2スレ>>532

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[ 歌姫の旅立ち] 「やってきました、おつきみやま!」 「どうしていまさら、こんなところに」  おつきみやまの麓に、少女とフシギバナが立っている。少女は元気はつらつとし、フシギバナは少し疲れているように見える。 「シルフカンパニーでは、ロケット団がのさばっているんですよ? 先にあっちをどうにかしないでいいんですか?」 「人間よりも、もえもん! それが私のジャスティス!」 「ということは、ここにいるもえもんに用事があると」  呆れと納得した表情を両立させるフシギバナ。 「そうなの! 噂でね『おつきみやまには、とても綺麗な声で歌うもえもんがいる』って聞いて、いてもたってもいられなくて!  ちょうど暇だったから、来てみたわけよ。綺麗な声で歌うもえもん……とっても可愛いんでしょうねぇ」 「暇って、シルフカンパニーはどうするんですか……聞いてませんね」  少女はうっとりと、まだ見ぬもえもんを想像する。鼻から血が。どうやら姿を知らないもえもんで、興奮できたらしい。どんだけ妄想力が高いのか。  フシギバナは、流れ出した鼻血をティッシュで拭う。それが様になっているということは、何度も繰り返した行為なんだろう。 溜息なんてついてると、幸せが逃げるぞフシギバナ。 「さあ、目的のもえもんを探しにしゅっぱ~つ」  天気は快晴。山の中は、木々に光が遮られて、とても過ごしやすそうだ。散歩にはもってこいの、散歩日和。 「ふと思ったんですけど」  山に入って、少ししてフシギバナが言う。 「なーに?」  目的のもえもんを探すため視線は、あちこちへと向けながら少女は聞き返す。 「どうして連れてきたの私だけなんですか? 探すっていうなら、人数は多いほうがいいでしょ?」 「理由は三つ。一つ目は、あまり大人数でくると、相手が驚くかなって思ったのさ。  んで二つ目、ジム戦で疲れてるあの子たちを、さらに疲れさせるわけにはいかないから。あなたは、今回のエリカ戦はあまり出番がなくて、疲れてないっしょ?」 「それなら、預けている子たちでもよかったんじゃ? あの子たちは全く疲れてませんよ?」  その二つの理由では、完全には納得できないフシギバナ。 「そこで最後の理由。久しぶりにフシギバナとゆっくり過ごしたかった。  最近、他の子たちばかり相手してて、フシギバナとのコミュニケーションが足りてなかったと思うわけです。  フシギバナも皆のリーダーみたいな感じで、忙しかったでしょ? それで、ゆっくりとできてないんじゃないかなって。たまには、お姉さん役から解放してあげたいなぁと」 「そうでしたか……でも一番手のかかる子と一緒だと、ゆっくりできるかどうか」 「はうっ。あはははっ、それは、その……ね?」  言葉とは逆に、フシギバナは嬉しそうな顔で、言い繕う少女を見ていた。自分のことを考えての行動が、嬉しかったんだろう。大切に想われていると、実感できたから。 「皆の姉役は楽しいですよ、だから特に疲れてはいません。でも、ありがとうございます」    二人は、上機嫌でもえもん探しを続けていた。けれど、いっこうにみつからないので、一度休憩することに。 「みつかりませんね?」 「そだねぇ。歌でも聞こえてきたら、その方向に向かうんだけど」  フシギバナが作った弁当を食べつつ話す。  少女も、もえもんたちに手作り弁当を食べてもらいたい、と思って作ったことはあるのだが、鼻血が混ぜるため禁止された。  その際、愛がたっぷり混ざっているからいいじゃないかと反論したのだが、愛があっても血の混ざったものは、誰でもひく。 「もっと詳しい情報はなかったんですか?」 「んー……」  少女が思い出そうとしていると、弁当の匂いにつられたか、プリンたちが茂みから姿を現した。 「可愛いっ」  一秒前の思考を放棄して、目の前のプリンたちに少女は夢中になる。 「マスター……あっ」  これが少女にとって当たり前の反応だとわかってはいても、呆れることをやめられないフシギバナ。そのとき、何か閃いたらしい。 「あなたたちに、聞きたいことがあるんだけど?」  思いついたことは、わからないことは聞けばいい、ということだったようだ。 「いーよ。でも、かわりにそれちょうだい?」  首を傾げてプリンは、食べかけの弁当を指差す。 「ご飯がほしいの? どんどん食べて!」  少女が自分の弁当を差し出した。もらった食べ物を美味しそうに食べるプリンたち。 「マスター。私と一緒にたべませんか。食べたぶんだけじゃ、足りないでしょう?」  しばらく、食べる音だけが辺りに響く。 「ごちそうさま」 「ごちそうさまー」 「「「ごちそうさまー」」」 「それじゃ、話を戻して。このあたりに、きれいな歌声のもえもんがいるって聞いたんだけど、あなたたち知らない?」  片付けながらフシギバナが聞く。 「あの子のことだ」 「あの子のことだね」 「そうだね」  プリンたちは、頷きあう。  詳しい情報を求める二人に、プリンたちは知っていることを話す。  それは、異端視されていたプリンが、人に連れられ山を出て、傷つき帰ってきた話。  そしてプリンたちは、二人に頼む。あの子の傷を少しでもいいから、癒してあげてほしいと。私たちでは、無理だからと。  プリンにとって歌うということは、楽しいこと。だから、歌声にも楽しさが込められ、さらに楽しく歌うことができる。  でもあのプリンは違う。歌には哀しみが込められていた。プリンたちにとってそれは、衝撃だった。同じプリンが、哀しみを歌うようになる。  そんなことをできるまでに、何があったのかと考えて、気づく。自分たちが、行ったことを。しでかしてしまったことの重さを。  哀しみの歌は、毎日流れる。そのたびに自分たちの罪を認識させられる。謝ろうにも、少しでも誰かが近づけば逃げてしまう。  人と旅に出て鍛えられたあの子とは、動きが違いすぎて会うことすらできない。  だから、会えたら伝えてほしい。いまさらだけど、一緒に歌おう? 仲間外れにして、ごめんなさい、と言っていたと。  プリンたちに、詳しい場所を教えてもらった二人は、早速そこへ向かう。  少女は、探していた相手に会えるから喜びに満ちている、というわけではなく、苦い表情だった。 「どうしたんです?」  いつもとは雰囲気の違う少女に、フシギダネが心配そうに聞く。 「んー……ちょっとね。昔を思い出しちゃった」  口調は軽いが、表情がそれを裏切る。 「昔……ですか? それは私に会うよりも前?」 「うん。私のこの性格ってね、生まれつきって言っていいほど、前からのものなんだ。  それで、今と同じようによく暴走してねー。皆から、変だ、おかしい、気持ち悪いって言われて、のけ者にされたものだよ。  そのときのことを思い出して、ちょっとだけ気分が沈んじゃった」 「笑いながら言うことじゃないと思いますけど。  暴走を抑えようとか、性格を少しだけでも変えようとかしなかったんですか?」 「そんな器用なことができるんなら、今ここにいないなぁ。それどころか、旅にすら出てないだろうね。  私が旅に出た主な理由は、こんな狭い町にいるから、のけ者にされるんだ。だから、旅に出れば、自分と同じ人に会える。自分を受け入れてくれる人に会えるっていう理由だし」 「受け入れてくれる人もいなかったんですか?」 「なんだか質問ばかりだよ? まあ、いいけどね。  受け入れてくれる人は、いた。お父さんとお母さん。でも、当たり前すぎて気づけてなかった。旅に出て、やっと気づいたよ」 「今は、見つかりましたか?」  そう聞いたフシギバナの声は。緊張し震えていた。自分たちは、少女を受け入れている。それは断言できる。  だけど、それが届いていないとしたら? 少女が、いまだ哀しみを感じていたとしたら? 私たちでは、力になれていないのかもしれない。それを知るのが、怖い。 「同じ人は、たしかにいた。そして、受け入れてくれる人にも会えた。私の大事な大事な仲間たちにね」  そういった少女は、付き合いの長いフシギバナでも、初めて見るほどの、親愛の込められた微笑みを浮かべていた。  その微笑みは、フシギバナの不安を吹き飛ばして、フシギバナの心に、大事な宝物として刻まれた。 「辛気臭い話になっちゃったね。明るく行こう!  どんな話題がいいかな~……そうだ! 帰ったら一緒にお風呂入ろう。久しぶりに、フシギバナの体の成長具合を」 「いいですよ。一緒に入りましょう」 「あら? えらく素直に。いつもは、もう少し難色示すのに」 「いいことがありましたから。それにしても、悩みなんかなさそうなマスターにも、暗めの過去があったんですね」 「過去に傷を持ついい女と呼んでくれい」  少女は、手を鉄砲の形にして、あごに持っていき、ふふんと笑う。 「はいはいって、あら? もしかしてこれが?」  向かう先から聞こえてくる歌。綺麗でいて、哀しい歌。この歌にあてられたのか、鳥や虫は鳴くことをせず、歌声のみが響く。 「綺麗だけど、どこかむかついてくるのは、同属嫌悪ってやつなのかしら」  歌を聞いた少女の表情に、浮かぶのは不快だという感情。事情を知らなければ、綺麗さとせつなさだけを感じていただろう。  しかし、事情を知った今、その感情は浮かびにくかった。 「この先にいるんですね。静かに行きましょう」  ここから先は、一言も話さずに、足音も立てないようにゆっくりと進んでいく。  やがて木々の隙間から、一人歌うプリンの姿が見えた。 「なにあの子!? なんだかすっごい母性本能湧くんだけど!? ほら鼻血がっ」  少女が、プリンの微弱なかまってオーラを感じ取った。少女のもえもんへの愛が、感じ取らせたのか? そうだとしたら、どこまで好きなんだと聞いてみたい。 「マスターが鼻血を出しているのは、いつものことでしょう。それと母性と鼻血は全く関係ありません。  それよりも騒ぐとみつかりますよ」 「了解。さて都合のイイコトに追い風。フシギバナ、ねむりごな」 「ここからじゃ、届いても効果は薄いですよ?」 「それでも動きは鈍るはず、そこをつるのむちで捕まえよう」  ひそひそと小声で話し、逃げられないように作戦を立てる。そのおかげで、プリンはいまだ二人に気づかず、歌い続けていた。 「いきますっねむりごな」  フシギバナから出たねむりごなは、風に流されて、プリンのもとへ。一分ほど、ねむりごなを風に流すと、プリンの歌が途切れ始めた。 「ここからだと、これ以上の効果はでません」 「それじゃ、いっきにいくわよ!」  二人は、茂みから出て作戦を実行する。  プリンは、なぜだか眠くなっていたところに、突然他人が現れて、驚き固まってしまった。そのおかげでフシギダネは、プリンを簡単に捕まえることができた。 「成功!」   プリンは、なんとか逃げようとじたばた暴れる。だがつるのむちは、攻撃を与えない代わりに、プリンをがんじがらめにしてた。  それは、あとでちゃんと解けるか、フシギバナが心配になるほど。  逃げられないとわかったプリンは、暴れるのをやめて二人を見る。いや、睨みつけると言ったほうがいいのかもしれない。 「わたしをどうするつもり?」 「うっふっふっふ、どうしようかしら。あーんなことや、こーんなことを」 「動けない相手に、何するつもりですか」  手をわきわきと動かす少女に、フシギバナがつっこむ。 「どんなことって、撫でて、抱き上げて、頬ずりして、連れ帰って、一緒にお風呂入って、抱き枕」  即答した。 「いつもと一緒ですか……私はてっきり」  若干、頬を赤く染めて、目をそらすフシギバナ。 「てっきり?」 「いやっそのですねっ、え~と、あの、もっと過激な……」  だんだんと声が小さくなっていく。 「?」  フシギバナが何を言いたいのか、さっぱりわかっていない様子の少女。その手の知識はさっぱりらしい。  その変な雰囲気を破ったのはプリン。 「連れ帰るって、わたしを仲間にでもするつもり?」 「できれば、したいわねっ」  少女は、力いっぱい頷いた。 「あなたは、わたしに何を求めているの? 歌? 役立つ戦闘能力? それなら、ほかをあたって」  ぬくもりという毒に犯されたプリンは、ぬくもりを求めつつも、同じ苦しみをうけることを否定する。  でも、誰かと共にあることを否定しきれてはいない。それは、歌に無意識のうちに込められた、わずかな期待が証明している。  そして、前の主がしてくれなかった、してほしかったことを、当たり前のように、やると口にした少女に興味が湧き出していた。  だから問うたのだ。関心がなければ、口さえもきかなかったはずだ。 「私があなたに求めているもの? そんなの決まっているわ! 可愛さよ!」  プリンが想像していたものとは、ずれた答えが返された。 「一緒にいて笑ってほしい。可愛い仕草で、萌えさせてほしい。抱きつきたいし、抱きついてほしい。一緒に旅してほしい。ほかにも、いろいろしたいわね!」  それは欲にまみれた、本能の叫び。隣に立つフシギバナは、呆れている。まあ、ちょっと笑いもしているが。  少なくとも、綺麗な言葉ではない。なれど、心の底からの言葉だから、本気でそう思って出た言葉ゆえに、届いた。  どこに? そんなの決まっている。プリンの心にだ。つけられた傷に染み込むように、わずかに残っていた期待にまでだ。  この人ならば、この人ならば、今度こそ、わたしのほしかったものをくれるんじゃないのか。ふくらみ始めた期待が叫ぶ。  ふくらむ期待に背を押されて、プリンの口から言葉がこぼれ出る。 「わ、わたしは、歌う道具じゃない」 「うん」 「わたしは、強くもない」 「うん」 「わたしは、あなたに何一つ返すことができない……かも」 「そんなことはないよ。一緒にいてくれるだけで、私は嬉しいもの」 「わ、わたしは……」 「私と、いや違うわね。私“たち”と一緒にいかない?」  そう言って少女は、手を差し出した。そばに立つフシギバナは喋らない。けれど、瞳が語る。一緒にいこうと。  緩められたつるのむちから、震える手が出て、少女の手に伸びる。そして重ねられた。 「これからよろしく、プリン」  プリンは答えない。泣いて答えられないから。でも、首は何度も縦にふられていた。  仲間のもとへと帰る。  プリンは、少女に背負われていた。久しぶりに感じるあたたかさを、力いっぱい感じようと、強く抱きつく。  そんなプリンに、少女が話しかけた。 「ねえ、プリン」 「なに、マスター」  この呼び方は、フシギダネを真似たもの。 「もっと歌を覚えようか。今の歌も綺麗なんだけど、ちょっと暗いからねぇ」 「覚えたらマスター嬉しい?」 「一緒に歌える歌が増えるのは、嬉しいよ」  一緒に歌えると聞いて、プリンの笑顔はさらに輝く。 「覚える!」 「それじゃ、何を覚えよっか。JAMなんか、元気があって楽しいんじゃないかな?  ああっでも、少しだけ、ほんの少しだけ、昭和かれすすきを聞きたいかも」 「それがどんな歌かわかりませんが、なぜかプリンには歌わせては駄目だと思うので、やめてください」  そんなことを話しながら、三人は仲間の待つ、もえもんセンターに歩いていった。

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