5スレ>>900-1

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+++   ご主人様に花束を          +++ 「何見てるんだ?」 「あ、ご主人様」  ベランダで見掛けたハクリューは、なにやらぼーっと遠くを見つめているようだった。 「夕日か」 「夕日です」  大地の終わりと空の果て。  彼女の見つめる先は、地平線近くまで日が落ちて、燃えるようなオレンジ色に染まっている。 「私、夕焼けって好きなんですよね」 「うん?」 「炎揺らめく真っ赤な夕日が照らし出すオレンジの空、その反対にはもう夜が顔を覗かせていて、  狭間を深くも鮮やかに彩る紫。夕と夜の境界、黄昏時」  歌うように話す彼女から紡がれた声は、暖かくて優しい、というのもありきたりだけれど、  何か心に染み渡るような、そんな響きを感じさせた。 「“昼は忙しさに楽しみを忘れ、夜は次の昼の忙しさに備え、ならばその境目にせめて想い馳せる”……なんて」 「誰の言葉?」 「そんな本を読んだことがありまして。  私は貴方といて楽しくなかったことなどありませんし、貴方との時間を忘れたことなどありませんけど、  夕暮れってなんか、特別綺麗に映えて、神秘的で、ね」  そう言って、彼女はふっと微笑んだ。 「……嬉しいことを言ってくれるなあ」 「嬉しいと思ってくれたことが、私も嬉しいです」 「なんだ、お前今日はちょっとおかしくないか。いやに大胆だな」 「そうですか? いつもの私ですよ」 「そう、か?」  ああ、そうか。そういえば。いや、今更そういえばと言うまでも無く、  彼女はいつだって俺の傍にいて、支えてくれていた。 「そうでしょ?」 「そう、かな。……そう、だな」  こんな俺の傍で、どんな時だって。  すれ違うこともあれば、ケンカすることだってあったけれど、  仲直りをして、絆を一つ一つ深めていって、  彼女は俺を、愛してくれていた。  けれど――  ――俺は、どうなんだろう。  俺は、彼女と出会って。彼女と共に歩んで。……彼女に恋して。そして彼女に何をしてあげられただろうか。  こんなに嬉しいことを言ってくれる彼女に、それに見合う幸せを、あげられているのだろうか。 「なあ」 「はい?」 「お前、俺のもえもんで幸せか?」 「はい」 「……即答か」 「もちろんですよ。急にそんなこと、どうしたんですか?」  どうしたんだろう、と俺も思う。  何故今までこういうことを聞かなかったんだろう、とも。  ずっと、不安だったはずなのに。俺は彼女と歩んでいいものか、彼女を縛ってはいないかと。 「ほら、お前ってなんでも一人で抱え込むからさ。悩みとか、不安とか一人で抱えてさ、  不満とか、不幸とか、抱え込まなくてもいいものまで抱え込んでるんじゃないかなって。  というか、うん、なんだろう」  自分でも纏まっていない思考を話してるためか、非常に曖昧な言葉が口を出て詰まってしまう。  それを聞きながら、それでも彼女は穏やかな顔で言ってくれる。 「不満なんて抱えてませんよ。不幸なんてあり得ません」 「そう、か……。いや、そうかじゃなくて」 「じゃなくて?」  違うな、そういうことじゃない。それももちろんあるんだけれど。  俺が一番不安なのは―― 「――俺、ちゃんとお前を愛せてるのかなあ」  それは恐らく、俺の心の奥底にあった罪悪感。  彼女は俺に幸せをくれるけれど、その対価を彼女は求めない。  彼女は不器用だから。甘えることが苦手だから。  いつも俺が苦労をかけては付き合ってくれるだけで、  彼女の望みは満たされているのだろうか。  まあ、そんなことを考えている俺こそ不器用なのだろうけれど……。  なんて思いを巡らす刹那の静寂。こちらを見る彼女は心底驚いたように目を丸めていて、 「ぷっ。あは、あははははは!!」  横に顔を背けて急に吹き出した。  ――かと思えばさらに、勢いそのまま大声で笑い始めやがった。 「な、なんだよ!」 「す、すみま――ふふ、すみません」  彼女はしばらく笑いを堪えて目元に涙を溜めていたが、それも治まってくればふうと一息ついて、人差し指でチョンと涙を拭う。  そしてくるっと、彼女は俺の方に向いて、言った。 「“花束には花束を”……愛は注いだ分だけ、返ってくるものです」 「……それは誰の言葉?」 「私です、あはは。  貴方からいただいた愛は、等身大ながらも精一杯の愛で、お応えしてますよ」  そうはにかんだ彼女の笑顔が、可愛くて、 「謙虚な私ですけど、貴方を想う気持ちだけは、誰にも負けませんからね!」  えへへ、と誇った彼女が本当に、本当に可愛くて、  抱きしめたい。今すぐに抱きしめたいけども。必死でその衝動は抑えて、 「――謙虚とか、自分で言うなよ……」  やっとの思いでそう言って、さらりと綺麗な空色髪の頭を撫でてやった。  撫でてやりながら、こうして見つめ合う時間が、なんとも心地いい。 「あーもう、嬉しくなっちゃったなあ!  よっしゃ! お兄ちゃん、今日はお前のためになんでもしてやろう!」 「えー、そんなこと言っちゃっていいんですかー?」 「たまにはこんなこともいいさ。ほら、なんだって欲しいもの買ってやるぞ」  ふふ、それじゃあ――。と彼女は一拍置いて、 「――キス、してください」  と、  止めに満面の笑みまで残して。 「……はは、やっぱおかしいよお前」 「私だって、嬉しいんですよ。ご主人様のために何でもしてあげたいけど、今日は特別」  俺の最後で弱々しい抵抗にはまったく動じず、まあ動じられたことなんてないのだけれど。  彼女は目を閉じて、くっと顎を上げて、 「甘えてあげる」  我慢できるわけなどなく、もう抑える必要もなく、  そしてしっかりと唇を重ねた。  重ねて、ぎゅっと、抱きしめた。 ~~~  やーっす、零です。  夕暮れのはくりぅさんです。私の突っ込める限りの甘々を突っ込んでみました。  はくりぅさんはホントに可愛い。まったくどうかしてるぜっ。  なんて、ちょっとした短編でした。はくりぅが可愛いから。  それでは、読んでくださった方に感謝をしつつ、実はもう一本同時投下なのでまた。

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