5スレ>>691-4

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『4.HOME』 「………さて」 いつもと違うシャツに袖を通し、いつもと違う上着を着て、普段つけないアクセサリーを付ける。 ジムの仕事や買いものなどではわりとシンプルな服を着ているが、こんなオシャレをするのは久しぶりだ。 …柄じゃない、とは思う。だが、せっかくの誘いをむげにはできない。 「…というか、無下にしたら俺は殺されるな」 …いや、さすがにそれはないかもしれないが。 話は、数日前にさかのぼる。 プテラの定期検査が近付いていた、ある日の昼下がり。 プテラは他のみんなとは違い、化石から復活した萌えもんだ。 この手のタイプの萌えもんは珍しく、また肉体の組成が不安定らしい。 そのため、定期的に身体の検査を行い、異常がないか調べなくてはならないそうだ。 で。毎回トレーナーである俺が同行することになっているのだが。 今回はなぜか、他の皆は誰もついてこないという事になった。 というのも、次の検査の日はプテラが(化石から)生まれてちょうど4年目になる。 要するに誕生日で、残りの7人全員でパーティーの準備をしたいらしい。 「というわけで、マスターには夕方までプテラを家から引き離してほしいんです」 誕生日会作戦部隊『隊長』…ことシャワーズは俺にそうもちかけた。 「グレン島なら多少観光地もありますし、二人で散歩してお茶でもして…  まぁ要するにデートして夕方くらいに帰ってきてくれればいいから!」 『副隊長』…フシギバナが身を乗り出してくる。 まぁ、俺もプテラの誕生日を祝ってやりたい気持ちはあるんだし、それは別にかまわないのだが。 「検査は結構精神的に負担があるらしいし、帰ってきたときに労いも兼ねてしてあげられたらなあ、って思うんです!」 「一日だけでいいから、お願いっ!」 「…まぁ、いいけど」 で、今。検査当日の朝にいたるわけだ。プテラも準備は終えてるようだし、すぐに来るだろう。 今が朝10時。検査は11時から1時間なので、まだまだ余裕はある。 「お待たせした、御主人」 「いや、気にするな。準備はできたのか?」 「大丈夫だ。では、乗ってくれ」 「ああ、頼む」 といいながら、いつもどおりにプテラにおぶさる。 …よく見れば、プテラも普段と違う格好をしていた。 普段のグレーのツーピースではなく、飛行帽をかぶり、ブルゾンを着ている。 と、体にかかる力と、風の勢い。眼をあけると、すでにそこは空中だった。 「なぁ、プテラ。人の事言えないんだけどさ」 「む、どうしたので?」 「今日のお前なんか普段と違うというか…ちょっと可愛いな、服装変えると」 「んなっ!?」 「うぉおおっ!?」 いきなりガクッと高度が落ちた…!? 「ご、御主人…そう言う事は、せ、せめて…地上で…」 「すまん…気を付ける…」 そのまま飛行しながら聞いた話だと、普段の服だと味気ない、と唐突にフシギバナがいいだし、 昨日のうちにすべて用意してくれたのだという。 …自分でも結構気に入ってるらしい。 「ま、まぁ…検査なのに着飾っても、意味はないと思うが…」 「そうでもないだろ。…検査終わればちょうど昼ごろだし、  昼飯ぐらい食って帰ってもいいんじゃないか?」 「…いいのか?」 「別にいいだろ、たまには。ついでに適当に散歩でもして、夕方まで適当に遊ぼうぜ。  最近デスクワークばっかりで遊んでないし」 「それは…一般的には、デートと言わないだろうか」 「…言うな、確かに」 「!?」 「ちょ、おま、落ちる、ちゃんととべーっ!?」 …プテラが検査でいない間、俺は研究所の外で家と連絡を取っていた。 「で、そっちの準備はどうだ?」 『ああ、今フシギバナとフーディンと子ども組が買いだしにいっとる。  シャワーズが下ごしらえやな。ウチは今から掃除』 「ん、そうか…こっちはプテラの検査が終わったら、昼飯食って適当にぶらついてから帰るよ」 『…どこ行くか決めてるん?』 「あんまり考えてないな…検査のついでだしな」 『マスター…あんたせっかくのデートやのに…』 …ほっとけ。どうせそんなまともなデートなんて数えるほどしかしてねえよ。 というか、すでに俺…結婚してるしなぁ…。 『ま、ええわ…日が暮れるくらいに帰ってきてくれたらええから』 「ああ、戻るときには電話する。…じゃあな」 電話を切り、そこにあったベンチに座る。 平日という事もあり人気も少なく、海風が心地よい。 「…さて、どーすっかな」 検査自体はそれほど時間もかからない。 だが、グレン島はそれほど広くないし、娯楽と言えるものもそんなにはない。 そもそも娯楽はあんまり…俺はともかく、プテラは好きじゃなさそうだし。 「ま、どうとでもなるか」 じき、検査も終わる。 俺は早めにプテラを迎えに行くことにして、ベンチから立ち上がった。 「お疲れ、プテラ」 「ああ…疲れた」 採血などもある検査はやはり少々疲れるようで、今はボールに入っているプテラ。 俺はそのボールを腰のホルダーにつけて、適当に昼飯の取れるところを探す。 「プテラ、何か食べたいものあるか?できればあまり高くないものがいいんだが」 『…高くなくていいから、肉が食べたい』 「肉?」 『血が足りない…』 「…そんな抜かれたのかよ…」 まぁ、肉食の萌えもんだしなプテラ。野菜嫌いだし。 鍋とかでも基本肉ばっかり食うんだよな…食えなくはないらしいし、最近はある程度食えるようになってるが… 鍋のネギくらい普通に食えよ…と、いかんいかん。愚痴になってる。 「まあいいけど…食べ過ぎるなよ」 結局、ハンバーガー4個とポテトLサイズを完食したプテラは幾分調子を取り戻したようだった。 誤解のないように言っておくと、これは普段の食事の量を考えればそれほど多くはない。 …こいつ、毎日のようにこれだけ食って良く太らないな…と思ったが、言わないでおく。 「さて…どうせ暇だし、適当に遊んで帰るか」 「そうだな…しかし御主人、遊ぶといっても何を…」 「…まぁ、歩きながら考えよう」 平日の昼下がりでも人の多い萌えもんセンター前の通りを二人で並んで歩く。 ふと隣を歩くプテラを見て、あることに気づいた。 「なぁ、プテラ…暑くないか?」 「む…少し…」 「だいぶ暖かくなってきたけどさ、お前春用のアウターとか持ってるのか?」 「…そういえば前に使ってたのは裂けてしまったんだった」 そう、以前買い物に行った際野生の萌えもんと交戦し、その時に破けてしまったのだ。 その頃はだんだん寒くなってきてて冬用の上着に着替えたから必要なかったんだが… ま、せっかくだしな。 「どうせ特に行くところもないし、適当に見て回っていいのあったら買うか」 「…いいのか?」 「どっちにしろ買うんだしな。合うのがなければ今度にすればいいし。  せっかくだ、見ていこう」 「わ、わかった」 もともとプテラは上着を選ぶ際は、あまり裾が長くないものを好んで選ぶ。 飛行の際に邪魔になるかららしく、スカートも割とタイトなものしかはかない。 で、今回選んだのが… 「…これでいいのか?」 「ん…駄目だろうか…」 「いや、値段的には全く問題ないんだが…」 この白を基調としたベストだった。何やら新しい繊維を使っているらしく丈夫そうだが、 お世辞にもオシャレとは言えないものだ。 「別にお前が欲しいってならそれはそれでいいんだけど…  もうちょっと可愛らしいのは選ばなかったのか?」 「いや…でも…」 「?」 プテラが頬をかき、目線を斜め下にやって俺からそらす。 普段見せないリアクションだ。…何か理由があるのだろうか。 「せっかく買ってもらうのだし、できれば毎日着たいから…  なるべく、丈夫な方がいいかな、と…長い間着ていられるだろうし…」 「…………」 …なんかそう言われると何も言えないな。 とりあえず、プテラから商品を受け取ってレジへ向かう。 ま、プテラらしくてこれはこれでいいかもしれないな。 早速ブルゾンからベストに着替えたプテラと、 俺は島のあちこちを回った。 「御主人、火事場泥棒だ!」 「…行くぞ、追いかけて叩きのめして捕まえて殴って警察に突き出してやる!」 (あ、相変わらず悪党に容赦がない…!) かつて研究所だったらしい萌えもん屋敷を回ったり。 「…Aでいいか、プテラ」 「ファイナルアンサー?」 「ふぁ…ファイナルアンサー」 グレンジムのカツラのクイズ番組に飛び入り参加したり。 「………マジで食うのか」 「以前から一度食べてみたかったんだ…御主人もどうだ?」 「…ちょっとでいい」 島名物の火山ホットケーキ(山のように積み重ねられたホットケーキにチョコクリームを塗り、火口にジャムを乗せたもの) をプテラがほとんど一人で平らげて見せたり。 気づけば、あっという間に時間はすぎて。 「…海か…」 「海だな…」 蒼い海と、オレンジの空のコントラスト。 俺とプテラは防波堤の手前で並んで、ぼんやりと二人で海を眺める。 「…御主人」 「ん?」 「今日は…楽しかった。こういうのは初めてで…何をしていいか全く分からなくて…  でも、今日一日いろんなものを見て、すごく楽しかったことだけは分かったんだ…ありがとう」 「…気にすんなよ、俺も楽しかった」 夕日が、昼間とは全く違う紅い光を投げかけてくる。 プテラは…何かを迷っているようにしばらくうつむいたりこちらを見上げたりして…やがて口を開いた。 「御主人…人間や、たいがいの萌えもんは…自分の生まれた場所を家にするな」 「…いきなりなんだよ?」 「我の生まれた場所は…ずっと、ずっと昔生まれた場所は…いま、この海の中らしい」 「…………」 プテラは海を見つめたまま、訥々と語り続ける。 …カミングアウトにしちゃ唐突すぎる気もするが…プテラは確かに、この近辺で生まれたらしい。 ニビで琥珀を受け取った時にそれっぽい話を聞いたからだ。 「我の生まれた土地は、もうどこにもない…」 「…だからお前は居場所がない、っていいたいのか?」 「いや、そう言うわけじゃ…」 俺は…海ではなく、空を見つめていた。青からオレンジへと変わりゆく空を。 「確かに、生き物は生まれた場所に親と一緒に住みつき、育っていくのが普通かもしれない」 「………」 「だけど、みんなずっと一か所に留まっている訳じゃない。  子供はいずれ、親から、生まれた場所から巣立っていくもんだ」 そう。俺達の周りは、つねに形を決めずに変化を続けている。 今まさに、夕暮れの色へ染まろうとしている空のように。 「そうして自分の居場所を探して、出会った仲間と新しい場所を作り、  そこでまた新しい命を育む。…そうやって、お前たちの時代から俺達の時代まで生きてきたんだ」 「…御主人」 「お前はどうだ?」 「え?」 「…俺は…あのジムに、お前やみんなの居場所があると思った。  お前のいう、家って場所を作ってやれると思ったんだ」 …我ながらちょっとカッコつけすぎだな… てれ隠しに苦笑しながらプテラの方を向くと――― 「う、うぅ…」 「って、おい!?」 ――思い切りしがみつかれた。 「おま、これくらいで泣くなよ!?」 「す、すまない…」 とりあえず頭を軽く撫でてやる。…俺、昔から誰かに泣きつかれたら毎回これだな… というか、プテラが泣いてるのって初めてみた気がする。 「まだちょっと泣くのも喜ぶのも早いな」 「…え?」 「ほら、さっさと帰るぞ。…みんな待ってる」 翼を広げ、俺達は空を飛んでトキワへと飛び立った。 …みんなが待っている、家(HOME)に。 実はこのあと誕生日パーティーをやった際、俺は前からプテラに上着を買っておいたのを忘れていた。 それで、今日の買い物と思い切り中身が被ったわけだが…それは、また別の話。

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