覚悟の真意が判らずとも零が覚悟を信頼しない筈がない。
彼ら二人を結ぶ絆がその程度でどうにかなるものでもないのだから。
燃えるように滾る覚悟の熱い鼓動を直に感じながら、零と覚悟は再び一つの炎となる。

「ふざけんじゃねえぞおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

そんな時ジゴクロイドが地を蹴り飛ばし、覚悟へ向かう。
この状況であんな玩具のような物を取り出した覚悟。
どう考えても自分を舐め切っているとしか思えない行動。
しかもそれでは飽き足らず今度は此方を無視するかのように鎧と会話をしている。
我慢の限界はとっくの前に過ぎ去っており、そもそもジゴクロイドに引き下がる理由もない。
思い立つ事は覚悟をどんな風に殺してやろうかという事だけ。
一瞬では面白くない。
出来るだけ楽しめるように、覚悟に恐怖を植え付けるように、惨たらしく殺すために。
思わず笑みすらも零れそうな甘美な妄想にふけながら、ジゴクロイドは正面を見据える。
只の望みで終わらせるのではなく、現実のものとする。
覚悟とはまた異なった決意を抱きながら突撃するジゴクロイドはやがて――眼を疑った。
ジゴクロイドが見たものは今までとは違い、自分の方へ疾走した覚悟。
それだけならジゴクロイドは驚く事はなかったかもしれない。
だが、あくまでもそれはジゴクロイドの予想の範疇内での行動を覚悟が行った場合に限る事。

「なっ!?」

そう。只、覚悟が見せた速度があまりにも速かった事にジゴクロイドは純粋に驚いていた。
横殴りに振りかぶった右の刃は呆気なく避けられ、覚悟が一瞬で距離を詰める。
確かに監視カメラによる今までの戦闘記録や事前データで覚悟が相当の実力者である事はわかっていた。
しかし、これはあまりにも予想を超えている――ならどうするか。
どうにか状況を把握し、次の対抗策への決定を僅かな時間で迫られたジゴクロイド。
既に闘う意思は十分な覚悟が悠長に黙っているわけがない。
更に前へ踏み込み、左腕を振り翳そうと動くジゴクロイドへ覚悟の身体が飛び込む。

「遅い」
「ッ! てめぇ、やっぱり俺を舐めてるだけじゃねぇかッ!!」

今や重なるかと思うほど近づいた二つの身体が再び離れる。
ジゴクロイドの横を抜ける間際に覚悟はハリセンを振い、一閃の軌道を描いた。
右腕に握ったハリセンを少し下げ、掬い上げるように一気に振りぬく。
丁度胴に値する部位を弾く様に打ちつけるような一発がジゴクロイドの身体を叩いた。
無論、その打撃に殺傷性などある筈もなくあるのは只、闘いに似つかわしくない軽快な音の響き。
もし覚悟の獲物が一本の真剣であったならば既に致命傷と成り得る一撃。
遊ばれているとジゴクロイドが思うのも無理はないだろう。
碌なダメージは受けていないため、直ぐにジゴクロイドは覚悟へ振り向く。
振り向きざまに覚悟の頭部に狙いを付け、右腕を怒りに任せて振り上げる。

「クソがッ!!」

しかし、覚悟は僅かに身を逸らす事で襲い来る斬撃から逃れた。
焦る様子など微塵も見せない。
何処か別の場所からジゴクロイドの挙動を見通しているかのように、その行動には無駄もない。
それどころか覚悟はカウンターの要領で、ジゴクロイドの右腕を逆にハリセンで弾く。
先程と同じくジゴクロイドの身体に痛みは生じないが、ジゴクロイドの表情は更に歪む。
またも覚悟に良いようにやられた事。
そして相変わらずこんな胸糞の悪い事をやってくれる覚悟の真意の不明瞭さがイラつかせる。
寧ろ不気味さえ思えてきたジゴクロイドはがむしゃらに左腕を、右腕を――両腕を振り廻し覚悟の身体を切り刻みに掛る。
同時に覚悟も依然ハリセンを握りしめ、ジゴクロイドへ駆け寄る。
この闘いで見せた中で一際速い速度を鍛え抜かれた両脚で演出しながら――覚悟は叫ぶ。

「キサマは宣言した、人間など取るに足らぬ存在だと……否! 断じて否! そんな戯言は認めん!
今、この場で敢えて拳を使わない理由は一つ! 俺はキサマが軽んじた人間の力を打ち込んでいる!」

交差するように迫ったジゴクロイドの両腕を掻い潜り、ハリセンを振るう。
同時に声を大にして叫ぶのはジゴクロイドの言動への怒り。
人間を人間と思わないジゴクロイドはまさに真の悪鬼、遠慮はいらない。
猛烈な勢いで打ちつけたのはジゴクロイドの左頬。
只、人間の尊厳のためだけに振るったハリセンだが未だにジゴクロイドに碌な外傷は与えられない。
だが、幾ら打撃性がないと言えど全く意味がないわけでもない。
ジゴクロイドの左頬を抉る様に走ったハリセンによる衝撃。
使い手である覚悟の尋常でない力により繰り出されたその一撃にはハリセンでは到底考えられない程の威力がある。
流石に首が捻じれ切れる程はないまでも、ジゴクロイドの頭部を揺さぶる事には充分。
反吐が出るような覚悟の言葉、思わず視点を揺さぶられた怒りを燃やしながらジゴクロイドは一旦距離を取ろうとする。

「受け切れまい! このハリセンは我が戦友が遺した品、キサマが笑いし人間の力が籠っている!
そうだ、今の俺にとってはたとえ一本の刀よりも心強い! 俺を信じてくれた友の! 俺が信じた友の! 繋いだ絆が俺を熱く滾らせる!!
キサマは人間の力に負けるのだ、悪鬼ッ!!」

だが、覚悟は逃さない。
右に左に、何度もハリセンを振いジゴクロイドはやがて視線を一定に保てなくなる。
覚悟の脳裏に浮かぶ人影はこのバトルロワイアルで戦友と認めた一人の男。
特に秀でた能力はないにも関わらず義の心を――失われた侍の魂というべきものを秘めていた少年。
志村新八から譲り受けたハリセンを存分に振るいながら、覚悟は天を突く勢いで言葉を並び立てた。
さながら疾風怒濤の猛攻で攻め立てる覚悟にジゴクロイドは為す術がない。
自分が信じる人間の尊厳の炎を燃やし、信念の元に闘う覚悟にかかればハリセンですらも見る者に脅威を齎す。
今まで周囲を包囲していたコマンドロイド達もカニロイドも一歩も動けない。
非殺傷の武器でジコクロイドを此処まで追い詰める覚悟に彼らは思わず戦慄していたためだ。
しかし、依然、猛攻を受け続けているジゴクロイドの表情がやがて嬉しそうに歪む。
そしてなりふり構わず両腕を使って強引に後方へ跳んだジゴクロイドが口を開く。

「ク、クヒヒヒヒヒヒヒ! 記憶にあるぜ! 確かお前にそれをやったのは志村新八というガキ……ケケ、あいつの最期は呆気なかったなぁ!
吉良吉影とやらに騙されて、あいつの能力……スタンドで爆発させられてたぜ!
そうさ、あっさりとマジで何もできずに死にやがった……あの時は腹を抱えて笑わせてもらったもんだ!!」

ジゴクロイドが本当に嘲笑っていたのかは判らない。
参加者の監視といえども、一般人の部類に入る新八を態々気にかけていたかどうかは疑問が残る。
恐らくジゴクロイド自身も記憶が確かではないのかもしれないが、そんなことは最早関係がない。
覚悟が口に出した新八を口汚く罵る事で溜まりにたまった鬱憤を晴らそうと考えたのだろう。
ハリセンの猛打によって、赤く腫れ上がっていたジゴクロイドの表情はみるみる活気を取り戻す。
残虐非道の性格の持ち主であり、矮小な人間が恐怖で慄く様子が好きでたまらないジゴクロイド。
満足げに浮かべるその醜い笑顔には一種の達成感すら見えていた。
そしてジゴクロイドは視線を動かし始める。
自分の言葉を受けて覚悟はどういう反応を示すだろうか。
悲しみに暮れるか、それとも自分自身に対して怒り狂った姿を見せつけるか。
いや、もしかすればショックで馬鹿みたいに呆然と立ち尽くしているかもしれない。
密かに抱いた期待を膨らませながら、ジゴクロイドは覚悟を捜すが――その必要はなくなった。


「ガッ!」
「戦士の最期を侮辱する者――畜生よりも劣るなり!!」


何かが火を噴く音が聞こえていたかと思うと、ジゴクロイドの右頬に鋭い衝撃が走る。
打撃の主は勿論覚悟、使用した獲物は今まで通りのハリセン、ジゴクロイドが聞いた音は零のバーニアの音。
ジゴクロイドが離脱した瞬間、既に追撃のために覚悟は突進を掛けていたためジゴクロイドは予想外の一撃を貰う。
新八の死について吉良がやったという事だけは服部平次から既に聞いていた覚悟。
それでも再び新八の死を、それも詳細を知らされる事は酷な事だろう。
事実、覚悟の動きは若干鈍り、ジコクロイドへの攻撃はほんの少し遅れていた。
だが、覚悟は泣きごとの一つも決して口には出せない。
ジゴクロイドのような下賤な男に言いように言われた新八の尊厳を守るように、宿した感情を力に変えて叩き込むのみ。
あまりの衝撃、覚悟の本気の力が籠ったハリセンは圧倒的な力を生み、ジゴクロイドの身体をきりもみさせ――吹き飛ばした。
まさかハリセン如きでこれまで――。
思わず周囲を取り囲んでいた全員がそう思っていただろう。
そう。それは宙を舞うように浮いていたジゴクロイド自身が一番強く思っているに違いない。


「――ッ! 何してやがる、てめぇらッ! さっさとこいつをブチ殺せええええええええええええええええええッ!!」


最早、手段などどうでも良くなったのだろう。
無理やり身体を捻り、両腕で床を切りつけるように跳ね上がってジゴクロイドは大勢を整えた。
雁首を揃えて事の成り行きを見守るしかなかったコマンドロイド達に、ジゴクロイドは指示を飛ばす。
誰がどう見ても怒り心頭といった様子で両目は赤く血走っている。
暗闇の子とも言える存在であるため、コマンドロイドは命令に逆らうわけにはいかない。
直ぐに各々地を蹴って、覚悟を倒すべくコマンドロイドが殺到する。
そしてハリセンを構えていた覚悟は己の身体を徐にコマンドロイドの集団に向き直す。
何故か再び覚悟はバイザーを下げ、その素顔を周囲へ曝け出し、ハリセンを見つめ続ける。

『気が済んだか、覚悟?』
「ああ、すまなかったな零。これで迷いはない」
『ならば良し! きっとお前の友も満足であろう』
「そうであるコトを希望する。では――行くぞ、零!!」
『了解!!』

ハリセンを凝視していた覚悟の視線がやがて離れる。
両目に映る影は自分の方へ群れをなして走ってくるコマンドロイドの大群。
覚悟は必勝の身では非ず、いつかはその命を散らすだろう。
しかし、恐怖などはない。
必ずしも勝てるとは言い切れない闘いに身を投じた時は口に紅を引いて、敗北の瞬間に礼を尽くす。
そう。たったそれだけの事。
負ける事は恥じる事ではない、闘わぬ事が恥なのだ。
故に覚悟はどんな状況でも闘い、そして絶えず己の死を覚悟する身である。
だが、今この闘いでは覚悟は微塵にも恐れは感じていない。
その手に握り締めたハリセンが覚悟に言いようのない力を与えてくれるためだ。
本来の世界で堀江罪子や覇岡大らと結んだ仲間という絆。
この殺し合いで知り合い、別れ、そして歩んできた仲間の一人一人の面影を思い浮かべ覚悟は再び構えを取る。
バイザーを上げ、ハリセンをその場に置き、雷鳴染みた闘気を遠慮なく焚きつける。

――覚悟完了!

再度、零と心を繋ぎ、覚悟はコマンドロイドに真向から突撃する。

◇     ◇     ◇

「おいおい……なんの冗談だよ、これはよぉ!!」

ジゴクロイドが叫ぶ。
その声には今まで見せなかった恐れすらも見える。
そう。ジゴクロイドは今、目の前で起きている事が信じられない。
未だに覚悟の身体が地に倒れ伏していない事にジゴクロイドはその場に立ち尽くしていた。

「どうした! 俺は未だ健在なり!!」

既に残骸となりしコマンドロイドの数は十よりも多い。
仮面ライダーZXのボディを模して造られたため、そのスペックは一般の戦闘員にしては低くない。
覚悟と零の力量が更にその上を行くだけの話。
その実力は必要以上の感情を消去されたコマンドロイドですらも畏怖する。
だが、命令がある限り彼らは覚悟と闘わなくてはならない。
更にもう一体のコマンドロイドが意を決したように覚悟へ挑む。
覚悟へ拳を叩きこもうと右の拳を振り上げながら走りゆく。

「直突!」

しかし、粉砕されたのはコマンドロイドの方。
コマンドロイドが放った拳は覚悟の左手の掌握により完全に沈黙。
お返しと言わんばかりに打ち放った拳で覚悟はコマンドロイドの頭部を潰す。
相手の攻撃を受け、逆に避ける暇もなく反撃を行う。
言うなれば肉を切らせて骨を断つカウンター技法こそ覚悟の真骨頂。
今まで何度かコマンドロイドの拳を受けたため、左腕には若干のしびれがあるが問題はない。
正拳――直突を放った拳を引き戻し、覚悟は次の攻防に備え始める。
見れば今度は残った五体のコマンドロイドが一斉に覚悟へ向かっている。
今更動じる事もない。
冷静に左腕を構えて、覚悟は咆哮を上げた。

「零、昇華弾!」
『任せろ! 昇華弾発射!!』

撃ち出された業火の弾丸が一体のコマンドロイドに直撃。
あまりの威力に周囲のコマンドロイドにも飛び火し、彼らの進行の勢いは衰える。
やがて沈黙を余儀なくされた一体から距離が遠い順に、計三体のコマンドロイドが覚悟を襲う。
先頭のコマンドロイドは簡易型の電磁ナイフを構え、我先にと覚悟の腹部へ突き刺すに繰り出す。
後方の二体は十字手裏剣、そして特別に持たされた衝撃集中爆弾で覚悟の動きを牽制する。
一人一人では相手にはならないため、集団戦を仕掛けた事は評価出来るだろう
だが、その挙動も覚悟には遅いものであった。
幾らスペックが優れていようとも心が――魂がなければ恐るには足らない。

――一体目

十字手裏剣と衝撃集中爆弾を多少その身に受けながらも、掻い潜った覚悟に肉薄。
電磁ナイフを身を横に逸らす事で避けられ、反撃に強烈な肘打ちを胸部に喰らう。
たちまち教部装甲がボロボロと音を立てて崩れさる。
一体目が地に倒れ伏すまでに覚悟は眼もくれず、突進。
続く二体目に向かった。


――二体目


主に十字手裏剣での掃射を担当していたコマンドロイド。
今まで目の前で同類達が何度もやられているのを確認したにも関わらず、覚悟の速度を誤算。
ショートレンジの闘いを余議なくされ、右足による回し蹴りを狙うが時既に遅し。
突進の勢いを利用し、一回転を経て繰り出した覚悟の裏拳を顔面に直撃する。
防ぐ事は叶わず、めでたく残骸の仲間入りを果たす。
そして既に標的は三体目に移り変わる。


――三体目


衝撃集中爆弾を投げていたコマンドロイド。
二体目と同じく距離の近さを確認。
先の一体よりは余裕があったため、右膝に衝撃集中爆弾をセット。
自爆覚悟で右膝蹴りによる着弾を狙う。
渾身の力で振りぬくが、覚悟との距離感が著しく狂った。
瞬時に軽く零のバーニアを噴き、距離を詰めた覚悟が放ったものは正拳。
剛拳により胴を貫かれ、やがてそれっきり動かなくなる。
右腕を振い、三体目のコマンドロイドの残骸を振りほどき、覚悟は更に前方へ跳んだ。


――四体目


先刻、昇華弾の直撃を喰らったコマンドロイドの一番近くに居た一体。
漸く炎の勢いも収まり、体勢を整え直した矢先に覚悟の急速な接近を察知。
直ぐに覚悟の攻撃に備えようと構えるが、ふいに彼のメインカメラが死んだ。
コマンドロイドの顔面に、覚悟の右足が突き刺さり、全てを粉砕している。
己の作戦失敗を悟り、四体目、最後のコマンドロイドの意識は深い闇に沈む。

――そう。此処を持ってこの場に居る全てのコマンドロイドが機能を停止した。


「シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!!」


そんな時、今まで様子を窺っていたカニロイドが覚悟へ向かう。
恐らく覚悟の疲労が溜まるのを待っていたのだろう。
コマンドロイドを覚悟の消耗を誘うために敢えて自分は手出しに入らなかったカニロイド。
見てみれば覚悟が纏う零にも所々傷が見え、覚悟の息も荒い。
ジゴクロイドに手柄を、得物を取られる前に自分が覚悟を殺すのには絶好のチャンス。
そう思い立ち、カニロイドは全速で覚悟の元へ走り始めた。


「――赤熱化!!」


一方覚悟も零のバーニアに火を灯し、カニロイドへ突撃。
零によって発された高熱を全身に纏い、真っ赤に発光する覚悟。
蒸気すらも立ち昇り、その温度の高さを物語る。
両腕を握り前方へ突き出し、真紅の弾丸となりてカニロイドへ恐るべき速度で迫る覚悟にカニロイドの両眼が妖しく光った。
再び口元のノズルを動かせ、強力腐食液を噴射するカニロイド。
真っ向から突き進む覚悟に避ける様子は見られず、カニロイドは勝利を確信する。
だが、それが間違いである事をカニロイドが知る事は永久になかった。


「手緩い! 激突!!」


赤熱化により高熱の膜とも言うべきものを纏った覚悟。
そんな覚悟に振りかかろうとした腐食液はあまりの高温で蒸発。
覚悟には一滴も掛かる事はなく、覚悟を遮るものは最早は何もない。
勢いを殺すことなく、覚悟は赤く光った両腕で呆然とするカニロイドの身体を一瞬でぶち貫き――通り抜けた。


「――!!!!!?」


赤熱化を解き、軽く膝を地につく覚悟の後ろでは大きな穴が空いたカニロイドの姿。
先程の昇華弾で相当装甲が脆くなっていたのだろう。
背中の殻ごと身体の半身を削り落すように焼失したカニロイドはゆっくりと倒れ、やがて大きな爆発が起きる。
それが暗闇の子の一人、カニロイドの最期だった。


「てめえええええええええええええええええええええええええええええッ!!」


カニロイドが死んだための叫びではない。
ジゴクロイドが抱くのは只、これほどまでにも好き勝手にやってくれる覚悟への怒り。
覚悟に抱いていた恐れを振り払い、ジゴクロイドは両腕を翳しながら両脚を走らせる。
このまま戦況を暗闇大使に報告するわけにはいかない。
自分が必ず覚悟の首を取らなければこの失敗は許してもらえないだろう。
がむしゃらに身体を動かし、覚悟にありったけの恨みや怒りをぶつけるためにジゴクロイドは地を駆ける。
そんな時、ジゴクロイドは見た。
何故か、一段と険しい表情を浮かべた覚悟の姿が異様に大きな存在に錯覚してしまう。
理由は全くわからない……いや、認めたくない。
そう。ジゴクロイドは今も恐怖していた。
覚悟の計り知れない力は到底自分が叶うものではない――その事実を認識することが、只純粋に。


「おらあああああああああああああああああああああああああああああッ!!」


両腕を真上から真下に振り下ろす。
後の事など考えていない、考える余裕もない。
覚悟を殺すだけを考えて放った斬撃――しかし大きな手ごたえを感じない事に思わずジゴクロイドは怒りを通り越し、悲しみすらも覚えた。
そして零の左腕部の辺りに小さな亀裂が入った覚悟が飛び込む。
右腕を振りかぶり、ジゴクロイドの懐へ一瞬で近づき――


「――因果ッ!!」


天に突き上げたかのように撃ち出した必殺の正拳、“因果”がジゴクロイドの腹部に食い込む。
所詮、一発でしかない拳。
だが、その一撃はジゴクロイドに尋常ではない痛みを味あわせ、彼は抵抗の術を失った。
貫かせたまま覚悟は腕を上げた事により、ジゴクロイドの身体が宙へ浮く形となる。
既に勝敗は決した。
だれの目にもジゴクロイドには腕一本動かす力はなく、覚悟が勝負を制したと思える光景。
しかし、ジゴクロイドは勝ち誇った顔で口を開き始める。


「けっ……俺に勝ったからっていい気になるんじゃねぇぞ……。BADANには親父が……暗闇大使が居る……。
津村斗貴子とかいう女が殺し合いに乗ったのも……親父のお陰だ……」
「なんだと! 真か!?」
「当たりめぇだろ……へっ、親父は俺たちより容赦がねえぜ……精々後悔するんだな。
……人間の……分際で親父を、BADANを……敵に回したお前たちの愚かさを……地獄で待ってるぜ、クソ野郎が…………」


苦し紛れに言い放ったジゴクロイドの言葉。
津村斗貴子の一件に暗闇大使という男が関わっていたという事実が強烈に響く。
ルイズを、柊つかさを、川田章吾、そして自分達に襲いかかった悲劇。
許してはおけない。
全ての発端となった悪鬼の存在を認識し、打倒暗闇大使を深く心に刻み込む。
そして覚悟は口を開く。
悪鬼といえども自分に対し最後まで闘ったジゴクロイドに言葉を送るために――


「ならばキサマ達、BADANが何度でも我らに勝利はないと言ったとしてもその都度、俺はこの言葉で答えよう――」


バイザーを下げ、空いた拳を握る。
それは決意の現れ、今後全ての使命を必ずやり遂げる事を示す近い。
既に何も反応を示さなくなったジゴクロイドに、何処かで見ているかもしれないBADAN共に叩きつける。



「人間は――決してBADANには負けない」



牙無き人々のために闘う覚悟は人類を愛し、その力を知っている。
その口調には一片の迷いなどはない。
持ち上げた腕で昇華弾を撃つのと、覚悟が言葉を発したのはほぼ同時。
赤黒く燃え上がるジゴクロイドの残骸を振り落とし、覚悟はやがて背を向けた。


――この殺し合いを一刻も早く終わらせるために。



【ジゴクロイド@仮面ライダーSPIRITS:死亡確認】
【カニロイド@仮面ライダーSPIRITS:死亡確認】

【エリア外 サザンクロス内部/2日目 日中】

【葉隠覚悟@覚悟のススメ】
[状態]:全身にダメージ中。疲労中。首輪が解除されました。
[装備]:強化外骨格『零』@覚悟のススメ
[道具]:大阪名物ハリセンちょっぷ 滝のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS(ヘルメットは破壊、背中部分に亀裂あり)、首輪(覚悟)
[思考]
基本:牙無き人の剣となる。この戦いの首謀者BADANを必ず倒し、大首領を殺す。
1:別れた仲間と合流。
2:葉隠四郎、暗闇大使を必ず倒す
3:ヒナギクを愛さない
【備考】
※零と一体になる事に迷いはありません


【対主催者グループ共通思考】
『大首領を殺す作戦』
1:大首領を強化外骨格の中に降ろしてから、成仏鉄球で成仏させる。
2:そのためには大首領を弱らせる必要がある。
3:強化外骨格内部の死者ならば、大首領を内側から攻撃できる可能性が高い


254:真・仮面ライダー ~決着~ 投下順 256:Bellis perennis
254:真・仮面ライダー ~決着~ 時系列順 256:Bellis perennis
251:人の瞳が背中についていない理由は 葉隠覚悟 258: