2スレ>>182

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 マスターと私――ニドリーナ(愛称:ニーナ)――はまだ見ぬ萌えもんを捕まえるため、サファリゾーンに来ていた。  が、 「……はぁ」  今日何度目かも分からないマスターの溜息が耳をつく。  普段から、明るいとは決して言うことの出来ない性格のマスターだけど、ここ最近の様子は特におかしかった。  ジムバッジを見つめては嘆息し、あらぬ方向を眺めては嘆息し、道端の石や花を見ては嘆息し……。  そんなわけで、溜息の数は増えていく一方だった。  トレーナーがこんな様子では捕まるものも捕まらない。  暗くなるばかりの彼を見ているのは耐え難いことだったので、 「マスター、一旦あの休憩所で休みましょう」  数十メーター先の小屋を指差し、私はそう提案したのだった。 「……きっと、長旅の疲れが溜まっています。目を閉じて横になっていてください」  休憩所は思ったよりも広く、空いていた。おそらく、他のトレーナーは休むことなく萌えもんを捕まえているのだろう。  私が言うと、マスターはコクリと一度だけ頷き、自分の腕を枕にして眠り始めた。  ……やっぱり、疲れてもいるんですね。  すぐに大人しい寝息を立て始めた彼を見て、静かに微笑を一つ。 「いつだったでしょうか……」  彼が不器用な笑みをなくしてしまったのは。  不器用ながらも、私を励まし、元気にしてくれたあの笑みを忘れてしまったのは。  私は彼と初めて出会った時からのことを一つ一つ、確かめるように思い出していった。  ……あぁ、あの時から。  そうだ。彼が笑みを見せなくなったのはあの時からだった。  そうして、夢とも現とも取れぬ意識の中、私は過去を回想していた。 『一言で述べるならば、「辛勝だった」というに及ぶものはない。  マスターは衰弱した私を抱えて走っていた。  三つ目のバッジまではさほど困難はなかったように思われる。  と言っても、二つ目まではフルメンバーで戦っていたのだが――。  三つ目からは私一人でジムを攻略するようになった……何が理由なのかは知らないのだけれど。  そして、四つ目、タマムシシティのジムリーダー、エリカとの戦い――  最初のうちは優勢だった。  こちらが力で押し切るのに対し、相手は補助的な技ばかりだったからだ。  いよいよ最後の一体、そうなった時に問題が発生した。  戦っていた私からすれば、最後の一体だけが異常にレベルが高かったように錯覚した。  それほどまでに、補助技の効果が効いてきていたのだった。  だが、こちらとて、並の覚悟でやってきていたわけではない。  マスターのサポートを受けながら、私は辛うじて敵を倒すことに成功した。』  その後からだった。  マスターがどこか魂の抜けたような状態になってしまったのは。  私が何度呼びかけても反応せず、ただぼんやりとバッジを見つめては表情を暗くする。  ようやく反応したかと思えば、私の話を耳から耳へと聞き流す。  数日のうちは体調でも悪いのだろうと思っていた。  一週間過ぎるころになって私はマスターの症状に対して一つの可能性を見出していた。  かつて、マスターはこんなようなことを言っていた。 「元気で騒がしいよりは、落ち着いていて静かな方が好きだ」  と。そして、 「だからニーナが気に入ってるのかもな」  このうち前者と、バッジ、タマムシのジムリーダー、マスターの年頃を考慮に入れると、すんなりと答えが姿をあらわした。  ……恋煩い。  ズキリと胸に痛みが走った。その理由に思い至る前に私は痛みを無視した。  出会った時から心に決めていた。彼のやることを全力でサポートすることを。  彼の行く道を阻む物があれば取り除くことを。  たとえそれが、自分自身であってもだ。  この決心は曲げられない。曲げるべきは己の心。  ……でも。  マスターがその気持ちにどう決着を付けようとも。  ……今だけは……。  そう、今だけは、その時までは。  せき止めていた感情が決壊する。胸の痛みの代わりに涙が零れた。 「私だけを……」  そして、そっと、マスターの頭を私の膝に乗せた。 つづく?

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