5スレ>>714

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 お風呂上り、タオルで髪を拭きながら居間に入ると、ニーナと母さんは仲良く並んでソファに座っていた。 「母さん、お風呂あがったよ」 「はいはーい。しかし、アンタの声を聞くとくすぐったくなるわねー」  果たしてそれは息子への言葉として大丈夫なのか。  ……ノートとフラッグが標準装備だったから仕方ないかもしれないけど。 「三日で慣れるよ。ニーナは最初っから大丈夫みたいだったけど」 「それは、私がそう望んでやってもらったわけですし」  それで笑ったら酷いじゃないですか、とニーナは続けた。  それもそうか、と冷蔵庫に手を伸ばす。 「やったわ、あと三日はこのネタでご飯が食べられるようね」 「母上……」  この母親、見ないうちにいやな方向へ成長していたようだ。  冷蔵庫の中に牛乳しかないのとか特にね……。  どれも新しいから間違いなく今日慌てて買ってきたのだろう。  渋々牛乳を選ぶ。 「さて、母さんも準備に行こうかな」 「その間に牛乳風呂にでもしてこようか母さん」 「なぁにー? ニーナちゃんの前でおんなのこのこと気にしてていいのかなー?」 「おんなの……こ……?」 「遺書は用意した? 首は……洗ったわね。 あとは……ハンカチは? ティッシュは? 傘は?」 「立派な母親のセリフですよね、どう聞いても……」  母さんはニーナの言葉に満足げに数度頷いて、自分の部屋へと向かった。 「ふぅ。母さんも元気だなー」 「マスターもですよ。似たもの親子もいいところです」 「んー……似てるかなぁ……?」 「知らぬは……と、マスター、爪、伸びてますよ」  ニーナが牛乳とグラスを持った僕の手、指先を見ていた。  確かに最近、爪を切った記憶がない。 「ん、そのうち切る……ととと」  言うと、ニーナが僕の手首を掴み、ぐいと強く引き寄せた。  牛乳とグラスが落ちないようにしようとすれば、その力に逆らえるはずもなくて、 「……」 「……」  結局ニーナの左隣に座る形になった。  とりあえず牛乳とグラスをリビングテーブルに置いておいて、 「えと、なに……?」 「マスターのそのうちは信用出来ませんから、私が切ってあげます」 「え、いや、爪切りくらい自分で……」 「問答無用です」  最初から用意していたのか、いつの間にかニーナの手には爪切りが握られていた。  その顔には笑みが浮かんでいたが、目は真剣だった。  どうやら観念して爪を切られる方がいいようだ。 「分かった。お願い……」  素直に右手を差し出す。  では、と言いながらニーナは僕の手を取った。  ……改められると、緊張するというか恥ずかしい。  ぱちん、ぱちん、と爪切りが音を立てる。  俯いて爪が切られていく様子を眺めていた僕の視界の端に、上目遣いのニーナが現れて、 「どうですか? 痛くありませんか?」  なんて甲斐甲斐しいこというものだから、僕は慌てて顔を背ける。 「ウ、ウンイタクナイヨダイジョウブ」 「本当ですか……?」 「ウンホントホント」  恥ずかしさがゲージを突破しそうだ。  出来ることならうわーって叫んで外に出て行きたくなるような気持ち。  でもそれとは反対で、ずっとこのままでいたいと思えたりもする。  むずがゆいというのだろうか。気持ちいいという言葉も浮かぶ。 「はいマスター、もう片方もお願いします」 「う、うん……」  左手を差し出そうとすると、自然と体がニーナの方を向き、ニーナもまた僕の方へ。  軽く対面するような位置関係になる。 「……」  流石に首も痛くなってきて、顔を背けるのにも限界が来た。  ……それに向かい合った状態で顔を背けるのはなんか悪いよね。  とりあえずニーナの顔を見つめるという選択肢は最初からなかったので、手元に視線を落としておくことにした。  爪切りが始まらないなと思っていると、ニーナはタッチするように僕と手を重ねて、 「マスターの手って、大きかったんですね。意外です」 「そりゃ、男だもん」 「そうですね」  言って、ニーナは重ねた手を握りこみ、指を絡めてきた。  驚いてニーナを見ると、互いの視線が噛み、 「頼りにしてますよ。マスター」 「……う」  思わず、右手で口元を覆う。  ……ずるい。  何がずるいとかそういうことじゃなくて、ただなんとなく、とにかくずるいのだ。  こういったセリフを臆面なく言い放つところとか。  整っていて、無防備な笑顔をみせるところとか。  シャンプーのいいにおいがするところとか。  お風呂上りでうっすらと染まった肌とか。  普段洗い物してるのに、すべすべした綺麗な手だとか。  要するにぜんぶずるい。 「……」 「……」  場は完全にニーナに支配されていた。  そのまま時間だけが過ぎていく。  と、思われた矢先、 「これからお風呂なのに、のぼせちゃいそうだわ……」 「!?」  着替えや洗面用具を持って、母さんが居間の入り口に立っていた。  ニーナはなかなか譲らなかったけど、結局、左手の爪は自分で切ることにした。

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