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「5スレ>>934」(2011/11/11 (金) 00:51:45) の最新版変更点
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彼は、よく笑うようになった。
彼女は、ちゃんと前を向くようになった。
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Heros Heroines
- Ish Train -
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「トウヤッ、今だよ!」
「うん」
「オノノクス、“ドラゴンテール”!」「シャンデラ、“弾ける炎”!」
ライモンシティ。
ギアステーションから出発するトレーナー達の修練の場、バトルサブウェイ。
遠足気分の子供に、観光気分のアマチュアトレーナー達から、果てはプロのトップトレーナーまで、
もちろん地下鉄ターミナルとしての機能もあるので観客も多いのだけれど、様々な人が訪れ、挑戦し、練磨している。
そんな、イッシュ地方最大規模のバトル施設にて、今、注目されている二人組みがいた。
カノコタウン出身の竜使い、トウコ。
カノコタウン出身の霊使い、トウヤ。
目立つだけの強さはもちろんのこと、
そのチームワークはまるで、旧知の間柄のような信頼度。
バトルに対するその姿勢は、見ていてとても爽快で、潔い。
彼らとしては、ただバトルを楽しんでいるだけ。パートナーといることを、あるいは友達といることを、楽しむ。それだけなのだけれど、
人々はその『楽しむ』という輝きに羨望の眼差しを向けた。
* * *
その出会いは、偶然だった。
もちろん、出身が同じ町で、同い年。町といっても町民全員が全員を把握できているくらいに小さな田舎町だ。
小さい頃から知っていたし、お互い積極的に話すことはなかったものの、他の友達と一緒に遊ぶことだって少なくなかった。
同じ頃に旅に出て、恐らく、歩んだ道も似たようなものだろう。
だから、別段旅先の街で出会うことだってあってもおかしくはないことなのではあるが、
その時、同じ日の同じ時間にバトルサブウェイで悩み顔合わせたことは、きっと。
きっと、神様がくれた、素敵な偶然。なのだろうと思う。
その時、彼女は見た。
どこまでもパートナーを信頼し、また懸命に応えようとする美しき絆を持った彼とシャンデラを。
その時、彼は見た。
どこまでも前を見据え、力強く攻め決して挫けない才覚ある強さを持った彼女とオノノクスを。
見て、お互い心に、一つの光を見ていたのだ。
「ねえ、トウヤくん?」
サブウェイでのバトルが一息ついたところで、トウコは探していた後姿を見つけた。
彼もバトルを終えたのか、今まさにギアステーションから帰るところだったようだが、トウコは構わず呼びかける。
その彼とは、もちろんトウヤのことなのであるが、
びくっと跳ねてから振り向いた彼は、トウコが予想する以上に驚きを帯びていた。
「あ、き、君……! いや、貴女、は……」
「いや、少し驚きすぎじゃないの? ていうか貴女って」
トウコでいいじゃん。と、あくまでも同級生の幼馴染としての距離で彼女は突っ込む。
しかし、それでトウヤが落ち着きを取り戻すわけではなく、変わらずあたふた。
「何? 別にケンカ吹っかけてるんじゃないんだし、昔のように話してくれればいいんだけど」
「で、でも……。僕、名前で呼んだことなかったし……。えっと、貴女のこと……」
「……そだっけ?」
確かにそこまで仲良かった記憶はなかったものの、そこまで細かいことを覚えているトウコではない。
もちろん、そんな些細なことを気にするトウコでもない。
トウヤとしてはそれが結構重要になるくらいには神経質な性格なのだけれど、それをトウコは易々と踏み込んでくる。
「じゃあ、今からでもいいよ。はいトウコ、呼んで御覧」
「ええっ!?」
割と土足で。
あまり親しくなかった知り合いと、いきなり砕けて喋るのは、人見知りにはなかなかハードルが高いのである。
「え、えと、トウコ……さん?」
「さんて……」
故に、おどおどとしてしまうのは仕方がないことなのだけれど、
こんなに控えめな子だっただろうか。と、トウコは少し逡巡する。
とはいえ、逡巡する必要があるということは思い出さなければならないということで、
正直なところ、思い出さなければならないくらいの関係と言わざるを得ないのである。
けれど、過去のことなんてどうでもいい、大事なのはこれからだと割り切れるのがトウコで、
「まあ、とりあえず」
まあ、とりあえず。
「久しぶり、だね」
「……はい、お久しぶり、ですね」
そう、少し遅れた再会の挨拶を交わしたのであった。
トウヤも、まだ少しぎこちないながら、幼馴染としての挨拶を返す。
それから、手近にあったベンチに腰を落ち着けながら、最近どう? とか、今までどうしてたの? とか、そんなよくある話で盛り上がった。
まあ、盛り上がってたのはトウコだけで、トウヤはおどおど答えるだけだったけれど。
それでも、お互い懐かしい時間を共有して、ちょっぴりテンションが上がっていたのは確かだった。
だからきっと、こんな話も出来たのだろう――。
「そういえばさ、さっきのバトル見てたよ」
「えっ?」
「トウヤくん、けっこーやるんだね」
トウコはそう褒めたつもりだったけれど、その言葉に彼は俯いてしまう。
照れている、という風ではなく、折角上がったテンションも明らかに沈んでいるようだった。
「あれ、どしたの?」
「僕は……僕なんか、全然ダメ、ですよ」
「なんで? あんなに冷静にバトルこなして、綺麗だったのに」
そう、トウコから見て、それは本当に惚れ惚れするほどスマートで、美しい動きだった。
きっと、恐らくそれはお互いが心底信じあってるからこそこなせる技で、羨ましいとさえ思ったのに。
「僕はほら、こんな風に内気だから、誰かと話すのが苦手だから」
トウヤは隣に座るシャンデラの頭を撫でながら、
「手持ちだって、ずっと一緒だったシャンデラだけ、シャンデラしかいない。
こいつに見放されないよう、必死で勉強して、覚えて、それでもあの程度で負けちゃって」
そんな、
そんな的外れもいいとこで、馬鹿過ぎることを口に出していく。
それを聞いて、黙って聞いて、
「僕は、やっぱり才能なんてなくて、こいつと一緒にいる資格なんて、なくて」
「バカじゃん」
思わず、トウコは怒鳴っていた。
急な大声に驚き目を剥くトウヤも無視して。
「ばっかじゃないの、それ本気でいってんの!?」
「え……」
「馬鹿だよ、意味わかんない! 一緒にいるって、そんなシカクとかサイノーとか堅ッ苦しい理屈がいんの!?」
「トウコ、さん」
怒鳴りながらふと、トウヤの肩越しに驚くシャンデラの顔が目に入った。
トウコも、カノコタウンで暮らしていた頃からよく知る子だ。
当時はヒトモシだったけれど、その人形のような可愛さは相変わらずである。
「この子を見てみなよ、そんな、才能とか勝ち負けで君を好いたり嫌ったりするような子じゃないでしょ?
私にだってわかるよ。ヒトモシの頃から、ずっと君を見てたんだよ。君だけを見ていたんだよ」
急にそんな恥ずかしい過去を露にされたシャンデラは、顔を真っ赤にしてあわあわと手を振り慌てるが、トウコは構わない。
「それはきっと、今だって変わらないよ。こんな悲しそうな顔して、君の話を聞いてるもん。
手持ちを増やせないことは悪いことじゃない、その一途さはトウヤくんのいいところでしょ?
そういうところに惹かれたんだから、それは思い煩うところじゃない。ねえ、この子の顔を見て、目を見て、まだ同じことが言える?」
見放されるとか、資格がないとか。
そういう言葉が、その人を心から好いてる子にとって、どれほど悲しいものなのか。
もっと考えてあげて。
と、トウコは言う。
その裏で、他でもないトウコ自身が胸を痛めながら――。
「この子はこんなにトウヤくんが好きなんだよ。まずはそれを、受け止めてあげるべきなんじゃないかな。
それだけの信頼は、もうあるはずでしょ?」
次から次へと、思いつきで口から出てきたような、理屈なんて投げ捨てた、自分を棚に上げた感情論だったけれど、
そんな言葉でも、確かにトウヤの胸には響いた。
「……やっぱり、トウコさんはすごいや」
「え?」
「いつだって前向きで、強くて、カッコよくて、いつだって僕の憧れで」
そう、率直な感想をトウヤは言う。
それはもちろん、トウヤが心底感じている尊敬なのだけれど、
裏では、その言葉に、純粋な眼差しに、トウコの心の軋みは加速していた。
いいところとか、受け止めるとか、そんなこと、自分が言えたことでは、全然なくて――、
トウコもまた、悩みを抱えていたのである。
「……そんなことないよ」
トウヤとシャンデラに羨望を感じていた。
明らかなその絆の深さに嫉妬さえ覚えていたのだから。
「私はトウヤくんみたいに優しくないし、不器用だし」
話しながら、ゴソゴソと、バッグから二つのモンスターボールを取り出して、それを放る。
現れたのは、オノノクスとクリムガン。竜族の中でも強力な種である二人ではあるが、
スッと、それは機敏な所作で姿勢を正し、主であるトウコに忠誠の意を示す。
トウヤからすれば、その光景すらもトウコを尊敬するに値するものなのだけれど、
彼女にとっては、また感じ方が違うのであった。
「みんないい子だよ。こんなに尽くしてくれる、こんなに頑張ってくれてる。
でもそれに、その努力に、私は応えられてないんだ。きっと」
トウヤがするように、トウコも二人の頭を撫でながら、その心中を吐露していく。
「私一人でどんどんつっぱしっちゃって、あまり気にかけてあげられなくて。
トウヤくんとシャンデラ、君達がするような笑顔を、あげられてない」
その言葉すらも、竜二人は表情変えず、黙って聞いていた。
「だから、トウヤくんが、羨ましかったんだ。声も掛けたくなっちゃったくらいに」
てへっ、ともはや無理に明るく振舞っているのがバレバレな程にトウコは震えていたけれど、
トウヤも同じように、黙す竜二人の顔を見ながら聞いて、
「……はは」
思わず苦笑を漏らしてしまったのは、トウヤだ。
あれだけ憧れてた人が、昔は密かに恋心も抱いてた人が、
自分の足りないものを持っていて、パーフェクトなんだと思っていた人が、
自分の前で、自分と同じ悩みで、崩れていた。
本当はとても後ろ向きで、自分とよく似ていて。
だから、ここでトウヤが掛けるべき言葉は、きっと、
「何を、言ってるんですか、全く」
「…………」
「さっきトウコさんが言ったばっかりじゃないですか、そんなところに惹かれたんだって。
一人で突っ走れる強さは、間違いなくトウコさんのいいところ、だと思いますよ。
だからきっと、彼女達はそんな貴女に着いて行こうと思ったのでしょう」
自分が救われた、なんて言うと少し大袈裟かもしれないけれど、
「彼女達だって、そんな話を聞かされちゃ、きっと悲しいですよ」
少なくともトウヤには光に見えた彼女の言葉、
「だから、お返しです。――馬鹿」
「……っ!」
きっと、これだろう。
* * *
それから、――トウコが思わず泣き出してしまったり、つられてお互いの手持ち達が泣き出してしまったりでまた少し大変な騒動があったけれど、
「ご、ごめん……」
「い、いえ。お、落ち着きました……?」
トウコは思わぬ失態で恥ずかしく、トウヤは思わぬ状況に気まずく、
ちょっとドキマギな展開になったりもしたけれど、
お互いその心中は、思いのほかスッキリしていたのだろう。
「なんか……、そういえばそんなに喋ったことがあるわけでもなかったのに、ちょっと恥ずかしい話をしちゃったね」
「ええ、本当に。でも、話せたのがトウコさんで、よかったです」
「うん?」
「あんな親身になって怒ってくれるの、多分トウコさんくらいだと思います」
「そう? ……あんなに空気読んでくれるのもトウヤくんだけだよ。ホントに、思わず泣いちゃったよ」
心なしか、お互いのわだかまりも(トウヤが一方的に感じてた壁だが)少し解けたように見えた。
「今度、さ。一緒にマルチトレイン行ってみない?」
「……僕なんかで、良ければ」
なんて、
二人の仲が深いものになるのも、もしかしたらそう遠くないのかもしれない。
「じゃ、さん付けと敬語禁止ね」
「ええっ!?」
「ほら、よろしく。トウヤ」
慌てふためくトウヤに手を差し出して。
トウコが呼び捨てにするのは、信頼の証。
「う、うん。……トウコ、……さん」
「だから禁止だってば」
トウヤも、若干ぎこちなくトウコに呆れられながらではあるけれど、その握手に応えて、
二人、そしてその手持ち達は、笑い合うのだった。
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そうして、サブウェイで数々の名バトルを生み出していくようです。
なんて、そんな部分も書きたいなーとか思う零でした。ちょっと展開が急過ぎた気がしますけれど、短編ということでどうにかご勘弁を!
さてさて近作ですが、もえもんも可愛いものですが、それと共に歩くトレーナー達もまた素敵なものではないですかっ?
そんなシリーズとなっております。シリーズになるかとても不安ですけれど。
とりあえず、まあ。ジムリーダーとか、主人公達とか書きたい人たちはいっぱいいますのでまだまだ何か書いていたりいなかったりしてます。
ちょっとネタ湧いてこの子達の物語をもっとやってみたかったりもしちゃってるんですけどね。わくわく。
そんな感じで、こんな拙作を読んでくださった方々に感謝をしつつ、このあたりでー。