5スレ>>928-4

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電気の消えた、壁一面に本の並ぶ無機質な部屋。 中央にはデスクトップが乗った事務机があり、 それを囲むように四角いテーブルが並べられている。 隅の方に目をやれば、書類やファイルの山が見えた。 ここは図書館ではない。大学の研究室だ。 その窓際に一人の女性が佇み、本を読んでいた。 開いた窓から風が吹き込み、彼女の長い髪を揺らす。 彼女は上から下まで、顔色を除けば白と黒の二色しかなかった。 薄暗いこの部屋と相まって、美しいモノクロ写真を見ているような気さえする。 ページをめくろうとして、ふと手が止まった。 鍵を開けようとする音がしたからである。 「しかし、珍しいですね。君が『創世記』に興味を示すなんて」 「まあ、いろいろあるんですよ」 電気が点くと、そんな会話が聞こえた。 最初の一人は壮年、もう一人は青年のようだ。 すると年上の男性の方が、窓に近づいた。 「おかしい……出てくる時には閉めていたはず。 まあいいでしょう、僕はエアコンがきらいなんでね」 と言いながら、また別の窓を開け、ふと左の壁をにらみつけた。 そしてパソコンの所へ歩きながら、彼は言った。 「適当なところに座って下さい、君島くん。麦茶でいいかい?」 「はい、ありがとうございます」 君島と呼ばれた青年が椅子を引いて座る音が聞こえた。 それからしばらくすると、男の講義が始まった。 「えっと、ミュウとメタモンのくだりでしたか」 「はい」 その講義を、女性は物陰で聞いていた。 この研究室の窓際には、壁と垂直に置かれた本棚がある。 そして柱がある関係でその本棚の背と窓との間には三十センチ強の隙間が出来る。 女性はそこに逃げ込んでいたのだ。 「しかしこの『アルセウス因子説』は『創世記』を前提としていますから、 僕のように作り話と信じている研究者には荒唐無稽と映ります。 そもそも、アルセウスという萌えもんが実在するのかが僕には疑問なんですよ」 その言葉を聞いた女性は、口元をほころばせた。 「もっとも、世界を作った偉大な萌えもんなら宇宙のどこかを彷徨っているでしょうし、 僕らちっぽけな人間の目の前に姿を現すなんて考えられない。 いたらそれこそ全世界を驚かせるニュースになるでしょう。 おっと、だいぶ話し込んでしまいましたね。 もうここら辺にしておきましょうか」 「ありがとうございました、宮田先生」 「どういたしまして。熱心な学生に出会えて僕も嬉しいよ」 それではまた、と言って研究室を出て行った青年を見送ってから 宮田は窓際に行き、女性をにらみつけた。 「勝手なことはするなって言っておいただろ、エヴィ」 するとエヴィ、と呼ばれた女性は鋭い目で切り返す。 「暑かったんだもの、しょうがないじゃない。それよりリハク、今のは何?」 「今の?」 「『創世記』を作り話と信じている、とか、 人間の目の前に姿を現すなんて考えられない、とか。 人間って、そうやって簡単に嘘を吐くのね」 「僕は昔からそういう主張をする立場として位置しているんだ。 それを突然否定したら、周りに不審がられるだろう」 「言い訳はいい。リハク、世の中で嘘を吐くのは人間だけ。 人間がそんな風に嘘を吐くから、お姉様は私を必要とされたの。 そのくらい分かるでしょう?」 エヴィは眉をつり上げながら近寄った。 外見で言えば、李白とエヴィは父と娘と言っても差し支えはないだろう。 それほどに身長差があるので、接近すればするほど見上げる格好になる。 「確かにそうだ。 でも人間というのは厄介でね、君ら萌えもんと違って 全てに正直には生きられないものなんだよ」 言うと彼は、自分の指定席、パソコンの前の肘掛け椅子に腰かけた。 「僕らは結局、違う生き物なんだ。 完全な理解なんて、出来るはずがない」 「あなたの研究はその為のものでしょう?」 「それはそうだけど」 するとエヴィはパソコンを囲む机の一つに歩み寄った。 そこはちょうど、先程まで君島公平が座っていた場所だった。 「……ここにいた男の子、なんか変じゃなかったかしら。 彼は今まであなたに興味を示したことはなかったのでしょう?」 「確かに。名前は知っていたけど、直に話したのは今日が初めてだ」 「それと『創世記』の話をしたのはいつ?」 「……一ヶ月くらい前かな」 「どうして一ヶ月前の講義の話を、今になって持ち出したのでしょうね?」 確かに不可解だった。 復習していて疑問に思ったとしても、一ヶ月では考えにくい。 「ダークライ!」 エヴィが叫ぶと、足元の影が伸びて、そこから全身真っ黒な萌えもんが現れた。 長い銀髪に赤いマフラー、あんこく萌えもんダークライだった。 ダークライは出現するなり、エヴィにひざまずいた。 「お呼びですか、お嬢様」 「さっきまでここにいた君島という男を追ってきなさい。 彼が何か隠していないか、確かめてくるのです」 「は、仰せのままに」 するとダークライは再び影に沈み、そのまま窓の外へ出て行った。 李白はその光景に驚いていた。 「初めて見たよ、ダークライ。 君は本当に『悪』の妹なんだね」 「最初に言ったでしょう? 私は悪タイプのアルセウスだって」 エヴィの赤い目が、ぎらりと輝いた。

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