5スレ>>654

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夜明けから幾多の時間が過ぎ間もなく正午を迎える朝の、とある街道。 その遥か高みで所々にある雲達に阻まれながらも空は美しい青を見せつけている。 青色の空の中に納まる太陽もまた地上を見下しながらも燦々と輝いていた。 今現在の大気は湿ってもおらず乾いてもおらず、人にとって丁度よい質感を保っている。 地表を駆ける穏やかな風。肌を撫でるようなそれはとても心地の良いものだろう――――我が、いなければ。 この風は圧倒的な力が文字通りの意味で吹き荒れる前触れでしかない。 そしてそれらは群がりながら急ぐように駆けていき我の掌の上に集束していく。 数多の法則を無視し念力により圧縮された風の球を今回の敵であるオコリザルへと向け 「ディル、エアロブラスト」 青年の声が聞こえたのとほぼ同時に解放した。 刃へと性質を変えた風を運の悪いとしか言いようがない哀れな相手へと吹きつける。 荒れ狂う突風を彼女に避ける術は無く体は切り裂かれていき、風が止むと同時に地へと倒れた。 「オコリザル!!」 彼女の主だろう男の悲鳴にも似た叫び声が響いた。 勿論ある程度の手心は加えてある。かの治療施設へと運べば直にでも完治するだろう。 そんな至極どうでもいい感想を打ち切るとそこへ青年が笑みを浮かべ近づいてきた。 「流石はディル。タイプの相性が良かったとはいえ、一撃か」 「当然だ、我を誰だと思っている。我は――――おっと」 壁に耳あり障子に目あり。まず最初に青年が教えてくれた言葉を思い出し我は口を塞ぐ。 今の我を見て我だと気づく者は限られてるだろうが、用心に越したことは無いのだ。 そんな我に何かを言うわけでもなく青年はその笑みを崩さずに歩き我の横を通り過ぎる。 そしてオコリザルに薬を与えている最中だというのに肩を軽く叩き右掌を差し出した。 顔を顰めなが男はその手に幾らかの金を払うと満足げな笑顔を浮かべながら青年は戻ってきた。 「いや~、勝負に勝ったその場で金が貰えるってのはたまらんな」 「何を言っている。実際に勝負をしているのは我だろうが」 「まぁそう言うなって。その内の幾らかはちゃんとお前にも使わせてやってるだろ」 そう言って青年は我の真正面で立ち止まる。 そして金を握っていない方の手を差し出し、我の紺色の髪を撫でた。 普通のトレーナーは皆、勝利を齎した萌えもんにこうしているらしいのだが――――― 「―――やはり慣れぬな。人間にこのような扱いを受けるのは」 「そうか?お前の毛、サラサラしてて病みつきになりそうなんだが。もうずっと撫でてていい?」 「いいわけないだろう。目的を間違えるな」 「それは残念」 本当に悔しがっているとは思えない軽い声と共に我の髪を撫でていた手を離す。 その後で応急処置を終えたらしい男と適当な挨拶を交わし、見送った後で、 俺達も行こうか。と、青年は背を向けて歩き始めたので我もそれに続いた。 何となく、後ろに並ぶ事も前を歩く事も嫌だったので足を早め青年の隣まで進む。 「タマムシティとやらはまだ遠いのか?」 「タマムシシティな。まぁ、もう少しで着くだろう」 都市名を間違えて覚えていた事に羞恥心を覚えながらも我は適当に頷いた。 しかしもう少し、と青年は言うがシオンタウンを出発してから既に一時間は経っている。 それは休息や戦闘を挟んでいる為でもあるが、もう少し早くても良い気がする。 旅に歩く事を選んだのは我自身ではあるが、歩く速度を上げるように言ってみるか。 「今のタマムシは平和そのものらしいからな。大丈夫だろ」 そこへ青年の声。平和そのもの、か。それならばよいのだが――――ちょっと待て。「今の」? 「今の、という事は過去には何かあったのか?」 「ん?ああ、少し前までにはロケット団の基地があったらしい」 「――――――!!!」 ロケット団。その名を聞き我が腸は一瞬で煮え滾ったが表には出さず堪える事が出来た。 いや、堪えたつもりであったが、声が揺らいでいたと後に青年は言っている。 「一応、我等は逃亡の身なんだぞ?大丈夫なのか?」 「大丈夫大丈夫。少し前に基地は街の警察と正義の味方が片付けてくれた」 「それはシオンタウンにいた御老人が言っていた人間の事か?」 「いや、分からない。何せ今の御時世には色々な正義の味方がいるらしいしな」 正義の味方。この場合、無償でロケット団と戦う者を差しているのだろう。 彼等は己の信じる正義の為に、中には復讐の為に戦う者もいるらしい。 それはとても素晴らしい事だと思う。動機はどうであれ、悪と戦うというのは。 「―――――――」 「ん?どうした?ディル」 「いや、何でもない。それよりもう少し速く歩かないか?」 「その方がいいか?じゃあ、ディルの言う通りに」 急には速くならず、ゆっくりとだが少しづつ、前進する脚の動きが速くなる。 それに後れを取らぬように我も早足で青年を追い掛けた。   <> 「中々良さそうな街ではないか」 それから数分後、タマムシシティに到着した我の眼にまずは映ったのは、緑。 囲むようにして生い茂る樹木や至る所に植えられた様々な種類の花が街を彩っている。 正に虹色の都市の名に相応しいその鮮やかさに我は感嘆の声を出した。 「ここのジムリーダーが中心になって緑化運動を進めていたらしいぞ」 「人間の都市とは大きな建物ばかりが並んでいるものだと思っていたが」 「まぁそれも間違いじゃないな。ヤマブキシティはそんな感じだ」 そんな会話を挟みながらも我と青年はまず第一に萌えもんセンターへと向かった。 この施設は便利な事で無料で我等を治療してくれるだけでなく宿泊所も兼ねている。 入口の正面に立っている白衣を着た女性(ジョーイさんと言うらしい)へ青年は近づくと、 適当な挨拶を交わし、施設の利用の為の受付を終えると部屋のある場所へ案内された。 センターや旅館など宿泊施設を利用する場合、我と青年は同じ部屋に泊まる。 ロケット団の襲撃など万が一の緊急の事態が素早く対応する為だ。 渡された鍵を使い部屋に入ると、我は備え付けられたテーブルへと座る。 青年も大きなリュックサックを部屋の隅に置くと一息を吐きベッドに腰を下した。 「それで?この街には何日くらい滞在するつもりなんだ?」 「とりあえず今日を含めて三日。お前は何かしたい事はあるか?」 「特に無い。――――人間の都市に慣れるようにするくらいか」 一瞬、カーテンで隠されている窓へと顔を向けすぐさま青年へと戻した。 情けない話だが人間が大勢いるこの街に入ったその時から少し緊張を覚えていた。 海の神である我と戦いが出来る者など極僅かだろうが、それでも落ち着かない。 「じゃあ俺は今から買い物に行ってくる」 「ん。それでは我も――――」 「別にいい。何度も戦闘があったし、お前は休んでいてくれ」 「いや、休むも何も我は疲れなど感じてはいないんだが」 「いいからいいから」 青年は立ち上がって同じように立ち上がりかけた我を座らせる。 戦闘と言っても全て一撃で仕留めて来たから、まったく疲れてはいないんだが。 しかしこれ以上言えば同じ言葉を繰り返すだけだろうから、大人しく休む事にした。 「じゃあ行ってくる。もし何か起きた時には―――――」 「何度も言われなくとも分かっている。“俺に気にせず逃げろ”だろ?」 「そうそう。お前ならすぐ渦巻き島に帰れるだろ?」 「―――――まぁな」 首肯いて、青年は部屋を出た。 それから何度か廊下の床を踏みつける音が聞こえたがすぐに聞こえなくなる。 静寂は訪れる事は無く、壁の向こうから楽しそうな笑い声が聞こえてきた。 恐らく他の利用者の仲間の一人を務める幼い萌えもんのものだろう。 耳を澄まし感覚を広げていけば他にも様々な声と思念を感じ取る事が出来る。 子供の笑い声、中年女性の井戸端会議、策略を練るトレーナー、誰かの怒鳴り声―――― そこで我は離れていた意識を我の体へと戻す。それからゆっくりと溜め息を吐いた。 何となく、今の我の紺色の髪へと目が行く。 我が動く度に靡く、青色の系統では最も深いらしい、落ち着いた色。 しかしこの色は数年前、実験体として何かの薬品を投与された際に現れた色であり、 加えて闇色にも似たその色は、暗に我の過去を示しているようで忌々しく思えた。 数年前。我――――ルギアがロケット団に囚われ、調教されていた過去。 思い出したくも無い、しかし心の奥底へと刻まれて決して消える事の無い記憶。 もし青年が助けに来てくれなかったら、今頃我は奴等の道具になっていただろう。 巨大な地下組織をを敵に回してまで我を助けてくれた、青年。 ふと思った。彼は今この世に溢れていると言われる“正義の味方”なのだろうか。 元はロケット団の一員。随分前に「正義感とか復讐心なんて馬鹿らしい」そう言っていた。 だがそんな性格の持ち主が、数年前に囚われていた我を助けた。何の見返りも求めず。 前に我を助けた理由に聞いてみたが、青年は笑みを浮かべ何も言わなかった。 ――――――我に宿る超能力を以てしても、彼の思考だけは読み取れない。

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