5スレ>>858

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 ただひたすらこの雪原で、貴方をずっと待ち続ける。 +++   グレイシア ~ 雪夜の空に               +++  私は未だ、そこにいた。  北の大地、シンオウ。その中でも最北端、テンガン山を越え、険しい白林道を進んだ奥の奥。  そこに重々しく居座る青黒い氷岩の前に、ずっと。  ……ご主人様は、言ってくれたから。  ――ここで、待っていてくれ――  だから私はここにいる。ここで待つ。  どこに行くとか、何をするとか、具体的なことは何一つ言ってはくれなかったけど、それでも待つ。  『待っていてくれ』。それが私に下された、大好きなご主人様からの命令なのだから。  軽々と粉雪の落ちてくる日も、  深々と牡丹雪の降り頻る日も、  轟々と吹雪の吹き荒ぶ日も、  寒くなんてなかった。だって当然、私はグレイシアなんだから。  寒くなんてなかった。ご主人様は必ず帰ってくるのだから。  だから、  それでも私は待ち続けていた。  食料を調達することもない、待っていなければならない、待ち続けなくてはならない。  そう思って、そう思い込んで、そう、思い込ませて。  何日も、何日も、氷岩の前で。  お腹が空いても、離れるわけにはいかなかった。  例えばシロクマは半年絶食しても大丈夫だという、私もそういう世界に生きられるように進化したもののはしくれ、これくらい大丈夫だ。  大丈夫、大丈夫。大丈夫だから……。  離れなくてもいいんだ、離れられない、いさせてくれ。  『待っていてくれ』  私からその言葉を、目的を、取らないでくれ。  お願いだから、私がここにいる理由を、  私がまだ、生きていてもいい理由を――っ!  それは、誰に対する叫びか、  ……本当はわかっているんだ。  彼は帰ってこない、もう、主人ではないんだ。捨てられたんだ。  なら――、  ならば私は、どうしたらいい?  ……どうしようもないじゃないか。  生きる意味なんて、ないじゃないか。  そこまで考えて、私の体はガタガタと震えだした。  寒さではない、死ぬことが怖くなったのだ。  一人が、孤独が、こんなにも怖い、繋がりを確認していたい。  そうか、私は――、  だからそれは、恐怖から逃げるために吐いたただの現実逃避で、  それに気付いた時、私は、  ――壊れた。 * * *  ふと目を覚ますと、そこは見慣れぬ場所だった。  霞む天井、これは……、 「こ、や……?」  小屋の中か。  ベットの上に寝かされていて、毛布までかけられている。  体を起こして辺りを見回してみれば、傍らのイスには白い液体の入った小皿が置いてあって、  暖炉ではぱちぱちと火が燃えていて暖かい。  人はいなかった。が、誰も住んでないということはないだろう。そもそも住んでいるのが人とは限らないが。  くぅー、と。控えめに訴えるお腹の音に空腹を自覚して、思わずイスの小皿に手を伸ばしていた。  一口。行儀良く小皿を両手に持って、こくんとそれを飲む。  ミルクだった。暖かい、温かい、ミルクだった。 「……う」  もう一口、さらに一口と舌を満たして、  一粒、さらに一粒と、頬を何かが伝った。 「うっ、うぁ――」  抑えきれずにそれはどっと流れて、いつのまにか私は大声で泣いていた。 「うわあぁぁぁぁっ!!」  私はなんで泣いているのだろう?  わからない。  生きていたから?  主人がいなくなったから?  これからずっと一人だから?  いろんなものが混ざり合って、どうしようもできなくて、今にも破裂しそうな心の中に、  そのミルクは、その温かさは、奥の奥まで染み渡っていた。  悲しみに溺れて、恐怖に怯えて、不安に押し潰されそうな中で、私はその温もりに泣いていた。  泣いて、泣いていて、  泣き疲れて。  ふと気付けば、小皿が置いてあったイスには人が座っていた。  男だ。歳は主人と同じくらいか、少し上に見える。  なんだ、この人が部屋に入ってくるのにも気付かなかったのか、と呑気にその優しげな顔を眺めながら―― 「ッ!?」  ザザッ、と。後ずさるように彼の反対側へと体を引かせる。  その拍子で小皿を落としているが、中身は全て飲み干していたので零れて毛布が濡れることはなかった。  助けてもらって、ミルクまでご馳走になって、よくよく考えれば失礼な今の状況だったが、その時の私はそこまで頭が回っていない。  人間。私の知らない人間。私を捨てたニンゲン。  しかし、 「ああ、大丈夫」  彼は私の落とした小皿を拾いながら、 「何もしないよ、気の済むまで休んでいいからね」  と、嫌な顔をすることもなく、両手を広げてお手上げのポーズ。  優しげな笑顔は変わらず、優しげなままで。  その声は暖かくて、温かくて、心の底の底まで響いた。 「あ、これお代わりとかいる?」 「……うぁ」  また、溢れてくる。止め処ない何か。  がしっ、と。勢い良く彼に突っ込んで、抱きついて泣きじゃくる。 「うぁっ、うわあぁぁぁぁっ!」 「あ、えと、え!?」  突然のことに彼も戸惑っていたが、  やがて何かを察してくれたのか、そのまま何も言わずずっと頭撫でていてくれた。 「……いつまでも、いるといいよ」  泣き止むまで、ずっと。眠りに落ちるまで、ずっと。 * * *    それから数ヵ月後の話だ。  あの恥ずかしい(今となってはそんな風に思える思い出となっている)出来事からしばらくは気まずい関係だったものの、  今では新たなご主人様として慕っている。  ……まあ、気まずくしてたのは私の一方的な感情なんだけど。  ともかく、早くも私は彼を信頼し始めていた。ご主人様として。  一緒にご飯を食べて、一緒に本も読んで、一緒に昼寝もして。  既に昔のトラウマなど忘れ去っていたのだ。  そんな、  そんな、幻想的なダイアモンドダストの美しいある朝のことだった。  彼は少し遠くの街へ買い物に出かけると言ったのだ。 「少し、待っててね」  私に留守番を任せて。  最初こそ私もなんの疑問も持たずに見送ったのだが、  疲れて帰ってくるご主人様のためー、だなんてお昼ご飯まで用意したりしたのだが、 「……遅い、な」  時計の針が指す時間は午後3時。  それでもまだご主人様は帰ってこなかった。  流石に遅いと、不安が喉の奥からジリジリと込み上げてきて――  『少し、待っててね』  ビクンッ! と。  その言葉を思い出して、  その言葉は過去の出来事をフラッシュバックさせて、  不安は口から飛び出して部屋に充満する、そんな錯覚にまで囚われた。  いてもたってもいられなくて、  私はいつのまにか家の外で、雪道の奥の奥をじっと。じっと、見据えていた。  記憶は甦る。  ――軽々と粉雪の落ちてくる日も――  ……いや、大丈夫だ。  ――深々と牡丹雪の降り頻る日も――  言ってくれたじゃないか。  ――轟々と吹雪の吹き荒ぶ日も――  行き先を、目的を。  ――少し、待っててね――  そうだ、  少しだけ、待てばいいんだ。  必ず帰ってくる。帰ってくるから……ッ!  そうして何分と、何時間と、  降り頻る雪の中、待っていた。  あの捨てられた日、あの時のような冷たい冷たい雪の中だったけど、  あの時よりも、もっとずっと暖かい、そう信じて。 * * *    夜。日も跨ぐ少し前だった。  相も変わらず冷たい雪が降り頻っていたが、 「グレイシア!?」  私の目の前には、驚きで目を丸くさせているご主人様がいる。 「……お帰り、なさいませ」  ふっと、自然と微笑みが零れた。  ちゃんと、帰ってきてくれた。 「何でこんな寒いところにいるの!? 中に入ってればいいのに!」  屈んで、私の頭に積もった雪を掃ってくれているご主人様に、  ぴとっと、くっついて、抱きしめた。  少し間抜けな呆けた顔で固まってしまったご主人様の体は、こんなにも暖かくて、温かい。 「寒くなんてありません。だって当然――、」  だって、当然――、 「私は、グレイシアですから」  ――貴方は、帰ってきたんですから。 ~~~  どうもっ! 零ですん。  季節はずれで残暑見舞い?  お久しぶりですねー。だいぶひどい感じですグレイシア。  始終ぐだぐだくどくど……、うむむ。  いろいろぶっ飛んでる気がしますが、仕様仕様!  では、こんな拙作を読んでくださった方々に感謝をしつつ、このあたりでー。

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