5スレ>>667

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 アキラとメリィの二人が割とピンチになっているのとほぼ同時刻。  二人の帰りを待つデル・ホウ・ゲンは、相変わらず応接室でまったりとしていた。  ……いや、正確にはまったりとしていたのはホウだけであるが。 『決戦、シルフカンパニー(後編)』 「……zzz」 「って寝るな!」 「……んぅ」 「ホウさん、お疲れですか?」 「ん……意外と合体攻撃は体に来る」 「あー? デルもやってたが平気そうじゃねーか」 「……ボクはフーディンの念を間近で浴びたから」  ヨルノズク族であるホウは、他の種族の萌えもんと比較しても高い特殊防御力を持っている。  だが、やはり一般の萌えもんの中では最高クラスの特殊攻撃力を誇るフーディンの念をノーガードで受け止めるのは流石に堪えたようだった。 「あー……そか、んじゃしゃーねーか……」 「ゲン」 「んあ?」 「膝枕……して?」 「ぶっ!?」  ホウはソファに横になりながら上目遣いでそんなことを言い出した。  完全な不意討ちに、ゲンは口に含んでいた飲み物を吹き出してうろたえる。 「なな、なななななななぁっ!?!?」 「……駄目?」 「だ、駄目とかそういうもんじゃねーっての! おい、デル! 笑ってないでおめーも何か言ってやってくれ!」 「うふふ、別に減るものでは無いですし……してあげてもよろしいかと私は思いますよ?」 「キサマそっちの味方かーーー!!!!!」  二人の気持ちを知ってか知らずか、GOサインを出すデル。  こっ恥ずかしさとかその他諸々でテンパっていたゲンは、我慢できずに吼えるのだった。  と、その時。扉が開き、ヨシタカが一人の少年を連れて入ってきた。 「やあ、みんな。割と無事そう……かな?」 「お義兄さん!」 「おー、とりあえずは順調だったぜ」 「……(コクコク」  ヨシタカの質問に肯定の意を返す三人。  そこで、ヨシタカはアキラとメリィが居ないことに気がついた。 「おや? アキラとメリィが居ないようだけど」 「お二人なら、お手洗いに行っていますよ。少々長いような気もしますけれど……」 「あれ、それは妙だね」 「あ? どーいうこった」 「いや、さっきここに来る前にトイレに寄ってきたんだけど……誰も居なかったよ?」 「えっ……?」  その報告に、デルは眉を顰める。  アキラとメリィが、自分達を置いて二人だけで先に進んでしまうとは考えづらい。  ……と、すれば。 「まさか……何かしらトラブルがあったのかも」 「否定できない……というかまず確実にそうだろうね。それと、デル。このフロアのワープ床……本当にどれも大した場所に繋がってなかったのかい?」 「え、ええ。入れる部屋と通れる通路は全て調べましたけれど」 「おかしいな。上の階の団員から入手した情報だけど、このフロアには特殊開発エリアへ直接飛べるワープ床があるそうなんだよ」 「何っ、オイそれマジかよ!」 「今からそれを確かめに行こうと思ってた所なんだけど……急いだ方が良さそうだね。僕の勘が当たっているとしたら、二人は相当マズい状況に陥っているはずだ」  そう言うとヨシタカは振り返り、連れてきていた少年に声をかける。 「タイチ君、君はどうする?」 「俺も行きます。もしかしたら、何か手伝えることがあるかもしれません」 「わかった、その時には頼らせてもらうとするよ……よし、行こうか」 「サイドン、ロックブラスト!」 「くっ、避けろ!」 「あ、うぁ、きゃっ!」  ゴスッ! 「ぁぐっ……」 「メリィ!」  アキラとメリィの方の状況は、更に悪化していた。  主力である電気技を軒並み無効化するサイドンに対し、覚えたての格闘技で応戦するメリィ。  しかし、如何に岩タイプに抜群の効果を誇る格闘技といえど、使い手の腕力が無ければ大した効果を発揮することは出来なかった。  付け加えるならば、サイドンの防御力も並みの萌えもんを軽く凌駕するだけのものがあったのも事実である。  更には戦闘前に一時的に持ち直したものの、メリィの精神状態も恐怖に染まり始めて動きに精彩を欠き、一方的に嬲られる状況に陥っている。  ……結論として言えば、手詰まりであった。 「クククククッ、何だ? 大見得切った割りにゃぁ随分とよえぇじゃねぇか」 「………」 「ぁ……ゃ………!」 「メリィ……一体どうしたんだよ……!」  そう呟きながらも、アキラは相手……サイドンの動きに違和感を感じていた。  腰砕けになりながら逃げ惑うだけのメリィは、攻撃を当てることも容易いはずである。  なのに、メリィは未だに倒れていなかった。 (コイツ……わざと攻撃を外しているのか?)  サイドンは全く無言のまま、男の指示するがままに技を繰り出す……が、悉くクリーンヒットしない。  この行動は男の指示なのか、それともサイドンの意志なのか……そう考えた所で、攻撃が一旦止んだ。 「あーあー、ヤメヤメ。おいサイドン、何ワザワザ直撃させねぇようにやってんだ?」 「………」  サイドンは何も答えない。  ただ、顔を伏せて拳が白くなるほどに握り締めている様子から、彼女は望んで戦っているのではないことはアキラにも理解できた。 「ったくよぉ……いくらオレがいたぶるのが好きだからって、流石に飽きってモノもくるんだな、これが」 (好き勝手言いやがって) 「だからよ、アレで終わりにしてやろうぜぇ……クックククククク!」  彼は立ち上がり、サイドンの頭に手を置いて言った。 「この立派な角で……角ドリルで、胸ブチ抜いてよォ!」 「……キサマ……ッ!!!」  サイドンが初めて言葉を発した。  彼女は立て続けに、マスターであるはずの男に意見していく。 「キサマは!……私に……私に10年前と同じ過ちを繰り返せと言うのか!」 「あ?10年前?…………おぉ、アレか。いやぁ、懐かしいことをよく覚えてるもんだなおめぇ」 「忘れるものか……!今に至るまで、一日としてあの日の事は……!」 「ハッハハハハ、そりゃ結構だ!……それにしてもアレだなァ」  男は一旦話を切り、メリィを見て言った。 「的も10年前と同じ、デンリュウ族だなんてよォ!」 「…………え」  その言葉に、メリィがぴくりと反応した。  それに気づかないまま、彼の口は言葉を吐き出していく。 「本当に懐かしいぜあの日はよぉ……丁度イラついてるところに野生のメリープがオレの服を汚しやがって」 「殴ってやろうとしたら親が出てきやがってな、ゆるしていただけないでしょーか?だってよ、笑っちまうww」 「さっさと片付けてガキをいたぶってやろうと思ったら逃がしやがって、なかなかしぶといから風穴開けてやったんだよなァ!ッハハハハハハハハハハハ!」 「…………」  大声で笑う男。  サイドンは怒りと悔やみの混ざったような表情で彼を睨みつけている。  と、そこで。 「……あなたが、わたしの、おかあさんを、ころした、の」 「……え?」  メリィは問いかけていた。  今男が話した内容。  それは、彼女が10年前……母親を失うことになった事件と、全く同じ内容であったから。 「貴女……まさか、あの時の子供なのか」 「……クククククッ、クアッハハハハハハハハ!コイツぁ傑作だ!」 「……なんで?なんでおかあさんは、しななきゃならなかったの……?」  無垢な子供のような口調で、メリィはサイドンに問いかける。  が、彼女は唇を噛み下を向いて答えない。  代わりに、男が口を開いた。 「決まってるだろが……オレ様の機嫌が悪かったからだっての。クックク!」 「…………っ!」 「さぁて、そんじゃ〆といこうかァ……サイドン」  男はサイドンを呼び、カプセルの装置に軽く顎をしゃくる。 「言うこと聞かなかったら……わかってんな?」 「く……恥を、知れ……!」  そう、精一杯の悪態をつきながらもサイドンは角ドリルを始動する。  独特の回転音とともに、螺旋の溝が刻まれた角が回転する。  メリィは、あまりのショックと恐怖で体が動かなくなっていた。 「……貴女に怨みはないのだけれど……すまない」 (いや……こわいよ……)  今のメリィの目から見た世界は、全てが灰色であった。 (ああ……もう……いや……)  螺旋がメリィに向かって一直線に近づいてくる。  死の直前は時間の感覚が引き伸ばされるという話があったが、メリィにはサイドンの動きがとてもスローなものに映っていた。 (だれか……たすけて……)  メリィは瞼を閉じた。  そして。 「メリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!」  パシャァッ! 「……え……」  顔に生暖かい液体がかかるのを感じた瞬間、メリィは再び瞼を開けた。  目の前に見えるのはサイドンではなく、最も愛しい人の背中。  そして……脇腹を貫通している、鈍い銀色と赤い色に染まった角ドリル。  わけもわからず顔を拭うと、手にはべっとりと赤黒い液体が付着していた。 「……なん、で……?」 「めり……は……にげ、ぐっ」  ズル……ドサ。  ドリルが抜け、床に人形のように倒れるアキラ。  深く抉られた右脇腹からは、真っ赤な血が止まる様子も無く溢れ続ける。  あまりの光景に、メリィは……現実を受け入れることが出来なかった。 「え……うそ、嫌だ、嫌っ、嫌あああああああああああああああああああ!?!?!?」 「……あった、これだ」  再び場面はヨシタカ達の居るフロアへと移る。  フロア内の詳細なデータを入手してきていたヨシタカは、マットの下に隠されていたワープ床を発見したところであった。 「まさか、こんな所にワープ床が隠されていたなんて……」 「でもよ、こんなとこの床なんか間違って踏めるか? 隠れてたのによ」 「……少しだけ露出してた」 「ああ。理由は分らないけれど……二人で接触してる状態ではみ出している所を踏んでしまったんだろう」 「……急ぎましょう。なんだか、凄く悪い予感がします」 「そうだね。行こうか……!」  そして一行は、同時に床を踏み……次の瞬間、錯乱したような悲鳴を耳にしたのだった。 「嫌あああああああああああああああああああ!?!?!?」 「な、何だってんだよ!?」 「今の悲鳴……メリィさん!?」  急いで現場に駆けつける一行が見た物は。  脇腹から大量に出血し、床に倒れ伏しているアキラと、彼に縋りつき、悲鳴を上げていたメリィ。  そしてアキラを貫いたと思われるサイドンと、二人を見下ろしながら低い声で笑っているロケット団員。  ……一番最初に動いたのは、デルだった。 「……貴女かああああああああああっ!!!!!!!」 「ぐぅっ!?」 「……チッ、増援か」  叫びながらサイドンの懐に飛び込み、鳩尾に跳び膝蹴りを叩き込む。  見事な不意討ちに、ガードも間に合わずサイドンは膝をついた。  この状況に形勢不利と見た男は、サイドンを置いて離脱しようとする……が。 「おっと、逃がさねぇぞ!」 「な……にぃ!?」 「チェックメイト。大人しくしててくれ」 「グ……チクショウめ!」  いつの間にか後ろに回りこんでいたゲンによる黒い眼差しが決まる。  その場で足を固められた男を、背後から近づいたヨシタカが拘束した。  その一方で、戦闘に参加していなかったホウはアキラの傍で意識を集中させていた。  念力とリフレクターで、止血をするためである。 「……………」 「……………」  錯乱状態だったメリィは、今は眠っていた。  処置の邪魔だと判断したホウが、催眠術で眠らせたためだ。  そこに、男を拘束し終えたヨシタカが来た。 「……アキラの傷の様子はどうなんだ?」 「脇腹を背中側まで貫通……でも、重要な内臓は殆ど傷ついてない」 「そこまで解るものなのかい?」 「ん……傷は大きくて出血も派手だけれど、場所は浅い」 「そうか……後はどうやって運ぶかだけど、ホウ。行けるかい?」 「……流石に、アキラ君を念力で止血しながら抱えて空を飛ぶのは無理」 「くっ、僕が抱えて降りるしか無いか」 「……ヨシタカさん、俺が行きます」  焦るヨシタカに、タイチが声をかけた。 「俺のリザードンなら、俺と彼、それに彼女を乗せたままセンターまで飛べます」 「すまない、恩に着るよ……じゃあ、頼んだ」 「任せてください……リザードン!」  タイチはボールからリザードンを呼び出す。 「リザードン、怪我人の搬送だ……三人乗り、頼めるかい?」 「任せてください。えーと、そこの男の人ですか?」 「うん、あと看護に彼女を乗せるから……」 「それじゃあ、この方は私が抱えますね。ご主人様とそちらの方は、私の背に」 「わかった、お願いするよ」 「……よろしく」  そんなやりとりの後、4人はこの部屋にあった唯一の窓をぶち破って外へと飛んでいった。  デルはロケット団の男が拘束された後も、なおサイドンに攻撃を加えていた。  何といっても、デルからしてみれば最愛の男性を傷つけた仇である。  だが、感情の赴くままに攻撃を加え続け……漸く少し覚めてきたところでおかしなことに気がついた。 (……反撃が来ない?)  そう、サイドンは防御行動をとろうとはするものの、デルへ攻撃は一度もしていなかったのだ。  デルは一旦攻撃の手を止め、ある程度距離を取ってからサイドンに話しかけた。 「……一体どういうおつもりですか」 「……何のことだ」 「白を切らないで下さい……何故、反撃をしないのです」 「……もう私には、戦う理由が無い。奴は……」  と、そこで男を一瞥する。 「奴は、捕らえられるのだろう?」 「当然です……そして、貴女もです」 「そう、だろうな」  そう言って、彼女はふらついた足取りでカプセルの前まで歩を進め、中で浮いている少女を見上げた。 「……この子は?」 「……私の娘だ」 「……」 「10年前、奴に娘を捕らえられ……私は」  一瞬言葉を詰まらせるサイドン。  だが、そこで終わることなく彼女は話を続けた。 「……私は、娘を護るために……そこで寝ている娘の母親の命を奪ったのだ」 「……!」 「……許してくれとは言わない。一生怨まれても仕方が無い。私は……それだけのことをしてしまった」 「さっき……ご主人様を傷つけたのも、そうだった、と?」 「あれは彼がそこの娘を庇ったからああなっただけだ……私は、そこの娘を殺すように命令されたのだ。……全ては、私の娘を護るためだ」 「…………」 「……これから私は、罪を償うために何処かへ収容されるのか?」 「それは……」 「そうなるでしょう」  いつのまに居たのか、後ろからヨシタカが声をかけてきた。 「期限はこれからの捜査と裁判で決まるでしょうが……あなたの意思でないとはいえ、あの子の母親の命を奪ったことに変わりは無いのですね?」 「……ああ」 「あの子の体の傷は、どうしたんですか?」  ヨシタカはカプセルの中の少女を指して問う。 「……奴が、気に入らぬ事がある度に虐待を加えていたのだ。私に対しての人質であった故に、死ぬような目には遭っていなかったようだが……」 「……なるほど。それで貴女は、貴女の娘をこれからどうする気です? 流石に収容所に連れて行くわけにもいきませんよ?」 「……こういう事を願うのも、おこがましいかも知れないが……預けるとするならば、先ほど運ばれていった彼に預けたい」 「それは、何故?」 「彼なら……娘に、普通の幸せを与えてくれると見た。あれだけこの子らに慕われているのなら、間違いでは無いだろう」 「……だ、そうだ。デル、君はどうする?」 「え? 私ですか?」  先ほどから話を聞いていて、デルの中のサイドンへの怨み・憎しみは殆ど薄れてしまっていた。  それこそ、彼女自身の力ではどうしようもなかったのだ。  それを怨んでもどうしようもないと割り切る程度には、デルは精神的に大人であった。 「私は構いませんが……メリィさんがどう言うか」 「……私も、いいよ」 「メリィさん!」  何時の間に目を覚ましていたのか、メリィから許可の返答があった。  サイドンはというと、呆気なく許可が下りたことに少し面食らっていた。 「……本当に、良いのか?」 「……だって……仕方が無いじゃない」 「……」 「……話、全部聞いてたけど……貴女は、娘想いの……いい、お母さんじゃないですか」 「だが、私は」 「あんな話されて……それでも貴女のことを仇としてただ怨むなんて……私には、できないよ……っ」 「……すまない」  その後。  後から現れた増援のトレーナーに男とサイドンを任せ、ヨシタカは先のフロアへとワープ床を踏んで飛んでいった。  デル達アキラの手持ち一行は、サイドンの娘……サイホーンの少女をボールに収め、アキラが運び込まれた病院へと向かっていた。  「ご主人様……大丈夫でしょうか」 「……きっと大丈夫、だよ」 「お? 随分な自信じゃねーか。最初はびーびー喚いてた割りにゃーよお」 「そういえば、目を覚ました時には随分と落ち着いていましたけど……」 「うん、ホウちゃんがね……悪夢の原理を応用して、夢の中で教えてくれたの。見た目は派手だけど、命に別状は無いって」 「あー? 適当に安心できるように言ったんじゃねーのか?」 「っ!!! ゲンさん、いくらなんでもそんな言い方は無いでしょう!?」  無神経な発言をするゲンに、デルは非難の声を上げる。  が、それに怯む様子も無く、ゲンは言葉を吐き出していく。 「ヘッ、現実はそう甘かねーんだよ! 大体、そう上手くいくような世界だったら……俺は何でアイツを残して死んだ!?」 「ゲン、さん……?」 「……ゲンくん、昔に何かあったの?」 「あ……え、いや、ちょっと待ってくれ」  メリィに聞かれ、ゲンは自分の言ったこと、脳裏に写った映像を思い返す。  ゲンには、この姿……正確には、進化前のゴーストだが……に転生する前の記憶を覚えていないはずであった。  少なくとも、転生した時にはそれまでの記憶は思い出せなかった。  そして、今……頭を抱えて思い出そうとして、ほんの少しだけながら思い出していた。 「あー……アレだ。オレは……誰かを護ろうとして、焼け死んだんだ……」 「……」 「アイツ……今頃どうしてんだか……ヘッ、顔も思い出せねぇのに……なんでこんなに気になんだよぉ、チクショウめ……」  ゲンは泣いていた。  大切な者を遺してきてしまった悔しさと、その相手の顔を思い出せない悲しみに、彼の涙は止まらなかった。 「ゲンくん……」 「……わり、先に行っててくれ……こんな姿、ホウに見られたら笑われっちまうからな……」 「……わかりました。では、先に行っています」  その場にゲンを残し、二人は先に病院へ向かっていく。  ゲンは狭い路地に入り込み影の中に埋もれると、声も出さずに泣き続けていた。  病院のロビーで二人はホウとと合流し、アキラのいる病室へと向かっていた。 「ホウさん、ご主人様の容態は……」 「ん……意識はまだ戻ってないけれど、輸血も間に合ったから平気」 「良かったぁ……」 「はぁ……一時はどうなるかと思いましたよ」  ホウの報告に心底安心した二人。  一方でホウは、ゲンが居ないことが気になった。 「……ゲンは?」 「ゲンくんは……えーと」 「ゲンさんなら、個人的な用事があるそうで遅れる、と」 「……そう」  そこまで話したところで、丁度アキラの病室の前まで着く。  先頭を歩いていたホウが、ゆっくりと扉を開けた。  そして、ベッドには……半身を起こした状態のアキラがいた。 「……おはよう?」 「いや、今はもう夕方……って、デルにメリィ?」 「ご主人様、意識が戻られたんですか!?」 「え? ああ、ついさっき……ってて」 「ああ、無理しないでいいですから。傷そのものは大きいんですし」 「…………」 「ほら、メリィさんも随分と心配して……メリィさん?」  メリィは俯いたまま、何も言わない。 「……? メリィ、どうかしたか?」 「…………」  返事もせず、視線は下げたままアキラの元へ歩み寄っていくメリィ。  そして。  パシンッ! 「いづ……っ!?」  メリィは、アキラの頬を叩いていた。 「メ、メリィさん!? ご主人様は怪我を……」 「……デルちゃんはちょっと黙ってて」 「……!」 「……デル、ここはメリィの言うとおりにする」 「うぅ……」  少々納得が行かない様子だったが、デルはしぶしぶ引き下がった。  その一方でアキラは、尋常ではないメリィの様子に戸惑っていた。 「ど、どうしたんだよ」 「……なんで」 「え」 「なんであんな無茶なことしたの……!」 「無茶って……だって仕方ないだろ!」 「何が仕方ないの!? 私は……私はもし受けても、マスターがボールに戻してくれれば、まず確実に助かるのに!」 「んなっ……そういう問題じゃない! 俺はお前がドリル喰らうのは見てられなk」 「そういう問題だよっ! 私だって……私だって! マスターがドリルに貫かれてるとこなんて、見たくなかった……!」 「……っ」 「ホントに……マスターが、死んじゃうって……私のせいで死んじゃうって、思ったんだからぁっ……!」  メリィは両目から涙をこぼしながらも、アキラの目を見つめ、思いの丈をぶつけていた。  アキラはそんなメリィの想いや、メリィの後ろから心配そうな視線を向けているデルを見て……如何に自分が軽率な行動を取ったのかを自覚した。 「……ゴメン、俺が悪かった」 「もう、あんな無茶はしないで……私もデルちゃんも、マスターにもしものことがあったら……」 「ああ……すまなかった、みんな……」  ここでひとまず、彼らのヤマブキシティでの戦いは終わりを告げることとなる。  報告によると、最上階にてクリムやヨシタカがサカキと交戦したものの、取り逃がしたらしい。  こうしてヤマブキシティには平穏がもたらされ、攻略戦に参加したトレーナー達には社長から様々な形で報酬が出たのであった。  勿論、途中でリタイアしたアキラも例外ではない。  そして、その報酬とは…… 「やあ、アキラ。元気にしてるか?」 「ああ、兄さん。まだ殆ど動けないけど、前よりはね」 「それは何より……ところで、シルフカンパニーの社長から攻略戦参加者に報酬が出てるのは知ってるか?」 「知ってるけど……もしかして、今日はそれを届けに?」 「正確には違うけれど……似たようなものだね。報酬は……これだ」  ヨシタカは一枚の写真を取り出した。  そこには、海辺の小奇麗なペンションが一軒写っている。 「へぇー……って、嘘だろ!?」 「ま、流石にお前一人分の報酬ではないよ。僕とお前、二人分の報酬だ」 「っても、俺そんな大したことしてないぞ!?」 「それがそうでも無くてね。お前が戦ってたあの男、小悪党風だったけれど、かなり上級の幹部だったんだ」 「な、なんだtt(ry」 「ま、そういう事情と……あと、下手すると命に関わってた怪我してるからね。自分から飛び込んだとはいえ」 「う……」 「そういう訳だから、あんまり気にするな。それに、社長には個人的な貸しもそこそこあったからこれでチャラになった」 「……とりあえず、兄さんが相変わらず別次元なのは把握したよ」 「はは、照れるな……さて、それじゃ行こうか」 「……は? 突然何を言い出すんだよ、ってか何処に?」 「そりゃ勿論、この別荘に決まってるだろう?」 「え、ちょっと待ってくれ! 俺今入院中……」 「ああ、退院許可は貰ってきたし、向こうでの面倒はキララが見てくれるから大丈夫だよ」 「外堀埋めるのも相変わらず速いよな……で、どこにあるんだコレ」 「聞いて驚け……ナナシマ諸島、5の島さ」 「……最高級リゾート地ーーーーーーーーーーー!?!?!?」  とまぁ、そんなこんなで。  アキラ達一行の、最高に贅沢な療養旅行が幕を開けるのだった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ・あとがき  ども、相変わらず遅筆な曹長です。こんばんわ。  今回で漸くヤマブキ編を終わらせることができました……いやー、難産だったw  気がついてみれば普段の倍近い文章量、どんだけ私はネタを盛り込んだのかと。  そして最後は今までに投稿した中で一番のグダグダ度……まともに書け、私(笑)  そして今回は200のひと氏の作品から、タイチ君とリザードンをお借りしました。  この場を借りてお礼を言わせていただきたいと思います。ありがとうございました!  さて、次回からは舞台を一新。ナナシマへとアキラ達一行は旅立ちます。  ……っても、暫くは絶対安静なんでアキラ君は寝てるでしょうが(ぇー  それでは、また次回の後書きでお会いしましょう。

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