2スレ>>533

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 それは俺がまだ幼い頃、父さんに連れられてサファリパークに行ったときのことだった。  俺は始めてみるサファリが珍しくて、ちょろちょろしながら何かいないかと草むらの様子を探っていた。  もちろんその頃は知識も何もなかったから探索は子供の遊びの域をでなかったけれど、俺はすっかりトレーナー気分だった。  そんなときだ、目の前の茂みからがさがさという音を聞いたのは。 ――― 「……なにかいるのかな」  無知とは恐ろしいもので、俺は何の警戒も無く茂みの向こう側へと分け入って行った。  そこは坂になっていて、背の高い草がたくさん生えていた。水の音が聞こえたことから考えると、土手のようなところだったのだろう。  草を掻き分けながら音のほうに向かっていくと、そこには一人の萌えもんがいた。  青くて長い髪にくりっとした目、頭の横についている小さな羽――そのときの俺にはわからなかったが、それはミニリュウだった。  子供だましの探索を始めてから最初の出会いに俺は喜んだが、その喜びはすぐに消え去った。彼女の足にはトラバサミが食い込み、血が流れていたからだ。   「だ、だいじょうぶ!?」  そのときの俺にはサファリパークでの罠の使用についてとかのルールはわからなかった。  ただ、彼女の足に食い込んで血を流させ続けているモノがすごくいけないものな気がして、それを何とかしたい一心で俺は彼女の元へと駆け出していた。 「……!」  しかしそれがまずかった。俺の存在に気づいたミニリュウはあわて、罠から逃れようとしはじめた。 「だめ、やめて!」  罠が傷口をえぐり、顔が苦痛にゆがむがそれでもミニリュウはもがくのをやめようとはしない。 「おねがいだからやめて! けががひどくなっちゃうよ!」  幸運だったのは彼女達萌えもんに人間の言葉を理解する知性があったことだろう。  ミニリュウはもがくのをやめると、少しだけ舌ったらずな口調でたずねてきた。 「わたしのこと、つかまえにきたんじゃないの?」  声に乗せられていたのは、ひとつの感情。己を縛る罠を仕掛けた異種族への恐怖だった。  俺は彼女の恐怖を消したかったけれど、どうしたらいいかわからなかった。だから、 「ちがうよ、ぼくはそんなことしない。だからおねがい、もうあばれないで」  ――素直な気持ちを、口にした。  その言葉にミニリュウは緊張を緩めると、 「……うん」  ほんの少しだけ、笑顔を見せてくれた。 ―――  それから俺は何とか罠をはずそうとしはじめた。  しかし所詮は子供の力、頑丈な罠の前に俺はなすすべも無かった。 「ねぇ、だいじょうぶ?」 「だいじょうぶさ。きっとこれをはずしてあげる」 「でもきみの手、こんなになってる……」 「このくらいへっちゃらだよ」  悪戦苦闘の結果俺の手は傷だらけになっていた。正直痛かったが、それでも俺は平気な顔をしていた。  ミニリュウを助けてあげたかったし、女の子の前で痛がるなんてかっこ悪いと思っていたからだ。  しかしいくら強がったところで限界は来る。そして限界はそれからすぐにやってきた。 「ねぇ、もういいよ。むりしないで」  ミニリュウが心配そうに声をかけてくる。 「だいじょうぶ! ぜったいにたすける!」  俺は自分が情けなかった。女の子一人助けられず、しかもその女の子に心配されている自分が情けなくてしかたなかった。  自分に大人ぐらいの力があれば――そう思ったときに、俺はようやくそのことに思い至った。 「……そうだ! とうさんをよんでくるよ!」 「とうさん?」 「うん。とうさんならきっとなんとかしてくれるよ。まってて、すぐによんでくるから!」  言うが早いか俺は駆け出していた。 ―――  幸いにも父さんはすぐに見つかった。  父さんは父さんで突然いなくなった俺を探していたのだろう、合流した父さんは心底ホッとしたといった顔で俺を叱りはじめた。 「どこに行っていたんだ、あれほど離れるなといったのに! ……それに怪我してるじゃないか!」  俺の怪我を見た父さんが表情を変えるが、俺はそんなことにはおかまいなしに 「とうさん、こっちにきて! たいへんなんだ」  最初はいぶかしがっていた父さんも俺が事情を話すと、すぐに納得してくれた。 「こっちだよ! はやく!」  俺は父さんを急かしながら来た道を走った。  これであの子を助けてあげられる、そう思うと自然と足が速まった。そして草を掻き分けてミニリュウがいたところに戻ったとき、そこには二つの姿があった。  ひとつは罠に足を囚われ、身動きが取れないミニリュウ。そしてもうひとつはそんな彼女に何かを投げようとしている大人の姿―― 「やめろぉぉぉぉっ」  それが何かを理解するのと体が動くのと、果たしてどちらが早かったのだろうか。  気がつくと俺はミニリュウの前に立ち、飛んできた何かから彼女を庇っていた。  頭に衝撃が走り、目に映る世界が傾いていく。自分が傾いているのだと気づく前に、俺の意識はぷっつりと途切れた。 ―――  目が覚めると俺はベッドに寝かされていた。  しばらくぼんやりしていると父さんがやってきて、ミニリュウが助け出されたこと、罠を仕掛けた大人が捕まったことなどを話してくれた。 「ねぇとうさん、聞いてもいい?」 「なんだい?」 「トレーナーってみんなあんなひどいことするの?」  それは俺にとってとても大きな質問だった。憧れていたトレーナーが行ったひどいことに、俺はかなりショックを受けていた。  もしトレーナーがみんなあんなひどいことをするなら、トレーナーなんてなりたくないとすら思った。 「そんなことはないさ。そりゃ、中にはひどいことをする人もいるかもしれないけど、ひどいことをしないトレーナーだってたくさんいるんだ」 「……ほんとう?」 「本当だとも。ひどいことを『やっちゃいけない』って思う心が大切なんだ。その心を持っているトレーナーは、世界にたくさんいる。だから大丈夫」 「ひどいことを『やっちゃいけない』っておもう心……」 「そう。それを忘れない限り、今日の大人みたいなトレーナーにはならないよ」 「うん、わかった!」 「よし、それじゃあ今日からひどいことをしないトレーナーになってみようか」 「え?」  父さんは疑問符を浮かべる俺に笑いかけると、一度部屋を出て、誰かを連れて戻ってきた。 「あ、君は……!」 「さっきは助けてくれて……その、ありがとう……」  父さんが連れてきたのは罠にかかっていたミニリュウだった。 「それで、その……よかったら、わたしをいっしょにつれていってください」  頬を赤らめながら彼女が続けた言葉にどうしたらいいかわからず父さんを見ると、父さんは「自分で決めなさい」といいながら俺にサファリボールを渡してきた。  ボールを受け取ってからもう一度ミニリュウのほうを見ると、彼女もまた俺のほうを見ていた。  その期待と不安が入り混じった瞳と目があった瞬間、俺の心はあっさりと結論を出していた。 「うん、いっしょにいこう。ぼくがぜったいにまもってあげるから!」 「……うんっ」  ミニリュウの花が咲いたような笑みと共に、俺はトレーナーとしての第一歩を踏み出した。 ――― 「ずいぶんと久しぶりだなぁ、ここも」  図鑑作りの途中で立ち寄ったセキチクシティ。そのサファリパーク入り口で、俺はそんなことをつぶやいていた。  昔のことを思い出しながら、隣を歩く相棒に声をかける。 「なぁ、俺たちが出会ったときのこと、覚えてるか?」 「もちろんですよ、マスター」  あの出会いから10年。俺は大人へと近づき、ミニリュウはハクリューへと進化していた。  喧嘩をすることもあったけど、10年という歳月の中で作り上げた絆は俺の中で何よりも確かなものになっている。  そしてその絆がある限り、この旅はきっと成功するだろう。少なくとも俺とハクリューはそう確信している。  どんな困難であろうとも、俺たちの絆の力で乗り越えていくだけなのだから。    ふと思い立ち、俺はハクリューへと問いかける。 「……俺は、10年前の約束を守れているか?」 「そうですね、どちらかといえば私がマスターを守っているのですが……」  ハクリューはそこで一度言葉を切ると俺の正面にまわり、 「あの約束は、一度もやぶられていませんよ」  あの頃から変わらない、極上の笑顔を向けてくれた。

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