5スレ>>645-1

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 夏。  太陽が最も強く輝き、蝉の声と学校から解き放たれた子供達の笑い声が響く季節。  海やプールは連日のように大入りで、  それに負けじと奮起する各種施設は大規模なイベントを次々と展開する。  そんな夏の光景はここ、セキチクシティではより際立って見える。  南には海、北にはカントー最大クラスのテーマパーク「サファリゾーン」。  夏に稼ぐために生まれたようなこの町は今、最大の賑わいを見せていた。 ―――  がさがさという音を耳にした瞬間、全身に緊張が走った。  音源は前方の草むら。距離は大して離れていない。  風上に入らないように注意しながらゆっくりと距離を詰め、草むらの中を覗く。  視線の先にはえさにかぶりついているもえもんが一人。  ゆっくりと背後に回り、ボールへと手を伸ばす。こちらにはまだ気付いていないようだ。  小さく息をついて、一気に駆け出す。もえもんが慌てて振り返るが、もう遅い。  俺の投げたボールはそのもえもんへと命中し、 「時間になりました。サファリパーク、おしまいでーす」  同時に腰の通信機が時間切れを知らせてきた。 「ごくろうさま。もえもんたくさん取れたかな?」 「はい。ずいぶん取らせていただきました」  カウンター越しに声をかけてくる男性に笑顔で返しながら、自動ドアをくぐる。  待合室へ入った瞬間に激減した気温に、思わず体が震えた。 「うぉ、涼しいって言うより寒いな」 「あ、マスター。お疲れ様です」  俺が入ってきたのに気付いたミルトがスポーツドリンクを片手に近づいてくる。 「ありがとう。こう暑いと流石に参るな」  ペットボトルを開け、半分ほど一気に飲む。  渇いた体に染み込んでいくような感覚が気持ちいい。 「ご主人様ー、データ集めの方はー?」  言葉と共に頭にタオルがかぶせられ、視界がさえぎられる。この声は、ファルか。 「かなり集まった。これなら今までの遅れも取り戻せそうだな」 「よかったー。ずいぶん遅れてたもんねー」 「しかし、腕は大丈夫なのですか?」  いつの間にか近寄ってきていたレーティがそういうと、3人の視線が俺の左腕へと注がれた。 「ああ。今のところは大丈夫だ」  なおも噴出してくる汗を拭きながら答えると、うれしそうな表情が返ってくる。  タマムシでの負傷で、俺達のデータ収集は遅れていた。  オーキド博士は気にするなと言ってくれていたが俺は退院を早め、データ集めを再開。  おかげでまだ左腕が自由にならないが、強行の甲斐あって遅れは取り戻しつつある。  といってもこの結果は退院を早めたからだけではない。 「あーもー、あっっっっついわねー!」  自動ドアが開いて、もう一つの原因、サヤが待合室に入ってきた。  負傷した腕の代わりにとエリカさんが同行させてくれたサヤだが、  実際のところ腕一本どころじゃない働きをしてくれている。 「お疲れさん。首尾はどうだった?」 「……いくつ?」  俺の問いかけを無視して質問してくるサヤ。 「…………いくつ?」 「……15」  その眼光に押されてしぶしぶ答えると、サヤはがっくりと肩を落とした。 「お前はどうだったんだよ」  答えの代わりに差し出された袋に入っていたのはもえもん入りのボールが7個。  今までも捕獲数を競った――否、競わされた――ことは何度かあったが、  今回の差は過去最大だった。 「まさかダブルスコアなんて……」 「気を落とさないでください、ご主人様。次は必ず勝利いたしましょう!」  いつの間にボールから出てきたのだろうか、目の前ではルーメがサヤを励まし始めていた。  いや、勝負してるつもりはないんだけどな…… 「さて、俺はちょっと調べ物するから、お前達は先にセンターに戻っていてくれ」 「あ、それなら私も手伝います」  振り返って指示をだすと、すぐさま俺の手伝いを申し出てくれるミルト。  いつもなら喜んで手伝ってもらうところだが、 「いや、たいした用じゃないから先に戻っててくれ。それと……」 「それと?」 「……ルーメを手伝ってやってくれ」  言いながら親指で背後を指す。そこには、 「ダブルスコア……」  まだショックから抜け出せていないサヤの姿があった。 ――― 「えっと……このあたりか」  ずらりと並んだ背表紙、そこに書いてある番号から目的のものを絞り込む。  サファリパーク内資料室。  ファイルが詰め込まれた無数の本棚を抱えるこの部屋には、  サファリパークで起きた様々な出来事の記録が保管されている。  その情報量たるや大型図書館もかくやというほどだが、この施設の利用者はそれほど多くない。  ここを訪れる人はほとんどがサファリパークそのものが目当てなので無理もないが、  設備がきちんとしているだけに少々もったいない気もする。 「まあ、調べ物しやすいからいいけどな……」  意味もなくつぶやき、ファイルを漁る。  目的は一つ。ドラゴンに関する情報だ。  先日の事件でおきたミルトの錯乱には、2つの問題がある。  まず1つ目。あの状態になった原因がわからないこと。  異常に高い戦闘能力と容赦の無い戦い方、  そして敵味方の区別がつかなくなっていたことから『げきりん』という技が考えられるが、  戦闘後目覚めたミルトはその時の記憶を失っているためはっきりとしたことは言えない。  ただ、先日のことはミルトにとってかなりショックな出来事だとかんがえられるので、  錯乱時のことを忘れているのはある意味いいことかもしれない。  そして2つ目にして最大の問題。  錯乱状態にあったミルトが人間にも攻撃していたということだ。  先日は相手がロケット団であり、バトルもルールに則ったものではなかったため何とかなったが、  一般のトレーナー戦や公式戦でこんなことがあったら大変なことになる。  これらの問題を解決するためにはミルトの錯乱について知ることが手っ取り早いが、  ドラゴンは珍しい種族なので情報そのものが少ない。  そこでここ、サファリパーク資料室の出番というわけだ。  ここは10年前、俺とミルトが初めて出会った場所だ。  つまりここには少なくともミニリュウが住んでおり、彼らに関する情報が存在するはずだ。  そしてそこには先日のミルトのような事件もあるかもしれない。  そう考えてファイルを漁っているのだが、 「……ないな」  何冊目かのファイルを開きながらつぶやく。  ドラゴンに関するデータは想像以上に存在したが、  先日のミルトのようなケースはまだ見つかっていない。  あんな出来事がないのはいいことなのだが、今だけはそのことが恨めしい。  ここには無いかもしれない、そう思ったとき、  『暴走』  その文字が俺の目に飛び込んできた。 「そんな……」  いくつかの新聞の切り抜きと、ことの顛末をまとめたレポート。  そこに書かれていたことは、俺にはあまりにも衝撃的だった。  今から15年前、サファリパーク内でハクリューが突如暴れだすという事件が起きた。  しかし係員に取り押さえられたハクリューは、  暴れている最中のことはまったく覚えていなかったらしい。  結局原因はわからずじまい。様子見ということでサファリに戻されたハクリューだが、  それから小規模な暴力事件を起こすようになった。  そしてある日、ついにハクリューの『暴走』は係員達の手に負えなくなり―― 「処分、か……」  ある程度予想できていた結末だが、やはり衝撃は大きかった。  このままだとミルトも同じ結末になってしまうかもしれない――  そのことを想像するだけで目の前が真っ暗になっていくような気がした。 「何とかしないと……」  一気に増幅した危機感に押されるように、俺は再び資料の山へと向き直った。 ――― 「ただいま~」  部屋へ入ると、おいしそうな匂いが鼻を刺激した。  匂いの元をたどるように視線をめぐらせると、キッチンの方からエプロン姿のミルトが顔を出した。 「あ、お帰りなさい、マスター」 「ああ、ただいま」 「ご飯もう少しでできますから、待っててくださいね」  そう言ってぱたぱたとキッチンの方へ戻っていく。  ずっと前から当たり前のように見ているその後ろ姿を見ていると、  前回の事件直後に交わしたオーキド博士との会話が頭をよぎった。 『ミルトくんには今回の件は伏せておいたほうがよいかもしれんのう。優しいミルトくんのことじゃ、  自分が仲間を傷つけたなどと知ったらそのショックでどうなるか……』  ミルトは自分の『暴走』についてまだ知らない。  精神的なショックがどのような影響を与えるかわからない以上、  ミルトに今回のことを話すべきではない――それが、俺とオーキド博士の結論だった。  そう、確かにミルトに『暴走』のことは知らせない方がいい。  しかしそのことが『暴走』に関する情報収集を遅らせていることもまた確かなのだ。  『暴走』の前例とその結末がわかった以上、こんなにのんびりしていていいのだろうか―― 「なーに深刻な顔してんのよ」  肩を叩かれて我に返る。いつの間にかサヤが目の前に来ていた。 「いや、なんでもない」 「なんでもないってことはないでしょー? ……何かわかったの?」  俺の顔から何かを察したのだろう、サヤは途中から声を潜めてきた。 「……ああ。詳しくは後で話す」  つられるようにして俺の声も小さくなる。 「そうね。こんなところで話すのもなんだし。……ところでこれ見てよ」  今度は逆に声が大きくなる。声につられるようにポニーテールが大きく揺れた。  手に握られているのは1枚のチラシ。おそらく俺に話しかけたのはこれが本題だったのだろう。 「これならデータ集めが一気に進むと思わない?」  『ボランティア大募集! サファリ生体系調査』 チラシの表面には、そんな文字が躍っていた。

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