5スレ>>605

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 太陽が昇り朝が始まる。それでも出てきて僅かにしか時間が経っていない為か日差しは弱々しい。  散り散りになりながらも未だ暗雲が空に残っており地面には僅かながらの薄暗さが残る、そんな朝  早朝とも呼んでも語弊はないだろう少し早い時間帯。時間を言ってしまえば午前の七時の前後に。  何も見えないし何も聞こえないかと言って食べられてしまっているわけでもない、夢の世界から。 「…………」  何かしらの音を聞いたなどの理由も無しに、ただ旅を始めた事により身に付いた習慣に従って。  フユノは目を覚ました。  しかし少しの間は微動だにせず、静かな朝が続いて珍くも小鳥の囀りが窓から響き渡る。 「ん…………」  そうして数秒後に、やっと彼は呻いているかのような声を上げ、上半身を起こした。  まず最初に、両腕を思いきって前に伸ばし、腕の筋肉を解すと共に残っている眠気を吐き出す。  その後に彼は立ち上がり未練がましさを全開にのろのろとした動作でベッドから這い出た。  全国各地にある萌えもんセンター、トレーナー宿泊用の一室。  あまり大きくない部屋に簡素な調理台と家具と少し大きいベッドが二つ、備え付けられている。  片方のベッドから這い出たフユノがまず見たのは――――テーブルの前で一人座る灰色の髪の少女。  足元まで伸びるその髪は右眼を隠し唯一覗ける左目は鮮血を塗りつけたかのように、紅い――――― 「おはよう、サマヨール。………いや、おやすみ、か?」  そんな異端な、不気味な姿をした少女に、フユノは隣人にでもするかのように自然な挨拶をした。 「…………」  それに何も答えなかったが、彼は「うん」と何かを聞いているかのような相槌を取る。  いや、実際に沈黙を続けるサマヨールの意思を、何かしらの形で受け取っているのだろう。   突拍子で何の伏線も無しに悪いが彼―――――フユノは、人を思考を読み取る能力があった。  それは産まれた頃から何かしらの障害のように一生消えることなく持っていたもので  幼少の頃に母親が自分に「お前は選ばれた者なんだ」と懸命に嘘をついているのも分かったし  友人が自分を人の形をした化け物であると思い恐怖を隠しながらも付き合っているの事も分かった。  とにかくその能力の御蔭で、フユノは喋らないサマヨールとの意思疎通が可能となっていた。  フユノは再びベッドの上へと戻ると備え付けられたカーテンを閉め、着替えを終える。  その時になって初めて「子供達と遊んでくる」と書置きが自身の枕元に置いてある事に気づいた。  作ろうと思っていた朝食の分を一人前減らすと同時に書置きの紙を小さなゴミ箱へと投げ捨てて  そして今度はきびきびとした動作でベッドから這い出ると、そのまま調理台へと向かった。 「………別に寝ていてもいいんだぞ?」  サマヨールは椅子から降りると人形のようと喋ろうとせず動こうとせず、ただフユノを見ていた。 「…………」 「手伝ってくれるのは助かるんだが、大丈夫か?今寝ようとしたところだろ?」 「…………」  そこへサマヨールは首を振って否定の意を示す。そしてフユノは彼女の意思を読む。 「違う?今起きたばかり?………幽霊萌えもんなのに?」  ちなみに、事情を知らない者がこれを見るとフユノが独り言を言っているようにしか聞こえないので外ではサマヨールとの会話を控えている。 「まぁ確かにそれは偏見だな。ヨノワールも早く寝たって?ふぅん。じゃあ味噌汁を頼めるか?」  サマヨールは小さく頷くと綺麗に折り畳まれたエプロンを二つ手に取り片方をフユノへと投げ渡す。  幽霊なのにエプロンが必要なのか?などと野暮な事は言わず思わず、彼は投げられたエプロンを受け取る。  二人ともほぼ同時にエプロンの装着を終えると、ほぼ同時に調理台へと向かい調理器具へと手を付けた。    彼等の調理についての細かな描写は、勝手ながら省略させて頂く。  数十分後―――サマヨールが味噌汁を作り終えフユノの手伝いをしていると、もう片方のベッドから這い出た者がいた。  新雪のように、と形容するに相応しい程に白く美しい髪に青い瞳を持つ萌えもん、ユキメノコである。 「サマヨールちゃんにフユノさん。おはよう」 「…………」 「おはよう。………ユキメノコさんもゴーストタイプだというのに、起きるの速いな」  「わたしは純粋なゴーストタイプじゃないからね」  そう言って優雅に笑って見せた後でユキメノコはテーブルの前まで歩いていくと椅子へと腰掛ける。  そして頭を押さえると眠気覚ましに冷たい飲み物でも頼もうか、と口を開く――――その前に、  フユノがその手に持っていた、冷たい麦茶に満たされた一杯のコップをユキメノコの前に、置いた。 「ありがとう」  少し間を置いた後で彼の超能力を思い出して再び綺麗な笑顔を浮かべて礼を言う。  彼の性格もそうだが、本当に便利な能力だ。そう思いつつも置かれたコップへと口を付けた。 「あ、そうそう」  麦茶を一口飲んだところでコップを机へと戻したユキメノコは何か思い出したかのような声を出す。 「ムウマージさんの分はいらないと思う。あの人、昼過ぎに起きるつもりらしいし」 「元々そのつもりだ。ムウマージも料理が出来るし自分で作るだろう」 「と言うか、フユノさんに料理を教えたのはムウマージさんなんでしょ?」  静かに肯定するフユノ。ユキメノコは言葉を続け 「ムウマージさんって何でも出来るよね。戦闘も強いし、家事も出来るし」 「人に頼ろうとしないからな、ムウマージは」 「それに性格も、何て言うかクールで大人っぽいし、憧れる」      何も言わず黙々と料理を続ける二人と、何をするわけでもなくただ料理を待ち続けるユキメノコ。  基本、師であるムウマージがそうであったように、フユノも調理に時間を掛けようとしない。  あと数十秒後には出来あがる、というところでサマヨールを調理台から退かせると   「サマヨール、ちょっと頼みがある」 「…………」 「そろそろ料理が出来るから、ヨノワールを叩き起こしてくれ」  途端に上の空だったユキメノコは遠目からでも分かるくらいに心底からの嫌悪を現す表情を作り  対してサマヨールは無言で調理台から離れるとフユノが眠っていたベッドへ潜り込んだ。  次の瞬間、何か鈍い音が小さく響く。  フユノに言われた通りサマヨールはヨノワールを[叩き]起こしたのであった。 「うぉっ!!!」  若い青年―――ヨノワールの叫び声は大きく部屋へと響き渡ったが、それも一瞬。 「誰かと思えばサマヨールじゃないか。眠っている父親を殴るなんて一体何があったんだ」 「…………」「起きろヨノワール。飯の時間だ」 「何だ、お前の命令か。てっきり私は娘が反抗期を迎えたのかと心配したよ」  先にサマヨールがベッドから出、その後でヨノワールがベッドから出る。  ヨノワールは椅子に座るユキメノコを見ると、明らかな“作り笑い”を作って、口を開く。 「やぁ、ユキメさん。今日も変わらずお美しい事で」 「突然なに?ユキメって」 「まず互いにニックネームを決めてから、徐々に仲を縮めていこうと思いましてね」 「何度も言っていると思うけど、わたしは嘘つきは嫌いなの」 「男は誰もが嘘つきだよ」  などと訳の分からない事を言って笑ってみせるヨノワールにフユノは顔を顰める。 「いいからとっとと座れ。お前の分の飯を減らしてもいいんだぞ」 「む、それは困る………そういえばムウマージとゲンガー君は?」 「ムウマージは昼過ぎに起きるつもりらしい。ゲンガーは子供と遊ぶ為に朝早くから出ていった」 「あれ?ゲンガー君も太陽苦手じゃなかったっけ?」 「あいつは子供好きだからな」 「子供好きというより子供の夢を食べることが好きなんだろう。彼は」  ゲンガーはメンバーで最年少、フユノより2つ下で(幽霊に年齢を問うのは如何なものだと思うのだが)  性格は初々しい、背伸びしたい青年と言った感じで人懐っこい小動物のような印象も持てる萌えもんだった。  生前にどのような人物だったのかとにかく小さい子供や子萌えもんの味方をしている。その夢を食べる為に。   「……………」  閑話休題。そこへ彼を叩き起こしたサマヨールが霊界の布で作られたヨノワールの服の裾を引っ張る。  喋ろうとしない彼女の意思を、フユノは読み取ってその意思を代弁をする為に口を開く。 「『無駄話をしていないで、とっとと座れ』だそうだ」 「おお、病弱の父親に冷や飯を食べさせまいとしているんだね?流石、私の娘だ」 「…………」 「絶対に違うと思うし貴方は病弱とは程遠い」  満場一致が同意するユキメノコの言葉を無視し、彼女の隣の椅子へと腰を掛けるヨノワール。  それに特に誰も文句を言わずサマヨールに次いでフユノもテーブルへと歩み寄り、椅子へと腰を下ろした。  そして誰が言ったのか、一言。 「いただきます」  超能力者と幽霊達の一日が、始まる。  

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