2スレ>>126

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   ―――the mellow flow shower――― (ちくしょう、長引いちまった……) 怪我をしたイワークを診てもらう為に出向いたポケモンセンターからの帰り道、 俺は木枯らしが吹く夕暮れの中を一人で歩いていた。 「ったく、なんでこんな無駄な労力をせにゃあならんのか」 当のイワークは既にボールの中ですやすやと寝息を立てている。なにやら寝言を 言っているようだが、どうにも幸せそうに俺の事を呼んでいるあたり腹が立つ。 今回の怪我の原因もコイツが遊びの途中に無茶をして崖から落ちたからで、 つまり俺はとばっちりを受けたわけだ。 「とりあえず他の奴等には今日はゆっくり休むようには言ってあるが……っと……?」 もうすぐ日の落ちる頃合に、ちょうど公園の入り口で何人かの子供たちと『彼女』が 別れの挨拶をしているところに遭遇した。 「じゃあね、お姉ちゃん! ばいば~い!」 「また今度、一緒に遊んでね~!」 「ふふっ……。 ばいばい、また今度」 満面の笑顔で帰路へと駆け足で向かう子供たちを、品の良さが漂う柔和な手振りで見送る その大人びた少女に俺は声をかけた。 「よっ、シャワーズじゃんか」 「え? ……ああ、マスター。 お疲れ様でした、今からお帰りですか?」 流れるような仕草で頭を垂れ、俺を労うシャワーズの心配りに俺は心の底から癒されつつ、 「おう。この馬鹿の治療が思ったより時間がかかっちまったけどな」 ぐぐ……、と俺はシャワーズに差し出して見せたボールをそのまま潰さんとばかりに 握り締めながら見せた。ボールの中から軽くうめき声が聞こえたような気もするが、 まあたぶん空耳だろう。 「あはは……」 俺の様子を見てシャワーズは苦笑した。彼女もイワークが自分自身で招いた事故である のを重々承知している為、俺の態度も致し方ないと思ってくれているようだ。 「……それで、この子の怪我の方はいかがでしたでしょうか?」 しかしふと、少し表情に影を浮かべて今日の様子を尋ねてくるシャワーズ。 心配するべき時は心配し、注意すべき所は仔細にまで気を配る。 この心根の優しさと視野の広さこそが俺の信頼するコイツの最大の魅力だった。 「ああ、大丈夫だ。二~三日は安静に寝てろ、とは言われたがな」 そんなシャワーズの心配を払拭したいと思い、俺はニッカリと笑って答えた。 俺の様子を見て安心したのか、良かった、と嬉しそうに呟くシャワーズを見て、 俺もまた、確かに無事で良かった、と思った。 「そういや、さっきのガキ等は何だ?」 すっかり夜も更け、街灯の光を辿る帰り道の途中。俺は思い出したようにシャワーズに尋ねた。 「ここらへんに住んでるっぽかったが」 「ええ、そうみたいですね」 柔らかな声色で答えるシャワーズ。声を聞いているだけで気持ちが落ち着いてくるのだから不思議だ。 「いつもさっきの公園で遊んでいるらしいのですが、偶然にも私が通りかかった時につまずいた子が居まして」 「……んで、それを診てやったら懐かれた、と」 「そうですね」 控えめながらも笑顔を浮かべるコイツの様子を見て、子供に対して些細な嫉妬心を覚える俺は駄目な主人なんだろうか。 と、いきなりシャワーズの声色が変わった。 「……子供たちの笑顔を見てると、心が暖かくなって……そして自分自身が不安になるんです」 黙り込んでいた俺の耳に、そんな言葉が入ってくる。 「不安になる?」 「はい」 薄暗い道。少しだけ目を伏せながら見せたシャワーズの笑顔は、どことなく自嘲めいていた。 「あんなに元気に走り回っている子達を見てると幸せになってくるんです」 伏せた目線が哀しげに開き、俺のポケットに入ったままのボール―――の中で眠るイワーク―――に向けられた。 「……そう、私には無い才能。羨ましくて、そんな風に思う自分が嫌になるくらいの……」 最後の方になるにつれ段々と声が小さくなり、終いにはそのままフェードアウトされた彼女の心の声。 そのまま黙り込んでしまったシャワーズはいつもと比べて小さく感じられた。 コイツはこんな事で悩んでたのか。……まったく、俺の周りは心配させるのが好きな奴ばかりで困る。 俺は少し考えた後、口を開いて――― 「あのなあ、お前『も』こんな馬鹿な奴だとは俺は知らんかった」 『も』、を出来る限り強調して、思いっきりあっけらかんとした口調で、 「お前が自分をどう思っているのか初めて知って、そりゃちょっとは焦ったが」 これが本音であると、相手に伝わるように、一生懸命に、 「イワークのお姉さんみたいな存在のお前も、俺の誇れる相棒としてのお前も」 もう一生、こんな言葉を口にするもんかと硬く誓いながら、 「少なくとも俺はお前と一緒だと暖かくなれるんだぞ」 ―――その恥ずかしい台詞の意味がそのまま伝わるように、俺は言った。 「…………え?」 きょとんとした表情を浮かべるシャワーズ。その顔立ちは普段より幼く見えた。 「……………………ちっ」 言葉が続かず目を逸らして舌打ちする俺の姿を、ずっと時が止まったかのように見つめ続けるシャワーズ。 (やるんじゃなかった……らしくねえ) と俺が考えていると、いつの間にか家の前に到着していた。 (……着いたか) 今日ばかりは家に早く着いた事を呪ってしまいそうになる。 「……さ、入るぞ?」 俺が頭を撫でてやるが、しかしシャワーズはそのまま立ち尽くしていた。 そしてしばらくして彼女がぽつりと呟いた。 「マスター、私は」 そして言葉を続ける。 「私はやっぱり不幸者でした」 「…………」 俺は目を逸らして、シャワーズは視線を伏せて。 「だって……」 そう、俺とコイツが出会って一回も見た事が無い位とびきりの笑顔を見せて――― 「貴方が居るだけでずっと幸せだった自分に気付いていなかったんですから……!」 ―――そう叫んだと思った時には既にシャワーズは俺の胸に飛び込んでいた。 「ごめんなさい……」 血の上った頭が冷えたのか、シャワーズはリビングのソファの隅っこで縮こまっていた。 「マスターに抱きついたりして……しかもあんな往来で……!」 抱きついていたのは一瞬だったが、すぐに自分のした事に気付き、 元に戻ってかれこれ一時間は赤面したままこの状態である。 「別にいいって」 まあ、俺としては至極役得と言う他無いわけだが。 「いえ、こんな事を平気で許される訳には参りません。そもそもマスター私の為に……」 と、ごにょごにょ小声で呟いているシャワーズだが、微妙に聞こえているあたりまだ完全には 落ち着いていないのだろう。 どうやら貞操観念が強い子のようだ。今まで微妙に距離を保たれていたような気がしたのは、 きっとこういう本分があったからなのだろう。……正直、気付いてなかった。 ……と、いきなりポケットに突っ込みっぱなしだったイワークのボールがゴトゴトとゆれ始め、 そして光を放つと同時にアホ毛をおっ立てたイワークが飛び出してきた。 「ふああああ……」 「お? 目が覚めたのか?」 「あ、ますたー、おはようっ♪」 そう言って抱きついてくるイワーク。 実は以前からスキンシップを果敢に挑んで来る奴で、そのたびに俺のゲンコツを喰らっては半泣きに なりながらすごすごと引き下がっているのだ。 「こんの馬鹿が……」 そう言って俺が握りこぶしを振り上げた時である。 「こら、イワーク」 「あい?」 「お?」 シャワーズがにっこりを笑顔を浮かべて俺からイワークを引き剥がした。 「マスターは疲れてるんだから、そんなに勢い良く飛びついたりしたらダメよ。いい?」 なにやら笑顔でイワークに注意するシャワーズ。 (……あれ? 普段のコイツなら俺に殴られるイワークを慰める役なんだが……) 「ええ~? ますたーともっと一緒に居たいのに……」 と、一瞬。ほんの一瞬だけシャワーズの笑顔に影が射したような気がした。 「良い子だから、ね?」 「う、うん、わかった」 どことなく様子のおかしいシャワーズの不穏な気配を察したのか、あっさりと引き下がるイワーク。 (な、なんだ、なんか変じゃないか?) そう思いつつも、とりあえず俺は気を利かせてくれたシャワーズに礼を言った。 「す、すまん、ありがたい」 「くすっ……いえ、どういたしまして」 そう言うと、普段とはやはりどことなく違う笑顔で彼女は笑った。

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