5スレ>>776

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【デートシリーズその4 -キュウコン編-】 本日は恒例のデート予定日。 陽気に行き交う人々。財布の心配をしながら練り歩く時間がやってくる。 そう、思ってたんですけどね…。 「なぁ、どっか行かないのか?」 「この暑い中、無理して出かけることもなかろうて。主(あるじ)も辛かろう?」 さっきからずっとこのやり取りが繰り返されている。 決して丈夫そうに見えない木製の椅子にふんぞり返り酒を呷る姿は、容姿さえ除けば、とても女性らしさを感じるものではなくて…。 「そもそも主が目算をつけとらん故に参られんからに、少しは考えたらどうじゃ?」 しかもプランは全て俺任せというこの体たらく。 「そうはいってもなぁ…。この時期だとどこ行ってもいっぱいだろうし」 当人はどこへ行きたいという希望も特に無いらしい。 そういえばこいつ、普段の休養日もギャロップと訓練してるか酒飲んで寝てるか、いつの間にか出かけていつの間にか帰ってきて寝てる。 趣味らしい趣味なんて特に聞いてない。 「主が愉楽の園まで連れてくれるというのなら、動いてやらんこともない」 その後が怖いんでいいです…。てか愉楽の園って何? 「とはいってもな。とりあえず外に出ないと俺の精神が磨り減って仕方ないんだが」 そう。ここはまだ萌えもんセンターの宿泊室。当然他のパーティーメンバーもこの場に居る。 皆で決めた事とはいえ、デート日に当たっていない娘達にすれば気分の良い日ではないだろう。 「嫌じゃ。どうしてもと言うなら、はよう思案せい。形に囚われては真理は見えんぞ?」 言ってる意味はよくわからんが、とにかく視線が痛いです…。 こんな経緯だったもんだから、どうにかして連れ出した今でも、キュウコンの機嫌は悪い。 「まったく…。折角の逢引じゃというのに、今日の今日まで何も考えておらなんだとは…」 機嫌の悪さは無理に連れ出したことよりも、デートの日をすっかり忘れていた俺への怒りという面が強い。 それ故に反論することも出来ない。 「して、我らはどこに歩いておるのじゃ?」 「ん、ああ。とりあえず飯でも行こうかと」 幸い昼食前である。どこかで食事でもしながら相談すれば、今後の予定も決められるだろう。 「昼餉か。酒の出せん店は御免被る」 わかっておりますとも。 「ふふ、やはりこれが至高よのぅ」 四の五の考えるのが嫌いなこいつのこと。どこが良いあそこが良いと悩むよりは、近場に手っ取り早く入る方が機嫌を損ねまい。 入店したのは凡庸な定食屋。しかし夜になると小さな飲み屋になるため、比較的豊富に酒が取り揃えてある。 「しかしよく飲むよなー。どこにそんなに入るんだ?」 そう尋ねると、キュウコンは身を突き出し、胸元を指差す。 「知れたこと。わらわの胸は酒で出来ておる」 こいつなりのジョークなんだろうが、一瞬マジで捉えてしまうのが困りどころ。 とりあえず公共の場でお胸自慢はやめなさい。 あと、どさくさ紛れに俺の唐揚げ定食の唐揚げ取らないで下さい。大きいけど4個しかないんで。 「ところでさ、たまに休みにふら~っと出かけるけどさ。いっつもどこ行ってるんだ?」 豊満な胸は名残惜しいが、今はデートの真っ最中。しかし相手はパーティで最も年上の''大人の女性''である。 紳士的なエスコートを実現するべく、さりげなく相手の趣向に探りを入れる。 「そうじゃのぅ。酒場に駆けることが多いかの」 それはわかってます。いつも帰った後に領収書見せて俺を泣かせてくれますもんね。 今聞きたいのはそういうのじゃない。 「でも常に居酒屋に行くわけじゃないんだろ? どうやって時間潰してるのかと思ってさ」 返ってきた答えは意外なものだった。 「そうじゃのー…。海に面しておれば界隈の磯で釣りでもしておる」 釣り…。そういやたまに凄い釣り竿が消えることがあるが、それはお前の仕業だったのか。てか萌えもん釣ってどうする。 「さすがのわらわもそれは海に帰すぞ? 食えんからな」 食えたらリリースしないんかい。 しかしこれは困った。デートの場を探る質問だったが、とてもデートらしくない返答を貰ってしまった。 「なんじゃおぬし。わらわの釣りの腕が見たいのか?」 そういうわけではないが、その後いくら聞いても的を射ない返事ばかりで埒が明かない。 仕方ない。デートと言って良いものかはわからないが、とりあえずこいつの趣向に付き合おう。 好都合なことに、今俺達が居る街はクチバだからな。 一度センターの部屋に戻り、釣り竿を2本取ってこようとするも、キュウコンが貸し釣り竿屋で借りた方が早いと言ってきた。 クチバでの釣りも何度か嗜んでいるらしく、店の場所も釣りポイントも把握している。 その後姿を見つめつつ歩くこと幾ばくか。街の中心よりかなり南に来た。どうやらここがポイントらしい。 遠目に豪華客船サント・アンヌ号の姿を見てとることが出来る。 「クチバ港からそんなに離れてないんだな。こんな所で釣れるのか?」 そう言うと、キュウコンは得意気に胸を張り、満面の笑顔できっぱりと''釣れぬ''とのたまった。 どうやって上陸させたのかわからない謎の軽トラに、南中を迎えた太陽光が明るく反射していた。 汽笛と共に去り行くサント・アンヌ号。垂れ幕のまた来年という文字が読めなくなり、やがて船自体も水平線の彼方へと消えていく。 あれからほぼ3時間。ひたすら釣り針を垂らし続けたが、俺の釣り竿には一向に何も食いつかない。 わずかに、キュウコンの釣り竿に一度コイキングがかかった程度だ。もちろん釣った後に逃がしたが。 「ふぁ…」 誘ったキュウコンからして、あくびをしている。 日は西へと傾き、朱色の空が蒼色を徐々に侵食してくる夏の夕方。 釣れないので会話も少なく、キュウコンの横に山のように積まれていたワンカップ酒も残り少なくなっていた。 空き缶で代用している簡易灰皿もいっぱいになっている。2人共喫煙者な分、そのスピードはかなりのものだ。 「ん゛ーっ」 大きく伸びをする。 グダグダになった感が否めないが、このままでいるよりはどこか居酒屋にでも誘ったほうが良いのかもしれない。 そう思い、口を開こうとした瞬間、俺の釣り竿が激しい上下動を始めた。 「主、釣れておるぞ」 「あ、ああ」 急いでリールを巻くが、これが予想以上に力強い反動を見せる。 力の限り引き続けること、体感時間にして1時間(実際は3分ほどだったようだが)。 耐え切れなくなったのは俺ではなく、俺と獲物を結びつけるはずの釣り糸だった。 「運が無いのぅ、おぬし。悪くない尺じゃったというのに」 うるせぇやい。 「じゃがこれで証明されたのぅ。主もわらわにはまだまだ及ばん」 「ちぇっ。そっちだってコイキングだけだったじゃないかー」 ほんの少し笑みがこぼれる。キュウコンもつられて上品な笑顔を見せる。 これなんだよな、こいつがたまに見せる浮世離れした笑みが、たまらなく綺麗なんだ。 だがそれに見惚れる間はない。中途半端な結果のせいで、かえって闘争心に火がついてしまった。 「そうじゃの…。あと1時間ほど付き合ってくれるか?」 俺が言わんとしたことが見透かされているように、キュウコンはタイムリミットを宣告した。 あと1時間で勝負を決めるってことか。いつから勝負になったのかわからないけど。 惨敗でした調子こいてすんませんでしたごめんなさい。 「これがわらわの実力じゃ。恐れ入ったか童(わっぱ)!」 「完敗だ…」 頭(こうべ)をたれる俺の姿にご満悦な様子だ。先ほどと違い、豪快にからからと笑っている。 なんせタイムリミット宣告からのキュウコンの動きは尋常ではなかった。 ルアーを巧みに操り、まるで本物の魚が泳いでいるかのように動かす。しかも深い位置で。 「あんな技を持っていたなんて…」 「わらわとて焔を背負う者。水は好かんが、敵を知るためには水をよく知る事も大切じゃ。釣りの研鑽はその一環じゃて」 俺といえば、次々に釣り上げた獲物が入っていくキュウコンのバケツを、ただただ見つめているしかなかったわけで。 決着は1時間も必要としていない。その半分で既に結果は見えていた。 「これでこの安酒も勝利の美酒に早代わりじゃな。愉快愉快」 キュウコンがひとしきり笑い終えたところで、今宵の釣りはお開きとなった。 どうにか機嫌を直してくれたようで幸いだが、果たしてこんな事で良かったのだろうか。 もっとデートらしい事が出来たように思えてならない。そんな事を考えながら、2人で帰り支度を始めた。 昼間寄った定食屋-この時間は居酒屋になっているが-で盃を交わす。 他愛も無い世間話で盛り上がったものの、どうにもデートという感じがしない。飲み友達と飲んでいるのと大差は無い。 それでもセンターに帰る頃には、時計の短針は既に12の位置にあり、皆は寝静まっている。 風呂を済ませ、早々に床に入ったものの、キュウコンにとって今日は楽しい日となったのか。そればかり考えて寝付けないでいた。 「主…」 不意に俺の部屋のドアがキィと開き、しのび声と共にキュウコンが入ってきた。 「よもやと思ぅたが、やはり起きておったか」 「どうした? 明日は早いぞ」 かく言う俺も、キュウコンと少し話したかった。今日満足できたのか。それが気になって仕方なかったからだ。 照れくささと、明日からパーティーのリーダーとしての顔に戻らなくてはならないことから、ついぶっきら棒に返事する。 「そう時間はとらせん。気にせんでくれ」 そう言いながらも、俺のベッドにその身体を埋めてくる。 「たまには良かろう? わらわとて人肌恋しくなる夜もある…」 夏場だからだろう。薄い白装束のまま、何も言わずに枕を共にされ、しかもはだけた服から肢体の一部が垣間見えてしまう。 その上、上半身をがっちりと抱きこまれ、身動きが取れない。 「寝るのは良いから、せめてもう少し離れてくれないか?」 「気になるか? 幼い頃はよく体を洗ってくれたろうに」 そういう問題じゃないと思うんですけど…。当たってる当たってる。 「わかっておる。これ以上は踏み込まん。皆との約束を年長者が破ったとあってはバツが悪いからの」 その辺りは律儀である。しかしそれなら何故体を解放してくれないのですか。 こんな風に迫られたらいつまで冷静さを保てるかわからない。 「それに…おぬしが今日一日悩みながら付き合ってくれたのもわかっておる」 この体勢でシリアスな話題を振られても対応出来ませんってば。 それにしても、やっぱり俺の胸中はお見通しだったようである。ならもう単刀直入に聞こう。 「なぁ、今日は楽しかったか? 満足出来たか?」 「当然じゃ。おぬしを一日独占出来たのじゃぞ? こんな喜びが他にあるか」 即答だった。しかしどうにも腑に落ちない。 「俺、デートらしいこと何も出来なかったと思う…。もっと色んなこと出来たんじゃないかって」 「何を言う。それでは楽しんだわらわが阿呆のようではないか」 それでも、折角の休日をグダグダに終わらせた(と思う)俺の罪悪感は強かった。 その事について何度も謝るうちに、キュウコンは凛々しい目で、俺の目をしかと見つめた。 「出かける前に言うたろうに…。形からでは真理は見えぬと」 吸い寄せられそうな赤い瞳。厳しい視線の中にも、気高さを失わない瞳。 目を逸らすことなど出来るはずがなかった。 「何をするか、どこへ参るか、そんな事は些末な事柄じゃろう? 問題は''何のためにするか''にあるとは思わんかえ?」 「何のためにするか…?」 デートを何のためにするか。そんな事は決まっている。相手と楽しい時間を過ごすためだ。 しかしその旨を伝えても、キュウコンから正解の烙印は押して貰えなかった。 「惜しいのぅ。次第点といったところかの」 そう述べるやいなや、俺の視界を暗黒が閉ざした。同時に、柔らかく雲のような感触が、俺の顔を包んだ。 どうやら、その長くしなやかな尻尾が顔を覆っているらしい。 夏場なので本来は暑くなるのだろうが、エアコンのおかげでそんな事を考えることもなく、心地良い感触に何も言えないでいた。 「落ち着くじゃろう? わらわもこれはお気に入りでの」 確かにこの感触は病みつきになりそうだ。しかし、一体何のつもりだ…? 「主は何かと気の利く男じゃが、線の細すぎるところがある。大きく構えることも必要じゃて」 落ち着いて頭を冷やせということか。図らずもこいつの異性感がわかったけど、俺は今の時点ではそうなれそうもない。 まだまだお子様なのかな、俺は。 「ん、んー…」 新しい朝。生憎の曇り空の中で目が覚める。既にキュウコンはいない。 2人で寝ているところを見られたら何を言われるかわからないので、こっそり抜け出してくれたのだろう。 「ふぁ~あ」 昨日の酒が残っているのか、少し気だるい。体に浸透した脱力感と、淡い二日酔いはしばらく続きそうだ。 大きなあくび1つとっても、万全な体調ではないことがわかる。 眠気覚ましの一服のために外へ。 既に起きて今日の行動計画を立ててくれていたオニドリルと朝の挨拶を交わし、重い足取りで喫煙室に向かう。 すると、金色の髪に艶やかなたたずまい、そして何よりも目を引く大きな9本の尻尾が視界に入った。 「ん、主か。おはよう」 「ああ、おはよう」 先客がいることはある程度予想通りだった。どうやらこいつも目覚めが悪かったようである。 軽い挨拶と共に煙草を揺すり出す。もう2本しか無いな。出かけに買っておくか。 「ほれ」 残り少ない煙草の1本を銜えようとしたとき、ほぼ同じ形状の白い物体が差し出された。 「わらわもあと2本しか持っておらん。くれてやるほうがキリが良い」 「サンキュ。後でお返しするよ」 2人で喫煙室にいる時は、特に珍しいことでもない貰い煙草。 わざわざ俺と銘柄を合わせてくれているのは、こいつの気取らないいじらしさかもしれない。 キュウコンの好みらしく、1本のライターの火で2人が同時に吸い点ける。 まるでカップルジュースのような構図だが、肩肘を張らずにいられる仲だ。気にしないさ。 しばらくボーッとくゆらせていると、徐々に思考もクリアになってくる。 「ふぅ。今日も暑くなりそうだぞ」 「うむ。我らよりもおぬしが先に音をあげそうじゃの」 微笑を浮かべながらの軽口。いつもの貰い煙草。 他愛もない話で緩慢に流れる朝のひと時。 こういうことなのかもな…。こいつが昨晩言いたかったのは。 「なんとなくわかった気がするよ。お前が伝えたかったこと」 「それは重畳」 喫煙室備え付けの椅子は古いのか、少し黄色のスポンジがはみ出している。しかも硬い。 背もたれは重量級の体重を支えきれそうになかったが、俺達は幸運にもセーフだったようだ。 「時に、主よ」 しばしの沈黙の中、柔らかな時間を堪能していると、出し抜けに声を掛けられた。 「昨日失念しておったことがあっての。今から成しても良いか? なに、手間は取らせん」 言うや否や、キュウコンの顔貌が眼前に迫る。 その紅唇が、煙草臭い俺の口元を捉えるのに、多くの時間は必要無く…。 実際の時間にして3秒ほどだったろうか。体感的にはもっと長かったような気もする。 しかしそれを確かめる術は無い。 「ふふ。逢引きの締めが済んどらんかったからの」 唐突な行動に呆気にとられている俺を尻目に、キュウコンは煙草を灰皿に押し付け、スッと立ち上がった。 「主も早ぅ来るんじゃぞ。そろそろ皆起き出す頃合じゃて。朝餉を取られるぞ」 そそくさと部屋に戻っていってしまった。 俺はと言えば、その後しばらく呆然としたまま、煙草の火がフィルターに達するのを眺めるしかなかった。 【あとがき】 (´・ω・`)お久しゅう。嫁ドリルです。ものすっっっごい久々のデートシリーズでした。 今回はキュウコン姉さん。レッド君を翻弄しつつ好意を隠さない豪放なお方という設定ですが、 果たして上手く表現できたかどうか。執筆そのものがかなり間隔開いてしまっていますので。 それでも、自分の思い描くキャラ展開が出来たと思います。近からず遠からずだったレッド君と キュウコンさんの関係が、新たに一歩前進したことをお伝え出来ていれば幸いです。 ちなみにレッド君とキュウコンさんが吸ってるのはマイルドセブン・オリジナル(10mm)です。 私も愛用しております。

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