拳(二章) ◆1qmjaShGfE



力を信奉するものが辿り着く、戦力の極致とは如何なる物であろうか。
科学者ならば、保持し得る最大のエネルギーを速度、パワー、防御の三つにバランス良く配分する事を考える。
軍人ならば、そのエネルギーを行使する戦術に特化した形に振り分け、状況に応じて使い分ける事を考える。
政治家ならば、目指す戦略目標のみを確実に、正確に撃破出来る能力こそ必要と考える。
ではそのどれとも違う、改造人間の長であり、個人の有する最大戦力をこそ欲した暗闇大使はどうであろうか。
全ての戦況に対応出来、全ての武器を物ともせず、全ての防御を突破する矛を持つ、そんな矛盾の塊を追及したのではなかろうか。
厚い装甲を維持するには、その重量に負けぬだけの出力が必要となる。
強力無比な武装には、その火力を支える圧倒的な出力が必須である。
永劫とも言える程の継戦能力を支える再生には、莫大な出力が不可欠。
攻撃手段をミサイル、電磁鞭、格闘の三つに絞り、一瞬で消滅せぬ為の防御には殻を当て、どんな状況からでも再生しうると言い切れる程の再生能力を持つ。
生存に必要なエネルギーは全て体内で精製したもので賄い、外部からのそれは最低限のみで済ませる事で身体構造に関わる致命的な生物兵器を無効化する。
余剰エネルギーは全て体内にて蓄積し、攻撃、再生、運動エネルギーのどれにでも変換可能とする。
BADANで常時研究され続けている改造人間のノウハウは、全てがこの不可能な命題に挑む為のもの。
暗闇大使は先の敗北の反省として、常に最先端の状態に自らを置くよう務めた。
最後の最後に頼りになるのは自分のみであると、骨身に染みた結果であった。



ゼクロスとタイガーロイドはミサイルの弾幕に完全に捕まってしまった。
これは最早自力での脱出は不可能だ。
当初三影へと放たれていた程度のミサイルならば、強引にでも抜け出す事も出来よう。
だが、今暗闇から放たれているミサイルは、その速度も破壊力も桁が二つ程違う。
一撃もらっただけで、その部位は動作不良を起こしてもおかしくない。ゼクロスやタイガーロイドの構造強度をもってしても、そう言い切れる。
HNIWが泣きながら土下座するような超がつく高性能爆薬を積んでいるのだろう。体内でそんなものを精製してしまう神経が凄い。
タイガーロイドを再生し、ゼクロスをバラした事もあるパピヨンは、二体の能力をかなりの所まで理解している。
あれでは二体共数分と持たずバラバラにされ、その後破片すら残らず消滅させられるだろう。
といった事を、冷静なパピヨンならば判断し得たのだろうが、生憎今のパピヨンにそこまでの思考を行う事は出来なかった。
自分がなしえなかった戦いを二人に重ねていたパピヨンは、その戦いに水を差した暗闇大使を、憎しみすら篭った目で睨みつける。
核鉄サンライトハートを作り出し、暗闇大使を刺し貫かんと振りかぶる。
しかし常ならばあるはずの、握った腕に確かに響く力の脈動が無い。
サンライトハートは確かに作り出せた。
だが、三影との戦いの中、ヘルメスドライブを盾にしたとはいえ、三影の最大出力ビームの中を身一つで突き抜けたのだ。
決して防御能力が高いといえないパピヨンにとって、これは大打撃に近い。
そしてシビアなどという言葉ではとても表しきれぬ刹那のタイミングを綱渡りのようにくぐり抜け、成否も定かでない状況で先を見越した手を打ち続けた。
かつて無い程の集中力を必要としていた事もあり、パピヨンの疲労は限界に達していたのだ。
ならばと広間に飛び降り、槍を手にしたまま暗闇へと走り出す。
最速を維持さえしていれば、奴がこちらに攻撃を仕掛け始めるタイミング次第だが、ミサイルをかわしつつ速度の乗った状態で槍を突き刺してやる事が出来るはず。

後三メートル、二メートル、一メートル、良し! ここまで踏み込めれば辿り着ける!

パピヨンの想定していた間合いより2メートル程内側に入った所で、暗闇大使が迎撃のミサイルを飛ばす。
村雨、三影への攻撃を維持しつつなので、あくまで牽制程度の精度である。
これならば回避も充分可能……

不意に右膝が地に落ちる。

自身が考える以上にパピヨンは消耗していたようだ。
それでもパピヨンは諦めない。
後一発、サンライトハートがその本来の威力を発揮してくれれば、迫るミサイルを蹴散らしつつ、暗闇大使を止める事が出来る。
ゼクロスとタイガーロイドの二体ならば、例えボロボロになっていようと意識さえ残っていれば、そこから必ずや反撃の機会を拾い上げる。
「この程度で泣き言を抜かすな武藤!」
叫びながら投げつけたサンライトハートは、パピヨンの闘志を感じ取ったか布の帯をエネルギーに変え、一直線に暗闇大使へと突き進む。
迎撃のミサイルを砕き、弾き飛ばし、まっすぐに。
最後の一発、それさえくぐりぬければ暗闇大使まで遮る物もない最後の関門。
そこで遂にサンライトハートは力を失い、甲高い音と共にミサイルに跳ね飛ばされた。
力を失いくるくると宙を舞うサンライトハートを他所に、まっすぐパピヨンへと伸びるミサイルの軌跡。
パピヨンは動かぬ体でそれを凝視する。
「俺は帝王だ! こんな所で……こんな所で死んでたまるかああああああ!!」



「あるるかあああああああん!!」



純白の影が倒れるパピヨンの頭上を跳び越し、神速と精妙を持ってミサイルの進路を逸らす。
遅れてパピヨンの側へと辿り着いた、影と同じく白い女。
首だけを曲げてそちらを見る。
手足から伸びる銀糸がきらきらときらめき、その先にある精緻な人形を操る、人形遣い。
「……キサマ、確かエレオノール……だったか」
「パピヨンはそこでお休み下さい。ここは私が」
威風堂々とそびえ立つ白く美しき人形は、自らの体当たりによって倒れた醜き殻持つ改造人間を見下ろす。
感情の篭らぬ人形の瞳は、繰り主の心を表してか、強く鋭く輝いてみえた。



既に重力の向きも元に戻った司令室は、一時の混乱を収め、ようやく本来の機能を発揮し始めていた。
コマンダーは最前線である対葉隠覚悟戦線における完全な指揮能力を取り戻しており、ようやくまともな迎撃作戦を行う事が出来る体勢が整った。
「集まった改造人間を十隊に分け、波状攻撃を仕掛ける! いいか一隊の交戦時間は一分以下にしろ! 一撃離脱だ! 攻撃し損ねても再攻撃なんて事は考えるなよ!」
コマンダーの指示は澱みなく前線へと送られ、忠実に実行される。
又サザンクロス内部の捜索班も順調に捜索範囲を広げ、その半ばまでは確認が完了していた。
並行して行われている発見後の迎撃用戦力確保も順調に進んでいる。
既に非戦闘員の避難は半ば以上完了している。
尤も避難したブロックにまともな戦力を置く余裕が無い為、シャッターを抜かれたらそれまでという心もとない避難所ではあるが。
非戦闘員の大半を占める科学者達はBADANの屋台骨とも言える大切な財産だ。これを失っては再建も覚束なくなる。
最重要人物である伊藤博士はどうやら戦闘に巻き込まれたようで、避難所で確認する事は出来なかった。
これは明らかに失態である。
しかし事ここに至って、コマンダーは失態だのなんだのは考えない事に決めていた。
良心の呵責などとうの昔に捨てている。
だが、それでも、同じ境遇に居る者達、彼等への仲間意識だけは消えてはいない。
いや、同じ傷を持つ者同士、今の自分を受け入れてくれる者は、共に改造の恐怖を乗り越えたこの仲間達以外にありえない。
数え切れぬ程の人間を見殺しにし、また自らの手にかけた彼等は、それ故、最後の最後まで生存を諦めぬ不屈の者達でもあったのだ。
コマンダーが最後の最後に選んだ頼れる人材は、そういった者達のみで構成されていた。
だからこそ、決して許せぬ事がある。
それは、オペレーターの嫌悪に満ちた声によりもたらされる。
「コマンダー! 第六ハッチ付近よりサザンクロスを離れる機影があります!」
きっとある。そう予想していたからこそコマンダーは冷静で居られた。
沈み往くBADANを見捨て、逃亡の道を選ぶ者も居よう。
それは確かに腹に据えかねるが、こちらにはそんなものにかかずりあっている暇など無い。
「数は!?」
「一体のみですが……あいつらっ……ちくしょう! あいつらバスターバロン持ち出しやがった!」
だが、それが切り札の一つ、巨大ロボットの核鉄バスターバロンを持ち出したとなれば話は別だ。
コマンダーは即断する。恐らく司令室に居る全ての人間がこの判断を支持してくれるだろう、そう確信していた。
「サザンクロスの主砲を使う! 矛先がこっちを向く前にあいつら一人残らず消し炭に変えてやれ!」
転移装置と同じく、いや、それ以上の重要度を持つ超ド級兵装。
本来サザンクロスの本体である暗闇大使のみしか使用出来ぬ主砲を司令室からも発射可能に改装したそれは、しかし暗闇大使の指示無しでは決して使ってはならない物でもあった。
先ほどコマンダーの顔の上に降ってきたオペレーターが端末を操作しながら応える。
「動力炉接続開始します! 臨界までおよそ三分!」
すぐ隣のオペレーターは気合の声と共に叫ぶ。
「おっしゃ! 接続回路確認! 八割グリーンですから何とかいけます!」
半ばヤケのようになりながら別のオペレーターも応じる。
「ああもう! どうなっても知りませんよ! 主砲周辺施設避難勧告開始します!」
黙々と作業を続けていたオペレーターは報告した。
「照準は考えなくても良いかと。あんなデカイ的、外す方が難しいですね……一応回避運動も計算に入れておきますから、十割当たります」
人の道を外れても、人の体を失っても、それでも人は生きていく。
随分長い事忘れていた、目的を同じくする仲間達との心地よい一体感に身を委ねながら、コマンダーは胸をそびやかす。
「カウントダウンは十秒前からでいい! 一発で叩き落せ! 出力不足だの、かすっただけだの、言い訳を聞く気も余裕も無いからそのつもりでいろよ!」






重力が戻った時、ずり落ちた簡易ベッドに頭をぶつけて大きな瘤を作った柊かがみは、サザンクロス内の一室に身を隠していた。
「……どうしてこう、私ってばみんなみたいにかっこ良く決まらないのよ……」
少し離れた場所にある村雨が飛び込んだ広間からは、断続的に爆発音が聞こえてくる。
扉を閉めてもこれなのだから、広間はきっと大騒ぎなのだろう。
それがわかっていても、かがみには為す術が無い。
今に始った事ではないが、自分の無力さが歯がゆくて仕方が無い。
思えば自分で戦った事なんて、あの吸血鬼との戦いぐらいだ。
それも、必死に槍を振り回してただけで、今なら吸血鬼はきっと手加減してたんだろうなあ、と理解出来る。
短時間の間に色んな戦闘をその目にしてきた。
その戦闘に自分が参加出来るかといわれれば、もうこれは断言出来る。NOだ。
スタンドディスクとか核鉄とか色んな道具があるが、あんなにぴょんぴょん動かれたらかがみにはどうしようもない。
格闘技の経験があるヒナギクや服部さんでさえ、怪人一人に苦労するのだ。
あの二人だって充分凄いと思う。あんなに忙しなく動きながら、相手の先を読んだり、次の攻撃の準備をしたりときちっと戦えるのだから。
そりゃ離れて見てる分にはある程度、どう動くとか、どうしたらいいか、とかわかる部分も出てくる。
けど、実際眼前に敵を置きながら、離れて見るのとは違う狭い視界、瞬時にどうすればいいか考えなければならない、なんて絶対に出来ない。
妬ましい、とはあまり思わない。
みんなこの場所に来るまでに一生懸命練習して、それであんなに強いのだから。
むしろそういった日々を過ごして来なかった自身を恥じてしまう。

多分、みんな私に生き残って欲しいと思ってる。
それは痛い程伝わってくる。自分の命を賭けても、私を生き残らせようと全力を尽くしてしまうだろう。
正義の味方が守るべき人間、そんな立ち位置が自分の居る場所だと思う。
卑下してるつもりも、みんなの善意の上に胡坐をかくような真似をするつもりもない。
でも、そういう事なんだと思う。
ここへの突入を認めてくれたのも、元の世界に戻る手があるとしたら、ここしか無いからだと思う。
だから、私がみんなに出来る事といったら、迷惑を出来るだけかけずに力を発揮出来るようにする事。
自分のわがままは抑えなくちゃならない。

……相手が村雨さんだと、何でかつい口に出ちゃうけど。

「よっし、落ち込みタイム終了っ! さー何か出来る事探すわよー!」
とりあえず部屋を物色する事にしたかがみ。
壁面一杯に敷き詰められたモニターがまず目を引く。
その前には操作盤らしき物があり、ボタンやらツマミやらが規則正しく並んでいる。
キーボードの様な物もあり、そのランプが光っている事からどうやら電源は入っていると思われるも、正直どう操作したものか見当もつかない。
が、そこで挫けては話は始らない。
家のパソコンを思い出してキーボードをいじり出す。
すぐに大きな難題にぶつかった。
「……マウスが無いわね……」
アルファベットを使う所までは一緒だったが、微妙にアルファベットの配列が違ってたりとか意味不明なボタンが複数あったりで、かなり面食らう。
「そもそもフォルダどーやって開くのよ! ……あー! 変な変換文字出ちゃったー! 私何処押したっけー!」
悪戦苦闘十数分。
ようやくノートパソコンと同じ造りの、キーボードのど真ん中にある、カーソルを移動させる為の突起のようなものを見つける。
更に時間を費やすこと十数分。今開いているアプリケーションが、前面にあるモニターを操作する為のものである事を理解する。
監視カメラのように、さっきまでかがみ達が居たあの忌まわしき街並み数箇所を映し出している。
これは今はもう必要無い。ならば別のアプリケーションをといじりだすと、その数が余りに多すぎて眩暈がしてくる。
山とあるアプリケーションも、アイコンの形でその機能を想像するしか無い現状では、ほとんど手探りと変わらない。
それでも、家族の中では自分が一番パソコン出来るので、事ある毎に色々と面倒な事をやらされていたが、そういった知識や問題解決の為の思考が案外役にたってくれた。
何でもやっておくものだと、一人頷く。
始める前は、異世界のパソコンをいじるなんて大それた事だと思っていたのだが、一生懸命集中してやれば、それなりには理解出来る物であった。
「SFも身近になったもんねぇ」
たまたまかがみの居た世界に近い造りの世界であっただけなのだが、かがみはしみじみそう呟いた。





メンバーの変更は役割の変化。
服部は口にこそしなかったが四つのチームにそれぞれ役割を課していた。
覚悟のチームと服部ジョセフのチームは強襲。敵戦力の粉砕を目的とする。
村雨は柊かがみを救出後、同じく強襲。柊かがみを抱えた状態での戦闘は難しいだろうが、村雨ならばと期待している部分だ。
そして赤木、エレオノール、桂ヒナギクの三人のチームには情報収集と撹乱を。
手数があれば、あの赤木ならば何かしら手を打ってくれるだろう、そう期待している。
しかし、服部ジョセフチームは早々にジョセフが倒れる事となり、服部一人で強襲は難しい。
ならば次に服部がやるべき事は赤木達と同じく情報収集と撹乱であろう。
もし首尾よく柊かがみを救出した村雨達と合流出来るのなら、柊かがみは服部が引き受けて村雨単騎での強襲をやらせてもいい。
流石にそこまで都合の良い話は無いとも思うが、ケースバイケースで目的を変更するというのは必要な事だ。
本音を言うのなら、敵さんを見つけるなり一人でも突っ込んでブチのめしてやりたくはある。
しかし、ジョセフを失ったばかりで、とてもじゃないが冷静とは言いがたい自分の感情に従って動くような真似は出来なかった。
どの部屋にもあるだろうと思っていた情報端末。
これを使って、内部の簡易地図を引っ張り出す。
言語の違いもなく、案外とスムーズに入手する事が出来た。
操作自体は服部の知るものとは違っていた為少々時間はかかったが、情報端末のありようは服部の知るそれと同じであった為、コツさえ掴めば普通に使う分には最早問題は無い。
柊かがみがそれを聞いたら、地獄の底にでも落ちたかのようにヘコみそうではあるが。
ただ、こんな真似が出来るのは、おそらく服部と零ぐらいであろうとも考える。
赤木ならば服部と同程度の速さでコツを掴めるのでは、とも思ったが、生憎赤木は情報端末が一般的ではない世界から来ている。
一から全てを理解するのは、やはり時間がかかるだろう。
記憶した地図上で、敵との遭遇を避ける道を選びつつ、服部は改造していない人間が集まるブロックを目指す。
道の先に二体の改造人間の姿が見えた。
風防の下に隠れるようにしながらアクセルを捻る。前輪が跳ね上がってひっくり返るような事のないよう全開にはしなかったが、まだ余裕はあるみたいだった。
「ライダーブレイクやあほんだらああああああああ!!」
それでもあっと言う間に時速四百キロを越えてしまう。
その癖、激突の際も考えていたような大きな振動は無く、ぶち当たった改造人間をピンボールみたいに弾き飛ばす。
直後ブレーキをかける。バイクの運転経験が無い奴がコレをやったら、速度を上げるだけでビビってバランスを崩すかもしれない。
ブレーキの加減も難しい。この速度でタイヤがロックしたらひゃくぱーこける。というか死ぬ。
内心びくびくになりながらバイクを止め、後ろを振り返ると、遙か後方で痙攣している怪人の姿が見えた。
Uターンして戻り、バイクを降りて改造人間にトドメを刺しながら服部は、バイクのありえないスペックに恐々とした。
「安定性、旋回性能、加速にブレーキ、どないなっとんねんこのバイク。四輪並の安定性にバイクの能力てイカサマやでコレ」
服部にはわかりえない事だったが、実はこの量産型ヘルダイバー、初心者が乗っても安心出来るよう各種の制限が加えられていた。
どんな状況からアクセルを全開にしようと決して引っくり返る事もなく、今でいうABSの超進化型を積む事でフルブレーキングでもタイヤのロックはありえない。
安定を保てない体勢になる前に、自動姿勢制御が働いて運転者の体重移動に寄らずバイクの平衡を取り戻す等々。
BADANの科学力は伊達ではなかった。
服部は手にしたソードサムライXを肩に乗せ、扉から恐る恐る顔を覗かす人物にそう語る。
「アンタもそう思うやろ?」
「ひっ!?」
即座に扉を閉めて部屋の中に閉じこもる。
問題ない。むしろ好都合。
ニアデスハピネスにより扉を爆破。ゆっくりと、室内に侵入し部屋を見渡す。
十人の人間が部屋の奥に固まって震えていた。
「やっぱり、避難し損ねた奴おったな。聞きたい事あんねんけど、構わんよな」
ドスの効いた声でそう脅すと、彼等は簡単に協力を約束してくれた。

彼等の風貌はいかにも科学者な方々。
まずは十人の立ち位置と挙動を観察した後、一番前に立っている男にBADANの中で重要な科学者を10人挙げ、その専攻を説明するよう命じる。
彼は順に名前を挙げていく。服部が目を付けたのは三番目に挙がった名前だ。
専攻はこの際関係ない。他の人間達が反応したその名前が重要なのだ。
反応といっても、僅かに目線が泳いだ。その程度であったが、服部には充分であった。
集団の最も後方に居た、初老の男を指差し、服部は命じる。
「その男、そいつを人質として連れて行く。お前等でそいつ拘束せえ」
明らかにうろたえるその男と、周囲の人間達。
そうだろう、その初老の男こそ、この部屋で最も高位にある人間。
それもBADANという集団の中でも明らかに別格扱いを受けている人物。
服部が部屋に入った時、他の者を押しのけるように後方に下がった男。
同格であるのなら、そんな真似をして押しのけられた男が黙っているはずがない。
更に老人であるというのがありがたかった。
年経た人間の顔にはそれまでの生き方が現れるというが、その男の顔に刻まれた皺は、人より優れた存在であり続けた者特有の尊大な表情を刻んでいた。
そして周囲の人間達は、服部の機嫌を伺うようにしながら、常にその男の動向に注意を払っていたのだ。
科学者の名を挙げさせたのは、単なるカマかけであったが見事的中。
これでその男の名と専攻は知れた。専攻に関しては狙っていた部署ではないので、どうでもいい範疇だったが。
さて、残った面々が指示を受けてどう動くか……

初老の男は、眼前の男をこちらに見えないよう蹴飛ばしている。
おそらくお前が代わりになれという意味なのだろう。
ここで服部は、トドメを刺しにかかる。
「心配すな。その男はやる事やらせたら、きっちり殺しとく。証拠は、何一つ残らへん」
蒼白になる初老の男は、怒り顔で周囲を見渡すが、彼に味方は居ないようだ。
一人がその手を掴むと、振り払う暇すらなく、全員がよってたかって老人を拘束する。
「こらこら、自分の足で歩かせるんやから足まで縛るなて」
理不尽な暴力に従い続けたであろう人間達、彼等の心底を読みきっていた服部には、この程度の事赤子の手を捻るようなものであった。





赤木シゲルは重力場が元に戻ると人の居ない一室を見つけ、そこでバックを漁り出した。
独歩の所持していた不明支給品二つ。これを確認しようと思ったのだ。
いや、先ほどヒナギクと休憩を取った際、一応見るだけは見てみたのだが、まるで意味がわからなかったのだ。
内の一枚を取り出し、もう一度読んでみる。

『ジャスタウェイ(坂田銀時作成分)』

説明文ももう一度読んでみる。

『ジャスタウェイはジャスタウェイ以外の何者でもない。それ以上でもそれ以下でもない』

やはり意味は不明。なら開いてみるまでだ。


そう、これこそが赤木シゲルの流れを大きく変える一撃であった。


開いた紙の中から大量に何かが転がり出してくる。
その予期せぬ量に、赤木はすぐさま紙をほうり捨てる。
扉を閉めておいたのが功を奏した。ゴロゴロと転がる音もこれならば外に漏れる事もあるまい。
全てが出きった所で、その物体を確認してみる。
長さ20cm弱の円筒に、棒が二本刺してあり、上部には顔を模した半円が乗せられている。
そんなおもちゃのような物が、五メートル四方の部屋の半分を埋め尽くす勢いで山と積まれている。
引っくり返したり、棒を引っ張ったりして造りを見る赤木。
頭部の半円と二本の棒はあっさりと外せた。
残る本体だが、これはナイフで接続部を削るとこれまたあっさりと開く。
造りが簡単に出来ているからこそ、赤木はこれ自体にはさして危険性は無い、そう読んでいた。
中にはびっしりと黒い粉が詰められている。
他に気になる所といえば、電池が一個と配線がしてある事ぐらい。
赤木は、この黒い粉の独特な臭いに覚えがあった。
「……火薬か?」
同時にこの物体、ジャスタウェイの危険性に気付く。

ああ、赤木がその正体を見破るなり、ソレが起こるのはどのような因果であろう。

お前が妙なの病院に連れてきたせいで死んじまったじゃねーかこの野朗とでも言いたげな製作者の怨念でも篭っているかのように、
ジャスタウェイに対する対応策を取る暇すら与えぬ絶妙のタイミング。
山と積まれたジャスタウェイが、バランスを保つ限界であったのか振動を始めた。
すぐさま扉を開いて外へと飛び出す。
あれが崩れた程度で爆発するかどうかもわからないが、あんな簡単な造り、言い換えれば不用意な造りの爆弾なぞ、欠片も信用出来ない。
一応とばかりに通路を走って避難する赤木の背後から、轟音と爆炎が襲い掛かってきた。やっぱり爆発してくれやがった模様。
間一髪、シルバースキンを纏う。
通路全体を覆うような衝撃にごろごろと転がりつつ起き上がる。シルバースキンの防御能力はこの程度でどうこう出来る代物ではない。
が、本当の危機はその後である。
「おい! 何だ今のは!」
明らかに仲間とは違う何者かの声。同時に複数の足音が聞こえてくる。
時間は無い、ありものでどうにかこれをクリアするしかない。
赤木は支給品を組み合わせ、これらを突破する、いや、チャンスに変える準備を整えた。



襟の高い真っ白なコートで顔の半ばまでを覆い、それより上部は帽子にて完全にカバーする。
手の平まで覆えてしまいそうな長い袖、足首まで届かんばかりの裾。
デイバックをコートの内側に背負ったせいで背中は盛り上がり、この上に包帯をぐるぐるに巻き、棍棒を片手に持つ様は最早常人の美的感覚を容易く凌駕する、正に怪人と言ってよい。
そんな奇特な格好で、赤木シゲルは先行するコマンドロイドの後を走っていた。
『とりあえずはうまくいったが……さて、何処へ行くつもりか』
敵の罠にかかり、仲間がやられた偵察員。そう偽るとその場に集まったコマンドロイドや怪人達はあっさりと納得してくれた。
ならばそれはいいから、すぐにこちらを手伝えと言われそちらに向かっているのだが、どうも来た方角に逆戻りしている様子。
時期に怪人が大量に集まる場所へと辿り着いた。
先導していたコマンドロイドは、そこの指揮官と思しき同じ姿をした者に話しかけている。
相手もいないのに敬語で何やら話をしていた指揮官は、コマンドロイドが近づくと待ってましたと言わんばかりに駆け寄ってくる。
赤木は自然とそのすぐ側に居るよう位置した。
「第三ラボの分だな! 良く来た! 待ちかねたぞ! 一応確認しとくが、まともに指示聞いてくれるんだろうなコイツ等」
「研究所の連中は、十回中八回は確実と……」
「そういうのは確実って言わないだろ!」
どやされるコマンドロイドは、大慌てて取り繕う。
「で、ですが、この白い奴は会話も出来ますし判断もしっかりしてます! 多分小隊指揮任せてもいけますよ!」
そう言われた指揮官コマンドロイドは、表情の読めない顔で赤木を見やる。
「本当かよ……」
「そのぐらいなら可能だ。俺はどいつを率いればいい?」
即座に返事をしてきたのに驚く指揮官。
だが、すぐに指揮すべき怪人達を指定する。
「よーし包帯マント。お前は連中を率いて十六番隊だ! そっちのヒトデ野朗の十五番隊と一緒に葉隠覚悟をぶち殺せ! いいか、一撃離脱だ! 一発仕掛けたらすぐに奥に居るコマンドロイドの所まで走り抜けろ!」
指揮官が指差す方向、通路を一本抜けた先は、距離を考えるに、恐らくヒナギクが落下したあの巨大な吹き抜けだろう。
それだけ言うと、他の怪人達に指示を下すべく振り返る指揮官。
赤木はその肩を叩く。
「俺の率いる怪人達の特性を教えろ」
やってる事を邪魔されて、あからさまに不機嫌そうになる指揮官だったが、すぐに思い直す。
そこに気を配れる程度には、こいつは頭が回る奴だという事だ。
「ヒトデ野朗も知能は高い! 詳しくは奴に聞け!」
赤木は頷き、怪人達を引き連れて通路へと向かう。
先頭を歩くのは赤木とヒトデ野朗と呼ばれた怪人だ。
なるほどヒトデっぽいが、人型の頭部もあり、これなら会話も出来そうだ。胴中央に鉤十字を描く意味がまるでわからないが。
「話は聞いていたな?」
「ヒットラー!」
「……無駄話はいい。さっさと教えろ」
「ヒットラー!」
「……おい」
「ヒットラー!」
「…………」
「ヒットラー!」
赤木は自らが率いる怪人を効率的に利用する策を早々に諦めた。

すぐに通路は開け、吹き抜けへと辿り着く。
指揮能力はあるようで、ヒトデ野朗が得意の言葉を叫ぶと、怪人達は同時に覚悟へと飛びかかっていった。
『……ヒドイ流れだ』
支給品を開いてからここまで、赤木を持ってしても他の選択肢を選ぶ事が出来なかった。
にしてもBADANを倒すべく動く赤木が、何をどうしたらこんな馬鹿げた格好で覚悟攻撃部隊を率いねばならないのか。
逃げ出す隙も無く、かといってここで覚悟の援護に回った所で赤木に出来る事などたかがしれている。
『隙が無いのなら……作るまでだ』
赤木は自らの配下に攻撃指示を出し、自身は彼等に隠れるように覚悟へと駆け寄る。
覚悟はまるで悪魔のように暴れまわっており、正直近づく事すら躊躇われるが、ここで踏み込んでこそ次への展開が開けるのだ。
紙屑か何かのように容易く引き千切られ、砕かれる怪人達の隙間を縫って覚悟へと棍棒を振り上げる。

何と思う間すら無い。
朦朧とした意識が戻った時には、壁際でへたり込んでいた。
どうやってやられたのかすらわからぬ内に殴り飛ばされ、いや蹴られたのか? どちらでもいい、とにかくこうして吹っ飛ばされたのだ。
シルバースキンがあって尚、鳩尾の上辺りがじくじくと痛む。
あの乱戦の最中にあっても確実に急所を射抜いている。あまりに見事にやられたせいか、腹が立つより感心してしまう。
零には周囲の出来事を感知する能力があると聞いていたが、さしものあの混戦模様と赤木のこの格好では気付いてはもらえなかったらしい。
まあいい、目的は達した。
動ける状態である事を悟られぬようにしつつ横道を見つけ、別チームが一斉攻撃を仕掛けたその瞬間に、横道へと飛び込む。
赤木はまんまとこの場から逃げおおせると、隠し持っていた物を取り出す。
微かに声が漏れ聞こえてくるその小さな物体は、指揮官が持っていたはずの小型通信機であった。
『……悪い流れでも、やりようはあるって事さ』



胴回りに縄を巻き、そこから伸びた縄の一端を手に持って、さながらペットを散歩させるような風情で初老の男を連れまわす服部。
服部の言葉を信じるのなら、初老の男はただ殺される為だけに服部に従っているという事になる。
にも関わらず男が服部に黙々と従っているのは何故だろうか。
答えは簡単。
男を捕らえた科学者達は、自身の身の安寧の為に彼一人を差し出した。
男さえ死ねばその事実を知る者は服部一人のみとなるので、それならば誤魔化せる範疇、そう考えたのだろう。
ならば男を服部に従わせるにはどうすればいいのか。逆の事をしてやればいい。
服部平次は、男と共に部屋を出るなり、室内に黒死の蝶を放った。
室内から噴出す爆煙を背負った服部は、無表情で男に釘を刺す。
「俺にとって不利益な存在はいらん。お前は、きっと俺の役に立ってくれる……よな」
脅しが効いたのもあるだろうが、彼が服部に協力しているという事実は、これで服部のみしか知らぬ事となった。
ならば、実際に裏切り行為をしながら、反抗の時を伺う余裕も出来るというものだ。
彼にとってはBADANの情報や戦況の有利不利より、自分の命が優先するのだから。

服部の立ち上げた男との関係は概ね狙い通りの形に収まった。
ニアデスハピネスの爆発に障害物を用いて指向性を持たせる。これにより本来以上の爆発があったと見せかける。それだけの話だ。
彼等を殺害しておいた方が確実ではある。それはよくわかっている。
それでも、多少のリスクでそうせずに済ませられるのなら、やはり服部は殺さずに済む方法を選びたいと思った。
『赤木辺りに見られたら、まーた何か言われそうやけどな』
自分はヘルダイバーに乗りながら、ロープで引っ張られつつ必死に後ろを追ってくる男には一瞥すらくれず、服部は次なる目的地を目指す。

服部が目を付けた一室に入ると、そこにあった端末の前に男を引きずり出す。
彼を連れてきた理由がこれだ。
網膜認証。その為には一定以上の地位を持つ人間が、協力も止む無しと自らが納得出来る環境でそいつを引っ張ってくる必要がある。
案の定、先ほど覗いた時とは最初に開いたページに表示されているメニューの数が違う。
男には画面が見えないよう隅っこに蹴飛ばしておきながら、服部の最も欲する情報、大首領とはいかなる存在なのかを探し始める。
しかし最重要機密と思われるその情報は、すぐには見つかってくれない。
ならばと今度はDr伊藤を探す。
伊藤の苗字を持つ者は結構な数が居たが、その中で地位の高い人物を引っ張り出すと、先ほど10人挙げろと言った内の一人含む二人に絞られる。
「おいおっさん、さっき連中が言うてた十人の中で、BADANの一番の新顔と古株はどいつや?」
男は答える。壊滅前のBADANの頃から居る伊藤というのが飛びぬけて最古参であると。
「何やそいつ腹立つな。どないな奴やねん」
曰く、気に喰わない男だ。生体工学専攻の癖に他分野の研究にもちょこちょこ首を突っ込んでくる。
あれは研究者とは言わない。技術屋とやってる事は変わらないだろう。
そこそこ成果は挙げているようだが、それも依頼があってそれに応えるといったものばかりで、自ら率先して新たな技術を開発するような事もない。
人の技術を盗み取って自分の成果にしているだけの卑怯者だ、と。
新顔に関しては彼の印象はさして悪くないようだが、服部はその男にはあまり興味を惹かれなかった。
端末を操作しながら、残る八人の印象を聞いてみるも、伊藤博士以上に酷評を受けた者は居なかった。
「大首領復活は、どいつの担当や」
「直接暗闇大使様が指揮を執っておられる。他の担当科学者は……私から見れば半人前ばかりだな。暗闇大使様の知能が高いからそれで充分なんだろうが」

手詰まり。
大首領とはそもそも何なのか、それがはっきりしないままにBADANを壊滅させたとしても、あっさりと復活される可能性もある。
その情報を得られなければ、ここに乗り込んだ意味が無いのだ。
一手のみ、最後のハードルをクリアしうるだろうと思える手があるが、そこに辿り着くにはあまりに条件が困難すぎる。
運頼み、服部の感性ではそう言い切ってしまえる程の、穴だらけの推理。
接触したBADANの人間は、伊藤博士が逮捕された、などという話は聞いていなかった。
仮定。彼が捕えられていない、もしくは死亡していないとした場合、その先どう動くか?
服部達が捕まるような事になれば、伊藤博士は破滅だ。
いや、支給品にあんな物を放り込んだ段階で既に彼は破滅覚悟であったのだろう。でもなければ名前付きであんな事出来るはずがない。
そう、彼がわざわざ名前を書いた理由だ。
『俺に接触して来い』そう言っているように思えてならない。
もし接触した上でこちらに渡したいものが情報や道具であるのなら、今までそうしてきたようにこちらに流す手段はあった。
にも関わらずそうしなかった理由。
『……伊藤博士もまだ持ってへん。そういう事ちゃうか?』
BADAN内でも様々な便宜を図れる立場、それをサザンクロス中が混乱している間に後先考えず使っているのではないだろうか。
それを用いて、この腐った組織の大元に関わる、何かを得ようとしているのではないだろうか。
メイン端末。得ようとするものが情報であるのなら、その場所がベストだ。

会った事も無い人物。未だに彼の様々な仕掛けが罠である可能性も消しきれていない。
単にBADAN内部での権力争いの可能性もあるのだから。
人格も、人物像すらはっきりしていない。
そんな彼、伊藤博士がこの混乱の中見事に立ち回っていると、死をも厭わぬ覚悟を胸に今もまだ戦っていると、


   信 じ ら れ る の か


この命は既に服部一人の物ではない。
万に一つすら消すつもりで動かなければならないのではないのか。
今もまだ戦っている仲間の為に、情報収集ではなく撹乱に動くべきではないのか。
相変わらずとでも言うべきか。心底嫌過ぎるタイミングであの小憎らしい銀髪のアホの顔が脳裏に浮かぶ。

『……ただ一度、凡人を捨てて異端にならなければ……ここにいる人間は死んでいく……』

いつしか端末を叩く手も止まり、震えながら俯いてしまう。
必要な情報は既に頭の中だ。
迷いながらも、決断が下せた場合自分がどう動くべきかは考えてある。

「アホ顎オバケがあああああああ!! これでミスったらおんどれの鼻掴んで市中引き回した挙句打ち首獄門にしたるどコラアアアアア!!」

人の命を背負って、運任せの決断を行う。
あまりに膨大なストレスから逃れる為そんな雄叫びを上げた服部は、八つ当たり気味に捕まえていた男を殴って気絶させ、メイン端末のある場所へとバイクを走らせた。



通信機から漏れ聞こえる声達を、頭の中だけで整理し、再構成する赤木。
すぐに、どいつに聞けば目指す目的地がどれなのかがわかる。
怪人のフリをしつつ、一言二言言葉をかわすだけで、目的地のある地域を特定、一直線にそちらに向かう。


こちらはバイクである。順路通りに進むと目立ちすぎるので、幾つか迂回ポイントを設定し、敵との遭遇率を少しでも下げる。
この広さに比して動いている人数が少なすぎる事も手伝って、誰にも見つかる事なくバイクは走る。
予想通りなら、目標地点周辺はより少ない人数であるはず。


赤木は別に方向感覚に自信があるという話ではなく、途中途中で見かけた岐路と、外観を頭に入れていただけだ。
それらを組み合わせ、自分が今居る大まかな位置と、サザンクロスにとって最も重要と思われる施設の場所を推測する。
後は通信から聞こえてくる戦力の移動状況から、戦況の推移から、BADANの置かれている現状を推測する材料を得る。

服部はこれをBADANの怠慢とは思わない。列車での戦闘を考えるに、覚悟と村雨が本気で暴れまわったら、怪人の百や二百では手に負えなくなる。
ならば、そう仕向けられているだろうあの施設周辺に護衛が居なくなっているのは至極当然である。

通信機を聞いた感じ、連中まともな思考能力を持った者は少ない。ならば、この分野においては圧勝出来る。
大まかな位置はこの辺りのはず。おそらく、このやたら長い壁の向こう側がそうなのだろう。



「……服部、お前がこんなにも早く辿り着くとは思わなかった」
「こっちの台詞や。俺はそもそもお前がここ来るなんて想像もしてへんかったわ」
研究成果から戦闘データまでありとあらゆる膨大なデータを収め、これら全てを必要に応じて処理する能力を持つメインコンピューターが置かれた部屋。
その扉の前で合流した赤木と服部は、扉のロック部を爆破して強引に開く。
中に入るとすぐに気付くのが、一辺が数メートルある長方形のブロックだ。
これが整然と何処までも何処までも並んでいる。
空調が効いているのか、少し肌寒い。
中に敵が居るかもしれない。そんな心配を二人共全くせず、ずかずかと奥へと進んでいく。
「他の二人はどないした?」
「桂は死んだ。エレオノールは単騎で奥に行かせた。ジョセフ・ジョースターは?」
「死んだ」
「……そうか」
二人の内心がどうあれ、この件に関してはこれで終わりだった。
最奥の操作盤の前でキーボードを叩き続ける白衣の男性。
足音に気付き、大慌てで振り返った彼は、服部と赤木を見て驚きに大きく目を見開いた。
「……何故君達が……」
服部が一歩前へと進み出る。
「服部平次や。伊藤博士……やな」
伊藤博士は感極まって大声を上げる。
「ああ……ああ、そうだとも! こんな奇跡があっていいのか! 信じられない!」
「御託はええ。俺達がどうやってここに来たのかもどうでもええ。俺が聞きたいのは一つ、大首領の正体。そいつを、アンタはもう突き止めてるんか?」
服部の言葉に再度目を大きく見開くも、すぐに頭を大きく横に振る。
「いや、そうか……君達はサザンクロスに乗り込むなんて奇跡を見せてくれたんだ……なら、私が何をやってるかに気付いていても不思議ではない……まったく、君達は何処まで……」
コンソールを操作すると、中空に数種類のグラフが映し出される。
「他にもやらなければならない事は山ほどあるんだが、今この時を逃しては大首領の調査など出来るはずが無いからな。途中報告だが是非聞いてくれ……」