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「5スレ>>881」(2011/03/02 (水) 16:28:38) の最新版変更点
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・マサラタウン
「博士。これは嫌がらせか何かですか?」
「いきなり何を言う。」
カントー地方マサラタウンのオーキド研究所にて、オーキド博士と向かい合ったトレーナーは口火を切った。
このトレーナーが所持する唯一の手持ち、オーキド博士から譲り受けた萌えもんは、今この研究所が所持する回復装置の中で休んでいる。
回復装置に一つだけ収まっているボールの中に居るのはフシギダネでもヒトカゲでもゼニガメでもなく。
左右には朱色と青緑色の縦ロール。露出した胸元には青紫色の水晶。分類DNA萌えもん。種族名デオキシス。
一年ほど前にオーキド博士が何処かで捕まえた萌えもんであり、ほんの二日前までは博士の研究対象であった萌えもんである。
「彼女、薬無しで戦ったらキャタピーの体当たりにも押し負けるんですけど。」
「単純な威力で計算をするなら巻きつくの威力は体当たりの半分以下じゃからのう。」
トレーナーは思い出す。野生のキャタピーと、一つ指示を間違えば敗北が決定する死闘を繰り広げた、幻の萌えもんを。
その横で悠々と野生の萌えもん達を薙ぎ払いつつも別れる寸前まで煽って来たトンガリ頭の友人を思い出し、今までの疲れが出始めた。
視線をオーキド博士から回復装置へと移す。回復装置は動いている。全回復するまではまだ時間が掛かると言う事。
「しかし今はナイトヘッドを憶えているからキャタピーに押し負ける事も無かろう。」
「ええ。今は三発撃てば確実に倒せます。でもゴーストタイプだからコラッタやポッポには効かないんですけどね。」
「テレポートも憶えているから移動も楽だろう。」
「あまりにセンターに行く回数が多いのでジョーイさんから何度か質問を受けました。」
「…。」
「その上で博士、もう一度聴かせて下さい。幻のポケモンを譲ってもらったかと思えば物凄く弱かった。これは嫌がらせか何かですか?」
回復装置からチーンという音がした。収納したボールの中にいる萌えもんが全回復した事を知らせる音だ。
そこでオーキド博士は「うぉっふぉん!」とわざとらしい咳をした後、トレーナーの視線から離れ、回復装置へと向かって行く。
「では○○○、萌えもん図鑑の完成を期待しておるぞ!」
「気乗りはしないんですけど。」
「安心しなさい、デオキシスは大器晩成型だ。報われる日がきっと来る!それに君は。」
「…一度引き受けちゃいましたからね。分かりました。その言葉を信じて行ってきますよ。」
オーキド博士から受け取ったボールをポケットに押し込み、体を回して、視線の先を研究所の出口がある方向に向かせる。
途中、真横を通り過ぎた博士の助手である男と軽い挨拶を交わした後でオーキド研究所から出て行った。
レベルを上げて強い技を習得するの為、今日も彼等はトキワの森の草むらで野生の虫萌えもん達と戦い続ける。
トレーナーとデオキシスにとって最大の試練はトキワの森に向かう途中にある草むらにあり、そして彼らは運悪くも試練と出会ってしまった。
「ゲェーッ、ポッポ!」
「ここで消耗される訳にはいかない。逃げるぞ、デオキシス!」
・ニビシティ
ニビシティジム。岩タイプを使うタケシがジムリーダーを務めるジムであり広い砂場の上に大小様々な岩石が置かれているのが特徴である。
その中で砂を掻き回しながらも岩石達の前後を通り抜け、走り続ける萌えもんが一匹いた。朱色と青緑色の少女デオキシス。
今の彼女は何が楽しいのか大変機嫌が良いらしく鼻歌交じりに走り回り対戦相手であるイワークに見向きもしない。
しかし余りにも速い動きにタケシとイワークは混乱していた。種族値150は伊達ではない。一方でデオキシスのトレーナーは呆れていた。
「んっん~♪」
「イワーク、岩石で奴の動きを止めるんだ!」
「分かりました!てぇぇぇぇい!」
「あは、あはは、あははははっはははははははっははははは、WRYYYYYYYAAAAAAAAAAAAA!」
イワークが投げた幾つもの岩石を見据えたデオキシスが奇妙な叫び声を捻り出すと、岩石の動きが空中でピタリと止まる。
サイコキネシス。念力で相手を攻撃する技。トキワの森での特訓の末に(具体的に言えばレベル20で)手に入れたタイプ一致技である。
そしてデオキシスが岩石に向けて右手の指で払うような動作をした途端、岩石同士はぶつかり合って砕き砕かれながらも落ちた。
落ちてくる岩石を避けながら、時には念力で岩石をどかしながらもデオキシスは疾走し、イワークの前にまで来た。
「迎え撃て、体当たりだ!」
「は、はい!」
「無駄ぁ!」
イワークが走り出そうと姿勢を傾けた瞬間デオキシスが伸ばした腕に左足を引っ張られバランスを崩し額から砂場の床にぶつけてしまう。
急いで立ち上がる。ふと周囲が暗くなった事に気付き、嫌な予感と共に上を向くと、そこには岩石を持ってきたデオキシスが。
「 追 い 打 ち だ ! 」
「う、うわぁぁぁぁぁ!?」
「イワーク!!」
「…ストレス溜まっていたんだなぁ。」
その一撃が決め手となりイワークは倒された。こうしてトレーナーとデオキシスはグレーバッジを手に入れた。
「無双してやるぞトレーナー共!我が「攻撃」「特攻」の下にひれ伏すがいい!」
「PP切れには気を付けろよ。」
「三日前まではちと手を焼いたポッポだが、サイコキネシスの前には無力なものよ!」
・ハナダシティ
ハナダシティジム。ジムリーダーは「おてんば人魚姫」カスミ。水タイプ萌えもんで攻め続ける事をポルシーとしているらしい。
その為かジムのスタジオは巨大なプールになっておりジムリーダーやジムトレーナーが水着を着ている場合が非常に多い。
一ヶ月程前までは研究所に居たデオキシスにとってそうした施設は新鮮らしく、初めは無邪気な子供のようにはしゃいでいた。
しかしトレーナーの目的はプールで遊ぶ事ではなくカスミが所持するブルーバッジを入手する事である。
遊べない事にデオキシスが不満を唱えたがトレーナーはブルーバッジを得たならば二人分の水着を買って一緒に泳ぐ事を約束した。
再び「ハイ!」な気分になるデオキシス。ジムトレーナーをサイコキネシスで無双しそのままの勢いでカスミに挑む。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァァアァッァァッ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァッァアアッ!」
プールの水面に浮いて殴り合う、少女らしくない少女達の奇妙な雄叫びがハナダシティジム中に響き渡る。
スターミーの拳にデオキシスは自分の拳を合わせて防ぐ。デオキシスの拳をスターミーはデオキシスがしたように防ごうとする。
が、拳と拳が触れた途端、デオキシスの拳は何本もの糸のようになり、合わせようとしたスターミーの拳に巻きついた。
驚いたスターミーはは体全体を高速で回転させて腕の拘束を外す。その瞬間にデオキシスは容赦無く無防備となっ他腹部を思い切り殴り付けた。
痛む腹部を抑えながらも吹っ飛んだスターミーは念動力による浮力の制御を失って、水の中に落ちる。
そこへさらにサイコキネシスで追い打ちを掛ける。起き上がり立ち向かおうとしたスターミーをプールの底に叩きつけた。
「駄目押しにもう一発!」
デオキシスは意気揚々と水の中へと潜り瀕死寸前となったスターミーに止めを刺さんと拳を振り上げた。
それを見ながらも、ふとトレーナーは疑問が浮かんだ。自分の切り札が倒されようとしているのに何故カスミは何も言わないのだろうか?
彼女はただ黙ってスターミーを見つめている。その表情は硬く、事前に聞いた「おてんば」とは思えない態度である。
妙にも思いながらも今度は倒れたまま微動だにしないスターミーと、それを仕留めようとするデオキシスに視線を向けた。
そこで、スターミーが何かを手に握っている事に気付く。何かとは木の実だ。その木の実の名前は、確か、
「(…オボンの実!)デオキシス!スターミーはまだ動けるぞ!」
「スターミー、水の波動!」
「なにぃぃ!テレポートを…
「オラァ!」
突然起き上がったスターミーに驚いたデオキシスに逃げる余裕は無い。威力のある波動を浴びながらも水上へと押し上げられる。
デオキシスは落ちながらも念力で落ちる軌道を修正して何とか足場に着地する。が、着いた足が急に崩れ落ち、転倒して足場に顔面をぶつけた。
何度立ち上がろうと試みるが立ち上がれない。水の波動によるダメージと追加効果の混乱の影響だろう。
水の中から出たスターミーは何も言わずデオキシスが足場に付けた手元に立つ。その両手には白いプラズマが波打っている。
「苦労したんだ…このまま倒させてもらうぜ。」
「スターミー、十万ボルト!」
カスミの指示とほぼ同時にスターミーの両手に溜め込まれていた電流がデオキシスの全身に巡り肉を焼いた。
既に瀕死寸前であったデオキシスに、デオキシス程ではないにしろ高い特攻を持つスターミーの十万ボルトが耐えきれるはずも無く。
「うぐおおおあああああ!ば、馬鹿なっ…こ…このデオキシスがァァァァァァァァァァ!」
「てめーの敗因はたったひとつだぜ…デオキシス…たったひとつの単純な答えだ…
『てめーは非伝説を舐めていた』。この言葉を最後にデオキシスは意識を失い勝敗は決した。
「すまない。負けてしまって。」
「一度負けたからといって気を落とすなよ。」
「しかし最後まで私が気を抜かなければ水の波動に当たる事も無かったんだ。申し訳が立たないよ。」
「マトモに指示しなかった俺にも落ち度はある。それに今回の戦いは良い教訓になった。特攻とサイコキネシスだけじゃ勝てない敵もいる。
サイコキネシスを覚える以前を思い出そう。キャタピーにも苦戦していたあの時の戦い方に今覚えている技を組み込んで戦えば、きっと勝てる。」
「でも一つだけ、心残りが。」
「心残り?」
「あの広いプールで泳ぎたかった。」
「…次は勝とうな。」
「うん。次は勝つ。絶対に勝つ。」