5スレ>>727

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5スレ>>727」(2009/06/25 (木) 00:59:07) の最新版変更点

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 思えば今朝から何かがおかしかった。  目が覚めた時から体がだるいし、頭痛がする。  ベッドから出れば寒気に襲われるし、動かすと関節が軋む。  おまけにぼーっとしてしまって頭が回らない。  この状態を一言で表すなら―― 「38.5℃……完全に風邪ですね。これだけ熱出してるのに起きて歩きまわるなんて……」  体温計の温度を見たミルトがあきれ声を出す。 「面目ない……」  タマムシジムの奥にある和室で、俺は布団に寝かされていた。  エリカさんから呼び出しを受けたのでジムを訪れたのはいいんだが、  到着と同時にジムの玄関先でぶっ倒れて今に至る――というわけだ。  まったく情けないったらありゃしない。 「エリカさん、ご迷惑をおかけしてすみません」  枕元に座るもう一人の人物へと謝罪の言葉を述べる。 「いえいえ、いいんですよ。トウマさんにはお世話になりましたからね」  エリカさんは穏やかな笑みを浮かべると、 「さて、あまり騒がしくしてもいけませんし、わたくしはこれで失礼しますわ。  お連れの方々はしっかりとおもてなしさせていただきますから、ごゆっくりお休みくださいね」  そんな言葉とともに部屋を去って行った。  このときエリカさんの企みに気がついていれば、この先の事件は起きなかったかもしれない。  しかしこのときの俺には到底そんな余裕はなく、  買い物をしてくるというミルトを見送った後、いつの間にか眠ってしまっていた。 ―――  ぴしゃり、と襖を閉じる音で目が覚めた。 「ん……」 「あ、ごめん。起しちゃった?」  ぼんやりとした頭で声のした方を見る。この声は……サヤか? 「いや、気に――」  しないでいい、とはつづけられなかった。  襖の前に立っていたのは、予想通りサヤだった。しかし、  黒のワンピース、エプロンドレス、額にあるのはホワイトプリム。  サヤが着ていたのは俗にメイド服と呼ばれるものだった。ちなみにスカートはミニ。 「……いったいどうしたんだ?」  似合っているといえば似合っているのだが、サヤのチョイスだとは考えにくい。 「いや、これはその……」  俺の視線に気づいたサヤがとたんに慌て始める。 「あんたの様子を見に行くっていったら、エリカ様が着ていけって……命令、されて……」  風邪ひきの頭にもわかりやすい説明をありがとう。  要するにエリカさんのいたずらか。まったく、なにがしたいのやら…… 「それでさ」  風邪以外による頭痛に襲われつつあった俺に、サヤが声をかけてくる。 「もうお昼なんだけど、お腹減ってない? お粥、持ってきたんだけど……食べる?」  布団の傍に座り、手に持ったお盆を示す。  お盆には小さな土鍋が載っており、ふたを開けるまでもなくいいにおいが漂っていた。  正直あまり食欲はないが、ここまでしてもらって食べないというのも悪い気がする。 「そうだな、それじゃ少しだけもらおうかな」  布団から体を起こす。多少めまいがしたが、たいしたことはない。 「はい、あーん」 「…………」  訂正、痛烈にめまいがしてきた。  なんだこれは? 何かの罰ゲームか?  目の前にはお粥を載せたレンゲ。そして照れたような、怒ったような表情でそれを差し出すサヤ。  いや、そんな顔するくらいならやらんでも…… 「これも、命令だから……」  表情を変えないままサヤがつぶやく。 「お願い。これをやらないと後でひどい罰が……」  一気に断りづらくなる。なんて命令を出すんだ…… 「あ、あーん……」  覚悟を決めて口を開くと、温かいものが流し込まれてきた。  ゆっくりと咀嚼し、飲み込む。 「うまい……。これ、誰が作ったんだ?」 「ルーメよ。あのこ、こういうの得意だから」 「後でお礼を言わないとな」 「それがいいわね。……さて、次いくわよ」  再びレンゲを俺に向けるサヤ。レンゲにはもちろんお粥が載っている。 「まさか……全部食べきるまで?」 「…………」  苦渋に満ちた顔で頷かれる。  結局、完食するまでこの恥ずかしい寸劇が終わることはなかった。 ――― 「ご主……じゃなかった、患者さーん。『けんおん』の時間だよー」  元気のよい声と共に襖が開かれる。今度はファルか。 「……またそんな格好を」 「えへへー、似合うー?」  にこにこと笑うファルは、ナース服を着ていた。  なるほど、患者さんなどと呼ばれるわけだ。 「ああ、なかなか似合ってるぞ。……で、どうしたんだ?」 「うん、『けんおん』だよー」  けんおん? ……ああ、検温か。  見ればファルの手には一般家庭によくあるタイプの体温計が握られていた。 「わかった。体温計かしてくれ」 「だめー」  体温計を頭上に掲げるファル。  その意図が分からずにぽかんとしていると、 「わたしがはかってあげるー」  ファルはそんなことを言い出した。 「ほら、患者さん。手をあげてー」  上半身を起こした俺の脚の上に座り、ファルがそう指示してくる。 「はいはい」  子供じゃあるまいし、自分で測った方が早いのだが、  楽しそうに体温計を俺の脇に挟むファルを見ていると、こういうのもいいかという気になってくる。  待つことしばし。小さな電子音が部屋に響く。 「え~っと、38.0℃だってー」  ファルが体温計の数字を読み上げる。  まだそんなにあったか。だいぶ楽になったから、もっと下がったかと思ってたが…… 「まだお熱あるねー。大丈夫ー?」 「ああ。大丈夫だ」  心配そうな顔をするファルの頭をなでてやる。  ファルはえへへと笑うと、 「じゃあ、後でまた来るねー」  そう言い残して部屋を出て行った。 ――― 「……あまり驚かないのですね」 「まあ、ある程度予想はしてたからな……」 「ふむ、2番煎じどころか3番煎じですからね。耐性がついてしまいましたか……」  ファルが部屋を出てから数分後、入れ替わるようにしてやってきたレーティは、少し残念そうにつぶやいた。  ちなみにレーティの装備は白衣に聴診器。ご丁寧にカルテらしきものを挟んだバインダーまで持っている。 「看護師の次は医者か。どこにそんなもんがあるんだか……」 「エリカさんが用意してくださいました。……私には不似合いでしょうか?」 「いや。むしろ似合いすぎてて驚いた」 「ありがとうございます。わざわざ着た甲斐があるというものです」  小さく笑うレーティ。俺の頬もつられて緩むが、 「レーティ……それはなんだ?」  レーティが取り出したものを見た瞬間、緩みは引き攣りへと変わった。 「何って、解熱剤ですが」  事も無げに言うレーティが持っているのは、小さなボトル。  子ども用のシロップ状の風邪薬が入っているボトルと同じものだが、  その中には紫と深緑と黒のマーブル模様の液体が入っている。  おかしい。明らかに普通の薬じゃない。そもそも薬かどうかも怪しい。 「大丈夫ですよ。確かに見た目は悪いですが、効き目は確かです」 「その根拠は?」 「データを見せてもらいましたが、エリカさんが行った実験では十分な効果が出ています。  ……薬として認可が出ていないのが不思議なくらいです」 「待て、今何ていった?」 「とにかく飲んでください」  ずいっとボトルを差し出してくるレーティ。  こいつは理論家だから薬としての効果が問題ないなら使うって考えなんだろうが、  それに付き合ってあんな怪しげなものを飲むわけにはいかない。  ついでに言えばデータが信用できない。多分隠蔽か改竄があるはずだ。 「嫌だ」 「何故ですか?」 「効果のほどは知らんが、そんなヤバそうなものを飲む気にはならん」 「そうですか……ならば致し方ありません」  パチンとレーティが指を鳴らすと、襖から粉のようなものが漂ってきた。  同時に体が動かなくなってくる。 「しびれ粉……。……ファル……か?」 「せいかーい」  襖の奥から間延びした声とともにファルが出てくる。  俺の周囲に舞う粉がさらに濃度を増してきた。 「くそ、これ……くらいで……」 「ふむ、流石トウマ。まだ動きますか」 「患者さーん? お薬はちゃーんと飲まないとだめですよー?」  布団から這い出したところで取り押さえられる。  そして、 「や、やめ……」  毒々しい液体が迫ってくる。  ……その後のことは、できれば二度と思い出したくない。  とりあえず、症状だけは改善した。 ――― 「――そんなことがあったんですか」 「ああ。ひどい目に遭った」  時刻はいつの間にか夕方。  買い物から帰ってきていたミルトに今日のことを話してやると、ミルトは笑いながらそう言ってきた。 「ということは、私のこの格好はサヤさんと同じなんですね」  自分の服を見ながらつぶやくミルト。  今のミルトが着ているのは、メイド服。  ミルトのイメージに合わせてだろう、スカートはロングに変更され、装飾が変えられているようだが、  大まかなところではサヤが着ていたものと同じだった。 「違う部分はあるけど……まあ、そうなるかな」 「せっかく珍しい服を着れたのに、ネタがかぶっちゃいましたか。……ちょっと残念です」 「でもサヤの時とはだいぶ雰囲気も違うから、かぶったって感じじゃないぞ?」 「そうですか? ならいいんですけど」  そう言って氷枕の具合を確かめるミルト。その表情がふっと緩む。 「……なんだか、あの時のことを思い出します。  覚えてますか? 私がひどい風邪をひいたときのこと」 「……ああ。覚えてる。  あの時は驚いたぜ? 朝起こしに行ったらすごい熱出してぜぇぜぇいってたんだからな」  今でも鮮明に思い出せる。  当時まだ子供だった俺はひどくあわてて、母さんの所へすっ飛んで行ったものだ。 「あの時は、マスターが一日中付き添っててくれたんですよね」 「よく覚えてたな」 「そりゃ覚えてますよ。こんなふうにして――」  手をぎゅっと握られる。 「ずっと元気づけてくれてたんですから」  当時を思い出したのだろう。嬉しそうに、そして懐かしそうにほほ笑む。  お互いの体温差だろう。ミルトの手はひんやりと心地よく、つないでいるだけで安心できた。  ……なるほど、覚えているわけだ。 「ふぁぁぁ……」  安心感にひかれるように、睡魔がやってくる。 「眠いですか? 私のことは気にせず、ゆっくり休んでください」 「悪い……そう……する……」  言い切ると同時に、意識が途切れた。  それから夢を見た気がするが、よく覚えていない。ただ、 『大丈夫、私がずっとみてるからね……トウマ』  そう言って誰かがずっと手を握ってくれていた、そんな気がする。 ――― あとがき  今回はコスプレ祭りということで、本編から外れた番外編的なものを書いてみました。  季節はずれの風邪ネタです。コスプレで看病というネタしか浮かばなかった……  こういうネタをやると自分の服飾描写の下手さが浮き彫りになりますね。  コスプレ祭りなのにコスプレ以外が主になってるし。  今後の課題ですね……がんばります。  それでは今回はこのあたりで。また次回作でお会いしましょう。

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