5スレ>>812-3

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Colors 【vol.3】  僕は今、カンナさんとシバさんに連れられて、萌えもんの銅像が両脇に並ぶ廊下を歩いている。  これまで三つの部屋を通ってきたことから考えて、次の部屋に僕が受ける試練が待っているんだろう。丁度四天王のうち、まだ会ったことがない人がいたし。 「この扉の向こうに、君が受ける試練が待っている」  先導していたシバさんが振り返り、僕の予想通りな台詞をはいた。 「さっきも言ったけど、あまり気を張らずに気楽に受けたらいいわ」  同じくカンナさんも振り返って言う。二人は扉の前をさけるように立ち、僕に道を譲っている。中にまでついてくる気はないらしい。  扉の前に立つと、えらくゆっくりと扉がスライドし、僕に道をあける。中は真っ暗で、行く手に何が待ち受けているかここからでは分からない。 「では、武運を祈る」 「頑張ってね」 「お二人とも、ここまでありがとうございました。行ってきます」  二人の声援を背に、部屋の中に入る。すると扉がまたゆっくりと閉まり、僕の視界は暗闇に閉ざされた。  そのまま動いて転ぶのもアレなので、ポケットからライターを取り出して灯りにする。僕が手にする百円ライターは弱々しく周囲を照らすのみで、ほとんど手探りとかわらない。  それでもなんとか辿り着いたのは、これまで通ってきた部屋にもあった萌えもんバトルフィールドのトレーナー席だった。  それが合図だったのかは知らないが、目も眩むようなスポットライトが僕の二十メートルほど先を照らし出す。  この暗闇の世界で白色にくり抜かれた円形の中には、一人の人物がいた。  この科学技術万能の時代に、時代錯誤もはなはだしいマントをその身に纏っている。後姿のため正確には分からないが、上背から判断しておそらく男。  男はばさりとマントを翻し、こちらを向いた。 「待っていたよ! 君がジャンだな」  赤茶色の髪を逆立たせ、自信に満ちた目でこちらを見つめる男。  代理で四天王をするにあたり、事前に集めた資料とも顔が一致する。間違いなくこの人は――。 「初めまして、ワタルさん。ご存知の通り、僕がジャンです」 「敬語はいい。僕も君と同じ25歳だ」 「でも、あなたは四天王の大将でしょう?」  集めた資料で年齢は確認していたが、この人は大将だ。チャンピオンに挑むための最後の難関、それに敬意を払っておかないとはと思うんだけど。  ちなみにカンナさんとシバさんは僕の二つ上。 「それは便宜上のものさ。四天王の間に実力差はほとんどないと俺は考えている。カンナに対しては俺も相性は最悪でね。模擬戦では負け越している」  勿論負けっぱなしではないが、と後に続けるワタルさん。そんなことは彼の目を見ればすぐ分かる。  やられっぱなしで黙っているようなタマではないだろう。 「そのカンナさんとシバさんに聞きました。ここで僕は試練を受けなければならないと」  僕の敬語に少し反応したワタルさんだが、おいおい慣れていくだろうと肩をすくめる。  ……性分なんだから仕方ない。初対面の人には敬語っていうのが染み付いてしまっているんだから。 「そう! 君は試練を受ける。四天王大将、このドラゴン使いのワタルとバトルをするという、ね」  気を取り直したワタルさんの言葉とともに、部屋に眩いばかりの照明がともる。  僕とワタルさんの間にあるフィールドには、二人の萌えもんの姿があった。片や、古代の天空の王者プテラ。片や、海の化身とも呼ばれるカイリュー。  どちらも主人に似た好戦的な瞳で、こちらを見ている。……どうでもいいけど、演出過多じゃないだろうか。 「来週からリーグも再開されることだし、大事があるといけない。アイテム無しの二人限定シングルバトルで勝負だ」 「……僕には、ここでバトルをする意味が見出せません」  苦し紛れに出した僕の言葉を、ワタルさんは鼻で笑う。 「意味なんてものはない。これは俺の我侭さ。……さっきも言ったろう? 四天王に実力差はないと。  四天王はともに切磋琢磨するライバルだと俺は考えている。君がそれに足るか、俺が見極めたいのさ」  ともすれば傲岸不遜ともとれるワタルさんの答えは、不思議とこの人には似合っていた。  トレーナーとしての才覚だけでなく、四天王大将たり得るカリスマも持ち合わせているんだろう。 「それとも挑まれた勝負から逃げ出すような臆病者なのかい、君は。それともキクコさんの後ろ盾がないと何も出来ないのかな?  なら心配しなくてもいい。尻尾巻いて帰るのを止めはしないよ」  僕の闘争心に火を点けるように、ワタルさんが発破をかける。  本気で暴言をはいていないことくらい、目を見れば分かる……が。ここにそれを理解してないのが一人いた。 『ジャン! ボールを開けなさい、今すぐに!!』  僕の脳内に直接響いたのはエーフィのもので、素直に従って彼女を解放する。  フィールドに降り立った彼女は、ずびし、と指をワタルさんに向け、高らかに啖呵をきる。 「トレーナーと言えば親も同然。それを侮辱されて黙っていられるほど、私は腑抜けたつもりはありませんわ!  その勝負、浮けて立ちましょう」  とまぁ、結局こうなるわけで。まぁ、勝負は受けるつもりだったんだからいいんだけど。  四天王大将に煽られて、黙っていられるほどトレーナー辞めてないし。 「エーフィに台詞をとられてしまいましたが、この勝負受けさせてもらいます」 「いいね、そうこなくちゃ。さっきの言葉は取り消すよ」  予想通りの展開になったとほくそ笑んでいるワタルさん。は置いておいて。  二人限定のシングルバトルとのことだから、残りの一人を決めないと。  定石どおりにいくなら、相手の萌えもん二人ともに有効な技をもつシャワーズだけど――。 「それはどうも、紳士的じゃないよなぁ……」  こちとら紳士淑女の国で十年間過ごした身。先にバトルに出す二人を晒しているワタルさんに、有効なタイプをぶつけるのはどうも気が引ける。  言うなれば後出しじゃんけんのようなもので、卑怯だという考えがまとわりつく。  あれがこちらの性分も理解した上での行動だとしたら、ワタルさんは中々に策略家だと言えよう。  では、誰を出すか。ブースターは相性が悪いし、サンダースでは防御面で不安が残る。とすれば残りは。 「キツい戦いになると思うがやってくれるか、ブラッキー」  言って、彼女のボールを解放する。数時間ぶりに見た彼女は、軽く伸びをしながらこちらに振り向いた。  ショートカットの黒髪が揺れる。 「あとで煙草と珈琲を用意してください。それで手を打ちましょう」 「了解、とびっきりのを出すよ」  僕の答えに満足したのか、ブラッキーは軽く頷いてフィールドに降りる。  それを見計らって、ワタルさんが声をかけてきた。 「意外だな。俺はてっきりシャワーズを出してくると思っていたが」 「白々しいですね。僕の性格はご存知なんでしょう?」 「……お見通しか。慣れないことはするもんじゃないな」  言いながら肩をすくめるワタルさん。肩をすくめたいのはこっちだ。なんでリーグ本部に着いた途端、バトルをしなくちゃいけないのか。  その理由は理解しているが、納得しているとは言いがたいのが本音だ。昔から厄介事には巻き込まれるほうだが、今回もそれが発動したとでも言うのだろうか。 「まぁいい。互いのフィールドに萌えもんが揃い、あとはトレーナーの指示を待つばかりとなった。  今さらやめるなんて言わないだろう、ジャン?」  僕がまだ根っこの部分で迷っているのを見抜いて、最後の退路を断つワタルさん。本当にこの人は、バトルがしたくてたまらないらしい。  ワタルさんに漲る闘志をみて、なんだか細かいことに拘っているのが馬鹿らしくなった。 「あぁ勿論だよ、ワタル。僕のために怒ってくれた娘の想いは、無駄には出来ないしね」    ワタルさん――いやワタルは、僕のいきなりのタメ口に驚いていた。  しかし僕の闘志に気付いて、次第にその表情を笑みに変える。 「心地いい闘志だ。……では、始めよう」  ワタルの宣言とともに、バトルは開始された。 「いけ、プテラ!」 「頼んだよ、エーフィ!」  フィールドに張り詰める緊張感。相手は素早さと攻撃力に長けた萌えもんだ。  こちらも同様だが、相手のほうが素早さが高い。先制はプテラ。  相手のプテラは太古の岩石を喚び出し、エーフィにぶつける。“原始の力”だ。  古代に生きた萌えもんが使う技で、追加効果で自分の全ステータスを上昇させることが出来る。  プテラでこちらの二人ともを倒すつもりなのか、この戦いを有利に進めたいだけなのか。ワタルは自分の萌えもんの強化を狙っている。 「きゃう!」  まともに“原始の力”を食らったエーフィが、悲鳴をあげて倒れこむ。しかしすぐ立ち上がり、キッと相手を見据えた。  目算だけど、あと二発は耐えられそうだ。 「どうだい、古の岩の味は?」  自信たっぷりにプテラがエーフィに問いかける。それに睨むような視線そのままで、エーフィが答えを返す。 「全然大したことありませんね、お返しです!」  エーフィの透明な力が、プテラを襲う。本来不可視な筈のそれは、空間を陽炎のように歪めるが故に視認できる。  エーフィの強力な特殊攻撃力の後押しを受けた“サイコキネシス”は、相手のプテラを盛大に吹き飛ばした。  こちらも目算だが、あと一発入れば倒すことは可能なようだ。 「なかなかやるじゃないか、ジャン。今のは効いたよ」 「賛辞はエーフィに。彼女は僕の手持ちで一番の戦闘力を持ってるからね」 『エーフィ、“朝の陽射し”で回復だ』  ワタルに答えながら、僕は心の中でエーフィに指示を出した。 『え? しかしこのまま“サイコキネシス”で倒すことは可能ではなくて?』 『いや、なにか大技がきそうな予感がするんだ。回復を頼む』  そんな僕たちの作戦会議を知ってか知らずかワタルはプテラに指示を出す。予想に反して攻撃はまたも“原始の力”。  しかも運の悪いことに、追加効果が発動した。プテラの体を淡い光が包み込み、彼女の能力が上がったことが見て取れる。  大技ではなかったが、僕の予感は嫌な予感ではあったみたいだ。  プテラのステータスアップを忌々しげに見やって、エーフィは精神統一をするように瞼を閉じる。すると建物の天井を透過して、陽射しがエーフィに降り注いだ。  その姿は太陽萌えもんの名に相応しく、これがバトルでなければ天の使いか何かと錯覚するような光景だった。  幸運の女神はワタルに味方したようだが、時間は僕に味方した。今は丁度朝から昼にかけて時間帯で、“朝の陽射し”はその名の通り、朝には体力の回復量が増す。  “原始の力”を二発くらったその体は、ノーダメージに近いところまで回復していた。 「運が悪かったね、ジャン。今“サイコキネシス”を放っていたらプテラは敗れていた」 「どうせ僕が慎重なんだって知っていたんだろう?」 「これは手厳しいな」  軽口の応酬の合間に、僕は考える。確かに今ワタルの指示を読み違えたのは痛い。  次のカイリュー戦で一撃で倒されるだろうが、それでも素早さはエーフィのほうが高い。一矢報いることは出来たはずで、それは後続のブラッキーへの大きな支援となっただろう。  だけど、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。僕はエーフィへ次なる指示を出す。 『エーフィ、今度こそ“サイコキネシス”だ。トドメを刺そう』 「プテラ、トドメだ。“破壊光線”!」  エーフィへの指示と、ワタルの指示は同時。しかし、プテラのほうが先に動きを開始する。  プテラは上空へと舞い上がり、凶悪な力を高めていく。そのエネルギーは行き場を求め、彼女から破壊の渦となって放出された。  光線はエーフィの体をあますことなく包み込み、フィールドに直撃して濛々と土煙を上げる。  一瞬やられたかと思ったが、そこは僕の相棒。  土煙が晴れたそこには、片膝をつきながらも意識を保っているエーフィの姿があった。 「今のはかなり堪えました……。ですが、これで終わりです!」  数値に直すなら一桁台の体力で、“サイコキネシス”を放つエーフィ。  それはプテラを包む太古の加護をものともせず、彼女の意識を刈り取った。

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