拳(七章)

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拳(七章) ◆1qmjaShGfE




「赤木! お前は一体何を!? メモリーキューブが失われたら、俺の記憶がまた……」
村雨の大声に一同が振り返る。
しかし赤木は微動だにせず、静かに語り続ける。
「強化外骨格が残っていればありがたかったんだが、他に選択の余地は無い。村雨良、お前はこれまでだ」
自分の記憶を確認するが、特に異常があるように思えない村雨は安堵の息を漏らす。
村雨と赤木の異常な気配を感じ取ったパピヨンが駆け寄ってくる。
「赤木、キサマ一体何をした!?」
「大首領を呼んだのさ。おい、体が気に食わんだの文句を言うな。お前がこちらに来れる、これが最後のチャンスかもしれんぞ」
突如村雨の体が変質する。
神々しいまでの輝きに包まれ、覚悟もパピヨンもかがみもその眩しさに目がくらみ正視出来ない。

「……我を脅して呼んだのは、貴様が始めてだぞアカギ……」

村雨の口から、村雨でない誰かの言葉が発せられる。
その声は、心なしか笑っているかのように聞こえた。



赤木は村雨の変化にも戸惑う事なく、飄々と話しかける。
「……クックック、こいつが正真正銘、最後のギャンブルだ……」
真っ先に村雨変質の理由に思い至ったのは、伊藤博士と情報交換をしていた零であった。
『まさか赤木よ……貴様村雨のメモリーキューブを奪ったのか!?』
「零! 村雨に一体何が……」
『村雨はそもそも大首領の器として作られた! そしてそのメモリーキューブは大首領降臨を防ぐ能力を持つ!』
かがみが悲鳴にも似た叫びをあげる。
「赤木さんがそんな事するはず無いじゃない! 村雨さん! どうしちゃったのよ! しっかりして!」
そう語りかけながら村雨へと駆け寄るかがみ。
村雨から禍々しき気配を感じていた覚悟が止める間も無い。
胸元にすがり付きながら、村雨に呼びかけるかがみ。
かがみも又、村雨の持つ気配が常ならぬ、いや、恐怖の対象としてのそれに変わったと察してはいたのだ。
だからこそ焦る。
大丈夫だ、そう村雨に言って欲しくて、その言葉のみを求めて村雨の名を叫ぶ。
そんなかがみの首を、村雨であった者は片手で掴み、軽々と持ち上げる。
「……こんな脆い生き物が、暗闇大使の罠を生き残ったというのか……」
さして力を入れているとも思えないのだが、吊り上げられているかがみの表情が苦悶に歪む。
「む、村雨さん……しっかり……わたし、よ、かが、み……」
「既に村雨は亡い。我の代わりに次元の牢獄に封じられた。女、無駄な事をするな」
大首領の説明を赤木が引き継ぐ。
「大首領は次元の牢獄に封じられていた。そこから脱出する為、BADANに自身と同一の存在あるゼクロスを作らせた。
 そして、同じ存在である為、リンクした二つの魂は、大首領の能力による入れ替えが可能だ。
 そうやってこちらに戻ってくる、それがそもそもゼクロスが作られた理由だそうだ。
 俺が大首領の入れ替えを防ぐメモリーキューブを破壊した為、こうして二人は入れ替わったという訳だが、
 大首領JUDO、お前達は入れ替わっただけか? それならばお前は村雨と同程度の力しか無いという事になるが」
村雨と同程度の力という段階で充分に凄いはずだが、少なくとも赤木が聞いた大首領の力はそんな程度ではなかった。
「我の力は我が意識と共にある。心配するなアカギよ、全ての力はこのJUDOの元に備わっている」
パピヨンは面倒そうに頭をかきながら、赤木に歩み寄る。
「なる程、理解した」
そして抜く間も見せぬ手刀を放つ。
赤木の胴体に深々と突き刺さった手を、パピヨンはゆっくりと引き抜いた。
「急所は外しておいた。だから……」
腹部から血を噴出し、膝から崩れ落ちる赤木。
「苦しんで死ね」
覚悟も又即座に動く。
かがみを吊るしている腕を蹴り飛ばし、かがみを拾うと大きく飛んでJUDOから距離を取る。
「かがみさんは避難してくれ。あれは私が何とかしよう」
「で、でもあれは村雨さんで……」
言い募るかがみの言葉にパピヨンの声が重なる。
「葉隠! 三分間一人で持たせろ! その間に俺が策を練る!」
「了解した!」
かがみをその場に置いて駆け出す覚悟。
かがみには何が何だか理解出来ない。
とにかくどういう事か知りたいかがみは、全てを理解してそうなパピヨンの下に近づき、理由を問う。
「パピヨンさん! これ何がどうなって……」
パピヨンは何故か面倒がらずに説明をしてやった。
「赤木は一度大首領と直接コンタクトを取っている。その際懐柔されたか、洗脳されたか知らんが、ともかく奴は裏切って向こうについたという事だ」
「そんなっ!? ここまで一緒にやってきて……」
「いいからお前はさっさと逃げろ。勝つ算段は立ててやるが、それでも勝率は1割にも満たんだろう。村雨の事は諦めろ、赤木の言う事が本当ならもう打つ手は無い」
必要な事は全て伝えたとばかりに、それ以上かがみに声をかける事はなく、通信機片手に何やら話し込み始める。
真剣そのものな表情をしているパピヨンの邪魔は出来ない。
しかし自分の頭で考えるには、あまりにも事態が急変しすぎていた。
混乱し、どうやっても落ち着けないかがみは、腹を押さえたまま足をだらしなく伸ばし、座り込んでいる赤木を見つけた。
「赤木さん!」
落っこちていた救急箱を拾って赤木の側に駆け寄る。
そんなかがみを赤木は不思議そうに見返してきた。
「……何か用か? 恨み言なら、いいさ、聞いてやるから好きに言え」
「何言ってるのよ! ほらっ! お腹の傷見せて!」
赤木はすぐにかがみの状態を察する。
「柊かがみ、まずは落ち着け。俺が現状を説明してやる」
「そんな大怪我負ってる人前にして落ち着けるわけないでしょ! っていうか赤木さんも少しは焦りなさいよ!」
ちょっと理不尽な怒り方をするかがみ。
「俺はお前からすれば裏切り者、って事になる。だから気にしなくていい……それより、お前が今どうするべきか、そちらの方が重要だ」
「気にするなって言ったって……」
まだ文句を言いたそうなかがみを無視して話を続ける。
「俺は大首領との決着をつけたかった、それだけだ。その為に村雨には消えてもらい、お前達全ての命を勝手に賭けさせてもらった。そんな奴の傷がどうだろうと構う事は無いだろう」
苦しそうに眉をしかめながら、それでも赤木は皮肉気に笑う。
「まあいい、とにかくお前が今やるべき事は唯一つ。すぐにここを離れろ」
「で、でも……」
「それをパピヨンも葉隠も、ここには居ない服部も、おそらく村雨も望んでいる。それがわからんお前でもないだろう」
ここでも、やっぱりかがみは役には立てない。
それが心の奥底にのしかかり、身動きが取れなくなる。
「……柊かがみ。お前は脱出して、生き残った誰かの帰る場所を作ってやれ」
不意打ちに近い赤木の言葉に、かがみは呆気に取られてしまう。
「それが、今のお前に出来る一番の事だ……さあ行け、まだサザンクロスに行けば逃げる手段ぐらい残っているだろう」
ふと残る二人に目をやると、覚悟は村雨と殴り合っている真っ最中、パピヨンはパピヨンで忙しげに話を続けている。
かがみは赤木を見て首を横に振る。何度もそうして赤木に助けを請う。
他の手は無いのか、何か、何でもいいから役割を与えて欲しいと。
「仕方の無い奴だ……」
赤木は懐から銃を取り出す。
「行け。柊かがみ」
それを無造作に放つ。重量のせいかはたまた威力のせいか、まるで狙いの定まらない撃ち方だったが、
それが逆に赤木の意思によらぬ発砲となり、事と次第によっては命中もありうるとかがみに思わせる。
慌てて物陰に向かって走り出すかがみ。
幾度も危地を乗り切ってきたかがみならば、無意味に危険に身を晒し続ける事もあるまいと踏んでの赤木の行動だった。
「さて……俺の命、決着まで持ってくれるか……な」
服部辺りから文句の通信が入ってきそうだったので、赤木は自分の持つ通信機を銃で撃って粉々に砕きながら、戦いに目を向けた。



全ての打ち合わせと確認を済ませると、パピヨンは最後の場所へ通信を送る。
「おいアレキサンドリア! 聞こえるか!」
時間もおしているパピヨンは苛立たしげにアレキサンドリアの名を連呼する。
しかし、彼女からの返信は無く、通信機からは薄く雑音が聞こえてくるのみ。
「アレキサンドリア! 何をしている……」
唐突に気付く。
現状でアレキサンドリアが即答してこない理由など一つだけだ。
首を心持ち下に向け、誰に言うとも無く文句をつける。
「……馬鹿が、別れの挨拶ぐらいしていけ」
彼女が返答しない理由、既に返事が出来る状態ではなくなった。そういう事だ。
ならばもう残した仕事も無い。
「葉隠! 一度下がれ!」
そう大声を出すと、覚悟はパピヨンの側まで大きく飛び下がってくる。
JUDOは追撃をせず、こちらを首をかしげながら見ているだけだ。
「攻撃がまるで通用せぬ。零曰く、エネルギーの塊を壁にしているとの事だが、それ故か奴め、攻撃を避けようともせぬ」
「いいさ、時間稼ぎは充分だ……で、策を実行に移すに当たって一つ聞きたい事がある」
「む?」
パピヨンは覚悟の瞳をまっすぐに見つめる。
「お前は、俺を信じられるか」
零はパピヨンの言葉を即座に否定してやろうと思ったのだが、パピヨンの表情と、即答せぬ覚悟を見て思い直した。
覚悟もまたまっすぐにパピヨンを見つめ返す。

初めて会った時は、素晴らしき知恵を持つ人格者だと思った。
覚悟に出来ぬ事を、その心まで汲み取って成し遂げてくれる賢者であると。
しかしそれは当人の言葉で否定される。
あまつさえルイズに託された津村斗貴子を殺害し、その後の所業も悪鬼そのもの。
心寄せていた相手と聞く泉こなたを、あろう事か食してしまったと。
何処までも協力を拒み、ただ一人にて野心を果たさんと暗躍を続ける。
それでも、信頼を寄せてくる相手に覚悟が応える言葉は唯一つ。

「私は、貴方を信じよう」

初めて会った時からいけすかない人物筆頭だった。
こちらがひどく不安定な精神状態にあったというのもあるが、そんな俺を更に不愉快にさせてくれる男だった。
その後もパピヨンの最も気に入らない事を信念を掲げ、仲間を集って戦い続ける。
世界は善意で動いてると言わんばかりのぬるい思考で生きる間抜け。
脳の中にすら筋肉を詰めたようなただ殴る事しか出来ぬ馬鹿。
女子供は守るもの、って守れてないだろお前、全然。
心底気に食わない奴だが、きっとこいつは俺を信じると思っていた。

「ならば俺は、その信頼に応えてみせよう」

必要な道具を覚悟に押し付けるように渡す。

「詳細はそこに書いてある。わかったら黙って見ていろ。ここからは、俺の戦いだ」



パピヨンが戦闘前に起動した核鉄は、ニアデスハピネスではなくエンゼル御前だった。
「しゅわっち! 俺参上!」
「御前、今回の敵はあれだ」
「おーおーあれねーって村雨じゃんあれ! うおっ! ちょっと見ない間に神々しくなっちゃってまあ」
「今はBADANの黒幕大首領だ。速やかにぶち殺すぞ」
「えー、それまたぱっぴー俺に嘘ついてねー」
覚悟はともかく、御前の信頼度は皆無らしい。
「やればわかる。行くぞ」
スピード&パワー、そこに頭脳をトッピングした戦闘こそがパピヨンのスタイル。
そのスタイルは相手によって変化する千変万化にして縦横無尽、だから、今回は何の策も講じずまっすぐに殴りつける。
腕に返ってきた反動から推測する、これは衝撃すら抜けてはいない。
こちらの力が圧倒的に足りていないのか、そういった特性の防御方法なのか。
「……ワーム、今のが攻撃か?」
JUDOは一歩たりともその場から動いていない。
それは覚悟が攻撃している時から変わっていなかった。
大きく真上へと飛びあがったパピヨンは、御前にJUDOの足元に集中打をかけるよう指示する。
未だいぶかし気な御前だったが、とりあえず当てろという指示ではなかったので、安心しつつ十数本の矢を放つ。
いかにJUDOとて体を支える大地が崩れれば、自身の体も揺れる。
バランスを取るつもりでJUDOは足に力を込めるが、その調整をしくじったのか真横に向かって全身がかっ飛んで行く。
「ん?」
ビルの壁に頭から突っ込む直前、手をついてそれを防ぐが、ビルの壁は大きくへこみ、振動にビル全体が大きく揺れる。
「……ふむ、まだ慣れておらんな。ちょうど良い、そこなワーム。我が調整に付き合う事を許すぞ」
大首領の持つエネルギーは極端に大きい。従来の備蓄方法なら東京ドーム何千個分というレベルだ。
それを人間サイズに押し込もうというのだから、正気の沙汰ではない。
先のかがみを持ち上げた事にしても、邪魔だからとりあえず持ってみただけである。
締め上げる意図などまるで無かったのだ。
とんとんと地面を足の裏で叩いて感触を確認するJUDO。
何せ数千年ぶりの肉体を持った上で接する外界だ、一つ一つの挙動全てが手探りと言ってよい。
「調整ね……そこから始めるというのは予想外だが……良かろう、付き合ってやる」
パピヨンの矜持から考えればおおよそ考えられぬ事を平然と受け入れる。
調整と言っても当然パピヨンの攻撃は殺意に満ちた、必殺の一撃ばかり。
しかしJUDOはそれらを紙一重で、あるいは大きく跳んでかわしながら全身が意思通りに動くよう合わせていく。
そもそも当たった所でかすり傷一つ付けられないのだ、回避の挙動にも余裕に満ちた気配が漂う。
それでも、パピヨンは全力で攻撃を続ける。
見下されているのがわかっていながら、コケにされるがままに。
御前もパピヨンの指示に従って射撃を繰り返すが、徐々に理解する。
あれは村雨ではない、もっと他の絶大な何かだと。
見ているこっちが痛々しくなるほど、パピヨンとJUDOとの差は歴然であった。

遂にパピヨンはその活動限界を迎える。
その証である吐血を見た御前は青くなってパピヨンに言う。
「ぱ、パッピーもういいって! あいつヤバすぎだよ! まともにやってちゃ勝てる訳ないって!」
既にパピヨンが肉弾で挑むいかなる攻撃も、JUDOには当たらなくなっていた。
「……ほお、お前も、ゴホッ! まともに戦力比を判断出来るようになったか、良い傾向だ」
「そんな事言ってる場合かよ! アイツが本気になる前に……」
御前の言葉には耳も貸さず、再びJUDOへの攻撃を再開する。
速度も力もまだ衰えていない。
肉弾戦闘は言う程不得手でもなし、またパピヨンの頭脳ならば、その攻め手はまだまだ残っている。
同じ攻撃の仕方は二度としない。
それ故、JUDOは効果的な調整を進める事が出来ていた。
同じ動きは一度やれば充分だ。
様々な動きに対し、どう反応すべきか、そして反応した際の力の入れ具合を確認する。
それをひたすらに繰り返しているのだ。
しかしそれでもまだ飽きは来ない。パピヨンのやってくる毎回違う攻め手が、JUDOを飽きさせないのだ。
「悪くないぞワーム。その調子だ」
一つの動きを学んだ事から、更に多数の動きを創造する。
首輪を通してこの戦いの様々な格闘をその目にしてきたJUDOは、この分野の動きに興味を持っていた。
それも含めて、JUDOは久しぶりの世界で、はしゃいでいる、とでも言うべきであろうか。
常に無く高揚した状態であったのだ。
パピヨンの攻撃は、そんなJUDOの上機嫌を損なわぬものでもあった。

しかし、JUDOの学習能力はパピヨンのそれを吸収し、更なる物を要求しだす。
それは範馬勇次郎の野生や、ラオウの術技や、村雨の進化に匹敵するものを求めるといったレベルである。
そこまでの物に応える能力をパピヨンは持ち合わせていなかった。
既に体力も底をつきかけ、荒い息を漏らし続けながら動くパピヨンに、そんな芸当は不可能であったのだ。
「そこまでか。まあ良い、調整としては充分だ。褒めてとらす」
肩で息をしながら、パピヨンはそれでも尚不敵な笑いを崩さない。
「……はぁっ……そう、言うな……もう少し……はぁ……付き合って、いけ……」
意識を失う事の無いよう、舌を三分の一程噛み切る。
そして叫んだ。
「武装錬金!」
背後に黒色火薬の羽を背負う、これがパピヨンの最も得意とする戦闘形態。
「ば、馬鹿! 何やってんだパピヨン! 幾らなんでも今の状態でダブル武装錬金とか無茶だって!」
「そう、でも、無い……案外持つものさ……さあ、行くぞJUDO……次は射撃交じりの格闘戦……だ」



良く考えれば、すぐにでもわかる事だった。

そもそも俺が蝶人への変化を渇望したのだって、免れえぬ死に抗う為だ。
俺にとって最も大切なのは俺自身。
だからその為に他人を犠牲にしようと、知った事ではなかった。
所詮人間なぞ他人を食い物にし、蔑む事で自らを保つ程度の存在。
ならば、俺が奴等を食い物にし返して何が悪い。
それこそが人間の本質で、俺はそれをわかりやすい形で体現してやっただけだ。
同時に俺は、俺自身がそんな下らない存在である事に耐えられなかった。
だから俺は進化した。
人を超えた俺は、そんな些事に構うような事も無く。
誰かを食い物にする事も、蔑み矜持を保つような必要も無い。
何故なら俺は人を越え、絶対的な強さを身につけた蝶人だからだ。
今更人間に構う必要も無く、因縁として残った武藤に絡む程度だ。
後は、全て自由に、俺は最も大切な俺の思うがまま生きていけばよかった。

だが、俺の前にアイツが現れた。
高い技術を誇るでもなく、人並み外れた頭脳の持ち主でもない、圧倒的なまでに普通の人間。
そんなアイツは、どういう訳だかやたら俺に絡んできた。
キッカケは何だったのだろう。
俺の機嫌を取るでもなく、趣味を理解してくれたのが初めかもしれない。
アイツは頭に来て怒鳴りつけても、何故か俺の側に居続けた。
そうしている内に、アイツの側に居るのが心地よく感じるようになった。
ああ、そうだ。あれだ。
村雨との戦闘の後、あの馬鹿は俺を待っていたんだ。
その時のアイツの顔は、今でも鮮明に思い出せる。
くそっ、あの時俺は一瞬だが、完全に我を忘れたぞ。
そのぐらい衝撃的だった。何でそう感じたのかは未だに良くわからんが。
俺の人食いがバレた時は、もう終わったと思ったものだが、それでもアイツは引かなかった。
いや、引いてたなアレは流石に。
それでもアイツめ、俺の側に居ようとしやがった。
くそっ、くそっ、あの頃俺がおかしくなっていたのはほとんどアイツのせいじゃないか。
冷静沈着に全てを運ぼうとしてた俺の邪魔ばかりしやがって。
何で俺が目の前の仕事放り出してまで、お前の所に駆けつけるなんて真似しなきゃならんのだ。
くそっ……後少し、俺が早く戻っていれば……

結局、俺はあの時既に、俺のそれまでやってきた事全てを自ら否定していたんだろうな。
今ならはっきりわかる。
俺は、俺自身よりもアイツの事を、大切だと思っていたんだ。
武藤や他の偽善者達がそうしてきたように。
あれ程頑なに避け続けていた偽善に類する行為、それをやってしまう事になっても、まあどうでもいいか。なんて思うようにもなってしまっていた。
それよりも俺自身が望む事を望むままにやる事が優先される。
ああ、何という事だ。
俺は俺自身の意思で、偽善者の真似事をしたいなんて思うようになってしまっていた。
村雨と三影の対決を大切な物と感じ、散り行くエレオノールを美しいと感じ、今またこうして……

ふん、誰に言われるまでもない。
俺は俺の思うように、生きたいように生きる。
だから、そう思ったのなら、全力でそうするまでだ。

俺はこなたが好きで、あいつと一緒にやってきた事を最後までやり遂げたい。

そうだ、俺はこなたが好きだ。文句あるか馬鹿共が。

俺はこなたが好きだーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!


うむ、爽快。
やはり自分の望むままに生きるのが一番気持ちが良い。

頭が働かなくなってきたせいだな。
帝王とか覇道とか果てしない程にどうでもよくなってきた。
どの道、JUDOが出てきた以上、殺るか殺られるかしか無くなってしまったしな。
俺に残された道は、殺られるか殺られるかしか無い所が不満ではあるが、だからこそ出来る事がある。
俺はそこに向かって突っ走るだけだ。



パピヨンは幸運に恵まれていた。
それは序盤に出会った泉こなたの影響が大きい。
彼女の保護者である立場を受け入れたパピヨンは、赤木シゲルも認めるこなたの強運を共有する事になった。
保護者が倒れては、こなたの身が危うくなる為だ。
地力で劣るゼクロスとの戦闘に圧勝出来たのも、吸血鬼DIOとの戦闘で生き延びたのもそういった幸運が理由の一つだろう。
細かな幸運がパピヨンの命を拾っている場面は随所に見られる。
では、それはこなたが死んだ後、失われるのではないだろうか。
しかし、その後もプッチ神父に敗北した後やアレキサンドリア達との遭遇に見られるように、パピヨンの幸運は尽きない。
それは何故だろうか。
泉こなたが死亡した前後の状況にそのヒントはある。
彼女が死亡する直前、放送により彼女の友人が多数死亡したと知らされた。
その時の泉こなたの心理状況はどのような物であったろう。
仲間達が次々と倒れる中、何の力も持たぬ自身のみが生き残っている。
ようやく生還の目処が立ったにも関わらず、強い力を持つ者すら倒れていく。
これにより既にパピヨンに心惹かれていたこなたが、無意識にでも自身よりパピヨンの命を優先していなかったと、誰が言い切れるだろうか。
それは漠然とした皆で一緒に帰るといった望みより、明確で故に強い望みであったはずである。
その時のパピヨンの状況を見てみるとより理解しやすい。
この時パピヨンが居たのはD-3エリア。
このエリアには同じ時間、優勝を目指していたジグマールと、この頃はまだ優勝狙いであったエレオノールが居た。
そして何よりの恐怖は、この時E-4エリアに居た範馬勇次郎だ。
彼は西へと進路を取っていたが、梟に導かれE-3南部に移動している。
これは一歩間違えばパピヨンが遭遇していてもおかしくない距離だ。
そんな危険地帯に居たパピヨンは、しかしこなたとの電話によりC-4エリア学校へと直行している。
つまりこなたへの電話とその後の混乱は、パピヨンを危険地帯から避難させる事に繋がっていたのだ。
泉こなたの望みは、完璧な形で果たされていた。
そしてその望みがパピヨンの生存である以上、その後もパピヨンの幸運が失われる事は無い。
ではもし、パピヨンが泉こなたへの想いを失っていたらどうだろうか。
それは泉こなたとの関わり合いを拒否するといった意味である。
故にその時こそがパピヨンが幸運を失う瞬間となろう。
だからこう言い切れる。


こなたへの想いを忘れぬ限り、パピヨンは常に幸運の星(ラッキー・スター)と共にあると。



御前には強がったが、やはりダブル武装錬金は無理があった。
御前の弾幕に、黒死の爆薬による煙幕。
それだけ放っていても奴には通用しない、そんな変な確信があった。
この攻撃で、おそらく、限界、だ。

そして、俺は完膚無きまでに目的を達成する。

葉隠に戦わせ、策を練る間に、天啓のごとく脳裏を過ぎったもう一つの策。

俺は死ぬ。この策はそれが前提にある。

俺の最期の策は、全て俺の為の物。

JUDOを倒す、それはおまけのようなものだ。

俺の最も望む目的が、すぐ側にあるとエレオノールが教えてくれた。

未来もいらない。

帝王の道もいらない。

命もいらない。



俺は、こなたに会えるのなら、他の全てはどうでもいいんだ。



大首領の拳、光を纏ったその一撃に、体をばらばらに砕かれながら、俺は笑っていた。

感謝するぞエレオノール。

お前のようにやれば、俺は最期の瞬間、こなたに会えると確信出来たんだからな。





「お疲れパピヨン」
こちらを覗き込むように見ているこなた。
随分長い間見ていなかったような、それでいてついさっき見たばかりのような気がした。
「ああ、疲れた。何だってお前に会うだけでこんな苦労しなきゃならんのだ」
こなたは笑う。愉快そうに。
「それはあれだよ。やっぱり、あ、あっ、愛には試練が付き物って事さ」
「照れるぐらいなら初めから言うな」
そんな事を言いながら、多分俺も照れている。
むぅ、これは何とも歯がゆいというか、こそばゆいというか。
「蝶野、お疲れ様だ」
何だこの声は。
「……何故お前まで居る」
「うおっ! 何か泉さんと俺で反応が違くない!?」
アホかお前は。こんな所にまでしゃしゃり出てきやがって。
「武藤、お前には別に用なんて無い。とっとと帰れ」
「ひでぇっ! そりゃ彼女とすとろべりってる所邪魔してるみたいになっちゃったけどさ!」
むぅ、か、彼女とな。
思わずこなたと目を合わせる。
はにかんだように笑うコイツは、やっぱり物凄く可愛い。
だから俺はしまらないにやけ顔のまま、武藤に言ってやったんだ。

「どうだ良い女だろ。羨ましいだろうがこいつは俺のだ。誰にもくれてやらんからな」





赤木の銃撃から逃れ、かがみはビルの谷間に駆け込む。
その場所からは覚悟の戦いも見えず、パピヨンの話し声も聞こえてこない。
わかっている。自分があの場に居た所で何も出来る事なんて無い事ぐらい。
それでも、自分だけが逃げる事なんて、納得出来るはずがない。
共に命を賭ける仲間でいたかったのだ。
みんなが死ぬのなら自分も一緒に死にたかった。
赤木の言葉を理解出来る程度には、正しいと思った事を我慢してやりとおせる程度には、強くなっていた自分が憎らしかった。
後ろも見ずに駆け出す。
嫌で嫌でしょうがないが、それでも走る。
誰か助けて、そう心の中で叫びながら。
この足を止めてくれるのなら、戻って良いと言ってくれるのなら、私はどんな事だってしてみせるから。

それが目の前に現れた時、かがみにはすぐにどういう存在なのか理解出来た。
姿は見えるけど、実際にそこには居ない。
形は変身した村雨に良く似ていた。
しかし胸が盛り上がっている所とか、腰のくびれとかから、それは女性であるように思えた。
表情を表す事もないマスクを被っているが、彼女が悲しんでいる様子が見てとれた。
自分がこれまでにやってきた悪い事全てを見透かされたような気になる。
言い訳をしたくなったが、彼女にそれは通用しないだろうという事もわかっているので、かがみは我慢した。
動けない。
戻りたいし、先に行かなければならないのに、体が言う事を聞いてくれない。
ただ魅入られたように彼女の姿を見つめる事しか出来ない。
彼女はゆっくりとかがみに近づいてきて、腕を伸ばしてくる。
抗う事すら許されないかがみは、目を瞑って首をすくめる。
彼女の指は、かがみの頬をゆっくりと撫でる。
その指の感触が全く感じられないと思った時、かがみの中で全ての事柄が繋がった。

『鏡餅の円は『鏡』をかたどってるんだけど、鏡には昔から神様が宿るって言われてるのよ。
 だから神の恩恵を受けられる子になりますようにってコトらしいわ』

私の名前の由来。そうだ、この人は神様なんだ。
ずっと不思議だった。
私みたいな普通の子が生き残ってる事が。
でもようやくわかった。私をこの人が守っていてくれたから、私みたいな何も出来ない子でも生きてこられたんだ。
涙が止まらない。
そうだ、ようやく私は役割を得た。
みんなの為に出来る事、私にしか出来ない、そんな事があったんだ。





パピヨンからの通信、その第一声はムカツク事この上無かった。
「おい服部、お前は死ね」
あんのドアホ。連絡寄越したかと思ったらいきなりこれや。
赤木といいコイツといい、必要最低限の社交性ぐらい身につけとけ。
それに俺らそもそも初対面(?)やろが。軽々しく呼び捨てにすな。
大首領が復活した事、それに対抗する為の手段、伊藤博士も交えての話し合いでこれらが纏まっていく。
その根幹を成すのがこのエネルギー物質変換装置。
伊藤博士がメインコンピューター室から目標を設定する。
変換する物質の項目に入力された物。
これが俺の死を確定させていた。

『サザンクロス』

こいつを丸ごと一つエネルギーに変えようって話や。
雲みたいな薄い質量のものでも核爆発のようなエネルギーに変換してしまうコレを、巨大な固形物であるサザンクロスにかましたら一体どないなってまうんやろ。
考えてみればアホな話や。
エネルギー物質変換装置はサザンクロスの中にあるにも関わらず、そのサザンクロスを燃料にエネルギー作ろう言うんやから。
伊藤博士曰く、この機械にはむしろそういった形の方が望ましい。操作する人間は間違いなく死ぬが。だそーだ。
まあ片足の俺でも出来る事らしいし、それならそれでやったるわ。

赤木が裏切ったと聞いた。
すぐに通信したんやけど、アイツめ、通信機ぶっ壊しよったな。連絡繋がらへん。
何となく、赤木が考えていた事を想像してみる。
前回は仮面ライダー十人が大首領の元まで辿り着いた。
今回は俺達が、しかし、それは次回必ず大首領の元に誰かが辿り着くという事にはならへん。
封印強化にしたって、伊藤博士はそれしかないと思っていたからその案に縋り付いてたけど、実際に間に合うかどうか何て誰にもわからない。
それよりも、前回は次元を超える移動能力なんてもん持って無かった大首領が、今回はそいつを振りかざして来た事のがよっぽど重要や。
時間をかける事は必ずしも人間側に有利な事ばかりではない。
むしろ、不利になる可能性の方が高いかもしれん。
それでも一度体勢を立て直してからやればいい。
無理や。体勢を立て直すからにはひゃくぱー確実に大首領を仕留められる作戦が必要になる。
むしろそれが立てられるまでは、身動きが取れなくなる。
せやから、あいつ自身は何の策も持ち合わせてへんのに、大首領復活に踏み切った。
俺達が何とかするやろ、そーんな事考えてや。
そないなアホみたいなギャンブル出来る奴居るか?
俺の知る限りでそないな真似出来る奴はアイツしかおらん。
人の命を何や思うてんねん。いや、それを踏まえた上でもあいつは同じ事が出来るんやろな。

もっとゆっくり話をしたいと思った。
他の連中はみんな文句言うやろけど、俺は赤木を凄い奴やと思うから。
どうせ俺もう大してやる事も無いしな。
作戦の詰めはパピヨンや伊藤博士の科学者でないと無理や。
俺に出来るのはここをきっちり確保しとく事ぐらい。

なあ赤木、俺はお前の事ホンマに凄い奴や思うてるんやで。


むちゃくちゃムカツク奴やから絶対面と向かってなんて言うてやらんけどな!





村雨良は荒涼とした砂漠のど真ん中で、膝を付き項垂れていた。
ここは次元の牢獄。
確たる風景を持たぬはずのここがこのような姿をしているのは、村雨の持つこの世界のイメージがそうであるからだろう。
JUDOと魂を入れ替える事により、ここへと封じられてしまった村雨には最早為す術が無い。
赤木にメモリーキューブを奪われ、その後、何と思う間すら無くここへと飛ばされてしまった。
戦う事も、抗う事すら出来ず、一瞬で。
口惜しさの余り、何度も砂の大地を殴りつけていたが、それも無益な事と、遂には諦めたように座り込んでしまう。
何故こんな事になってしまったのかわからない。
そしてわからないままに、ここで永遠の時を過ごさねばならない。
残された皆が、どうなってしまうのか、それを知る術も村雨にはない。
大首領であったモノ、今の村雨を形作っている残された僅かなエネルギーに刻まれた記憶が、村雨の抗う意思を奪い取ってしまった。
大首領の全力をすら受け止める無限の牢獄。
そこは、神の力すら及ばぬ絶対の終焉なのだ。


「だーれだ」


もう無くなってるはずの心臓が飛び出しそうになった。

「なっ! なにいいいいいいいい!!」

両手で俺の目を覆ってきた相手、その声、忘れるはずがない。
驚いて振り返ると、その声の主、柊かがみがしゃがみこんでこちらを見ていた。

「やっほ、来ちゃった」
「ちょっと待てかがみ! お前どうやって!」
「うーんと……頑張って」
「頑張ったって無理だろ! お前一体何をやらかしたんだ!」

飛びあがって、そんな感じだったろう。俺は立ち上がったが、かがみはふいっと後ろを向いた。

「あーあー、村雨さんダメだなあ。ココって思う通りの風景になるんだよ。だから……」

ぱっと景色が変わる。
緑豊かな山の中、うららかな日差しの中、草花が生い茂り、鳥の鳴く声が響く。

「ほら、ね。ココも案外悪くないでしょ」
「……かがみ」

振り返ったかがみは楽しそうに笑っている。

「私、村雨さんはもう充分戦ったと思う。だから、ここでゆっくり休んでもいいんじゃないかなって」

村雨の手を取り、両手で握り締める。

「私も一緒に居るから。だから、ここで暮らそう村雨さん。きっと楽しいから」

かがみの気持ちが理解出来る。
この優しい子は、いつもこうして、俺の事を気にかけてくれていた。
だから即答出来た。
強くかがみの手を握り返す。

「かがみ、俺を元の場所に戻してくれ。俺はまだ、JUDOと戦っていないんだ」

かがみは少し拗ねたような顔になる。

「……凄い、苦しいわよ」
「耐えてみせる」

今度は困ったような顔をする。

「……きっと、戦いにもならないわよ」
「一矢でも報いられるのなら、その後に地獄に堕ちようと構いはしない」

「そっか……じゃあ、帰ろっか」

最期にかがみは残念そうな、それでいて安心しているような、複雑な顔をしていた。



かがみがそうあれ、と思っただけで、時空の牢獄は消えてなくなった。
どういう事か目でかがみに訊ねるが、かがみは答えてくれなかった。
二人は月のすぐ側におり、そこから、かがみに手を引かれて地球へと向かって行く。
凄まじい速度で落下しているはずなのに、不思議と恐怖は無い。
まるで夢の中に居るような、呆とした感覚が、地表近くにまで辿り着いた時、はっきりと目覚める。
村雨の目に映った一人の少女の姿が、そうさせたのだ。
驚愕し、確かめるようにかがみを見ると、彼女はいたずらをする子を前にした母のように、困った顔でこちらを見返すのだった。





すぐにかがみは祈りを捧げる。
神様、どうかお願いです。みんなを助けて下さい。
こんなに頑張ったみんなが、ここまで来て全部ダメになるなんて、ひどすぎる。
村雨さんに至っては戦う事すら許されないなんて、そんなのあんまりだ。
周囲も憚らず必死に懇願する。
もし触れる事が出来ていたのなら、その体にむしゃぶりついていたと思う。
声を限りに叫び、絶叫となっても願いを止めなかった。
しかし、神様は最初に現れた時のまま。
こちらを悲しそうに見ているだけ。
助けてくれていたのではなかったの、守っていてくれたのではなかったの。
なのに何故みんなを助けてはくれないの。
何故そんなに悲しそうな目で見ているの。

神様は顔を伏せる。まるでその瞬間が来るのをわかっていたかのように。
かがみがそれに気付く瞬間が。

突然目の前が開けた。
柊かがみでなければならない理由。
彼女が生を受けた時から積み重ねてきたもの。
みんながそうやって戦う術を身につけてきたように、かがみもまた資格を持っていたのだ。
神主の家に生まれ、神を敬う事をごく自然に受け入れていた。
普段の生活では別段気にするような事もない。
しかし、大きな選択を迫られる時、自然とその教えに従うような生き方をしてきた。
だから信じられる。
そのやり方が正しい事だと。
つかさも又資格を有していたはずだ。
でも優しすぎるあの子には少し難しい事でもあった。
だからこれは姉である自分の役目だ。

神様は自然と一緒だ。
ただあるがままに受け入れるしかない。
時に理不尽で、どうしようもない絶望をもたらすけれど、それは神様自身にだってどうしようもない事。
だからこそ私達は畏れ、敬い、信じる。
神様が、神様のままでありますように、と。
それでも、本当にどうしようもなくなった時、人は神様にお願いをする。
もう長い間そんな事をしなくなって久しいけど、それでも神様にそのあり方を少し変えてもらうようお願いするには、その方法しかないんだ。

「顔をあげてください神様。私は嬉しいんですよ、本当に……」

こんな私でも、私にしか出来ない事があった。

「みんなを助けられる。そんな私であった事が何より嬉しいんです」

私をすら悼んでくれる、やっぱり神様はお優しい人なんだ。だからきっと願いを聞いてくれる。

「だからお願いします。みんなを助けて下さい。代わりに……」



「……私を、貴方に、捧げます」



首筋から鮮血が舞い散る。
どんと体が揺れる音、少し驚いたけどあまり痛くなかった。
さあ、早く意識も無くなっちゃって。
みんな待ってるから、少しでも早く……みんなを……助けて……あげな……きゃ……




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