2スレ>>585

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コダックの忘れ者 「ザバザバー」 河を泳ぐ黄色い物体。 「お~い、コダック~」 そしてそれに呼びかける男性。手には袋を持っている。 「ザバザバー」 「聞こえないのか? お~いってば~!」 「ザバザバー」 「ホントに聞こえてないみたいだな……仕方ない」 少年は徐に袋の中から魚を出し、それを振り始める。 「そ~れそ~れ、匂いよ風に乗れ~」 「ザバザ…? ザバザバザバザバー」 そうすると、今まで滅茶苦茶な方向に泳いでいたコダックが、少年のいる岸の方向へ向かってきた。 「おお、来た来た。魚の匂いが分かるなら、声で反応できるような気がするけどなぁ」 「ザバザバー。とうちゃ~く。よいしょっと」 岸に上がったコダックは少年の顔を見て、不思議そうな顔をする。 「……? きみ、だれ?」 今まで何回も会っているのだが、いつもこの反応なのだ。 だが、彼は何も言わずに魚が入った袋を渡す。 「おお、そうだ。きみは……さかなのひとだ。おひさしぶりです、どうもありがとう」 「昨日も一昨日も会ったんだけどねぇ」 「うん、だいじょうぶ。それはおぼえてる」 本当は、何度も名前も名乗っているのが、会う度にこの反応なのだから、もう諦めた。 だけどそれも、目の前で可愛く魚を頬張る姿を見ると……何となく許せてしまう。 やがてその可愛らしい行為も止まる。 「ふう、もうおなかいっぱい」 「そう、それじゃあ残りはここに置いておくから、夜に食べるといい。」 「よるまで、おぼえてるかなぁ」 「それまで、僕が一緒にいるから大丈夫だよ。時間になったら教えてあげる」 二人は昨日も同じ会話をしたのだが。……全く同じ時間に。 「おお、それはたすかる。おれいに、およぎをおしえてあげる」 「いいって。君に教わると、泳いでる間ずっとザバザバ言わなきゃいけなくなりそうだ」 「……わたし、そんなこと、いってるかなぁ?」 「言ってる」 納得がいかなさそうに頭を捻るコダック。 「……まぁ、それはいいや。でもだいじょうぶ、およぎをおしえるのは、とくい。」 そう言って男の手を取るコダック。そのまま河の方へ向かう。 「だから僕は無理なんだって。心臓が悪くて、お医者様にも止められてるんだ」 その言葉に反応して動きを止めるコダック。そのまま彼の方を向いて 「……そうだっけ?」 やっぱり憶えてなかったらしい。 「そうだよ。本当にキミは忘れっぽいなぁ、前にも言ったろ?」 普通のコダックが記憶を失うのは、能力を使った時ぐらい。 だけどこのコダックは、他の者より遥かに忘れっぽく。憶えているのはせいぜい三日前位の事だった。 「むぅ、でもきっと、うまれたときからこうなんだ。しかたない」 「そう、僕も生まれたときからこうなんだよ」 「そうか、それならしかたない」 考え事でもしているのであろう。コダックは彼の周りをペタペタと歩き周る。 「よし、およぐのはやめよう。きょうはおはなしをしよう」 「あれ、いいのかい?」 少年は彼女は泳ぐ事が大好きなのを知っていた。 「わたしのきおくが、たしかならばぁ、きのうはおよいだ。きみはみてた。だからきょうは、おはなししよう」 「…………うん、ありがとう」 なにが"だから"なのかよく分からなかったけれど、純粋に彼女と話できる事が嬉しかったので、すぐに彼は快諾した。 「それじゃあ僕は、君の事が知りたいな」 「むっ、わたしがはなすのか?」 「憶えてる範囲でいいから、教えてよ、君の事」 「むむむ、そうだな。……わたしはさかながすき」 「うん」 「あとは……きみのこともすき」 「……ありがとう」 だったら名前ぐらい憶えてほしいと思ったが、口には出さないでおく。 「う~ん、あとは……」 川の流れのように、緩やかに、時間は過ぎていく。 実は、こうして話すのも初めてではなかった。 だけど彼は、彼女と一緒にいられれば、幸せだったから。 だからこういった事を、何度も繰り返した。 毎日、毎日、同じ時間に、彼女の元へ足を運びながら。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ある日、僕は彼女にある事を告げた。 「明日からしばらく、これそうないんだ」 僕の膝の上で魚を食べていたコダックは、思いがけない言葉に魚を取り落とす。 「そ、そうなの、ざんねんだな。じつに、……うん、じつに、ざんねんだな」 彼女を後ろから抱きしめながら、そのまま話を続ける。 「手術を、しようと思ってね」 「……しゅじゅつ?」 「え~と、つまり……治療だよ。僕の心臓の」 「そうなのか……それなら、しかたないな。しっかりなおしてくるといい」 「ありがとう。…………それにね、この手術が成功したら、君と一緒に泳ぐ事もできるようになるんだ」 その言葉を聞いた瞬間、僕の方を勢いよく振り返るコダック。 「なに? それはほんとうなのか?」 「うん、だからちゃんと待っててね」 「うん、それなら、まっている。……ふふふ、たのしみだなぁ、はやくおよぎたいなぁ」 本当は、分かっていた。 三日も会わなければ、彼女が僕の事を憶えていないであろう事は。 でも、それでもやっぱり、"もしかしたら"という希望を持っていたかったし、 それになにより 「もし、わたしがきみのこと、わすれていたら、ちゃんとおもいださせてね。」 「……どうやって?」 「う~ん、さかなをみせるとか、いままではなしたことをはなすとか、なにかおもいでをいうとか」 「そんなんで思い出すかなぁ」 「むぅ、でも、がんばるよ。きみのことは、おもいだしてみせるさ」 ―――――彼女が、こんな事言うもんだから。 「そっか、じゃあ、忘れてたら僕が頑張って思い出させるから、君は頑張って忘れないようにしてね。」 「うん、がんばるよ」 「それじゃあ僕はこれで」 「うん、ふたりでおよぐの、たのしみにしてるから。しゅじゅつ、がんばってね」 「……ありがとう。それじゃあ、またね」 「うん、またね」 結局、僕が頑張って、思い出させる事になるんだろうなぁ。……思い出すかなぁ。 まず、どうやって思い出させるか、それを考えないとなぁ。 そんな事を考えながら帰路に着く。 手術への不安なんて物は、チラリとも出てこなかった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― それから数日後。 比較的大きな河の岸辺にて、足をブラブラさせている黄色い物体。……コダックである。 「まだかなー、おそいなー、……まだかなー」 そして河から出てくる貝。 「ねぇねぇコダックちゃん」 「……きみ、だれ?」 「シェルダーだよ、いい加減憶えてよ!」 「ううむ、みたことあるような、ないような」 表面上怒ってはいるが、彼女はいつもこうなので、別に気にしていない。 「まぁ、いいや。そんな事より、この間から何を待ってるの?」 「……わからない」 「…………へ?」 「なにをまってるのか、わすれちゃった」 「……分からないのに、待ってるの?」 「うん、わたしは、まってなきゃ、いけない……ようなきがする」 「曖昧ねぇ。そんなに楽しそうなのに」 「べつに、たのしくは、ない。たのしみなんだ…………なにがかは、わすれちゃったけど」 「ふーん」 しばしの沈黙が、場を支配する。 まぁその間もコダックは、足をぶらつかせながら「まだかなー」と唸っているのだが。 「私、向こうで遊ぶけど、コダックちゃんもこない?」 「いい、わたしがここにいないと、きっとこまる」 「……誰が?」 「…………わかんない」 「そっ、まぁいいわ、それじゃあね」 何となく、その返事が予想できていたシェルダーは、それだけ言って、また河の中に潜って行った。 「まだかなー、はやくおよぎたいなー、まだかなー」 泳ぎたいなら泳げばいいのに、と心の中で思ったが、そうする気は無かった。 コダックには、その理由は分からないが。 彼女は毎日こうしていた。 毎日毎日、よくわからない誰かを待っていた。 だが、ずっとぼーっと、しているわけにもいかない。 「ああ、おなかすいたなぁ、なにかたべようかなぁ、さかなでも………さかな?」 急にその場で立ち上がり頭を抱え始めるコダック。 「う~ん。なにかおもいだせそうな……う~ん、わからない」 しばらく考えたが、やはり何も思い浮かばなかったらしい。 「でも、ごはんはもうちょっとだけ、まとう。たしか…………もうちょっと、あとだった」 何の事かは、忘れちゃったけど。 心の中でそう呟いて、また足をぶらつかせる。 「まだかなー、…………はやくあいたいなぁ」 一人の少年が、いつもの時間に おいしそうな魚を、いつもより沢山持って いつもの場所に到着するまで あと、30分

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