葉隠散には夢がある ◆TJ9qoWuqvA


 風を切り裂き、赤い仮面の戦士の拳が唸り迫る。
 それを散は華麗にかわし、脇腹を蹴りつける。
 金属の硬い反響音を耳に、戦士が僅かに揺れる。
 しかし、それだけだ。骨が折れたり、痛みに呻く様子は無い。
(なるほど。痛みを感じないというのは本当らしいな)
 口角を吊り上げ、散は不適に笑う。これほど滅し甲斐のある相手も珍しい。
 散は肩幅以上に足を広げ、地面の力を蓄える。左肘を曲げ、顔と平行に構える。
 右腕は手刀を形作り、右後方へとまっすぐ伸ばす。
 零式防衛術「右螺旋の構え」。散が最も得意とする型の一つだ。
 尋常でない技である事を察したのだろう。ZXも跳び、赤く輝いて右腕と左腕を右へ伸ばす。
 この構えを見て、最強の技を仕掛けるのは一流の証。
 散の相手にとって不足でないことに、笑みを浮かべ敵を見つめる。

「ウオオオオオオオオオオオオ!!」
「螺旋―――――――――――!!」

 視界が光に染まり、建物を砕いていく。
 空間が爆ぜ、二人が吹き飛んだ。

 散が膝をつき、ため息を吐く。右腕は血に染まっている。
 螺旋も不完全にしか決まらず、右足を吹き飛ばしたのみである。
(強いな。それにしても、気になることがある。あやつ、まるで強化外骨格と戦っているような錯覚を持ってしまうが……)
 ゆらりと、幽鬼のようにZXが立ち上がり、こちらの右腕を見つめる。
「痛いか?」
「笑止!! この程度、痛みにも入らぬ!!」
「……そうか。なら、俺に痛みを見せろ!!」
 ZXが腕よりチェーンを取り出し、電柱に巻きつける。
 巻き取る勢いで身体を浮かばせ、散に左足で蹴りを放った。
 受け止め、散は螺旋の構えをとろうとする。だが、それは叶わなかった。
 負傷している右脚で蹴りこまれたのだ。
「千切れた足で……」
「俺の身体は痛みを感じない! 痛みという記憶すらない!!」
 さすがの散も予想外。血がかかり、衣装が汚れたことに顔を顰め、殴りかかるZXの拳をひらりとかわす。
 地面を抉り、粉塵を盛大に立てるZXを睨みながら間合いを取る。
 霧が発生し、粉塵が晴れた先には、ZXが二人いた。
 その様子を見つめ、散は余裕たっぷりに笑みを浮かべる。
「身軽な動き、分身の術。まるで忍者のような奴だ」
 迫るZXを無視し、構えをとる。こいつらに実体はない。
 瓦礫を吹き飛ばし、地面よりZXが現れた。予想通り。
 しかし、足が砕かれているというのに、神速の速さで迫ってくる。この速さ、予想外。
「くらえ!! オオオオオオ!!」
 ZXの拳が散の腹に当たる。血を吐き、辛うじて螺旋を放った。
 しかし、拳の威力で狙いがそれ、ZXに引っかかっているデイバックを傷つけたのみだった。
 一枚の紙が舞い落ちる。そこに書かれている文字を見て、散は目を見開く。
 身体を回転させ、蹴り飛ばす。そして、散は紙を取った。
 強化外骨格「霞」と書かれた紙。いったいこの紙が何なのか、知らない。
 しかし、散は迷いなく紙を開き、予想通り現れた強化外骨格「霞」を顕在させる。
「瞬着!!」
 鎧を身に纏い、散はZXの眼前でその姿を見せる。
 複眼のようなレンズが、額と散の目に当たるところに四つ存在している。
 後頭部には女の髪のように、チューブが伸びている。白いマフラーをなびかせ、黒い外骨格の姿。
 不退転の塊が、魂を持って立ちすくんでいた。


 ―― 口惜しいや ――

 現れたのは、銃弾に穴を開けられた身体を持つ女。
 本来、強化外骨格には千単位の亡霊が宿る。
 しかし、この強化外骨格「霞」に宿るのはたった一人の女の霊。
 なのに、その戦力は万の亡霊を宿した強化外骨格にも勝る。
 それはひとえに、
「すまぬ。私は勘違いをしていたようだ。
冥、お前と共に、真実を見たはずなのに」
 その昔、戦争が行われていたころ、冥は一人息子を軍に徴集されてしまった。
 まだ、0才になる幼子をである。
 霞の材料にされた事を怒り、母の恨みを持って、霞へと宿ったのだ。
 散もまた、その鬼畜のごとく行いを見て、人類に絶望した。
 彼女の住む地球は最早滅びの道を行く。このまま人の行いを許容しておけば、物言わぬ生命が犠牲になると考えた。
 冥の右手を、散はとる。もう二度と、血迷いはしない。
 死合など、戯けた事を言っている暇などない。
 主催者もろとも人を滅する。
 それが、冥と散の目的。

 ―― 鋼我一体! ――

 散の胸に宿るのは、物言わぬ生命の嘆き。
 冥の悲しみ。玉太郎への哀れみ。葉隠四郎を含む人類への怒り。

 ―― 心は一つ! ――

 両脚で大地を踏みしめ、瞳を燃やす。

 ―― 人間の世の燃え尽きる日まで! ――

 その手刀、鋼鉄を切り開く鋭さを持つ。
 散に怖いものだと、もう無い。

 ―― 血盟!! ――

 不退転鬼・散。『星義』を胸に、全人類に宣戦布告を行った。


 散はZXを見つめる。霞を纏った散には、彼の身体に多くの亡霊が纏わりついているのが見える。
 彼もまた、強化外骨格と同じく多くのものを犠牲に、存在しているのだ。
 ゆえに、彼は全てを失ったのだろう。それもまた、人の残酷さが生んだものと散は判断した。
「ウオオオオオ!!」
 ZXの拳を受け止める。哀れなほど、重い。
「お前の痛み、受け取った!!」
「俺は痛みなど、感じていない!」
「否! 記憶が無いと、嘆いている!! それは痛みだ!!!」
 ZXの攻撃が僅かに緩む。
 その彼の腹に、重みを乗せた一撃を当てる。ビルの壁に叩きつけられ、今度はZXが膝をつく。
 それもそうだろう。先程とは、乗せている想いが違う。
 冥と心を繋いだ散に敵はいない。何より、散はZXが哀れでならない。
 息も荒く、ZXは立ち上がる。それを前に、静かに右螺旋の構えをとる。
 また、ZXも空を跳び、先程と同じ構えをとる。
「オオオオオオオオオオオ!!」
 赤く光るZXが、右脚を再構成して、迫り来る。
 まだ、散は構えたままだ。

 ―― ゼクロスキック!! ――

 まだ、散は動かない。
 蹴りが散の胸を突き、後退させ続ける。
 しかし、光は途切れる。
「ッ!!」
 これは、制限によるものだが、二人が知るよしも無い。
 そのまま散はZXによって壁に叩きつけられた。
 だが、その構え、微動だにせず。
「痛いな。この散に痛みを与えるとは、見事!!」
 大地を踏みしめ、地球の力を右手に込める。
 狙いは、ZXの左腕!

「螺・螺・螺・螺旋――――!!」

 ZXの左腕を砕いて、逆方向に存在しているビルへと叩きつける。
 不退転の一撃。それは、目的を思い出させてくれたZXに対する礼だ。


 水滴が一滴、村雨の顔に垂れる。
 顔を顰め、辺りを見回すと、廃墟のような埃っぽい一室に倒れていた。
 ズキッとした感覚を感じ、左腕を見る。再生をしているが、自分が感じた感覚に疑問を持つ。
 そして、一つの答えが出た。
「これが、痛みか」
「ほう、痛みを思い出したようだな」
 声の主へ視線を向ける。
 兜を脱ぎ、こちらを興味深げに見ている、先程戦った相手。
「なぜ、俺を助けた?」
「答える前に一つ聞きたい。お前の名は?」
「……ムラサメ」
「フム、名簿から察するに、村雨良がお前の名か」
「村雨良……それが俺の名前……」
「いい名だな。良、この散と共に往かぬか?」
 その言葉に呆気にとられ、顔を見つめる。
 人の気持ちなど分からないが、冗談を言っているようには見えない。
「心配するな。散の部下は、元は私を討ちに来た人類の勇将だった。
良はそのいずれの部下にも劣らぬ。安心して私と共に歩むがいい」
 村雨の顎を散は掴む。そのまま上げられ、唇に、熱く、甘く、柔らかい感触を感じた。
 この感覚、村雨には未知数。
「これはその証! 散と共に歩む事を許した。さあ、愚かな人間の世を終わらすため、共に往こう!!」
 散の言い草に、三影を思い出す。彼もこの殺し合いに参加していたはず。
 合流するまで、散と組むのも悪くは無い。
 何より、散は自分に『痛み』を思い出させてくれた。
 無言で頷く。その姿に満足をしたのか、散はデイバックを放り投げた。
「お前のものは破れたから、散のデイバックに荷物をまとめた。
支給品とやらも入っているが、私は霞以外要らぬ。お前にやろう」
 中身をさぐり、一つの紙を見つける。
 クルーザーと書かれた紙。開くと、バイクが顕在した。
「驚かぬのか? つまらない」
「驚く? 何だ、それは?」
「そうか、良は記憶が無かったのだな。まあいい。この散が、全てを思い出させてやる。安心しろ」
「どうやって記憶を取り戻させるつもりだ?」
「知らぬ。だが、必ず記憶を取り戻させる。私に二言は無い!!」
 やけに自信満々な散には悪いが、期待はしない。
 バイクに跨り、散が後ろに乗る。
「まずはホテルへと向かおう」
「なぜだ?」
「汚れを落としたい。私は常に美しくなければならない。なぜなら、王であるからだ」
「分かった。ホテルへ向かう」
 本来なら、ツッコム場面だが、村雨はそのままの意味で受け取る。
 それでいい、と呟く散を背に、ホテルに向かう。
 朝日が目に差し込んできた。


 村雨の背中に抱きつき、散は思考する。
(この死合、放棄してしまうのはいささか無責任だな。だが、この散にはやらねばならぬことがある。
マリアよ。初めに会った縁で、お前を殺すのは最後にしてやろう。良と共に、人と主催者を皆殺しにしてくれる!!)
 それが、散の『星義』だから。
 彼らの進む道は明るかった。 


【E-5 南部/1日目/早朝】
【葉隠散@覚悟のススメ】
[状態]:右腕負傷。全身に中程度の負傷。疲労(中)
[装備]:強化外骨格「霞」
[道具]:なし
[思考]基本:人類抹殺。
1:南のホテルに向かい、汚れを落とす。
2:人間を殺す。しかし、村雨のように気に入った相手は部下にする。
3:マリアを殺すのは最後。

【E-5 南部/1日目/早朝】
【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:左腕破損(再生中)。全身に中程度の負傷。疲労(中)
[装備]:クルーザー
[道具]:支給品一式(散&村雨。デイバック一つにまとめてある)、不明支給品1~4品(本人&散。確認済み)
[思考]
基本:殺し合いに乗る。
1:散と共にホテルへ向かう。
2:三影と合流。
[備考]
参戦時期は原作4巻からです。
村雨静(幽体)はいません。
連続でシンクロができない状態です。
再生能力はいつも(原作4巻)の倍程度時間がかかります。


065:反逆ノススメ 投下順 067:MY DREAM
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