5スレ>>718

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 家に戻ってきてから数日が経った。  そろそろ旅に戻ろうと思うのだが、母さんがあの手この手でひき止めようとするので、中々踏ん切りがついていない。  今日は生憎の雨で、仕事に出た母さん以外、つまり僕とニーナはやることも特になくて暇を持て余していた。  ……外に行ければやることあるのになぁ。  会うべき人がいる。それは友達であったり、萌えもんであったり、様々だ。  だが外に出られない以上、家で時間を潰す他なく、ごろごろだらだらと過ごしていたら、あっという間にお昼を過ぎていた。  そして、時計が三時を示そうと言う時だった。 「マスター、提案があります」  ニーナが暇つぶしの案を持ちかけてきた。  二十分後、準備が完了した。  ニーナは部屋に、僕はエプロンを装備して、中身のない鍋をかき混ぜていた。  ……勿論病んでなどいない。  そしてそのまま三時半になるのを待つ。  その時刻になると、ニーナの部屋から目覚ましの音が鳴り出した。  目覚ましは十秒と経たずに鎮められた模様。  だが、  ……起きるかな?  廊下をこちらへ向かってくる足音はしない。  二分ほど待ったが、やってくる様子がないことを確認して、僕はニーナのいる部屋へと向かった。  部屋の前、数度ドアをノックして、 「ニーナ、おきてるー?」  ……へんじはない。ただのおねぼうさんのようだ。  はいるよー、と言いつつ部屋に入ると、見事な蓑虫が転がっていた。  布団から出ているのは、ニーナの片耳だけというのが笑いを誘う。  蓑虫を軽くゆすりながら、 「おきてよニーナ。おきないと遅刻するよ」 「うー……あと少しだけ……」 「いっつもそうやって遅刻ギリギリで起きるからダメ! ほらおきておきて」  布団を引き剥がす。  下からは、ぎゅっと身を縮めた、乱れたパジャマを纏った「中身」が。 「もうご飯できてるから、準備できたらすぐ来てね」 「はーい……」  ニーナが欠伸を交えつつ返事をしたのを確認して、僕は居間へと戻った。  五分と経たぬうちに、ニーナが居間に姿をあらわした。  上から、寝癖、ワイシャツ、下着、生足という軽装備。  その姿にドキリとするが、何とか堪えて、 「ごはん並べてあるよ。食べたら洗面所、その間にアイロンかけるから」 「ありがとう……」  ふらふらーっとテーブルにつくニーナ。  ぱぱっとお皿を片付けて、 「ごちそうさまでした」  手を合わせて、ふらふらしたまま洗面所へ向かった。  僕は出しただけのお皿を軽く水洗し、食器乾燥機に突っ込んだ。  すぐさまスーツのアイロン掛けに着手する。  ささーっとアイロンを走らせていると、 「おはようございます」 「ん、おはよう」  目を覚ましたらしいニーナが再び居間に。  ……あの格好には慣れないなぁ。 「はい、上下」 「ありがとうございます」 「部屋で着てね?」 「脱ぐものはないので問題ありません」  そういう問題ではありません。  背中を押して、部屋に押し込む。  時計を見れば、もういい時間になっていた。 「着替えたー?」 「はい。今出ます」  出てきた。 「どうですか?」 「う、うん……」  なんというか、こう……。 「微妙な反応ですね」 「あ、えと……」  あまりにも似合いすぎて言葉が出なかった。  男物の、濃紺でシャドーストライプのスラックスに、同色のジャケットをびしっと決めて、ネクタイをした姿は、凛々しさを感じさせる。  そしてそれは、しっかりもののニーナにはとてもよく似合っていた。 「ここ、ちゃんとしとかないと」  少し気になっていたネクタイのズレをととのえてあげる。 「うん、凄く似合ってるよ。大丈夫」 「あ、はい。ありがとうございます」  そんな格好で、決まっている状態からのふいの笑みは、心を抉り取るような一撃だった。  玄関まで移動してから、脇に置いていた鞄を手渡して、 「一日頑張ってきてね、いってらっしゃい」 「はい。いってきます。……」  そこで、順調な流れはぴたと停止した。  ニーナは僕のほうを見たまま、物足りないというように眉をひそめて、 「……」  目を閉じた。  ……。  この状況だ。おそらく何を求めているかはおおよそ予想が付いた。  が、乗らない。  流そう。  そのためには茶化す必要があった。  ……!  昨日目に入ったテレビの流れが使えるかもしれない。  深呼吸をして、 「ひ、暇を持て余した!」 「私たちの」 「「遊び」」  まさに言葉通りだったわけなのだけども。 「僕より僕のスーツが似合うだなんて酷いよ。うん」 「そんなこと言われてもですね……それに、マスターのエプロン姿かわいいじゃないですか」 「うーれーしーくーなーいーよー」 「ではこれから私以上にスーツが似合うようになればいいんですよ、マスター」 「そんなこといわれてもなぁ」 「私、マスターのスーツ姿、期待してますよ」  ウィンクしながらそんなこと言われたら、何も言えないやろー!

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