5スレ>>750

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 一の島北部、灯火山。  そこには、不死の存在と謳われるカントーの伝説、ファイヤーが住んでいる。 「…………」  彼女は山頂の小屋の窓から、今日もカントーの方を眺めていた。  思い返すのは、これまで生きてきて最も波乱に富んでいた頃。  そして、彼女がその頃に主人として仕えていた……変わり者のトレーナーのこと。  ……今よりも大体一世紀昔。  休火山であったグレン島が噴火する数年前の話である。 『Immortal blaze』  …  ……  ………  …………  チャンピオンロードと呼ばれていた洞窟に人の手が多く入り、ファイヤーはこの頃住処を灯火山へと移していた。  この頃、灯火山はロケット団と名乗る人間の集団によって色々と荒らされており、  元々人間と接触する機会の少なかった彼女はこの時代の人間へ多少の不信感を抱いていた。  そんな、ある日のこと。  目つきの悪い少年が、彼女の住処へと近づいてくるのを見つけたのであった。 「彼は……?」  服装からすると一般のトレーナーである。  が、わざわざこんなところを目指して来るのは…… 「道を間違えたか……若しくは、私が目的ですか」  もしかすると、私服のロケット団かもしれないという警戒心を抱きつつ、ファイヤーは威嚇の意味も兼ねて飛行形態で少年の下へと舞い降りた。 「灯火山へようこそ、人間とその仲間たち。私はファイヤー。伝説と呼ばれる炎の守護者たる萌えもんの一つ」  突如現れた彼女に、一度は面食らう少年。  が、すぐに気を取り直し彼はファイヤーに力試しを挑んだ。  久しく出会うまともなトレーナーに、彼女は密かに心を躍らせる。 「…ふふ、この私に向かってくる、その意気やよし」 (ですが、まだまだ私を従えるには力不足……実力を思い知らせて差し上げるとしましょうか) 「いいでしょう、挑戦は受けます。そして私に牙をむけたこと、後悔させてさしあげますわ!」  ……結論から言えば、ファイヤーの圧勝であった。  正に鎧袖一触、手加減に手加減を重ねた攻撃で少年の手持ちは一人を除き戦闘不能。  少年自身も負傷し、辛うじて逃げ延びた手持ちに引きずられて去っていった。  正直なところ、ファイヤーとしても拍子抜けしていた。  久しく無かった挑戦者、それがこうもあっさりと…… 「ですが、瞬間の判断は悪くないようですね」  彼は自身の負傷を厭わずに全体を生き残らせる判断を一瞬で下し、実行させていた。 「……今後が楽しみ、かもしれませんね」  今日この日の屈辱は、必ず明日の糧となる。  そして受けた屈辱が大きければ、その分大きな反動となって彼らを成長させるであろう。  ……もっとも彼女自身、彼らがすぐにそれを糧としてしまった事は一種の誤算であったのだが。  翌日。  再び少年の挑戦を受けたファイヤーは、たった一晩で大きく成長したことに舌を巻いていた。  成長といっても個々の能力が上がったわけではない。  昨日の一戦で晒した彼女の弱点を、ピンポイントに突いてくるのだ。  ファイヤーは危うく全力を出しかける己を制御しつつ、徐々に追い詰められることに喜びを感じていた。 (ここまでやるとは……どうやら、私は彼を甘く見ていたようですわね)  袋叩きになりながらも、力のあるトレーナーと出会えた事を嬉しく思うファイヤー。  次の瞬間に襲い掛かってきた根の奔流、そして飛んで来る一個のボール。 (合格……ですわ。新たなる、主様……)  力を抜いて瞳を閉じると同時に、彼女の体はボールへと吸い込まれた。  …………  ………  ……  … 「まさかあの後、彼女たちに良いようにされてしまうとは思いもしませんでしたが……」  灯火山の溶岩よりも熱いのではないかと思われたあの夜を思い出し、ファイヤーは軽く赤面する。  永い時を生きてきた彼女にとっても、経験したことが無いことばかりされたのであった。  当時はまさか意識を覗かれていたとは思っていなかったので、時代が変わったせいかと驚いていた。  ……もっとも、彼女自身ソレを気に入ってしまったので世話無いが。 「……っと、いけませんね」  頭を振り、妖しい思い出を隅っこへと追いやる。  そうして浮かんできたのは……己の戦力の増強よりも、灯火山の平和と彼女の自由を願った変わり者の主。 「本当に、変わったお方でした……戦う才能に溢れ、留まる事を知らない向上心を持ち合わせながら……過ぎた力を持つことを善しとしないお方」  リーグに挑むときも、彼は相手が同じ伝説級を繰り出さない限りファイヤーを繰り出すことは無かった。 「そして必要なときにはその力を躊躇うことなく使う、心の強さ……」  μ2戦役を始めとした、伝説級の跋扈する戦い。  その多くで彼は先頭に立って仲間を率い、戦い抜いた。  負った傷は少なくない。  失ったものも少なくは無かった。  だが彼は……最期の時まで、戦う者でありつづけた。 「だから、私は……」  ファイヤーは立ち上がると戸棚へと向かい、そこに陳列されているいくつかの物体に触れる。  使いすぎて折れたスタンロッド。  年季を感じさせる、色あせたジムバッジ。  傷だらけの上酷く旧式だが、いまだにしっかりと機能する多機能ゴーグル。  そして……在りし日の彼を写した写真の入ったフォトスタンド。  スタンドをなでながら、ファイヤーは写真の彼に言い聞かせるように言った。 「御主人様に……惹かれたのでしょうね……」  彼女が次に思い浮かべたのはおよそ半世紀前のこと。  彼のかつての手持ちの大半が亡くなり、残りが彼女を含めて二人だけになった頃である……  …  ……  ………  …………  白金山のふもとに建てられた彼の家。  その近くにある見晴らしのいい崖に、いくつもの墓標が立てられていた。  その中で最も真新しい墓標の前で、年老いた彼は長い間黙祷を捧げていた。  墓標には、古びた指輪が埋め込まれている……彼の、人生のパートナーを勤め上げた女性のものだ。  ファイヤーはその様子を、少し離れた所から見守っていた。  その時の、彼の背中は。  以前会った時よりも、ずいぶんと小さくなってしまったように、彼女には思えた。  黙祷を終えると、彼はファイヤーの方へと歩いてくる。  そこで初めて、彼は彼女の存在に気がついた。 「何だ、ファイヤー。来ていたのなら、声くらいかけてくれ」 「そうもいかないでしょう、御主人様。貴方と彼女の間に割り込むなど、恐れ多いですわ」  そう言ってファイヤーは微笑みの仮面をかぶる。  ……彼と出会って約半世紀。  ”ファイヤー”の持つ時間としてはあまりにも短く。  一人の男性を想う女性としては、あまりにも長い時であった。  二人はゆっくりと、並んで彼の家へと向かう。  家では今頃、彼やその手持ちの子供たちが、夕飯の支度をしているところだろう。  そして、もう家が見えてくるという時に。  ファイヤーは、彼に声をかけていた。 「……御主人様」 「何だ」 「以前したお話……考えて頂けましたか?」 「…………」  彼は足を止め、黙り込む。  ファイヤーが以前した話。  ……彼女の血を受け入れ、永い命を手にすること。 「……貴方のような優れた人格を持つトレーナーを亡くすことは惜しいと、私は考えています」  嘘。 「その知恵と勇気、今後も……私達萌えもんのために、生かしては……いただけませんか?」  これも嘘。  確かに彼は様々な面で優れたトレーナーであったが……ファイヤーの本心は、こんなものではなかった。  それを見抜いてか、彼はファイヤーの瞳を鋭く見据え、言った。 「……そりゃ誰の入れ知恵だ、ファイヤー。ミュウツーか?それともホウオウ辺りか?」 「……っ」 「まあそんなことはどうでもいい……それがお前の本心だとして、だ」  一拍置き、彼は体をファイヤーの方へ向き直る。 「……俺がそれを受け入れると思うか?」 「……」 「元々永い寿命を持ってるお前とあいつを除いて、他の連中は皆俺よりも先に逝っちまった」 「……」 「ここで俺だけ足踏みして、あいつらの子供や孫も……皆先に逝かせるというのは、な」 「私が……ずっと、お傍に居ますっ……」 「………ふぅ」  彼は一つため息をつくと、やれやれとでもいうように頭を振り、言った。 「お前の本心を聞き出すのは……昔から骨が折れたもんだな」 「こう言うのも、彼女に失礼ですが……ずっと……待っていたんです……」 「……そうか」  お互いにそのまま黙り込む。  ……どのくらいそうしていただろうか。  彼は今まで歩いてきた方を振り返って言った。 「……悪いが、その気持ちに応えてやることはできん」 「っ……」 「正直な所、あいつをそう待たせるわけにもいかないからな……何より俺が耐えられん」 「そう、ですか……」  彼の答えを聞き、ファイヤーは彼に背を向けて歩き始める。  彼の家ではなく、灯火山の方角へと。 「……帰るのか」 「はい。少々、急用を思い出しました」 「そうか……また、いつでも来い。孫達も喜ぶ」 「……ええ。それでは」  背を見せたまま別れを告げ、ファイヤーは空へと羽ばたいた。  頬を撫でる風の感覚に、彼女は瞼を閉じる。  夕暮れの空に、きらりと輝く雫が幾つか、舞っていた。  その数年後。  彼は、眠るように息を引き取った。  …………  ………  ……  …  フォトスタンドを撫でながら、ファイヤーはその隣に置いてあったICプレーヤーを手に取った。  それには、彼がファイヤーに向けて遺した声が……『遺言』が入っている。  ファイヤーは手馴れた様子でイヤホンを身につけ、プレーヤーのスイッチを入れた。 『ファイヤー、このメッセージは、俺が逝った後お前に渡すようにアトリに頼んである。    いわゆる遺言何だが…俺が思うに、この後俺が話すことはお前に辛い思いをさせることだ。  もし少しでも聞きたくないと思うのなら、それでいい。このまま停止して、ファイルを消してくれ。    …聞いてくれるんだな、ありがとう。  正直、おまえの提案に乗ろうかと思った事は何度かあった。何だかんだいって、もう昔からの付き合いはお前とミツキ、  あとキュウコンだけになっちまったし、みんなまだ結構生きていけるからな。俺だけ逝ってしまうってのも、寂しくはあったんだ。    …だけど、俺はやっぱり…最後まで人間として生きて、そうやって死んで行こうと思う。  それが、アトリやアダマス、レオ…碧(みどり)の親として、そして…先に行ったあいつらのトレーナーとしての最後の仕事なんだ。  折角だからいろいろ言いたいことはある気もするけど…いい始めたら止まらないからやめとく。    …そして、このメッセージを聞いたお前に頼みがある。  時々でいいから、あの家に顔を出してやってくれ。あの家を建てた俺達はもういないだろうけれど、  あそこは…俺の家族の居場所で、帰る場所なんだ。…できるなら、たまにはあいつらの様子を見てやってほしい。  それと、もう一つ。俺のことなんだが……………  …あー、駄目だな。「俺の事を忘れないでくれ」なんてのは変な頼みだし…何より幾らなんでも我儘過ぎるか。  うん、こっちは好きにしてくれ。遺品も欲しければもって行ってもいいからな。…大したものはないけど。  とりあえず…この頼みはあくまで俺が勝手に頼んだだけのことだ。  もしお前がしたくないって言うなら、それはそれでいい。  …じゃあな。最後まで聞いてくれてありがとう。…お前と一緒にいるの、楽しかったよ』  初めてこれを聞いたとき、彼女は涙が止まらなかった。  今になっても、心の奥底に眠らせた想いがほんの少しだけ切なくなる。 「……ご安心を、御主人様。私は……そう簡単に、貴方のことを忘れてなどさしあげませんわ」  そう呟き、彼女は再び窓の方へと行く。  白金山の家には、今でも年に何度か顔を出していた。  あの頃子供だった彼の孫達も、今では皆老いてしまっている。  きっと彼らも、近い将来……彼と同じ場所へ逝くのだろう。  しかし、その子供が、孫が。  世代を重ね、新しい出会いを彼女に与えていた。 「ふぅ……思い出に浸るのも、今日はこのくらいにしておきましょう」  そう言って、彼女は日課である灯火山の見回りに出かける準備をする。  と、その時だった。  『コンコン』と、小屋の扉がノックされる音。 「……? はい、少々お待ちくださいな」  わざわざファイヤーのことを訪ねてくる知り合いはそう多くない。  その知り合いも、大概は先に連絡を入れてくる。  不審に思ったファイヤーは、警戒しつつも扉を開けた。  そこに居たのは…… 「……っ!?」  少々古いデザインながら、恐らくは最新型の多機能ゴーグルを頭にかけた、目つきの悪い少年。  その記号にかつての主を想起するも、よく見ると全くの別人であった。  一瞬固まったファイヤーの様子に首をかしげながら、彼はファイヤーに用件を伝える。  ……『灯火山の主であるファイヤーに、腕試しを挑みたい』と。  だがどこに居るのかわからないので、どうすれば会えるのか知らないか、と彼はファイヤーに問いかけていた。 「……くすっ」  思わず彼女は、笑いをこぼしてしまう。  そして。 「まずは……灯火山へようこそ、人間とその仲間たち。ファイヤーは……この私。伝説と呼ばれる炎の守護者たる萌えもんの一つ」  そう言った彼女に、面食らう少年。  何となく既視感を覚え、彼女は久しく出会う知らないトレーナーに、密かに心を躍らせた。 「…ふふ、この私に向かってくる、その意気やよし」  そう。あの時、彼と彼女が初めて出会った時もこのような感じであった。 「いいでしょう、挑戦は受けます。そして私に牙をむけたこと、後悔させてさしあげますわ!」  強く、凛々しく、美しく。  ファイヤーは、空を舞う。  そんな彼女をフォトスタンドから見つめる彼の遺影は……普段よりも優しげな表情に見えた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ・後書き  ども、毎度お馴染み曹長です。  ……テスト前効果ってレベルじゃ(ry  いったい何があったのか、それは私にもわからない。  ……いや、マジで。  さてと、それはさておき。  今回はどこぞのファイヤーさんのお話です。  ……うん、ぶっちゃけるとストーム7氏のとこの子ですね(ぁ  しかもとんでもなく未来っていう。関係者殆ど死んでるじゃないの。  ところで、中盤でジジイ相手に乙女チック止まらないファイヤーさんとかどうなんだろと思いつつも筆は止まらなかったとかどうなんでしょうかw  正直こんな設定で書いちゃっていいのかgkbrモノでしたが、ストーム7氏からの加筆まで頂いてしまい至極恐縮です。  ……あれ、最近割とよく書いてるけど何気に本編進んでなくね?(爆  今度こそ……今度こそはっ……!  それではまた、次回の後書きでお会いしましょう。

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