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「5スレ>>832」(2010/02/02 (火) 00:00:40) の最新版変更点
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セキエイ高原。
カントーとジョウトの間に位置する、二つの地方のジムを統括する萌えもんリーグ本部が存在する地。
そこでは今、今年度の萌えもんリーグ本戦が開催されている。
そしてアキラ達はその様子を、トキワシティの萌えもんセンターからテレビで観戦していた。
『タビノオワリ(前編)』
『皆様、健闘した二人のトレーナーに、大きな拍手を!』
「あー、アカリちゃん負けちゃった……」
「仕方ありませんよ、彼女は元々燈台守の萌えもんなんですし。クリムさんのところの方々とは実戦経験が違います」
「それにしてもクリムの奴、ヤマブキの時から比べて明らかに腕を上げたな」
「ん……今ボク達が戦ったら負けるかも」
四者四様の感想を抱きつつ、惰性で次の試合も観戦する四人。
ここはセンター付属の病棟の一室。
重傷を負ったまま旅をするのも危険なため、アキラは最低限回復の目処が立っている三人が完治するまで、トキワに留まる事を決めていた。
なお、ゲンは既に回復して今は買い物……主にホウのおやつ……に出かけている。
リースは個人的な買出し、スイクンは気晴らしにカントーを回ってくると言い残して失踪。
そして……
コンコン
「失礼します」
「あ、ユキメさん。すみません、お仕事も忙しいでしょうに」
シオンタウン警察に所属するユキメノコ族のユキメ。
彼女はアキラの連絡を受け、助っ人としてはるばるトキワまでやってきたのだった。
「いいえ、構いませんわ。それよりも……お三方のお怪我の具合は如何ですか?」
「幸い、後遺症が残るような怪我じゃありませんよ。ただ……」
「何か、あったのですか?」
「ええ……ちょっと、別の子が」
そこで言葉を切るアキラ。
ユキメはそれで何となく事情を察したようで、それ以上は何も聞かなかった。
と、そこで再び扉が開く。
「しっ、しつれいしますっ!」
「ん、君は……?」
そこに立っていたのは、クリーム色のTシャツにモスグリーンのサファリパンツをあわせ、大き目のグリーンのベレー帽を被った小柄な少女……否、少年だった。
「え、ええと……先日、タマムシ大学病院を退院して、ここに向かうように言われたんですけど」
「……ああ!じゃあ、君がリースに保護されたキノガッサの」
「はい!助けていただいてありがとうございました!」
「いいって、気にするな」
元気良く挨拶するキノガッサの少年。
心の中で「俺が助けた訳じゃないんだけどなー……」と思いつつ、アキラは少々複雑そうな顔で頭をなでる。
「あ、そういや名前まだつけてなかったな」
「そういえばそうですね。顔を合わせるのは初めてなので当たり前かもですが」
「んー……じゃあ、ノッサ。お前の名前は、ノッサだ」
「はい!ありがとうございます、マスター!」
本当に嬉しそうに、少年……ノッサはにこにこ顔で礼を言う。
……と、そこで後ろで様子を伺っていた女性陣が身を乗り出してきた。
「あ、この子がリースさんが気に入って攫ってきちゃった子なんだ」
「確かに、女の子みたいな可愛らしさですね……」
「……おいしそう」
「ホウちゃん?」
「冗談……」
「え、え、え、えーと……」
女三人寄れば何とやら。
ノッサに興味津々の彼女らに囲まれ、彼は軽く縮こまっていた。
それがまた興味をそそり……以下略。
結局このループは、目を回しだしたノッサを見かねたアキラが止めるまで終わることは無かったのだった。
それから数日の間、リーグは何事も無く試合を消化していき、ついに激戦を勝ち抜いた四人のトレーナーが、四天王に挑戦する日がやってきた。
そして始まる第一試合、カンナVSクリム。
その最中、事件は起きた。
突如爆発するフィールド。
それによる土煙が収まった後に映し出される二つの影と、上がる雄叫び。
『―――――――ッ!!!』
何事かとロビーのテレビに群がる他のセンター利用客。
次の瞬間、カメラが破壊されたのか砂嵐になる画面。
そんな中、アキラは息を呑んで固まっていた。
「まさか……あいつは」
「ご主人様、あれはこの前の……!」
「あ、あ、ああっ……」
「……怖ろしい」
「クソッ……思い出すだけで手が震えてきやがる!」
「み、皆様……アキラ様、一体何があったのですか?」
先日の悪夢を知らないユキメは、疑問を投げかける。
その問いに、アキラは。
「奴は……奴は、悪魔だ……!」
そう、搾り出すようにして答えるのがやっとだった。
十数分後。
未だにざわつきの収まらないセンターの自室で、アキラは一人テレビのチャンネルを回していた。
どのチャンネルでも、セキエイで起きたテロ(?)の件で持ちきりである。
しかしそのどれもが、事件が起きたということのみで続報が入ってこない。
そのまま時間だけが過ぎていき、諦めてテレビの電源を落とした時だった。
外から、人の悲鳴が聞こえてきたのは。
「きゃあーっ!!!」
「うわあー!!!」
「た、助けてくれえええええ!」
「な、何だ!?」
「アキラ様!」
「ユキメさん?一体何が」
「それが……兎に角外へ。百聞は一見にしかずと言います。ご覧になってください」
「わ、わかりました」
そしてそのまま、センターの正面玄関から外へ出ると。
「なっ……」
そこは、地獄だった。
空はスピアーの群れが飛び交い、陸はピカチュウやコラッタ、ニドランが血走った目で人間に襲い掛かっている。
臆病なポッポや無力なキャタピー達でさえ、視界に入った人間に攻撃を加えていた。
「つい先ほどから、野生の萌えもん達が手当たり次第に人間を襲い始めたのです」
「くそっ、何がどうなってるんだ」
「今、ゲン様とリース様に手伝って頂きながら近隣の避難施設へ住民を誘導しておりますわ」
「ユキメさんは? こんなところで俺とのんびり話してる場合じゃ……」
「アキラ様には、私とノッサ様と一緒に逃げ遅れた住民の救助をお願い致します。よろしいでしょうか?」
「……ああ、任せろ! 行くぞ!」
「ま、待ってマスター!」
アキラがいざ外へ向かおうとしたその時。
それぞれの部屋からデル・メリィ・ホウの三人が飛び出してきた。
「マスター、私達も戦うよ!」
「ユキメさんとノッサさんだけでは危険です、私達も!」
「お前ら……ダメだ、連れてはいけない」
「どうして? 戦力は多いほうがいいよ!」
「バカ、よく考えろ! お前らその重傷でどうやって戦うつもりだ!」
「車椅子でも、炎は出せます!」
「私だって、手が使えなくても電気は出るもん!」
「ボクも……空は飛べないけど、壁を張るくらいなら」
そう言って食い下がる三人に、アキラはゆっくりと首を振った。
「……ダメだ、連れては行けない。今のお前達じゃ足手まといだ」
「そんな……マスター、酷いよ」
「じゃあ、それじゃ私達はここで指を咥えて見て居ろと仰るのですか!?」
「違う、よく聞け。どうしても戦うって言うなら……お前達はここ、萌えもんセンターの防衛を頼む。ここを抜かれたら後は無い……頼めるな?」
「……アキラ君」
「ご主人様……わかりました。仰せのままに!」
「うん、マスター……酷いって言って、ゴメンね」
「良いって、わかってくれれば……それじゃ皆、頼んだぞ!」
三人の頭をそれぞれ撫で、アキラは立ち上がってノッサを呼び出す。
「じゃ、行きましょう」
「ええ……!」
「ノッサも、いいな?」
「は、はい!」
こうして、三人は怒号飛び交う市街地へと走り出していったのだった。
その後、粗方救助を終えた三人は別に動いていたゲンやリースと合流。
町の入り口に防衛線を張るため、有志のトレーナー達……といっても、殆どが現地の少年少女である……と共に戦っていた。
「はっ、とぅっ、せいっ!」
ノッサは最前線で跳び回り、小柄な体に似合わぬパワーで敵を駆逐し。
「北風よ……舞う者全てを凍て付かせたまえ!」
ユキメは空に群れている敵を纏めて凍りつかせ。
「全くっ、おちおちカワイイ子探しもできやしませんわっ!」
リースはぶつくさ文句を言いながらも念力で味方のフォローをし。
「ここから先を通りたけりゃ、このオレを倒してから行きやがれえええええええっ!!!」
ゲンは鬼気迫る勢いで、向かってくる敵をなぎ倒していた。
そしてアキラは一騎当千の働きをする四人を好きに戦わせ、有志のトレーナー達を指揮していた。
「うわああああっ!」
「も、もう持たない!」
「くっ、無理するな! 戦える手持ちが一人になったら引け!」
「でも、引いたら街が……」
「そこの穴埋めはどうとでもなる! だけど、トレーナーがやられたら取り返しはつかないんだ!」
「うっ……わ、わかりました」
アキラの気迫に圧され、少年は気絶した手持ちを戻してセンターへと駆けていく。
それと入れ替わるように、センターから別の少年が出てきて参戦した。
「アキラさん、戻りました!」
「よし、それじゃさっきの彼が抜けた所に入ってくれ」
「はい。ところで、戦況はどんな感じなんです?」
「それがあんまり芳しくないんだ。この辺……西側では押してるけど、南と北が徐々に押されてる」
アキラの手持ちが暴れている西側の入り口では、もう街の外まで押し返す勢いで戦線が上がっていた。
しかし、北側はトキワジム付近、南側はセンターのほぼ目の前まで戦線が下がってきている。
しかも南側の戦線がそこで止まっているのは、怪我を負ったままのデル達の活躍による所が大きい。
普段はトレーナーハウスに居る腕自慢たちは、皆セキエイへ行ってしまっている。
残っていた子供達では、圧倒的に戦力が足りていなかった。
どうにかしなければ、とアキラが考えた時だった。
「マスター、一人抜けて……!」
「えっ?」
リースの声に振り向いた時、アキラの視界に写った物。
それは、巨大な針を構えて一直線に降下してくる一人のスピアーだった。
その不意打ちじみた攻撃に、一瞬体が竦む。
「アアアアアアアッッッッッ!!!!!」
「しまっ……!」
避けられない、そう思ったアキラは咄嗟に腕で防御する。
が、アキラに攻撃が届くことは無かった。
「……ラプラス、冷凍ビーム!」
「はい!」
「ガァッ……!?」
何処からとも無く撃ち込まれた冷凍ビームによって、スピアーは弾き飛ばされ氷の彫像と化した。
そして、現れる二人の人影。
それは。
「あなたは……まさか」
「久しぶりね、アキラ君。貴方が去年のリーグに挑戦して以来かしら?」
「カンナさん!?」
萌えもんリーグ四天王の一人、氷のカンナとパートナーのラプラスであった。
その後、面制圧を得意とするカンナの手持ち達が北と南の戦列に加わり、戦線は街の外まで押し上げられ、日の入りと同時に野生の萌えもん達は撤退。
それでも、街の外周から中部付近にある建物の被害は甚大であり、中心部はさながら難民キャンプの様相を呈していた。
アキラは手持ち達をセンターに預けると、人ごみから外れた所にある瓦礫に腰を下ろし、夜空を見上げた。
途中で買ってきた温かい缶コーヒーを開け、一息つく。
「ふぅ……」
「……隣、いいかしら?」
「え……ああ、カンナさん。どうぞ」
少しだけ離れた場所に、ありがとうと言いつつ腰を下ろすカンナ。
そのまま、数分の間お互いに何も言葉を交わさずに時間だけが過ぎていく。
……先に口を開いたのは、カンナの方だった。
「去年私と戦った時と比べて、随分と腕を上げたようね」
「……そんなこと、無いですよ」
「あら、謙遜は良くないわ。日中だって、よく周りを見て指示ができていたじゃない」
「カンナさん程じゃないです」
「そうかしら? もうそろそろ、私といい勝負ができそうだと思っていたのだけれど」
「……買いかぶりすぎですよ。俺には……四天王程の才能は無いっすから」
そう言って、アキラは飲み終わったコーヒーの缶をゴミ箱へと投げ捨て、話を続ける。
「俺に才能があれば……デル達に、あんな怪我させなくて済んだんだ。俺の力が足りないせいで……」
「……アキラ君、ちょっといいかしら」
「はい……?」
なんと無しにカンナの方を向いたアキラ。
その頬に、彼女の平手が飛んでいた。
パンッ
「……っ! 何すんですか!」
「貴方……私のことを愚弄してるのかしら?」
「一体何を……」
「貴方と『奴』の戦い……見せてもらったわ。証拠品として提出されていた、バトルレコーダーの記録でね」
「……それが、どうかしたんですか」
「貴方は、一戦は手加減されていたとはいえ『奴』を二度も戦闘不能の状態まで追い込んだのよね」
「……」
「確かに、二度とも最後の詰めが甘くて復活を許している……けれど、競技者たる萌えもんトレーナーとして、これは仕方の無いこと」
「仕方の無いことって……!」
「そうではなくて? この場合、貴方に欠けているのは『戦士』としての才能……あんな化け物を二度も倒しておいてトレーナーの才能が無いなんて、馬鹿げてるわ」
「そんなこと言われても……」
「そもそも、これで貴方にトレーナーの才能が無かったのなら……『奴』に為す術も無く全滅させられた、私や彼はとんだ無能ということになるわね」
「そんな事言ってな……って、四天王でも倒せなかったんですか!?」
「一応、ワタルのお陰で撤退はさせられた……いいえ、見逃してもらったようなものか」
「それじゃ、奴はまだ」
「健在よ……今夜辺り、討伐のためにトレーナーを送るって言ってたわ。これでケリがつけば、次の襲撃は無いわね……ともかく」
カンナは立ち上がり、数歩歩いて振り返って言った。
「才能無い訳じゃないのだから、力不足だと感じたなら努力なさい。そうね……どこか、ジムにでも入ってみるのをお勧めするわ」
「ジム、ですか」
「そうよ。旅をして見聞を広めながら力をつけるのも良いけれど、貴方は一度腰を据えて戦い方を学ぶべきね。競技ではなく『実戦で勝つ』ための戦い方を」
「『実戦で勝つ』ための、戦い方……」
「……それじゃ、一足先に休ませてもらうわ。貴方も……明日襲撃があるといけないから、早く休みなさい」
そう言い残し、カンナはその場を立ち去った。
残されたアキラは、再び空を仰ぐ。
西の方から、炎を纏った萌えもんが夜空を切り裂いて消えていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・後書き
ども、毎度お馴染みの曹長です。
今回の話はストーム7氏のゴーグルシリーズ『Rast Revenge 5』の裏側のエピソードです。
それにしてもサブタイトルがとんでもないネタバレである(ぇー
さて、助っ人で参戦のユキメに加え、新たに女性陣の玩具(違)ノッサが登場。
待望(?)のショタっ子枠、彼は今後どう活躍するのか!?
・ノッサ(キノガッサ♂)
ロケット団に売り物として捕らえられていたキノガッサの少年。人間の年齢にして10歳相当。
強制進化装置と洗脳装置の実験台とされ、延々と胞子を撒いていた所をリースに攫われた(ぇ
素直で活発な性格。実年齢よりは大人びているが、まだまだ子供。
強制進化による障害として、ポイズンヒール発動による性格反転と体の成長の停止という問題を抱えている。
・外見的特長
身長cm
年齢相応だが、ぱっと見少女に見間違える程華奢かつ女顔。
肌も白く、全体的に中性的を通り越して女っぽい。
茶髪緑目、服装はクリーム色のTシャツにモスグリーンのサファリパンツ、大き目のグリーンのベレー帽。
それでは次回予告。
復興していくトキワシティ。
時を同じくして、徐々に快復していく仲間たち。
カンナの言葉と彼らの想いを受け、アキラは一つの決心をする。
次回、萌えっこもんすたぁ Long long slope
『タビノオワリ(後編)』
それではまた、次回の後書きでお会いしましょう。
セキエイ高原。
カントーとジョウトの間に位置する、二つの地方のジムを統括する萌えもんリーグ本部が存在する地。
そこでは今、今年度の萌えもんリーグ本戦が開催されている。
そしてアキラ達はその様子を、トキワシティの萌えもんセンターからテレビで観戦していた。
『タビノオワリ(前編)』
『皆様、健闘した二人のトレーナーに、大きな拍手を!』
「あー、アカリちゃん負けちゃった……」
「仕方ありませんよ、彼女は元々燈台守の萌えもんなんですし。クリムさんのところの方々とは実戦経験が違います」
「それにしてもクリムの奴、ヤマブキの時から比べて明らかに腕を上げたな」
「ん……今ボク達が戦ったら負けるかも」
四者四様の感想を抱きつつ、惰性で次の試合も観戦する四人。
ここはセンター付属の病棟の一室。
重傷を負ったまま旅をするのも危険なため、アキラは最低限回復の目処が立っている三人が完治するまで、トキワに留まる事を決めていた。
なお、ゲンは既に回復して今は買い物……主にホウのおやつ……に出かけている。
リースは個人的な買出し、スイクンは気晴らしにカントーを回ってくると言い残して失踪。
そして……
コンコン
「失礼します」
「あ、ユキメさん。すみません、お仕事も忙しいでしょうに」
シオンタウン警察に所属するユキメノコ族のユキメ。
彼女はアキラの連絡を受け、助っ人としてはるばるトキワまでやってきたのだった。
「いいえ、構いませんわ。それよりも……お三方のお怪我の具合は如何ですか?」
「幸い、後遺症が残るような怪我じゃありませんよ。ただ……」
「何か、あったのですか?」
「ええ……ちょっと、別の子が」
そこで言葉を切るアキラ。
ユキメはそれで何となく事情を察したようで、それ以上は何も聞かなかった。
と、そこで再び扉が開く。
「しっ、しつれいしますっ!」
「ん、君は……?」
そこに立っていたのは、クリーム色のTシャツにモスグリーンのサファリパンツをあわせ、大き目のグリーンのベレー帽を被った小柄な少女……否、少年だった。
「え、ええと……先日、タマムシ大学病院を退院して、ここに向かうように言われたんですけど」
「……ああ!じゃあ、君がリースに保護されたキノガッサの」
「はい!助けていただいてありがとうございました!」
「いいって、気にするな」
元気良く挨拶するキノガッサの少年。
心の中で「俺が助けた訳じゃないんだけどなー……」と思いつつ、アキラは少々複雑そうな顔で頭をなでる。
「あ、そういや名前まだつけてなかったな」
「そういえばそうですね。顔を合わせるのは初めてなので当たり前かもですが」
「んー……じゃあ、ノッサ。お前の名前は、ノッサだ」
「はい!ありがとうございます、マスター!」
本当に嬉しそうに、少年……ノッサはにこにこ顔で礼を言う。
……と、そこで後ろで様子を伺っていた女性陣が身を乗り出してきた。
「あ、この子がリースさんが気に入って攫ってきちゃった子なんだ」
「確かに、女の子みたいな可愛らしさですね……」
「……おいしそう」
「ホウちゃん?」
「冗談……」
「え、え、え、えーと……」
女三人寄れば何とやら。
ノッサに興味津々の彼女らに囲まれ、彼は軽く縮こまっていた。
それがまた興味をそそり……以下略。
結局このループは、目を回しだしたノッサを見かねたアキラが止めるまで終わることは無かったのだった。
それから数日の間、リーグは何事も無く試合を消化していき、ついに激戦を勝ち抜いた四人のトレーナーが、四天王に挑戦する日がやってきた。
そして始まる第一試合、カンナVSクリム。
その最中、事件は起きた。
突如爆発するフィールド。
それによる土煙が収まった後に映し出される二つの影と、上がる雄叫び。
『―――――――ッ!!!』
何事かとロビーのテレビに群がる他のセンター利用客。
次の瞬間、カメラが破壊されたのか砂嵐になる画面。
そんな中、アキラは息を呑んで固まっていた。
「まさか……あいつは」
「ご主人様、あれはこの前の……!」
「あ、あ、ああっ……」
「……怖ろしい」
「クソッ……思い出すだけで手が震えてきやがる!」
「み、皆様……アキラ様、一体何があったのですか?」
先日の悪夢を知らないユキメは、疑問を投げかける。
その問いに、アキラは。
「奴は……奴は、悪魔だ……!」
そう、搾り出すようにして答えるのがやっとだった。
十数分後。
未だにざわつきの収まらないセンターの自室で、アキラは一人テレビのチャンネルを回していた。
どのチャンネルでも、セキエイで起きたテロ(?)の件で持ちきりである。
しかしそのどれもが、事件が起きたということのみで続報が入ってこない。
そのまま時間だけが過ぎていき、諦めてテレビの電源を落とした時だった。
外から、人の悲鳴が聞こえてきたのは。
「きゃあーっ!!!」
「うわあー!!!」
「た、助けてくれえええええ!」
「な、何だ!?」
「アキラ様!」
「ユキメさん?一体何が」
「それが……兎に角外へ。百聞は一見にしかずと言います。ご覧になってください」
「わ、わかりました」
そしてそのまま、センターの正面玄関から外へ出ると。
「なっ……」
そこは、地獄だった。
空はスピアーの群れが飛び交い、陸はピカチュウやコラッタ、ニドランが血走った目で人間に襲い掛かっている。
臆病なポッポや無力なキャタピー達でさえ、視界に入った人間に攻撃を加えていた。
「つい先ほどから、野生の萌えもん達が手当たり次第に人間を襲い始めたのです」
「くそっ、何がどうなってるんだ」
「今、ゲン様とリース様に手伝って頂きながら近隣の避難施設へ住民を誘導しておりますわ」
「ユキメさんは? こんなところで俺とのんびり話してる場合じゃ……」
「アキラ様には、私とノッサ様と一緒に逃げ遅れた住民の救助をお願い致します。よろしいでしょうか?」
「……ああ、任せろ! 行くぞ!」
「ま、待ってマスター!」
アキラがいざ外へ向かおうとしたその時。
それぞれの部屋からデル・メリィ・ホウの三人が飛び出してきた。
「マスター、私達も戦うよ!」
「ユキメさんとノッサさんだけでは危険です、私達も!」
「お前ら……ダメだ、連れてはいけない」
「どうして? 戦力は多いほうがいいよ!」
「バカ、よく考えろ! お前らその重傷でどうやって戦うつもりだ!」
「車椅子でも、炎は出せます!」
「私だって、手が使えなくても電気は出るもん!」
「ボクも……空は飛べないけど、壁を張るくらいなら」
そう言って食い下がる三人に、アキラはゆっくりと首を振った。
「……ダメだ、連れては行けない。今のお前達じゃ足手まといだ」
「そんな……マスター、酷いよ」
「じゃあ、それじゃ私達はここで指を咥えて見て居ろと仰るのですか!?」
「違う、よく聞け。どうしても戦うって言うなら……お前達はここ、萌えもんセンターの防衛を頼む。ここを抜かれたら後は無い……頼めるな?」
「……アキラ君」
「ご主人様……わかりました。仰せのままに!」
「うん、マスター……酷いって言って、ゴメンね」
「良いって、わかってくれれば……それじゃ皆、頼んだぞ!」
三人の頭をそれぞれ撫で、アキラは立ち上がってノッサを呼び出す。
「じゃ、行きましょう」
「ええ……!」
「ノッサも、いいな?」
「は、はい!」
こうして、三人は怒号飛び交う市街地へと走り出していったのだった。
その後、粗方救助を終えた三人は別に動いていたゲンやリースと合流。
町の入り口に防衛線を張るため、有志のトレーナー達……といっても、殆どが現地の少年少女である……と共に戦っていた。
「はっ、とぅっ、せいっ!」
ノッサは最前線で跳び回り、小柄な体に似合わぬパワーで敵を駆逐し。
「北風よ……舞う者全てを凍て付かせたまえ!」
ユキメは空に群れている敵を纏めて凍りつかせ。
「全くっ、おちおちカワイイ子探しもできやしませんわっ!」
リースはぶつくさ文句を言いながらも念力で味方のフォローをし。
「ここから先を通りたけりゃ、このオレを倒してから行きやがれえええええええっ!!!」
ゲンは鬼気迫る勢いで、向かってくる敵をなぎ倒していた。
そしてアキラは一騎当千の働きをする四人を好きに戦わせ、有志のトレーナー達を指揮していた。
「うわああああっ!」
「も、もう持たない!」
「くっ、無理するな! 戦える手持ちが一人になったら引け!」
「でも、引いたら街が……」
「そこの穴埋めはどうとでもなる! だけど、トレーナーがやられたら取り返しはつかないんだ!」
「うっ……わ、わかりました」
アキラの気迫に圧され、少年は気絶した手持ちを戻してセンターへと駆けていく。
それと入れ替わるように、センターから別の少年が出てきて参戦した。
「アキラさん、戻りました!」
「よし、それじゃさっきの彼が抜けた所に入ってくれ」
「はい。ところで、戦況はどんな感じなんです?」
「それがあんまり芳しくないんだ。この辺……西側では押してるけど、南と北が徐々に押されてる」
アキラの手持ちが暴れている西側の入り口では、もう街の外まで押し返す勢いで戦線が上がっていた。
しかし、北側はトキワジム付近、南側はセンターのほぼ目の前まで戦線が下がってきている。
しかも南側の戦線がそこで止まっているのは、怪我を負ったままのデル達の活躍による所が大きい。
普段はトレーナーハウスに居る腕自慢たちは、皆セキエイへ行ってしまっている。
残っていた子供達では、圧倒的に戦力が足りていなかった。
どうにかしなければ、とアキラが考えた時だった。
「マスター、一人抜けて……!」
「えっ?」
リースの声に振り向いた時、アキラの視界に写った物。
それは、巨大な針を構えて一直線に降下してくる一人のスピアーだった。
その不意打ちじみた攻撃に、一瞬体が竦む。
「アアアアアアアッッッッッ!!!!!」
「しまっ……!」
避けられない、そう思ったアキラは咄嗟に腕で防御する。
が、アキラに攻撃が届くことは無かった。
「……ラプラス、冷凍ビーム!」
「はい!」
「ガァッ……!?」
何処からとも無く撃ち込まれた冷凍ビームによって、スピアーは弾き飛ばされ氷の彫像と化した。
そして、現れる二人の人影。
それは。
「あなたは……まさか」
「久しぶりね、アキラ君。貴方が去年のリーグに挑戦して以来かしら?」
「カンナさん!?」
萌えもんリーグ四天王の一人、氷のカンナとパートナーのラプラスであった。
その後、面制圧を得意とするカンナの手持ち達が北と南の戦列に加わり、戦線は街の外まで押し上げられ、日の入りと同時に野生の萌えもん達は撤退。
それでも、街の外周から中部付近にある建物の被害は甚大であり、中心部はさながら難民キャンプの様相を呈していた。
アキラは手持ち達をセンターに預けると、人ごみから外れた所にある瓦礫に腰を下ろし、夜空を見上げた。
途中で買ってきた温かい缶コーヒーを開け、一息つく。
「ふぅ……」
「……隣、いいかしら?」
「え……ああ、カンナさん。どうぞ」
少しだけ離れた場所に、ありがとうと言いつつ腰を下ろすカンナ。
そのまま、数分の間お互いに何も言葉を交わさずに時間だけが過ぎていく。
……先に口を開いたのは、カンナの方だった。
「去年私と戦った時と比べて、随分と腕を上げたようね」
「……そんなこと、無いですよ」
「あら、謙遜は良くないわ。日中だって、よく周りを見て指示ができていたじゃない」
「カンナさん程じゃないです」
「そうかしら? もうそろそろ、私といい勝負ができそうだと思っていたのだけれど」
「……買いかぶりすぎですよ。俺には……四天王程の才能は無いっすから」
そう言って、アキラは飲み終わったコーヒーの缶をゴミ箱へと投げ捨て、話を続ける。
「俺に才能があれば……デル達に、あんな怪我させなくて済んだんだ。俺の力が足りないせいで……」
「……アキラ君、ちょっといいかしら」
「はい……?」
なんと無しにカンナの方を向いたアキラ。
その頬に、彼女の平手が飛んでいた。
パンッ
「……っ! 何すんですか!」
「貴方……私のことを愚弄してるのかしら?」
「一体何を……」
「貴方と『奴』の戦い……見せてもらったわ。証拠品として提出されていた、バトルレコーダーの記録でね」
「……それが、どうかしたんですか」
「貴方は、一戦は手加減されていたとはいえ『奴』を二度も戦闘不能の状態まで追い込んだのよね」
「……」
「確かに、二度とも最後の詰めが甘くて復活を許している……けれど、競技者たる萌えもんトレーナーとして、これは仕方の無いこと」
「仕方の無いことって……!」
「そうではなくて? この場合、貴方に欠けているのは『戦士』としての才能……あんな化け物を二度も倒しておいてトレーナーの才能が無いなんて、馬鹿げてるわ」
「そんなこと言われても……」
「そもそも、これで貴方にトレーナーの才能が無かったのなら……『奴』に為す術も無く全滅させられた、私や彼はとんだ無能ということになるわね」
「そんな事言ってな……って、四天王でも倒せなかったんですか!?」
「一応、ワタルのお陰で撤退はさせられた……いいえ、見逃してもらったようなものか」
「それじゃ、奴はまだ」
「健在よ……今夜辺り、討伐のためにトレーナーを送るって言ってたわ。これでケリがつけば、次の襲撃は無いわね……ともかく」
カンナは立ち上がり、数歩歩いて振り返って言った。
「才能無い訳じゃないのだから、力不足だと感じたなら努力なさい。そうね……どこか、ジムにでも入ってみるのをお勧めするわ」
「ジム、ですか」
「そうよ。旅をして見聞を広めながら力をつけるのも良いけれど、貴方は一度腰を据えて戦い方を学ぶべきね。競技ではなく『実戦で勝つ』ための戦い方を」
「『実戦で勝つ』ための、戦い方……」
「……それじゃ、一足先に休ませてもらうわ。貴方も……明日襲撃があるといけないから、早く休みなさい」
そう言い残し、カンナはその場を立ち去った。
残されたアキラは、再び空を仰ぐ。
西の方から、炎を纏った萌えもんが夜空を切り裂いて消えていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・後書き
ども、毎度お馴染みの曹長です。
今回の話はストーム7氏のゴーグルシリーズ『Rast Revenge 5』の裏側のエピソードです。
それにしてもサブタイトルがとんでもないネタバレである(ぇー
さて、助っ人で参戦のユキメに加え、新たに女性陣の玩具(違)ノッサが登場。
待望(?)のショタっ子枠、彼は今後どう活躍するのか!?
・ノッサ(キノガッサ♂)
ロケット団に売り物として捕らえられていたキノガッサの少年。人間の年齢にして10歳相当。
強制進化装置と洗脳装置の実験台とされ、延々と胞子を撒いていた所をリースに攫われた(ぇ
素直で活発な性格。実年齢よりは大人びているが、まだまだ子供。
強制進化による障害として、ポイズンヒール発動による性格反転と体の成長の停止という問題を抱えている。
・外見的特長
身長139cm
年齢相応だが、ぱっと見少女に見間違える程華奢かつ女顔。
肌も白く、全体的に中性的を通り越して女っぽい。
茶髪緑目、服装はクリーム色のTシャツにモスグリーンのサファリパンツ、大き目のグリーンのベレー帽。
それでは次回予告。
復興していくトキワシティ。
時を同じくして、徐々に快復していく仲間たち。
カンナの言葉と彼らの想いを受け、アキラは一つの決心をする。
次回、萌えっこもんすたぁ Long long slope
『タビノオワリ(後編)』
それではまた、次回の後書きでお会いしましょう。