5スレ>>793-2

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朝起きて、ベッドから抜け出し、水を入れた薬缶を火にかけ、 鞄の側面に入っていた多数の袋から一つを選択して流し台の横に置く。 お湯が沸くまでの間にカップ3つとティーポットを用意、袋の中に入っている茶葉を大盛り3杯投入。 そこに沸騰した薬缶の湯を入れ、5分蒸らす。 「………」 この5分間を何もせずにじっと、椅子に座って待つ。この時間が、お茶を淹れる中では一番楽しい。 ゆっくりと広がってくる香りに全身を浸らせるように。その姿はまるで、瞑想をしている昔の僧侶のようだった。 そうしてだいたい5分。時計をみずとも、10年以上も同じ事を続けてきたこの体は、この作業に関しては完璧なタイミングで行動を始める。 使い込まれた茶漉しで漉しながら、均等にカップに3等分。 ハーブ特有のクセのある、しかしスッキリとした匂いが部屋に広がり…そこで、バルトは目を覚ました。 「…ん…うん、なかなか」 寝ボケながらお茶をいれるのは、僕の日課というか、クセというか。 ずっとやってきたことだからこその技術で、自慢にならないが僕の特技の一つだと思う。 「ん…おはようオーナー、何この匂い?」 「お、おは、おはようございま…」 …まだ若干眠そうなエアームドと、タオルから着替えたはいいが顔が燃えそうなくらいに紅いアチャモ。 というか顔から火の粉が出てるんだけども。それはシャレにならないから。 「ローズマリーティーだよ。生の葉っぱじゃないほうね。  モーニングティーとしていれたんだけど…二人ともどうしたの、こっち見つめて」 「いや、なんというか…ホントに喫茶店開くんだなあって。そういう感じしなかったから」 「いい匂いです…なんていうか、しゃきっとしそうです!」 「とりあえずこれを飲んだら、外に出ようか」 今日の予定としては、午前中はニビを回って従業員探しと観光。 昼からは3番道路を経由してお月見山に向かい、そのふもとのセンターで一晩を過ごす。 あまり大きくも無く洞窟も長くないとはいえ、夜の山が危険である事には変わりない。 従業員探しの旅、2日目。さて、今日は何人集まるかな―――。 「…まぁ、仕方ないといえば仕方ないけど」 「ぜ、前途多難です…」 「まだ2日目だから焦ることないよ。すぐ集まってもそれはそれで何か駄目な気がするし」 ニビの化石博物館に併設されている食堂で昼食をとりながら、3人で肩を落とす。 収穫は0。まぁ、町にいる萌えもんは大抵誰かの手持ちだから仕方ないね。 観光は、とりあえず博物館を一通り見てきた。歴史を感じるものだけど…まぁ、あんまり興味は無い。 「…あ、でもこの水おいしいな。シロガネ山産っぽいけど」 「オーナー、これはお茶に使えますか?」 「うーん、まぁそれなりに美味しいとは思うけど…お茶よりそのまま水として飲むほうがいいんじゃないかな。  ただ…トキワなら輸送費の関係で安いから…料理とかにいいかな…その辺も考えないとね」 とりあえず、食事が終わったので席を立つ。 これ以上うろついても収穫は見込めない。それなら、さっさと次の町へ向かおう。 「ところでオーナー、次の町に行くのはいいんだけど…」 「どしたの、エアームド」 「3番道路のアレ、どうするの?」 「あー…」 「だから僕らはジムに挑戦するために来たんじゃなくて…」 「いいから来い!タケシさんが相手を探してるんだよ!」 「いや、だから僕らはジムに寄ってる余裕はないし、そもそもバトルなんてした事無いから…」 3番道路前に立っているジムトレーナー。 ただ通りたいだけなんだけれど、ジム戦をやらないと通してくれないという。 …正直、今の僕らがジムで勝てるとは思えないし、そもそも無理に戦う理由も無い。 「よし…なら、俺と勝負しろ!勝ったらここを通してやる!」 「ええーっ!?」 無茶な話だ。彼に勝てなければジムリーダーにだって勝てるはずが無い。 ひょっとして、この後ずっとこんな風にバトルを挑まれ続けるのだろうか? 『…いいよオーナー、やろう。タケシと戦うよりはよっぽどマシだ』 「で、でも僕、バトルの指示なんてやったことないんだけど」 『今更だけど、それでよくトレーナーになろうと思えたね…』 「よし、始めるぞ…行け、イワーク!」 「おうよ!」 (あああ、もう始まってるし…どうしたら…) 破れかぶれでモンスターボールに手を伸ばそうとしたとき。 「…あれ」 かばんの中で、ポケギアが鳴り響いた。 こんな時だけれど、とりあえず相手に手で合図をしてからギアを取る。 「も、もしもし?今忙しいんだけど…」 『そうか。じゃあ又後でかけ直すけど、いいか?』 「あ!ごめん、ちょっと待ってクリム!今、ちょっと助けて欲しいんだ」 電話の相手はクリム。…切ろうかと思ったけど、考えてみればこれほど頼もしい助っ人はいない。 「今ニビシティから進みたいんだけど、バトルしないと通してくれないって人がいて…  悪いけど、僕の変わりに萌えもんに指示を出して欲しいんだ」 『…?よく分からんが、とりあえずソレは無理だ』 「な、なんで!?」 電話の向こうで咳払いの声がする。 『お前も分かってるだろうが、旅をする以上は萌えもんバトルは避けられない。  最初はできなくても、とにかくトレーナーのお前が指示を出すんだ』 「む、無理だよ…今までだってアチャモとエアームドが自分で動いてくれただけだし…」 『無理でもやれ。お前が戦うのが苦手だって事は、俺だって分かってる。  だが、戦う事でしか掴み取れないものも、確かにあるんだ』 …確かに、ここで戦って勝たなければ、この先へは進む事ができない。 こんなところで一生を賭けている僕の夢を、へし折るわけには絶対に行かない! 「分かった…やるよ」 『ギアはそのまま通話状態にして腕に固定しろ、一応アドバイスぐらいはしてやる。バトルの形式は?』 「えっと…1対1、入れ替え式、相手はこっちに萌えもんを見せてる」 『OKだ。こっちも1体萌えもんを選んで出す。野良バトルならルール無用という事もあるが…  相手が既に手持ちを出している以上、とりあえずはこっちも正々堂々だ』 腰のモンスターボールは二つ。選ぶのは―― 「頼むよ、アチャモ!」 「はいですっ!」 相手が何か言っているようだが、僕の意識は既にポケギアと、目の前のアチャモの背中に集中していた。 今まで虫萌えもん相手に活躍してくれたアチャモなら、きっとどうにかなる。 『いいか、とにかくバトルで重要なのは勝つことだ。程度はあるが、多少汚い事をしても勝てばいい。  楽しむためのバトルなんて事も言われてるが、目的が勝つ事というのは一緒なんだ』 「そ、そうなの?」 『例外はあるけどな。…とにかく、まず最初に考える事は唯一つ』 ―――『どうやって勝つか』だ。 「いいか、このコインが地面に落ちたら開始だからな!」 「わ、分かった…!」 陽光を反射して輝くコインが舞い上がり……落ちた。 『先手を取って技を指示しろ!』 「うん!…アチャモ、《ひっかく》!」 「たーっ!」 小さな体で飛び上がり、イワークの体めがけて繰り出される一撃。 しかしその爪撃は、イワークの肌に小さな傷をつけただけに終わった。 「き、効いてないよ!」 『まぁ岩タイプにノーマル技だからな…他には何が使える?』 「《ひのこ》くらいしか分からな―――」 「イワーク、《いわなだれ》!」 『まずい、指示しろ!』 見れば、イワークが周りの岩石を跳ね上げ、アチャモへと放とうとしている。 「避けて、アチャモ!」 『馬鹿、ただ避けろって指示しても―――』 「え、えっと…ど、どっちに…!?」 方向が分からず混乱するアチャモに、容赦など欠片も存在しない岩塊が降り注ぐ! 「―――!!」 声にならない悲鳴をあげ、吹き飛ばされるアチャモ。 その姿が、やけにゆっくりと動いているように見えて。 『早く戻せ!このままじゃ持たない!』 「も、戻れアチャモ!」 クリムの声でわれに返り、ボールにアチャモを戻す。 …キレイな紅い羽は土煙に汚れ、ところどころ血が滲んでいる。…僕のミスのせいで。 「…ごめんね、アチャモ」 『凹んでる暇はないぞ、次の萌えもんを出す。…やれるか』 「…うん、やれる…エアームド、お願い!」 「了解、っと。オーナー、攻撃の方法はこっちで選ぶから、作戦の指示をお願い」 「分かった!」 『落ち着けよ、バルト。今のバトルで得た情報を無駄にするな。  相手の攻撃手段、パターン、能力。全部頭に入れて活かせ』 「む、無茶言わないでよ!」 『無茶でもやれ!全部できなくたっていい、それでもやるんだ!  最初からそこまで出来るなんて思っちゃいない、とにかく全力で相手の動きを見ろ、読め!』 エアームドは適度に距離をとり、連続で放たれる岩落としを的確に交わしている。 彼が作ってくれている時間の中で、どれだけ相手の動きを見切れるかどうかが勝負だ。 『よく見ろ。相手のクセや技を見極めるんだ』 「相手の…技」 相手の動きを見て…気づいた。 イワークはエアームドに対して、「いわおとし」以外の攻撃技を仕掛けてこない。 恐らく相手のレベルもそれほど高くないのだろう。空中の相手に届く技が、「いわおとし」以外に存在しないのだ。 『見えたか?ならそれを戦いに活かす方法を考えるんだ』 「活かす…」 (いわおとしは…発射から着弾までのタイムラグがあって…そのラグは相手が遠ければ遠いほど長い。  …そして、岩のチャージには少しだけど時間がかかる…なら…出来るか!?) 可能性がある。自分でも実行できそうな、カンタンな作戦だ。 そのために必要な技を、エアームドに指示する。 「エアームド、『高速移動』!」 「了解、オーナー!」 先ほどまで小刻みに左右へと飛び回っていたエアームドが、即座に行動をかえる。 一直線に真横へと飛行し、さらに上昇。どんどん「すばやさ」を上昇させていく。 「もっと速く…もっと高く!」 すばやさを最大限まで引き上げ、次にすべき事、それは―― 「次は…『はがねのつばさ』!!」 「…OK、やるよ」 「打ち落とせ、イワーク!」 「あいさー!」 エアームドの翼が刃のごとく鈍い輝きを放ち、急降下爆撃を仕掛ける。 連続で放たれる岩の弾丸は当たらない。上空の敵に向かって放たれる岩は減速しながら放物線を描く。 遅くなっていく岩など、スピードをあげたエアームドにとっては停止しているも同然! ―― もっと速く。 ―― もっと重く。 ―― もっと強く! 「「いっけええええええぇっ!!」」 気づけば、僕とエアームドは同時に叫んでいた。 鋼鉄の翼がイワークの防御をかいくぐり…落下速度と鋼の重さを加えた一撃が、その意識を叩きつぶした。 「や、やった…」 「お疲れ、オーナー」 『まぁ、初戦としては十二分だな』 「あ、ありがとう…エアームドと…クリムのおかげだよ」 「くそっ…今度来た時はちゃんとタケシさんと戦えよ!」 (…当分ニビシティには来れないな…) 渋々ながら道を譲ったトレーナーの横を通り、3番道路へ出る。 手近な木陰に入って、アチャモをきずぐすりを使って治療する。塗り薬は比較的即効性が高く、 萌えもんの強力な自己治癒力と相まって高い効果を持つ。 アチャモが受けた岩落としの外傷は、広いが浅い。これなら、治るのにも時間はかからないだろう。 『あうぅ…オーナー、ごめんなさいですー』 「いいんだ、勝てたからね。…また次も一緒に頑張ろう」 『は、はぃ、です…』 どうやらちょっと落ち込み気味のようで、小柄な体を縮こまらせている。 …赤くてふわふわの頭をぽんぽん、と撫でてからボールに戻して、エアームドのボール共々ベルトへ着ける。 立ち上がって…目指すは、東にそびえるオツキミ山。 「ま、色々あったけど…気をとり直して、オツキミ山へ行こう!」 そして、僕らは新たな冒険への道を一歩――― 「なんだ、君トレーナー?じゃあバトルしようか!」 「見た感じ初心者みたいだね、ぼくでも勝てそうだ!」 「あたしのかわいいパートナーを見せてあげる!」 「山登りで疲れた…休憩ついでにちょっとバトル…」 「おい、デュエルしろよ」 「今あたしの方見たでしょ!見たわね!勝負よ!」 「さっき捕まえたこいつの実力を試してみようかな」 「塾で習った萌えもんバトル、復習ついでに実践だ!」 「…ねえオーナー」 「何かな、エアームド」 「今ちょっとさ、旅に出た事後悔したでしょ」 「ちょっとだけ」 ―― 道のりは、長そうである。

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