5スレ>>691-3

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『3.続・ハジマリノヒ』 昼なお暗いトキワの森、なんていい方をすると真っ暗なように思えるが、 実際は木漏れ日も出てるしそれなりに明るい。 そもそもトキワの森が暗いのはトキワやニビ周辺の天候が曇りがちなことが原因であり、 それは西のシロガネの存在が―――まぁどうでもいいか。 今の俺にとってはもっと重要な事がある。 「…参ったな」 「どしたの?」 「すまん、正直にいう。迷った」 トキワの森は、俺も何度か通った事はある。 だが、思い返してみれば一人で通るという事はなかった。 小さな時は義母さんと一緒だったし、ニビへの買いだしを頼まれた時も萌えもんを借りていった。 「…一応コンパスもあるから、おおよその方向はつかめるが…」 「…ボク達、ここから出られなくなっちゃうのかな…」 「…まぁ、来た道くらいは覚えてるからいざとなったら戻れるさ…うん、たぶん」 フシギダネの頭、と同じくらい大きな種をぽんぽんと撫でる。 …ホントにいざとなったら帰って案内の萌えもんでも借りよう。 「…けど、それはさすがにものすごく情けないな」 「?」 「とりあえず、もうしばらく進んでみて出口が見えなければ休憩だ。  1時間で見つからなければ引き返そう」 「はーい」 スピアーから逃げ、昼食を取って出直して来た俺達は、 すでに2時間近くをこの森で浪費していることになる。 あのあとは戦闘をなるべく避けているし、 いきなり萌えもんが飛びかかってくる―――なんてことは、思ったよりも少なかった。 とはいえ、フシギダネも(当人の希望でボールから出ている)歩きづめだし、俺より小柄だから疲れも溜まりやすいと判断した。 …そうこうしているうちに、20分が経とうとしている。 未だに出口は見つかる気配なし。そろそろ休憩に入ろうとしたとき、それは起こった。 「…ん」 「どうしたの?」 「フシギダネ、ちょっとボールに入れ」 「ふぇ…なんで?」 「話し声だ。…言い争ってる感じがする。できれば刺激せずに抜けたいし、俺一人の方が音は出ない」 「わかったー」 …素直でよし。 とりあえず姿勢を低くする。足元には5,6センチ程度の雑草が茂っているが、これに隠れるのは絶対に無理だ。 声のする方向へ、足を慎重に動かして進み始めた。 「ええいもう、いい加減にしなさいっ!蝶に求婚する蜘蛛がどこにいるんですか!」 「ここにいるじゃないか!そんな多数派の意見を持ち出すなんて君らしくもないね、シクス!  でも大丈夫、僕はどんな君の姿でも受け止めて、君が君らしくいられるままで愛してあげ―――」 「ええい、うるさい!」 …痴話喧嘩、か…? ここからじゃよく見えない…あ、片方見えた。…アリアドス、か? どうやら声からして♂のようだが…カントーでアリアドスとは珍しいな。 「どうしても聞いてもらえないというのなら、力ずくで引きとめるよ…  悲しいけど、これも僕の愛なんだ…」 「…で、私を木に縛り付けてる訳ですか?」 「こうすれば、君は森から出ていけないだろう?  …ああ、でもこうして白い糸で縛りあげられた君を見ていると、このまま欲望のままにしてしまいたいと―――」 …聞いてるこっちが気持ち悪くなってきた。 どうやら話している萌えもん二人はお互いに集中しているようで、こちらには気づかない。 おかげでだいぶ近くの木の影まで来れた…ここからなら見えるぞ。 ♀のバタフリーと♂のアリアドスが言い争っている。 先ほどの話の内容からして、バタフリーが森を出ようとしてるのをアリアドスが止めたいらしく、 そのために物理的に糸で木に縛り付けたはいいが、それを見ているとアリアドスの劣情が…というわけか。 状況はおおよそ把握した。あとは俺がどう行動するべきか、だ。 「…どうすっかな」 『助けようよ!困ってる萌えもんを助けるのはトレーナーの仕事だよ!』 「そうはいうが、こっちはお前一人なんだぞ…いくらなんでも厳しいだろ。  今後また出口を探して彷徨う事を考えれば体力も温存したいしなぁ」 『…ねぇ、あのバタフリー、森を出ようとしてるんだよね?』 「らしいな、阻止されてるが」 『あのバタフリー助けたら、出口教えてもらえるんじゃない?』 「………おお」 その手があったか。思ったより俺の萌えもんは優秀なようだ。 なるほど、それはそれでいいかもしれない。少なくともこのあとずっと迷うよりは有意義な気がする。 だが、理由ができたからと言って即座に問題は解決しない。 どうやってあのバタフリーを助けるか…。アリアドスを倒す…最低でも追い払うか昏倒でもさせるべきだろうか。 (…考えろ。考えろ、俺…) こちらの戦力はフシギダネ一人。まだ経験も浅いし、使える技も限られる。 俺も一応格闘の心得はなくもないが、アリアドスに素手で勝てるかというと…毒でやられたらシャレにならん。 エスパーか飛行か炎の萌えもんでもいればいいんだろうが…捕まえに行ってる時間はない。 「せめてもう一人でもいればな…くそ、何か捕まえとくべきだっ…あ」 思いついた。思いついてしまった。 閃いてしまえば、後はそれを活用する策を練るだけ。 「…フシギダネ、今から一度だけ作戦を話す。よく聞け」 「ん、くっ…糸が絡んで…!」 「もがけばもがくほど絡みつくんだよ、僕の糸は…僕と一緒だね♪  冷たくされればされるほど燃えあがって、君の心を絡め取ろうとするんだ…」 「ええいもう、気持ち悪いことを…」 「すぐ気持ち良くなるから、ね…?」 「やっ…!」 アリアドスは完全にバタフリーへ意識を向けている。 ―――タイミングは、今しかない! 「喰らえっ!!」 木の蔭から飛び出すと同時に左足を踏み出し、体をひねった反動で右腕を前へ、左腕を後ろへ。 右手に握ったモンスターボールを投擲する! 「え?」 「あ…!」 突然の奇襲に反応しきれず、アリアドスが即座にボールへ収まる…が、抵抗するように草むらを転がりまわっている! 「フシギダネ、つるのむち!」 「はーい!」 その転がるボールを、振るった蔓が見事にとらえて木々の間へ遠くはね飛ばす。 …俺の組んだ作戦はこうだ。 まずはアリアドスを捕獲する。とはいっても、戦闘で弱らせることができなければ、すぐにボールから飛び出してしまうだろう。 ならば、出てこられる前に、無抵抗のボールを遠くへやってしまえばいい。 …まさかこうまでうまくいくとは思ってなかったが。 「あ、あなたは…」 「悪いな、話をそこで聞かせてもらってた。森から出たいんだってな?  今ちょうど道に迷ってるんだ、助けてやるから道案内を頼みたい」 「え…?あ、あの…」 「無理にとは言わないが、とりあえず話はこの糸を剥がしてからだな…よっと」 「ちょ、不用意に触れたら…」 べちゃり。 バタフリーのあちこちに絡みついてる糸を引きはがそうとした俺の手から鳴った音だった。 「うわ、べたべたして気持ち悪!何だこれ!」 「ああもう、素手で触るから…」 「どういう意味…って……」 「………ご主人様?」 「…………取れねぇ」 「アリアドスの糸って、結構粘着力高いんです…」 どれだけはがそうとしても、白い粘性の液体のような糸が掌にくっつくだけ。 木の肌に擦りつければ何とか取れそうだが、こんな風にしてたら日が暮れるだろ!? 「ご主人様!早くしないとアイツが戻ってくるよ!」 「あーくそ、糸燃やすわけにも行かないし、ナイフは大して変わんないだろうし…」 「ちょっと、羽根は乱暴に触っちゃ、ふぁ、あぅっ!」 「変な声あげんなっ!集中が切れるっ!」 「好きであげて、んぅ、る、わけ…じゃ、あぁっ、ない、ですっ…」 足もとに落ちてた木の棒で糸と服や肌の隙間を探して剥がしてみるが、 それでもあまり効果があるといった感じではない。 何かないかと木陰に置いてきた鞄を取りに行こうとした瞬間、背後から何かが飛んでくる音がした。 「っ!!」 とっさに身をかがめると、一瞬前まで俺の首があったところをかぎ爪のついた腕が走っていた。 真上から糸を使ってぶらさがって、俺の背後から奇襲か…! 「僕のシクスを勝手に連れて行ってもらっちゃ困るんだよね、人間君」 「うるせぇな、こっちもやっと見つけた道案内なんだ、勝手に持ってかれてたまるか!」 クモ男の売り言葉に対する俺の買い言葉と、真横からのフシギダネの体当たりは同時。 だが、即座に糸を手繰って上空へと逃げられる。 「フシギダネ、どこから来るかわからない!とにかく上に気をつけろ!」 「それはどうかな?」 足元から声が聞こえたと思った瞬間、俺の左足に鈍い痛みが走る。 とっさに逃げようとしたおかげでかすり傷で済んだようだが…毒針か…! 「このっ!」 「よせ、フシギダ…」 「遅い遅い♪」 「きゃあ!?」 警告は、間に合わなかった。 こちらへ走ってこようとしたフシギダネの両手を、背後から飛んできた糸が捕縛する。 バランスを崩して地面へ転がったフシギダネの両手足も、即座に拘束された。 「くそ、フシギダネ!」 助けに走りたいが、足が燃えるように痛んで歩けない。 毒消しは鞄の中だが、取りに行くにはこちらも遠すぎる。 「さてと、人間は毒で動けないし、生意気な種のお嬢さんは捕まえた…シクスとセットで貰っちゃおうかな?」 木々の間から、アリアドスは悠然と歩いて来る。 一方の俺は立っていることもままならず、糸に絡め取られたままのバタフリーの隣に背中を預けていた。 フシギダネは動こうとしているが、さっきのバタフリーの糸を見る限り無駄な抵抗だろう。 …ここまでか…!? 「…あなた、トレーナーですか?」 「!?」 すぐ隣からの小さな声。バタフリ―が横目で俺の方を見ていた。 「一応トレーナー、だ…駆け出しだけどな」 「ボールは、さっき投げた以外にありますか?」 「…ベルトに、まだ空のがひっかかってるが」 一瞬の沈黙のあと、バタフリーは俺に囁く。 「それで私を捕まえる事は出来ませんか?」 「…え?」 「ボールに入ってしまえば、少なくとも木からは離れられます」 確かに、一度ボールの中に入ってしまえば木に拘束している糸は意味をなさなくなる。 「少なくとも、今朝のように奇襲で捕まらなければ私はアリアドスに勝てます。何度も勝ってましたし」 「けど…いいのか?」 「…『話は糸を剥がしてから』でしょう?」 …なるほど。 「オーケー、とりあえず…あそこの木陰にある鞄があれば俺とフシギダネも動ける。…頼めるか」 「なぁに、こそこそと…僕以外には秘密の話はしてほしくないなぁ、シクス」 「いい加減にしなさい、この変態っ!」 バタフリーが叫ぶのと同時に、俺は左手でつかんだボールをその手に当てた。 モンスターボールへと萌えもんが収まる。先ほどアリアドスを捕まえた時のような抵抗は一切なく、 即座に捕獲完了のサインが出た。…ちょっと時間を稼ぐか。 「な、何を…」 「…俺は、人の趣味や嗜好に口を出すのはよくないことだと知ってるつもりだ」 「?」 「人間だって萌えもんだって個人個人に性格があるんだし、いろんな楽しみがそれぞれあるんだと思う。  俺からすればわけのわからないことだけど、その人にとってはそれは凄く意味のある事、楽しいことなんだ。  義父さんが仲間と酒を飲んでるのを見てても、俺は酒がおいしいものだとは思えない。でも…父さんにとってはそうじゃないんだよな。  当たり前といえば当たり前の事だ、だけど―――」 息を吸う。吐く。 「他人の意志を無視して、他人を傷つけるのを分かってて無視して楽しむような事は、俺は絶対に認めない」 そう。…かつて苦しんでいる萌えもんを見て、傷つけて、楽しんでいた俺の父や母のように。 そんな人間を、俺は絶対に認めたくない! 「なんだよ…いきなりなんなんだよ、急に出てきておいて、なんなんだ、お前は!」 アリアドスが叫ぶ。…揺さぶりもかけられたなら、長口上の甲斐もある。 後は…ついでにもうひと押し! 「通りすがりの萌えもんトレーナーだ……覚えておけ!」 左手のボールを右手に持ちかえ、ちょうどアリアドスとフシギダネの間あたりを狙って投げた。 モンスターボールが開き、光とともにバタフリーが飛び出す! 「シク―――」 「あなたの声はもう聞きたくありません」 「ぐぼっ!?」 アリアドスの声を封じるように念力が炸裂した。 まるで巨大な拳に殴られたかの様に吹っ飛んで、そのまま大木へ激突。 …バタフリー、冷静なように見えたけど…実は相当怒ってるな… 「そんな、どうし―――げふっ!?」 「聞きたくないといいました。二度も同じことを言わせる気ですか」 「ごごごごごめんなさ―――ぐえっ」 「謝ってすむと思いますか?」 「ゆ、ゆるし…がはっ!?」 「許しません!」 「ぐはぁあっ!?」 …あ、アリアドス気絶した。 数分後。 「で、いいのか?」 「いいんです。どうせたいした目的地もありませんし、折角なら旅の道連れは多い方がいいですし。  いつまでの付き合いかは分かりませんが、それまではよろしくお願いしますね」 「あぁ…まぁ、よろしくな」 結局。 バタフリーは『自分の居場所』を求めて旅に出たかったらしく、 それが見つかるまでは俺達と行動を共にしてくれることとなった。 「で、出口は分かるのか?」 「ええ、勿論。…その前に、少し寄りたいところがあるんです」 「…まぁ、俺達は日が沈む前にニビに着ければ文句はないな。…何か忘れものか?」 「…忘れ物、といえばそうかもしれませんね」 …俺とフシギダネが3人目の仲間と出会うのは、この30分後の話だった… 「…んぁ」 えっと…あぁ。昼食を取った後、眠くなってリビングのソファーに座ってるうちにうたた寝してたのか…。 「おはようございます」 「ん…おはよう…って、あれ」 リビングと繋がっているダイニングの椅子に座っているバタフリー。 …でも、なんで? 「…帰ってきたのか?」 「ええ」 「それならそうと事前に言えよな…」 そう言うとバタフリーは、シャワーズにも言われました、と苦笑いで返す。 「今夜はごちそうにする、とかフシギバナが張りきって買いだしに行ってしまいました…  シャワーズとフライゴン、プテラも一緒に」 「そうか…」 だんだん目が覚めてくる。 よく見れば、ダイニングの机には寝る前にはなかったものがいくつかある。 旅荷物か、土産か何かか。 「それでバタフリー、自分の居場所とやらは結局見つかったのか?」 「…はい、おかげさまで」 「そうか」 …それ以上の言葉はいらない。 こいつがそう言っていることと、今ここにいるという事実を考えれば、居場所がどこかは簡単にわかる。 「…おかえり、バタフリー」 「ただいま、マスター」

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