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「5スレ>>559」(2008/08/29 (金) 23:48:39) の最新版変更点
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夜中の静かな宿泊施設の廊下を歩き、エレベーターに乗る。
どうやら負傷者たちの手当てなどは別の場所でやっているようだ。
別の建物に移動する渡り廊下を進み、リーグ本部へ。
フーディンがボールの中から、声をあげてきたのはその時だった。
『マスター、対策はあるのかい?』
「…正直言って、ない。ミュウツーの戦闘能力は距離や地形を全く選ばないタイプのものだ。
あらゆる距離で発動可能な念力と飛行能力。格闘戦能力はあまりなさそうだが、そもそも格闘をする必要性がないんだろう。
要するに、ミュウツーに死角はない。8人がかりでも勝ち目は薄いな」
『じゃあどーするんや。わざわざ死にに行く訳でもないやろ?』
「ああ」
話を聞いた限りで俺が思いつく手はたった一つ。
「さっき言ったとおり、奴は強力すぎる。だが、攻めこめる点はいくつかある。
一つに、アイツは知能はあるが知識がない――つまりはバカだ。長く封印されていた故に、常識や戦い方を知らない。
だから、つまり…かく乱戦術なんかが有効なんじゃないかって思う。
それに、力の使い方もよく分かっていないらしく、無駄が多い。消耗も早いだろう。
もう一つ、俺達が勝っているのは手数だ。8人という人数と、俺が指揮することによる連携。
その二点から奴の防御を破り、強力な攻撃を打ち込む。それが俺の策だ」
『…簡単に言ってくれますね』
『けど、あたし達にはもうそれしかないよ!』
『まけることを、かんがえちゃ…駄目、です』
バタフリーの否定的な意見をライチュウとキュウコンがうち消す。
『そうだよ!今までだって何とかなったし、マスターもいる。きっとボクらなら勝てる!』
「…というか、思ったんだが」
『?』
「お前ら、ふつうに言ってるけど俺についてきていいのか?
たぶん今までみたいな怪我じゃ済まないと思うぞ?」
なるべく明るく言う。正直、あまりこいつらをミュウツーと戦わせたいとは思っていない。
だが―――
『マスター、それ、今さらすぎます…』
「…やっぱりか?」
『はい』
「―――ありがとな」
『?…何か、言いました?』
『いや、マスターは…あ痛っ!』
「なんでもねーよ」
余計なことを言おうとしたフーディンのボールを小突く。
そのままガラスの扉を開けて外へと出た。
セキエイリーグ前、昼間の戦いの爪痕が残る地面を踏みしめ、
俺は鞄から小さなガラスのケースを探り当てて、中に入れていた炎の羽を取り出した。
「…行くぞ、みんな」
羽が燃え上がり、数秒後―――
夜空に赤い光が見えたかと思うと、瞬く間にこちらにやってきて着地した。
「ごきげんよう、マスター」
「ファイヤー…大丈夫か?」
「ええ、少々あのノイズはこたえましたけれど…伝説ですから」
「…そうか」
万一のためにフーディンとシャワーズのボールにかけていた手を離す。
理由がいまいちよくわからないが、まぁそれはいい。重要なのはファイヤーが無事と言う事実。
俺の9体目の仲間、ファイヤー。単体でも戦力になるが、俺には別の考えがあった。
ファイヤーが無事ならば、その条件はクリアされたも同然―――。
「ファイヤー、ハナダ西の洞窟の入り口まで頼めるか?」
「…えぇ、お安い御用ですわ」
ファイヤーの顔には複雑な表情が浮かんでいた。…俺を止めたいが、止められないことを分かっているのだろう。
* * *
洞窟入り口。ひやりとした夜気が噴き出してくる場所で、俺はファイヤーから降りて、
以前から考えていた作戦を告げる。…ファイヤーはちょっと嫌そうな顔だったが、まぁ仕方ない。
「じゃあ、頼むぜ」
「はい。お任せ下さいませ」
ファイヤーを見送る。時計を確認すると、夜明けの予想時刻まであと5時間。
ミュウツーの使用していた洗脳装置は太陽の出ている間しか機能しないらしい。
それまでにミュウツーを倒さなければ、俺達は洞窟内の萌えもんに襲われることになるだろう。
「…行くぞ。準備はいいな?作戦は事前に通達したとおりだ」
そうして、俺は魔窟への一歩目を踏み出した。
歩きはじめて20分くらいだろうか。
俺は洞窟の奥にある、研究施設の入り口を見つけた。
「…ドアはロックがかかっていないな…電力も生きてるし、開けられそうだ」
『…この奥に、ミュウツーが…』
「…だろうな」
…ここからが戦場になる。…しておくべきことは…
「よし、じゃあ一応点呼取るぞ。全員静かに、かつしっかり返事をすること。
じゃあ…シャワーズ」
『え?あ、はい』
「フーディン」
『あぁ』
「フシギバナ」
『はーい』
「キュウコン」
『…は、はい』
「ライチュウ」
『うん』
「プテラ」
『応』
「フライゴン」
『はいな』
「バタフリー」
『はい。…全員います』
「…よし。この戦いが終わったらもっかい点呼をとるから、全員ちゃんと返事をするように!
誰か1人でも返事しなかったら承知しないからな!」
『マスター…』
言葉の意味は大方わかってくれたらしい。
「…行くぞ」
扉を開けて、俺は中へ進んだ。
研究施設の明かりはついているため、室内もそれなりに明るい。
液体のみが入った実験用のカプセルや、コンピューター群の通路の先の開けた場所にそいつはいた。
「…よぉ、ミュウツー」
「…………」
まるで、2,3日会っていなかった友達に挨拶するように。
俺は気付けば、あいつに声をかけていた。
「…何しに、来たの?」
…どうやら、奴も俺を覚えていてくれたらしい。
「お前を倒しにきた」
「…そう」
閉じられていたミュウツーの目が―――その瞬間、開いた。
「あなたもわたしを否定するのね―――わたしは、生まれたかったわけじゃないのに」
「…………」
「わたしは何のために生まれてきたの?どうしてわたしは作られたの?
わたしはどうやって生きて行けばいいの?わたしは―――、誰なの?
―――ねぇ、教えて」
望まれて生まれたわけではない生命。生きる理由も、存在意義さえも初めから存在しないもの。
静かな怒りと絶望。その凄まじさに、俺は背筋が総毛立つのを感じた。
…だが、引くわけにはいかない。
「…プテラ!」
『承知!』
右の手を腰にやり、ボールを真上に放り投げる。
ミュウツーの目がそちらに行った瞬間―――左手に握っていたふたつめのボールからプテラが飛び出す!
「うぉおおおおおおおおおおっ!!」
「―――っ」
ロケット頭突きがミュウツーによって止められる。しかし、念のバリアを押し破ろうとするプテラの突進は止まらない。
さらに、二手目を続けて発動する。
「ライチュウ!」
「奥義、稲妻Vの字キィーック!!」
囮として投げ上げたボールから飛び出したライチュウが、そのまま必殺のドロップキックをプテラと入れ替わるようにして打ち込む!
数歩後退したミュウツーのバリアを破壊しながら着地、さらに体のばねを使って飛び蹴りを叩きこむ!
…横から見れば、確かにVの字だ。
「!!」
しかし、ミュウツーの念力でプテラもろとも弾かれる。敵を払った奴が俺の方に一歩進んだ瞬間――
先ほどの戦闘の間に足もとから転がしておいたボールが開く!
「キュウコン、シャワーズ!!」
「「はい!」」
同時にライチュウとプテラをボールへ帰還させ、手元へ再度呼び出す。背面からの奇襲、さらに―――
「フライゴン!」
「おっしゃーっ!!」
時間差で投げていたボールから飛び出したフライゴンが正面から攻撃をかける。
前後からの奇襲と騙し撃ち、さらに挟みうち。
「れいとう…」
「フレア…」
「ドラゴン…」
さらに、この攻撃の最中から6人目をすでに展開している。
バタフリーの痺れ粉をミュウツーにずっと降らせているのだ。
動きを鈍らせ…さらに、最後の布石を準備する。
「パンチ!!」
「ドライヴ!!」
「クローッ!!」
3体の近接攻撃を、ミュウツーは半身になって受け流す。
しかし、その隙をバタフリーの銀色の風が襲った。エスパーの念力に干渉しやすい虫タイプの技だ。
「く…………」
「フシギバナ、フーディン、いまだ!」
『うん!』
『わかった』
体勢を崩したところに、即座にフシギバナのハードプラントが襲いかかる!
防御を突き破り、何本かの根がミュウツーの身体に傷をつける。
だが、最後の攻撃がまだ残っている!!
「ぐぅ……!?」
「これで堕ちろ!シャドー…ボォールッ!!」
宙を切り裂いていった根の下を転がっていたフーディンのボールが開く。
そこから現れたフーディンは、すでに己の全力を込めたシャドーボールを展開していた。
「はぁぁぁぁっ!!」
「……!!」
零距離での一撃が決まり、ミュウツーを大きく吹き飛ばす。
フシギバナがハードプラントの反動から立ち直る間に、仲間たちが俺のもとへと集まってきた。
「…これで終わり…じゃ、ないよな」
* * *
ミュウツーは思考する。相手の行動は予測が効かない。
ボールや奇襲を利用した戦術は、相手の数があるからこそだ。
では、どうするか。ミュウツーはすでに、その答えを見つけて行動に移していた。
背後の箱型の装置に触れる。…念力で起動、中の物を動かせるようにして――射出した。
* * *
「…マスター、来る!」
フーディンの警告の直後、ミュウツーが消えた研究所の暗闇から何かが飛び出してきた!
手ににぎりやすいサイズの、横にラインが入った球体。俺たちのとは違い、黒いものだが、あれは…
「モンスターボールか!?」
中央に目の文様がある…黒いボール。
どういうものか分からないが、予測はつく。そもそもこれはミュウツーの仕業なんだろうし、
だとすれば敵意のないものであるはずがないだろう。
「くそっ…全員散開、ツーマンセル!あのボールには当たるなよ、何かある!」
俺の指示に全員がその場から離れ、ふたりでひと組となってボールを回避し、撃ち落としていく。
だが、数が多い。2人ではカバーができないと判断し、俺はさらなる指示を下した。
「みんな、アレに当たるな!当たれば捕まる、とにかく近づかれないようにしろ!
散るなよ、狙われるからな!全員で円陣を組んで互いにカバー!」
だが―――それが、俺のミスだった。
全員がこちらへ戻って来ようとした瞬間に、雲霞のごとく全員に黒いボールが襲いかかったのだ。
「っ!?」
「しまっ…」
「うぁ!」
「あぐっ…」
「プテラ!フライゴン!フシギバナ!バタフリー!」
空中で反転したプテラが背後からボールに捉えられ、そのボールをつかもうとしたフライゴンも捕まった。
さらにハードプラントの疲労からか、反応が遅かったフシギバナを黒いボールは逃がさず、
そのために孤立したバタフリーもあえなく餌食となった。
「くっ…くそ!」
すぐに追いかけたいが、ボールが俺たちを完全に包囲していて、動けば確実に全滅する。
しかも、まだキュウコンとライチュウが孤立していた…と思った瞬間、二人も俺の視界から消えた。
「いやっ…!?」
「マスタぁぁっ!」
「ライチュウ、キュウコン!」
今残っているのは、俺のそばにいるフーディンとシャワーズだけ。
念力で全方位をフーディンがカバーしているから、何とか攻撃を防いでいるが、長くはもたないだろう。
「どうする、マスター!」
「早くみんなを助けないと…!」
二人の声も切羽詰まっている。
…やはり、これしかないか。俺は鞄を下ろし、その中からあるものを取り出した。
「シャワーズ、フーディン、よく聞け。俺はあいつを倒すのを諦める」
「え!?」
「何を言って…!?」
「とにかくアイツを無力化できれば、みんなを助けられる。
萌えもんを無力化するための最も簡単な手段と言えば…?」
「…まさか、マスター…」
「アレを捕獲する、とか言わないよね」
俺が取り出したのは、ひとつのボール。
「…ロケット団アジトでサカキが落としていった、シルフ製試作型モンスターボール。
あらゆる最新技術を詰め込み、その捕獲率は100%とも言われる『マスターボール』だ。
投げたらまず間違いなく止められるだろうから、零距離で叩きつけるつもりだ」
「…正気かい」
「俺たちだけで勝てるならそうしてる。…最終手段だ。
お前たちはミュウツーの意識を反らして、血路を開いてくれ」
「簡単に言ってくれるね!」
「でも、やるしかないから、賭けてみましょう!」
全く…賭けごとは趣味じゃないんだけどな…!
「フーディン、私がミュウツーに突撃します。注意が逸れたら、一気に仕掛けてください」
「…だが、そんな事をしたら君は…」
「構いません。…ミュウツーを止めたら出られるんですから、少しの辛抱です」
「今度アイスの一つでも奢ろう」
「楽しみにしてます」
シャワーズは…どうやら、捨て石になるつもりらしい。
…俺がもっと強ければ、そんな役目をさせることもなかったのに。
「…ごめんな、シャワーズ。…すぐ助けるから」
「いいんです。…あの、マスター…最後に…」
シャワーズが俺の方を向き、目を閉じて何かを訴えかけてくる。無論、何を求めているかなんて一目瞭然だ。
即座に俺はシャワーズの頬に手を当て…まぁ、細かい描写は控えさせてもらおう。
「…っは、よし、これでいいな?」
「は…はい!」
「あと、最後とか言うな、縁起の悪い!終わったらこれくらいいくらでもしてやる!」
「はい!…マスター、行ってきます!」
「全く、見せつけてくれるね…準備はいいかい、二人とも!」
フーディンが念のバリアを解く準備を始め、シャワーズも跳躍体制に移る。
「…マスター、よろしく」
「ああ。…3、2、1…行けぇっ、シャワーズ!」
俺の指示とともに、シャワーズが飛び出し、空中からミュウツーに襲いかかる!
「やあああああああぁぁぁぁぁっ!!」
シャワーズが空中で体をひねると、どこからか大量の水がその身にまとわりつき、瀑布となってボールを弾き飛ばす!!
おそらくは、ハイドロポンプの応用だろう。だが―――
「く、ぅっ…!」
ミュウツーの念力によって、水ごと動きを止められるシャワーズ。
とけるを使って逃げようとしているようだが、それすらも封じられている…らしい。
だが、この瞬間、ミュウツーの意識は、捕まえたシャワーズにのみ集中している!
「フーディン、頼む!」
「承知…!」
フーディンが自らの肉体にリミッターを念力で外し、超加速でミュウツーの懐に入る。
「覇ああぁぁぁぁぁぁあぁっ!!」
薄くなったミュウツーの念壁をブチ破り、超速の肘が直撃!
「…っ!!」
激昂したミュウツーがシャワーズを黒のボールに捕獲させ、フーディンに念の矛先を向ける。
しかし、それよりも早くフーディンは背後にまわりこんでいた。
そちらにミュウツーの体が流れた瞬間、その顎に二撃目の拳が突き刺さる!
「今だ、マスターっ!!」
「おうっ!!」
しかし同時に、フーディンの体が黒いボールに取り込まれ、闇へと消えていった。
ミュウツーがこちらへ気づく…だが、その防御行動より俺の方が早い!
「コイツで…終わりだぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺は右手のマスターボールを、その背中に力の限り押しつけた。
ボールが開き、ミュウツーがその中に吸い込まれる。
…紫の瞳が、俺を見た気がした。